Blood&Guilty   作:メラニン

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約二か月ぶりです。

いや、新生活とかで忙しくてですね・・・?


取り敢えず、どうぞ!




罪王の左腕編V

 

この世界――桜満集が居た世界の東京は、ダアトと呼称される組織によって壊滅的な被害を受けていた。現在も復興途中であり、特に被害の激しい場所に関しては瓦礫の撤去すら完全に終わってはいない。

 

 

と言っても、あれから約半年。それで一部地域は人が戻って来れているのだから、復興スピードは速い方であろう。

 

 

さて、そんな東京であっても、いくつか立ち入り禁止区域が存在する。特に規制が厳しいのは、ダアトとの最終決戦の舞台となったGHQ、およびセフィラゲノミクス社の施設等が存在する第24区である。とりわけ、『(ゲート)』が空いた地域一帯に関しては、警備も厳重であり侵入は難しい。しかも、その場所は現在隔離区域として大仰な建築物で外界との繋がりをシャットアウトしている。

 

 

そんな場所の近辺に停車するトレーラーの中で、綾瀬やツグミ、アルゴ、といった元葬儀社のメンバー、少し離れた大型トラックのコンテナ内で四分儀、春夏、谷尋、颯太、花音らが息を潜めていた。また、さらに別のポイントには、約20名ほどの元葬儀社のメンバーが要所ごとに待機、さらに四分儀の傭兵としての部下である別部隊も待機していた。

 

 

さて、こんな状態になっている理由を説明するには、綾瀬らが再会した2日前まで遡らなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「集を…取り戻、す?」

 

 

「えぇ、その通りです」

 

 

空いた口が塞がらないとでも言いたげな様子の谷尋に、四分儀が肯定の意を示す。その言葉に驚いているのは、谷尋だけではなく、アルゴ以外の他のメンバーも同様であった。

 

 

「順を追って説明しましょう。先ほどゲノムレゾナンスの数値をマップに可視化したものを見せましたね?」

 

 

「えぇ、あの日の数値とその後の数値の変動を示したものですよね?」

 

 

「その通りです。実はあの『(ゲート)』が空くより前の数値も記録していたのですが……アルゴ」

 

 

「はいよ。そこのモニターを見てくれ」

 

 

アルゴが先ほど同様、液晶画面を操作してモニターに画像を映す。そこには、四分儀が見せたマップと似たようなものが映っていた。そしてその中の数値は時間を追うごとに動き、『穴』が空いた瞬間まで進んだ。そこで、春夏が制止の声を上げる。

 

 

「…………開いた瞬間だけ、空洞化してる?それに、この数値の移動の仕方……」

 

 

数値がグラフ化されて目まぐるしく動くマップの中、春夏の視点は『(ゲート)』近辺の動きに集中していた。

 

 

「えぇ、どうやら『穴』が空くと、そこだけ綺麗に数値がゼロになるのです。さらに、その周囲のグラフは若干の螺旋構造を取っていると言っても良いでしょう。そして、空間が歪むという現象でも同じような数値の変動が起きています。アルゴ、次の画像を」

 

 

「あぁ、これだな?」

 

 

アルゴがそう言って、出してきた画像は中心の映像が歪み、そこから向こう側が捩れるようにして見える画像だ。

 

 

「………これが都市伝説の正体というわけ?」

 

 

「その通りです、綾瀬。これらの観測に関しては、私は日本に居られなかったので、アルゴを始めとした元葬儀社のメンバーに頑張ってもらいました。そして、我々が認知しているだけで、観測したこの現象の分布図がコレです」

 

 

「…………やっぱり、24区に集中してるわね」

 

 

「えぇ。故にデータはだいぶ取れました。そして、この空間の歪みの数や規模には一定の法則があるようなのです」

 

 

「………さっきのマップと照らし合わせてくれる?」

 

 

春夏の指示通り、アルゴは2つの画像を重ねる。ゲノムレゾナンスをグラフ化したマップと、空間の歪みを記録した分布図だ。そうすると、空間の歪みはどうやら、時間が経過するにつれて、『(ゲート)』付近のゲノムレゾナンスの螺旋状のグラフに沿って中央へ移動しているようであった。

 

 

「月並みですが、これらの空間の歪みが中央に集まった時、『何か』起こるのではと考えています。特にここ数日はこの現象の発生頻度、規模共に以前の比ではありません」

 

 

「………このまま行けば、何日後に中央にコレが集束するのかしら?」

 

 

「若干、バラツキがあるので断言はできませんが、速くて2日。遅くとも5日でしょう。そして、他の勢力も気付いているようです。国連側は、おそらくこの事態を揉み消す方向で動くでしょう。それ以外は、おそらく様子を見つつ、もし本当に集やいのりが出てくるなら、確保に動くでしょうね」

 

 

四分儀が予測される勢力や、配置、数などを手元のタブレット端末でマップ情報に追加していく。予測される勢力は、当然これ以上の失態を重ねられない国連、中東やアジア圏の過激派、各国のエージェント、テロ組織まで書かれていた。

 

 

そのマップ上に浮かぶ情報に、花音や颯太は息を呑む。他は黙り込んでしまう。

 

 

「………四分儀さん、質問がある。ここまで色んな勢力が入り組むほどの事態になり得るのか?」

 

 

谷尋はあまりの敵の多さに、少し引き気味になりつつも、四分儀へ質問を飛ばす。四分儀はメガネの位置を直して、改めてモニターを見据えつつ答えていく。

 

 

「一応は、その覚悟をしていた方が良いでしょう。こう言っては不謹慎でしょうが、たとえ死体であっても、彼らは是が非でも確保をしようとするでしょうね」

 

 

「ちょっと、しぶっち!」

 

 

「分かっています。………申し訳ない、桜満博士」

 

 

「………いいえ、それも考えておかないといけないことだわ。もちろん渡すつもりなんかないけど、リスク計算を怠って、痛い目は見たくないもの」

 

 

春夏の目には闘志のようなものが浮かんでいた。心なしか表情も店内に居た時よりも明るい。ようやく、彼女の願いが叶うかもしれないのだ。無理もない筈である。

 

 

「えぇ、そう言っていただけると助かります」

 

 

四分儀が春夏に頭を下げる一方、颯太は訝しむように四分儀を見る。

 

 

「なぁ、四分儀さん。なんで集のためにここまでしてくれるんだ?あ!別に、気になっただけで、他意はないって言うか、嫌なら話さなくてもいいっていうか……」

 

 

途中から、花音の視線が突き刺さり、颯太の言葉の最後の方は尻すぼみになっていった。その質問に、四分儀が珍しく小さく笑う。

 

 

「………集、そして、いのりには借りがあります。大き過ぎる借りです。今我々が生きているということは、涯は倒されたのでしょう。そして、集はおそらく彼のヴォイドの特性であるアポカリプスウイルス、ヴォイドを集める力を利用して消えた。まるで、物語に出てくるなら英雄や救世主のようです。しかし――」

 

 

四分儀はそこで言葉を区切る。その表情はどこか何かを悔やむようでもあった。

 

 

「本来、そういった存在は居てはならない。業を1人に押し付ける行為などあってはならない。私はその考えを通したいだけなのですよ。もちろん、元は葬儀社に所属していた者同士としての仲間意識からでもありますが。この理由で満足していただけますか?」

 

 

「………はい、なんか変なこと聞いてすみませんでした」

 

 

「いえ、構いません。では、当日の作戦計画を詰めていきましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、彼らは現在の作戦に参加しているのだ。と言っても、今の彼らには圧倒的に人手が足りていない。そこで、本来こういった荒事に慣れていない、谷尋や花音、颯太まで駆り出されたというわけだ。この2日間はみっちりと機材の扱いなどを覚え込まされ、バックアップを担当する。

 

 

また、トレーラーに乗る綾瀬、ツグミ、アルゴは本命の強襲部隊であり、トレーラー内でツグミが綾瀬のエンドレイヴのサポート、また相手情報のジャミングなどを行う。運転および護衛としてアルゴが同乗し、その後方には元葬儀社メンバーの乗る自動車がサポートとして数台張り付いている。

 

 

一方、大型トラックのコンテナ内にいる、四分儀、春夏、谷尋、颯太、花音は司令部としての役割を持つ。護衛として、四分儀の部下、および数名の元葬儀社メンバーが同乗している。

 

 

他、四分儀の部下の部隊、元葬儀社メンバーらがいくつかの部隊に別れ、遊撃を務める。と言っても、あくまで陽動、妨害工作が主目的であり、四分儀の部下である傭兵や、狭いコンクリートジャングルで抗戦を続けてきた元葬儀社の方が、国連側の兵士よりも幾分か有利に動くだろう。

 

 

そして、トレーラー内では、新たに受領したシュタイナーの前で、綾瀬が操作席に座り待機していた。

 

 

「アヤ姉、ガチガチだよ?ただでさえエンドレイヴにはブランクがあるんだから、そんなんじゃ上手くいかないよ?」

 

 

「しょ、しょうがないでしょ!いつ出撃かも分からないし!」

 

 

「けど、久々にシュミレーターやった割には、アヤ姉動けてたよ?緊張することないと思うけど」

 

 

「………シュミレーターはシュミレーターでしょ?そこまで緊張しないし………それに、この子の性能がだいぶ良かったから」

 

 

そう言うと、綾瀬は自らの乗機を見上げる。量産化されたエンドレイヴとは機能をはじめとした、全てにおいて圧倒的に差が開くワンオフ機である。GHQの量産機であったゴーチェも整備性の向上や、各種運動機能の拡張が行われたが、これから綾瀬が操るシュタイナーにとっては足元にも及ばないだろう。

 

 

「この子の新しい名前、シュタイナーA11、アーヴィンって言うんだって。ナンバリングが2つ増えてるのは、国連の中でいじられた後に、またコッチで改修したからだってさ。その時に、隠密性を高める為に光学迷彩も導入したって言ってたよ。それも高性能なお高いやつ」

 

 

綾瀬の以前乗っていた機体は葬儀社でチューンナップされ、正式名称はシュタイナーA9、通称アーノインであった。その後継機という事もあって、名称も継がれているのだ。

 

 

「………今回の作戦でも、活躍してくれそうね」

 

 

「アイ!じゃないと困るよ、アヤ姉!ビットの操作はまた私がやるから!けど、ビットの稼働時間は連続使用で15分しか保たないから注意してね。あと光学迷彩なんだけど、各種カメラとセンサーが写した映像を反対側に投影してるから、カメラとセンサーには注意してね。使えなくなっちゃうから。肩のハーケンは応用が利くはず。それと、背中に増設されてるV.E.Rなんだけど、シュミレーターで分かってると思うけど、最大威力で使うんなら絶対にレッグアンカーで機体を固定してから使って。じゃないと、反動で慣性制御が吹っ飛んじゃうから」

 

 

ツグミは改めてアーヴィンの武装について説明を重ねる。ビットはいわゆる無人の可動砲台だ。以前のシュタイナーにも装備されており、こちらは本体の武装強化のため、予算の関係上ほとんど改良されておらず、以前のものを流用している。

 

 

次にハーケンとは、肩部のパーツに増設されたアンカーの様な武装である。地面や建造物に突き刺し、ハーケンから伸びるワイヤーを使用して空中制動や、高速稼働として使用できる。また緊急時、ゼロ距離で射出する事で距離を取ることもできるだろう。

 

 

ツグミは説明を省いたが、腕部や脚部に内蔵された砲身はどんな状況下でも使用可能である。

 

 

最後に、この機体最大の威力を出すことが可能なのがV.E.R(Variable Energy Rifle)と呼称される背部に装備させられた大き目な砲身である。それが一基ずつ、左右対称で取り付けられている。使用時はスライドし、腰部横から弾丸が射出される。この装備は、要は電磁誘導を利用した――つまるところ、レールガンである。

 

 

「えぇ、気をつけるわね。けど、制御とかはツグミに任せるわ。細かい調整も頼むわね」

 

 

「………なんか、葬儀社の時の出撃前みたい」

 

 

ツグミはそう言って、懐かしそうにアーヴィンを見上げる。葬儀社に所属し、作戦に出撃するたびにパイロットである綾瀬はOSの制御や機体のコンディションを行うツグミと打ち合わせを行うことが多かった。それを思い出しているのだろう。そして、それは綾瀬も同様であった。

 

 

そして、ついに作戦開始の合図の電子音が響く。それと共に、外では周囲がザワつくような気配があった。運転席の方から後方へ扉を開けてアルゴが報せに来ると、その隙間から上空へ向けて光芒が立ち昇るのが確認できた。四分儀の言っていた『何か』が起こったのだろう。

 

 

「綾瀬、ツグミ!始まりやがった!準備はいいか!?」

 

 

「えぇ!いつでもいけるわ!ハッチを開けて!」

 

 

「応!」

 

 

アルゴはトレーラーのハッチを開くために、運転席へと戻る。綾瀬が機体を操作するためのヘッドギアを装着し、背中を座席に預ける。

 

 

「アヤ姉、無茶はしないでよ?」

 

 

「ふふ、大丈夫よ。最悪ペイルアウトで脱出できるんだし。けど、絶対に集達は確保してくるわ。サポート頼むわね、ツグミ?」

 

 

「アイ!当然!」

 

 

「ハッチ解放!いつでも行けるぞ!」

 

 

アルゴの一際大きな声がトレーラーに響く。天井部のハッチが解放され、夜空が顔を見せる。今夜は新月の様で、星明かりや街灯以外に光はない。そして、周囲一帯の電気が同時に落ちる。ここから先は通信でのやり取りとなる。綾瀬のヘッドギア内に、ツグミの声が届く。

 

 

『アヤ姉、行っちゃって!』

 

 

『えぇ………行くわよ!』

 

 

 

真っ暗な暗闇の中、綾瀬の操るアーヴィンは闇の中を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 





と言うわけで、シュタイナーの新型発進!


細かいイメージとしては、シュタイナーにコードギアスのナイトメアを掛け合わせたものとでも思っていただければ・・・


というわけで、いよいよ集の奪還スタートですね。乞うご期待!

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