今回から戦闘回突入ですね。ただ、今回の話は前後半(?)で、分けてます。
さてさて、ではどうぞ!
『金魚鉢』の凍った砂浜を、1人の中年男性が歩いていた。白衣をその身に纏っている事から、研究者の端くれなのだろう。ヒョロッとした様な体格だが、眼鏡を通して覗く眼光は鋭いものがある。
そして男性が歩く砂浜の中でも、特に目を引くのは、天まで聳えるかと思うほど高い氷の塔である。男性はそれを見上げ、白い息を吐きながら言葉を発する。
「夏音、もう少しだ。もう少しでお前を神の下へ逃がす事ができる。お前だけは――守ってみせよう。それが私にできる唯一の贖罪で、私が抱くたった一つの願いだ」
塔の上層部に居るであろう自らの娘を思って、上を見上げ、もう一度白くなった息を吐く。氷の塔に囲まれ、当の娘の姿などは見えない。だが、男はそこに居るであろう、娘だけを思っていた。自らにとって、唯一になってしまった少女のことを………
その時、塔の中腹付近が内側から壊された。雷撃による高温で、一部が溶けたのか、水蒸気を上げている。それを見て、男は苦い顔をする。
「………無粋なことだな、今代の第四真祖は。だが、今はそれさえも感謝しよう。これで夏音は救われる」
男はその身に纏う白衣を靡かせ、氷の塔へと向かった。
◇
「へっきし!」
世界最強と謳われる吸血鬼、第四真祖である暁古城は氷の塔の外壁を破壊し、寒空へと身を踊りだした。だが、思ったより外気が低かったらしく、出て早々にくしゃみをして、鼻をこする。
「さ、寒っ!外、寒っ!」
「そんな格好なんですから、当たり前だと思います。いっそのこと一回北極まで行って来てみたらどうです?」
「死ぬわ、そんなもん!」
「真祖である先輩が死ぬはず無いじゃないですか。せいぜい凍って動けなくなる程度です」
全体的にトゲのある言葉に、古城は苦い顔をする。いつも以上に雪菜の口撃が厳しいのだ。
「あの……姫柊さん?俺なんかしましたかね?」
「さぁ?ところで先輩。寒いのが嫌なら、暖かい方はどうですか?サハラ砂漠とかオススメですよ?」
「だから、なんで俺を殺したがるんだよ!?」
その古城の言葉に雪菜の目は冷淡なものに変わる。いくら第四真祖という存在である古城といえども、中身はその辺にいる少し不真面目な男子高校生である。それがほぼ同年代の少女からそういった視線を受ければ、多少なりとも傷付くのである。
「………わざわざ目の前で他の人の血を吸う様な先輩には分かりませんよ、一生。まったく、本当にイヤラシイ」
「………見てたのかよ」
厳密に言えば見ていた訳ではない。目が覚めたら、クタリと脱力し古城に寄り掛かって眠るラ・フォリアを目にしたのだ。当の古城本人も眠っており、ラ・フォリアの方に身体を傾け眠っていた。
最初は、そのままにして置こうかとも思った雪菜であったが、ラ・フォリアの首筋に赤い点のような傷跡が2つあるのを目にしてしまったのだ。後はご想像通りである。
「ふふ、ごめんなさい、雪菜。しかし、必要な事だったのですよ?それに、私だって目の前であんなに熱烈に古城を求める雪菜を見せられては、我慢出来ませんでしたから♪」
「み、見てたんですか!?」
「ええ。後で画像をお送りしましょうか?」
「「なっ!!?」」
知りたくなかった事実を暴露され、古城も雪菜も一気に顔を赤くする。まさか、映像として残されるとは思っていなかったのだ。ラ・フォリアはクスクスと笑いながら、手持ちのスマホを振って見せる。
「い、今すぐ消して下さい!」
「お断りしますよ、雪菜。これも訪日した思い出として是非取っておきたいと思います」
雪菜がラ・フォリアにした要求は却下され、今度は古城へと向き直る。
「ところで古城?私の父については、どれほどご存知ですか?」
「いや、まったく知らん。まぁ、王女様の親父さんなんだから、現国王って…こ……と……………」
古城の背筋にはドッと冷や汗が吹き出て、顔を強張らせる。それとは対照的に、ラ・フォリアはニコニコと上機嫌である。相変わらず、顔の横にスマホを持ち上げながらであるが……
「実は私の父である現国王は私を溺愛しておりまして。『娘に手を出す輩がいれば、アルディギアの全騎士団、全軍を以って滅ぼしてくれる』と言っているほどで」
ラ・フォリアは己の父の言動を思い出し、それに対して呆れた様な仕草を取るが、古城の方はそれを聞いて顔がサーっと青褪める。
「時に、古城?私の血は美味しかったですか?」
「…………何でもするんで、色々と勘弁して下さい、王女殿下」
憐れ、第四真祖。国家級の戦力を敵に回しては、さすがに無事では済まないだろう。古城はラ・フォリアに頭を下げ、ラ・フォリアは上機嫌であり、雪菜はクズを見る目を監視対象へと向ける。幸いなのは、この場にいるのが、この3人だけという事だろう。
「ふふ、いい覚悟です、古城。では、改めて命じます。何としても夏音を救い出して見せなさい」
「………あぁ、分かってる」
「はい、期待してますよ。救出が出来たら、画像データは消しておいてあげます」
「はは……二重の意味で負けらんねぇな」
「……先輩の自業自得だと思いますけど」
そんな風に話していた彼らであるが、砂浜の向こうからやって来る3つの人影を見て、真剣な面持ちへと変わる。
◇
彼らは氷の塔中腹付近から、凍り付いた砂浜へと降り、警戒を厳にする。状況が状況だったとはいえ、一度は不覚を取った相手である。油断は許されない。
「はっはー!生きてたねぇ、ジャリ共!ま、これで『
狂気な顔を浮かべ、笑うベアトリスや、獣人化しているロウを無視し、古城の視線は一番後ろに居る男性へと注がれていた。
「あんたは黙ってろ。……なぁ、オッさん。あんた、義理とはいえ、自分の娘を実験台にしてよく平気な顔していられるな」
「……随分と、トゲのある言葉だな、第四真祖」
「当たり前です、叶瀬賢生。あなたの行動は違法な魔導実験そのものです。獅子王機関の者としても、あなたの行動は容認できません」
「それは同情かな、獅子王の剣巫よ。だが、生憎と私は夏音を道具扱いした事はない。なぜなら、あれの母親は私の妹なのだからな」
「なっ!」
古城は驚き、目を見張る。雪菜も声には出さないが、驚愕していた。一方、ラ・フォリアの方は、古城や雪菜の反応とはまったく異なっていた。それは、ラ・フォリアが暗に、それを知っている事を示しているのだと、古城も雪菜も気付いていた。
「………やはり、そうでしたか」
「さすがは王女殿下。知っておいででしたか」
「だったら、尚更だろうが!何で叶瀬をあんな姿に変えた!?」
「………『
「だから!それを叶瀬が望んだって言うのかよ!?そんなもん、あんたのエゴの押し付けだろうが!幸せなんてもんは、誰かからもらえるモンじゃねえ!自分で掴み取るもんだ!あんたの幸せを、叶瀬に押し付けんな!!」
「……っ!」
賢生はギリっと奥歯を噛み締める。だが、痺れを切らした様に、その背後から賢生の元に兇刃が伸びる。
「下りなさい、賢生!!」
「ぐ…あ!」
賢生の横腹を殴る様にして、ベアトリスが眷獣である『
「あー、はいはい。もういいわよ、賢生。時間外労働だし、とっとと片付けさせてもらうわ」
「ま、そうだな。いい加減、この島からオサラバしたいしなぁ」
「く……き、貴様ら……」
『蛇紅羅』を携えたベアトリスと、既に獣人化したロウが前へと出て、古城たちと向き合う。
「さてと、じゃあとっととソッチの2人は実験台になってもらおうかしら。そろそろXDA-7も起きるはずだしね。あと王女殿下はコッチに来てもらうよ」
「……やはり、あなた方の目的は私の身体でしたか。いえ、正確には私の細胞や遺伝情報、ですか」
「なぁんだ、分かってるんじゃないかい。そうさ、『
ベアトリスは狂気にも似た視線をラ・フォリアへと向ける。彼らにとってアルディギアの王女は利用価値の高い商品の様に映っているのだろう。だが、それらに天罰とでも言わんばかりに、彼らの周囲には小規模な落雷が複数発生する。
辛うじて避け、数歩下がって第四真祖である目の前の高校生を睨みつける。睨みつけた先の古城は、周囲に魔力を纏い、目が赤く染まっていた。その目は明らかに怒りの焔光を宿し、妖しく揺らめいていたのだ。
「いい加減にしろよ、年増」
「んなっ!?」
「あんたらもだ!実験台だかクローンだか知らねえけどな、ここに居るラ・フォリアも、この氷の塔に閉じ籠っちまった叶瀬も、俺と大して年の変わらねえ女の子だ。それを、本人達の意志を無視する様に、勝手なこと言いやがって……………いい加減頭にきたぜ……!」
再び古城の魔力による巨大な波が発生する。強力な霊媒である雪菜とラ・フォリアの血を得た事で古城の中の眷獣が歓喜でもするかのように、放出された濃密な魔力だ。普通の人間ならば、息苦しささえ感じてならないものであり、魔族といえども顔色を変えるには十分な要因である。
だが、それに反応したのはメイガス・クラフトの魔族2名だけではない。己とは対極の強大な力を感知した氷の塔の夏音も同様であった。
氷で出来た塔には亀裂が入り始め、塔の中心部分が神気による光を乱反射し始める。
「はっ!ツキが回ってきたねぇ!第四真祖、そっちがなんと言おうが、アンタを滅しちまえば、コッチのモンなんだよぉ!!」
ベアトリスの後方の揚陸艇から光る何かが飛び出した。数は1つではなく、3つである。突き出た氷塊にもたれ掛かっている賢生は忌々しそうにベアトリスとロウを睨み付ける。
「ちっ………やはり私にも黙って他の個体を作っていたか…!」
「当たり前だろ、賢生。俺らが欲しいのは兵器だぜ?量産できなきゃ意味がねえ。アンタが『模造天使』となった個体からは細胞の採取が出来ないことを黙ってたから、他の個体情報で作った。その所為でXDA-7には劣るがな。それでも、『
「さぁ、やっちまいな!」
『『『Ahhhhhh!!』』』
ベアトリスが手元の携帯端末を操作すれば、三体の『模造天使』は神気の剣を具現化し、一斉に古城へ向けて剣を投擲する。ベアトリスも、ロウも古城が攻撃を防げないとタカを括っていた。だが、それは過ちであった。古城が腕を振るえば、迫る神気の剣はまるで何かに呑まれるかの様にして消失した。
「な、何で、『
「いつまでも俺にその攻撃が通じると思うなよ。悪いがアンタらの企みも、叶瀬を縛ってる天使の力も!まとめて俺がぶっ壊してやる!ここから先は
「調子にのるんじゃないよ、ガキが!」
ベアトリスが自身の眷獣である『蛇紅羅』を伸ばし、攻撃しようとするも、古城へ届く前に、それは敢え無く雪菜の持つ銀の機槍に弾かれた。
「いいえ、先輩。私たちの
古城の前に雪菜が雪霞狼を構えて、立ち塞がる。『模造天使』3体に、魔族2名を前に物怖じせず立ち向かう姿勢を見せられるのは、さすがの一言である。だが、突如として氷の塔が割れ、遂に古城の胸部に風穴を開けると言う所業をやってのけた元凶が氷の楔を破壊した。
『Kyryyyyyyyyyy!!!』
そして再び氷の砂浜に金切り声にも似た声が響き渡る。全員がそちらを見て、その姿を確認する。8枚4対に増えた翼は『模造天使』の進行が進んでいる証だろう。それを見て、叶瀬賢生は口角を吊り上げる。
「は、ははは!遅かったな、第四真祖!ここまで進行が進んだ『
「黙っとけ、オッさん!それでも叶瀬は俺が救う!」
『Kyryyyyyyy!!』
古城の意識が数瞬、賢生に移った瞬間だった。『模造天使』となった夏音は再び、神気による巨剣を投擲してきたのだ。が、それが古城に直撃する事は無かった。
「……っ!は!遅えよ、桜満、楪!」
迫る巨剣の前に躍り出たのは集に抱きかかえられた、いのりであった。手の甲から細く伸びた結晶の剣が神気の剣に触れた瞬間に形が揺らめき、そこに吸い込まれたのだ。そして、いのりの背から薄紫の結晶が幾重にも伸び、砂浜を覆う氷の上をさらに結晶で覆ってしまう。
「ゴメン、遅れた!」
集といのりはそのまま地面に降り立ち、古城や雪菜、ラ・フォリアと並び立つ。
「それよりも、大丈夫なんですか、いのりさん?『模造天使』の攻撃を防いじゃってましたが…」
「大丈夫」
雪菜は心配そうに問いかけたが、どうやらそれは本当の様である。『模造天使』の攻撃を初めて防いだ時と違い、息切れも起こしていない様である。
「……じゃあ、全員揃った事だし、始めようぜ。あんたらの目論見、俺たちが全部ぶっ壊してやる!」
この小さな無人島で、少女を『天使』から救う戦いの火蓋が切って落とされた。
「ふらいんぐうぃっち」おもろかった。あのアニメ凄いですね。体感時間があれ見てる間だけ、すごい短い!って事で、今までのアニメやら何やらを一気見してる今日この頃です。
さて、以前お話しさせていただいたバンド名ですが、まだ未定です。ただ、皆さんが出してくれたものの中から選ぼうと思います。(2016/07/21まで受け付けます)
今回は一番初めに賢生の心情のような描写を入れました。親と子の在り方はまぁ、様々ですから、賢生のああいった行動も善意から来ているのではと思いますねぇ・・・
さてさて、いよいよ次回から本格戦闘。現在執筆中なんですが、4戦闘くらい書いていて、心と指が折れそうですw
ではでは、また次回!!