Blood&Guilty   作:メラニン

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最近パソコンが重い・・・


さて、そんなこんなで投稿するのにも、二重の苦労が発生している今日この頃です。


今回はお馴染みの、アレです。はい。あと、独自解釈とかもいろいろ入ってます。筆者の中で、『模造天使』はある意味恐怖の代名詞なので・・・


という事で、飛ばしていただいても・・・
(しかも、今回はちと長いので・・・一万字越え)


さて、ではどうぞ!


天使炎上編XIV

 

メイガス・クラフト所有の『金魚鉢』と呼称される無人島の東側、約10km地点を漂流するタンカー船の甲板では、うず高く積まれたコンテナの合間をすり抜ける様にして、2つの影が動いていた。片方はガッチリした男性の様な体格で、身長は2mにも達するかという高さだ。それに対して、もう一方はそれよりもよほど低い160cmと少しほどであろうか?

 

 

そして、小さい方の影が何かを振り抜き、月夜に晒され、銀閃が走る。

 

 

「これで――最後!」

 

 

大きい方の影は、肩の辺りから斜め一線に斬られ、上半身が滑り落ちる。

 

 

だが、その際液体は漏れず、さらには落ちた時の音も、ガシャンという音であった。つまり、今しがた斬られた大きな影は人間ではない。

 

 

「ふぅ!…………まったく、本当イヤな島ね。夜でも湿度高いから汗掻くし、潮風でベタベタよ。まったく、あの第四真祖は!」

 

 

不平を言いつつも、その表情は心配というよりも、やや明るいものであった。まぁ、その理由は明白であろう。

 

 

「フフーフ♪ご機嫌ね、獅子王の舞威姫(まいひめ)さまは」

 

 

「誰!?」

 

 

獅子王の舞威姫――煌坂紗矢華(きらさか さやか)は暗がりからの声に、手に持った己の武器である煌華麟(こうかりん)を構える。

 

 

「ちょっとちょっと、私は敵じゃないよ。これでお分かり?」

 

 

暗がりから現れたのは、長いプラチナブロンドに、青い目をした武器商人であった。

 

 

「あなた……HCLIココ・へクマティアル!?な、何でここに!?い、いや、それより、どうやってこの船に……」

 

 

「答えは君の背後の人だよ」

 

 

「え?」

 

 

紗矢華は振り返り、背後を見る。そこには魔法陣の上に、小柄でゴスロリを着た女性が日傘を差して遠方を見ていた。だが、その表情はどこか不機嫌な様子だ。

 

 

「……『空隙の魔女』」

 

 

「そう身構えるな、小娘」

 

 

「何でここに?」

 

 

「ふむ、言って仕舞えばつまらん理由だ。ウチの生徒4名が時間も憚らず夜遊びをしている様でな。ついでに、それを助長したアホな部下も拾いに来た」

 

 

「アハハハ!ナツキは本当素直じゃないわね」

 

 

「黙れ、女狐。夜に『探し物を見つけた』の一言で、呼び出されたコッチの身にもなれ。それよりも、どうやって見つけた?」

 

 

「フフーフ♪今の絃神島の警備システムの雛形を売り込んだのは誰だったかしら?」

 

 

「………チッ、帰ったら徹底的にプロテクトの張り直しをさせる」

 

 

「ワーオ、特区警備隊(アイランド・ガード)の保安部も大変ね」

 

 

「それよりも、私兵はどうした?」

 

 

「2人は宿泊先で酔いつぶれちゃった。ヨナは子供だから、もう寝ちゃってるし」

 

 

「………言っとくが、貴様のガードはしないからな?」

 

 

 

「あ、ひっどーい!私、ナツキの数少ない友人なのに」

 

 

「誰が友人だ、誰が」

 

 

「はいはい、ナツキは意地っ張りねぇー。まぁ、でも今はそれより」

 

 

ココは小型のペンタイプの望遠鏡を取り出し、スライドさせレンズを覗く。レンズ越しに飛び込んでくる光景に、ココは口角を上げて笑う。

 

 

「ナツキ、あなたの生徒大丈夫かしらね?」

 

 

「……問題ない。あの程度では死なんさ」

 

 

「……?一体何を――っ!」

 

 

遥か遠方の水平線上に浮かぶ島を、紗矢華は霊視によって捉える。そして、その光景を捉えた瞬間、息を呑んだ。そこに映ったのは氷漬けになった無人島と、氷で形成された巨塔がそびえ立つ光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

那月達が、タンカー船に着く少し前。時刻は既に日付を通り越し、幾ばくかの時間が経過し、夜の闇が強くなっていた。だが、氷をすり抜けて照らす月光があるお陰で、真っ暗闇というのは避ける事ができていた。

 

 

凍った無人島の砂浜の一角には氷がそこだけを避ける様にして、ドームを形成していた。そのドームの中心には銀の機槍が地面に突き刺さり、そこから発生している退魔の力場が結界となり、凍結を防いでいた。

 

 

「大義でした、雪菜。この結界なら、我々が凍え死ぬ事は無いでしょう」

 

 

「…………それよりも、夏音さんは何で暴走を……『模造天使(エンジェル・フォウ)』の術式が未完成だったのでしょうか?」

 

 

雪菜の問いに、銀髪の少女――ラ・フォリアは首を横に振る。そして、目の前に横たわり、時々苦しそうに呻き声を上げる古城へ視線を向ける。と言っても、今はいわゆる小康状態というところだろう。

 

 

「……先輩、ですか?」

 

 

「えぇ、おそらく。悔しいですが、賢生は魔導技師としては一流です。此の期に及んで『模造天使(エンジェル・フォウ)』の術式が未完成だった、という事は 無いでしょう。そうなると、理由は1つしかありません」

 

 

「……夏音さんは、まだ完全な『模造天使』になったわけでは無い、という事ですね?」

 

 

雪菜の言葉にラ・フォリアは小さく頷く。完全な『模造天使(エンジェル・フォウ)』となれば、その強大な神気に当てられ、人の自我が呑まれるのは時間の問題であり、そうなって仕舞えば周囲で何が起ころうとも、この様な不備は起きない。

 

 

『模造天使』とは、元来天使の破壊的な一面を色濃く反映した術式だ。否、それしか反映する事が出来なかった、と言った方が的確だろう。そもそも、天使という別種に、人間を至らせようとするという考え自体がそもそもフッ飛んでいる。

 

 

例を出せば、チンパンジーを人間にする事は出来ない。それをやろうとしているのだ。完璧な模倣など出来なくて当然なのだ。だが、完璧でなくとも、模倣は出来る。『模造天使』とは、つまるところ不完全な模倣を擬似的に行っている術式なのだ。

 

 

だが、模倣であっても、被対象者に流れ込む神気は本物のそれと大差無い。

 

 

そうであっても、夏音は暴走した。神気とは対照的な邪悪な存在のトップである吸血鬼を知覚していても、それの完全な粉砕を行わず、むしろ自らの機能を停止するためとでも言わんばかりに、自分ごと周囲を凍てつかせた。

 

 

流れ込んでいる筈の神気の本能に従わず、機能を停止した。これは、夏音の意識が『模造天使』完全に飲み込まれておらず、抵抗している証だろう。

 

 

「ですが、あまり時間はありません。このまま放置してしまえば、夏音の意識は次こそ間違いなく呑まれてしまうでしょう。そもそも人間の意識が、紛い物とはいえ天使の力に耐えられる筈がありませんから」

 

 

「そうですね……でも、対抗しようにも『模造天使』に対抗出来そうな、先輩はこの様子ですし、桜満先輩は……」

 

 

「あら、それだったらきっと大丈夫ですよ」

 

 

「え、何故ですか?」

 

 

「彼らならきっと無事です。仮にも、集は自らを『罪の王』と言ったそうですね?でしたら、大丈夫でしょう。『王』というものは、存外しぶといものですから」

 

 

「ど、どこからそんな事を……」

 

 

「真祖に対抗できる存在ですもの。チェックくらいはしています。そもそも、私がこの島へやって来たのも、一部の者の思惑として、真祖に対抗できる彼を籠絡する、という目的もあって来たのですから」

 

 

「ろ、籠らっ――」

 

 

ラ・フォリアはニコニコと笑っているが、雪菜は耳まで真っ赤にしてしまう。その様子を見て、ラ・フォリアは余計にクスクスと笑みを零す。

 

 

「ふふふ、大丈夫ですよ、雪菜。先ほども言ったでしょう?『一部の者の思惑』、と。それに、私ではきっと集のお眼鏡には(かな)いませんから」

 

 

「……桜満先輩の、ですか?」

 

 

「えぇ。何故だか分かりますか?」

 

 

雪菜は一瞬考え込むが、答えを言うまでには、それほど時間は掛からなかった。何故かその答えがスッと思いつき、一番しっくりくる答えだった。

 

 

「いのりさん、ですか?」

 

 

「えぇ、その通りです。雪菜は集の、いのりへ向ける目を見たことが有りますか?」

 

 

「……なるほど。ラ・フォリアの言わんとしている事は分かりました」

 

 

「ふふふ、本人たちは気付いていないと思いますけどあんな目を向けてもらえる、いのりが羨ましいです。きっと、私ではあの目に嫉妬しちゃいそうですから」

 

 

雪菜は考え込む。確かに、集がいのりへと向ける目も、感情も仮に自分だったらと考えるが、想像できない。

 

 

集が、いのりが、それぞれへと向けている目も、行動も、感情も、雪菜が古城へ抱くそれとは、やはり何処か違う。だからこそ、ラ・フォリアは言ったのだろう。嫉妬しそうだ、と。

 

 

「今のままでも、嫉妬……とは違いますけど、十分羨ましいとは感じますね」

 

 

「でしょう?折角、女に生まれたのです。出来ることなら、愛されてみたいと思いますから」

 

 

「あ、愛……」

 

 

「ふふ、雪菜のお相手はコッチかしら?」

 

 

ラ・フォリアは未だに目を覚まさない古城の頬を突き、イタズラっぽく微笑む。

 

 

「な、何の事ですか?」

 

 

「ふふふ、では私が貰ってしまっても問題無いですか?」

 

 

「もっ!……コホン……も、貰うとは、どういう事ですか?」

 

 

「あら、そのままの意味ですよ?」

 

 

「い、いけません!ラ・フォリアは一国の王女なんですから、先輩みたいな女の子と見れば、見境なく襲い掛かりかねない危険な存在とその……か、関係を持つ……というのは…その…」

 

 

雪菜とラ・フォリアが向き合う下では、古城が小さく呻き声を上げていた。が、彼女本人たちは気付いていない。その呻き声が一体、苦しみからくるものなのか、雪菜の言葉によるものなのかは定かでは無いが。

 

 

「ふふ、冗談ですよ、雪菜。ついからかってしまいました」

 

 

「………本当ですか?」

 

 

「えぇ、本当ですよ?それより、変ですね」

 

 

「え、何がですか?」

 

 

「古城の傷です」

 

 

そう言うと、ラ・フォリアは古城の着ている既に血糊や砂埃でボロボロになったパーカーの前面をはだけさせ、胸部部分を外気にさらす。既に血は止まっているが、傷の表面はまるで空洞が空いたように変色していた。

 

 

「………塞がって、ない?」

 

 

雪菜の表情が少し曇る。本来であれば、不死の存在であるはずの吸血鬼。そして、その頂点たる真祖であれば、この程度の大きさの傷であれば塞がっていても不思議はない。むしろそれが自然なのだ。だが、今はそれが起こっていない。

 

 

「えぇ、古城は真祖です。なのに、傷が塞がらないという事はあり得ません。おそらく、『模造天使』の剣は未だに古城に刺さったままなのでしょう」

 

 

「叶瀬賢生は、『模造天使』になった夏音さんは高次の次元に居ると言っていました。まさか、攻撃も…」

 

 

「えぇ、きっとそうでしょう。ですから、我々ではその高次の次元にあるという剣に触れる事自体出来ません」

 

 

証拠とばかりにラ・フォリアは古城の胸部の上を手で何度か往復させるが、その間虚空を切るだけで、何かに触れた様子はなかった。

 

 

「そ、そんな……」

 

 

「ですが、変ですね」

 

 

「……変、ですか?」

 

 

ラ・フォリアは小首を傾げ、しげしげと古城の傷跡を見る。そして、改めて古城の傷跡の付近に触れる。彼女もまた、雪菜同様に霊媒となり得る存在である。そして、その能力は雪菜にも引けを取らない。故に、彼女は霊視紛いの事も可能なのだ。そして、古城の中に何かを見たのだろう。ラ・フォリアはふっと笑みを浮かべた。

 

 

「ふふ、なるほど。そういうことですか」

 

 

「え、え?そういうことって――ラ・フォリア!?何をやっているんですか!?」

 

 

言葉の途中で雪菜は驚愕し、自分の目の前の王女を見る。ラ・フォリアは上着を手早く脱ぐと、その中に着ていたシャツのボタンにも手をかけ始めたのだ。ラ・フォリアは一瞬だけキョトンとしたが、雪菜が驚いている意味を理解したのか、説明を始めた。

 

 

「あぁ、これですか?古城には私の血を吸っていただこうと思いまして」

 

 

「な、なな……何でそうなるんですかっ!!」

 

 

「いいですか、雪菜?本来であれば、魔の者が対極である、神気を帯びた攻撃を受ければ浄化、消滅します。それは、たとえ真祖であっても例外ではありません。まだ未熟な真祖である古城ならば、尚更でしょう」

 

 

先ほどとは打って変わったラ・フォリアの説明に、雪菜もつい姿勢を正す。が、それは再び次の言葉であえなく瓦解した。

 

 

「ですから、私の血を吸っていただこうと思います」

 

 

「だ、だから!なんで、今の話と血を吸うという話がセットなんですか!?」

 

 

「あら?雪菜は、吸われたく無いんですか?」

 

 

「すっ…!!」

 

 

真っ赤に赤面し、狼狽える雪菜を他所に、ラ・フォリアはさも可笑しそうにクスクスと笑う。

 

 

「ふふ、ゴメンナサイ、雪菜。つい、あなたの様子がおかしくて、からかってしまいました」

 

 

「も、もう、ラ・フォリア!」

 

 

雪菜はからかわれていた事を知り、声に若干怒気を孕む。だが、再びラ・フォリアは佇まいを正し、ピンとした姿勢で、空気が変わった。

 

 

「雪菜」

 

 

「な、なんですか、ラ・フォリア?」

 

 

「あなたをからかうのも、一旦止めます。ですから、これから私が言うことをよく聞いて下さい」

 

 

「は、はい…」

 

 

雪菜からすれば、だったら初めから真面目に話せ、という文句の1つも言いたいくらいの腹積りであったが、今の状況を察し、それは一先ずやめておく事にした。

 

 

「先ほど言ったように、古城には神気を帯びた剣が刺さっています。神気は真祖にとっては猛毒です。光は真祖の身体を確実に蝕み、古城は消滅する筈です」

 

 

「はい…」

 

 

「ですが、古城は未だにこの世から消えてはいません。つまり、古城には神気を打ち消す、もしくは対抗する力がある、という事になります」

 

 

「……眷獣、ですか?」

 

 

「はい、正解です♪」

 

 

ラ・フォリアは再びニッコリと笑みを浮かべる。雪菜は得心する。だからこそ、ラ・フォリアは血を吸わせるという事を言ったのだろう。

 

 

「眷獣を目覚めさせるには、霊媒の血を吸わせるのがトリガーだと聞き及んでいます。そして吸血鬼の吸血衝動というのは、性欲。ですから、その………私も初めてなので、さすがに恥ずかしいというのもあって、先ほどは気を少しでも紛らわせようと、雪菜をからかってしまいました。ゴメンナサイ」

 

 

「い、いえ……その…た、確かに、えと………………あ、あの行為は恥ずかしいですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

少女2人の間にやや、沈黙が流れる。ラ・フォリアが恥ずかしいと言ったのは、本当なのだろう。頬がやや紅潮している。そして、雪菜が切り出した。

 

 

「………ですが先輩に血を吸わせるのは、私がやります」

 

 

「雪菜?」

 

 

「私は、先輩の監視役ですから。先輩が他の人から血を吸って、もし血の従者にしてしまう様な事があれば、面目が立ちません」

 

 

「…………ふふ、そうですね。今回は雪菜に譲ります」

 

 

「はい………あ、あの、ですけど、わ、私も恥ずかしいので、その………ラ・フォリアは後ろを向いておいてもらえると……」

 

 

「ふふ、そうですね。そうしておきましょう」

 

 

ラ・フォリアは、少し離れて後ろを向いて座り込む。だが、雪菜は気付いていない。氷の壁には、ボンヤリとだが、自分たちの姿が映っている事に。しかも、こんな閉鎖的な空間である。イヤでも声は響いてしまう。

 

 

つまり、ラ・フォリアが離れて後ろを向いたとしても、その様子はバッチリとラ・フォリアには筒抜けという事だ。が、せめて、見られていないと、安心させる事が重要なのだ。それを、ラ・フォリアは理解しているからこそ、後ろを向いた。

 

 

そして、当の雪菜はというと意識のない古城に対して、いかに吸血衝動を起こすかを思案していた。吸血鬼の吸血衝動は性欲。寝ている状態でも、性的な興奮を与えられれば問題がないのだ。

 

 

そして雪菜は、意を決した様に自らの犬歯で、口内を軽く切る。ビリッと痛みが走り、一瞬目を(つむ)る。そして、次の瞬間には鉄の味が口内に広がり、僅かに漏れたその臭気が鼻腔へ触れる。

 

 

口を切って出血した量は、ほんの僅かなものだ。古城に無理矢理にでも血を送り込む為に、雪菜は少量の唾液で希釈し、液量を増やす。

 

 

制服の前面開け、下着が見える様になると、古城に倒れかかり顔と顔とを近付ける。成長中の胸部は、古城の胸板に触れ形を変え、互いの匂いが香る様に感じられるくらい近くへ顔を寄せる。これから行う事は、雪菜も初めてであるため、さすがに一瞬身体を強張らせるが、脳内でこれは人工呼吸のような蘇生措置なのだと、自己暗示を掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ついに自分の唇と古城の唇が触れる。その瞬間に、雪菜の中には一言では表せない様な感情が渦巻くが、それで終わりにしてはならないと、覚悟を決めてそのまま口を開く。

 

 

小さな舌を古城の口の隙間に滑り込ませ、先端が歯に触れる。何とかここまで来たが、こんな事が初めてな雪菜は、この先どうしていいのか分からず、そのまましばらく思考が停止してしまう。その間にも、雪菜の口の中は徐々に唾液の量が増え、血が薄まってしまうと、焦りが浮かぶ。

 

 

「……ん…む………んぅっ!」

 

 

雪菜は何とかしなければと、古城の口内で舌を暴れさせる。すると、吸血鬼の本能なのか、僅かに閉じていた歯が開き、雪菜はその機を逃さない様にと、急いでその先へと舌を侵入させる。だが、急いで舌を突き入れた様にしたため、古城のものと雪菜のものが触れ、雪菜は驚いて身をビクリと動かす。

 

 

だが、慌てて口を離さない様に、むしろより密着する様にと、顔の角度を少し変える。呼吸が荒くなり、互いの呼吸の音も、心音もすぐ側に感じられ、雪菜は自分でも信じられないほど、心音が大きくなっていくのを感じていた。古城と雪菜の間にピッタリと隙間が無くなり、雪菜は自らの血を、唾液と共に古城へと渡していく。そして、古城の喉が拍動する様に動いた。それに気付かず、雪菜は尚も古城へ血を渡そうと、小さな舌を健気に動かす。

 

 

(お願いします、先輩……これで………っ!?)

 

 

雪菜は古城に密着したまま驚き、自らの舌を引っ込めようとする。それと同時に身体を離そうとするが、自らの後ろから掛けられる力にのせいで、それは叶わなかった。

 

 

「んっ!?……せ、せん………ん…ぅっ!」

 

 

雪菜が逃げようとすれば、古城の右手が雪菜の後頭部を無理矢理に押さえつけ、左腕はその華奢な身体に回され、ガッチリと固定し、雪菜が逃げる事を許さなかった。

 

 

今度は、古城の舌が雪菜の方へと侵入していた。逃げた雪菜の舌を逃さない様にと、無理矢理に雪菜の中を蹂躙する様に暴れ、力が緩んだのを逃さず、雪菜を捕まえる。

 

 

無意識なのであろうが、まるでもっと寄越せとでも言わんばかりに、古城の舌の動きは激しいものであった。身体を捩り、何とか抜け出そうとしていた雪菜だったが、やがて突っ撥ねようとしていた細腕からもクタリと力が抜けていく。

 

 

いつの間にか、古城が雪菜の上から襲いかかる様にして、唇を奪っており、雪菜はすでにされるがままである。そして、古城がようやく雪菜の唇からユックリと離れ、上体だけ起こす。雪菜は小さく、あっ、と声を出すと、自らの唇にそっと手を当てる。その手は小さく震えていた。

 

 

「せん、ぱい…?」

 

 

「…………」

 

 

古城は薄っすらと目を開けるだけで、その瞳に意識が宿っている様にはとても思えなかった。だが、その瞳は真っ赤に、焔光が揺れる様に灯っており、吸血鬼としての本能が表に出ている事を示していた。

 

 

未だに、先ほどの余韻(よいん)が残った雪菜は、覚束ない手で、古城の頬へ触れる。

 

 

「………いい…ですよ。せん、ぱい………んっ!いっ…!」

 

 

雪菜は痛がる様にビクンと身体を震わす。雪菜が痛がった原因は古城の左手が、雪菜の双丘の片方を掴んだからだ。鷲掴む様に下着越しにギュッと掴まれ、雪菜は痛みと、僅かな快楽から身をギュッと硬くする。

 

 

それと同時に古城の顔が雪菜の方へと下りてくる。雪菜は僅かに首を右に傾け、無謀になった首筋を晒す。

 

 

「はっ……はぁ……」

 

 

「ん……あ………ん!………………」

 

 

首筋に古城の息が当たり、雪菜は身悶える。そして、鋭く伸びた犬歯が雪菜の肌へと突き刺さり、雪菜は再び痛みに、ギュッと目を瞑る。指先から力が抜けていき、雪菜はされるがまま古城に身を預けるだけになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、その様子を氷越しに見ていたラ・フォリアは口に手を当て、頬を赤く染めていた。と言うか、実は雪菜が行為に夢中になり始めた頃から、自分のことは思考の外へ出されているのだろうと思い、徐々に近付き直接見ていたのだ。当然、雪菜も古城も気付いていない。と言うか、古城には意識自体無いわけなのだが……

 

 

行為が終了し、古城と雪菜は2人ともくたびれた様に意識を無くしていた。

 

 

ラ・フォリアは雪菜の上に覆い被さる様にしている古城を一旦退かすと、古城の穴の空いたパーカーを畳み、雪菜の頭の下に敷き、こちらの穴が空いた古城のインナーのシャツを雪菜の背中に敷いた。さらに、自らの着ていた上着を雪菜の上へと被せていた。

 

 

 

「さて、と。次ですね」

 

 

ラ・フォリアは上半身が裸の状態の古城の胸部へ人差し指を当て傷跡を確認する。傷跡はすっかり塞がり、外傷は消えていた。それを確認した上で、ラ・フォリアは古城の肩を揺する。

 

 

「古城。起きてください、古城」

 

 

「………んぁ?」

 

 

間の抜けた声を上げ、薄っすらと古城は目を開いていき、ボンヤリと自分の視界にラ・フォリアの姿を捉える。

 

 

「……ラ・フォリア?……………俺は…………………そうだ!叶瀬!!……ん?」

 

 

ガバリと勢いよく起き上がり、古城は隣から聞こえた小さな声に視線を落とす。そこには、小さく寝息を立てる雪菜がおり、自らの衣服が雪菜の布団や枕代わりになっている事に気付く。

 

 

「……何で俺は上半身裸なんだ?」

 

 

古城は自らの身体を見て、そう言葉を漏らす。

 

 

「すみません、古城。雪菜が張ってくれた結界で寒さが和らいでいるとはいえ、今の状態の雪菜では、風邪を引きかねませんから」

 

 

「今の…状態?」

 

 

「あら、覚えてませんか?雪菜とあれだけ激しい口付けをして、その後にタップリと雪菜の血を吸った事を」

 

 

「は……はあぁぁぁぁ!!?」

 

 

「んっ……」

 

 

古城の絶叫に、雪菜は一瞬呻き声を上げ、急いで口を紡ぐ。そして声のトーンを落として、改めてラ・フォリアと話し始める。

 

 

「落ち着きましたか?」

 

 

「………まぁ、何とかな。それよりも、状況が今ひとつ理解できないから、説明してもらっても?」

 

 

「そうですね。まずは今の状況からにしましょう」

 

 

そして、ラ・フォリアは古城に事の顛末を話し始めた。ざっくりと説明が終わったところで、古城は改めて眠る雪菜へと視線を落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか…………また、助けられちまったな」

 

 

「それで如何ですか、古城?」

 

 

「ん?」

 

 

「何のために雪菜が血を吸わせたか、お忘れですか?」

 

 

「え、あ、あぁ!眷獣か!」

 

 

「……少し失礼しますね」

 

 

「え、お、おい、ラ・フォリア!?」

 

 

ラ・フォリアは古城の胸板に手を添え、目を閉じる。ラ・フォリアからすれば、霊視を行っているだけなのだが、現在のラ・フォリアは無防備にもワイシャツ1枚とスカートだけしか身に付けていない。そんな格好の美姫が自らの方へ身体を寄せて来れば、古城の喉はカラカラと乾いてくる。再び吸血衝動が襲ってきている証拠であった。

 

 

「まだ、目覚めてはいない様ですね。この眷獣は…………なるほど、そういう事ですか」

 

 

ラ・フォリアは得心した様に、古城から一旦離れると、ワイシャツのボタンを上から外し始めた。徐々に露わになる肌を見て、古城は急いでラ・フォリアの手を掴み制止させる。

 

 

「ま、待て待て!何をやってんだ、あんたは!?」

 

 

「このままでは、シャツが邪魔で血を吸いづらいと思いましたから。それとも、このままが良いですか?」

 

 

「ちょっと待て!何で、血を吸う必要があるんだ!?ラ・フォリアの話じゃ、俺はさっき姫柊から血を吸った筈だろ!?」

 

 

「えぇ、そうですね。しかし、古城の眷獣は未だ目覚めてはいません」

 

 

「だ、だからって……」

 

 

「ならば、今のままで『模造天使』となった夏音を止められますか?」

 

 

ラ・フォリアは意志の籠った強い目で古城を見据える。その眼光は鋭く、普通の少女とは違う様に思えた。

 

 

彼女は王族である。いずれは国を背負って立たなければならない事もあるかもしれない。それらの重圧に耐える覚悟の宿った目である。それを前に、古城はぐっと息を呑む。

 

 

「私は夏音を救いたい。ですが、私にその力はありません。だからこそ、貴方に今は頼るのです、古城」

 

 

「ラ・フォリア……」

 

 

「これは契約です、第四真祖。貴方にアルディギア王国第一王女、ラ・フォリア・リハヴァインの血を捧げます。その対価に叶瀬夏音を見事救って見せなさい」

 

 

「…………分かった。いいぜ、その契約受けてやる」

 

 

「ふふ、よろしい」

 

 

そう言うと、ラ・フォリアはワイシャツの残りのボタンも外し、下着と腰部から胸部にかけての肌が露わになり、さらに肩に掛かっていた部分のワイシャツをスルリと外し、ワイシャツは両腕に掛かるだけになった。肌を隠す機能を全く失ってしまった布をラ・フォリアが未だ離さないのは、それが最後の羞恥心故だろう。

 

 

よほど恥ずかしいのか、頬だけでなく、耳の方まで薄っすら赤く染まっていた。元の肌の白さ故に、それが顕著であり、余計に古城の喉の渇きを加速させていた。

 

 

座っている古城に跨るようにして、ラ・フォリアは腰を落とし、古城に身体を預ける。

 

 

「………ごめんなさい、古城。本当はこういった事は、私も婚礼が決まっていれば、どう振る舞うか手ほどきを受ける機会もあったのでしょうが、生憎今回が初めてなので。………雪菜の様には出来ないかもしれません」

 

 

「あーー……その、なんだ。俺もそんな慣れてる訳じゃねえから……あー…………無理をさせちまうかもしれねえ。もし、不快だったら――」

 

 

そこまで言って、古城は言葉を止めた。その口は開いたまま、驚きを隠せないでいた。何故かと言えば、ラ・フォリアは先ほど雪菜がされていた時同様に、古城の手を自らの胸部へと運んでいたのだ。

 

 

手から伝わる感覚に、古城は頭が真っ白になりかける。

 

 

「……不快なんて事はありません。私の心音が分かりますか、古城?実はむしろ少し期待していて、こんなに早くなっているのです。ですから――」

 

 

ラ・フォリアはそのまま古城へ抱きつく。古城の鼻にラ・フォリアの髪がかかり、その鋭い嗅覚はラ・フォリアの匂いを感知する。

 

 

「遠慮する事はありません、古城」

 

 

「………後悔するなよ」

 

 

「えぇ……………んっ!…ぃ………………」

 

 

 

 

氷の壁をすり抜けた月光が、1つに重なった影を作り、同時に氷の中を明るく照らしていた。

 

 

 

 













入りきらんかった・・・


まぁ、次回に回します。






さて、久々の質問コーナー!


ご指摘、感想ありがとうございます!


さて質問と言うか、今回はご指摘でしたが。


ベアトリスがD種という指摘があり、急いで調べました!


その結果・・・

第一真祖の末裔→D種
第二真祖の末裔→G種
第三真祖の末裔→T種

(獣人→L種)

らしいです。

で、ベアトリスは第三真祖の末裔らしいので、T種らしいです。


他にも、何かあればご指摘、感想お待ちしております!





さてさて、次回はもう一話別の話を挟んで、その次が戦闘回ですね。


って事で、この章はあと数話で終わりです。次の章が結構長くなりそうなんですよね・・・


ま、まぁ、多分そのころには、幾つか肩の荷は下りてるだろうし、投稿も早くなるだろう!(多分・・・)


では、また次回も見ていただければ。ではでは



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