Blood&Guilty   作:メラニン

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さて、今回はオリジナルのヴォイドも登場させます。まぁ、今後活躍できる機会があるかどうかは分かりませんが・・・

取り敢えず、どうぞ!


罪の王冠編Ⅲ

集の歓迎会の行われた日の翌日。本来であれば、昨日の内に集の右腕について聞こうと思っていたが、歓迎会で暁深森が出した貰い物だというティラミスに、アルコールが多量に用いられていたらしく、学生組は全員がダウンしてそれどころでは無かったようだ。ガンガンと頭の中を叩かれてるような、二日酔い特有の頭痛に耐えつつ、矢瀬は集を起こして深森の自室まで連れて行く。

実は昨日酔いどれになる前に、深森には前もって集を調べて貰うように依頼していたのだ。集自身も深森が『接触感応能力者(サイコメトラー)』というこの世界において『過適応能力者(ハイパーアダプター)』と呼ばれる、いわゆる超能力者である事は聞いていた。

集の『右腕』については、集自身が少しは矢瀬に話していたのだが、他にも気になる事があり、今回暁深森による診断を受ける事にした。

 

 

「ほっほーぅ、なるほどねぇ。つまり君はおそらく異世界から来たかも、と。で、その腕は、君が言うところの『ヴォイド』という人の心を具現化したようなものなわけか。で、それぞれのヴォイドには特性があり、それも多種多様。君の場合はそれら他人のヴォイドの一時格納、及びその使用。また、君のいた世界で蔓延していたアポカリプスウイルスの分離・吸収ができる。で、前の世界で全世界のヴォイドをウイルスごと全部集めて、この世界に来た」

 

 

「はい、まとめるとそういう事です」

 

 

集の説明に深森は面白いオモチャを見つけたと言わんばかりに、目を輝かせた。

 

 

「ふんふー♪アポカリプスウイルス、だなんて良いネーミングねぇ。黙示録か…それに感染した者から取り出せるヴォイド。ヴォイドを取り出せるっていうヴォイドゲノムと呼ばれる『王の能力』……ふ、ふふふふ」

 

 

妖しく笑う深森に後ずさりする集と矢瀬。もしかしなくとも、人選を誤ったと今更ながらに後悔する。集は知らないかもしれないが、矢瀬の方は噂程度だが深森のこういったメチャクチャな…というよりも、マッドサイエンティストの様な一面を少なからず耳にはしていたのだ。こうなってしまっては、矢瀬としては集の無事を祈る事しかできない。

 

 

「あらぁ?そんなに、怯えなくていいのよ?さすがに私も自宅で解――臨床試験なんてしないわ」

 

 

「解剖って言いかけましたよね!?今解剖って絶対に言いかけましたよね!?」

 

 

「もう!いいから、ちょっと大人しくしときなさい!矢瀬君、ちょっと抑えて!」

 

 

矢瀬は素直に深森の指示を聞いて後ろから集を羽交い絞めにする。

 

 

「がっ!?ちょ、矢瀬さん!?」

 

 

「すまん、桜満。俺はまだ死ぬ訳にはいかないんだ。俺のためにも犠牲になってくれ。お前の事は忘れない…くっ」

 

 

「『くっ』じゃないよ!え、僕死ぬような事されるの!?」

 

 

「ぐふふ、桜満集君。私の科学の繁栄のための礎になりたまえぇ~~」

 

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

 

「ほいっと」

 

 

叫び声を上げた集の頭の上にポンッと深森が手を乗せる。急な行動に目を白黒させる集に説明も無しに、深森は集の事を読み取っていく。

 

 

「ふふんー、なるほど。君の身体構造は確かに人間のそれね。けど、遺伝子情報に若干の修飾が見られる。ははーん、これがヴォイドゲノムねぇ。なるほど、この遺伝子領域にくっ付いてることで、宿主のアポカリプスウイルスへの親和性、共鳴率を上げて他人のイントロン領域に干渉してヴォイドを取り出すわけね。なるほどなるほど、正に神の領域ともいえる業だわ。けど、今はアポカリプスウイルスが殆ど失活してる。ううん、変異してるのかしら?ふーん、周囲への感染はもうしない訳か……チッ、つまんなーい」

 

 

「「おい!!」」

 

 

最後の深森の物騒な発言には突っ込まずにはいられなかった。この世界の人間は知らない人間の方が多いというよりも、知っているはずもないのだがアポカリプスウイルスというのは、集の世界では数千、数万もしかしたらもっと多くの人間の命を奪ったウイルスだ。それこそ、そのまま進めばアポカリプス――すなわち、黙示録が起こってもおかしくは無かっただろう。いや、そもそも生命の淘汰と進化が目的のウイルスだったのだから、確実にそれは起こっただろう。

 

 

「さてさて、じゃあ本命はコッチの『右腕』なのよねぇ。どれどれ――うわっち!!?」

 

 

集の結晶状になった『右腕』に深森が触れた瞬間に、深森は慌てて手を引っ込めた。

 

 

「ふぃ~~、ビックリしたぁ」

 

 

「……んーと?深森さん?どうかしたんスか?」

 

 

「……むむむ、矢瀬君。桜満集君の右腕に関しては、診察不可」

 

 

矢瀬は思わぬ深森の諦めの言葉に耳を疑った。問い詰める矢瀬に深森は指をアゴに当てながら、しげしげと集の右腕を眺めながら、その理由を話す。

 

 

「な、何でなんスか!?」

 

 

「まぁ、予想はしてたんだけどさ。さっき、世界中の人のヴォイドを集めて来たって言ったわよね?それが原因で、右腕に宿ってるヴォイド量が膨大で、さらにその所為で、抱えてる情報量も膨大過ぎて読み取り切れないのよぉ。ってか、無理に読み取ろうとしたら、多分私の脳ミソがこんがり焼けちゃう」

 

 

深森はお手上げと示すように、両手を上げてヒラヒラ動かす。

 

 

「そっか……だから、ヴォイドが取り出しにくくなってたのか」

 

 

そう、集が気になっていたのは、ヴォイドの発現が出来なくなっていた事だ。異世界に来てしまった弊害とも思ったが、集のその予想は外れていた。本来であれば、集は格納しているヴォイドで行動を起こす事も可能であるのだが、それは本来であればの話だ。全世界の他人のヴォイドを吸収した事で、集自身の『右腕』に不具合が生じているわけだ。

 

 

「んー、そうねぇ。私もそのヴォイドってのを見てみたいし、治してあげたいのは山々なんだけど、そもそもの情報が読み取れないんじゃ、打つ手なしだわぁ。んーー………要は、情報量が多くて右腕が混乱してる状況なのかしら?まぁ、だったら時間が解決してくれるのを待つしかないわねぇ」

 

 

「えっと、その時間ってどのくらい」

 

 

「さっきも言ったけど、読み取れないから、分かんないわ。ま、チラッと断片的に読み取れた感じだと、殆どは右腕の中でヴォイドが乱雑に存在している状態なんだけど一部は整理されていたから、その部分だけは取り出せるんじゃないかしら?」

 

 

「んな、パソコンみたいなモン何すかねぇ?」

 

 

「あら、矢瀬君。人の脳もパソコンも情報が整理されていないと、記憶やデータっていうのは取り出しにくいものよぉ?この子の右腕は人の脳とパソコンの間くらいのイメージかしら?今も必死に情報を整理している筈だから、いずれは元にもどるんじゃなぁい?」

 

 

「んな、適当な……」

 

 

「だってぇ、こんなの私だって初めてなんだもーん。仕方ないじゃなーい?」

 

 

「は、はぁ。けど、一部であろうと、ヴォイドが使えるのが分かったのは収穫でした。ありがとうございます」

 

 

「んふふ、いーのよ。凪沙の恩人だもんね。けど、折角なら実物のヴォイドっていうのを見てみたいわねぇ」

 

 

「う、うーん、ちょっと待っててくださいね……」

 

 

集は己のヴォイドである右腕に意識を集中させて、探りにかかる。先ほど深森が深層まで読み取ろうとして、弾かれたときの二の舞にならない様に。そして、見つけた。今現在、集が発現できるヴォイドを。

それを確認して、集はヴォイドを発現させようとする。右腕には蛍光色の幾何学的なラインが数本走り、集の右手の中にそれは発現される。

 

 

 

「ほぉ、これが……」

 

 

「へぇ、これも結晶が変異した様にして具現化するのか。どれどれ、機能は……」

 

 

現れたのは集の親友だった、寒川(さむかわ)谷尋(やひろ)のヴォイド『命を断ち切るハサミ』()()()()()()()。深森は早速読み取ろうとハサミに触れる。

 

 

「これは……『すべてを断ち切るハサミ』ね」

 

 

「え、えっと、ちょっと待ってください。『すべて』ですか?『命』じゃなくて?」

 

 

「うん、そうみたいよ。私の能力って読み間違える事だけはないから、その筈よ。……もしかしなくても、これって『命を断ち切るハサミ』だった?」

 

 

集は深森の言葉に首肯する。

 

 

「んーー……さっき、アポカリプスウイルスが変異してるって言ったでしょ?」

 

 

「はい……」

 

 

「考えられるのは、ウイルスの変異の影響がヴォイドにも及んだ、ってところかしら」

 

 

「ヴォイドが変異……」

 

 

「ふーん、対象に突っ込んで本当に『すべて』を断ち切るのか……随分物騒ねぇ。他には無いの?できれば沢山サンプルを見ておきたいから」

 

 

「は、はぁ。えっと、じゃあ」

 

 

そうして集は深森に言われた通り現在発動可能なヴォイドを発現させる。魂館(たまだて)颯太(そうた)の銃に近い形状の『あらゆるものを開くカメラ』、草間(くさま)花音(かのん)の片側しかない『レーダー機能付のメガネ』、他にも機能が不明の冷蔵庫、コンパス、コピー機などだ。見た事のあるヴォイドはハサミと、メガネ、カメラだけで、初めて見たものは深森に能力を読み取ってもらった。

 

 

「ふむふむ、コッチのコピー機は対象のイメージした内容を映像化できるみたいね」

 

 

「へぇ、取り調べでならメチャクチャ使い所がありそうッスね」

 

 

「んー、けど矢瀬君の期待には答えられないかなぁ。あくまで、その時イメージしたものの印刷だから、別の事を思い浮かべられたら、防げちゃうわよ。で、えっと…………お、コッチのコンパスは結構高性能ね。集君が思い浮かべたものの在り処を示すみたい」

 

 

「「!?」」

 

 

深森の言葉に驚いた集は深森の持っていたコンパスを引ったくるように取って、ジッとコンパスを見つめる。集が思い浮かべたのは、当然未だに会えていない、楪いのりだ。集の思い浮かべた物の在り処を示すのならば、もしかしたらと思ったのだ。しかし、コンパスは集の期待とは外れた結果になった。どこか、一方向を示すのではなく、針の部分が忙しくクルクル回転しているのだ。

 

 

「もぅ~~、落ち着きたまえよ、集君。そのコンパスの捜索可能な範囲は半径5kmまでみたいよ。それでも、メチャクチャ高性能だけどね。で、範囲内に対象物が存在しない場合は、今みたいにクルクル回るって訳ね。じゃ、次が最後か…………うーん、この冷蔵庫は中の温度を−200℃以下まで下げられるみたい。圧力変化もお手の物ね。コッチも凄いわねぇ」

 

 

「−200℃か。確かにスゴイっすね」

 

 

「ええ、本当よ。開けっ放しにしとけば、クーラー要らずね」

 

 

「………そっちッスか」

 

 

「当たり前よ。実際開けてみ――わつつつ」

 

 

「どわぁっ!?」

 

 

「つ、冷たっ!?」

 

 

深森が開けた瞬間に、中からは超低温の液状の物質が出てきた。それに驚いて、3人はそれぞれベッドの上、机の上、椅子の上へと避難した。しかし、漏れたものは液状の物質だ。ドアの隙間を通って外へと漏れ出す。

 

 

「な、何なんスか、コレ!?」

 

 

「えっとぉ、発現させてもらってから結構時間が経っちゃったから、中にあった空気が冷やされて……」

 

 

「…………液体窒素って事ですか?」

 

 

「うーーん、そうかも?」

 

 

「それ以外考えられんでしょうがっ!!ってか、どうすんですか!?身動き取れないンスけど!?」

 

 

矢瀬の指摘通り、床は流れ出た液体窒素と厳密に言えばプラス液体酸素で満たされてしまって、足を下ろせない状態になっていた。深森は既にベッドの側にある窓を全開にしている辺り、本当に科学者なのだろう。こんな狭い空間で大量の液体窒素が気化した場合、最悪窒息する危険性がある。

そして、外からは状況を全く飲み込めて居ないであろう、他の3人の声が響く。

 

 

『きゃあぁぁ!何これ!?え、煙!?って事は火事!?いや、でも熱くないし匂いもしないし……あー!この煙、深森ちゃんの部屋から出てるー!』

 

 

『何やらかしたんだ、ウチの母親は!って、冷てぇ!!ってか、むしろ痛えぇ!』

 

 

『ちょ、古城!触っちゃダメよ!コレ多分、液体窒素だから!凪沙ちゃん、窓を全開にしてくれる!?』

 

 

『う、うん!分かった!』

 

 

外では浅葱が対応してくれているらしく、古城と凪沙は大丈夫な様だ。そして、集と矢瀬、暁深森は顔を合わせて、事の顛末をどう説明するのかを考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暁家液体窒素事件が終息後、発生源の部屋にいた深森、矢瀬、集はリビングにて正座させられていた。彼らの目の前には、この家の家事全般をやりくりしている、暁凪沙が頬を少し膨らませた状態で仁王立ちしていた。表情はいかにも不機嫌といった様子だ。それもそうだろう。液体窒素が気化しきった後の後片付けをほぼ一人でやっていたのだ。

 

 

「もう!深森ちゃん!何で、液体窒素なんて危ない物を家に持ち込んだの!?」

 

 

「ち、違うのよ、凪沙。私も故意的に持ち込んだ訳じゃないのよ。事故だったの!」

 

 

「何時もならクーラーボックスにはアイスしか入ってないじゃん!何で今日に限って液体窒素なの!?」

 

 

「え、えっとぉ、容器を間違えちゃって」

 

 

結局事件の原因は深森の部屋にあった、彼女の勤め先であるMARから持って帰ってきたというクーラーボックスの中の液体窒素が漏れ出したから、という事になった。集のヴォイドなどに関して説明しても、混乱するだけだろうと考えた3人は苦肉の策として、そういう事にした。

そこから凪沙の説教は長かった。時間にして30分ほど説教をし続けたのだ。一通り終わってから満足したのか、凪沙は大人しくなり、それ以上追求はして来なかった。そして、その後全員で朝食を食べ、深森が出社した後だった。矢瀬が話し始めたのだ。

 

 

「さて、今日は如何するかね?取り敢えず俺は昨日で宿題の方は結構進んじまって、やる事無いんだが」

 

 

「はぁ………俺はまだ――」

 

 

「そうだ!集さん、結局深森ちゃんに診てもらって、問題無かったんだよね!?」

 

 

「あ、うん。まぁ、元々直ぐに命の危険につながる様な物では無かったしね」

 

 

「じゃあ、集さんにこの島を案内してあげようよ!ね、古城君!」

 

 

「いや、俺は宿--」

 

 

「いよぉし!じゃ、今日は島中を回って案内しよう!ナイスアイディアだぜ、凪沙ちゃん!って事で、古城も行こうぜ」

 

 

「いや、しゅ――」

 

 

「そうね。島の勝手が分かんないんじゃ不便だろうし、案内ついでに今日は遊ぼっか。けど、凪沙ちゃん部活はいいの?」

 

 

「あの、俺はし――」

 

 

「うん!今日はちょうど休みだったんだ!なんか、岬ちゃんを始めとした教師数名が今日は忙しいんだって。だから、少しの間お休みなんだよね」

 

 

「そう言えば、那月ちゃんも忙しいって言ってたわね。何かあったのかしら?」

 

 

「いや、その那月ちゃんに課されてるsh--」

 

 

「ま、細かい事はいいじゃねえか。それじゃあ、準備が出来次第出発だな!」

 

 

「「「おーー!」」」

 

 

「俺の話を聞けーー!!」

 

 

当然古城の意見が通る訳もなく、古城の抗議も虚しく、古城は炎天下の日光に晒される運命が決定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイランド・ウェストの一角。ここは、あらゆる商業施設が揃っており、この島の学生が遊ぶには打ってつけの地区だ。暁家のあるアイランド・サウスにも駅前に行けばゲーセンや簡易的なショッピングモールなどはあるが、やはりアイランド・ウェストに比べると、規模などが違う。そして何より、今回はこの島が初めてだという集の案内が主な目的なのである。集にとってはこの島中を巡ることの出来る島の案内は渡りに船だった。

集が新たに発現したヴォイドである、『望むものを指すコンパス』の捜索範囲は半径5km。島を移動しながら、時折コンパスを見れば島中の探索が可能なわけだ。しかし、今のところアイランド・サウス、アイランド・ウェスト共に反応は無く、コンパスの針もクルクル回るだけだ。そもそも、集の目的である、いのりが同じ島内に居るのかさえ怪しい。そうなってしまえば、頼りになるのは矢瀬の所属するという組織だけなのだが………

 

 

「ふぃ〜〜、遊んだなぁ」

 

 

「本当ねぇ。これぞ、夏休みって感じだったわ」

 

 

「うん、本当に楽しかったよ。もう、何時まで拗ねてるの、古城君?」

 

 

「お前なぁ、無理矢理連れて来た上に、負かされたらそうなるだろ」

 

 

「あはは……まぁ、確かに最後のあれは反則だったけど」

 

 

古城、凪沙、浅葱、矢瀬、そして集はアイランド・ウェストのスポーツ施設で遊んでいた。最後にバスケの3on3をやろうとしたが、人数の関係上それは無理であり、結局元バスケ部だという古城一人対残り全員という変則マッチになった。それでも、さすがは元バスケ部というだけあって古城も善戦したのだが、数の暴力で押し切られてしまった。そして、それが終わった後に近くの軽食が取れるチェーン店で休憩していた。

 

 

「けど、集さん凄いね。失礼だけど、見た目は運動出来なさそうなのに、結構動けるんだもん」

 

 

「あはは………よく言われるよ」

 

 

「本当よね。古城より細いのに、時たま競り勝ってたもんね」

 

 

「ま、まぁ、マグレですよ」

 

 

「いやいや、古城相手に競り勝てたんならスゲエぞ?こいつ実は昔は生意気にも代表選手とかに選ばれてたからな」

 

 

「生意気にもって何だよ、生意気にもって」

 

 

古城は不機嫌そうに注文したウーロン茶を飲みながら反論する。

 

 

「さてと、後は行ってない所はアイランド・ノースとイーストか」

 

 

「えー、あそこって工業地域とか、食料庫があるぐらいでしょ?それか、既に人の居ない工場とか。あまり良くない噂も聞くし止めとこうよ」

 

 

「私も凪沙ちゃんに賛成。今あの辺って凪沙ちゃんが言うような噂が後を絶たないのよ」

 

 

矢瀬の提案に凪沙と浅葱が反対した。浅葱の発言に古城が興味を示して、いつもよりは真面目な様子で聞き返した。

 

 

「何だよ、良くない噂って」

 

 

「ほら、例の麻薬よ。アレのバイヤーがあの辺を根城にしてるって噂があるのよ」

 

 

「へぇ、確かに物騒だな。けど、何で浅葱や凪沙がそんな噂知ってるんだよ?」

 

 

「私は部活の友達から噂が回って来たよ」

 

 

「私の方はバイトで得た情報ね。あと、特区警備隊(アイランドガード)の人が話してるのを聞いたから結構信憑性高いと思うわよ」

 

 

「そうか。じゃあ、行かない方がいいな」

 

 

「えっ」

 

 

古城の決定に声を上げたのは集だ。集はヴォイドによる探索をまだ全て終えていないのだ。

 

 

「ん?どうしたの、集さん?あ、もしかして残り2つの所に知り合いが居たりするの!?」

 

 

「えっと………た、多分そういう事になるのかな?」

 

 

「そうだったの!?じゃあ、行こう!ね、いいでしょ、古城君」

 

 

「え、けどなぁ……」

 

 

古城は凪沙の提案に対する返答を渋る。わざわざ、危険な噂が立っている様な土地に妹を向かわせたくは無いのだ。最悪の場合、自分が盾になってでも凪沙を守ればいいのだが、やはり危険な目に遭う可能性があるならば、極力それは避けたいというのが古城の考えだ。

 

 

「もう!なら、私だけでも案内するよ!今日は集さんにこの島の案内をするのが目的なんだから!」

 

 

「分かった、分かったよ!俺も行くって!…………はぁ」

 

 

凪沙の言う事にはなんやかんやで逆らえない古城を、矢瀬たちは面白そうに観察しつつ、一向のアイランド・ノース及びアイランド・イースト行きが決定した。しかし、古城の懸念もあるので、各地域の駅周辺のみの案内という事になった。

 




ってことになりました。


液体窒素って本当に危険なので、取り扱いには注意です。少なくとも、この作品で描写されるであろう内容を真似しないようにしてください。


さて、ではまた次回!




※2016年1月4日修正しました。『すべてを断ち切るハサミ』についてです。

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