Blood&Guilty   作:メラニン

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今回も一応連投です。


な、なるべく更新は早めにできるよう頑張ります!


では、どうぞ!


天使炎上編IX

絃神島は今日も今日とて快晴である。そもそも立地の関係上、一年を通して絃神島の天気が荒れる事は少ない。龍脈の真上に設置されている人工島なので、それが影響しているのも確かである。それでも当然、東京の南洋上なので夏場から秋口に掛けては台風の影響を受ける事はあるのだが、島が壊滅するような大荒れの天気になる様な事はあまり無いのである。

 

 

キーストーンゲートでの縁日から一夜明けた今朝も、それは変わらなかった。そして今日もアイランド・サウスのマンションの一つに在住している、桜満集のやる事は変わらない。朝早くに起床し、『ひゅーねる』の制裁を受け、弁当の用意をし、最低限の家事を済ませ、ベランダにて最早日課となった監視任務を行う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………お気付きかもしれないが、一つオカシイ所があったのに気が付いていただけただろうか?集は『ひゅーねる』から、今日も制裁を受けているのだ。そして、現状彼は自らの頬に氷嚢を当てて涙目である。

 

 

「……いふぁい」

 

 

当然、こうなっているのには理由がある。ヴァトラーの関係者を名乗る、キラ・レーデベデフ・ヴォルティズロワと別れた後、噴水広場へと戻った。その時、凪沙はどこかスッキリした顔をしており、対照的にいのりは不機嫌――とまではいかないが、微妙な表情であった。

 

 

そして、おかしくなったのは、この後であった。凪沙を家まで送り届け自室に帰った後、いのりが普段よりも密接に関わろうとしてくる様になったのだ。

 

 

例えば、2人とも縁日で食い歩きをした為、夕食は軽いものを調理しようとしていたら普段は料理などしない筈の、いのりがキッチンへと進撃してきて、手伝うと言いだしたのだ。食後、ソファに座ってゆったりとテレビを見ている時も、若干緊張した様子ではあったもののピッタリと密着してきて、集は内容が全く頭に入っては来なかった。その後、さすがに浴室にまで付いて来る事は無かったが、問題はその後であった。

 

 

食事も取り、入浴も済まし、明日の準備も終え、家事も終わらせた。後は寝るだけというところで、集の寝室にいのりが突入してきたのだ。集が目を白黒させて驚いていると、持参していた自室の布団を床に敷いて、集が止める間もなく寝息を立て始めてしまったのだ。

 

 

 

結局、そのまま集は寝てしまったのだが、それが悪手であった。どうやら、いのりは床の上の布団では若干寒かったらしく、いつの間にやら暖を求めて、集の布団の中へと侵入していたのだ。そして、先日同様にひゅーねるから制裁を受けた、という訳である。余談であるが、今回は集が悲鳴を上げなかった為、いのりは未だに集の部屋でぐっすりと就寝中である。

 

 

「はぁ……ねぇ、ひゅーねる。せめて、もう少し大目に見てくれないかな?毎朝こんなの受けてたら、僕の頬が取れそうなんだけど」

 

 

集は同じくベランダへ出ている、ひゅーねるへと話しかける。当のひゅーねるは、聞く耳持たないとでも言う様にソッポを向いてしまった。

 

 

「はぁーー……今日はちょっと色々と忙しくなりそうなんだけど――なぁっ!!?」

 

 

集は突如自らの背中に掛かってきた重みに、驚きの声を上げる。だが、背中に触れるそれは何処か柔らかく、そして温かかった。監視任務の為に、身体能力全般を強化している今の状態なので、フワリと香る彼女の匂いに鼻腔が反応する。着崩れたパジャマに、ボサボサの髪の毛のままなので、やはり起床したばかりなのだろう。

 

 

「しゅう…おはよ」

 

 

「い、いいいのり!?な、何でくっ付いてくるの!?」

 

 

「…?…あいさつ?」

 

 

「僕の知ってる挨拶は、おはようなんだけど!?」

 

 

「だから、さっき…いった」

 

 

「く、くっ付いてくる必要性は!?」

 

 

「…?……わたしが、くっつきたい…から?」

 

 

やはり、どうにもオカシイ。元々いのりは、こんなに身体を密着させてくる事は無かった。若干寝ぼけている節があるが、やはり昨夜何かがあったと考えるのが普通だろう。だが、今はそれよりも何とかして背中にくっ付いている、いのりを離さなければならない。足元にいる医療用とは名ばかりのオートマトンが、普段は蛍光色の目を赤く光らせて、お仕置きの準備をしているのだから。

 

 

「い、いのり!ほら、朝食の準備とかするから、一旦離れて!」

 

 

「……すぅ」

 

 

「やっぱり寝てる!?って、ひゅ、ひゅーねる?ちょ、ちょっと、待って。僕、今は動けな――」

 

 

集の足元にいるひゅーねるは、その太いアームをピンと伸ばし、アームの根元部分だけを駆動させて、大きく振りかぶる。さながら、メジャーリーガーのバッティングの如き威力のスイングを披露する気なのだろう。そして、おそらく狙いはとある武将も、ここを打たれて涙を見せたことで有名な部位である。このオートマトン、中々に容赦がないようである。集が止める間もなく、遂にそのアームは振り抜かれる。

 

 

「いったあぁあぁぁぁぁ!!!」

 

 

爽やかな朝の中に、少年の叫び声がどこまでも木霊していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝の事件があってから約6時間後。時刻はおおよそ午後1時といったところである。古城と雪菜の2名は学校を欠席した叶瀬夏音のプリントを届けるという名目で、学園に登録されている住所へと向かっていた。アイランド・ノースの一画にあるメイガスクラフトという会社の社宅が、現在の夏音の自宅らしい。その為に、現在2人はメイガスクラフト本社のエントランスで待たされている状態である。

 

 

「……やっぱ、昨日のアレは叶瀬だよな」

 

 

「そうでしょうね…特徴も一致してましたし、何よりここ最近、叶瀬さんは欠席する事が多かったです。そのタイミングは決まって絃神島に破壊がもたらされた日の翌日でした。今までマークしていなかったので、気付きませんでしたけど……」

 

 

「……如何にかして、事情を聴けりゃ良いんだが」

 

 

「そうですね。けど、良かったんですか、桜満先輩にも来てもらわなくて?」

 

 

「ああ。まだ、不確かな情報で桜満を振り回す訳にはいかねーよ。あいつの今までの境遇を考えれば、出来るだけ楪と一緒に居させてやりてえって思うしな」

 

 

「境遇、ですか。確か実験施設の出身という話でしたよね?」

 

 

「え?いや、それは偽そ――あ」

 

 

古城は急いで口を紡ぐ。現在、集といのりの本当の事情を知っているのは、集がこの世界に来てから最初に遭遇した事件で、行動を共にしていた古城。偽の身分を作成した、基樹を含む人工管理島公社に所属する数名の人間。そして、彼らの担任教師である南宮那月くらいである。あとは、極少数の存在のみが知っている程度である。当然、この情報は那月に口止めされているのだ。だが、迂闊にも古城は口を滑らせたわけだ。

 

 

「やっぱり………前から、おかしいと思ってました。先輩たちとの会話を聞いていると、事情が食い違うケースがありましたし。あの桜満先輩のヴォイドという力は異質過ぎます。それに、東京の方にそれらしき研究所は確かに有りましたが、内情は空っぽのハリボテの様なものでした。恐らく、情報が漏れるのを恐れた人工管理島公社が用意したダミーだったんでしょうね………それで、先輩?私に隠している事を教えていただいても良いでしょうか?」

 

 

雪菜はニッコリと古城に笑いかけるが、その威圧感故だろうか。彼女の背後には般若の面が見え隠れしている様にも見える。古城はまんまと彼女の策略に嵌った形であった。これが、一般人の浅葱であるならば問題であろうが、事情に精通している雪菜である事が、不幸中の幸いだろう。

 

 

「……分かった。分かったらから、その威圧はやめてくれ。ってか姫柊、折角可愛い顔してんのに、そんなんじゃ小ジワが増えるぞ?」

 

 

「んなっ!?せ、先輩が悪いんです!監視役である私に隠しごとなんかをするから!」

 

 

「あー、分かった分かった。ああっと、どこから話したもんか………えっとだな――」

 

 

それから古城は大雑把ではあるが、雪菜に集といのりの事情を話した。彼らが所謂(いわゆる)異世界の出身だということ。向こうで何があって、彼らはどう行動したのか。その結末はどうであったのか。それを聞いた後の雪菜は、やや優れない表情を浮かべていた。

 

 

「……そういう事だったんですね。桜満先輩が何で、いのりさんを必死になって探していたのか、ようやく分かりました」

 

 

「まぁ、そういう事だからさ。できれば、もうこういう事件には巻き込みたく無えんだ。桜満も楪も話を聞く限りじゃ、散々戦ってきたし、辛い目にも遭ってきた。仲間を失ったり、最後は友達と戦う羽目になったり、な………俺はあいつじゃ無いから、その辛さは正直分かんねえ。だが、もう充分だって、そう思うんだよ」

 

 

「……分かりました。では、今回の事件も手早く終わらせましょう。あの2人が戦う必要が無いように。……あと、先輩?もう隠し事は無いですよね?」

 

 

「も、もうこれ以上は無えって!そ、それよりも、あの2人を巻き込まないようにも、事件の火種が小さいうちに…………って、何時まで俺たち待つんだ?もう30分以上も待たされてる気がするんだが」

 

 

「本当ですね。話していて気付きませんでしたけど……ちょっと待ってて下さい、先輩。受付にもう一度問い合わせて来ます」

 

 

雪菜は小走りにエントランスの受付へと向かった。だが、受付用の来客用の受付ロボットは何度も同じ問答を繰り返すだけであった。そこまで行って、ようやく雪菜は気付いた。既に先手を打たれてしまっていたのだという事に。

 

 

そして、それから暫く経ち、その証拠とばかりに彼女はある式神からの緊急の報せを感じ取るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古城たちがメイガスクラフトを訪れる少し前まで時間は遡る。集といのりは、昨夜のキラという青年の忠告が気になり、古城の事を尾行しているのだ。古城たちの後方50〜100mほどの距離を維持して後を付けている。

 

 

しばらく後を付けていくと、やはり推測していた場所へと辿り着いた。叶瀬夏音の保護者である叶瀬賢生が研究者として勤めている、メイガスクラフトという会社の本社であった。表向きは産業用のオートマタを生産しているメーカーだが、内情は業績が芳しく無いらしく、裏取引にも手を出し始めているなどの噂があるらしい会社である。ただ、最近では会社の一部を売却する予定らしく、それにより何とか資金の調達を図ろうとしているらしい。

 

 

「メイガスクラフト……最近だとあまりいい噂は聞かない会社だね」

 

 

「古城たち、中に入ったみたい。私達も入る?」

 

 

「……ううん、しばらく様子を見よう。僕らも入って行って、エントランスでバッタリなんて避けたいし」

 

 

集が言い終わると同時に彼らの背後から怒号が飛んで来た。その不意打ちに、2人とも身を竦ませる。

 

 

「おい!そんなとこで何やってんだ!」

 

 

振り返れば、そこに立っていたのは黒地のシャツの上から、革のジャケットを着用した男性だった。年齢は20代後半程だろうか?どこか野性味溢れる雰囲気である。集は目敏く左手首に填められた、ブレスレットを捉えていた。魔族登録証である。

 

 

「ウチの会社に何の用だぁ?ここは学生のカップルが来るような場所じゃねえぞ」

 

 

「あ、えっと、その……こ、ここの研究所に叶瀬賢生という研究者が居ませんか?娘さんの夏音さんが今日休んでいたので、そのお見舞いにと思ったんですけど……」

 

 

「ん?あぁーー、あの派手な銀髪の娘っ子か。なんだ、あの嬢ちゃんの知り合いか?」

 

 

集の咄嗟の気転で、何とか警戒は解けた様である。別に全くの嘘という訳でも無いので、言い訳も幾分か楽である。

 

 

「はい、そうです。それで確か、夏音さんってここの会社の社宅に住んでいるって聞いたんですけど、肝心の社宅が分からなくって……」

 

 

「ははっ!んだよ、だいぶ抜けてんなぁ、坊主。いいぜ、社宅なら案内してやる。と言っても、今はあの嬢ちゃんは居ねえ筈だけどな」

 

 

「え?」

 

 

「なんだ、知らねえのか?嬢ちゃんなら、今はその父親と一緒に研究所の方に行ってるぞ?今日休んだ理由もそうじゃねえのか?」

 

 

集といのりにとっては、初耳のことであった。メイガスクラフトの裏取引の情報については、基樹が教えてくれていた。何でも、最近では兵器産業の方にも手を出し始めているらしい。絃神島は腐っても、日本という国家に所属している。兵器産業に関しては規制が厳しく、申請をしても出来ないケースが普通である。

 

 

そして、本当の問題はメイガスクラフトが手を出している兵器だ。もし、今絃神島で破壊を撒き散らしている『それ』を開発しようとしているのなら……

 

 

「……じゃあ、その研究所の方へは行けませんか?」

 

 

「げ、今からか?ウチの研究所って島外だぜ?」

 

 

「構いません。どの位で着きますか?」

 

 

「ウチの会社の社用機で片道1時間かからないくらいか?」

 

 

「分かりました。じゃあ、今から行くことって出来ますか?少し、急ぎの用事なので」

 

 

「はぁ……ちと待ってろ。空いてる機体が無えか確認して来てやる。先に飛行場に行ってろよ。飛行場は本社の裏手にある。本社をグルッと回るようにすりゃ行けるからよ」

 

 

「ありがとうございます。あ、えっと、名前は…」

 

 

「あ?俺か?俺はロウ・キリシマ。メイガスクラフトの雇われパイロットだ。よろしくな、バカップル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……完璧にしてやられたな。あれ以降、会社のロボットはレコード機能しか発揮しないし、会社中探してもロボット以外は清掃員ってどういう事だ、あの会社」

 

 

「恐らく、人件費削減の為だと思います。メイガスクラフトは産業用のロボット製造、開発を行っている会社ですから。必要最低限の社員や、清掃員以外はロボットなんだと思います」

 

 

「それだったら、清掃員だってロボットでよくねえか?」

 

 

「労働の過度な機械化はイメージとしては良くはありませんから。一応の体裁を保つためでしょうね。それに、あくまであの本社ビルは『受付』ですから」

 

 

「結局、本社近くの研究所にも叶瀬達は居ないし、急に桜満達は消えるし。ったく、どうなってんだ」

 

 

古城と雪菜は、現在メイガスクラフトから急いで帰還し、事情を話すために那月の執務室を訪れようとしていた。

 

 

「にしても、桜満と楪に式神なんか、いつの間に持たせたんだ?」

 

 

「この前、お2人がその………デ、デートに行かれる時に…」

 

 

「………」

 

 

古城は雪菜を白い目で見ていた。雪菜も振り返って見れば、状況的に自分の失敗が分かっているのだろう。故に、反省しているらしく若干俯いている。

 

 

「まぁ、けど今はその式神に感謝だな。お陰で2人の大体の位置は分かるんだし」

 

 

「はい。桜満先輩といのりさんは絃神島から西の方角、約100km以上離れた場所に居る筈です。それ以上は探知できないですけど…」

 

 

「いや、それだけ分かりゃ十分だろ。後は那月ちゃんの転移魔術で飛べば何とか……なると信じたい」

 

 

「そ、そうですね…た、ただ、式神がまだ壊れては居ないので、お2人は多分無事ですよ!」

 

 

そんな事を話しつつ、古城は那月の執務室の扉を開ける。

 

 

「邪魔するぜ、那月ちゃん」

 

 

「失礼します」

 

 

「第四真祖と姫柊雪菜の侵入を確認。昨晩はお疲れ様でした」

 

 

そこに居たのは相変わらずのメイド服姿である、青い髪色をした人工生命体(ホムンクルス)――アスタルテであった。そこに居るのは、彼女だけであった。

 

 

「おう、昨日はありがとな。…って、那月ちゃんは?」

 

 

「マスターは現在、昨夜確保された『仮面憑き』の容体の確認へ向かっています。場所は秘匿事項なので、明かす事は出来ません」

 

 

「う、嘘だろ?」

 

 

「本当です」

 

 

狼狽える古城に、事情を知らないアスタルテはコテンと首を傾げる。彼を見ていると忘れがちになってしまうが、本来真祖という存在が不用意に慌てふためく様な事はない。何故なら彼らは超常の存在故に、狼狽える必要など無いのだ。最悪、その強大な力にものを言わせ、大抵の事は解決ができる。アスタルテが首を傾げた理由もそこによる部分が大きい。

 

 

と、そこでコンコンと執務室の扉が叩かれる。新たな来客を報せる音だ。

 

 

「南宮攻魔官、屋上庭園のハーブの世話終わりましたよー。ってか、水やりくらい、自分で――」

 

 

「あーーーー!!」

 

 

そこに現れたのは、まさに現状を打破できるかもしれない人物であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絃神島から約160km地点にポツリと浮かぶ『金魚鉢』と呼ばれる島に、彼らは降ろされていた。というより、落とされていた。

 

 

どういう改造を為されていたのかは分からないが、ロウ・キリシマを名乗るメイガスクラフトの雇われパイロットだと言う男から島の説明を受けていたと思ったら、突如として集達の座っていた座席が抜け落ちたのだ。集は何が起きたのか一瞬理解できず、反応が遅れる。自分達が乗っていたメイガスクラフトの社用機であるプロペラ機からは、彼らを乗せてきた男の高笑いが聞こえていた。

 

 

集は、完璧に嵌められた……と憎らしく頭上のプロペラ機を睨む。だが、今はそんな場合ではない。彼らは絶賛落下中なのである。今は助かることが先決である。

 

 

「集!」

 

 

「いのり、手を!」

 

 

集は側に居る、いのりの手を掴むとグイと引き寄せ抱きかかえる。そこからどう行動すべきか思考するが、先ほど一瞬とはいえ、空中で思考停止してしまった時間が問題であった。落下速度が重力によって加速し、ぐんぐん地面が近付いて来ており、あと数秒もすれば衝突するだろう。

 

 

「頼む、綾瀬!」

 

 

集は『エアスケーター』を装着し、足を無理矢理下へと向ける。それと同時に『エアスケーター』の出力を上げることで、落下速度は緩やかになる。落下の勢いを殺し、何とか砂浜へと降り立つことが出来た。

 

 

「ふぅ……いのり、大丈夫?」

 

 

「ん、平気。けど……」

 

 

「……うん、完璧に置いてけぼりだね」

 

 

集は既に遠方へと飛び去ろうとしている、ここまで乗ってきたメイガスクラフトのプロペラ機を再び視界に捉える。だが、既にプロペラ機は飛び去っており、米粒大まで小さくなっていた。乗ってきプロペラ機はボロかったとはいえ、腐っても航空機である。運転席を覗いた時は速度計が時速200kmを表示していた事から、よっぽどの速さである。

 

 

『エアスケーター』で出せない速度という訳でもないが、問題はその速度に耐えられるかだ。『王の能力』によって身体強化が出来る集ならばまだしも、完璧に生身の状態であるいのりは耐え切れないだろう。

 

 

「携帯は…まぁ、当然圏外だよね」

 

 

「集、コレ使えない?」

 

 

そう言って、いのりが制服のポケットから取り出したのは一枚の紙切れだった。だが、ただの紙切れではない。彼らの隣人が念のためにと渡しておいた発信器の役割をする式神である。

 

 

「そっか、そう言えば僕らから1m以上離すと姫柊さんに報せてくれるってやつだっけ?えっと、じゃあ…」

 

 

集は自らも持っている式神を出し、砂浜から少し進んだ場所にある樹木の下に置いて少し離れる。飛ばされないように近場にあった石を重石として、式神の上に乗せた。

 

 

「……これで良いのかな?」

 

 

「分からない。でも、今は他に手はない」

 

 

「まぁ、そうだよね。姫柊さんが気付いてくれる事に賭けよう。それよりも、今は別問題があるし」

 

 

「別問題?」

 

 

「うん。ほら、寝る場所とか食べ物とか、さ。食べ物はこの島にもし食べられる物でもあれば何とかなりそうだけど、寝る場所はせめて雨風が防げるような所じゃないとね」

 

 

「……この島にあるって言ってた研究所は?」

 

 

「うーーん、多分無いと思う。さっき落下してる時に、パッと見で島の全景を見てみたけど、それらしい建物は無かったから」

 

 

「…じゃあ、あそこは?」

 

 

いのりが指差したのは、少し離れた小さなドーム状の建物であった。こういった開けた場所で戦う際の弾除けとして使われる、トーチカである。

 

 

「あんな物があるって事は、やっぱりこの島普通じゃないみたいだね」

 

 

「……よく見ると薬莢もある」

 

 

いのりは屈むと、砂浜に埋もれかけていた薬莢を拾い上げた。集もそれに習い、1つ拾い上げる。それ程金属の劣化が進んでいない事から、比較的新しい物だろう。

 

 

「やっぱりここは戦場になった事があるのかな?もしくは軍事訓練に使われてたとか」

 

 

「オートマタを作る会社が?」

 

 

「もしかしたら、作っているオートマタっていうのが、軍事用なのかもね。けど、絃神島って基本的には一般企業の軍事産業は禁止しているはず………どうにもメイガスクラフトって会社は一筋縄じゃいかないみたいだね。まぁ、残っているトーチカには助かるけど」

 

 

「じゃあ、次は食料?」

 

 

「そ、それが問題だよね」

 

 

集はいのりの指摘に言い淀む。彼は本来インドア派である。こんなサバイバル環境に放り込まれたのは初めての事なのだ。知識は持っているが、実践するとなると話が違ってくる。

 

 

「……集、食料探しと並行して調べたい事があるの」

 

 

「調べたいこと?」

 

 

「ここに落ちてくる時、コッチの砂浜とは反対側に光る何かが見えた。人工物なら役に立つかも」

 

 

「……そうだね。じゃあ、そっち方面に向かいつつ食料を並行して探そう」

 

 

取りあえずの方針を決めた彼らは、鬱蒼と茂る森林の中へと足を踏み入れるのであった。

 

 

 

 




無人島突入!


これも、迷いましたねぇ。原作通り古城を凸らせるか、集を行かせるかで。


まぁ、古城にも動いてもらうんですけどね。


そして、いよいよ次話は、この章におけるもう一人のキーパーソンが登場します!(予定)


乞うご期待!


ではでは

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