Blood&Guilty   作:メラニン

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最近、執筆活動がどんどん疎かになってる・・・

反省します・・・


では、どうぞ!


天使炎上編X

 

絃神島アイランド・ウェストの湾岸部には、小規模ではあるが特区警備隊(アイランド・ガード)が使用できる船舶が存在する。ただ、アイランド・ウェストにある船舶の数はごく少数である。と言うのも、本来であれば絃神島近海の洋上や湾岸に関する警備や自衛の管轄は、主に沿岸警備隊(コースト・ガード)なのだ。

 

 

その為、本来絃神島本土の防衛に当たっている特区警備隊(アイランド・ガード)に回されている船舶は少数というわけである。そこには様々な政治的な面も絡んでおり、本来であればそれらのしがらみの関係上、その場で申請して即刻借受けるというのは到底叶わない。だが現在行方不明になっている2名を捜索する為に、古城と雪菜が連れている男は別であった。

 

 

「………これでいいか?」

 

 

「……はい、大丈夫です。確かに正式な捜索願としても受理されているので、捜査のためという事で使用許可が下りました。それに申請したのが南宮攻魔官お付きの貴方でしたからね……まったく、急な事でビックリしましたよ」

 

 

「たはは、悪いな。まぁ、今度の呑み代は俺持ちってので勘弁してくれや」

 

 

「はいはい、期待しすぎない程度に待ってますよ、東條さん」

 

 

軽口を叩きつつ、古城達の元へと手続きを済ませた東條が戻ってくる。

 

 

「悪いな、東條さん。無理言っちまって」

 

 

「いや、いいさ。桜満君にも君にも借りがあるからな」

 

 

「……正直驚きました。先輩って意外と顔が広いんですね」

 

 

「意外って何だよ、意外って……」

 

 

「だって、何の予約の申請もなしで数の少ない特区警備隊(アイランド・ガード)の船舶の使用許可をポン、と取ってきてしまうな人なんて中々居ませんよ?どこで知り合ったんですか?」

 

 

「え、そ、そうなのか?」

 

 

「……先輩、分かってなかったんですね」

 

 

「あ、い、いやー、正直なところ特区警備隊(アイランド・ガード)についてはそんなに詳しいわけでも無いし…」

 

 

雪菜は自らの監視対象の無知さ加減に頭を抱える。古城は目をそらし、東條はそんな彼らを見て、声を上げて笑う。

 

 

「ぶっはははは!さすがの第四真祖様も可愛い監視役ちゃんには頭が上がらないか!もう嫁さんに、尻に敷かれてんじゃないか!」

 

 

「よ、よよっ………!!?」

 

 

「そんなんじゃねえ!!だぁーー、ったく!矢瀬にもそのネタでよくからかわれんだから、今くらいは勘弁してくれ」

 

 

「へいへい。それじゃあ、行くか。っと、そうだった。その前に……」

 

 

東條は側にあった特区警備隊(アイランド・ガード)の詰所へ入ると、中から巨大な黄色いスーツケースを持ち出してきた。東條はスーツケースを横倒しにして、屈みながら(おもむ)ろに2人の前でそれを開くと、2人を見上げる。古城と雪菜は当然頭に疑問符を浮かべている状態だ。

 

 

「さ、どうぞ」

 

 

「「……はい?」」

 

 

「いや、君ら2人にはこの中に入ってもらわないと」

 

 

「「はぁーーっ!!?」」

 

 

突然の物言いに、古城と雪菜は驚きの声を上げる。だが、東條がそう言うのには理由があった。

 

 

「いやいや、アレ特区警備隊(アイランド・ガード)の船。君ら表向きは一般人。では、これからあの船は『何が目的』で出航するでしょうか?」

 

 

「っ…そ、そう言うことですか」

 

 

雪菜は自分が失念していた事を悔やみ、下唇を噛む。これから彼らが乗る船は特区警備隊の船舶であり、そしてその目的は行方不明となってしまっている一般人2名の捜索である。そう、あくまで捜索が目的なのだ。特区警備隊は独自の命令系統を構築してはいるが、腐っても日本の警察組織が枝分かれした組織である。当然、規則やら法規制は厳しい。捜索に一般人を巻き込むなど(もっ)ての外である。

 

 

一般人の、それも未成年の彼らを捜索へ向かう船舶に乗せるのは、本来であれば出来ないことである。それをする為には何とかして偽装するしか無いのだ。その旨を雪菜が古城にも説明する。

 

 

「そ、それにしたって、俺と姫柊が同じケースの中ってのは色々と問題があるだろ!そのサイズに2人で入るってなると、よっぽど詰めて入らねえと……」

 

 

「いやいや、これでも大分大きいのを選んで来たんだぜ?君らを隠して乗せるためには、こんくらいしないとな」

 

 

「だ、だったら、せめてケースを2つ…」

 

 

「ケース2つはさすがにキツイんだよ。それに、肩から提げてるコッチには俺の装備が既に入ってるからな。これ以上荷物は嵩張らせたく無いんだよ。あぁ、そうだ。姫柊ちゃんのギターケースも、俺の装備が入ってる方に入れちまうから貸してくれ」

 

 

「は、はい、それは良いんですが……あ、あの、本当にコレに入るしか方法は無いんですか?」

 

 

「ああ、これしか無いんだ。一応このケースは特区警備隊の潜入班も使用しているものだ。だから、安全性も確証済みだし、さらに対衝撃、防音機能も付いてる。もし、この中でうっかり声を出しても、外には漏れないから安心してくれ」

 

 

「いえ、そういう心配をしているんではなく…」

 

 

「はーあ、こんな事をしている間にも、桜満君や楪ちゃんはきっと心細い思いをしているんだろうなぁ………恩人の危機に何も出来ない俺は悲しいよ……」

 

 

東條は泣き真似をしつつ、チラリと2人の様子を覗き見る。その様子はある意味外道であろう。

 

 

「〜〜〜っ、分ぁーったよ!入らなきゃ乗れねえってんなら入ってやるよ!」

 

 

渋々といった様子ではあるが、古城は開かれたケースの中に足を踏み入れる。

 

 

「そうそう、分かってくれたんなら有り難いよ。ほら、姫柊ちゃんも」

 

 

「………は、はい」

 

 

それに続き、雪菜もケースに足を踏み入れ座り込む。この時点でも、それなりに窮屈である。

 

 

「よし、じゃあ閉めるから横になってくれ。一応この後乗せるときにも手続きがあるから、入ってる時間はちょい長くなるかもしれんが、我慢してくれ。さっきも言ったが、防音機能は付いてるから声は出しても大丈夫だが、あまり動かないようにな。バレるから」

 

 

そう言って東條はケースを閉じ、それを引っ張りながら船へと向かう。そして、狭いケースの中では早速事件が起きていた。

 

 

 

 

『せ、先輩!ど、どこ触ってるんですか!?』

 

 

『す、すまん!け、けど、しょうがねえだろ!?只でさえ狭いスペースな上に――いぃぃ!?』

 

 

突如としてケースの向きが変わり、古城が雪菜を押し倒すような形になる。というのも、搭乗手続きの為に東條が邪魔なケースを一旦置いたのである。その際、()()()()手を離して、倒してしまったという訳だ。

 

 

『せ、先輩!?ほ、ホントにどこを触ってるんですか!?いい加減怒りますよ!?』

 

 

『だ、だから、ワザとじゃ――』

 

 

『だ、だったら、離れて下さい!』

 

 

『そ、そうは言ってもな……』

 

 

古城が言い淀んだ原因は、現在の態勢が原因である。まず、古城の左腕は先ほど向きが変わったのが原因でケースの壁と雪菜の背中に挟まれており、右腕は雪菜の胸を鷲掴み状態である。さらに、ズボンの裾がケースの間に挟まれており、シャチホコの様な態勢なのだ。何とか左腕に力を入れて、肘をケースの壁に当てて顔を上げているだけでも精一杯である。

 

 

しかも、こんな狭いケースな上に最低限の空気と、通気口が有るだけで、空気が籠っておりケース内の温度は上昇中である。当然、2人ともジワジワと汗が吹き出し、余計に空気が蒸れて不快指数は上がっていく。古城は今にも爆発しそうな吸血衝動を抑えるのに必死であった。

 

 

身体が密着し、ケース内は姫柊雪菜という少女の匂いで充満し、吸血鬼の鋭敏な鼻腔を痛いほど刺激する。

 

 

『ぐ……』

 

 

『先輩?…こんな所で、その…この前みたいに血を吸わないで下さいね』

 

 

『わ、分かって――ぶっ!?』

 

 

『〜〜っ!!!』

 

 

外ではケースはその状態のまま運搬用のオートマタが持ち上げ、東條の持っていた装備入りのバッグ共々船へ詰め込み始める。その時の衝撃で、遂に古城の左腕が滑り古城は雪菜にのしかかる形になった。しかも、顔は右腕同様の場所へと落ち、挟まってしまったではないか。流石の雪菜も、コレには顔がかつて無いほど真っ赤になる。

 

 

『な、なななな何をやってるんですかー!?』

 

 

『はばぼばべー!!』

 

 

『んっ……わ、分かりました!分かりましたから、喋らないでください!い、今そんな所で声を出されると振動が、その……』

 

 

『ふまん……』

 

 

『だから喋らないで下さい…………………それと、先輩が変態だっていう事は改めて、よーーーーーく分かりましたから!!』

 

 

『ふぁんべんふぃへくへ……』

 

 

その後、船が出航した後も、東條が()()()()ケースを開けるのを忘れてしまい、約30分程古城と雪菜は狭いケースの中で悪戦苦闘するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『金魚鉢』と呼称されていた無人島に置き去りにされた集といのりは、鬱蒼とした森林へと足を踏み入れていた。その目的は2つだ。1つは食料確保のため、そしてもう1つは、いのりが森林の外れの方に人工物らしきものを見たというのだ。それを一応調べておくためである。途中、帰りが分からなくならない様に木の幹に目印を付けつつ進んでいく。

 

 

因みに、途中でヤシの実程度ならば見つけたのだが、それ以外の食料は見つけられないでいた。と言うのも、山菜らしき物は見つけたのだが、判別が難しいものが多いのである。例えばヨモギは食べられるが、それとよく似た葉を付けるトリカブトだと有毒である。この様に、食料事情は悪戦苦闘していた。

 

 

「中々食べられるものって見つけられないね」

 

 

「集、これは?」

 

 

「う、うーーん、わからない」

 

 

「そう……」

 

 

いのりは残念そうに、引っこ抜いてきた草を地面へと捨てる。先ほどから同じ様な事を繰り返し、拾っては捨ての繰り返しである。こうなれば、気は進まないが空を飛んでいる鳥を捕まえ、捌くしかないかもしれない、と考え始めたところで、ようやく件の目的地へと到着した。そこは海に面した入江になっており、そして到着して早々、集といのりの2人は言葉を失った。

 

 

そこにあったのは金色に光る巨大な卵型の何かであった。高さはおよそ4m以上であろう。さらに、横幅は5mくらいであろうか?卵型の下部には、恐らく沈まない為のフロートと思しきものが装備されており、入江の砂浜に乗り上げている。とにもかくにも真っ先に分かる事は、コレが天然自然の産物では無いことくらいだろう。と言うか、こんな物が自然の産物であってたまるか、という話である。

 

 

「「何コレ……?」」

 

 

集といのりの言葉がキレイに重なった。まさしくその通りであろう。

 

 

「ま、まぁ、間違いなく人工物だね。何なのかは分からないけど」

 

 

「……集、待って。何か聞こえる」

 

 

いのりにそう言われ、集も耳を澄ませてみる。確かに自分達の遥か後方に何かが居るのだろう。ガサガサと茂みを押し退けている音が聞こえていた。その音が段々大きくなっていることから、明らかに此方へと近付いて居るのだろう。

 

 

「いのり、僕の後ろに」

 

 

いのりはコクリと頷くと、集の背後へと下がる。集は自分達が来た森林の中へと視線を集中させる。もしもの時のために、ヴォイドは発現できる様に身構える。

 

 

「ふふふ、そんなに身構えないで下さい。私に交戦の意思はありません」

 

 

向こうも此方の気配を察したのか、木の陰から声をかけてくる。若い女性の透き通る様な声であった。

 

 

「……でしたら、姿を見せてください。僕も争いごとは避けたいですから」

 

 

「そうですね。初対面の方に対して、これでは些か礼を失するというものです」

 

 

 

言い終わると、彼女が木陰から姿を現わす。腰まである細い銀髪に、翡翠色の大きな瞳。その辺のモデルよりも、遥かにバランスの取れた身体を太陽の下へと晒し出す。着ている服は何処かの学園の制服に近しい格好であるのだが、細部に施された細かな装飾が威厳を放っている。集は不思議な既視感に襲われる。叶瀬夏音と瓜二つだったのだ。まるで、叶瀬夏音をそのまま大きくしたような姿であり、集は目を丸くしていた。

 

 

そして、彼女はスカートの端を小さく摘み会釈する。

 

 

「お初にお目にかかります。異界よりの来訪者たる、『罪の王』よ。私は北欧アルディギア王国、現国王ルーカス・リハヴァインが長女、ラ・フォリア・リハヴァインと申します。アルディギアで王女の立場にある者です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって絃神島の廃墟と化した修道院。そこを1人の少女が訪れていた。髪をポニーテールでまとめ、スラリと伸びた足に整った顔立ちの、楽器ケースを背負った少女である。ここは、先日まで叶瀬夏音が仔猫の保護をしていた場所であり、今ここを訪れた少女の目的もそれに関係していた。

 

 

「くしゅっ!……もしかしてこの匂い、猫?」

 

 

舞っていた毛に刺激されてか、彼女――煌坂紗矢華は小さくクシャミをすると、辺りを見回す。

 

 

「ここが叶瀬夏音が住んでいたっていう修道院で合ってるのかしら?……でもやっぱり、これじゃ居る訳無いわよね」

 

 

紗矢華は小さく息を吐くと、改めて修道院をグルリと見回す。散乱したガラスに、乱雑に放置された長椅子、信仰のシンボルである十字架は溶けて跡形も無い。完璧な廃墟であるのは確かなのだが、それにしては腐食の進み具合が緩やかである。

 

 

「つい最近までは使われていた、ってところかしら?そうすれば、この劣化の遅さも頷け――誰!?」

 

 

彼女は振り返り、自分が入ってきた扉の方へと視線を向ける。いつでも自分の武装である煌華麟(こうかりん)を取り出せる様に楽器ケースに手を伸ばす。

 

 

「さすがは獅子王機関の舞威姫様だな。気配察知は剣巫以上だ」

 

 

軽い調子の声が修道院に響き渡り、声の主は姿を現わす。首から提げたヘッドフォンにツンツンに逆立てた茶髪、どこかチャラい雰囲気の少年である。

 

 

「……あなた、確かナラクヴェーラの一件の時、アルデアル公やHCLIのココ・へクマティアルと一緒にいた……」

 

 

「俺は矢瀬基樹。古城のクラスメイトだ。にしても、あんだけの距離が有ったのに、バレてたのか」

 

 

「当たり前でしょ。私は舞威姫よ?遠くまで見えなきゃ話にならないわ」

 

 

「はは、流石だな」

 

 

「で、何の用よ?こう見えて私は忙しいんだけど」

 

 

「そうは言っても、今のままじゃ目的を達成できない。違うか?」

 

 

「………だから?あんたには関係無いでしょ?」

 

 

「ところがどっこい。関係あるんだな、これが。まぁ、俺がここへ来たのも、それが目的な訳なんだが」

 

 

「目的?」

 

 

「ああ。単刀直入に言う。暁古城、ならびに姫柊雪菜、桜満集、楪いのり。以上4名の救出へ向かって欲しい」

 

 

基樹が言い終わると同時に、紗矢華は基樹に詰め寄る。

 

 

「ちょっと!雪菜も救出対象に入ってるってどういう事よ!?」

 

 

「お、落ち着けって。とにかく、あいつら揃いも揃って叶瀬夏音絡みの厄介ごとに巻き込まれてんだよ!」

 

 

紗矢華は一旦基樹から離れると、落ち着いた様子を取り戻す。今の彼女には情報が少なすぎるのだ。少しでも情報が得れるのであれば、これを逃す機会はない。

 

 

「……いいわ、聞いてあげるわよ」

 

 

「ああ、そうしてくれると助かる。ただし、この事はオフレコで頼むぜ?俺のことに関しても、他言無用だ」

 

 

紗矢華はコクリと頷く。了解の合図と受け取った基樹は、事情を話し始める。

 

 

「叶瀬夏音の保護者である、叶瀬賢生が絃神島から消息を絶った。それは知ってるか?」

 

 

「ええ」

 

 

「おそらく、奴は叶瀬夏音を材料に、ある物を作る気だ。おそらく、それの有効性を実証する性能テストの対象として、集の奴が狙われた」

 

 

「ちょっと、待ちなさい。何で桜満集なのよ?第四真祖である暁古城を相手に、有効性を実証した方が効果的でしょ?」

 

 

「恐らく、売り出す相手を意識してるんだろうぜ」

 

 

「売り出す相手…………………まさか、『夜の帝国(ドミニオン)』に売り出すつもり!?」

 

 

「そこの頭の回転は流石だぜ。まぁ、まだ推測の域を出ないがな。集の存在は今まで超常の王であった、吸血鬼を脅かしかねない。そうなってくると、焦るのは今まで安全圏でふんぞり返ってた爺連中だろうよ。奴らにとって、天敵という天敵は今の世界には、ほぼ皆無だ。だが――」

 

 

「その天敵になり兼ねない存在が現れた……で、天敵に有効な番犬を飼ってくれって為に、プロモーションを実施するって訳ね。なるほど、雪菜はそれを追ったのね。ついでに、暁古城も」

 

 

「ああ、そういうこった。とにかく、このまま連中の思い通りにさせて仮に成功しちまったら、また世界レベルでヤバくなる。それは何とか避けたいって…わ……け………………マズイ…」

 

 

基樹は急に話を止め、ヘッドフォンを耳に当てて、顔色が青くなる。彼は音響制御の能力を持った、過適応能力者(ハイパー・アダプター)である。周囲の音に関しては他人よりも敏感である。その耳が、ここへ近付いてくる足音を察知したのだ。

 

 

と言うか、実は既に結構近くまで迫っている。おそらく話に集中し過ぎたのだろう。

 

 

「な、何でだ……何でアイツらがここに来るんだ」

 

 

急にシオシオと元気が無くなっていく少年を見て、男嫌いの紗矢華もさすがに基樹を心配する。

 

 

「ちょ、ちょっと!どういう事!?マズイって何!?アイツらって誰よ!?」

 

 

そう言ってる間にも、その存在は近付いて来ており、遂に話し声まで聞こえるようになった。そして、遂に修道院の扉が叩かれる。

 

 

「おーい、カノちゃん、居るー?………って、あれ!?矢瀬っち!?何でここに居るの!?」

 

 

「え、基樹?」

 

 

「あ、あはは……」

 

 

基樹はもう笑うしかなかった。出来ればこの2人を会わせたくは無かったのだ。2人とも自己主張が強い上に、相手を恐れるような事がない。しかも、本人たちは知らないが、2人の想い人が同じという事もあるので、基樹は尚の事接触させない様に気を遣って来たのだが、もう遅い様である。既に出会ってしまったのである。

 

 

「あーー!あんた、この前屋上で古城を襲ってた通り魔女!」

「あーー!アナタは暁古城の浮気相手!」

 

 

2人の声は奇しくも、同時に重なった。だが、互いの悪口だけは聞き取ったのだろう。これが在るから、女という生き物は怖いのである。

 

 

「はぁーー!?誰が、浮気相手よ!?」

 

 

「そっちこそ!!私、通り魔なんかじゃ無いんだけど!?」

 

 

浅葱と紗矢華は互いに火花を散らし、睨み合う。基樹の予想通り、やはり相性は最悪な様だ。この状況に置いてけぼりの凪沙は、基樹に駆け寄り耳打ちする。

 

 

「ねぇねぇ、矢瀬っち。何、これ?もしかして修羅場ってヤツ?これが修羅場ってヤツなの!?」

 

 

しかも、何故かウキウキしている。彼女も大概神経が太い様である。

 

 

「も、もう知らん……」

 

 

基樹は投げやり気味にそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 






最初の方のスーツケースの描写分かりにくいですね・・・まぁ、とにかく古城が雪菜にセクハラをはたらいたという事です。けど、鼻血は出していない。頑張った。


さて、前回予告にあったもう一人のキーパーソンがようやく登場しましたね。(ちょこっとですが・・・)


そろそろ、戦闘パートも本格的に始まります。ではでは、乞うご期待!

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