Blood&Guilty   作:メラニン

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お待たせしました!


ようやっと続きを投稿できる!長かった!すみません!


で、やっぱり、この章長い!なので、一話あたりの分量が結構な感じになります!読みにくかったらスイマセン!


では、どうぞ!


蒼き魔女の迷宮編II

 

 

アイランド・サウスのマンション704号室。4番目の真祖たる暁古城の自宅に置いて、彼のヒエラルキーは然程(さほど)高くない。現に今も、隣室に住む後輩――姫柊雪菜の方が優先されているに近しい状況である。

 

 

「あ、古城君。サラダ盛るお皿出して。白い大きいやつ」

 

 

「あいよ」

 

 

「先輩、今どうしても手が離せないので、テーブルの上を拭いていただいてもいいですか?」

 

 

「あぁ」

 

 

キッチンは女子中学生2名に占拠され、そこから飛んでくる指示に対して、従順に働く様はどこぞの国の召使いのようなものに――見えなくもない。

 

 

当の本人達は、キッチンでキャッキャッ言いながら楽しく夕飯の支度を進めている。もし手伝わなければ、これから彼の生活がどうなるか分かったものではないので逆らえないという訳だ。

 

 

「あれ、古城君も食べるの?ファミレスであんなに食べてたのに」

 

 

「軽く摘むだけな。ガッツリとは食わない。って言うか食えない」

 

 

そして食卓を3人で囲んで食事を取り始めた。メニューはサッパリと食べられる冷やし素麺(そうめん)である。ネギや生姜、刻み海苔、刻んだ梅干し、甘辛く味付けをしたそぼろ肉など、好みの薬味を入れて麺つゆでツルツルと口に運ぶ。

 

 

「って、古城君も結構食べちゃってるじゃん」

 

 

「い、いや、なんか凪沙や姫柊が食ってたのを見てたら、意外といけたというか……」

 

 

「ふーん…」

 

 

凪沙は興味無さげにズズズと麺を啜る。最近、自らの扱いが雑になってきたなぁ、と心の中で涙しつつ古城も素麺を麺つゆへと、投下しそのまま口へと運ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暁家の食事が終了し、凪沙はテレビを点けて、少しソワソワした様子で画面を見ていた。隣に居るのは雪菜だけであり、古城は無理矢理に近い形で風呂に押し込められていた。そして、いつまで経っても落ち着かない凪沙に雪菜が切り出した。

 

 

 

「………あの、凪沙ちゃん?何か話したいことがあるのでは?」

 

 

「ひぅっ………え、べ、別にそんな事ないよー?あ、ほ、ほら、雪菜ちゃん、お茶お茶!」

 

 

「………いただきます」

 

 

急須に淹れられた緑茶を、来客用の湯呑みに注いでいく。

 

 

「それで、桜満先輩と、いのりさんについてですが――」

 

 

雪菜がそう口走った途端に、凪沙は明らかに動揺して、急須を持ったままだった故に熱せられた緑茶を零しかける。それを予期していた雪菜が、台拭きを持った手で急須を支え、中身をぶち撒けるという状態にはならずに済んだ。

 

 

「あ、な…え………」

 

 

凪沙は口をパクパクと動かし、言葉が出て来ないようである。それを見た雪菜は一回溜息を吐くと、凪沙に急須を置くように促して、凪沙もそれに従う。

 

 

「私をここに留めたのは、それが理由だと思うんだけど違う、凪沙ちゃん?」

 

 

「………う、うん」

 

 

凪沙は目を伏せ、拳をギュッと握る。本来ならば雪菜に聞くのはお門違いもいい所だと自覚しているのだ。それでも、彼女は聞くのを止められず、続きを口にする。

 

 

「あの、さ…………雪菜ちゃんは、集さんといのりさんの秘密知ってるかなー、って…」

 

 

「秘密、ですか。………仮に二人に秘密があったとして、何でそう思うの?」

 

 

「うーん、勘?」

 

 

勘、ですか……と、雪菜は額に手をやる。雪菜もまさか勘でこんな事を聞かれるとは思っていなかったのだろう。だが、勘であっても、雪菜が2人の秘密を知っていると当てた辺り、凪沙の勘は鋭いのかもしれない。

 

 

「あ、でもね!集さんの秘密については、少し分かるかもしれないんだ。光ちゃん居るでしょ?今度バックコーラスやってくれる」

 

 

「うん、何度か合わせての練習で会ってるから」

 

 

「それでね、ファミレスで初めて顔を見て以降、何だか見覚えがある気がするなぁ、って思ったらしくてね?そしたら、この写真に写ってる人に似てるんじゃないかって、送ってくれたの」

 

 

凪沙がそう言って、自らの携帯端末に入っている画像を見せてくる。雪菜はそれを見て、内心ギョッとした。そこに写っていたのは、どこぞのビルの屋上で戦闘をするヴァトラーと集の姿であった。幸いな事に、画面の奥の方で対峙しているのが集であり、遠近法の関係で全体的にボヤけているのだが、それでもかなり注意深く見れば判別は辛うじて可能であった。

 

 

恐らくナラクヴェーラの一件で、ヴァトラーに足止めを喰らった時の映像だろう。そして、その時の様子をたまたま撮影していた誰かが居て、それがネット上に残ってしまった、といったところだろうか。

 

 

「………この写真は?」

 

 

「えっと、9月に人工増設島(サブフロート)がテロリストに乗っ取られたって事件あったでしょ?まだ立ち入り禁止になってるとこ」

 

 

雪菜はジワリと嫌な汗が浮かぶ。雪菜はその事件の当事者なのだ。知っていて当然だが、それは知られてはならない。何故ならば、どこか1つでもバレてしまえば、そこからイモヅル式にあらゆる事が露呈する可能性があるからである。

 

 

「まぁ、コレは人工増設島(サブフロート)での出来事ではないらしいんだけど。その時に別の場所でも魔族同士?の戦闘があったんだって」

 

 

「………つまり、そこに写っているのが桜満先輩かもって事を言いたいの?」

 

 

「んと……うん。だけど、さ…………集さんも、いのりさんも多分本当の事言わないと思うんだ」

 

 

「それは………本人に確認してみれば――」

 

 

雪菜は言いかけてハッと口を紡ぐ。そう、気になるのならば本人に聞けばいい。だが、それならば何故今現在、雪菜に相談を持ちかけているのか?それは凪沙自身が抱える、とある問題が原因なのだと察したのだ。彼女が抱えている気持ちという原因に。

 

 

「…………今の関係を壊すんじゃないかって、心配してるって事?」

 

 

雪菜のその問いに、凪沙はゆっくりと首肯する。

 

 

「………私が集さんに少しだけど協力して、いのりさん探ししてたのは知ってるでしょ?」

 

 

「うん、私も見てたから」

 

 

「……………だから、分かってる。いのりさんは、集さんにとってスッゴク大事な人。それで……」

 

 

「うん」

 

 

「はぁ……………それでね、いのりさんの『場所』を羨ましいって思っちゃったんだ」

 

 

この発言には雪菜も若干驚いたような表情に変わる。それを見て、凪沙はクスクスと笑いを零す。

 

 

「ふふ、雪菜ちゃん、顔」

 

 

「え、あ!?ご、ごめんなさい、その少しビックリして……」

 

 

「私が羨んだ事――ううん、『嫉妬』してた事が?」

 

 

「それは――」

 

 

「いいの、それは事実だから。私だって聖人君子じゃないもん。嫉妬だってするよ。………けどね、私はそれでも集さんが好き。だけど、なんて言うか………そっちの好きとは全然方向性が違うけど、いのりさんの事も本当に好きなんだ」

 

 

「……嫉妬、してる相手でも?」

 

 

「おかしい、かな?」

 

 

「……それは、その…………ごめん、私にはまだよく分からないかも」

 

 

「……………うん、そう…だよね。私は、私の好きな人が好きな人も好きなんだよ。だから、2人の邪魔だってしたく無いし、困らせたくも無いし、泣かせるような事も嫌」

 

 

「……だから、怖い?」

 

 

「…………うん」

 

 

凪沙の表情はいつもの快活そうなモノでは無くなっていた。自らの中にある矛盾を抱えて、今にも崩れてしまいそうな、そんな表情になっていた。何が原因で、今の関係が壊れてしまうかは分からない。だが、仮にもし、集といのりが隠している事を知れば……もし、気持ちを伝えて仕舞えば……

 

 

その得体の知れなさに、凪沙はただ尻込みするしかないのだ。

 

 

長い沈黙が訪れる。獅子王の剣巫と言えど、実質その中身はまだまだ人生経験の浅い15歳の少女なのだ。それが今この場にある問題の解決策を提示できるとは到底思えない。

 

 

だが沈黙を破るように、凪沙がパンッと膝を叩き、立ち上がる。

 

 

「はぁー、やめやめ!どうせ、答えなんか出ないし、自分で何とかしなきゃだしね!ゴメンね、雪菜ちゃん、結局グチに付き合わせるみたいになっちゃって」

 

 

「大丈夫。困ってたらお互い様でしょ?それに私に話して、凪沙ちゃんが少しでもスッキリしたんじゃない?」

 

 

「うーん、ちょっとだけね。はぁーあー、さっさと、お風呂はーいろ!もう、古城君まだかなぁ?」

 

 

やや怒り気味になりながら、凪沙は自室の扉を開ける。そうすると、洗面所の扉がガラガラと開く音がして古城の声が響く。

 

 

「おーい、凪沙。上がったぞー!」

 

 

「あ、ようやく!?もう、遅いよ古城君!あ、雪菜ちゃん、じゃあゴメンね!私、もうお風呂入っちゃうから、また明日!あ、古城君と話してても全然いいよ」

 

 

凪沙は着替え一式を持ってパタパタと風呂場へと直行する。扉が閉まり、さらに浴室の扉が閉まる音を確認すると、今度は古城が凪沙の居た位置へと腰を下ろす。

 

 

「はぁ゛ーーー、マジでかぁ……………」

 

 

「先輩……」

 

 

雪菜は半目で古城を睨む。と言うのも、古城が途中から盗み聞きをしてるであろう事を雪菜は察知していたのだ。洗面所の扉一枚を隔てているとはいえ、本気になった吸血鬼の聴力にかかれば扉一枚くらいは問題にすらならない。

 

 

「盗み聞きとは、あまりよろしい行動とは思えませけど?」

 

 

「分ぁーってるよ。………けど、凪沙に好きな奴が居るのは知ってたが、それが桜満って。あ〜〜………」

 

 

古城はまだ風呂上がりで湿っている髪など御構い無しにクシャクシャと頭を抱える。

 

 

「はぁぁぁぁ…………………凪沙があんな事考えるようになったなんてなぁ………時間が経つのって早えんだなぁ……」

 

 

「あの、先輩。発言が完璧にお年を召した高齢者か、娘を持つ父親のものだと思うんですけど、思うんですけど?」

 

 

「はぁ……けど、桜満には楪が居るんだし………けど、あの様子で失恋とかされんのもなぁ〜」

 

 

「あの……凪沙ちゃん、まだ告白すらしてないんですけど」

 

 

「ここは桜満は止めとけって言うべきか……いや、けどそれは凪沙の意志だし……」

 

 

先ほどから古城は雪菜の言葉が全く耳に入っていないと言わんばかりのスルーっぷりである。これには流石の雪菜も拳を震わせ、怒りを感じざるを得ない。雪菜は件の獅子王機関から新たに支給された大き目のギターケースの下部分を開け、刃が収納された状態の『雪霞狼』を取り出す。

 

 

そして、その状態のまま古城の頭目掛けて、自由落下に近い加速で古城の脳天に直撃する。

 

 

「いった!!?ひ、姫柊!?何で殴るんだよ!?しかも、よりにもよってその槍で!」

 

 

「このままだと先輩は、また思考が明後日の方向に飛躍してしまいそうだったので、ショック療法を実行させてもらいました」

 

 

「………ダメージ的には療法を通り越してたような気がするけどな」

 

 

「そこは……すみませんでした。けど、凪沙ちゃんが誰を好きになっても、それは凪沙ちゃん自身の意志であって、その結果も凪沙ちゃん自身が受け止めなければいけない問題です」

 

 

「………分かってる」

 

 

古城は若干不貞腐れたような表情になり、雪菜は再び溜息を吐く。こうして夜が更けていく。そしていよいよ、祭典の前日まで時間は進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月29日、09:58。絃神島の空港は流通などの拠点が多くあるアイランド・イーストに設置されており、また絃神島特有の手狭な面積の割には、地方都市の空港並みの面積を保有している。これは、絃神島が政治的にも立地的にも絶妙な立ち位置にいる事が関係している。

 

 

この島は最新鋭の技術が集積した様な人工島である。故に諸外国からの視察や、また絶海の孤島という立地条件から各種政の舞台として活躍する。要はその際に顔となるのが、空港という事で小規模に作るわけにもいかなかった、という事である。勿論、空路による流通が速く利便性が高いためという理由もある。

 

 

そんな少し広めの空港のターミナルだというのに、彼らはターミナルのエスカレーター下に集合していた。大人数で道を塞がない配慮だろう。

 

 

「しかし、こう人数が多いと優麻のやつ、驚くんじゃないか?」

 

 

そう言って古城は改めてグルリと、この場に居る人物たちを一瞥する。集、いのり、雪菜、凪沙、浅葱、基樹、という風に集まっている人数は自らを含め7人である。

 

 

「ユウちゃんなら平気じゃない?昔から賑やかなの好きだったみたいだし」

 

 

「あー、まぁそうなんだけどよ」

 

 

 

 

昨日の様子とは違い、凪沙はいつもの調子に戻っていた。その様子を心配した雪菜が傍へと駆け寄っては耳打ちする。

 

 

(あの、凪沙ちゃん。大丈夫……ですか?)

 

 

(………正直、まだ少しグルグルしてる。でも、今はそんな事考えてる場合じゃないもん。だから、大丈夫だよ!私の取り柄っていつも明るく元気なとこだし!)

 

 

そういう事じゃないんだけどな、と雪菜は喉まで出かかった言葉を飲み下す。これ以上、蒸し返すような話でもないのだ。いや、そうしてはならない様な、そんな気さえしていた。

 

 

 

 

「そう言えば聞きそびれてたけど、どんな人なの?その優麻って人」

 

 

「ん?何だよ、浅葱。気になんのか?」

 

 

「はぁ……いいわ、やっぱ。会えば分か――」

 

 

「古城!」

 

 

上からやや高い声が降ってくる。全員がそれを聞いて上を見れば、何かが上方からのライトの光を遮り、影を形成していた。それは真っ直ぐこちらへ落ちてくる。

 

 

「うお!?」

 

 

古城が上から落ちてきたその存在を受け止める。急な事であったので、古城も手を出すだけで精一杯であり、上空からの来襲者はその腕にスッポリ収まるようにして古城に抱きかかえられる形になった。

 

 

「………ったく、相変わらず無茶するな、優麻」

 

 

「「えぇ!?」」

 

 

突然の出来事と、古城が『彼』を優麻と呼んだことに若干2名の少女が驚き、声を上げる。今、古城の腕の中に居るのは、髪をボブカットで切りそろえ、整った顔立ちの中性的な魅力を持つ存在だ。だが、スポーツブランドのチュニックの上からでも分かるくらいの胸は持っており、またショートパンツから伸びる脚は白くスラリと伸びている。

 

 

その存在は『彼』ではなく、『彼女』だったというわけである。

 

 

古城は彼女を下ろすと、初対面であろう人物たちに紹介する。

 

 

「えっと、今イキナリ上からバカな登場をしたのが昨日話が出た、俺と凪沙の幼馴染の優麻だ」

 

 

「ちょっと、古城!?バカっていうのは酷くない!?第一バカなのは古城の――いった!!」

 

 

優麻の会話を遮る形で、古城は彼女の脳天に軽く手刀を叩き込む。

 

 

「だったら、アホだ。2階から飛び降りる奴があるか」

 

 

優麻は患部に手を当てつつも、ニコッと無邪気な笑みを見せる。

 

 

「けど、結局は古城が受け止めてくれたでしょ?さすがは幼馴染」

 

 

「そんな賞賛は要らん。と言うか、お前からも自己紹介しろよ」

 

 

「あー、うん、そうだったね。初めまして、皆さん。古城がいつもお世話になってます!ボクの名前は仙都木優麻(とこよぎ ゆうま)って言います。どうぞよろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって同空港近辺にある約一月前にオープンしたカフェに一行は入っていた。まだランチタイムまでは時間があり、また朝食という時間帯でも無いためか、店内は比較的空いていた。シックな様相の店内はどこか静謐とした雰囲気であるが、不思議とそういった静寂から来る威圧感のようなものはない。

 

 

そんな店内に、計8人となった彼らは4人掛けのテーブルをくっ付け、先に出てきたドリンクを飲んでいた。

 

 

「はぁ〜〜………まさか、女の子だったなんて…」

 

 

「ははは、まぁこんなオチだろうとは思ってたけどな」

 

 

「基樹、うっさい!」

 

 

対面に座る自らの幼馴染の足を、浅葱は(すね)目掛けて蹴飛ばし、それがキレイに決まったらしく基樹は悶絶するような表情に変わる。

 

 

「えっと、藍羽浅葱…さん?」

 

 

浅葱は先ほどまで昔話に花を咲かせていた筈の優麻に話し掛けられ、不意打ちを食らったように一瞬面喰らう。

 

 

「え、は、はい!」

 

 

「あー、ひょっとして緊張させちゃった?ゴメンね、ボクってなんか初対面の人にとっては取っ付きにくい空気持ってるらしくって。向こうでもよく注意されてたから、気を付けてたんだけど……」

 

 

「え、う、ううん!ち、違うの!別に緊張してたとかじゃなくて、えっと……古城があなたの事男友達みたいに紹介してたから、予想と違ってビックリしただけ!」

 

 

「こ〜じょ〜う〜?皆にボクの事、何て伝えたのかなぁ〜?」

 

 

「いだだだだ!別に変なことは言ってねえって!昔の写真を見せて、お前の事を男だって勘違いしてただけだ!」

 

 

優麻は半目で隣の古城を睨みつつ、彼の耳をギリギリと捻り上げて悲鳴を上げさせる。

 

 

その一方、浅葱は表情は崩さないまでも、頭の中ではグルグルと様々な思考が回っていた。先ほど古城が優麻の頭に手刀を入れたのも、また今度は優麻が古城の耳を引っ張り折檻している状態なのも、それだけ2人の距離が近い証拠なのだろう。浅葱は知る限り、古城が女子に対して手を挙げた事などない。強いて言うならば、凪沙がフザケた時に突っ込むくらいの時である。

 

 

互いに自然な会話の中で軽く手が出るのは、それだけ互いの信頼が厚い証なのだ。少なくとも、今の浅葱には同じような事は起こった事もなければ、起こらないだろうと容易に思考できる。それは雪菜も同様のようで、内心複雑なようである。

 

 

「はぁ……まぁ、いいけどさ、誤解は解けたみたいだし。で、さっきから黙々と食べてるコッチの美人な子は?」

 

 

優麻は対面に座して、文字通り黙々とサンドウィッチを口に運ぶ少女を指差した。

 

 

「ん?あぁ、コッチの子は楪いのり。で、その隣が桜満集。2人ともクラスメイトで、お隣さんだ」

 

 

「あれ?さっきお隣さんは、姫柊ちゃんって言ってなかった?姫柊ちゃんと、楪ちゃんってルームシェアでもしてるの?」

 

 

先ほど、すでに自己紹介を終えていた雪菜のことを思い出し、優麻はそう指摘するが、その指摘に対して集は苦笑いで返すしかない。

 

 

「ふっふー、やっぱユウちゃんもそう思うよね?けど違うんだよねぇ、これが」

 

 

「むむ、凪沙ちゃん、どういう事?」

 

 

「あー……実はルームシェアしてるのは、僕といのりの方なんだ」

 

 

「え、ええぇぇぇ!?そ、それって……ど、同棲ってやつ!?」

 

 

優麻は素っ頓狂な声を上げて驚愕する。彼女もまた年齢は古城達と同様で、そして浅葱達同様に女である。故にこういった話題は大好物の部類に入るのだろう。

 

 

そこで、いのりは皿の上にあったものを平らげて、食事の手を止める。

 

 

「…?別に不思議じゃない。集と私は恋人だから」

 

 

「へ、へぇ〜〜………」

 

 

堂々とそう宣言する彼女に対して、初対面の人物達を相手に臆せず喋っていた優麻であっても、さすがに返事が予想外過ぎたのか、むしろ顔を赤くしてタジタジである。

 

 

「そ、そうなんだ……な、何というか、この島って進んでるんだね」

 

 

「ははは、いやいや仙都木ちゃん。異常なのはコイツらだけだから。島内の学生が全員が全員こんな訳じゃないからな?」

 

 

基樹が補足するが、優麻は未だにフリーズを起こしているに近い状態だ。基樹の言葉をちゃんと受け取っているかは怪しいところである。

 

 

「ん、来た」

 

 

そして、再び彼らのテーブルには新しい料理が運ばれてきた。今度はバケットの間に生ハムやレタス、スライストマトなどを挟んだバケットサンドだ。いのりは再びそれを手に取り一口齧る。

 

 

「え、えぇ〜……さっきサンドウィッチ平らげたばっかなのに」

 

 

「あはは……実は今日、仙都木さんを迎えに集まる前に、早目に皆で朝食を取ろうと思ったんだけど、寝坊しちゃって」

 

 

「古城が?」

 

 

「ちげーよ!今日はちゃんと起きたわ!」

 

 

「その……僕といのりが…」

 

 

そう、全員で事前に集合して朝食を取る予定だったはずなのだが、その予定は集といのりの寝坊という珍しい事件によって崩されていた。

 

 

「けど、珍しいこと、でした。桜満さんと、いのりさんが遅刻するなんて」

 

 

「う………面目ない…」

 

 

「あ、ご、ごめんなさいでした!責めてるんじゃなくて……」

 

 

「まぁまぁ、叶瀬もそんな謝る必要はねーだろ。それに、遅刻した桜満が悪いんだしなぁ」

 

 

「………古城、課題のレポート見せないよ?」

 

 

「あ、汚ねえ!」

 

 

彼らのやり取りを見て、優麻はクスクスと笑みを浮かべる。タダでさえ整った顔立ちに、少女可愛らしさが併さった表情というのは、どこか人を惹きつける。自然と集と古城の言い争いも終了した。

 

 

「ふふ、古城が相変わらずそうで安心したよ。それに、コッチでもしっかり友達が居るみたいで」

 

 

「友達くらい居るっての。お前は俺を何だと思ってるんだ?」

 

 

「んー、そうだなーー……………朴念仁でバカな幼馴染」

 

 

「「「「あーーー……」」」」

 

 

「おい!?」

 

 

まさかの幼馴染の言葉と、それに同意するような友人達の声に対して、古城は抗議の声を張り上げる。自分の評価がまさかこの様なものだとは思っていなかったのだろう。と言っても、同意の声を上げた人物達は、思い当たる節がある、とでも言わんばかりに頷いているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し巻き戻る。日もまだ昇らないほどの時間帯、絃神島中央のキーストーンゲートに存在するビジネスホテルのスウィートルームには、何やら物騒な集団がいた。絃神島は一応は日本の所有する島であり、法律もまた日本のものである。であるにも関わらず、全員が対魔族を想定した防護服に身を包み、部隊内で統一されたアサルトライフル、ハンドガンを携行し、さらに各人が得意とする武器である、ナイフや手榴弾などを装備しているのだ。

 

 

普段は閉鎖的な人工島であるが、波朧院フェスタゆえに出入りの規制緩和がなされ、様々なことが見落とされがちな時期である。だからなのだろうか?その部屋にいる人物達は一様に武装しており、また空気もピリピリと張り詰めている。

 

 

空気が張り詰めている原因は窓際で対面している人物達が原因だろう。外からの『目』を掻い潜るため、カーテンを閉め切ってその側にある4人用のテーブルに計3人の女性が座している。

 

 

片方は、腰まであろうプラチナブロンドの髪を後ろで一まとめにしており、不敵に笑いながら対面に座る2人を見ている。どちらも20代くらいの年齢だろうか?

 

 

一方は司祭が被るような赤いフードに、赤い装束を身にまとっている。それはどこかアラビアンナイトで出てきそうな踊り子を連想させるかもしれない。もう一方は黒のローブを身にまとい、その中身は同色のボディラインが強調されるようなライダースーツであり、頭には三角帽を被っている。

 

 

――魔女、と呼ばれる存在であろう。

 

 

「おや、飲まないの?結構いいワインなんだけど。フフーフ♪」

 

 

プラチナブロンドの女性が2人の前に差し出されたグラスを一瞥する。一口たりとも口を付けていないのは、警戒心の表れだろう。そして、その質問に黒ローブの女性が応える。

 

 

「生憎と、ワインは合わないのよ。ゴメンなさい?」

 

 

そう言って、その女性はワインを側にあった屑入れにドバドバと棄てていく。明らかに挑発のつもりなのだろうが、その行動に目前の女性も、この部屋にいる他の存在も眉根1つ動かさない。

 

 

「あーあ、勿体無いなぁ。美味しいのに」

 

 

大して気にするような様子もなく、女性はワイングラスを空にする。その様子が気に食わなかったのか、今度は赤装束の女性の方が噛みつく。

 

 

「ちょっと!コレは商談のはずよ?コッチは提示する額をキッチリ払った!仕事は――」

 

 

「分かってるわよ?だから、私の船で密入国させてあげたでしょ?まず第一段階はクリア。何が不満なの?」

 

 

「ちっ、これだから人間は低俗なのよ!」

 

 

「フフーフ♪そうねぇ、浅ましく、欲深で、醜いのが人間よ?ただ、それは破壊衝動を抑えない魔女とどう違うの?」

 

 

「貴様――」

 

 

立ち上がった赤装束の女性に対して、一斉に銃口が向く。それを見て、黒ローブと、赤装束の女性は口角を吊り上げる。

 

 

「ただの人間風情が私達に(かな)うとお思い?」

 

 

魔女というのは、『守護者』と呼ばれる存在を使役する。その力はモノによっては、真祖の眷獣すら凌駕する。魔女というベースが人間である彼女らが強気に行動できるのは、この『守護者』の存在に依るところが大きい。

 

 

だからこそ、魔女の2人は挑発しても問題ない。最悪、殺して仕舞えばいいのだから、という思考に至ったのだろう。自分たちが人間に負けるなどあり得ないという驕りにも近い当然の自信があったから。だが、目の前にいる女性は違っていた。怯えるどころか、空になったグラスに新しいワインを注いでいく。

 

 

注ぎ終わった後、気怠そうな動きで目線だけ上げるが、その目を見て魔女達は呼吸をやめた。

 

 

「魔女()()()私に勝てるとお思いかい?」

 

 

その言葉が、その行動が、自らの心臓を捻り潰すように感じられた。目の前にいるのはただの人間。その筈である。それが何故、自分たち魔女を前にして恐怖しないのか、皆目見当がつかないのだ。生き物というのは、本能的に『未知』のものに対して臆病になる。これは一種の生存に必要な本能のようなものだ。

 

 

それが働くのを魔女達はハッキリと感じてしまったのだ。この女は得体が知れない、と。

 

 

「ま、仲良く共闘しましょうよ。共通の目的のために」

 

 

「え、えぇ、そうですわね。…………………監獄結界を破るその時まで」

 

 

真っ暗闇の中、不気味に、よく通る声で、ただ女の笑い声だけが木霊した。

 







うん、こんな展開になっちゃいました。まぁ、予告通りっちゃ予告通りですねw


それと、今作のスピンオフ作品である『Extra』の方ですが、もう少し更新が遅れます。いえ、こっちの話をある程度進めてからじゃないとなぁ・・・・・・と思いまして。いや、本当に申し訳ない。


ではでは、また次回!

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