Blood&Guilty   作:メラニン

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今回は完璧にオフの話です。


あと、この作品のスピンオフ的な話も投稿しましたので、興味がございましたら、そちらの作品の方も宜しくお願い致します。集といのり成分多めのお話ですね。(宣伝!w)


では、どうぞ!


王の休日
王の休日編I


 

 

日本の魔族特区である絃神島。人の手により作られたその人工島は、東京の南洋上に存在しており、そのため年間を通して高温多湿である。故に、住人はそれらの不快な環境から逃れるため、様々なものに頼ってきた。例えるならば冷房などは、その最たる例だろう。しかし冷房は電気が無くては動かない。

 

 

アイランド・サウスのマンションでは急な停電により、電気の供給がストップしていた。故に、不快な環境に対抗する術である冷房は軒並み停止している状態である。

 

 

「あ、あぢぃ〜〜……」

 

 

リビングのフローリングに横たわり、脱力しているのは、この家の長男である暁古城である。少しでも涼を取ろうと、フローリングに顔を付け、ヒンヤリとした感触を貪っている。これが世界最強の真祖だというのだから、世も末である。

 

 

「もう、古城君!だらしないよ!仕方ないでしょ、発電プラントが一部動かなくなっちゃったんだから」

 

 

兄を叱り付けるのは、しっかり者の妹である暁凪沙その人である。

 

 

「んな事言ったって、仕方ねえだろ?この気温に湿度はさすがに堪える」

 

 

「もー、またそんな事言って」

 

 

「そういや、冷蔵庫の中身無事か?」

 

 

「何の為に私がこんなに重い氷を買ってきたと思ってるの!古城君が手伝ってくれなかったから、スッゴイ大変だったんだからね!」

 

 

暑い中自分だけが労働させられた事に、凪沙は腹を立てて、プックリむくれてしまっている。いつもの古城であれば、ご機嫌取りくらいはするのだが、今の彼には残念ながらそんな余裕はない。

 

 

「はぁ……まぁ、結局は集さんに手伝って貰ったから良いけど」

 

 

その言葉を聞いた瞬間に古城はガバリと起き上がり、キッチンに居る凪沙を見る。さっきまで、むくれていた筈が、若干明るくなっているのだ。………本当に、妹の機微にだけは敏感な男である。それを少しでも周囲の女性陣に使えれば、評価も扱いもマシにはなるというのに。

 

 

「……桜満に手伝ってもらったのか?」

 

 

「うん、そうだよ。って言うか、このマンション全体が停電してたから、同じ考えの人でスーパーの製氷売り場すごい事になってよ。私だって揉みくちゃにされて、集さんが居なかったら買えなかったよ」

 

 

「……桜満も氷を買いに来てたのか?」

 

 

「集さんも同じ考えだったみたい。それでオバちゃん達に弾き出されたところで偶然会っちゃって。『僕が買ってくるから、少し待ってて』って言って、サッと買ってきてくれたよ。古城君とは大違いだよね〜」

 

 

「………悪かったな」

 

 

凪沙は少しイタズラな笑みを浮かべ、今度は古城がむくれてしまった。ガサガサという音が聞こえなくなり、凪沙の作業が終了した事を報せる。その途端、凪沙は部屋へとパタパタ走って行き、何やら準備を始めたようだ。

 

 

「ん?凪沙ー、どっか行くのか?」

 

 

「ちょっと水着買ってくるー!」

 

 

「水着?この前買ったばかりじゃなかったか?」

 

 

「アレって安売りしてたヤツだからデザインがね〜……あれより、もうちょい大人っぽいのが欲しいの!って事で古城君、お留守番よろしく!」

 

 

「プールにでも行くのか?」

 

 

「うん!さっき買い物の時、集さんにお呼ばれしちゃった♪」

 

 

その瞬間古城は、慌てた様に凪沙の部屋の前へ移動する。その間僅か0.5秒。こういう時には殊更、俊敏である。何せ、あれだけダレていたというのに、吸血鬼の身体能力をフル活用しているのだから。

 

 

「ま、待て待て!えぇっと……ほ、他に行くメンツは分かってんのか!?」

 

 

「んーー、多分いのりさんは来るでしょ?あと、他にも矢瀬っちにも声掛けるって。……え、古城君も行くの?さっきあれだけダラけてたから行かないと思ったんだけど」

 

 

「お、おう!行くぞ!今すぐ桜満に声掛けてくる!」

 

 

「あ、古城君!……はぁ、さっきまであんなにダラけてたのに。あ、そうだ!雪菜ちゃんにも声掛けてみよっと。あとそれから……」

 

 

そしてそのまま、凪沙は家を後にし、雪菜と共に出掛けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイランド・ウェストとアイランド・サウスの境目付近には、絃神島の住人が楽しめるよう、娯楽施設として市民プールが解放されている。50mプールに、子供用の浅いものから、ウォータースライダーに流れるプールまであり、ちょっとしたレジャー施設である。

 

 

現在の時刻は12時丁度であり、集が指定した集合時間であった。集まったメンバーの内、男子メンバーは集、古城、基樹である。女子メンバーは、いのり、雪菜、凪沙、浅葱、夏音、倫であった。女性陣の方が人数的には2倍である。

 

 

「思ったより集まったなぁ」

 

 

「にしても、桜満君。よく懸賞でプールのタダ券なんて当てられたね。そのチケットってアンタらの近所のスーパーの懸賞のヤツでしょ?あれって当たらない事で有名なのに」

 

 

「そうそう!凄かったんだよ、集さん!こう…一気にギャルンッ!って回してさ。店員さんもビックリしてたよね」

 

 

「あはは…まぁ、一回目じゃ当たらなかったけどね」

 

 

「おいおい集、そんなに回して店員に怒られなかったのか?」

 

 

「注意はされた…危ないのでって」

 

 

「ま、確かにな」

 

 

「けど、中の玉って色ごとに重さが違うだろ?それを考えると、早く回した方が当たりが出やすいんだよ。……気休め程度には」

 

 

「ま、何でもいいわ。ほらお倫、いのりさん、凪沙ちゃん、姫柊さん、それと…叶瀬さんだっけ?行くわよ」

 

 

「おぉ!?浅葱張り切ってるねぇ。今回の水着は自身ありなのかにゃあ?」

 

 

「う、うっさい!」

 

 

「はいはい。じゃあ、暁達あとでねー」

 

 

女性陣は集からチケットを受け取ると、女子更衣室の方へ入っていった。それを見た男性陣もチケットを受付に渡し、入場するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………人が居ねえなぁ」

 

 

着替えを済まして、プールサイドに足を踏み入れた古城の第一声がそれだった。彼の言うとおり、休日だと言うのに、人がほぼ居ない状態である。チラホラ居るには居るが、年配の年齢層ばかりである。

 

 

「あぁ、そういや段階的にブルーエリジアムが解放されてっからなぁ。確か今だと、周辺の遊覧船と、リゾートプールは使える筈だぜ?」

 

 

「確か新しく出来たっていう人工増設島(サブフロート)だっけ?複合施設の」

 

 

「そう、それそれ。ま、遠出が苦手な老人がコッチに来たって訳だな。この島の住人は新しいモンが好きだからなぁ。………って言うか、お前ら暑く無えのか?」

 

 

「………暑いに決まってんだろ」

「………暑いよ」

 

 

彼らが身につけているのは膝上くらいまでの丈がある、よくある短パンタイプの水着である。だが、上半身を陽射しに晒しているのは基樹だけである。集と古城の2人は薄手のフードが付いたシャツを羽織っており、それがまた長袖のため見ている方が暑苦しくなる様である。

 

 

「なら、脱いどけよ……」

 

 

「いや、僕はほら、人工皮膚が目立つし」

 

 

「俺は……日射病予防してんだよ」

 

 

2人の解答に、基樹はガクッと肩を落とす。ある意味理解できるが、同時に呆れてもいるのである。少なくとも集の右腕の人工皮膚は深森が訳の分からない本気を出して作成した特注品である。近付いてもパッと見は分からないほどだ。

 

 

「ま、いいや。取り敢えず、女衆が出てくる前に拠点を確保しとこうぜ?後でドヤされたくねーしな」

 

 

「そこは賛成。いい加減クーラーボックスが重いし」

 

 

集は肩から提げているクーラーボックスを見る。一応、熱中症対策として持ってきた物だ。中には氷、各種ドリンクなどが入っており、準備万端である。人が少ない事もあってか、拠点に出来そうな場所を見つけ、借りてきたパラソルを土台に取り付けて開く。簡易的だがそれで完成だ。集は肩の荷を降ろし、日陰に座り込む。

 

 

「おいおい、集。休むには早過ぎないか?これから遊ぶんだぜ?」

 

 

「分かってるけど、一旦座らせて」

 

 

「あー、そういや、運動出来るもんだから忘れちまってたけど、桜満ってインドア派って言ってたな」

 

 

「まぁね。別に疲れてる訳じゃないんだけどさ」

 

 

「お、いたいた!おーい、男どもー!コッチコッチー!」

 

 

騒々しい声が聞こえ振り返れば、そこには各々水着を着こなした女性陣がいた。全員ビキニタイプのものを着用し、いのりと浅葱の2名はパレオを巻いている。

 

 

「ふっふっふっ、どうよ!男ども!美少女達の水着に刮目しなさい!」

 

 

「何を言ってるんだ、お前は……」

 

 

「えー!暁、反応薄過ぎ!ほら、浅葱を見てみてよ!この子、去年より育――あいたあぁぁぁ!!」

 

 

「お、お倫!!何を言おうとしてんのよ!!ち、違うから!ちょ、ちょっと、最近食べる量減らしたら、夜食をつまむ様になっちゃっただけで、た、体重はそ、そこまで…………バカーーー!!」

 

 

「うごほっ!!?」

 

 

倫は背中に紅葉の手を食らい、古城は腹部へ正拳突きを食らうという何ともヴァイオレンスな状況である。

 

 

「な、何すんだ…浅葱……」

 

 

「お、お兄さん、大丈夫でしたか?」

 

 

そこに、古城を心配する様に夏音が駆け寄って介抱する。後日、古城曰く、本当にこの状況において、彼女は天使の様であったとの事。

 

 

「わ、悪いな、叶瀬……」

 

 

「い、いえ。お兄さんには、先日助けていただきましたから」

 

 

古城は夏音に助け起こされる。攻撃を受けた患部をさすりながら、加害者へ視線を移す。

 

 

「浅葱、お前な…」

 

 

「わ、悪かったわよ!け、けど、バラされたくない事の1つや2つあるもんでしょ!?」

 

 

「まぁ、そこには同意するが、だからって腹パンは止めてくれ。地味に痛え」

 

 

「う……き、気を付ける」

 

 

「うー、イチチ……ひ、日焼けしてないのに、背中が…!背中がヒリヒリ…!」

 

 

事の全ての起こりである倫は赤くなった背中をさする。浅葱に叩かれた部分が赤く染まっており、見ているだけで痛々しい物である。

 

 

「倫、大丈夫?」

 

 

「うぅぅ、ありがと、いのりん。私の良心は、いのりんだけだよ…」

 

 

倫はいのりにヒシ…と抱きつくが、頭をグイと押され、遠ざけられる。

 

 

「倫、暑い」

 

 

「ヒドッ!上げて落とした!?ちょっと、桜満君!奥さんが冷たいよ!?」

 

 

「はぁ……築島さん、そんなだから冷たくされるんだよ」

 

 

「この冷血夫婦!」

 

 

何かが取り憑いているのかと思うくらい倫は騒ぎ立てていた。どうやら、このバケーションは人をおかしくする様である。

 

 

「お倫ちゃん、元気だね。何かあったの?」

 

 

「ううん、別に何も?暁達をイジって遊んでるだけ。けど、桜満君と、いのりんはダメねぇ。ヒョイヒョイ躱すんだもん。あ、そうだ!ねぇ、暁。凪沙ちゃんの水着どうよ!?さっきここ来る前に、水着売り場で私がコーディネートしたんだけど」

 

 

倫は自信満々で、凪沙を前に押し出す。凪沙に似合う明るいコバルトブルーの水着だ。

 

 

「ん?んー、妹の水着をどうよ、と言われてもなぁ………まぁ、良いんじゃねえか?ただ、まだ成長途中の凪沙にビキニは早いぃたたたたた!!足!おい、凪沙!足!!」

 

 

「古城君、うっさい!!」

 

 

凪沙は兄の足の甲を踵でグリグリと抉る様に踏み付け、キッと睨みつける。確かに多少背伸びをしてしまった感は否めないが、多少なりとも自信はあった様である。それを踏み躙った兄には容赦のない制裁が待っていた。ようやく解放された足を、古城は再びさすり、痛みを和らげようとする。

 

 

「はぁ、やっぱ暁はポンコツよねぇ。さ、では、他の人の意見行ってみよう!って事で、桜満君!」

 

 

「また来た、キラーパス!」

 

 

突如振られた事で、何も言葉が浮かんでなかった集は一瞬たじろくが、もう一度凪沙の姿を目に納め、素直な質問を述べようとする。こういう時、変に過大評価をしても過小評価をしてもいけないという事を、集は学んでいた。

 

 

「………しゅ、集さん、見過ぎ」

 

 

「え、あ、あぁ、ごめんね!……うん、そうだね。似合ってる。凪沙さんは明るい色がやっぱり似合うと思うよ。凪沙さん自身が明るい性格だからかな?それにお世辞抜きでも、凪沙さん自身が可愛いしね」

 

 

「えと……あ、ありがと…集さん」

 

 

予想外の賛辞に凪沙は口元が緩む。が、若干不満気にいのりが頬を膨らませていたのは言うまでも無いだろう。と、そこに復活した古城が再び話に加わる。

 

 

「ってか、築島と凪沙って面識があったのか?」

 

 

「ううん、無かったよ?桜満君から連絡が来たから、浅葱と急いで水着買いに行ったら、たまたま一緒になったのよ」

 

 

「そうそう、それでお倫ちゃんに水着選んでもらったんだよ」

 

 

「「ねー」」

 

 

綺麗にシンクロし、声が重なった。どうやらこの2人は気が合う様である。元が騒がしいという根底の部分で意気投合しているのかもしれない。

 

 

「コーディネートしたと言えば、姫柊ちゃんもだよね。いやぁ、凪沙ちゃんもそうだったけど、素材が良いから選び甲斐があったよー。ほらほら、姫柊ちゃんも感想言ってもらったら?」

 

 

「い、いえ、遠慮しておきます」

 

 

雪菜の水着は白を基調にして、細かい蝶の模様が青でプリントしてあるものである。よく似合っている筈だが、雪菜は感想を言ってもらうという事に関しては消極的な様だ。

 

 

「およ?何で?」

 

 

「………以前、先輩に服装に関して感想を言ってもらった時が酷かったので」

 

 

ジト目で雪菜は古城を睨みつける。雪菜の言う以前というのは、衣装合わせとしてチア服を古城に披露した時である。その際は、むしろ不機嫌になる様な事を言われたので、あれ以降感想を言ってもらうというのは回避しているのだ。

 

 

「あー……まぁ、今の凪沙ちゃんの感想も酷かったしねぇ」

 

 

「古城は感想言うの苦手?」

 

 

「いや、違うと思うよ、いのり。古城の場合、思った事はしっかり感想として言えてるんだ」

 

 

「お、桜満…もう味方はお前だけだ……」

 

 

「けど、酷い感想と取られるって事は、古城の感性が残念なんじゃないかな?」

 

 

「お前も上げて落とすのかよ!!?」

 

 

ドッと笑いが起きる。当の古城本人は苦い顔ではあるが。それでも平和な1日になりそうだと、古城は内心笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜〜、冷たくて気持ちい〜〜」

 

 

50mプールでは、浮き輪に乗っかった凪沙がプカプカと浮いて、涼を取っていた。その隣、競泳用に設置されている2つのレーンでは、暑苦しいデッドヒートが繰り広げられていた。

 

 

「ぜぇっ、はっ……お、おっしゃ……か、勝った…ぜ……」

 

 

「はっ……はぁ…はぁっ……………じ、持久力戦に………も、持ち込まれたら…ムリ……」

 

 

片方はさっきまで2敗していた古城で、もう片方は2連勝していた集である。彼らは50mの片道をクロールで競い合っており、意外にも集が先にゴールしてしまったのだ。泳いだらドッチが速いかという事を基樹が言い出し、実際に競ってみる事になり、現在に至る。

 

 

「よし!今度は私の勝ちね!ほら、基樹!さっさと買ってきなさいよ。私、ラムネね」

 

 

「だぁ〜〜〜!!惜しい!集頼むぜ!俺、今月ピンチなんだからよ!」

 

 

「さ、さっき勝たせてあげたじゃん…はぁ…はぁ……久々に全力で泳いだから、キツイ…」

 

 

「ま、そうなんだけどよ。はぁ、初買い出しだな。いのりちゃんもだな」

 

 

「ん、分かってる。負けは負けだから。けど、買い出しは財布取ってきてから」

 

 

「矢瀬っち、私ファ◯タ!あ、オレンジ味ね」

 

 

「私はさっきのが残ってるので、大丈夫です」

 

 

「わ、私もでした。今飲んでるのだけで、充分でした」

 

 

「あ、矢瀬、いのりん、私ウーロン茶!」

 

 

「はいよー。じゃあ、行ってくるなー」

 

 

「ひ、人を泳がせといて賭けまでしやがって……楽しそうだな、お前ら……」

 

 

「何よ、元運動部でしょ?こんくらいでバテてんじゃ無いわよ」

 

 

いのりと基樹の2名は賭けに負けたと言う事で、買い出しとなった。

 

 

そして古城は、既にプールの中からプールサイドに上がっている浅葱に不平を言うが、彼女はそれをサラッと流す。伊達に中学の頃からの付き合いではないという事だろう。扱いを心得ているのだ。それとは対照的に、集の方にはスポーツドリンクの入ったペットボトルを渡す、凪沙の姿があった。いつの間にやらプールから上がった様で、手元には浮き輪がある。

 

 

「集さん、平気?」

 

 

「はぁっ、は………あ、ありがとう、凪沙さん」

 

 

集はボトルを受け取ると、ボトル内に残っていたスポーツドリンクを全て飲み干して、一息付いていた。

 

 

「それにしても、何時だかのミニバスの時もそうだったけど、集さんって意外と運動できるよね。最初と2回目の競争でも古城君に勝ってたし」

 

 

「えっと…ま、まぁね。色々とあって鍛えられたというか……けど、持久力はあまり無いからなぁ……」

 

 

「で、一方の暁は体力バカよねー。もう息切れして無いし」

 

 

「当たり前だ。元とはいえ、運動部だったんだからな。さてと……じゃあ、覚悟はいいよなぁ、桜満?」

 

 

「ぐ……あ、当たりませんように当たりませんように……」

 

 

「では、次は桜満先輩ですね」

 

 

集は手を合わせて祈りようなポーズを取る。それから古城も集も一旦プールから上がると、雪菜が前に出てくる。雪菜の手元には、ソフトドリンクの入ったカップと、何やら異様な威圧感を発するバスケットがあった。ソフトドリンクのカップは、雪菜のものだが、バスケットの方は違っていた。

 

 

これは倫と浅葱が軽食にと作ってきたサンドイッチが入ったバスケットなのだ。倫が言うには、最初の内は倫だけが作っていた筈なのだが、浅葱が余計な気を利かせて、手伝ったそうなのだ。何とか浅葱が作ったものを入れるのは避ける事ができた――筈であったのだが、最後の最後で倫の目を盗んで、浅葱作のサンドイッチを入れたというのだ。

 

 

それを目撃した倫は、急いでバスケットを開いて、中を確認したが混ざってしまったために、どれだか分からず、そのまま持ってきたという。何とも有り難迷惑な話である。

 

 

 

 

 

 

 

そして、集と古城の罰ゲームとしてそれが使用される事となった。当然浅葱は「今回は大丈夫!」と言っていたが、本人は味見してないと言うので、信用は出来ない。作ってきた数は計25個。古城が2つ食べ終えたので、残りは23個である。つまり単純計算すれば、23分の1。

 

 

見た目は普通と変わらないというのが、また恐ろしい所だ。内1つの中身はクラスメイトを病院送りにしたと名高い、浅葱の料理(生物兵器)なのである。普段、物怖じしない雪菜でさえ、若干顔が引き攣っている。

 

 

集は意を決して、23個の中から1つを掴み取り、恐る恐るゆっくりと口に運んでいく。一口齧り、咀嚼し始める。

 

 

「……んぐ……た、食べられ、る?」

 

 

「はぁ……またハズレか」

 

 

「はっはっはっ、良かったじゃん、暁。まだ浅葱の手料理残ってるよ?」

 

 

「……そもそも、築島が持ってこなけりゃこんな事にはならなかったんだぞ?」

 

 

「あ、ひっどーい!人の好意を無下にして!ねぇ、桜満君!………ありゃ?」

 

 

倫は集からの返事がなく、サンドイッチを片手に固まってしまっている集を見る。他のメンツも同様だ。次第に顔から血の気が引いていっているのか、顔面蒼白といった色となり始める。そして、次の瞬間――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………ふぅ」

 

 

ザッパンッ!!という大きな音を立てて、そのままの体勢でプールに落っこちてしまったではないか。つまり、浅葱の料理(生物兵器)はついに時限機能を搭載したのだ。

 

 

「しゅ、集さん!?」

 

 

「桜満先輩!?ひ、引き当ててしまってたんですね!?」

 

 

「あ、暁!引き上げないと!」

 

 

「分かってる!!」

 

 

古城がすぐに飛び込み、沈んでしまっている集を引き上げる。水中の中でだけ、一瞬吸血鬼の力を使って一気に引き上げ、水面に出る瞬間には目が元の色に戻る。金属製の手すりを使いながら、集を引き上げ、プールサイド上に横たえる。

 

 

「おい、桜満!桜満!」

 

 

古城が肩を揺するが、返事がない。結構な力で揺らしているのだが、一向に目を覚ましそうにない。不審に思った雪菜が手持ちのものを側に置いて、屈み込んで集の口に手を当てる。

 

 

「待って下さい、暁先輩!…………………い……息が……」

 

 

「「「「「「………へ?」」」」」」

 

 

「………お、桜満先輩…息、してません」

 

 

「はあぁぁぁ!?」

 

 

「ま、マジで!?そ、そうだ!人工呼吸!誰かよろしく!私、やり方知らん!」

 

 

「お、俺も――」

 

 

「あぁぁ、もう!古城君、そこ退いて!私がやるから!」

 

 

「は?凪沙スト――」

 

 

アタフタする年長者を押し退け、凪沙は横たわる集の元へと駆け寄る。横たわる集の胸部に手を置いて、心音を確認し、顎を上げて気道の確保をする。鼻をやや強く摘んで、空気の漏れが起こらない様にして、一気に空気を送り込む。

 

 

「……ふぅーーー!」

 

 

固唾を飲んで周囲は見守り、凪沙は何回か人工呼吸を繰り返す。4回目の人工呼吸をしたところで、ゲホッと集が咳き込み、息を吹き返した。

 

 

「ごほっ!ごほっ!………あ、れ?僕さっき……」

 

 

おぉ!という歓喜の声を一斉に上げて、彼らは一安心する。

 

 

「大丈夫でしたか、桜満先輩?」

 

 

「えっと………姫柊さん、大丈夫だよ、ありがとう。……僕どうなってた?」

 

 

「もしかして、覚えてない?浅葱のサンドイッチ引き当てて、卒倒したのよ。で、プールにドボン。さっきまで息もしてなかったわよ?」

 

 

「……臨死体験してたんだ」

 

 

「三途の川は見えた?」

 

 

「冗談でもやめてよ、築島さん。…………んーと、凪沙さんが蘇生してくれたのかな?」

 

 

「あ、え、えーーと………」

 

 

隣に立膝を突いている凪沙に視線を投げかけて集は礼を言ったのだが、凪沙は気恥ずかしそうに視線を逸らす。

 

 

「えっと、ゴメン、桜満君………まさか、こんな事になるとは思わなくって……」

 

 

申し訳なさそうに、事を起こした原因の製作者は集に声をかける。集は苦笑いしつつ、頭を下げる浅葱に頭を上げる様促す。

 

 

「あはは……僕は大丈夫だからさ、頭を上げてよ藍羽さん」

 

 

「………いや、でも本当に桜満君がコレで死んだら、明日のニュースの死因がどう報道されるか、ちょっと考えちゃった」

 

 

「そういうのは、冗談でもやめて」

 

 

集は嘆息して肩を竦める。その後、基樹といのりが飲み物を持って戻って来たので、軽い事情説明を挟んで、再び遊び始める事と相成った。

 

 

ただ1つ。集には不安になる事があった。それは、意識を取り戻してから、一度も話しかけてこない監視対象である。

 

 

 

 






臨死体験後に遊ぶのはやめましょう。


という事で、水着回でした!まぁ、あんま詳しく水着描写はしませんでしたが・・・
(そこは、読者の方々の想像力にお任せします!)


この、息抜きの章は合計3話で終わる予定です。


ではでは、また次回!

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