Blood&Guilty   作:メラニン

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今年も残り僅か!


いやはや年の瀬ですね。そして今日はイヴですね。明日がX'masですね。因みにX'masのとこに『’』付けるのって間違いらしいですねw

この二日間、夜は外出したくねぇー・・・





さてさて、今回は戦闘回。まぁ、ただ戦闘自体は短いです。そりゃ、真祖の魔力使えるとはいえ、魔女一人に対して、魔力無効化する奴らばかりが相手ですもん。多勢に無勢というか、優麻からすりゃ、相性最悪ですからね・・・


では、どうぞ!


蒼き魔女の迷宮編VII

 

 

「………な、なんじゃそりゃぁぁぁ!!」

 

 

煌坂紗矢華の悲鳴にも近い絶叫がキーストーンゲートの屋上に響いていた。彼女の大袈裟とも思える感情表現に、当事者である優麻の身体に入った古城は苦笑いを作る。

 

 

今、紗矢華目の前に居るのは、どこからどう見ても苦笑いですら、可愛らしい美少女である。見た目はどうあれ、これが自らの知る真祖なのだと未だに信じられないのだろう。紗矢華からすればまさに青天の霹靂という状態である。

 

 

「まぁ!これは、困りましたわ。これでは世継ぎが作れませんね」

 

 

「お、おおお王女!?今とんでもない事を仰いませんでしたか!?」

 

 

「あら、そうですか?私も一国の王女ですし、不思議はないと思いますが」

 

 

確かに彼女は小国とはいえ、アルディギアの第一王女である。彼女の子供はラ・フォリアの次に王位を継ぐ存在である。国を治める身分の者としては、次代への継承を考えねばならない。ラ・フォリアも年頃故に、そういった事を考えざるを得ないのである。

 

 

「………あの、もういいです。はぁ、じゃあ貴女が暁古城………で、いいのよね?」

 

 

「おう、理解が早くて助かる」

 

 

「………何でアンタはこう次から次へと厄介ごとに関わるのかしら?」

 

 

「俺のせいじゃねーよ」

 

 

古城は口を尖らせるが、紗矢華はいつもの古城であると確信が取れたらしく、はいはいと軽くあしらう。そして、弓の形態であった彼女の武装、『煌華麟』を剣の形態に変更し、目の前の魔女へと対峙する。

 

 

「で、あちらが『アッシュダウンの惨劇』を起こした張本人のメイヤー姉妹って訳?LCOが出てくるとか、聞いてないんだけど」

 

 

「へぇ、私たちの事を知ってるのね。お若いのに感心だわ。それよりも…………ねぇ、オクタヴィア。そっちの王女なんか、惨殺すれば映えそうじゃなくて?」

 

 

「えぇ、お姉様。賛成です」

 

 

姉の方であるエマ・メイヤーが訝しむように、ラ・フォリアの方を確認する。何か因縁でもあるのか、どうやら彼女らの標的は、王女であるラ・フォリアになった様である。護衛である紗矢華が前に出て警戒するが、ラ・フォリアはそれを手で制し、むしろ前へ出る。

 

 

「お、王女!?」

 

 

「構いません、紗矢華。彼女らは私に標的を絞った様です。何故だかは分かり兼ねますが。なぜなんでしょうね?」

 

 

いや、私に聞かれても、と紗矢華は小さくごちる。当の魔女姉妹はラ・フォリアが何も覚えてないらしい事に怒りを余計に覚えたようで、いよいよ攻撃対象はラ・フォリアへと絞られたようである。

 

 

 

「とにかく、これは好都合なことです。私達が相手をする内に、古城達に古城の身体を追わせる事ができますから。――賢生、手筈通りお願いします」

 

 

「分かりました、王女殿下」

 

 

賢生が後方で何やら手を動かしていると、その前には黒々とした球体が発生した。高さにして約2m、横幅はおよそ1mに満たないといった、人1人が通れるほどのゲートである。

 

 

「さぁ、行ってください。古城、集、いのり、雪菜。この場は私と紗矢華に預けてください」

 

 

「あぁ、すまねえ、ラ・フォリア!煌坂も頼む!」

 

 

古城を先頭に彼らはゲートを潜る。それに続く様にして雪菜、いのり、集とゲートを潜る。その際、いのりは結晶化を行ってしまわぬ様に、細心の注意を払ってゲートを潜る。どうやら、無事に通る事が出来た様であった。突発的なものには、無差別で自衛的に結晶化が発動する様だが、本人の意思次第でどうにかなるという事なのだろう。

 

 

彼らが通った直後、賢生がガクリと膝をつき肩で息をする。彼は元は王族お抱えの宮廷魔導技師である。だが、いくら優秀な魔術師と言っても魔術でも最上位に位置する空間魔術の行使には限界があるのだ。とはいえ、元来空間魔術にさほど詳しく無い魔術師である筈の賢生が、その一端であるゲートを開くことに彼の非凡さが窺い知れる。

 

 

「はぁ…はぁ………申し訳ありません、王女。これでしばらくはゲートを再び開くのは、不可能になってしまいました」

 

 

「いいえ、良くやってくれました、賢生。その働き、見事と言わざるを得ないでしょう」

 

 

「……はっ」

 

 

「さて、では――」

 

 

ラ・フォリアがその艶のある銀髪を靡かせ、ゆるりと振り返る。懐からは彼女の祖父の書斎から借り出したという呪式銃が取り出され、アンティークの独特な雰囲気を醸し出している。

 

 

元来この時勢において、それは『銃』としては、時代遅れもいい代物である。フルオートや連射性など、現代兵器の発展に置いてけぼりを喰らったものだ。だが、アルディギア固有の呪式が刻まれているとなれば、破格の『霊媒』もしくは雪菜の七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)や、紗矢華の六式重装降魔弓(デア・フライシュッツ)の様な、秘奥兵器に迫り得る性能を孕んでいる。

 

 

「そちらの若作りの魔女の方々は拘束させていただきましょう」

 

 

ラ・フォリアの言葉に、魔女達の眉根が上がり、目も凶暴なものへと変化する。

 

 

「………今、何と仰ったのかしら?」

 

 

「あら、イヤですわ。私達よりも年を重ねているとはいえ、物忘れするほどの年齢になどなっていない筈ですのに」

 

 

「き、貴様ぁぁ!!」

 

 

姉であるエマ・メイヤーに続き、今度はオクタヴィア・メイヤーが激昂する。

 

 

「確か記憶違いが無ければ、年齢は『アッシュダウンの惨劇』から計上して――」

 

 

「お、王女!?相手をこれ以上刺激するのは辞めていただきませんか!?これから、アレを相手にするんですからね!?」

 

 

「あら、失礼しました、紗矢華。あんなに弄りがいのある大道芸人が久し振りでしたので、つい」

 

 

うふふ、とラ・フォリアは満足気に笑っているが、おそらく護衛という立場上メインで先頭を行うであろう紗矢華からすれば、相手を激昂させて良いことなど、あまり無いのである。

 

 

「………もう、許さなくてよ?」

 

 

「えぇ……姉様、この若いだけの小娘どもを共に地獄へ堕としましょう!」

 

 

あぁ、そこ気にしてたんだ、という言葉を紗矢華は胸の内に仕舞い、思考を塗り替える。

 

 

通常、魔女はその悪魔と契約する性質上年を重ねても、肉体年齢はピーク時のそれを維持できるのだ。しかし、この2人はそれが出来ていない。その事から自らが知る中でも最強の魔女であろう、南宮那月と比較すれば月とスッポンも、良いところだろう。

 

 

だが、那月に及ばないというだけで、この2人の『守護者』は中々に厄介だ。油断する気など毛頭ないが、改めて思考を戦闘のそれに塗り替えて、彼女は一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優麻を追ってゲートを潜った古城達一行は、薄暗い屋内に出ていた。と言っても、屋内はかなり広さがあり、教会の大聖堂というのが彼が最初に持った感想だ。

 

 

人工の灯りは大聖堂から幾つか伸びている廊下の壁に付いた魔術灯のみであり、大聖堂を主に照らしているのは、天窓から入る月光しかない。その月明かりの先、そこにそれは在った。

 

 

どこぞの王国で見る様な、玉座。そこで目を閉じ眠っているのは、古城や集が知る彼女よりも幼く見える少女だ。まるで死んだ様に眠っている彼女の側で、古城の身体を借りた優麻がそれを見下ろしていた。

 

 

「――優麻!!」

 

 

古城の声が聖堂内に木霊する。厳密に言えば優麻本来の声だ。反響していた音が消え、優麻が振り返る。

 

 

「………古城、本当に君はいつも大事なところで現れるよ。いくら現界してるとはいえ、直接この中に繋げられる魔術師なんかそうは居ない。よほど優秀な人が知り合いにいるんだな。交友関係が広い様で嬉しいよ、ボクは」

 

 

古城が疑問に思ったのは、直接ここへ繋げられたというところだった。確かに賢生は優秀だ。しかし、人工島管理公社がいくら探しても 、その所在すら不明だった監獄結界の中に繋げられたというのは、不思議な事ではある。しかし――

 

 

「そんな事はどうだっていい。今は、お前を止める事が優先だ!」

 

 

「止める?母親を救うのって、むしろ普通じゃない?」

 

 

「あぁ、俺だって普通ならそう思うさ。だがな、さっき楪が言ってた事を聞いて疑問に思った。その母親を救うっていうの、『建前』じゃねえのか?」

 

 

古城が指摘したのは、いのりがキーストーンゲートの屋上で、優麻に問うた内容だ。

 

 

『それは、貴女の周りにいた人の望み。貴女を産み出した人達の望み。「優麻自身」の望みは、本当にソレ?』

 

 

という問答だ。その時、優麻は明らかに言葉を詰まらせた。そして何より、未だ那月に何もしていないというのが、古城の思考を刺激した。本当ならばコレは優麻自身の望みでは無いのではないか?関係ない者たちを巻き込む様な幼馴染であったか?

 

 

疑問は確証に変わっていく。『コレ』は優麻の望みではない。こんなものは優麻らしくない、と。

 

 

「なぁ、優麻。お前自身迷ってるんじゃないか?こんな事が正しいのかって。だから、まだ那月ちゃんにだって危害は加えてない。違うか?」

 

 

「………いや、違うかな」

 

 

古城の言葉に優麻は一瞬哀しそうな表情を浮かべたが、それはほんの刹那の時間だった。なぜなら今その目は殺意の篭った目へと変貌したのだから。

 

 

「っ、優麻…!」

 

 

「ボクはね、古城。見届けて欲しかったんだ。ボクが今まで生きてきた証を刻む今この瞬間を!『(ル・ブルー)』!!」

 

 

優麻が声高に守護者を呼び出す。先ほどキーストーンゲート屋上で顕現した顔のない蒼甲冑の騎士。分厚い長剣を携え、それを振りかぶる。狙いは玉座にて眠る、南宮那月。ゴウという風を切る音と共に、彼女を両断せんと剣は振るわれた。

 

 

だがそれは、長剣の前に飛び出した集と雪菜によって止められた。騎士の持つ長剣を、雪霞狼と『すべてを断ち切るハサミ』によって防ぎ切る。いくら人外の力を振るおうとも、この2人もそれなりには場数を踏んでいる。今さらこの程度防ぐのは、当たり前だ。

 

 

「……やっぱり、邪魔してくると思った、よ!」

 

 

優麻はその手から、黄金の稲妻を走らせる。一瞬驚いた集と雪菜であったが、雪菜が雪霞狼の『神格振動波駆動術式』によって魔力の塊である黄金の稲妻を斬り裂き無効化する。それにより、蒼騎士を抑えていた存在が半分になり、騎士がもう一度長剣を振り上げる。

 

 

「ぐっ…!」

 

 

振り下ろされた長剣を、集はいなす事で攻撃を避ける。呻き声を漏らしたのは、予想外に蒼騎士の力が強かったからだろう。既に身体強化を行なっているとはいえ、相手は2mを超える巨体なのだ。そこから人外の力で振り下ろされる一撃は、思いの外強い。

 

 

「やっぱり防ぐか。けど、まだ終わらない!」

 

 

「いのり!」

 

 

「分かってる」

 

 

集が後方待機している、いのりの方へ声を上げる。優麻が操る古城の身体から膨大な魔力が溢れるのを感知したからだ。魔力の無効化自体は雪菜が可能である。だが、それによる物理的な2次被害は、魔力依存ではないため、防ぐことは出来ない。

 

 

例えば、再び放出された稲妻の流れ弾が、天井に直撃し崩れ、落下を開始した岩塊などは消せないのだ。

 

 

いのりは素早く動き、玉座の那月をすれ違い様に抱えると、さらに跳躍する事で岩塊の直撃を避けた。

 

 

「ナイス、楪!那月ちゃんは無事か!?」

 

 

「ん、那月は平気」

 

 

駆け寄った古城が覗き込めば、先ほどと変わらぬ様に那月は目を閉じたままである。そして、そこを守護する様に集と雪菜が、各々の武器を構え警戒に当たる。

 

 

那月が居た玉座は潰されており、それを挟んで騎士を従えた優麻も立っていた。

 

 

「やっぱ、4対1じゃ敵わな――ぐっ」

 

 

優麻が腕を抑えて呻く。先ほど2回、眷獣の魔力を放出した方の腕である。仮装であるコートの腕部分は焼き切れ、ドクドクと血が流れ出ている。一方、優麻の身体の主導権を持つ古城も、同様の箇所を抑えつつ頭に片手を当てていた。

 

 

「……やっぱり、ボクに使われるのは、彼らにとっては業腹ってことか」

 

 

「眷獣の拒絶反応、ですか」

 

 

「拒絶反応?」

 

 

魔術に詳しくない集が疑問の声を漏らす。自らの友が敵と同じ箇所を抑えて苦しんでいるのであれば、興味を持つのは当たり前だろう。

 

 

「はい、本来吸血鬼の眷獣は宿主以外の命令は受け付けませんし、召喚にさえ応じません。しかし、優麻さんはそれを()()()()()()()()。神の呪いの対価に得る、異界からの召喚を可能とする眷獣の力。それを魔力だけとはいえ召喚すれば、何がしかの拒絶反応はあって然るべきです」

 

 

ズキズキと痛む腕と頭を抑えつつ、古城が聞き返す。

 

 

「なぁ、どちらにせよ今の状態は良くねえんだよな?」

 

 

「はい。恐らくあと数回でも眷獣の力を優麻さんが使えば………両者の肉体が滅びます」

 

 

「「「……っ」」」

 

 

「はは……姫柊ちゃんは余計な事を…」

 

 

確かに古城は優麻の神経に流れる異常な痛みを感じていた。細い管に、大量の高圧水流を流され破裂しそうな感覚、そんな苦痛を味わっている。

 

 

「く…ぅ…………もう、やめろ優麻!このままじゃ、お前が死んじまう!」

 

 

「……まったく、そこで『俺たち』じゃなくて、『お前が』って言うのは流石だよ、古城」

 

 

「ふざけるな!そんな事言ってる場合か!?こんなのを自分の娘に強いるのが、親のやる事かよ!?こんな事をお前に強いる母親を救うのかよ!?なぁ、優麻!」

 

 

「さっきも言っただろ!それが、ボクの生み出された目的なんだ!」

 

 

「他人の決めた目的の為に生きてるんじゃねえ!」

 

 

古城が抑えていた腕を壁に叩きつける。神経を走る痛みを少しでも誤魔化すためでもあったが、何よりも彼にとっては優麻の言葉が気に食わないのだろう。

 

 

「そんな事のために、自分の命を使ってんじゃねえよ!目的なんか無くたって、生きてりゃ見付かる事だってあるかもしれないだろ!なのに、こんな所で終わらせようとしてるんじゃねえ!それでも、目的が必要だって言うんなら、俺が見つけてやる!俺がお前の目的を探してやる!」

 

 

古城の叫びにも近い一連の言葉に、優麻はダラリと腕を垂れる。

 

 

説得に成功したのかと、思われたがそうではなかった。再び両腕を上げ、それぞれに魔力が迸り腕に裂傷が走り、鮮血が舞う。

 

 

「が、あ…………ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

優麻の周囲は、雷と高周波による破壊の波が広がっていく。『獅子の黄金(レグルス・アウルム)』と『深緋の双角(アルナスル・ミニウム)』の魔力だろう。監獄結界の床にヒビが入り、空間が軋む様な錯覚さえ起こす。不完全で不安定ながらも、異界に存在する眷獣の魔力の一部を引っ張り出したのだ。

 

 

「ぐ…ぅぅぅ……」

 

 

そして、優麻の身体を操る古城も呻く様にして座り込んでしまう。神経の空間接続を通して、一部がフィードバックしてしまっているのだろう。

 

 

「…ぐ……悪いね、古城。それでもボクは……コレを為さなければならないんだ。……これで……自由になれるんだ!」

 

 

「自…由……?優麻のやつ、一体何を…」

 

 

「動いてはダメです、先輩!」

 

 

優麻は未だ迸る魔力をコントロール出来ていないのか、蒼騎士の甲冑を僅かに傷付けている。何とかそれを古城達のいる方へと放ちたいのだろうが、一部とはいえ第四真祖の眷獣が持つ魔力だ。それすら簡単ではない。

 

 

「……おそらく、母親の救出。それが優麻さんの契約なんです」

 

 

「契約…魔女が悪魔と交わすアレか」

 

 

「はい。おそらく、優麻さんはそれに縛られているんだと思います。だから、先ほど『自由』と………そして、魔女の契約とは、厳密でなくてはならない。それが力の代償ですから。そして契約に違反する様な行動を起こせば待っているのは恐らく…………『死』です」

 

 

「……っ!」

 

 

古城は瞬間理解した。優麻は恐らくコレを命懸けでやり遂げるだろう。だが、このまま戦えば眷獣の魔力のフィードバックで、優麻の身体は保たない。かと言って、今優麻が諦めれば契約の効力により、優麻には死というペナルティが与えられる。

 

 

つまり、どちらに転んでも『死』という結末が待っているのである。

 

 

「じゃあ………じゃあ、どっちにせよ、優麻は死ぬしかねえのかよ!?コレじゃ――」

 

 

「古城!」

 

 

集の怒声が響く。そちらへ顔を向ければ、友である彼は、大丈夫だ、と返してくる。

 

 

「……いのり、手伝って。『僕らで』終わらせよう」

 

 

「ん、分かった。優麻には、まだバンドの本番聞いてもらってないから」

 

 

「はは、そうだね。姫柊さんは、古城――というか仙都木さんの身体の保護を。さすがに魔力の流れ弾までは防げないから」

 

 

「え、あ、あの、桜満先輩!?」

 

 

雪菜の驚く様な声に応える事はせず、集は駆け出す。少し遅れて、いのりが続く。

 

 

「やっぱり……君らが出てくるか!」

 

 

その瞬間、優麻が前へと腕を振り下ろす。眷獣の魔力をようやく放てる様になったのだろう。集は再び第四真祖の魔力に真っ向から、挑む事になった。並んで戦っている内は失念していた、強大な破壊の奔流が集へと襲いかかろうとする。

 

 

それぞれ、黄金の雷、視認不可能な高周波が迫る。それを、集は『あらゆるものを弾く盾』を現して腰を低く構える。供奉院亞里沙のヴォイドは言葉通り、『あらゆるもの』を弾く。それは実体のない雷であろうと、高周波であろうと変わりはない。しかし、その衝撃には耐えねばならない。

 

 

集は足に力を入れて、耐える体勢になる。その次の瞬間、盾を通して巨大な衝撃が襲う。それを盾の形状を斜め上へと放射状に広げる事で、迫っていた魔力を受け流す様にして弾く。後方では集の言葉通り、その流れ弾を雪菜が斬り裂いている。

 

 

一瞬その後方を確認している隙を突いて、斜め前から蒼騎士の長剣が袈裟斬りの要領で迫る。だが、その刃は集へと襲い掛かる前に止まられてしまう。

 

 

「やらせない!」

 

 

手の甲から伸ばした結晶剣で、いのりが騎士の長剣を弾いたのだ。真正面からでは力負けしてしまう可能性もあった事から、いのりは斜めから力を殺すように弾いた。故に蒼騎士の長剣は空振りして、地面を抉るようにして突き刺さる。

 

 

「集、今!」

 

 

「あぁ!」

 

 

「く、まだだ!」

 

 

残るは優麻である。集がさらに加速して、一挙に優麻との距離を縮める。だが、優麻も傷付いた腕を僅かに上げて、小さいが雷球を形成する。それでも、普通の人間が浴びれば、高温と電撃によるショックで死亡するだろう代物だ。

 

 

だが、集は盾を用いて腕ごと雷球を弾く。ゲームなどであるシールドバッシュなどと呼ばれる技だ。

 

 

「――く」

 

 

「もう、これ以上はやらせはしない!」

 

 

集の持つ『すべてを断ち切るハサミ』が、銀の光を放ちながら古城の身体に沈んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイランド・ノース沿岸部に突如として出現したそれは、荘厳な雰囲気を持った小島であった。中心部にはエルサレムを彷彿とさせる聖堂が構え、小島の外縁部を岸壁が覆い隠し、さながらそれは中世における天然の要塞と言うに相応しい佇まいである。

 

 

その小島からは、アイランドノース方面へと桟橋が伸びており、接岸し上陸することも可能なようである。外部からの侵入地点はそこのみだろう。

 

 

そこを見据える人物がいた。潮風に自らの髪を靡かせ、心地良さそうに監獄結界から響く魔力の波動を感知する。通常、監獄結界は隔絶された世界を形成しているのだが、彼は僅かな第四真祖の魔力をどうにかして感じ取ったようだ。こんな事をしているのは、彼が生粋の戦闘狂であるからだろう。永き生に、退屈を持て余す人物――ディミトリエ・ヴァトラーである。

 

 

「ふふ、あの魔女は意外に古城の身体を使いこなせているのカナ。古城のものよりは小さいとはいえ、真祖の眷獣の魔力を引き出すとは大したものだネ。…………ようやく、到着か」

 

 

ヴァトラーの前に現れたのは、月の光と同じ髪色の女性だった。その面持ちはやや険しい。彼女は何かを語るつもりは無いと言わんばかりに、ヴァトラーを一瞥するのみで、監獄結界へと視線を投げる。

 

 

「オヤ?君がそんな風にするのも珍しいネ。そうカ、君はどうやら彼よりもまだまだ『人らしい』という事なんだろう。まァ、気に病むことはないサ。己の目的の為に行動するのが生物の存在意義なのだから。君もそうするといい、僕のように」

 

 

彼女は何も応える事はない。ただ、ポケットから出した端末で何かを操作し、それを再び仕舞い込む。そして、船着き場に接岸してある高速艇へと足を向ける。

 

 

「行くのかイ?まァ、せいぜい頑張ってくれ。君の計画には僕も期待していてネ。この『実験』が終われば、本国のジジイ共も重い腰を上げるだろうサ。そして、闘争の坩堝(るつぼ)へと世界は()()。ハハハ、今から期待で胸が膨らむ!」

 

 

女性は、ヴァトラーの言葉の何かが気に食わなかったのか、不機嫌そうに振り向いてただ一言。そう、ただ一言を置いて行く。

 

 

「失せろ、狂人」

 

 

その言葉に、その貌に、その凶暴さにヴァトラーの食指が反応する。

 

 

「ハハハ!!!!まったく、君が人間であるのが惜しいヨ!………それに、さっきの言葉は今の君にこそ相応しい」

 

 

ヴァトラーのその言葉に、女性は小さく舌打ちするともう振り返ることもせず一直線に高速艇へと向かう。

 

 

「オヤオヤ、揶揄(からか)いすぎたカナ。あぁ、そうだった――」

 

 

ヴァトラーは突如として、眷獣を召喚する。現れたのは巨大な蛇。目を光らせ、倉庫であるコンテナの方を突如として攻撃したのだ。その間に高速艇は出発して、真っ直ぐ監獄結界を目指す。

 

 

「コレは僕からの餞別だヨ。さて、君は誰だい?これから彼女のする計画を妨げられるのは僕としても好ましくない」

 

 

炎が燃え盛る倉庫街に向けて、ヴァトラーは語りかける。だが次の瞬間、炎は消え去った。そしてその次に訪れたのは静寂。炎とは対照的の氷柱が地面から突き出る。

 

 

そして、その中心部にはその場に不釣り合いな少女が立っていた。黒のチュニックに黒のホットパンツ。それぞれ裾部分や、腰の部分には柔らかそうな黒のファーを縫い付けてある。おそらく、毛皮の変わりなのだろう。これに耳でもあれば、黒猫の仮装といったところか。

 

 

そして、その腕の中にはやや大き目の白い筐体を抱いている。どうやら、それは自立して動く様で、少女の腕の中でもがく様にしている。なぜ彼女がそれを所持しているのかは不明だが、そんな木偶の方にヴァトラーは興味なさげなようである。

 

 

「随分と可笑しな組み合わせで……ん?この気配――ぐ!?」

 

 

ヴァトラーが気配を探っていると、次撃が急襲した。単純な極寒の暴風と魔力の波動。だがそれだけであっても、ヴァトラーを吹き飛ばしかねない一撃だ。それをヴァトラーは咄嗟に横に避け、直撃は免れた。

 

 

「……まさか、この僕が一撃貰うとはネ。こんなのが出来る存在は普通居ない筈なんだけどネ」

 

 

ヴァトラーは狂暴な貌を浮かべる。横に避け、直撃はしなかったとはいえ、腕は見事に凍結の憂き目に合っていた。真祖に最も近いと言われる男にダメージを与えるなど、それこそ真祖に匹敵する力でなければ敵わない。そう、『真祖に匹敵』しなければ……

 

 

「は、久しいな、蛇遣い」

 

 

「12番目ェ……」

 

 

月明かりの下、彼らは『再び』出遭ったのである。

 

 

 

 




補足:メイヤー姉妹がラ・フォリアを目の敵にしてんのは、えーと・・・・・・そう、ラ・フォリアが彼女らを指名手配にしたからとか、そんなんです。まぁ、あとはやっかみとか?


さてさて、後半でこれから起こる事が大体予測できる方も多いのでは?と思います。


一体どうなるのかは、乞うご期待!!ではでは!

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