多分、二か月ぶりくらいの更新ですね・・・
いえ、リアル事情がですね(汗)Shu-katsu toka…
えーー、その影響と言いますか、ちょいちょいカットしてる部分もあるんですが、それでも楽しんで頂ければ・・・
と、取り敢えずどうぞ!
絃神島から西方へ約160km地点における無人島の海岸は現在戦場と化していた。無人島に元からいた数名の集団は、結界の反応に従い、砂浜を目指した。そして到着後、数言会話した後、戦闘に突入したというわけだ。
砂浜では砂塵が舞い、海水は飛沫を上げ、大地は割れ、森は抉られた様に消失している。そんな中、砂浜の上を幾つかの影が素早く動き、戦場を疾駆する。
「疾く在れ、『
第四真祖の眷獣である双角獣が
「はあああっ!!」
今、目の前に迫る脅威に対して槍を突き立てようとした少女の攻撃は、並の者では防ぐことは出来ない。さらに言えば、戦う力を持たない一般人相手に放てば、一撃で命を刈り取ってしまう様な攻撃である。それを彼女自身、よく理解しているために攻撃の筋が鈍った。たとえそれは、ほんの僅かな差であっても、実戦においては命取りになってしまう。
銀の機槍を突き立てようとするが、発生した力場に止められ、それ以上は攻撃が通ることは無かった。そして……
「――っ!ぅっ……!」
『Kyryyyyyyyyy!!』
「姫柊!」
押し負けた事で、後方へと吹き飛ばされた少女――姫柊雪菜を、第四真祖である暁古城が受け止め、砂浜への激突は回避する事ができた。そして、自分たちを押し返した元凶である少女を見る。
現在の彼女は人間の姿形とやや異なっていた。人間には決してあるはずの無いもの――純白の翼が背中から伸びているのだ。神々しささえ感じてならない存在。その姿は古の神話で語られる天使の様であった。
「どうかね、第四真祖?これが、私が行き着いた研究の成果……『
砂浜の上に、新たな人物が現れる。白衣を着用し、魔導紋章を形どったネックレスを首から提げ、メガネを掛けた中年男性だ。歳はおそらく40かそこらであろう。男性は自らの娘であるはずの少女を見上げ、眼を細める。彼こそこの事件の元凶となるものを作った魔導技師である
「フザケんなよ、オッさん!!あんた、自分の娘をそんな姿にして、何とも思わないのか!?」
「『そんな姿』…か。その言葉には語弊があるな。この『
「そんな姿が高次の存在だと!?そう思ってんのは、あんただけだろうが!それは、叶瀬が望んだ事なのか!?」
「何とでも言うといい。君らが何と言おうと、何を感じようと、これは間違いなく人類の到達する極地の1つだ。そこに人の意志が介在する必要はない」
「……おい、あんた今『これ』って言ったか?」
「…………」
「あんた、今自分の娘を――」
「あーあー、ギャーギャーうっさいわねぇ」
古城の言葉を遮って、1人の女性が出てくる。バイクに乗る際に着用する、ボディラインが強調される様なライダースーツに身を包んだ女性だ。色の薄いブロンドに赤く光る双眸が特徴的である。何よりも目を引くのが、彼女の持つ槍の様な武器である。上陸した際には持っていなかった筈である。
それらの特徴を見て、ラ・フォリアが呟く。
「その武器に赤い双眸……T種、ですか」
「へぇ、流石はアルディギアの王女殿下だ。お察しの通り、私はT種だよ。扱う眷獣はこの槍型の『
槍型の眷獣である『
「くっ…」
「ハハハハハッ!無駄だよっ!改めて自己紹介だ!私はベアトリス・バスラー!あんたは私らの胴部になってもらうよ。ってわけで、大人しく寝んねしときな、メス豚!」
迫る兇刃をラ・フォリアは後方へと跳躍することで避けるが、一度砂浜を抉った穂先は再び着地前のラ・フォリアを捉えようとする。
だが、ラ・フォリアへと直撃する直前、ベアトリスが体制を崩し、膝を付く。彼女の足元の砂は、赤いシミの様な拡がりが出来ていた。彼女の膝には風穴が空いており、後方の砂浜には、それをやったであろう銃弾が膝を貫通し埋まっている。自分の膝からの出血を見て、ベアトリスは鋭く伸びた犬歯を剥き出しにして、声を荒げる。
「ぐ……う、うぅぅあぁあぁぁぁ!!クソ!クソ!クソが!さっきから、邪魔して来やがって、ウゼエんだよぉ!!おい、ロウ!まだ臆病者を始末できないのかい!?」
「そうカッカすんなよ、BB。小ジワが増えるぜ?………まぁ、さっきから探っちゃいるんだが、向こうの方が上手だな。この時間帯、陸風の方が吹いてる筈なんだが、どういう訳か匂いで探れねえ。発砲の時の光も音もあんま分かんねえしな。こりゃ、その辺の素人の仕業じゃ無さそうだ。それに加え――っとぉ!」
ベアトリスのヒステリックな叫びに、集といのりを無人島に落とした男――ロウ・キリシマが飄々と返す。そして、その言葉を遮る様にして、1発の銃弾が彼を襲う。
狙いは丁度脳天を正確に撃ち抜く角度であったが、ロウはそれを手で受け止めた。止めた手は獣毛が生え、爪が鋭く伸び、腕は2倍ほどの太さにまで膨れ上がっていた。明らかに人間のソレとは別物である。
「へへ、折角この島に乗せて来てやったのに、コレは酷くねえか?」
「……集と私は、あなたに落とされた」
ロウの視線の先には、僅かに硝煙を上げる銃口を向ける、いのりの姿があった。銃は東條から借り受けた物である。当の東條はと言えば、「人外共と正面切って戦うのは無理」という事で、鬱蒼とした森林の中から狙撃によるサポートに徹するという事であった。先ほどベアトリスが膝を付く要因を作ったのが正にそれだ。
「まぁ、それは悪かったと思ってるぜ?だが、過ぎたことは忘れようぜ――っと!?」
「外したか……!」
「おいおい、危ね――うおっ!?またか!」
今度は集が『すべてを断ち切るハサミ』で斬りつけ、避けたところを再び、いのりの銃弾が襲う。言わずもがな、その銃弾は正確に際どい急所を狙っており、いくら生命力の強いL種――獣人と言えど、直撃すれば先ほどのベアトリス同様、多少なりとも動きが一瞬止まるだろう。
ロウは顔には出さないが、この攻防は冷や汗ものであった。正確無比な射撃に、恐らく獣人の外皮をも引き裂くであろう斬撃。感覚としては、詰将棋にも近いものがあった。一瞬でも気を抜けば、恐らくどちらかの餌食となる。東條の位置が未だに察知されないのは、この2人の波状攻撃も一因であった。
「ったく、本当に怖いな、このバカップルは!おい、賢生!さっさと、XDA-7を使え!」
「………分かっている」
彼は腐っても、王宮に召し上げられた元宮廷魔導技師である。当然、東條もそれを把握して、引き金を引いた。いくら、優秀な魔導技師といえども、秒速1000mを超えるライフル弾には反応し切れる筈がないだろうし、見たところ魔術的な結界も感知されていない。
ただ1つ、彼が見逃したのは『
(……おいおい、マジでかよ)
ライフル弾は夏音から伸びる翼に止められ、消滅させられていた。そして、ギロリと500m近く離れている筈の東條を睨めつける。
(おい、まさか……クソッ、しくった!)
東條は急いで立ち上がり、場所を移そうとする。だが、人間よりも神に近付いた存在――即ち天使にとってはアリが逃げようとする様なものである。彼女はスッと片手を翳す。
「おい……やめろ!叶瀬!くそ!疾く在れ、『
「ダメです、先輩!」
「っ!しま――」
古城は咄嗟に手を翳し、夏音に向けて眷獣を放つ。慌てて眷獣を放ったため、威力を加減できていないのだ。常人が触れれば肉片すら残らないであろう威力の電撃が砂浜の上を走り、『模造天使』となった夏音へと迫る。が――
「な!?い、今のは!?」
古城たちが危惧した夏音への攻撃は、彼女にカスリもしなかった。否、触れる事が出来なかった。第四真祖の眷獣である、雷を纏った黄金の獅子の突進は夏音をすり抜け、海水に触れ、その場の海水を沸騰させ、同時に蒸発させた。
「無駄だ、第四真祖。『
カッ!と夏音の手元が光った瞬間、東條の居たと思われる地点には、巨大な魔力で出来たと思われる剣が大地を深々と抉っていた。その光景に、砂浜にいた全員の手が止まった。巨剣の周囲には舞い上がった粉塵はパラパラと音を立てて雨の様に降り、森林を形成していた木々は悉く薙ぎ倒されている。晴れた土煙の元には、ただ巨剣の刺さっていた亀裂と、クレーターが形成されていただけであった。
「そ、そんな……東條…さん?」
雪菜は
「………おい、オッさん。あんた、今自分が何をしたか分かってんのか?」
「ああ、分かっている。こう言いたいのだろう?『自分の娘に人殺しをさせた』、と。だが、娘を思えば、他人の命など無いに等しい。そう正に『そこに人の意志が介在する必要はない』……少なくとも今の私にとってはな」
「何が、娘を思えばだ!本当に叶瀬の事を考えてんなら、こんな事して平気な訳が無えだろ!!」
「………何とでも言え、第四真祖。所詮はこれも通過点に過ぎないのだからな」
「……通過点?」
「……さぁ、やれ、夏音。予定は狂ったが、まず先に邪魔な第四真祖を葬るのだ。そして次に……罪の王を討て」
『Kyryyyyy!!』
賢生の言に従い、夏音は攻撃の体勢へと移る。そして、先ほど森を吹き飛ばした時同様、彼女の翳した手が魔力の凝集により輝き始める。だが、古城もただやられるだけではない。何とか攻撃を相殺しようと古城も手を翳し、眷獣を呼び出そうとする。
「く……叶瀬……!」
だが、呼び出そうとする直前、彼女の表情を見てしまった。躊躇いや、悲しみ、様々な感情が入り混じった様な表情だ。『
「っ――!」
古城は直撃を覚悟した刹那、目の前に自分より小さな影が入って来るのを見た。それを確認すると同時に一度まばたきをする。そして、目を開けた次の瞬間、彼の目に飛び込んできたのは、砂浜に膝を付いて肩で息をする少女の小さな背中だった。その背中からは、薄紫色の結晶体が翼のように伸び、砂浜へと刺さっている。そして周囲には古城達を避けるようにして、薄紫色の結晶が広がり、ほぼ砂浜一面に広がっていた。
先ほどの夏音の攻撃の直前、いのりは集の制止も聞かず夏音の放った攻撃の前に身を投げ出したのだ。そして、ナラクヴェーラの一件で獲得した『魔力変換』を行使し、
「…はっ…はぁ…はぁ………」
「ゆ、楪…!?」
「いのり!!!」
集は急いで駆け寄り、倒れかけていた彼女を抱き止める。
「だ…いじょうぶ、集。……ちょっと、疲れた…だけ」
「………っ」
集がグッと下唇を噛む。自分の警戒心が不足していた事への後悔故にだ。『あらゆるものを弾く盾』ならば防げた可能性もある。集は飛び出すのを阻害した相手であるロウ・キリシマを睨みつける。
「おいおい、怖えー顔すんなよ。俺はお前らの敵なんだから邪魔すんのは当たり前だろ?………おい賢生、とっとと第四真祖をヤッちまえよ。プロモーションもそろそろ終わりにしようぜ。まだまだ後が控えてんだからよ」
「そうだな………夏音!」
『Kyryyyyyyyyyyyyyy!!!』
「退いとけよ、王様少年。まずは、そっちの真祖を片しちまうからよ」
賢生の指示に夏音は咆哮で応え、再び剣が夏音の周囲に展開される。しかも、今度は一本ではない。確実に相手を仕留めるためか、計7本の巨剣を具現化した。
『Kyryyyyyy!!』
そして、もう一度咆哮を上げると、夏音は剣を射出する。だが、予め予想していた攻撃を前に、『あらゆるものを弾く盾』を顕現した集が立ち塞がる。
「古城!下がって!!」
「桜満!?」
トンと古城は集に片手で押され、バランスを崩す様にして砂浜の上をよたつく。そして次の瞬間には、集の展開している盾に巨剣が降り注ぐ。『あらゆるものを弾く盾』を構成する、6枚の花弁は形を変えつつも攻撃を逸らし、砂浜へと弾き飛ばす。その度に、砂浜の上を覆っている薄紫色の結晶を砕き、粒子となって戦場を舞う。
そして、6本目を弾いたところで、集は違和感を感じた。7度目の衝撃が来ないのだ。
「ぐっ!?………おぉ!?」
「古城!!」
「先輩!?」
集の盾は鉄壁を誇る。だが、万能ではない。強い衝撃を受ければ、その度に形を変えながら力を受け流そうとする。『
故に、古城に現在刺さっている剣は、剣というよりも、槍といった方がしっくり来る。意識がない筈の『模造天使』でこういった事が出来るのも、叶瀬夏音という破格の
背後へ倒れそうな古城を駆け寄った雪菜が急いで支え、悲痛な声を上げる。
「先輩!先輩!!……しっかりして下さい!!」
「う……ぐっ…あ…………」
「そ、そんな…」
「雪菜!古城を横に!」
負傷した古城に駆け寄るラ・フォリア、何度も呼びかける雪菜、唖然とする集といのり。若干10代半ばの彼らに、戦場で唖然とするな、という方が無理であろう。だが、それに対して大人は残酷である。
まさに、手ぐすねを引いて待っていたと言わんばかりに、動いた者がいたのだ。
「はっはーー!!呆けてるんじゃないよ!そら!もう1人、あの世に逝っちまうよ!!やっちまいな、『蛇紅羅』!」
「しま――」
「……っ!」
動いた者とは先ほどまで雪菜とラ・フォリアが相手をしていたベアトリスだ。槍型の眷獣である『蛇紅羅』の先端にある目が開いた途端ギョロリと動き、いのりを視界に納める。そして穂先が三叉に分かれ、3方向からいのりへと伸びる。
「いのりーーーー!!!」
「あははは!無駄だ――」
「ああぁあぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!」
天をつん裂くが如き悲鳴が、戦場に響く。誰しもがその悲鳴に一瞬硬直し、いのりに迫っていた兇刃も動きを止めた。『
悲鳴の発生源は『模造天使』と化した夏音からであった。当然その好機を集が逃しはしない。急いで、いのりに駆け寄り保護するように盾を広げる。
だが、その間に夏音の様子はみるみる変化していった。頭を抱え出し、何かに苦しむ様になっていたのだ。
「……あ……ぅ……ぁ……あぁ…!」
「XDA-7!どうした!……夏音!」
「あ…ぅあ………ああぁぁああぁぁぁ!!!」
夏音の表情は、悲嘆暮れた様になり、その直後に再び悲鳴を上げた。次の瞬間――
「な……これは…!」
「ちょっと、コレはマズイんじゃないかい……?」
突如として、夏音を中心として空気が凍結し始め、気温はグングン低下し、吹雪が発生し始めた。しかもその周囲を氷柱が形成され始めたのだ。全員が驚く中、ベアトリスと賢生を両脇に抱える様にして、ロウが飛び出し、一足飛びで揚陸艇へと乗り込んだ。
「ま、待て!」
「じゃあな、バカップル。精々生き延びるこった。お前ら相手のプロモーションは終わってねえんだからよ」
ロウはそう言うと、そのまま揚陸艇を急発進させ、海上を進んでいく。しかし、癪ではあるが、彼の言うとおり今は生き延びる算段を立てなければならない。集は、いのりの手を引こうとするが、グッと引っ張られる感覚を感じ、振り返る。
「しゅ、集……わた…し………
「えぇ!?」
集は驚き、声を上げる。いのりはへたり込み、脱力しきったように集の手を握る力も弱い。
「桜満先輩!いのりさん!急いでコッチに!」
離れた場所で雪菜が集へと呼び掛ける。集はいのりを抱え上げ、駆け出そうとするが……
「集!急いで、雪菜の作る結――」
ラ・フォリアが集を急かすが次の瞬間、いのりを抱えた集を猛吹雪と突風が襲う。
「ぐっ!?……う……うあぁあぁぁぁぁ…………………」
「集!!」
「桜満先輩!!」
彼らが声を上げるが、無情にも集といのりは突如起こったブリザードに吹き飛ばされた。
そして、彼らが戦っていた場所には、巨大な氷柱が生まれ、それはさながら無人島のシンボルの様に高くそびえ立つのであった。
・・・という事で、久々の更新でございました。
合間合間で作っているので、誤字脱字もあるかと思いますが、そこはご一報をば。
さて、久々の戦闘回でしたが、次回は再び戦闘から少し離れます。まぁ、あのシーンですよ(フッ・・・)
プラス、多分あっちも・・・
さてさて、そろそろ物語自体を色々と動かしたいところですね。(多分、この章はあまり動かないんでしょうけど)
ではでは、また次回!