Blood&Guilty   作:メラニン

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今回は連投です。さてさて、この先どうなるか・・・


あと、今回一万字を超えてます。読むの大変かもしれません。ごめんなさい・・・


では、どうぞ!


蒼き魔女の迷宮編III

10月29日12:30。アイランド・ウェストの音楽スタジオの一室では、数名の少年少女がそれぞれの担当する楽器を弾き、ヴォーカルである彼女の歌に合わせて先ほど来島した少女と、銀の美しい髪を持つ少女、首からヘッドフォンを提げた茶髪の少年相手に、楽曲を披露していた。

 

 

一行はカフェでの軽食を済ませた後、優麻に軽く島内を案内した後である。その足で現在いるスタジオまで足を運んだのだ。

 

 

取り敢えず一月で何とか発表まで持っていけたのは、2曲のみである。たったの2曲ではあるが、それでも感動を与えるというのに、数は関係ないようである。それを披露し終えて、現在に至る。数瞬、スタジオ内の個室が静まり返るが、観客である3人からパチパチとけたたましい拍手が贈られる。

 

 

「お、おぉぉーーー!なんか、予想してたのと全然違ったぜ!バンドってもっとこう……ガチャガチャ騒がしい感じがするもんだと思ってたんだが、そうでもないんだな!」

 

 

基樹はどうやら、普段のナリからは予想外にもバンドの生ライブを聴くのが初だったらしく、若干興奮気味に賛辞を贈る。

 

 

「はい、いのりさんも、すごく綺麗でした。雪菜ちゃんと、凪沙ちゃんもカッコよくて、見ていてワクワクしました」

 

 

「うんうん!叶瀬ちゃんの言う通りだね!古城もガラになく様になってたし」

 

 

夏音の感想に同意する優麻であるが、後者の方の感想に古城はガックリ肩を落とす。人の言葉とは強いものである。

 

 

「はぁ……悪かったな、ガラにもなくで」

 

 

「あぁ、ゴメンゴメン、古城。傷つけちゃった?」

 

 

「………意地の悪い幼馴染だな」

 

 

「へへへ〜」

 

 

「優麻、どう?感想は?」

 

 

いのりが優麻に乗り出すように訊いてくる。先ほどのカフェでの様子とはまた違って意欲的であり、優麻はその変貌ぶりに一瞬狼狽えるように後方へ仰け反るが、姿勢を正して真っ直ぐに向き合う。

 

 

「うおっほん…………えっと、ボク音楽って詳しくないから、細かい感想は言えないんだけど、よかったと思う。ゴメンね、こんないい加減な感想で。と、とにかく、音楽をよく知らなボクでさえも、『良かった』って思える曲だと思う!」

 

 

優麻はイマイチ感想が言い足りないのか、苦虫を噛み潰したような気運に陥るが、音楽初心者である彼女の率直な感想は、むしろ演奏をしていた集達の励みになった。もし、ここに音楽を生業にしている人間が居たのならば、素人の人数が圧倒的に多い彼らに細かい指摘を入れたに違いない。この中でしっかりと音楽の基礎知識の下地があるのは、いのりと浅葱だけなのだから。

 

 

「………」

 

 

「はは、いのり自身はまだ納得がいってないって顔してる」

 

 

優麻の感想は素直に嬉しいのかもしれないが、それでも感想を言われた本人は顎に手をやり、少し考え込む。その様子を察した集は笑みを零すが、周囲のバンドメンバーはハラハラしていた。と言うのも、これで納得されなければ、いのりが納得がいくまで練習と言い出しかねないからだ。

 

 

「………ん、及第点」

 

 

その言葉に全員がホッと胸をなで下ろす。どうやら今日は、いのりの終わりなきシゴキは無いようである。と、そこで浅葱、基樹、両名の携帯が着信を報せ、2人は個室を後にする。

 

 

「ふぃ〜〜………けど、さすがは生演奏だね。まだ耳がおかしな感じがする」

 

 

「あ、私も、でした……」

 

 

「お、叶瀬ちゃんも?けど、なんか叶瀬ちゃんは納得。普段物静かな所に居そうな感じがするし」

 

 

「そ、そうかもしれません」

 

 

「あぁ、そっか。大丈夫か、叶瀬?」

 

 

「は、はい、お兄さん。大丈夫、でした」

 

 

夏音の様子を見て、優麻はニンマリ笑う。徐ろに横にいた夏音に抱きついて、揉みくちゃにしてしまう。

 

 

「わふ……ゆ、優麻、さん?」

 

 

「あぁーー、可愛いなぁ〜〜!ボクもこんな妹が欲しかったかも!」

 

 

「おい、優麻。放してやれよ、叶瀬も困ってるだろ?」

 

 

「えぇーー」

 

 

「わ、私は大丈夫、でした」

 

 

「ん、そうか?けど、イヤならイヤって言っていいからな、叶瀬?そいつ、遠慮が無えからな」

 

 

「ひっどいなぁ、それは古城相手にくらいでしょ?」

 

 

「………お前な」

 

 

古城は頭を抱える仕草を取って、息を吐く。その様子が可笑しいらしく、優麻はケラケラと笑う。やはり、互いの幼い頃を知っている者同士、気を許せる部分が多いのだろう。せめてもの救いはここに浅葱が居ないことだろう。残された雪菜には地味にダメージがいっている可能性があるのだが……

 

 

「そう言えば、ライブするのっていつ?」

 

 

「えっと、最終日の夜だね。だから明後日の夜ってとこかな」

 

 

「………大トリじゃん」

 

 

「い、いや、厳密に言えば、最後から幾つか離れてるんだけど……」

 

 

波朧院フェスタは企業向けのものの期間も入れれば、1週間ほどに渡る。つまり、この期間も一応は波朧院フェスタ真っ最中という事になるのだが、一般向けとなると、様々な事情から最後の2日間という事になっている。音楽祭である、『オーシャンミュージック』もその2日間にプログラムが組まれている。

 

 

また、会場も分かれており、その人口密度の関係上、A〜E会場まで分かれているのだ。その中で彼らのライブはキーストーンゲートに一番近いA会場である。つまり、観客数が一番多いのだ。その旨を集は優麻に説明した。

 

 

「へぇー、じゃあ大舞台じゃん!この際だから鮮烈デビューしちゃえば?」

 

 

「なに無責任な事言ってんだ、お前は」

 

 

「いやいや、意外とイケるんじゃない?あ、まぁ正直なところ、いのりちゃんだけなら」

 

 

率直な優麻の意見は、ある意味当たり前なのかもしれない。いのりは元いた世界ではWebアーティストという形で金を稼ぐ――所謂プロであった。だからこそ、覚悟のあり方の違いが歌にも出ているのかもしれない。もっとも、当の本人は無自覚なようであるのだが。

 

 

「ん、多分、このメンバーは波朧院フェスタだけだと思う」

 

 

「え、あ、ご、ゴメンね、いのりちゃん!そういうつもりで言ったんじゃなくて……」

 

 

優麻の頭を古城が軽くポカと叩く。さすがの優麻も自らの失言だと思っているらしく、抗議の声を上げる事はなかった。が、いのりはその様子に首を傾げるだけである。

 

 

「……?別に、優麻の言葉は気にしてない。ただ、集は演奏するより、編集する方が楽しそうにしてるから」

 

 

「あー、はっはっは…………バレてた?」

 

 

「ん」

 

 

いのりはコクリと頷く。元々集は、自分がやるよりも他人がした事をまとめる事などの方が得意なのだ。故に、彼の自室にはゴツい一眼レフカメラや、ビデオカメラ、編集用として改造されたPCや、コンポなどなど、完璧に趣味が部屋を支配していたのだ。それで、バレないと思っていた方が大概可笑しいという話である。

 

 

「あ、そう言えば、私も集さんの撮った写真見たことある!クラスの男子がこぞって欲しがってたんだよね?私は夏音ちゃん、本人からもらったけど」

 

 

「え、何々!?見せて見せて!」

 

 

優麻はその話に食い付いて、凪沙の差し出した画像に見入る。そこに映っていたのは、夏音が仔猫の里親になってくれないかと探していた時に撮って、ポスターにもなった一枚だ。中心に夏音、その両隣に雪菜、いのりが仔猫を一匹ずつ抱えており、端っこに古城がダンボールの中から出ようとする仔猫と格闘している。そして、その反対側にはカメラマンである集が慌てた様子で入っている一枚である。

 

 

中等部だけでなく、高等部でも話題になった一枚だ。結局、ポスターはキッチリ回収し、写真の元データや、現像したものも本人たちと、そこに居る人物たちと(ゆかり)のある者にのみしか行き渡っていない、秘蔵の一枚である。

 

 

「へぇ…!結構いい画が撮れてる……」

 

 

「あ、ユウちゃんもそう思うよね?こんな風に撮ってくれるんなら、私も行ければ良かったんだけど、この日部活で行けなかったんだよねー」

 

 

さも残念そうに凪沙は肩を竦めて見せる。そこで個室の扉が開き、不機嫌そうにした浅葱と焦った様子の基樹が入ってきた。基樹はスクールバックを急いで背負うと、振り返り一言だけ言を発する。

 

 

「すまん!急用ができた!集、あとはヨロシク!」

 

 

「え、基――って、行っちゃった……」

 

 

基樹はドタドタと即刻個室を後にしてしまった。一方の浅葱はのんびりと荷物を纏めているのだが、どこか機嫌が悪そうである。

 

 

「なんだ、浅葱も帰んのか?」

 

 

「………えぇ、そうよ。管理島公社からの呼び出しよ。まったく、いくら人員が足りないからって、バイトまで呼び付けんじゃ無いわよ……」

 

 

ぶつくさ言いつつも、荷物を纏めて浅葱は立ち上がる。

 

 

「じゃ、私もそういうわけで行かなきゃいけないから。あ、そうだ。仙都木さん、今日はゴメンね。本当はもっと話とかしたいんだけど、無理っぽい」

 

 

浅葱は片手を立てて謝罪する。だが、優麻は機嫌を損ねるような事はなく、先ほどと同じ調子で返す。

 

 

「ううん、全然いいよ。それよりも、バイト頑張ってね。そうだ、古城送ってあげれば?」

 

 

「ふぁっ!?」

 

 

「は?俺がか?」

 

 

浅葱は本当は、「は?」と言いたかったのだが、あまりに予想外のことだったので、上ずったような間の抜けた声を上げてしまう。一方の古城はいつも通りなのだが。

 

 

「だって、今波朧院フェスタ期間中で、街の中ごった返してるでしょ?そんな中女の子1人っていうのは、危ないと思うんだけどなぁ?」

 

 

「ふーむ………それもそうか。じゃあ――」

 

 

「い、いいから!!」

 

 

浅葱は顔を赤くしてその提案を拒絶した。思いの外、強い声のトーンで拒絶してしまい、後になって後悔するのだが、今はそれどころではない。

 

 

「は?いや、だって実際危ねえ――」

 

 

「い、いいんだってば!あ、あんたの方こそ、仙都木さんと久々に話すこととかあるんじゃないの!?と、とにかく、私のことは大丈夫だから!あんたよりも、この島は長いんだし!!」

 

 

「お、おう。そ、そうか」

 

 

「じゃ、じゃあね!!」

 

 

浅葱はこれまた基樹と同じように急いで個室を飛び出していった。取り残された方は、台風でも過ぎ去った後のような静寂が訪れる。が、その静寂が長く続くような事はなかった。ものの10秒もすると、個室の扉が開いたのだ。浅葱か基樹が忘れ物でもしたのかと、全員が疑ったがそこに居たのは彼らとはまったくの別人であった。

 

 

「要護衛対象である叶瀬夏音の存在を目視にて確認。同伴する者に、暁古城、桜満集、姫柊雪菜、楪いのり、暁凪沙、もう一名のアンノウンを確認」

 

 

「アスタルテ!?」

 

 

入ってきたのは、外では目立ってしょうがない出で立ちのアスタルテであった。相変わらず人形のように左右対称に整った顔立ちに、メイド服という、どこかアンティーク人形のようにも見えなくない彼女の登場である。と言っても、今の格好も波朧院フェスタの恩恵で、さほど違和感なく出歩けているかもしれないが。

 

 

「あれ、アスタルテさん?こんな所でどうしたの?」

 

 

驚いている古城とは裏腹に、凪沙はアスタルテに歩み寄る。それに倣うようにして、優麻も興味津々といった様子でアスタルテを上から下まで品定めでもするように一通り見て回る。

 

 

「へぇー、流石は魔族特区だね。まさか人造人間(ホムンクルス)が音楽スタジオなんかに来るなんて。って言うか、メイド服?魔族特区の人造人間(ホムンクルス)はメイド服を着る週間でもあるの?それとも、波朧院フェスタ仕様?」

 

 

「………いいや、メイド服はそいつの後見人の趣味なんだが。いや、それよりも何でここに?」

 

 

「本日、午前9時を持って、教官との定時連絡が消失(ロスト)しました。こういった場合、叶瀬夏音を第一優先順位に持ってくるよう指示を受けています」

 

 

「それって、那月ちゃんが行方不明ってことか?」

 

 

「不明。定時連絡が消失したのみで、この先の断定には情報が不足。情報不足の中での決定は危険と判断。よって、護衛任務へと移行(シフト)します」

 

 

なるほど、と古城は頷く。だが、あのミニマム教師が何処かに姿を消すなど、しょっちゅうの事なのだ。だからこそ、心配せずとも問題ないだろうと軽い気持ちで受け止めておく。

 

 

「って事は、叶瀬は連れて帰るのか?」

 

 

否定(ネガティヴ)。教官の所在が不明なまま、叶瀬夏音の保護を教官の住居で行うのは危機管理上、非推奨」

 

 

古城は、そっかと納得する。と言うのも、那月の住居は普通に様々な人間に知られており、当然逆恨みしたテロリストやら犯罪者が押しかけに行くという事があるそうなのだが、それらの攻撃は那月の魔術で悉く未遂で終わるのだ。犯行を起こす前に、問答無用で遥か彼方へ転移させられてしまうからである。

 

 

だが、その防御は那月が居てこそである。那月が不在の現在はその防御が発動しないことを示唆している。

 

 

「え、なになに?叶瀬ちゃんって、もしかしてVIP?」

 

 

あーー、と周囲は乾いた声を漏らす。古城が後で教えると耳打ちをし、雪菜がアスタルテからの話を引き継ぐ。

 

 

「では、私の部屋に来ませんか?立地的にも南宮先生からの住居は離れていますし、今の混雑している時間を狙って移動すれば問題ないと思いますが」

 

 

アスタルテは少し考えると、再び顔を上げて、その大きな瞳を相手へと向ける。

 

 

提案受諾(アクセプト)。では、姫柊雪菜。お願いします」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

「じゃあ、今日はもう上がった方がいいかな?明るい内に移動しよう」

 

 

集の言葉に異を唱える者はおらず、一行はアイランド・サウスの我が家へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マンションに到着するなり、彼らは宅配業者の男性と出くわす事となった。取り分け大きな荷を運搬んしており危機管理上、集、雪菜が警戒していたが、それは杞憂に終わる。彼は普通の宅配業者であり、門戸を開けて荷物を自室へと搬入する運びとなった。宅配の荷物とは、いのり宛であり差出人はアルディギア王国王家からであった。

 

 

この荷物を持っていた宅配業者の顔を是非とも、読者諸兄には想像していただきたい運びではあるが、その仔細は想像に難くないだろう。

 

 

さて、荷物の中身を暁家にて開封すると、中身は衣類をはじめとした服飾品であった。それも1人分ではない。荷物が大きかった原因はそこにあるのだろう。

 

 

「わ、わ!!スッゴイ、ドレス!!え、えぇ!?これ私の!?」

 

 

凪沙は自らの体型にピッタリと当てはまるオレンジとコバルトブルーで彩られたドレスを両手に跳ねる。

 

 

「あ、私の分もあります。こちらは………浅葱先輩のものでしょうか?」

 

 

一方の雪菜の方は白を基調に、コバルトブルーが細く描かれているドレスである。もう片方の手に持つのは、明らかに自らよりも背丈のある者のそれであり、浅葱のものだろうと当たりを付ける。薄いパープルに、ターコイズブルーがアクセントで入っており、裾部分には黒のレースが目立たない様に細心の注意を払った様にあしらわれている。

 

 

「…………女子連中は全員がドレスなのに対して、俺のは真っ黒なコートってどういうこった?しかも、なんか物騒なものまで付いてるんだが」

 

 

古城の方は昔の創作物の中で登場しそうな襟がピンと立ったコートに、そして掌の上には先端が規則的に尖り、中でも一番外側の二本が異様に伸びた白い物体が鎮座していた。

 

 

「………多分、吸血鬼の仮装用のものですね」

 

 

「………勘弁してくれ」

 

 

古城は自らの境遇と合わせて、重い溜息を吐く。しかも赤いカラーコンタクトまで入っているところを見ると、これは数え役満だとでも言える。作為を感じてならない何かがその仮装セット一式には宿っていた。

 

 

「古城のなんかはまだマシだよ。………僕のコレはさすがに……」

 

 

「「「「「う、うーーん………」」」」」

 

 

集が手に持っていたのは、生地が硬めに作られた黒のジーンズジャケットに、下は濃紺のジーンズであり全てにダメージ加工が施されている。パッと見ると最早ボロに見えなくもなく、恐らく中に着るであろうTシャツには乱暴に赤い色素が付着させられている。恐らく血のつもりなのだろう。それも、アルディギアの服飾技術の粋を用いて作られたと思しき一品であり、本物と間違えても可笑しくない出来である。

 

 

そして、極めつけは――

 

 

「しかも…………コレ被らなきゃいけないの?なんか、本物っぽくて嫌なんだけど……」

 

 

集がその手に持っているのは狼の頭――に見える被り物である。しかし、本物と見間違えるくらいリアルである。雪菜がそっと匂いを確認すると、少し顔を顰めた。

 

 

「あの、多分コレは本物『っぽい』のではなくて、『本物』……だと思います」

 

 

「………っ!!?」

 

 

「確かに加工はされてますけど、使っている狼の毛皮は本物でしょうし…………頭骨もなるべく残しているみたいです」

 

 

「通りで中から獣臭が漂ってくるはずだよ!」

 

 

「いえ、しかしこれは完成度が一番高いと思いますよ。多分、南宮先生に依頼すれば、被るだけでウェアウルフになれる呪式がすぐに刻みこめるくらいに」

 

 

「呪われた道具ってこと!?」

 

 

「大丈夫です、きっと。呪われているからといって、外せなくなる類のものではないです………多分」

 

 

取り敢えず、被るのは無しという方向になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はは………なるほどねー。叶瀬ちゃんがアルディギア王家の血筋だったと……で」

 

 

アルディギア王家からの贈り物の内容物を一通り確認した彼らは一旦落ち着いていた。そこで、優麻への事情説明を当たり障りのない範囲で言い聞かせ終わったところである。

 

 

「あ、でも私はアルディギアには行ったこともないですし、王位継承権はありません、でした」

 

 

「まぁ、そういうわけで叶瀬には護衛とかが必要なんだが、それを那月ちゃんが後見人になって引き受けてくれてるってこった」

 

 

「那月ちゃんって、古城の担任の先生でしょう?いいの、そんな風に呼んで?」

 

 

「古城がそう言う度に、毎回何がしかの体罰を食らってるよ」

 

 

「学習しないなぁ、古城は。確か、小学校の修学旅行の時も――」

 

 

「おおぉーーーい!!!何を言おうとしてんだ!?」

 

 

「えぇ?何ってそりゃ、古城が聞くも苦痛な苦〜〜い恥ずかしい体験談を――」

 

 

「や・め・ろ!」

 

 

古城が切迫した表情で優麻に迫るあたり、よほど恥ずかしい出来事があったのだろう。優麻本人は小悪魔のように小さく笑うと、狼狽える古城が見れた、と満足げに閉口したことで、古城の尊厳は維持された。そして、今度の矛先は集といのりに向いた様であり、古城はホッと胸をなで下ろす。

 

 

そこで古城の携帯に着信を報せる音が響く。画面を見ると煌坂紗矢華の電子文字が表示されており、古城は訝しむように眉根を動かすと、席を立って廊下に出た後、携帯を耳に当てる。

 

 

「なんだよ、煌坂?」

 

 

『うふふ、残念でした、古城。ハズレです』

 

 

鈴の音の様なツヤのある声で、古城は相手が紗矢華でないことに気が付く。だが、正直なところ古城にとって彼女は苦手とする部類の人間であり、内心億劫そうにしてしまうが、それでも悟られまいといつも通りの声音で返す。

 

 

「その声、ラ・フォリアか?」

 

 

『えぇ、そうですよ。紗矢華の携帯を少々拝借させていただきました。そう言えば、本国に用意させた衣装一式が今日にでも届くはずですが、気に入っていただきましたか?』

 

 

「………女子連中はキッチリした正装なのに、俺と桜満だけなんで仮装なのかって、さっきまで騒いでたぜ」

 

 

『まぁ!気に入りませんでしたか?しかし、古城も集ももう少し、お渡しした衣装の種族の様に積極的になられた方がいいと思いましたので』

 

 

「俺の方はシャレになんねえけどな」

 

 

『ふふふ、そうかもしれませんね。ところで、古城。夏音は元気ですか?』

 

 

「ん?あぁ、問題ないぜ?今日は姫柊のとこに泊まるって話だし、安全も確保できてるだろ?」

 

 

『雪菜の………?那月はいらっしゃらないのですか?』

 

 

「あぁ、それがなんか今日の朝辺りから連絡が付かなくなったみたいなんだよ。いつも一緒にいる人造人間(ホムンクルス)の子も行方までは分かんねえらしくてな」

 

 

通話口の向こうでラ・フォリアは何かを考え込んでいるのか、しばらく話が途絶えることで古城は心配するが、そのことを言う前に、ラ・フォリアは答えを出したらしく、先ほどと同じ調子で話し始める。

 

 

『………そうですか。時に、古城?波朧院フェスタ中の予定はありますか?』

 

 

「ん?まぁ、最終日のライブ以外あまり考えてないな」

 

 

『では、どこかで会う事もあるかもしれませんね♪』

 

 

「は!?ラ・フォリアは今日にでもアルディギアに帰――」

 

 

『えぇ、その予定だったのですが、この期間中の帰国は難しくなってしまいまして。今はなぜか絃神島の外れの方にいますよ?』

 

 

「は?ま、待った。何でそんなとこに――」

 

 

『あぁ、こちらは心配しないでください。退屈しのぎにはちょうど良さそうですし。それと、皆さん衣装はしっかり着てくださいね?何と言っても今回のスポンサーは私なのですから♪』

 

 

「ちょ、待っ――!………切れやがった」

 

 

一方的に通話を終了され、古城は苦い顔をする。

 

 

「………何でこの島の外れなんかに居るんだ?」

 

 

古城はただ疑問符を浮かべることしかできずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絃神島アイランド・イースト地区第三十三号人工増設島(サブフロート)において、場違いな格好をした2名が佇んでいた。時刻は14:12であり、2人いる内の銀髪の少女が丁度携帯の通話を切って、それを持ち主である、黒髪をポニーテールで一まとめにした少女に返却していた。

 

 

「ありがとうございました、紗矢華。私だけが喋ってしまいましたね、ごめんなさい」

 

 

「いえ、王女殿下。問題ありません」

 

 

生真面目な応対に、ラ・フォリアは少し詰まらなさそうな表情をすると、ふと思い出した様に手を合わせてニコリと笑みを浮かべる。

 

 

「そう言えば、紗矢華の携帯から古城へ連絡をするのは大変に簡単でしたね。私は機械には少々疎いので、今度教えてくださいますか?『お気に入り』の登録の仕方♪」

 

 

「んな!?」

 

 

先程までとは打って変わって、紗矢華は一気に顔を赤くして明らさまに狼狽える。人間、自分の予想だにしない事態には弱いものである。特に今は職務中であり、紗矢華は完璧に仕事モードである。にも関わらず、かなりプライベートに立ち入った内容の話を振られてしまえば、こうなるのは必然と言えるだろう。

 

 

「ち、違うんです、王女!あ、あのお気に入りというのは――」

 

 

「あら、違うのですか?私の認識では、『特に仲のいい者』を登録する機能となっているのですが」

 

 

「そ、そう……ですね」

 

 

「ですから、他にも雪菜を登録していたのでは?」

 

 

「ほ、他のも見たんですか!?」

 

 

「えぇ、見せていただきましたよ?いえ、厳密に言えばたった2件しか入っていなかったので、否応なく目に飛び込んできたといいますか」

 

 

「い、いやーー!!」

 

 

紗矢華は羞恥のあまりその場で蹲って顔を覆う。耳まで真っ赤になり、紗矢華はかつてない程の羞恥心を味わっていた。

 

 

「同性で登録されていたのが雪菜なのは分かります。貴女にとっては妹の様なものと聞いたことがありますから。しかし、そうなってくると異性で登録されているのが古城という事は……あぁ、なるほど!つまり、紗矢華にとって古城は――」

 

 

「お、王女!ほ、本当にやめて下さいーー!」

 

 

紗矢華は目に涙を溜めて、必死に懇願する。傍目から見ても中々に情け容赦ない口撃であり、ここに話題に上がっている少年がいれば、止めるところだろう。

 

 

「ふふふ、そうですね。少し戯れが過ぎました。許してくださいね、紗矢華」

 

 

「い、いえ、私も取り乱してしまい……………うぅ」

 

 

憐れ、煌坂紗矢華。アルディギア王国第一王女の護衛任務を引き受けたのが、運の尽きである。ラ・フォリアからすれば、友人でもあるが格好の弄りがいのあるオモチャという事でもあるのだろう。現にラ・フォリアは紗矢華をいじり倒している間、物凄く生き生きとした表情を浮かべているではないか。彼女の本性を知っている一部の人間から『腹黒王女』などと揶揄されるのも頷ける話である。

 

 

「それにしても、コレは困りましたね」

 

 

ラ・フォリアは周囲に転がる古代の魔導遺産であったものを、溜息交じりに指でなぞる。既に機能は停止しており、石化、あるいは薄紫の結晶が突出している。全て機能を停止しており、動く気配がない。人工島管理公社も扱いに困っている一品である。

 

 

ここは9月に、いのりの事を救い出した場所でもある。その残骸として古代兵器であったナラクヴェーラが無造作に転がっているのだ。

 

 

先程つい10分前くらいには、彼女らは空港にいたはずである。それが急にこんな辺鄙な場所へと移動していたのだ。それも一瞬で。似た様な魔術を2人は知っているがそれを行使する、かの魔女の所在は不明だという。ラ・フォリアは顎に手を当て、しばらく逡巡すると口を開く。

 

 

「………那月が行方を(くら)ませるというのは、少し解せませんね。お付きの人造人間(ホムンクルス)のアスタルテ…でしたか。彼女も行方を知らない様ですし。それと………紗矢華、少し事態は急を要するかもしれません」

 

 

「………と言うと?」

 

 

「杞憂で終われば良いのですが………紗矢華は知っていますか?アメリカ連合国(CSA)がマークしていた筈のココ・へクマティアルの行方がここ一月ほど分からないそうですよ?気になる報告の中に、彼女はここ最近何か大きな買い物をした様ですし」

 

 

「…………獅子王機関本部に確認を取ってみます」

 

 

「あぁ、それなら連絡ついでに人工島管理公社にも連絡を取っていただけますか?そうですね………こういった話が分かりそうな人物に。あとそれと、()()1()()連絡を取ってもらっていいですか?」

 

 

「はい、分かりました。すぐにでも」

 

 

紗矢華は早速携帯を引っ張り出して片っ端から連絡を掛けていく。一方のラ・フォリアは島の中心部を見据えてポツリと漏らす。

 

 

「………さて、私の方もカードを切らせていただきますよ」

 

 

 

 




さてさて、ラ・フォリアも紗矢華も動き出しました。まぁ、所々カットしてますが・・・


では、取り敢えず今日はここまでで。次回は・・・・・・10月中に何とか出来る様に頑張ります。


ではでは、皆様!また次回!

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