Blood&Guilty   作:メラニン

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今回は連投です。まぁ、キリが良いですし。


あと、途中で若干生々しい話が入ってるんで、苦手な方は、まぁ・・・


けど、最後の方は、集といのり好きな方は読んで頂ければ幸いです!


では、どうぞ!


天使炎上編XVIII

 

 

未だに氷塔が聳え立つ無人島の氷原となった砂浜では、白銀の髪を持った少女が横たえられ介抱されていた。幸いなことに、しっかりと息はあり、現在は規則正しいリズムを刻んで寝息を立てている。

 

 

彼女の周囲にいるのは、いのり、雪菜、ラ・フォリアである。それとは少し離れた場所で、氷塊にもたれ掛かる叶瀬賢生(かなせ けんせい)の側には、彼を見張る様にして古城が立っていた。だが、互いに視線は合わせず、未だに眠る夏音の方へ2人の視線は向いていた。

 

 

「………私の事は殴らなくて良いのか?」

 

 

ふと、ポツリと賢生が漏らした言葉に、古城は声だけ返す。

 

 

「あんだけ激しい戦闘をしていて、その近くに居たはずのアンタは被害を受けなかった」

 

 

それを聞いて、賢生は一瞬古城を凝視した後、再び夏音を見る。確かに賢生は怪我を負っている。だが、それは『模造天使(エンジェル・フォウ)』となった夏音によるものでも、それを止めようとした古城や集たちでもなく、彼を裏切ったベアトリスによるものだ。

 

 

それ以降、『模造天使(エンジェル・フォウ)』となった夏音や、T種もしくはL種であるベアトリス、ロウ、夏音よりも精度が低いと言われたとはいえ、『模造天使(エンジェル・フォウ)』3体が戦闘を行った砂浜に居て、まだ生きている。それが、意味するところを賢生は即座に理解したのだ。

 

 

「まったく……憎まれ口の1つでも言ってくれた方が楽だというのに」

 

 

「……叶瀬はあんな姿になってまで、アンタには被害がいかない様にしてたんだろ。だったら、俺がアンタを殴るわけには行かねえんだよ。桜満の言葉を借りんなら、アンタの『罪』を裁くのは俺じゃねえ。そんだけさ」

 

 

それを言い終えたところで、女性陣の方からは歓声が上がった。夏音が目を覚ましたのだろう。それを確認して古城もホッと、表情が緩む。そして、賢生は自嘲気味に笑いながら呟いた。

 

 

「……くく、甘いな、今代の第四真祖も、『罪の王』も。だが…私も夏音もその甘さに救われた、か。………とんだ皮肉だな」

 

 

その表情はどこか満足気に微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪菜ーー!!」

 

 

「わぷっ!さ、紗矢華さん!?」

 

 

夏音が目を覚ましてから程なくして、巨大なタンカー船が『金魚鉢』に近付き、小型艇に乗った紗矢華が現れた。上陸するなり、雪菜を視界に捉えた彼女は、小型艇から飛び降りてそのままの勢いで、雪菜に飛び付いた。

 

 

「あぁ、雪菜!無事で良かった!!暁古城と同じスーツケースに無理矢理詰め込まれて、無人島に行った映像を見たときは、何かされたんじゃないかって、心配したんだからぁーー!!」

 

 

「あ、あの、落ち着いて下さい、紗矢華さん!私は無事ですから!」

 

 

「ちょっと、暁古城!雪菜に変なことしてないでしょうね!?」

 

 

「………はぁ、相変わらずなのな、お前は。少し安心したぜ」

 

 

「はぁ!?散々雪菜を振り回しておいて、言うことがソレ!?………って、な、なんて格好してんのよ!変態!!」

 

 

「あ?格好?」

 

 

古城は自分の姿を見るが、別段オカシイところは無いだろう。だが、男に対する免疫がほぼほぼ皆無な紗矢華からすれば、若干刺激のある格好となっている。と言うのも、『模造天使(エンジェル・フォウ)』の攻撃を受けたことで、パーカーにも、その中のワイシャツにも大穴が開き、また戦闘中でどんどんボロボロになったのだろう。上半身がほぼ剥き出しの状態なのだ。

 

 

それに気付かぬ古城は夏音に近付こうとするが、同時に紗矢華にも近付く事となり、楽器ケースの中から出した武器を向けられてしまう。

 

 

「ちょ、そんな格好で近付くな、変態真祖!」

 

 

「煌坂には近付こうとしてねえだろ!?俺は叶瀬の様子が大丈夫かと……ってか、それをコッチ向けんな!!シャレになんねえ!!」

 

 

「うっさいうっさい!近付くなって言ってんでしょ!!」

 

 

紗矢華は顔を真っ赤にして、煌華麟(こうかりん)を振り回す。仕草だけ見れば可愛げもあるかもしれないが、何しろ手に持っているのは、『空間断裂』などという物騒な能力を持った代物である。確かに当たればシャレにならない。

 

 

「皆ー、お待たせー。東條さん、見つけてきたよー」

 

 

と、そこで後方からの声に、古城は助かったと言わんばかりの反応を示す。そこに居たのは、東條を背負った集であった。東條の右足は負傷したのか、若干出血しているが、それでも軽微な方だろう。止血は既に済ませてあるようだった。

 

 

「東條さん!無事だったんだな!」

 

 

「いやぁ、悪運だけは強いっぽいなぁ、俺。あん時、急いで逃げようとしたら、途中でズッコケて小さい谷に落ちててよ。お陰で、直撃も避けられたし、寒さも平気だったんだよ。いやぁ、儲けもんだっ――たぁーー!!?」

 

 

高速で飛んできた黒い物体がスコーンと、東條の額を撃ち抜いた。東條の額に直撃したそれは、氷原の上に落ちてようやく、その正体を明かした。それは、黒いレースの付いた扇子だった。その持ち主として思い付くのは1人くらいであろう。

 

 

「まったく、私自ら出張って来てみれば、違反を犯した部下と、家に帰っていない生徒両方が見付かるとはな」

 

 

そこには、青筋を浮かべた彼らの上司であり、また教師でもある南宮那月が立っていた。そして、その後ろからはヒョコっと顔を出して、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる女性が出てきた。

 

 

「フフーフ♪これまた大集合よねぇ。ま、ウチの私兵はお留守番だから居ないけど」

 

 

「ココさん!?何でここに!?」

 

 

「はーい、美人ウェポンディーラーのココさんですよー?久し振り――って程でもないか。元気そうで何よりだよ、桜満少年」

 

 

「は、はぁ……」

 

 

自らの肩に手を置き、顎を頭の上に乗っけられた那月の表情を見ていたがために、集は気の抜けた様な返事しか返す事ができなかった。それは、他のメンバーも同様であり、また恐らくココ自身も分かってワザとやっているのだろう。

 

 

「………まぁ、いい。兎にも角にも、さっさと乗れ。事情説明は後でするし、してもらうからな?」

 

 

那月の言葉は、最後の方は明らかに怒気を孕んでおり、彼女の性格を知っている、集、古城、いのり、雪菜、東條はげんなりと肩を落とすのだった。だが、ここで乗らなければ迎えなど期待も出来るはずもない。一行は続々と小型艇に乗り込んだ。だが――

 

 

「なぜ降りる、女狐」

 

 

「ちょ、ナツキー。ホント名前で呼ばないわねぇ。その頑固さには、舌を捲くわよ」

 

 

「そんな事はどうでもいい。私はなぜ降りるのかと、聞いている」

 

 

「実はさっきこの島――というか、この島ごとメイガス・クラフトを買ったんだよねー。桜満少年や、暁少年のお陰で一層安く買い叩けたわ」

 

 

それを聞いていた古城は、この戦いが会社を安く買わせる材料となったと知って、余計に疲れる感覚に襲われた。

 

 

「………会社1つ買うって……どんだけ金持ってんだよ、アンタ」

 

 

「おやおや、女性の財布を気にするなんて、紳士さに欠けるよ、暁少年?」

 

 

「言ってろ」

 

 

「フフーフ♪ま、そういう訳だから、私はこの島の下見も兼ねて一歩きしてから帰るわ。あぁ、あそこで伸びてる魔族2人は連れてっちゃってね」

 

 

 

古城は問答に疲れたのか、船内へと引っ込んでしまう。既に夏音の介抱のために船内へ入ってしまった他のメンバーを追う。集も東條を降ろし、それに続いた。

 

 

一方、那月は面白く無さそうな顔をするが、その表情は何かに気付いてか、少し険しいものに変わる。

 

 

「………何を企んでる?」

 

 

「あ、ひっどーい!その口振りだと、常に私が何か企んでるみたいじゃん!」

 

 

「事実だろう?」

 

 

「………ナツキ、まずその疑り深い性格直さないと、お友達できないわよ?」

 

 

「職業病だ」

 

 

「はいはい、日本人らしいこと。………ま、私としては、利益に繋がるなら、何でもやるわよ。それが解答じゃダメかしら?」

 

 

「ち……精々()()()()()()()()()()()。東條、船を出せ」

 

 

「え、俺怪我――あだだだだだっ!!やります!操縦します!だから、傷口付近を傘で突くのはぁ……」

 

 

悶絶を通り越して、気を失いそうな東條から日傘を離した那月は、怒った様にして小型艇の船内へと入って行ってしまう。実際数秒後、船内で古城が何かを言ったのだろう。今度は彼の苦痛を報せる声が外まで響いてきた。そして東條が傷付いた足を引きずって、準備をしていると、ココが声を掛ける。

 

 

「フフーフ♪トージョ、今の職場は楽しい?」

 

 

「えぇ、まぁミニマム上司のパワハラも有りますけど、刺激的で面白いですよ、ココさん。ってか、あんまウチの上司を虐めないで下さいよ?後で被害受けるの俺なんスから」

 

 

「あんな可愛いナツキからのパワハラでしょ?喜んだら?」

 

 

「物事には限度ってモンが有りますからねぇ。……ココさんも、多少の()()()()()()()()()()?」

 

 

「りょーかい。じゃないと、またトージョがご褒美貰っちゃうもんね?フフーフ♪」

 

 

「だから、俺はそんな特殊な人種じゃねえっての。……じゃあ、もう行きます」

 

 

東條はそう言うと、操縦席に腰を下ろして小型艇を走らせる。それを見送るココは少し寂しそうな表情で見ていた。

 

 

「……まったく、ナツキは本当素直じゃないわねぇ。ワザワザ敵に回って欲しくないなんて、武器商人相手に言う言葉じゃ無いわよ。さて、と。じゃあ、私もお仕事お仕事」

 

 

そう言うと、ココは『金魚鉢』の氷塔が聳え立つ砂浜とは離れた、別の海岸へと向かう。そこには待っていたと言わんばかりに、その環境に似つかわしくない白スーツの男と、もう1人。彼の従者が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MARの医療セクションの一室では、2人の少年少女を相手に、ボサボサの髪に白衣の女性が、データシートを挟んでバインダーを手で弄びながら、自らの座る椅子を子供のように、体を前後させてギコギコ鳴らしていた。

 

 

因みに、無人島から帰還して既に2日経過していた。凪沙からは心配したという内容と、無事で良かったという旨のマシンガントークに晒されはしたが……

 

 

「んー………アポカリプス・ウィルスが変異したっていうのは、前に話したわよね?」

 

 

「はい」

 

 

「ん、聞いた」

 

 

ギコギコと椅子を鳴らしていた人物――暁深森はそう口にした。今日は、先日いのりが人が変わった様に、集へキスをしてきた事について、調べてもらうために訪れたのだ。当然、直接的にキスをしてきた、と言えば、いのりが恥ずかしがるのは分かりきっていたので、言葉は濁したのだが。

 

 

「んで、集クンと、いのりちゃん、それぞれのウィルスの遺伝子情報を網羅的に、色々と調べてみたんだけど、集クンと、いのりちゃんで、形質がちょいと違うのよねぇ……まぁ、ある意味私が予想していた通りというか」

 

 

「と言うと?」

 

 

「んーー、いのりちゃんは、異能が絡んでるものを全部、結晶に変えちゃうでしょ?けどアレって無限に出来るわけじゃないみたいなの。異能がウィルスを経由するっていうプロセスを挟んでるのよね」

 

 

「は、はぁ……」

 

 

「それで、ウィルスにもキャパはあるし、何回も使えば磨耗して新しいウィルスが必要になるの。で、ここから形質のお話ね。いのりちゃんの方のウィルスは、キャパは大きいみたいだし、磨耗にも強い。けど、増殖率だけ悪いのよ。一方、集クンはその真逆。結晶化なんて、ほぼほぼ一切出来ないし、キャパもない。でも増殖率は良いのよね」

 

 

「………つまり?」

 

 

「いのりちゃんが、黒死皇派の古代兵器と戦ってから、いのりちゃんから頻繁にくっ付かれた事って無かった?」

 

 

集はそれを思い出し、黙り込む。確かに、同居を始めてからと言うもの、いのりは毎朝集にもたれ掛かったり、寝ボケて抱きつく、布団に入ってくるなどが増えていた。

 

 

「………まぁ、多少は」

 

 

「あなた達の体内にあるアポカリプス・ウィルスは確かにウィルスではあるんだけど、既にあなた達の細胞と共生していると言っても良いくらいの関係になってる。生命活動に多少なりとも使用してるのね、きっと。だから、体内のウィルスが減少すると、何とか補充しようと本能的に動こうとするんでしょうね」

 

 

「つまり、僕って……」

 

 

「早い話、いのりちゃんの緊急用バッテリーね♪」

 

 

深森は大変良い笑顔でそう言った。つまり、いのりも集も生きていく上で、アポカリプス・ウィルスが必要になってしまっている。だが、いのりの方のものは増殖率が悪い。しかも、戦いで使用すればするほど減っていく一方である。

 

 

だが、一方の集の方はウィルスの増殖率が大変高い。だから、いのりは本能的に緊急として、あの時ウィルスを求めて集へと迫った、という訳である。それを察した、集といのりは、一気に耳まで赤くなる。

 

 

「だ・か・らぁ〜〜♪集クンは定期的に、いのりちゃんと、チューしなきゃダメよ?」

 

 

「「……っ!!」」

 

 

「だって、そうでしょ?あなた達は既にアポカリプス・ウィルス無しでは生きられない。集クンは大量のウィルスを常に持ってる。けど、いのりちゃんのは少ないの。だから、いのりちゃんが生きていく為にも、一杯チューしてあげてね?はい、診察終了!」

 

 

深森は心底面白おかしそうにケタケタと笑う。一方の2名は堪ったものではない。そこで、集が顔を上げる。

 

 

「ほ、他には手は無いでしょうか!?」

 

 

「えぇ〜〜〜〜………………あるにはあるけどぉ…」

 

 

「っ!じゃあ、そっちで!毎日キスっていうのは、ちょっと……」

 

 

深森はニッコリ笑うと、その方法を口にする。が――

 

 

「じゃあ、2人には子作――ふがふが」

 

 

深森が言い掛けたところで、集は即座に口を塞いだ。だが、初めの文字を殆ど言ってしまった後だったので既に時遅しである。

 

 

「こ、こ…………」

 

 

「い、いのり!違うから!今のは深森さんの冗談だから!ですよね!?」

 

 

「ぶはっ………まったく、集クンったら、人妻の口を抑えるなんて大胆ね」

 

 

「違います!そういうんじゃないです!」

 

 

「まぁ、でも割と本当よ?いや、よく考えてみて?こう言うのは、ちょっと気が引けるのもあるけど、確実に集クンのウィルスを受け渡すには、一番確実でしょ?だから、前にも同じような事は言ったわよ?」

 

 

集はその時を思い出して、頭を抱える。『ひゅーねる』のモニター越しに深森は確かにあの時も確かに言っていた。下世話な話ということで、聞き流していたのだが、そういう意味だったのかと今になって気付いたのだ。

 

 

「うふふふ、2人とも真っ赤になっちゃって。本当に初心よねぇ〜〜♪あ、でも冗談抜きで定期的にチューはした方が良いわよ?いのりちゃんの体調管理の為にもね。それに、それを怠って急に学校で発情されちゃっても困るでしょ?」

 

 

「は、発っ!?」

 

 

「まぁ、擬似的なものだけどね。それと、この前の戦闘でも、いのりちゃんの能力使ったんでしょ?ウィルス減っちゃってるかもしれないから、補給しといた方が良いわよ?じゃあ、私ラボの方に戻るから、ここは好きに使ってね♪じゃあねぇ〜〜♪」

 

 

 

意地の悪い笑みだけ残し、深森は部屋を後にした。あんな会話の後である。集も、いのりも居た堪れない居心地の悪さを感じていたが、先に集が動いて帰り支度を始めようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………じゃ、じゃあ、診察も終わったし……帰ろっか?」

 

 

集が椅子を立とうとするが、上着の端を掴まれて、いのりの方を見る。いのりは俯いたままだが、集の上着だけは手放そうとしなかった。

 

 

「………えっと、いのり?」

 

 

「集……は、私と………っ」

 

 

俯いたままだった、いのりだが、それ以上言葉に出来なかったのか、急に顔を上げる。その表情を見て、集はハッとする。いのりの、その泣きそうな…だが、どこか不安そうな…そんなあらゆる感情が入り混じった様な表情は集も初めて見るものだったからだ。

 

 

以前より明らかに、いのりは感情が豊かになった。それはナラクヴェーラの『女王(マレカ)』とリンクした事や、アポカリプス・ウィルスが変異した事などがあるのかもしれないが、そんな事は今の集にはどうでも良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恐らく、今のいのりは、酷く不安なのだろうと直感した。急に豊かになった感情や、今の話を聞いて一挙に不安要素が増えたのだ。それで、精神が不安定になった。集は知っている。いつもは鉄面皮と言ってもいい程、表情を動かさない、感情を表に出さないが、それでもその本質は、内面は酷く傷付きやすい年相応の少女なんだという事を、集は知っているのだ。

 

 

実際に不安だけでなく、恐怖もあるのだろう。以前、いのりは真名の人格が表出して、自分が望まない行動を取った。『金魚鉢』でもそれに類似した状況になっていた。だから、不安と恐怖の両方を抱えているんだと、そう思えてならなかった。

 

 

集は少し逡巡すると、スッといのりの頬に手を触れる。一瞬、いのりがビクリと身体を硬直させるのが分かったが、集は少し微笑んで口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫。いのり、僕は君の事を怖いとも、迷惑とも、思わない」

 

 

「………何で?私は…あの島でも…………私自身を抑えられなくって…集とあんな……」

 

 

「いのり、あの時僕が何て言ったか覚えてる?」

 

 

「………え?」

 

 

「さっきも言ったけど、僕はいのりの事を、迷惑だとか、怖いだとか思わないよ。何でか分かる?」

 

 

いのりは、少し沈黙した後、フルフルと首を横に振った。集は、バクバクと早鐘の様に鳴る心臓の音を意識しながら、一回息を大きく吐いてからもう一度、息を吸う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは……僕が、いのりを……好き、だからだ」

 

 

若干噛みつつではあるものの、それでもハッキリと口にしていた。いのりはキョトンとした顔をして、フリーズしてしまっていた。マズかったか………と思い、集はさらに続ける。

 

 

「あの時…あの無人島では、少し流れに呑まれて言ってた部分は確かにあったと思う。けど僕が、いのりの事を好きだったのは本当なんだ。だから、その………て、てて定期的にキ、キスしなきゃいけないかもしれないけど、それは救命活動のためとかじゃなくて、僕がいのりの事を、好きだからで……えっと……だ、だから、いのりが抱えてる不安とかを、さ。少しでもいいんだ、少しでも話してくれれば、僕も嬉しい」

 

 

若干、自分でも何を言っているのかを集は分からなくなりつつも、自らの思いの丈を文字通り吐露したのだ。しばらくして、沈黙を破ったのは、いのりだった。

 

 

「……ふふっ」

 

 

「笑うとこ!?」

 

 

「ふふっ、ふふふ……ごめんなさい、集。ただ、嬉しかったから」

 

 

「嬉しいって?」

 

 

集の言葉に、いのりは膝上に置いていた手をソッと自らの胸に持って行って、涙を滲ませつつ、もう一度微笑む。

 

 

「集が……こんな私を好きでいてくれて………好きだって言ってくれて…嬉しかったの」

 

 

泣くように笑う、いのりを見て、集は胸に何か今までとは違った感情が生まれるのを感じていた。ただ、好きだというそういったものではない。それは、保護欲の様な、独占欲の様な、いかんせん言葉にし辛い感情であった。だが、その根底にあるのはやはり変わらないのだと自覚する。

 

 

その根底にあったのは、どうしようも無いくらいに、いのりの事を思っているというものであった。

 

 

2人は互いにコツンと額を合わせる。

 

 

そして、どちらからとも無く互いの唇を重ねるのであった。

 

 

 

 






後半は描いてて恥ずかしくなりました///(集、もげろ)


さて、如何だったでしょうか?天使炎上編。『模造天使』だけでなく、天使のような形態で戦ういのり。と、そんな、いのりの感情が燃えるような感じをイメージをして描かせていただきました!


そして、前半では遂に動き出した、ココ!さてさて、どうなるでしょうか・・・


この辺も、この先に期待していただければ大変うれしいです!


ではでは、この辺で。次回は少し本編から離れた話を挟んで、再び本編です!



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