Blood&Guilty   作:メラニン

7 / 91
さて、今回は連投です。


今回から若干戦闘パートに突入ですね。


そして、知ってる人は知っているキャラが出ます。原作のヒントは元自衛隊員。
特区警備隊の中に軍人入れたいなぁ、と思ってこのキャラに。


では、どうぞ!


罪の王冠編Ⅳ

 

アイランド・ノースの端に位置する駅周辺。太平洋がすぐ側に広がる駅に彼らは居た。この地域は現在増設人工島(サブフロート)などの工事中で、大して見るものも無いのだが、矢瀬基樹だけは違った。彼には別の目的もあった。

アイランド・イーストも周り、最後にこのアイランド・ノースに来たのだが、集の目的は達成出来なかった。結局はコンパスが回転し続けるだけで、いのりの手掛かりさえ掴めなかった。結局分かった事と言えば、この島に楪いのりは居ないという事実だけだった。ベンチに座って落胆する集の様子を遠巻きに見る古城、凪沙、浅葱、そして矢瀬。落胆している原因が分からない3人は、気まずい為に話すに話せないのだ。そこで、事情を知っている矢瀬が近付く。

 

 

「あー、桜満。あまり気を落とすなよ。一応俺の方でも情報を集めてるからよ」

 

 

「………それで、進展はあったんですか?」

 

 

「いや、それはまだだけどさ……」

 

 

「…………はは、すいません。意地の悪い質問でしたね。矢瀬さんは協力してくれてるのに」

 

 

「いや、しょうがねえだろ。お前にとって大切な存在ってやつだったんだろ?」

 

 

「『だった』じゃないです。今もなんです」

 

 

迷い無く言い切る集の目を見て、矢瀬はまいったと言わんばかりに手を挙げる。正確な年齢は聞いていないが、そこまで歳も離れていないか、もしくは同じくらいに感じるこの少年がくぐり抜けてきた事件は、一体どれほどの物だったのだろうかと、矢瀬は改めて思う。話だけは聞いたが、言葉で言い表す事など出来ないほどの経験を積んだのだろう。この少年の雰囲気は正しく、自分達とは何かが違うのだ。そういう風に感じてしまう。

しかし、矢瀬はそんな少年に自分が非道だと分かっていても、ある事を依頼しなければならなかった。それが、彼の仕事なのだ。そして、意を決して口を開く。

 

 

「まぁ、調査は現在進行形で進んでいる。桜満が現れた時みたいな発光現象は全世界でも、ここ一週間で1000件は超えてる。それを今は一つ一つ精査中だ」

 

 

「そう、ですか。ありがとうございます」

 

 

「まぁ、いいって。だが、その代わりに上の方がある事を要求して来た」

 

 

「………その要求って何ですか?」

 

 

「俺がしている仕事の協力だ。俺が今持ってる案件は幾つかあるんだが、お前に依頼したい内の1つは、ある人物への近い距離からの監視と制御、協力だ」

 

 

「ある人物?」

 

 

「ああ、後で分かるさ。何で監視が必要かっていうのと、協力する必要性や制御の意味もな。で、もう1つ。今言った事への理解を深めてもらうっていうのと、俺への協力、この世界をより知ってもらう為に捜査に協力してくれ」

 

 

「………もしかして、僕の持ってるコンパスが目的ですか?」

 

 

「ああ、ビンゴだ。捜索対象は、『サルト』のバイヤー共の根城と流通元だ。ま、うまく行けばコンパスは使わなくても相手の方から燻り出されてくれるんだが」

 

 

「………分かりました。交換条件って事で受けさせてもらいますよ」

 

 

「よし!じゃ、事が起こったら俺に合わせてくれ。あ、そうだ。あとな、協力体制を敷くんだから敬語は無しにしようぜ」

 

 

「はは、分かったよ、基樹」

 

 

「おう。じゃあ、俺も集って呼ばせてもらうぜ。じゃ、行くか!おーい、集の奴立ち直ったぞー!」

 

 

矢瀬がそう言うと、嬉しそうにした凪沙、安堵の表情を浮かべた古城、浅葱が歩み寄ってきた。

 

 

「集さん、本当に大丈夫なの?知り合いの人に会えなかったんだよね?まだ辛くない?私でよければ相談に乗るよ?」

 

 

「うん、もう大丈夫だよ、凪沙さん」

 

 

「ま、立ち直ったってんなら良かったわ。じゃ、これからどうするの?一応あらかた島の案内終わったけど。ってか、もう時間も時間じゃない?」

 

 

「浅葱の言う通りだな。そろそろ帰るか」

 

 

 

 

 

そう言って古城が駅に向かって踵を返そうとした時だった。急に爆発音が聞こえ、振り返ると少し離れた工場街から煙と火の手が上がっていた。そして、古城達の居る場所から50mほど離れたビルの一階も爆発し、そして中から火ダルマになった人ではない容姿の何かが飛び出してきた!

 

 

「ウォオォォォ!!」

 

 

火ダルマになっているソレは雄叫びを上げて集達に向かって走り出した。そして、集達の側では――

 

 

「い、いや………いやあぁぁぁ!!」

 

 

「凪沙ちゃん!!」

 

 

凪沙が悲鳴を上げ、それを治めるように浅葱が抱き締める。火ダルマになったそれから庇うように浅葱は背を向ける。そして、集が前に出て全員を守るためにヴォイドを発現する。発現したのはハサミ。寒川谷尋のヴォイドだ。そして、集はそれを一閃する。

肩から切断されたソレは声1つ上げず崩れ落ちた。集はヴォイドを消し、振り返る。古城、矢瀬は唖然とした様子で集を見つめ、浅葱は未だに凪沙を抱き締めて蹲っていた。

 

 

「………桜満、今のは?」

 

 

古城は今しがた集が見せた力に警戒心を抱いたらしく、気絶した凪沙を抱える浅葱を庇うように集の前に立つ。どう説明すべきか迷う集が口を開こうとした時だった。集にとって聞き覚えのない第三者の声が響く。

 

 

「ほぉ、貴様が噂になっているアンノウンか。状況判断能力はギリギリ及第点といったところか」

 

 

「「「な、那月ちゃん!?」」」

 

 

声の主は常夏の絃神島ではあり得ないくらい暑そうな黒のゴスロリ服に身を包んだ、見た目小学生くらいの女性だった。彼女は現れるなり、一斉に視線を向けて自分の名前を呼んだ少年少女計3人を持っていた扇子を閉じて額に打ち付けた。

 

 

「いたっ!」

「ぐっ!?」

「ごほぉっ!!」

 

 

古城のみ力が強かったからか、叩かれた勢いで2、3歩後ずさった。

 

 

「教師を"ちゃん"付けで呼ぶな、馬鹿共」

 

 

額をさする3人を尻目に、今しがた現れた彼女--南宮那月は集に向き直る。

 

 

「さて、貴様が桜満集という少年か?」

 

 

「えっと、はい……」

 

 

「ふん、公社の連中に指図されるのは面白くないが、今は仕方がない。貸しという事にしておこう」

 

 

那月は意味ありげに矢瀬の方に意地悪そうな視線を向ける。まるで、貸しというのは、返すものだと言わんばかりにその視線は矢瀬に突き刺さる。当の矢瀬本人は視線を逸らしつつ気まずそうに頬を掻く。

 

 

「さて、そもそも何故こんな所に居る、貴様ら?」

 

 

「えぇっと、そこに居る桜満君にこの島を案内してあげよう、って事でここに来たんだけど………もしかしなくても来ちゃマズかった、那月ちゃん?」

 

 

浅葱の説明に大きな溜息を吐いた那月は気絶している凪沙を一瞥すると、扇子を浅葱の方に向ける。すると、その足元には魔法陣が浮かび上がる。

 

 

「藍羽浅葱と暁凪沙は私が送ってやろう。しかし、そっちの男3人は私の手間を増やした罰だ。自力で帰れ」

 

 

「おぉい、那月ちゃん!アンタそれでも教師--だっ!?」

 

 

「何度教師を"ちゃん"付けで呼ぶなと言わせれば気が済む、暁古城。()()()()に、こんな事態でもモノレールは動いている。それに乗って帰れ。戦闘が行われているのは、ここから1km先の工場街だ。そこに近付かなければ命はあるだろうよ」

 

 

「………やっぱり、『サルト』ってのが原因なのか?」

 

 

「ま、そういう事だ。分かったのなら、とっとと帰るんだな。では行くぞ、藍羽浅葱」

 

 

「ゴメンね、古城。あ、凪沙ちゃんはしっかり送っておくから。あんたも気を付けなさいよ」

 

 

そう言うと、女性陣は南宮那月の転移魔法で消えた。残された男性陣3人は何とも物悲しい感じがしてならない。

 

 

「ま、取り敢えず行こうぜ?ここで立ち止まってたら、さっきみたいな連中がまた来てもオカシクないだろ」

 

 

「………そうだな。けど、桜満には後で説明して欲しい。さっき使ってた物についてな」

 

 

「………そうだよね。あとで説明するよ」

 

 

「おーい、もう行こうぜ?モノレールだって何時止まるか分からないんだからよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

矢瀬の方はそそくさと駅の方へ既に進み始めていた。それに古城と集も続く。そして、駅に着くと駅内には一応ここから離れようとしている近隣の住人がモノレールのドアに殺到していた。

それもその筈だ。電光掲示板にはこのモノレールが最終らしく、そこに何とか乗り込もうと住人が大挙して押しかけてきた格好になったのだ。アイランド・ノースの島端方面は工場などがメインの区域とはいえ、住人が居ない訳ではない。当然それなりの住人が住んでいる。

 

 

そして、何とか最後モノレールに滑り込むように乗り込んだ古城、集、矢瀬だったが、一瞬矢瀬の目が何かを企んでいる物に変わる。口パクで集に向かって『すまん』と言うと、発車の合図を知らせるベルが鳴ったところで集の腹の辺りを押した。当然、集はモノレールから押し出される。集の後ろに居た古城も同様だ。そして、無情にも自動ドアが閉まって、モノレールが発進してしまう。

 

 

「お、おぉい!待てえぇぇ!!」

 

 

「…………」

 

 

駅にたった2人取り残された状態の古城と集。状況が飲み込み切れていない彼らは、無人の駅でポツンと立ち尽くす。

 

 

 

「…………マジか。どうすんだよ、これ……」

 

 

「あ、あははは………」

 

 

古城の呟きに集は愛想笑いを返し、先ほど矢瀬に言われた事を思い出す。『事が起こったら合わせてくれ』とは言われたが、流石にこれは予想外だった。

 

 

「と、取り敢えず、ここから離れましょっか?ここに居たら、さっきみたいな連中が来てもおかしくないし」

 

 

「まぁ、そうだな。最悪、特区警備隊(アイランドガード)に保護でも頼めば何とかなるだろ」

 

 

「じゃあ、移動しよう。ついでに、その道すがらさっきの質問に答えるよ」

 

 

「ああ、分かった。じゃ、行くか」

 

 

こうして、古城と集は駅を背に歩き始めた。そして、集は古城に矢瀬に言った事と同様の内容を話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、つまり桜満は元々異世界ってやつの住人って事か?」

 

 

「まぁ、そういう事になるのかな。コッチへ来る直前まで、あれだけ広範囲に甚大な被害を出した戦いの後だったのに、ここでは何事も無い様になってたし」

 

 

「確かにそんだけの事が起こったらニュースになった筈だしな」

 

 

「……………」

 

 

「な、何だよ?」

 

 

「いや、古城はこんな話信じるのかって思って。僕だったら、こんな話は中々信じられ無いだろうし」

 

 

「何だよ、じゃあ嘘なのか?」

 

 

「いや、本当の事だけど……」

 

 

「なら、信じるさ。今までの行動とか、さっきの力もそれで得心がいったし、何より凪沙の事を助けてくれた奴を邪険にできないだろ?」

 

 

「………古城って、シス――」

 

 

「ん?何だよ?」

 

 

「いや、別に?」

 

 

集は出掛かっていた言葉を呑み込んだ。この暁古城という少年が妹を大事にしている。それだけ分かれば十分だった。ここで余計な波風を立てるより遥かに賢明だろうと、集は改めて先ほど言い掛けた言葉は忘れる事にした。

 

 

2人は駅からそんな調子で1kmほど歩き続けた。取り敢えずこの2人が何処へ向かっているのかと言うと、矢瀬が乗ったモノレールが向かった駅の方だ。とにもかくにも、島の中心方面に進む事に。しかし、アイランド・ノースの端の方の駅から移動しているので、否が応でも一度は件の工場街の近くを通らなければならない。そして古城と集の二人は、ちょうどその工場街付近に差し掛かった。

 

 

「……酷い事する奴も居たもんだな」

 

 

「……そうだね」

 

 

工場街からさほど離れては居ない居住区の中を、古城と集は歩いていた。下手に他の者に遭遇しない様に細心の注意を払って、なるべく目立つ大通りは避けて、細道を選んだ。

そして、その工場街に転がっているのは、特区警備隊(アイランドガード)と思しき人物たちの屍骸だった。一般人は非難が終わっていたらしく、一般人と見られる屍骸が無いのが救いかもしれない。

もしかしたらと思い、転がる特区警備隊(アイランドガード)の息があるかどうかを逐一確認するが、今のところ息があった者は居なかった。屍骸の傷口はどれも猛獣の爪に切り裂かれた様になっており、酷いものだと頭から真っ二つになった屍骸もあった。

 

 

「うっぷ……さすがに、こういうの生で見ると、キッツイな」

 

 

「うん、そうだね。けど、その『サルト』って麻薬を売買している人達だけでこんな事を?」

 

 

「さぁな。バイヤーには魔族も混じってたって話だし、それにそのバイヤー共自身が『サルト』ってのを使ったのかもしれない」

 

 

「ん?使うと、こういう事態が起こるってこと?」

 

 

「んー、俺も又聞きだから詳しくは知らないんだが、『サルト』ってのは訳すと、『塩』だろ?人間には必須のものだ」

 

 

集は黙ってうなずく。確かに塩というのは古代ローマにおいては給料として用いられる事もあり、貴重品でもあった。また人間にとっては欠かすことの出来ない栄養素だ。

 

 

「まぁ、その名の通り他の麻薬と比べて、恐ろしいくらい依存性が強いらしい。それこそ人間にとっての『塩』みたいに一回接種しちまうと、それ無しじゃ生きていけないくらいにな」

 

 

「……怖いね、それは」

 

 

「そうだな。だが、本当に怖いのは副作用らしくてな」

 

 

「副作用?」

 

 

「ああ。何でも、あまりに多量に摂取しすぎると、幻覚を見ちまって錯乱して暴れまわるらしい。暴れる際には、通常時の約10倍くらいの力で暴れまわるみたいでな」

 

 

「……10倍、か。結構大きいね」

 

 

「ああ。まぁ、これがただの人間ならまだ良いんだが、元々の筋力が上の獣人とか吸血鬼とか魔族に作用したら問題らしい。まぁ、魔族の場合は代謝とかの問題で、人間ほどの力の向上は見込めないって話みたいだけどな」

 

 

「けど、そんな風に暴れまわったら……」

 

 

「ああ。錯乱状態になった奴は例外なく、廃人コースらしい。だからこそ、特区警備隊(アイランドガード)も必死こいて、ここまでの規模で作戦を展開してたんだろうけど、この惨状じゃ結果は芳しくは無いみたいだな」

 

 

「そう、みたいだね……………ん?古城、ごめん。少し待ってくれるかな?」

 

 

「ん?いいけど、何でだ?どこにコレを起こした張本人が居るか分かんねえから、あまり時間は無いぞ?」

 

 

「うん、分かってる。ちょっと待ってて」

 

 

集は草間花音のヴォイドである『レーダー機能付のメガネ』を発現する。横に付属しているボタンで幾つかの調節をすると、画面内がサーモカメラに切り替わる。それで周囲を見回した後、集はボロボロになった家屋に近付き、扉を開け中に入る。古城もそれに続き、家屋内に浸入する。

 

 

室内は屋外同様にボロボロになっており、家具は荒らされ壁には大穴が空いている。そして、そんな中に横たわっている特区警備隊の屍骸を見て、古城は舌打ちをしつつ目を逸らす。集はお構いなしに、近付き体を仰向けにさせて、ヘルメットを外して気道を確保するようにした。歳は20代か、30代というところか。メガネを掛けて、精悍な顔つきの男性だ。

 

 

「大丈夫ですか?ここが何処だか分かりますか?」

 

 

「…………ぅ」

 

 

「っ!?生きてるのか!?」

 

 

古城も集同様に気を失っていた特区警備隊に近付く。腕の部分がやや深めに斬られてはいるが、派手に出血している箇所はそれのみであり、他は目立った外傷はない。古城は来ていたパーカーを破いて、無造作ではあるが出血箇所に包帯代わりに巻いていく。若干キツ目に巻いて、止血も同時に行う。その時に痛みが走ったからなのか、気を失っていた本人は意識を覚醒させた。

 

 

「…うぅっ…………き、君たちは?痛ッ!」

 

 

「おいおい、あまり無理すんなよオッサン。一応腕の傷は塞いじゃいるが、血はまだ止まり切って無いんだからな」

 

 

「古城の言う通りです。僕らは、えっと……たまたま近くに居た学生です。モノレールで避難しようとしてたんですけど、置いて行かれてしまって」

 

 

「そ、そうか。オッサンって歳でもないと思――いや、でももうオッサンなのか?………う、うーん……取り敢えず、俺が避難区域まで送り届けよう。この怪我では戦線に復帰しても足手まといだろうからな。いつつ……」

 

 

 

止血された腕を擦りながら、立ち上がった後に床に転がっていた小銃を拾い上げて外へと出て歩き始める。よろけた東條に古城が肩を貸して、東條が礼を言う。

 

 

「おっと、悪いね。これじゃどっちが護衛されてるか分からんな。っと、そうだった。自己紹介がまだだったな。俺は魔族特区“絃神島”特区警備隊所属、東條秋彦だ。ま、多分短い間だろうけど、よろしく」

 

 

「僕は桜満集です。よろしくお願いします」

 

 

「暁古城だ。ってか、大丈夫なのかよ、東條さん?」

 

 

「うん?何がだい?」

 

 

「いや、腕」

 

 

「ああ、平気平気。腕をやられるのは別に初めてじゃないしな。それにこんな事で騒いでたら、南宮攻魔官にどやされる」

 

 

「あー……那月ちゃんなら確かにやりそうだな」

 

 

「ま、そこが魅力でもあるんだがな」

 

 

メガネをキランと光らせて、東條は得意げに言う。古城と集は何だか、この大人は若干なりとも、ダメな大人な気がしてならなかった。

 

 

「……東條さんって、Mなのか?」

 

 

「おおぉい!初対面の人物に向かって失礼だな!」

 

 

「いやけど、なぁ?」

 

 

「あ、あはは……」

 

 

「はぁ、分かって無いな、若人たちよ。見た目は若干アレだが、それ抜きにしても、南宮攻魔官は美人だ!まぁ、胸が無いのがちょっとアレなんだけど……そして美人上司と働ける職場なんて、そう無いんだぞ!?それだけで、この危険な仕事もやっていける!!」

 

 

「「…………」」

 

 

あぁ、やっぱりダメな大人の匂いがすると古城と集は思わざるを得なかった。そんな歓談から、集は話を本題に戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、東條さんを襲った相手って?」

 

 

「ああ、その話か。ま、一般人にこの手の話は本来禁止なんだけど、状況が状況だし、知っておいた方が自衛の時は役立つか。俺たち特区警備隊は今この島で問題になってる『サルト』を売買している連中の炙り出しに成功した。成功したはいいんだが、まさか魔族連中が逃げるために『サルト』を使うとは思わなくてな。使っちまったら、廃人コース確定だってのに」

 

 

やれやれと東條は首を振る。

 

 

「まぁ、その結果がこれじゃあなー」

 

 

古城はそう言って、周囲のボロボロになった工場街を見回す。所々が焼け焦げたり、窓は割られ外壁は破壊された建物ばかりだ。無事な建物が一切ない。

 

 

「はは……まぁ、そこを突かれると痛いところだな。確かにコッチの作戦の見通しが甘かったと言わざるを得ない。けど、今まではもっと綿密な作戦だった筈なんだがなぁ。なぜか今回に限って少し何時もの感じと違う作戦内容だったんだよ。まぁ、こんな事言っても言い訳にしか聞こえないだろうけど」

 

 

苦々しく笑う東條を見て、集は申し訳なく感じていた。いや、東條だけにではない。ここに来るまでに見かけた特区警備隊。平穏を破壊されたであろう、ここに住んでいた住人達。集の脳裏には矢瀬の言葉が思い出されていた。

 

 

『事が起こったら俺に合わせてくれ』

 

 

そう、あの矢瀬という少年は事が起こる事を知っていた。そして、何時もとは異なるという、特区警備隊の作戦。集は想像したくも無い事を思い浮かべてしまう。しかし、その考えが当たっている気がしてならないのだ。

 

 

「ん?どうしたんだ、桜満?」

 

 

「あ、う、うん、何でもないよ。何でも」

 

 

表情が暗くなった集のを気遣いつつも、集本人が何でもない、と言った事で古城もそれ以上は追及しなかった。

 

 

「っ!!隠れろ!」

 

 

「おわっ!?」

 

 

東條が何かを察知したのか、急に古城を路地裏の方へと突き飛ばし、集の手を引いて古城の居る路地裏へと入る。壁から顔を少しだけ出して先を確認すると、目の焦点が合っていない獣人が幽鬼の如くフラフラと同じ場所を徘徊していた。それも、一人ではない。さらに100mほど先へ進んだ場所にも朧げだが、姿が確認できる。

 

 

「ちっ、まだこんな所をウロウロしてるのかよ!他の特区警備隊は………ダメだな。無線に誰も出ない」

 

 

「って事は、特区警備隊は全滅って事か?」

 

 

「いや、伊達に武装してないさ。おそらく、作戦の練り直しって名目で撤収したんだろ。ってか、ここまで来たら、南宮攻魔官が出てきて解決って状況を期待したんだが、中々うまくいかないな」

 

 

「……他に道は無いのかよ、東條さん?」

 

 

「残念ながら、アイランド・ノースの端から島の中心部に出るには一度はこの大通りを通らないといけない。防犯のための措置だったんだが、完璧裏目に出たな、クソッ!」

 

 

悔しそうに悪態を吐く東條だが、大通りを再び見て焦った。獣人が明らかにコチラヘ近付いてきているのだ!

 

 

「あぁ!?何で、コッチに……そうか、俺の血か」

 

 

獣人の真に恐ろしいのは突出した身体能力ではない。動物由来の野性的な勘と、その鋭敏な五感である。彼らは総じて、五感が鋭い。例えば、たった数百メートル離れた先の血の匂いを嗅ぎつける事など造作もないのだ。

そして、現在近付いてきている彼らは、『サルト』によって、よりそれらの能力が強化されている。

 

 

「あー、クッソ。ツイテないなぁ………じゃ、本当に短い間だったけど、桜満君と暁君は逃げなよ。今から来た道を引き返して、アイランド・ノースの島端まで行くんだ。そこだったら、目立つから救助がすぐに来るはずだ」

 

 

「なら、アンタも一緒に――」

 

 

「俺はまともに動けないし、この怪我が奴らを引き付ける。一緒に行けば共倒れだ。ま、気にしなさんな。これが一般人を護る俺の仕事なんだからさ……さぁ、俺が合図したら一気に走れよ?」

 

 

「東條さん、アンタ――」

 

 

「行けっ!!」

 

 

東條は古城と集の背中を思いっきり押すと同時に、所持していた小銃の引き金を引いて、一体目に突貫していく。

 

 

「くたばれ、バケモノ!!」

 

 

「ぐ…うぅぅ……!おぉぉぉ!!」

 

 

「ちぃっ!!」

 

 

東條の撃った弾丸は確かに獣人に命中したが、最後の足掻きとして右腕を振り上げる。腐っても元々身体能力が高い上に、さらに強化された獣人だ。一撃でも貰えばたまったものではいだろう。しかし、相手は錯乱状態なうえに、大振りだ。そうであれば、次の行動は予測できる。

 

 

東條はスライディングで滑り込むようにして、相手の横なぎの一撃を躱しつつ、下から容赦なく銃撃を加えた。何発もの弾丸を受け、さすがの獣人も倒れた。東條は素早く起き上がり、次に備える。いや、備えようとした。

 

 

「くっ……あー、くそ。やっぱ映画じゃあるまいし、格好良くは決まらねえか」

 

 

立ち上がろうとしたが、既に東條には立ち上がるだけの体力は残っていなかった。腕の傷の方を見ると、今の動きが祟ったのか傷口が開き、出血の量が増加していた。

失血による意識の混濁。東條には迫ってくる二体目の獣人を前に、為す術はない。既に目を開けているのも億劫に感じてきた。そして目を閉じると、彼の脳裏に走馬灯がよぎる。

 

 

 

 

 

(あ、やべ。これ見えるって事は俺死ぬのか………

はーあ……ツイテないな、ホント)

 

 

 

 

 

最後の最後まで、気の利いた事も考えられずに死ぬのかと、東條は内心で自分に悪態を吐きつつ、最後に脳裏に浮かんだ二人の少年の心配をする。

 

 

 

 

(ったく、これで逃げ切って無かったら化けて出てやる)

 

 

 

 

薄っすら目を開けると、大口を開いた獣人が見下ろしていた。ああ、この獣は自分を捕食するつもりなのだと悟る。東條はせめて一矢報いるくらいはと思い、既に動かない体に鞭打って銃口を獣人に向けようとする。しかし、死人同然の人間にとって銃は重すぎた。全く上がらないのだ。

ああ、これで最後なのかと思い、せめて最後の風景を目に焼き付けようと、目を開く。

 

 

 

「カッコつけすぎだぜ、オッサン!!」

 

 

「自分だけ死のうなんて、考えないで下さい!」

 

 

「…………っ」

 

 

 

 

東條の目に映ったのは、二人の少年の背中だった。一人は何かを右手に持ち、もう一人は電気を体に纏わせている。

 

 

その光景を最後に、東條は意識を失った。

 




えー、詰め込んだ為に、所々がちょっとアレですね・・・
以後気を付けます。


ここで出てきた東條というキャラクターですが、武器商人と旅をした少年のお話に出てくるお仲間です。あの中で日本人って彼だけなのでここで登場させました。


ではでは、今回はこれまで。
アデュ~~♪

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。