Blood&Guilty   作:メラニン

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長らくお待たせしました。

いやー、8月はバイトとかが忙しすぎまして・・・


あと、テイルズの新作をプレイしてたら、はい・・・


では、どうぞ!


蒼き魔女の迷宮
蒼き魔女の迷宮編I


 

 

10月28日。東京の遥か南洋上に浮かぶ魔族特区である絃神島においては、暦など関係のない蒸し暑い毎日が続いていた。さすがに、これにはこの気候に慣れていない、この世界に突如出現した『ジョーカー』と揶揄される、異世界の2名もダウン気味であった。

 

 

「………集、暑い」

 

 

いのりは、手でパタパタと自らを扇ぎつつ、不満を漏らす。一方の集は、いのりから視線を逸らしていた。その行為が若干なりとも、いのりの不興を買っており、そしてそれを集も自覚しているのだが、汗で濡れて衣服が張り付いた彼女を直視できないのだ。

 

 

「そうだね…」

 

 

現在は登校する少し前。換気として窓を全開にしているのだが、その所為でムワッとした生温さと湿度を孕んだ空気が室内を満たし、不快指数はうなぎ登りである。いい加減大丈夫だろうと、集は窓を閉めてクーラーを起動し、室内を冷やし始める。

 

 

だが、ものの数分もすると来客を報せるインターホンが鳴り、集もいのりも、スクールバッグを持って立ち上がる。集が先に靴を履いて、扉を開く。そこには最早習慣となった、少女が笑顔で立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「桜満ぁーー!!」」」」

 

 

学校へ到着するなり、集はクラスメイトに殺到された。隣に居る、いのりも朝一の教室でいきなり押しかけられればタジタジである。

 

 

「な、何か?」

 

 

「何か?じゃねえよ!!いのりちゃんと、バンド組んで今度のフェスに出るって本当か!?」

 

 

「え、今更?」

 

 

その言葉に、クラスメイトは固まった。集からすれば、本当に今更な話なのだ。約一ヶ月前から、既に練習は始めているし、エントリーもしている。渋々ではあった雪菜と浅葱も、意中の相手と少しでも長く居られるという免罪符を得ることの出来る機会という事で、張り切って練習している。だが、その事は存外知られていなかった様である。

 

 

築島倫の辺りが広めていそうだと考えていた集は意外そうに、既に教室に居た倫を見る。

 

 

「おや?何かな、桜満君?もしかして、皆には私が既に言ってると思ってた?」

 

 

「えっと……うん、まぁ」

 

 

「やだなぁ、私が言うわけないじゃん。桜満君と、いのりんの甘〜い時間を邪魔する様な事も、その原因も作らないわよ」

 

 

「………感謝すればいいのか、怒った方がいいのか分からなくなった」

 

 

「そこは、感謝しといてよ?お陰で、この一ヶ月集中して練習できたでしょ?」

 

 

そこは確かに、と集は渋々とだが頷いておく。と言うのも、いのりは中等部の転校生と聖女並みに、校内ではアイドルとなりつつある。実は、集と同居しているという事を知っているにも関わらず、アプローチを仕掛ける輩が居るのだ。当然、軒並み撃沈するか、よく一緒に居る浅葱や倫、たまに雪菜や凪沙から冷ややかな視線を向けられ、想定以上のダメージを負う結果で終わるのだが……

 

 

つまり、情報が行き渡っていなかったが為に、そういった輩に邪魔されること無く、集中してバンド練習に取り組めたというわけである。

 

 

「……ちっくしょー………分かっちゃいる。分かっちゃいるけどもよよぉー……」

 

 

「あぁ、やっぱり、恨めしいよなぁ……」

 

 

最終的にヘイトが集へと向いて、本人は苦労するのである。しかし、こういった言葉を漏らした場合、最近では彼らは思わぬ反撃を受ける様になっていた。と言うのも――

 

 

「まったく、男のジェラシーなんて情けない上に、みっともないわよねぇ。ねー、いのりん?」

 

 

「……どっちでもいい。集なら平気そうだし、集と居られる事に問題は無いから」

 

 

「「「「………………」」」」

 

 

そう。若干遠回しではあるものの、いのりは集への好意を隠さなくなったのだ。それは、いのりのファンでもある彼らにとっては、心を抉られる心地だろう。彼らは、その言葉を聞いて、沈黙したまま席に着く。当然、いのりは何かしたのかと、首を傾げる。

 

 

彼女が敏感になったのは、自らの感情と、集の感情だけであり、その他の人物の感情の機微には未だに疎いのだ。

 

 

「はいはい、良かったわね。少なくともクラス1幸せなカップルで。あ、そうだ。だからこそ、今度の波朧院フェスでは、特等席用意してよね?」

 

 

「ん、分かった」

 

 

「よしよし、約束よ、いのりん?………ってか、暁はどうしたのよ?」

 

 

倫は教室に入るなり、先ほどの会話に介入すらせず、机の上で突っ伏している古城を振り返り見る。その言葉に、古城は首だけ機械的に動かし、憔悴仕切った様な顔で喋り始める。

 

 

「………な、凪沙の練習に付き合わされて満足に寝れなかった」

 

 

「あぁ、凪沙ちゃんも出るんだっけ?ヴォーカルは、いのりんでしょ?暁兄妹は?」

 

 

「俺がギター。凪沙の奴がドラムだ」

 

 

「あれ?桜満君は?」

 

 

「僕はベースだよ。それと、姫柊さんもギターで、藍羽さんがキーボード」

 

 

「へぇ、転校生ちゃんも出るのか……ははぁ〜ん、浅葱が張り切る訳ね」

 

 

「いや、本当に」

 

 

集と倫は未だに空席のクラスメイトの席に視線を向ける。口には出さないが、雪菜と浅葱、どちらが古城と合わせられるかという事で競っており、メキメキとスキルアップしているのだ。それに、釣り上げられる様に古城も頑張らないワケにはいかず、雪菜達程でなくとも、上達はしていた。

 

 

また、集に関しては言わずもがなだろう。恋人と共に何かを成し遂げるという状態なのだ。表には出さずとも、張り切らないワケがない。それに触発される少女もまた、上達するよう必死になっている。まぁ、その結果が、現在の古城の状態を招いた訳なのだが……

 

 

と、そんな中、何時もと同じ調子で、浅葱と基樹が教室に入ってきた。

 

 

「おはよう、お倫、いのりさん。桜満君もおはよう」

 

 

「おはよう、浅葱」

 

 

「おはよう、藍羽さん」

 

 

軽く挨拶を交わすと、入ってきてから反応を示さない古城を半目で睨んだ後、スクールバッグを頭部に乗っけて、無理矢理覚醒させる。

 

 

「んがっ………ん?なんだ、浅葱か」

 

 

「なんだとは、何よ?挨拶くらいしなさいよ」

 

 

「んん……そうだな。よぉ、浅葱。今日も派手派手しいな」

 

 

「………ちょっと、ムカつくわ、今の」

 

 

「仕方ねえだろ?俺は今、意識保つだけで結構限界な…ん…………くぁ〜〜……」

 

 

話の途中で、欠伸を噛み殺しきる事が出来ず、古城は大欠伸をして伸びをする。凪沙との練習がよっぽどハードだったのだろう。疲れが取れないといった顔である。

 

 

「ちょっと、しっかりしなさいよ?しばらくテストは無いとはいえ、万年補修地獄なんだから」

 

 

「万年は余計だっつの」

 

 

そこまで言って、予鈴が鳴る。それと同時に今日も場所を選ばないような黒のゴスロリ服に身を包んだ担任教師が教壇に登るのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイランド・サウスは居住区が集中している。という事は、物流も激しく、需要と供給が目まぐるしく秒単位で動くような地区でもある。人通りは多く、夕方ともなると数多の人でごった返す。そして、この日は余計に人という人が公道に溢れていた。

 

 

ただでさえ狭い歩行者道路は余計に窮屈に感じ、途中タクシーを拾おうとする者も居るため、車道もあちこちで混雑していた。

 

 

「す、スゴイですね……これも、波朧院フェスタが近いからなんでしょうか?」

 

 

獅子王機関から派遣された監視役の少女は、涼しい店内から公道を視界に収めて言葉を漏らす。側にいる監視対象の少年は未だに眠そうにしながらも、何とか意識を保とうと、ドリンクバーで調達してきたアイスコーヒーを吸引している。

 

 

「まぁ、それもあるな。この期間になると島外から入ってくる人のチェックが緩くなるから、この島で事業を立ち上げようとする企業の出入りも激しくなるんだよ」

 

 

自らの後輩であり監視役である彼女に、古城はそう言って聞かせる。彼らが居るのは彩海学園からほど近い、いつものファミレスである。6人掛けのテーブル席に座って涼を取っている。今の混雑がひどい時間帯に帰るのは止めようと古城が提案し、それならば当日の話し合いも兼ねて店に入ろうとなり、現在に至る。

 

 

「古城の言う通りっちゃ言う通りなんだけど、混んでる理由はそれだけじゃないわよねぇ」

 

 

古城の隣に座る浅葱がそう漏らす。視線は、ファミレスの大窓から見える、交差点の工事している部分を見ていた。

 

 

「この前あった、停電の時の補修工事をやってるからね」

 

 

そう言ったのは、古城、雪菜、浅葱と対面座席に座る集である。

 

 

「あー、私たちが市民プール行った時のやつ?あれって発電プラントが原因って話じゃなかったの?」

 

 

「なんか、発電プラントの方では結局損傷は無かったんだってさ。今はああやって地下にある電線の補修とかもやってるってさ。僕も基樹からの又聞きなんだけどね」

 

 

「そういえば、矢瀬っちって公社の偉い人がお父さんなんだっけ?矢瀬っちは全然そんな風に見えないのにね」

 

 

「ふふ、凪沙ちゃんの言う通りよね。基樹って、今じゃただのチャラ男って感じがするし」

 

 

「ひでえな、お前ら。………ところで、楪の方は1人で大丈夫なのか?」

 

 

古城は端末に入った音楽データを再生する、いのりの方を見る。いのりは集の隣に腰掛け、イヤホンを耳に当てて、各人が入れてきた楽曲データを聞いているのだ。

 

 

「……………」

 

 

古城の呼びかけに応えることもせず、いのりは黙々と聞き続けている。何度か曲を巻き戻したりして聞いているので、時間が掛かるのは当たり前であり、またそれだけ集中して聞いているということなのである。

 

 

「はは、こうなると、いのりは暫く動かないから、仕方ないよ。もう少し待ってようか」

 

 

それから暫く談笑して時間を潰し、ほぼ丸々2時間かけて、いのりの作業は終了した。

 

 

「あ、いのり終わった?」

 

 

「ん、聞き終わった。大方問題ない…と思う。でも、凪沙はもう少しリズムを抑えて。浅葱と雪菜は音が強過ぎ。古城は、サビに入る前に弾き方が荒くなってる」

 

 

「「「「う……」」」」

 

 

それぞれが、思い当たる部分があったのだろう。同様に呻き声を上げて、苦い顔をする。

 

 

「……桜満はどうなんだ?今、アドバイス無かったが」

 

 

「僕は毎日色々直されてるよ。昨日の夜もそうだったし…………」

 

 

「…………そ、そうか」

 

 

古城は顔を引き攣らせて同情する。と言うのも、彼らは何度も、今度フェスで弾こうとしている曲を合わせているのだが、その時に判明したことがあるのだ。それは、いのりが意外とスパルタであった事である。

 

 

普段は大人しい彼女ではあるのだが、こと音楽の事となると、声を荒げることはしないが、納得いかない部分は何度も繰り返すのだ。それに付き合わされて、日をまたぎ掛けた事もあるくらいである。その甲斐あってか、何とか人前で演奏できる程度までは上達していた。

 

 

「………って事は、まさか明日――」

 

 

「当然?」

 

 

「はあぁぁぁ〜〜〜〜………………」

 

 

古城は非常に長い溜息を吐いた。周囲の人間も、苦笑いをこぼす。

 

 

「あ、そうだ!いのりさん、明日の練習なんだけど、午後からでいい?」

 

 

「何で?」

 

 

「実はさ、明日島外から友達が来るんだよね。だから、迎えに行かないといけなくて」

 

 

「ん、分かった」

 

 

古城と凪沙、暁家の兄妹は元は本土出身である。それが、過去に遭遇したというテロ事件による治療のために、最新鋭の技術が潤沢であるここ魔族特区の絃神島に移住したのだ。そして、島への出入りに許可が下りやすいこの時期に友人を呼んだというのも、頷ける話なのだ。

 

 

「ん?凪沙、誰か呼んだのか?」

 

 

「もうーー、古城君忘れたの?一昨日ユウちゃんが来るからって言ったじゃん」

 

 

「あ、あーー、そっか。あいつか…」

 

 

ここ数日、本番間近という事で練習に次ぐ練習で、古城はすっかり失念していたのだ。友人の来訪というイベントを。そして、彼の生来の性格というか、星を知っている彼女らは、ピクリと島外からやって来るという『友人』に反応していた。

 

 

しかし、今判明している情報は、『島外の友人』というのと、『ユウちゃん』という愛称のみである。まだ、その友人がそうであるとは限らないので、ここは慎重に情報を引き出そうという考えに至った様である。

 

 

「………島外のご友人、ですか」

 

 

「………へぇー、島外の友人か………古城の感じからすると、結構親しそうな感じがするけど、中学とかの友達?」

 

 

「ん?あぁ、いや違う違う。アイツとは何ていうか、腐れ縁っていうか…そんな感じだな。知り合ったのは……確か小学校低学年とかの時だったか?」

 

 

「んー、多分。あ、でも私は小学校入る前だったかも。まぁ、幼馴染ってやつかな?あ、そうだ!写真見る?昔撮ったヤツだけど」

 

 

2名の少女は、「しめた!」と確信した事だろう。実物を見るというのが、やはり一番早い。百聞は一見に如かず、というやつである。

 

 

「えっと…………あぁ、あったあった!えっとね、確か私が小学校4年生くらいの時の写真だから、古城君とユウちゃんが5年生の時かな?」

 

 

そう言って凪沙は自らの携帯の画像フォルダに保存されている写メを見せる。雪菜と浅葱は少し身を乗り出し気味に画像を見入る。

 

 

そこに映っていたのは、まだまだ幼さが残る小学生3人の姿である。凪沙はミニスカートにTシャツという簡素な格好で、残り2名は半袖半ズボンの腕白そうな2人である。片方は古城であろう。この頃はまだ、表情がしっかりしており、今の様に常に気怠そうにしているという感じはしない。そして、問題の人物は如何にも美少年といった相貌である。

 

 

それを見て、雪菜も浅葱も内心安堵する。と言っても、そんな様子を表に出す事もしない。

 

 

「……先輩にも、ちゃんとご友人がいらしゃったんですね」

 

 

「おい!」

 

 

「ホントにね〜。古城の友人にしては、格好いい感じの子ね」

 

 

「オレにしてはって、どういう事だよ…………まぁ、確かにアイツは女子にモテてたけどなぁ……」

 

 

古城は望郷に思いを馳せるかの様に、上を見上げシミジミとそう語る。と、そこで話を聞いていた、いのりが口を開く。

 

 

「……じゃあ、明日迎えに行って、そのまま練習?」

 

 

「うん、そうなるかなぁ。あ、でもユウちゃんに、少しだけ島の案内もしていい?あ、そうだ!折角だから、ユウちゃんに曲聞いてもらって、感想言ってもらおうよ!私も古城君も出るって言ってるから、多分聞いてくれると思うし!」

 

 

「ん、賛成」

 

 

「僕も賛成かな。正直、他の人からの感想無しのままだったしね」

 

 

集の言葉に全員が頷く。と言うのも、彼らは中等部の声楽部のメンバーとも合同で練習してはいるのだが、今朝の倫が言っていた様に、練習していたという情報が行き渡っていなかった為に、他人からの感想がゼロなのだ。

 

 

「って言うか、楪の練習はマジでキツかったな。何度指が折れそうと思ったことか……」

 

 

「……でも、古城はまだ伸ばして。雪菜に負けてる」

 

 

「ぐっ……」

 

 

いのりの指摘に古城は呻き声を漏らす。一方の雪菜はしたり顔である。

 

 

「そうですね。先輩、もう一度コードを教えましょうか?」

 

 

「だ、大丈夫だ!………いや、やっぱり頼む」

 

 

古城は雪菜に、手を合わせて拝む様な格好を取る。雪菜の方は、自然と笑みが零れるようで、古城は気付かずとも周囲は、彼女が喜んでいるのだろうと、分かっていた。一方の浅葱は、仕方のない事と分かってはいても、やはり不満が湧くのだろう。口を曲げ、再び大窓から外の工事現場を見る。理解するという事と、受け入れるという事は別物なのだ。

 

 

「凪沙、明日はどこで待ち合わせ?」

 

 

「あ、うん。えっとね、空港のターミナルって言ってた。朝一の飛行機で来るみたいだから、朝の10時頃には着くって言ってたよ?」

 

 

「じゃあ、早目に行って空港で朝食にする?そしたら、そのまま島を簡単に案内して、午後に曲を聴いてもらうとかすれば良いんじゃない?僕もそれだと朝食を作る手間が省けるし」

 

 

「あ、それ賛成ー!空港の近くに、新しくカフェが出来たんだよね!あそこにしようよ!ちょっとオシャレな感じのお店で、お茶も料理も美味しいらしいし!」

 

 

凪沙は興奮気味にそう語る。凪沙が話題に挙げたカフェとは、つい一月前程にオープンした店であり、個人経営の落ち着いた雰囲気の店である。既にそれなりの人気があるらしく、昼時は10人ほど客がいつも行列を作っている程であるらしい。

 

 

「じゃあ、それで決まりだな。っと、そろそろ帰るか」

 

 

「そうね。っと、私はまた公社のバイトがあるから先に帰るわね。古城、明日遅刻しないようにしなさいよ?」

 

 

「あぁ、分かってるよ」

 

 

ふと古城が外を見れば、幸いな事にモノレールの駅までの道が空き始めていた。確かに帰るとすればいい頃合いなのだろう。各々がスクールバックを持って立ち上がり、会計を済ませていく。そして、浅葱はよほどバイトが始まる時間ギリギリまで居たのだろう。焦った様子でキーストーンゲート方面へと向かう。

 

 

そして、それに続いて古城が外へと踏み出す。ファミレスの涼しい空気を外へと漏らさないための、二重の自動ドアをくぐれば南国特有のムワッとした空気がまとわり付いてくる。と言っても気温は幾分か下がっており、昼間よりは余程マシである。古城は外へ出てグーッと伸びをすると、腕を下げて一呼吸おいてから振り返り、続々と出てくる友人たちへ視線を移す。

 

 

「さて、あとは帰って風呂入って寝るだけだな」

 

 

「え?」

 

 

「え、って何だよ、凪沙?え、って?まさか、帰ってまだ食べるのか?」

 

 

「うん。だって、私はポテト摘んでただけだし。古城君と浅葱ちゃんくらいじゃない?結構ガッツリ食べてたの」

 

 

「………はぁ、しょうがねぇ。じゃあ、帰りに買い物して行かねえとな」

 

 

「うん、元からそのつもりだよ。あ、そうだ。雪菜ちゃん達はどうするの?一緒にお買い物していく?」

 

 

 

凪沙が明るい顔で隣人達3人を見る。彼女は隣人達とは非常に懇意にしている。故に今回も何も考えず自然にこういった誘いが出来るのだろう。ある種、彼女の生まれ持った才能のようなものなのかもしれない。

 

 

「そうですね。私もそろそろ食材を切らしていたので、買い足しておきたいですから」

 

 

雪菜は以前背負っていたギターケースよりも若干大きくなったものを背負っていた。獅子王機関が寄越した新しい特注品である。ケースを開く際は二重構造になっており、通常見えている方の銀のチャックを開ければ、普通のギターが出てくる。そして、背中の近い側に取り付けられた黒いチャックを開ければ、彼女の武器である『雪霞狼』が出てくる。

 

 

背中に近い方のチャックはその色と、そして普段はナイロン製の布部分が覆い被さるようになっているので、間違って開けられる心配は少ないだろう。それでもギターケースが以前より、若干分厚くなってしまったのだけは失敗であろう。と言っても、獅子王機関は最新の技術を用いて、なるべく目立たない様な作りにしているので、指摘される事は少ないのだが。

 

 

彼女がより任務を遂行しやすくするための配慮である。

 

 

「あ、ホント!?じゃあ、一緒に行こう!集さんと、いのりさんは?」

 

 

「ゴメンね、この後メンテに出してた『ひゅーねる』を深森さんの所に取りに行かないといけないんだ」

 

 

「そっかぁ……けど、仕方ないね。いのりさんの為だもん。じゃあ、明日朝一で集合ね!」

 

 

「ん、ゴメンナサイ、凪沙」

 

 

「ううん、大丈夫だよ。また明日!」

 

 

一行は別れ、集といのりは古城達の一行とは別方向へと歩みを進める。目的のMARがあるのはアイランド・ノースであり、現在彼らが居るのはアイランド・サウスだ。ここからアイランド・ノースへ向かう最短ルートは中心にあるキーストーンゲート付近を経由しているバスなのだが、そのバス停を見ればやはり混み合っていた。

 

 

別段、急いでいる訳では無いのだが、帰りが遅くなるというのはあまり歓迎されたものでも無いし、彼らの担任教師に見つかれば何を言われるか分からない。いのりも同様のことを考えたのだろう。予想される結末を思ってか、小さく息を漏らす。

 

 

「………んー、今日くらいいいかな」

 

 

「?……何が?」

 

 

「南宮先生にバレると怒られそうな事」

 

 

集は、いのりの手を引いて側にある公園に入る。既に日も沈んでいる時分である。公園には人っ子一人として存在しない。集はそれを確認してから徐ろに、いのりを抱きかかえる。所謂(いわゆる)お姫様抱っこ状態である。突然の不意打ちに、いのりは抵抗もすることなく集のされるがままの状態になる。

 

 

「………集?」

 

 

「えっと、その………空中散歩しながらでも行こうかな……って」

 

 

照れつつそう言った集の表情を見て、いのりは小さく笑みを零す。

 

 

「…ふふ、綾瀬にも怒られそう」

 

 

「あー、はっはっはっ……」

 

 

確かにと集は苦笑いする。これから使おうとしているヴォイド――『エアスケーター』は集達の世界で仲間であった、篠宮綾瀬(しのみや あやせ)のヴォイドである。集と、いのりの危機に使用されるのならば、彼女は喜んで力を貸すだろう。だが、こういった事に使えば、また小言を言われそうだと容易に想像ができてしまう。

 

 

この世界に来てから、まだ約3ヶ月ほどしか経っていない筈であるのに、彼女の小言も今や懐かしいと感じられた。

 

 

「もし、そうなったら、私も怒られてあげる」

 

 

「………そうだね」

 

 

集は、いのりにOKを貰えたという事で、『エアスケーター』を具現して一気に飛翔する。そして、南国である人工島の夜空を駆けるのだ。上空にも纏わりつくようなジットリした空気が充満しているのだが、それでも彼女のヴォイドは空を蹴り、二人に風の恩恵を与えてくれる。二人は夜空を駆ける。少しだけ、前の世界に思いを馳せて……

 

 

 

 






と、いう事で新章スタートです!

いやぁ、続きを現在も執筆中なんですが・・・長くなりそうな予感ですねぇ。先に言っておくと、この章は多分色んな事が動く章になると思います。うん、色々と・・・


さて、今回の章もお付き合い頂ければ幸いです!


最後に質問、要望コーナーです。

今回は「何とかして、スクルージ達を出せないか」というご要望だったのですが・・・

すみません、無理です!約十年前に亡くなっていて、時間が経ち過ぎというのが一つと、根本的な問題として・・・・・・・・・

筆者が彼らの事について詳しく知りません!すみません!


はい、って事で今回のご要望については対応しきれずホント申し訳ないです!!



では、また次回!

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