Blood&Guilty   作:メラニン

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お久しぶりです!

ようやくリアル事情が落ち着いたので投稿です。いや、実は前々から出来てはいたんですけどね?投稿する時間が・・・


さて、今回は反撃へ向けて、みたいな?


では、どうぞ!


罪王の左腕編II

 

「深森ちゃん!いのりさんが目を覚ました!」

 

 

古城、雪菜、紗矢華、深森がリビングの一室で話し合っていた時だった。凪沙は慌てた様子で室内に突撃してきた。深森は立ち上がり、そのまま凪沙に落ち着くよう促す。

 

 

「はいはい、落ち着いて、凪沙ちゃん。ユウちゃんの方はどうかしら?」

 

 

「あ、うん。ユウちゃんはまだ意識が戻ってないみたい。少し苦しそうにしてたけど、古城君達に運び込まれた時より顔色は良さそうだったよ?」

 

 

「うん、結構結構。じゃあ、凪沙ちゃん先に行っといてくれる?あと冷蔵庫にAAWって書かれたチューブがあるから出しといてくれる?」

 

 

「うん、分かった!」

 

 

凪沙は素直に従って、来た時と同じようにパタパタと足音を立てて小走りで駆けて行った。古城もそれに付いて行こうと立ち上がるが、深森が待ったをかける。

 

 

「いってぇ!」

 

 

深森は古城の胸筋へ、ドスと一回拳を叩き付けて悶絶させる。軽く殴られただけだと言うのに、予想外に効いているようだ。古城は再び椅子に腰を落とすような形で、強制的に座らされた。

 

 

「せ、先輩!?」

 

 

「あ、暁古城!?」

 

 

「あのねぇ、古城君。女の子の病室に上り込むつもり?それと、何があったか知らないけど、そんな身体で動き回らないの。そこのソファか、廊下出てすぐそこに寝室があるから横になっときなさい」

 

 

深森はそう言うと、彼らを置いて自らも病室へと向かったようだ。

 

 

そして、未だに患部を抑えて痛みを堪える風な彼を、雪菜と紗矢華が心配そうに覗き込む。

 

 

「あの、先輩大丈夫ですか?」

 

 

「………ってぇ。ったく、あの母親は」

 

 

古城が辟易したようにポソリと呟く。そう、彼の神経は集によってダメージを受けていた。優麻と古城の肉体のパスを切断するために、術式ごとパスを切断したのだ。その際、後で回復可能な古城ならばいざ知らず、優麻の神経を傷付ければシャレにならない。何せ、全神経が繋がっていた様な物なのだ。切る場所を誤れば、全身不随にだってなり兼ねない。

 

 

そこで集は優麻の神経を傷付けない様にするため、仕方なく古城の方の神経寄りにハサミを差し込み切断した。しかし、そこは流石真祖である吸血鬼の回復能力である。古城は全身不随になどなる様子もない程には回復している様だが、それでも完治している訳ではない。未だに痛む、深森の拳が当たった場所を摩って長く息を吐く。

 

 

「どうしたのよ、暁古城?心配事?」

 

 

「………まぁ、な」

 

 

「………………あの、紗矢華さん。上層部への連絡は――」

 

 

「安心なさい、雪菜。現状で、楪いのりは小康状態。それに、暁深森による特殊な鎮静剤ってヤツのお陰で、一先ず安心はできる。まだ、私たちが対応しきれる範囲内での出来事……って事にしときましょう」

 

 

紗矢華の言葉の最後の方は尻すぼみになってしまいやや不安が残るが、それでも獅子王機関が正面切って敵対してこないだけマシであろう。深森の言う鎮静剤がどの程度のものなのかは分からないが、彼女の口振りからして、今のところ平気なのだろう。

 

 

「……それよりも、桜満のことを何て言うか、か」

 

 

古城の沈んだ様子に、雪菜も紗矢華も顔を俯かせる。彼女にとって最も大事な存在が、何の前触れもなく理不尽にも消されたのだ。紗矢華はもしこれが、雪菜であればと想像し身震いする。そして、そもそも楪いのりという存在は、この世界にとって異物とも言える、異世界からの来訪者である。唯一、同郷とも言えるのが桜満集という存在なのだ。

 

 

今回の事が如何に、彼女にとって辛い事なのか、想像するのは難しい。

 

 

「………情報が足りませんね」

 

 

ポツリと、雪菜がそう呟いた。そして、彼女は顔を上げて強い意志の籠もった瞳を、目の前に座る年長者達へと向ける。

 

 

「まだ………諦めるには早いはずです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MAR集中治療室の一室。普段、重篤な症状の患者が運び込まれるその場所には、現在とある1人の少女が横たえられて居た。規則正しい寝息を立てて、側にある医療機器からはピッピッと、こちらも規則正しいリズムで電子音を刻む。

 

 

少女は薄っすら目を開けると、周囲が少し騒がしくなり、再び静寂が訪れる。未だにボーッとする意識のまま真っさらな天井を見つめている。そうしていると、扉の開く音がした。ガチャガチャと何かを運ぶ音がしたと思ったら、腕にチクリとした痛みが走る。そこから何かを流し込まれているのだと感じていると、それも数秒で終わる。

 

 

何か話し声が聞こえ、少しすると人の気配が減った。どうやら、先ほど病室に入ったのは2人であったらしい。

 

 

未だハッキリしない意識ではあるものの、体は動く。首を少し動かせば、見覚えのある少女が心配そうに覗き込んでいた。黒い髪を後ろで纏め、頭には波朧院フェスタ仕様の猫耳のカチューシャを装着している。

 

 

「あ、いのりさん!大丈夫?見えてる?私のこと分かる?何があったか覚えてる?」

 

 

「凪…沙……?」

 

 

「うん、そうだよ!急に古城君と雪菜ちゃんが運び込んで来たからビックリしたよ!まぁ、何でか知らないけど、屋上で古城君のことを襲ってたっていう女の人も居たけど。あとで古城君は尋問しなきゃ」

 

 

どうやら紗矢華の方の説明はされていなかったらしく、凪沙の中では不審者認定されたままらしい。彼女が後にそれを知ってややショックを受けるのだが、今は脱線している時ではないだろう。いのりは上体を起こして、凪沙を見据える。

 

 

「ここ…は…」

 

 

「ここ?ここはMARの集中治療室だよ?あ、ユウちゃんは少し離れた部屋に居るからね。深森ちゃんが今は診てくれてるよ」

 

 

凪沙の明るい声の説明を受けて、いのりは徐々に何があったのかを思い出していく。彼女の最後に残っている記憶は、目の前に居る最愛の少年へと手を伸ばす細腕と、彼の背中。そして、それを呑み込まんとする真っ黒な闇。いや、完璧に呑み込まれたのだ。

 

 

呑み込まれる直前、彼は一歩踏み出していた。たった一歩という距離。自らの手と少年との背中の距離。それは近いようで果てし無く遠い距離だ。今となってはそう表現するのが適切とも思えてならない、たった一歩。

 

 

一歩踏み出すのでは無く、一歩下がってくれれば手の届いた距離であり、そして避けるのならばそれが最適だった筈だ。なのに、少年はそれをしなかった。なぜか?

 

 

簡単だ。自分が居たからなのだと、いのりは唇を固く結ぶ。あの背中を掴んで仕舞えば、いのり自身も呑み込まれていただろう。それを彼は許容できなかった。そんな事は分かる。しかし、その行動を納得しろというのは、また難しい。

 

 

いのりは自らの腕を見る。傷1つない綺麗な腕だ。そこに彼の『心』でもある『右腕』を重ねて見てしまう。斬り落とされ元の腕はなく、結晶で形作られた無骨な無機質な腕を。

 

 

 

 

 

 

 

不安はあった。死んだはずの自身が生きて、そして集に救われた。一緒に笑い、共に暮らし、歩んできたこの数ヶ月という時間はまさに夢のようであった。

 

 

朝、起きて部屋を出ると、すでに少年が起きていて笑いながら迎えてくれる。共に学び舎へと通い、彼の友人らと何気ない会話を交わす。夕方になれば、夕食を何にしようかなど雑談をしながら買い物をする。互いに口数が多い方ではないが、それでもふと何かが切っ掛けに会話が始まる。心地のいい距離だった。帰宅すれば、家事を分担してこなしていく。寝る前にのんびり寛いで、寝所に入ってまた変わらぬ朝を迎える。

 

 

不安だったのだ。幸せ過ぎたのだ。今も結晶の中に居て、これは一時の夢なのではないかと。死ぬ前に脳が見せている幻なのではないかと、些細な切っ掛けで壊れてしまうのではないかと、不安でしょうがなかった。そして、それはその通りになってしまった。壊れてしまったのだ……

 

 

いのりは視線を落とし、自らの手に焦点を合わせる。そうしていると、無性に悔しさと喪失感が彼女を支配した。

 

 

「え!?い、いのりさん!?ちょ、ちょっと………えっ!?」

 

 

静かに頬を伝った涙を見て、凪沙は焦った。今まで彼女の泣き顔など見たことがないし、何より彼女にとって、いのりは何処か憧れの様な対象であった。強く美しい少女なのだと、勝手に思っていた。しかし、その彼女が無表情を貼り付け、頬を涙が伝っている。

 

 

凪沙はただそれを見つめている事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめんなさい、凪沙」

 

 

「ううん、いいよ。その…………何があったのか…なんとなく私も分かってるから」

 

 

凪沙は、いのりが涙を流すのをジッと見ている事しかできなかった。そして、何よりそれで何と無く悟ってしまったのである。いのりの、そして自らの想い人でもある少年に何かがあったのだと。凪沙は喉の奥から漏れ出そうな嗚咽を噛み殺して、一度俯く。

 

 

「…集が、ね」

 

 

「…………うん」

 

 

「消、え……」

 

 

「……う…ん」

 

 

凪沙は言葉に詰まる。予想はできていた。

 

 

いつであったか、深森が言っていた様に2人は側に居なければならない、と。なのに今この場に集は居ない。別行動という線も考えられたが、古城や雪菜の様子からして、それは無いだろう。優麻の怪我からも、何がしかの事件に巻き込まれたと考えるのが普通である。ここは魔族特区とされている絃神島だ。何が起こっても不思議はないし、毎日超常の力による何かが起こっている。そして今回に関しては、おそらくそれは雪菜に以前聞いた『秘密』に関わりがあるに違いない。

 

 

だが、今はそれよりも重要な事があると凪沙はキッと、いのりを見つめる。

 

 

「うん、分かった。けど、いのりさんの言葉からして、『消えた』だけなんだよね?『死んで』ないんだよね?」

 

 

「………分からない」

 

 

「けど、さっき『消えた』って言ってたじゃん。えっと…私も魔術?とか魔族とかに詳しくないけど、って言うか魔族はすごく怖いんだけど…………でも、目の前で『消えた』だけなら、南宮先生の空間魔術ってやつに近いんじゃないかな?だったら、南宮先生に――」

 

 

「……今は、那月もいない」

 

 

「…………もしかして、集さんと一緒に消えちゃったとか?うーん、状況がよく分かんないよ。ねぇ、いのりさん、どういう状きょ――」

 

 

「黙って!!」

 

 

いのりは叫ぶ様に大声を上げていた。凪沙が質問をするたびに、いのりの脳裏にはその時の様子が蘇ってきていた。それは何もできなかった彼女にとって非常に忌まわしい記憶だ。

 

 

いのりは病室のベッドの上で顔を俯かせ、ギュッと自らの服を掴む。そこへ、無表情となった彼女の頬を伝ってポロポロと涙が落ちてくる。

 

 

「…いのりさん」

 

 

「……………」

 

 

「いのりさんっ!!」

 

 

凪沙の大声の呼びかけに、ようやく顔を上げる。その頬を再び涙が伝っていく。凪沙は一度大きく息を吐くと、キッといのりを見つめる。

 

 

「先に謝っとく。ごめんね」

 

 

「…え?――っ」

 

 

パン!という乾いた音が病室に木霊する。いのりの頬は凪沙の手と同じくらいの大きさの面積が赤くなっていた。振り抜かれた凪沙の右手も赤く染まっていた。凪沙は自らの瞳から溢れそうになるものをグッと堪え、赤くなった頬に手をやるいのりを見ていた。

 

 

「いのりさん、集さんのこと信じてないの?」

 

 

「っ!そ、そんなこと――」

 

 

「じゃあ、何で諦めちゃってるの!」

 

 

「わ、私だって――」

 

 

「同じだよ!集さんは『消えた』だけなんでしょ!?だから、いのりさんだって『死んだ』って言わないんでしょ!?だったら、まだ何処かで生きてるかもしれない!だから……」

 

 

凪沙は喉奥から漏れ出そうになる嗚咽を抑える。そのために一旦言葉に詰まるが、一呼吸おいて再び声を上げる。

 

 

「…だから、いのりさんは諦めちゃダメだよ。集さんのことが一番大好きな、いのりさんが諦めちゃダメ……集さんが一番好きでいてくれる、いのりさんが諦めないで」

 

 

そこまで言い切って、凪沙の目尻からは堰を切ったように涙が零れおちる。結局のところ、集の心の大半を占めているのは、いのりなのだ。そして、いのり自身もそうなのだろう。凪沙は自らの言葉で自分が、間に入り込めないかもしれないという事を、それとなく察してしまったのだ。

 

 

彼女は涙を流している。それは、様々な感情が混在した涙だ。それを見て、いのりも涙を流していた。この目の前にいる少女は、本気だったのだろう。そして、それは自らも同じなのだ。

 

 

「………ごめんなさい、凪沙。ごめん、なさい…諦め、ない。…諦めない………けど…」

 

 

2人の少女の啜り哭く声が、病室だけでなく廊下にまで漏れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MARのゲストハウス、リビングルームにて古城は雪菜と紗矢華から簡単に治療を受け、ソファの上に疲れた様に横たわっていた。いや、疲れたようではあるが、どこかソワソワしている。

 

 

「……先輩、大丈夫ですよ。凪沙ちゃんがしっかり者なのは知っていますよね?」

 

 

「って、言ってもなぁ……その本人の泣いてる声が聞こえりゃなぁ……」

 

 

実は彼女らの泣き声は廊下を通じて古城らの耳に届いており、古城は気が気ではなかった。今にもMARの研究棟に突撃しそうであったのだが、雪菜と紗矢華に治療の名目で横にされていた。

 

 

「身内に見せたくない事って誰にでもある事じゃない?あなたの妹も多分、自分の泣く姿なんて見られたくないと思うわよ?」

 

 

「そうは言っても、気に――」

 

 

「例えば、自分が吸血鬼の真祖だってことを今すぐバラされたい?」

 

 

「………すまん」

 

 

古城がようやく反省の色を見せたことで、雪菜と紗矢華は小さく息を吐いて、改めて古城の容態を確認する。と言っても、紗矢華が軽く古城の手を握り、さらに数本の鍼を打ち込んで力の加え方を変え、神経がどの程度機能し傷付いているのかを確認するのみである。

 

 

紗矢華の性格上、本格的に身体中を触診することになれば、途中で気が動転して容態が悪化するようなことが起こりかねない。なので、現在手を握り神経伝達について軽く確認する程度にしているのだ。あくまで治療行為であり、疚しい事などないはずである。故に、紗矢華が時折表情を緩めてしまうのと、終始頬が紅く染まっているのは治療行為に没頭しているからであるという事にしておこう。

 

 

「………紗矢華さん、大丈夫ですか?顔が紅くなってますが。やっぱり私が――」

 

 

「い、いいのよ!だ、大丈夫よ、雪菜!」

 

 

「……そうですね。何だか心なしか紗矢華さんの表情は先輩と手を繋いで以降、時折嬉しそうですし」

 

 

「!?」

 

 

紗矢華はバッと空いている手を自らの顔に当て、思いの外自らの顔が上気している事に気付いたようだ。

 

 

だが、そんな空気を壊すかのようにリビングの扉が開く。全員が視線をそちらに向ければ凪沙に支えられた、いのりが立っていた。と言っても、その表情は若干辛そうである。

 

 

「楪!?立って平気なのか!?」

 

 

「…………正直、つらい。でも、寝てられない。凪沙にも叱られたから」

 

 

いのりが先ほど泣いていたとは思えない様な、柔らかい表情で凪沙を見る。凪沙はそれに対して唇を尖らせる。

 

 

「だって、ああでもしないと、立ち直れなかったでしょ?」

 

 

「…少し弱気だっただけ」

 

 

「えぇ〜…」

 

 

いのりは心外だとでも言いたげな表情で、凪沙は少し困った様な表情でムッとしている。先ほど、どういう経緯があったのかは本人たちだけが知る事であるが、どうやらいい方向に転がったのだと、古城、雪菜、紗矢華の3人はホッと安堵していた。

 

 

「まぁ、もう平気そうだな。一体どんな手品使ったんだ、凪沙?」

 

 

「んー?ビンタして、お互い言いたい事言っただけだよ?」

 

 

「「「……………」」」

 

 

3人の予想よりも、よほど肉体言語に近いような、やり取りが行われていたという事に揃って閉口してしまう。古城に関しては、凪沙から叩かれた様な事など小学校の高学年になってから以降ほとんど無かったので、余計に驚いたようだ。

 

 

「………なんか、思ってたのと違ったな。心配しなくても良かった、のか?」

 

 

「ま、まぁ、凪沙ちゃんも、いのりさんも平気みたいですし、良いんじゃないですか?雨降って地固まる、というやつだと思います」

 

 

「そうそう、そんな感じ。ね、いのり()()()!」

 

 

「ん」

 

 

「………ハハ、楪ともようやく打ち解けたか、凪沙?」

 

 

耳聡く古城が、妹の変化に気がつく。たかが呼称であるが、それはある意味重要な要素ともなる。古城は真っ先にそれを見抜いたというわけだ。どうやら、雪菜が言った様に『雨降って地固まる』というのは本当の様だ。

 

 

「前から打ち解けてたよ。失礼だな、古城君は!」

 

 

「でも、まだ集の事は前のまま」

 

 

「うぇっ!?しゅ、集…さんはその…………ま、まだ緊張というか、恥ずかしいというか…」

 

 

「ふふ」

 

 

「あー!笑わないでよ、いのりちゃん!私にとって結構重要な問題なんだから!」

 

 

どうやら、彼女らの関係はよほど進展した様だ。仲が良さそうに言葉を掛け合う彼女らは、どこかじゃれ付く様な感じでもある。そして、どうやら凪沙は未だに集の方の呼び方には、若干の抵抗というか気後れがあるらしい。いのりは、それを内心可愛いとでも思っているのだろう。少なくとも、他の3人にはそう見えていた。

 

 

「……で?2人が仲良くなったのは分かったんだが、辛そうにしてる楪がわざわざここに顔を出したって事は、何かあるんだろ?」

 

 

「…ん」

 

 

いのりは一転して、やや真面目な表情になりソファに集まっている3人を見る。

 

 

「集を見つける。凪沙には、私の事は話した」

 

 

その言葉に古城は息を呑む。その流れで自らのことも露呈したのではと、不安が過ったのだ。

 

 

「………いのりさんの事を、ですか?」

 

 

「ん、私と集の事。私がこの世界に来てから、集に助けられたっていう事を」

 

 

雪菜が念押しをする。いのりもそれに気付いた様で、コクリと頷く。余計な事は言っていない、という事なのだろう。

 

 

「………なるほど。それで凪沙ちゃんはどうするんですか?」

 

 

「ん?勿論、集さんの事を探すよ?」

 

 

何を当たり前のことを?とでも言いたげに凪沙は即答する。雪菜が溜息を吐きそうになる直前に、だけど…と言葉が続いた。

 

 

「私は、いのりちゃんの話を聞く限りだけど、そんな力になれそうにないんだよね。いのりちゃんと集さんって、なんか特殊な力を使えるんでしょ?ヴォイド?って言うんだっけ?」

 

 

「ん、そう」

 

 

「うん、だったら無理。だって私普通の女子中学生だもん。戦うとかそんなの絶対無理!ノーサンキュー!平和が一番!」

 

 

「なら――」

 

 

「でも、それは雪菜ちゃんたちも一緒でしょ?」

 

 

そうだった、と雪菜は自らの迂闊さを呪う。どうやら本当に、いのりは古城や雪菜、紗矢華の本当のことに関しては喋ってない様で、未だに普通の学生という認識のようだ。

 

 

「けど、何もできないわけじゃないよ!」

 

 

凪沙が胸を張ってそう主張する。彼女は何か考えでもあるようで、支えているいのりへと視線を向ける。

 

 

「ん。私たちだけじゃ無理。だから、協力してもらう」

 

 

「っても、誰にだよ?楪だって、まともに身体が動かないだろ?」

 

 

「って言うか、古城君はなんで辛そうにしてんの?」

 

 

「………いろいろあったんだよ」

 

 

「ふーん………」

 

 

「あーうん、いろいろあった。で?誰に協力してもらうんだ?」

 

 

「東條と、凪沙のお父さん」

 

 

いのりは短く、そう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古城や、いのり達が行動方針を定めてからしばらくして、絃神島キーストーンゲート付近は喧騒に包まれていた。毎年恒例の夜のパレードである。

 

 

そんな中を、藍羽浅葱は見た目4、5歳の幼女の手を引いて歩いていた。

 

 

「サナちゃん、絶対手を離しちゃダメよ?」

 

 

「はい、ママ!」

 

 

「う、うーん、やっぱ慣れないわね……」

 

 

便宜上、そう呼ぶことにした浅葱は自らの手を絶対離さない様にと、必死でしがみ付くサナに、苦笑を浮かべる。

 

 

「にしても、毎年派手よね〜」

 

 

「ママ、ママ!あれ!あれ、すっごくキレイ!」

 

 

浅葱の手は絶対手を離さず、だがその場でピョンコピョンコ跳ねて興奮を伝えてくるサナは浅葱の目から見ても可愛らしく映った。ふと、自らにも子供ができれば、こんな風になるのだろうかと思う。そして、横にある少年の顔が浮かんだことに、顔を振って忘れようとする。

 

 

「ぐ、うぅ………変な想像しちゃった………う、うーん」

 

 

だが、満更でもない様で、それが浅葱には少し悔しい様である。隣で百面相する浅葱を他所に、サナは興奮した様にパレードの飾り付けを指差しては、浅葱に報告してくる。

 

 

「ママ!おっきなネコ!」

 

 

「え?あぁ、あれは虎っていうのよ。ほら、身体が黄色と黒のシマシマでしょ?」

 

 

「ト…ラ?ネコじゃない?」

 

 

「う、うーんと、同じネコ科だけど」

 

 

「ネコ、か?」

 

 

「えっと、ネコの仲間のことよ。けど、ネコの中にも白かったり黒かったりするのがいるでしょ?」

 

 

「うん!」

 

 

「ああいう黄色と黒のシマシマのやつはトラっていうの。ネコより大きくて、他の動物を食べちゃうのよ。あ、サナちゃんも小さいから食べられちゃうかも?」

 

 

「ひ、ぅ!?」

 

 

ビクリとして、サナは浅葱の背後に回って、警戒する様にしている。小動物が怯えて警戒する様なその光景は、小さなサナとも相まって微笑ましくもある。

 

 

「ふふ、そんなに怖がらなくて大丈夫よ。あれは本物じゃなくて作り物だから、襲ってこないわ」

 

 

浅葱がそう言うと、ホッと息を吐いていた。だが、それでも恐怖の対象となった様で、先ほどよりも強い力で浅葱の手を握る。

 

 

「………ほんと、随分懐かれたわね。なんでかしら?」

 

 

「ママ、ママ!あれ!あれは?」

 

 

「はいはい、次は何?」

 

 

2人はキーストーンゲート方面へと続く道を、手を繋いで歩く。その道はネオンや最新のLEDなどで派手に照らされている明るい道だ。しかし、明るい大通りとは対象的に、少し外れの路地などは色濃く闇が蠢いていた。

 




『ひ〇ね姫』面白かったですw
最後の方のとあるワンシーンを見て、脳内で『ミコノさーん!!』という声と共に、飛んでく映像が流れたのは自分だけではないと思いたい・・・
(はい、ア〇〇リオンですね)


次回はちょいと不穏気味です。


ではでは、乞うご期待!

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