Blood&Guilty   作:メラニン

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今回で取り敢えず、集の救出は完了させます。


では、どうぞ!


罪王の左腕編VII

 

 

『これでラスト!』

 

 

24区に存在する、元GHQ実行部隊アンチボディズ本部では、上空から相変わらず青白い光が『(ゲート)』から刺しており、その基地内において新型機であるシュタイナーA11:アーヴィンを操る綾瀬は、敵エンドレイヴであるゴーチェの頭部分を右手で掴み、左腕内に内蔵されたマシンガンをゼロ距離で数発叩き込む。

 

 

この戦闘スタイルが可能なのも、最新機であるアーヴィンの既存のエンドレイヴと比較すると、高過ぎると言っても過言ではない機動性故だろう。事実、予算を度外視したような高性能化は、今までにない高機動戦闘を可能にしているが、その過敏な反応速度はある意味ピーキーな機体であり、普通のパイロットでは扱いきれない。これはアーヴィンの元となっているのがシュタイナーA9:アーノインであり、その特性を熟知していた綾瀬だからこそできる戦闘である。

 

 

『ツグミ、次は!?』

 

 

「大丈夫!今ので屋内に配備されてる近場のエンドレイヴは全滅!やっぱり、やるねーアヤ姉」

 

 

殊更ハイテンション気味なツグミの声が通信で響く。目の前の脅威が去ったことで、アルゴはトレーラーのアクセルを目一杯踏み込む。

 

 

「そんな事言ってる場合か!?微妙に作戦に遅れが出てる!急ぐぞ!」

 

 

「アイ!アヤ姉、次の通路右折!」

 

 

『了解!』

 

 

アルゴが焦っていたのには理由がある。作戦時間も勿論だが、基地の屋内にも入ってくる青白い光の光量が減ってきているのだ。おそらく『(ゲート)』が閉じようとしているのだろう。

 

 

ツグミの指示通りアーヴィンを先頭に3人を乗せたトレーラーが右折すると、真正面には重厚なハッチが口を閉じていた。

 

 

『ツグミ、行き止まりなんだけど!?』

 

 

「違う!そこが中央部!『(ゲート)』の真下のポイントなの!ハッキングで開けられないみたいだから………アヤ姉!」

 

 

『分かったわ。ブチ抜けばいいんで、しょ!』

 

 

その言葉通り、アーヴィンの最大攻撃力である、V.E.Rがバックパックから駆動し、前方のハッチをターゲットに捉える。既にエネルギー充填は終えた上、クールダウンも済んでいる。すなわち最大威力で砲撃が可能なのだ。

 

 

屋外のバリケードを吹き飛ばしてしまった時同様の轟音が響き渡り、ハッチが大きく湾曲する。どうやら流石に分厚い金属扉は吹き飛ばせなかった様だが、衝撃と高熱によって大穴が空いており、そこへアーヴィンの手を突っ込ませて無理矢理押し拡げる。そのまま押し込んでしまえばギギギ…という金属特有の音と共にグニャリと曲がる。

 

 

『開いたわ!アルゴ!ツグ――』

 

 

「う、動くなぁ!!」

 

 

綾瀬の操るアーヴィンはそこで足を止めた。それによって、後方に居るトレーラーも停止する。ハッチを破壊した室内は凄惨たる有様であった。恐らくハッチの部分で殺しきれなかった威力の弾丸の一部が、内部へと貫通したのだろう。兵士と思われる人間たちが三々五々、倒れている。

 

 

しかし何よりも、綾瀬の目に止まったのはあるボロボロの少年であった。

 

 

『――っ、集!』

 

 

「う、動くなっつってんだろ!!」

 

 

そう、そこに居たのは目を閉じている少年だ。擦り切れたようなダメージを負った衣服は、なぜか濡れている。だが、現在意識のない彼の頭部には、黒い無骨な銃身が突きつけられていた。どうやら、綾瀬らは一歩遅かったらしい。

 

 

集に銃を突きつけている男は、集の服の一部を掴んで無理矢理上体を起こさせているような格好だ。集の首は力なく下を向いている。その様子はしっかりと四分儀達のいる司令部にも映像が流れており、通信を通して、春夏が小さく悲鳴をあげる声が流れてきた。

 

 

 

 

 

しかし、何よりも綾瀬らは内心、歓喜していた。アーヴィンのメインカメラを通して、サーモカメラに切り替えると、画面にはしっかりと集の体が熱を持っている事が分かったのである。

 

 

――生きている。

 

 

その情報は、何よりも嬉しいものである。だが――

 

 

 

 

 

 

『………分かったわ。こちらはこの機体を動かさない。危害を加えるつもりは――』

 

 

「は………ハハハハハ!バカか!?バカじゃねえの、ファッキンジャップ!てめえらのお仲間の命は俺が握ってんだよ!ハハハ、ハハ、ちょ、ちょろい仕事だぜ!俺らは最悪、こいつに関しては死体でも構わねえって言われてんだ!ほらほら!撃つぞ?撃っちまうぞ?」

 

 

『……っ!』

 

 

「おっと!動くな!動くなよ?………へ、へへ。ざ、ざまぁみやがれ。形勢逆転って奴だなぁ?」

 

 

綾瀬は歯噛みする。目の前に集が、生存しているというのに何もできないのだ。

 

 

「ハハ!そうだよ!そうやって、お前らは俺たちの言う通りにしときゃ良かったんだ!そうすりゃ、あんな災害が起こることも無かったんだ!!」

 

 

「……っ!!野郎!!」

 

 

『待って!』

 

 

アルゴがついに堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりに、トレーラーの扉を蹴り開けて飛び出そうとするが、綾瀬が待ったをかける。

 

 

集を人質に取っているその兵士また、あの災害の被害者なのだ。彼はひどくこちらを忌避しているように感じられた。それは、綾瀬の感じた通りであり、事実『葬儀社』という組織がなければ、もう少し違う未来があったのかもしれない。

 

 

しかし、頭で分かってはいても、当時のGHQの横暴な実効支配は行き過ぎていたのだし、許せるものでも無かった。遅かれ早かれ綾瀬達のような組織は産まれていたのだろう。それを生んだ原因は彼ら自身にあるのだ。

 

 

待ったをかけた綾瀬であったが、目の前でただ被害者面をして喚き散らす男には、少なからず怒りを覚えていた。人質さえ無ければ対人装備で無力化するところである。

 

 

『………私達の方も無闇に殺すつもりはないわ。あなたが人質にしている、その人を放してくれるなら私達は追撃はしないと誓う』

 

 

「うるせぇぇぇーんだよ!!!お前らは黙ってこっちに従やいいんだよ!!」

 

 

『お願い、聞いて!私達は――』

 

 

「黙れえぇぇぇぇ!!」

 

 

目の前の兵士は明らかに錯乱していた。彼の指は震え、今にも誤って引き金を引きかねない。そんな危険な状況である。そして、兵士は本当に引き金に力を込める。

 

 

『やめ――』

 

 

 

 

 

 

 

綾瀬は最悪の状況だと、頭の中を様々な考えがグルグル回る。どうすれば、この状況を打破できるのか?今だけは、アルゴのように対人戦ができない、足の不自由な我が身を本当に呪いたくなった。だが、綾瀬が言い終わるよりも早く、それは起こった。突如として兵士が奇声を上げ、痙攣しているのだ。

 

 

「あーーあがががっgbfぁはh」

 

 

『……え?』

 

 

目の前で起こった事を、綾瀬は意味がわからないと言いたげに、事の終わりを見届ける。しばらく痙攣したと思っていたら、人質を取っていた兵士とは別の兵士が何かを構えていた。それは、銃のようであるが、何かが人質を取っていた兵士の方へ伸びている。

 

 

ズームアップすれば、それがテイザーガンである事が分かった。本来であれば、暴徒の鎮圧だとか、パトロール中の警官などの装備を目的とした武器である。

 

 

しばらくすると、集を人質に取っていた兵士は未だにピクピクと動いているものの、完璧に意識を失っているようだった。

 

 

「……ったく、だからお前はいつ迄も過去から離れられねえんだ」

 

 

別の兵士はそう言うと、よろよろと立ち上がり、アーヴィンの頭部に搭載されたメインカメラを見据える。

 

 

「おーい、あんたら。さっさとコイツ回収してってくれ」

 

 

急に起こったことに、綾瀬をはじめ、アルゴやツグミも動けずにいた。しかし、ようやく正気になったアルゴが今度こそトレーラーから降りて集のいる方へ歩いていく。顔は偽装のためフルフェイスのヘルメットを被り、その手にはハンドガン握って兵士へ向けている。

 

 

「………アンタ、国連側の兵士だろう?何でこんな事をする?」

 

 

「まだ警戒してるのか?…………まぁ、仕方ない、か。じゃあ、ほらこれでいいか?」

 

 

兵士の男はそう言うと、自らが装備していたアサルトライフルやらハンドガン、手榴弾などの装備を地面に転がして武装解除してしまう。

 

 

「…何が目的だ?」

 

 

「ふぅ…警戒心が強いな。分かったよ、時間もないしな。俺はそこの少年――シュウって言ったか?そいつに助けられた事がある。キャンサー化して死にそうになってるのを助けてもらった。もしかして、そっちの機体のパイロットもあの時の子か?手短に礼を言わせてくれ。ありがとう。俺はあんた達に救われたおかげで今も生きていられる」

 

 

彼は闘争の意思はないと、両手を挙げたまま頭を下げた。

 

 

『もしかして、あの時の――』

 

 

「っと、本当に時間がないぞ?今の内に連れて行け」

 

 

「………礼を言う」

 

 

アルゴはそう言って、横たわる集を背負う。そして急いでトレーラーの後方に置かれた簡易ベッドに固定する。

 

 

『私からもお礼を言うわ。集を助けてくれて、ありがとう』

 

 

「いいさ。早く行け」

 

 

『………アルゴ!準備は!?』

 

 

「いいぜ!ツグミ、集を看とくのは任せるぞ!」

 

 

「アイ!」

 

 

彼らは即刻その場を後にし、来た道を引き返していく。兵士はそれをただ見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令部では、集を確保したとの報告を受けて喜色に湧いていた。

 

 

「……ツグミちゃんから報告です!桜満君、確保…………い、生きて……桜満君の生存を確認!!」

 

 

ワァッ!と、全味方部隊に向けたオープンチャンネルに流された、追加の生存報告は彼らを湧かせるのに十分であった。

 

 

「集…………あぁ…生きて…本当に……………生きて………」

 

 

春夏はツグミが集に取り付けた生命維持装置から送られてくるシグナルを見て、大粒の涙を浮かべていた。自ら、生きていれば奇跡と言ったのだ。その奇跡が起きたのだ。それも、『母親』にとって、死んだかもしれないと思っていた『息子』が生きていたという報せである。喜ばずにはいられないだろう。遂には嗚咽が漏れ出し、通信越しに彼女を慰める声が次々と届く。どの言葉も、集の生存の報せに祝福をおくるものだ。

 

 

「……何だよ、さっきからおとなしいと思ったら。颯太、お前も泣いてんのか?」

 

 

「ぅっ……う、うっせぇ!泣いてねえよ!そういう谷尋こそ、どうなのー?ほら、涙目じゃん!」

 

 

「俺は元々ドライアイなんだよ。ずっとモニター見てたから疲れてな……」

 

 

「……けっ!素直じゃねーでやんの」

 

 

「もう、2人とも…………っ、待ってください!中破していたエンドレイヴ部隊が、再編されて向かって来てます!進行方向――っ、桜満君の乗るトレーラーです!」

 

 

花音の声は通信越しに、全員へと行き渡る。その通信で、再び部隊全体の空気がピリッとしたものに引き締まる。そう、作戦はまだ終了していないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾瀬は迫り来る敵エンドレイヴに、応戦していた。基地の屋内から出た途端に、砲火に晒されたのだ。と言っても予め相手が集結していたことは予測していたので、屋内の少し奥まった場所へトレーラーは隠し、綾瀬が外で迎撃に務める形となった。

 

 

『あぁ、もう!行かせるわけには、いかないのよ!』

 

 

一機を沈黙させ、その横を抜けようとした一機を猛追する。通常の機体であれば、追い抜かれて終わりかもしれないが、最新機のシュタイナーA11:アーヴィンはそうはいかない。

 

 

進行する敵機を両肩部に装備されたハーケンで背後を突き刺し、ゴーチェとは比べるまでもない高駆動モーターにもの言わせ、ハーケンのワイヤー部分を掴み、思いっきり前方へ、横に円を描くように振り回したのだ。いくら重量のあるエンドレイヴとは言え、一度勢いがついて仕舞えばその慣性に従い突き進むしかない。

 

 

そのまま別の機体と衝突させられて、沈黙してしまう。おそらく痛覚が危険域に達して、ペイルアウトしたのだろう。下敷きとなった機体はもがいているが、伸し掛かる機体を退かせずにもたついている。そこを見逃すほど、綾瀬はお人好しではない。

 

 

『覚悟!』

 

 

伸し掛かる機体ごと二機を踏みつけ、脚部に装着したアンカーを射出して串刺しにする。完璧に、当初の設計した際の用途と別の用途に使われているが、どうやら敵には有効らしい。残っていた一機もそれで沈黙してしまう。

 

 

そして、その横を抜けようとしても――

 

 

『だから、行かせないって!』

 

 

腕部のマシンガンで蜂の巣にされ、生まれたその隙をツグミのビットが牽制、もしくは翻弄して撃破してしまう。こうなってしまうと、アメリカ軍側が不憫なほどである。

 

 

近接戦闘を挑めば、機動性に劣る量産機では勝つことなどできず、中距離は腕部に内蔵されたマシンガンや肩部のハーケンの餌食となり、遠距離〜超遠距離では強力すぎるV.E.Rにより、文字通り吹き飛ばされる。また、一機に集中してるかと思えば、それをカバーするように、二基のビットがフォローに入り、その無人砲台は的確に機体の弱点を撃ち抜いてくる。そして、それら高いパフォーマンスを維持する最適なパイロット。一対一、多対一であったとしても、量産機であり、スペックの劣るゴーチェでは現在のアーヴィンに勝つことは不可能だろう。

 

 

そしてようやく彼らを囲んでいたエンドレイヴ部隊は駆逐された。敵機5機を、トレーラーを護衛しながら撃破するという快進撃である。

 

 

周囲を警戒した後に、トレーラーが発進し、ようやく屋内から出て行く。

 

 

 

 

 

 

『………こっち、見た感じはクリア。ツグミ、レーダーは?』

 

 

「……うん、平……気じゃない!熱源――」

 

 

『しまっ――』

 

 

 

彼らは油断していた。そして、作戦時間が迫っているという焦りも、このミスに繋がったのだろう。トレーラーが出て来たところで、それは起こった。

 

 

急遽トレーラーを庇うために綾瀬はアーヴィンを動かした。そして、次の瞬間にそれは起こった。

 

 

『――っ!!?アァアァァァ!!』

 

 

防御に回ったアーヴィンの右腕の肘より少し下を銃弾が抉ったのだ。幸い貫通せず、トレーラーは無事だが、アーヴィンの右腕は中破してしまい、繋がってはいるが流石に動かすことは出来ないようだ。そして、アーヴィンからのゲノムレゾナンスによるフィードバックで綾瀬は悲鳴を上げる。

 

 

「アヤ姉!?い、今すぐべイルアウ――」

 

 

『ダ、ダメ!…ぐ、ぅ……………い、今べイルアウトしたら……トレーラーごと、やられる…!』

 

 

「けど――」

 

 

「綾瀬の言う通りだツグミ!綾瀬!悪いが、基地の外まで保たせてくれ!」

 

 

『言われ……なくても!!』

 

 

 

 

 

綾瀬は銃弾が飛来したと思しき方向の警戒を密にする。せめて、目くらましにと、基地の建築物を無事な左腕に内蔵されたマシンガン、V.E.Rで倒壊させる。砂煙が舞い上がり、少なくとも目視で視認はできなくなる筈である。

 

 

また、ツグミはアーヴィンのビットを二基とも展開させ、アーヴィンとトレーラーを守護する。最悪この二基を盾にして、2回は攻撃を防げる筈である。

 

 

そんな中、四分儀から通信が入ってくる。

 

 

『綾瀬、ツグミ、アルゴ。こちらでも状況を確認しました。あと30秒で構いません。持ち堪えて下さい。できますね?』

 

 

さも、当たり前のように四分儀はいつもの調子で言ってのける。それを3人は了承する。彼らにとって、長い命懸けの30秒が開始されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、話は変わるが、国連のエンドレイヴ技術は劣っているのだろうか?その答えは、否、である。

 

 

綾瀬の操るアーヴィンが次々と敵エンドレイヴを屠っているが、決して国連側が弱いわけではない。よく考えてみてほしい。エンドレイヴが台頭する前は、各種戦闘機や歩兵を主とした戦略が主であった。そういった者らを相手にするのに、エンドレイヴは大きな力を発揮する。その様は、ゾウとアリであろう。

 

 

そして、国連が求めるエンドレイヴの機能が、葬儀社などとは異なる事から、エンドレイヴの開発、発展は方向性が異なっているのだ。

 

 

葬儀社や、傭兵がエンドレイヴに求めるのは圧倒的な直接戦闘による戦闘能力、制圧能力。国連もそれを求めてはいるが、そもそも用途が異なる。国連側が求めたのは直接戦闘ではなく、事態を解決する問題解決能力である。

 

 

先ほどアーヴィンを狙撃したそれが、正にそうだろう。あのままトレーラーを貫いていれば、それだけで国連側は勝利していたのだ。と言っても、トレーラーの中には、世界でも屈指の電子戦を得意とするツグミが搭乗している。彼女によって、その結末は避けられた。

 

 

 

 

 

しかし、遠方からは未だに量産機であるゴーチェが、短時間の間に武装を変更した砲身で、トレーラーを狙っていた。

 

 

トレーラーの進行方向は突入に使用したゲートとは別口のものである。四分儀の部下が確保しているものだ。それを、二機のゴーチェが狙っていた。

 

 

通常、ゴーチェの武装はマシンガン、パイルバンカー、ミサイル、レールガンなどであるが二機の内、一機の武装は異なっていた。通常武装は全て外し、一基だけ巨大な対物ライフルの様な形状の武装を搭載しているのだ。そして、もう一機は武装変更したその機体の反動を受け止めるため後方へと回っている。

 

 

空になった巨大な薬莢が、対物ライフルの横から弾き出されてズン…と音を立てる。

 

 

『ちっ、防がれた』

 

 

『やるなぁ、向こうのパイロット。………おいクールタイムは?』

 

 

『今回はこれ使い潰していいんだろう?だったら、もう次弾を撃てるぜ?――っと、煙幕張りやがったか』

 

 

綾瀬達のいる場所とは反対側の位置から、その様子を彼らは見ていた。そして、再び煙幕外に出てくるのを待つ。彼らは余裕を持っていた。相手をはるか遠方から狙い撃つだけの作業である。もし向こうが反撃に打って出れば、その隙にトレーラーを今度こそ吹き飛ばせば良い。最悪機体は破壊されようと、ベイルアウトで脱出は可能で、死ぬわけではない。

 

 

だから、彼らは周囲への注意を怠った。

 

 

「………有線接続」

 

 

突如として、後方の通常武装の一機に、移動型ポットから有線接続用のケーブルが刺される。エンドレイヴはその特性上、ゲノムレゾナンスを無線で伝送する事で制御、操縦を行う。だが、何がしかの影響でゲノムレゾナンスの信号を受信できない場合の時のために、有線接続のための端子が付けられているのだ。

 

 

しかし、当然有線で接続しただけでは操縦を乗っ取れない。元々のパイロットからの信号が途切れる訳ではないのだ。故に、有線接続を行なった四分儀の私設部隊――『レイス』である『彼』は同時に四分儀から渡されていたウイルスを有線で流し込む。

 

 

一時的にマスター権限を偽装するだけで、その時間もおよそ30秒と短いものだが、30秒も確保できれば余裕である。

 

 

後方のゴーチェは乗っ取られ、それにようやく気付いた前方の機体に、明らかに動揺が走る。

 

 

『な!だ、誰が……』

 

 

『どーでもいーだろ、そんな事。じゃあね』

 

 

後方で手助けを行なっていた筈の機体は突如として牙を剥き、前方でトレーラーを狙う機体へ背中からマシンガンを打ち込む。フィードバックの痛みによる悲鳴が聞こえてきたところで、その機体はベイルアウトしたようだ。

 

 

それを見届け、機体を乗っ取っていた彼は現在操っているゴーチェの自爆機能を起動させる。これで10数秒後にはこの機体は自爆するのだ。機密保持のための機能を逆手に取った訳である。

 

 

 

 

有線接続を解除した彼はチラリと遠方を爆走するトレーラーを一瞥する。

 

 

 

 

「………世話が焼けるな、ちんちくりん」

 

 

彼は同じ『レイス』部隊である他メンバーと闇の中へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、四分儀の作戦は終了した。

 

 

 

 






いやぁ、色々とたった1話に詰め込み過ぎましたね。いや、色んな人を出したかったので、こうなりました。


途中、兵士の下りを出したのは、集の行動が無駄じゃなかったっていうのを、筆者が描きたかっただけです。後悔はない!


で、最後の方にチラッと、『彼』が出てきましたね。まぁ、こういう未来もいいかなぁー、と。


ではでは

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