今回入れる話は、どうしても単独で入れたかった!という筆者自身の勝手な欲望があったのでw
では、どうぞ!
ーー意識が浮上する。
その眠りから覚める感覚はいつもよりも、緩やかに感じられた。
薄っすら目を開けると、白い天井が見える。何処かの医療機関だろうか?などと思い、少年――桜満集は首を動かす。窓とカーテンは閉められているが、それを少し透過して陽光が射し込んでくる。窓の側に置かれた棚上にアナログ時計が置いてあり、それは11時を少し過ぎた時刻を指している。
しばらく、ボゥ…っとしていた集であるが、徐々に何があったか思い出す。
「……そうだ。…僕は――っ!?」
集は上体を起こそうとして、身体の動きが鈍いことに気がつく。持ち上がっていた頭を再び枕に沈め、一つ息を吐く。
「……そうか。あぁ、そうだった……ん?」
そこまできて、集はようやく自分以外の息遣いに気がつく。窓とは反対側。壁側の椅子に座り、そのままの姿勢で寝ている人物がいる事に気がついたのだ。
「……春…夏?」
ついポツリと漏らした言葉に反応でも示したのか、春夏の瞼は少し動いて双眸が僅かに覗く。ゆっくりと頭を動かして、そして寝ぼけ眼のまま目が合った。
「……………集?」
「…春――母さ…ん?」
「…しゅ…ぅ……………集ーーーー!!」
「わっ!?」
春夏は飛びつくようにして集に抱きついた。嬉しさのあまり力が入り過ぎているのだろう。自らに回された腕に少し息苦しさを感じつつも、耳元で聞こえてくる『母親』の嗚咽を聞いて何も言えなくなってしまった。
集は少し逡巡した後、ようやく春夏の背に左手を置いてポンポンと軽く叩く。
「………………ただいま、母さん」
◇
街中を車椅子が進んでいる。街中、と言ってもまだ復興中なので人はさほど多くなく疎らであり、人の喧騒というよりも、あちらこちらから工事現場の音の方が聞こえてくる。
車椅子に乗っている綾瀬は、車椅子を押すツグミへと振り返って、口を尖らせる。何やら不満があるようだ。
「ねぇ、ツグミ。もう少し速く行かない?」
「ネイ。アヤ姉、急ぎ過ぎじゃない?しっかり春夏ママが付いてるから大丈夫だって。集だって逃げたりしないでしょ」
綾瀬はまだやや不満なのか、少し不機嫌そうにしながら前を向いて速く目的地が見えないか、とソワソワしている。
彼女らの元に、集が目覚めたと連絡が入ったのである。これが急がずにいられようか、と綾瀬はツグミを無理矢理引っ張り出して来たわけである。
「……アヤ姉、これって独り言なんだけどさ」
「……?」
「……………ごめん、やっぱいいや」
「え〜?何よ、気になるじゃない」
「んー……………まぁ、杞憂かもしんないし…」
「え?何?」
「んー、何でもないよ。ホント。あ、ほら。お待ちかねの場所が見えてきたよ、アヤ姉」
ツグミは前方を示す。そこは共に戦った戦友である月島アルゴが経営する喫茶店である。葬儀社に残った資金でビルを買い、一階を丸ごと喫茶店にしている。階上は空きテナントである。そして一階の喫茶店の看板は『Coffee’n』となっており、読み方は客に任せていると言っているが、『裏向き』の呼び方は決まっている。
『コフィン』と無理矢理読ませているようだ。
「……何度見ても、デザインが良いのだけは腹が立つわね。アルゴの店のくせに」
「まぁまぁ、ああ見えて手先が器用だったでしょ?あのくらい出来るんじゃない?」
「んー……」
どうやら、女性陣受けはさほど良くないようで、口を揃えて『…ダジャレ?』と突っ込まれていたのだ。その時のアルゴの反応は存外ショックを受けたらしく、落ち込んでいたらしい。彼にとっては、自信があったらしいのだが、綾瀬とツグミの琴線には響かなかったようだ。
ドアを開けると、来客を報せるベルが鳴る。カウンター内で接客をしている店員と目が合う。彼も元葬儀社のメンバーであり、綾瀬やツグミも顔見知りである。彼はウェイターに軽く目配せをし、ウェイターは綾瀬とツグミをVIP席へと案内する。ウェイターの案内はここまでであり、彼女らはその先のエレベーターへと進む。
実はこのエレベーター、地下だけではなく階上へも行くことが可能である。それを使用してビル屋上の手前である5Fへと昇る。エレベーターを降りれば、幾つかの部屋があり、その一室が彼女らの目的地である。
部屋前まで進んだところで、綾瀬はツグミに車椅子を停めてもらうよう一回指示する。
彼女自身、約半年振りに彼に会うのである。
――どう声をかけよう。
――何を話そう。
――どういう顔をしよう。
そんな事を考え、その考えをツグミに言い当てられる。ツグミは『何を今さら』と言いたげに嘆息して、綾瀬の制止を聞かず、そのままドアを開けてしまう。
部屋の中は随分清潔にされていた。窓を開けているのか、ドアを開けると爽やかな風が吹き抜ける。春独特の少し青臭く、だが心地よい春の風だ。カーテンは閉じられており、風がカーテンを揺らす。さほど強い風でなく、カーテンは少しはためく程度である。
そして、そこに
ベッドの上で上体を起こして、開いたドアの方を見た後、少し目を見開いていた。驚いたのだろうが、それはドアを開けて入って来た綾瀬も同じであった。
数瞬、互いに沈黙が流れる。綾瀬もどう声を掛けるべきなのか慌てていると、集の方が柔らかく笑みを浮かべた。そして、声が響く。
「……やぁ、綾瀬」
「…………っ」
その言葉に、綾瀬は様々な感情が浮かんでくる。久しぶりに会ったというのに、何事も無かったかのような様子で挨拶してきたことや、自分たちがどれだけ心配していたのか分かっていない様にも感じて、怒りにも似た感情も抱いた。
だが、何よりも彼は生きていた。それが何よりも――
「………おかえり。――集」
・・・・・・奇しくも今日は『母の日』なんですよね。
うーーーん、なんか送った方が良かったのでしょうか・・・
さてさて、ようやく再会できた彼ら。続きはちょい先になるかもですが、なるだけ早く仕上げたいと思っておりますので、待っていただければと・・・
(・・・・・・・・・結構、真剣に綾瀬の立ち位置どうしよう・・・)
さて、久々質問コーナー
『ヨルムンガンドのブックマンは出るの?』といった感じの質問ですね。
ぶっちゃけ、あのオッサンのこと忘れてましたw
けど、登場させたらさせたで、面白そうですね。ちょっと検討してみます。ご質問ありがとうございました!
では、また次回!!!