Blood&Guilty   作:メラニン

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更新が遅れ、申し訳ないです・・・

楽しみにして下さっている読者の方々には、重ねてお詫びします・・・

感想いつもありがとうございます!

実はリアル事情で中々投稿できずにおりました・・・・・・まぁ、あれですね。





就職めどい!






はい、愚痴はここまでにします。


ではでは、どうぞ!


天使炎上編VIII

 

午後6時08分。絃神島の中心地域であるキーストーンゲート付近では、時期外れの縁日が開催されていた。街頭には屋台が並び、それらは店名が記載された提灯をぶら下げ、暗くなり始めた公道を明るく照らしている。そんな中を目を引く一団が人波を割って進んでいた。

 

 

先頭は黒を基調にして、蝶の柄があしらってある浴衣を着用した小学生の様な背格好の女性だ。その後ろには白とオレンジの花柄が鮮やかな浴衣に身を包んだ、人形の様に整った容姿の蒼髪の少女が不慣れな下駄に苦戦している様であった。その髪色に合わせた様に水色をした蝶の髪留めで、髪をサイドテールに一まとめにしている。

 

 

それに並ぶ様にして、薄い青色を基調に黄色い向日葵の様な花模様があしらってある浴衣を身に付けた、快活そうな少女が歩いている。そして、それらに追随する様にして一組の少年と少女が仲睦まじく続く。そして、人形の様な容姿の少女と、快活そうな少女の会話が聞こえてくる。

 

 

「それにしても、ビックリしたよ。まさか、アスタルテさんから急に縁日に誘われるなんて思っても無かったから!」

 

 

「ご迷惑でしたか、暁凪沙?」

 

 

「え、ううん!そういう事じゃなくって、アスタルテさんもこういうイベントに参加とかするんだなぁ、って」

 

 

「肯定。教官から社会勉強の一環という事で、指示を受けました」

 

 

「へぇー……けど、集さん達も一緒だったんだね。あ、そうだ。いのりさん、あれから体調どう?具合悪いとかない?食欲はちゃんとある?熱とか引いてない?大変なことはない?大丈夫?深森ちゃんが渡した『ひゅーねる』が迷惑掛けてない?この前、集さんの悲鳴みたいな声も聞こえたし……まったく、深森ちゃんって偶に訳の分からない発明品を作るから心配してたんだ」

 

 

相変わらずのマシンガントークに、いのりは目を白黒させつつも、要点だけ掻い摘んで答える。

 

 

「体調は平気。『ひゅーねる』とも上手くやってる。………集がたまに被害を受けてるけど」

 

 

「え!?」

 

 

その言葉に、凪沙は驚愕した様に声を上げる。集は苦笑いしつつ頬を掻きながら、一応ひゅーねるを弁護しておく。いのりの体調管理だけでなく、自分のもやってくれているので、それの恩返しのつもりなのだ。と言っても、被っている被害などを考えると、プラマイゼロどころか、むしろマイナスになりそうな気がしないでも無いのだが……

 

 

「ま、まぁ、被害と言っても、頬を抓られたりとかしてるだけだから、大した事は無いよ?」

 

 

「……ウチの母親が迷惑なものを作ったみたいでゴメンナサイ」

 

 

「あ、あはは……」

 

 

凪沙がなぜか謝罪する羽目になっているが、それを集といのりは気にしない様にと慰める。そこで、先程まで生まれて初めての縁日に、物珍しそうにキョロキョロしていたアスタルテが凪沙の肩を叩く。相変わらずの無表情ではあるものの、その様子はどこかウキウキしている様に見える。

 

 

疑問提起(クエスチョン)。暁凪沙、あれは何ですか?」

 

 

「あれの事?あれは、チョコバナナって言って、バナナにチョコレートをコーティングしたお菓子だよ。食べてみる?」

 

 

「肯定」

 

 

見るからに、興味津々といった様子でアスタルテは凪沙に連れられて、チョコバナナの屋台へと吸い込まれる様に、スーッと進んでいった。そのタイミングを見計らって、集は那月に近付いて耳打ちする。

 

 

「あの南宮先生、この縁日に参加するのが仕事ってどういう事ですか?」

 

 

「ん?何だ、不服か?こんな遊ぶ事が内容などという仕事、その辺のニー◯共なら、喜びそうなのだがな」

 

 

「いや、別にそういう訳じゃ……」

 

 

「まぁ、これは単なる蛇遣いへの嫌がらせだ。……桜満、『仮面憑き』という言葉に心当たりは?」

 

 

「いえ、まったく無いです」

 

 

「ならいい」

 

 

「??」

 

 

結局那月にははぐらかされた形になってしまった。だが、少なくとも自分がここにいる事で、ヴァトラーの思惑を妨害できるというのならば、ある意味好都合かもしれない。ナラクヴェーラの一件では、ヴァトラーの妨害さえ無ければ、事態はもう少し穏便に済んだかもしれないので、これはある意味その意趣返しという事になるのだろう。集も聖人君子という訳では無いのだ。少しくらいの仕返しをしたいと思うのは至極当然といえる。

 

 

「まぁ、貴様らが深く考える必要は無い。今はこの祭りを楽しめ。楽しんでおける内にな。……では、私は少し別行動を取る。だいたい1時間半後に、アスタルテをキーストーンゲート正面まで連れて来てくれ。その間、アスタルテをしっかり楽しませろ」

 

 

「え゛!?」

 

 

集が止めるよりも早く、那月は路地に入ったと思った瞬間には転移魔術でジャンプし、姿が消えていた。完璧に置き去りである。呆然としていると、背後からチョコバナナを購入した凪沙とアスタルテが駆け寄って来ていた。

 

 

「ただいまー。あれ、南宮先生は?」

 

 

「あー……なんか用事があるとかで、別行動だって。その間、アスタルテの面倒を見て欲しいってさ」

 

 

命令受諾(アクセプト)。では、これより私は桜満集の管理下に入ります」

 

 

「いや、そんな硬くなられても…」

 

 

「なら、アスタルテさんも一緒にまだ遊べるね!じゃあ集さんも、いのりさんも一緒に遊ぼうよ!ほら、あっちに金魚掬い見つけたんだ!」

 

 

凪沙はアスタルテの手を引いて、金魚掬いの屋台へと駆けていく。集といのりは、一度顔を合わせると苦笑いを零しつつ、目を離さない様にとそれに追随するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーストーンゲート内部、特区警備隊(アイランド・ガード)司令室にて。薄暗い室内には、オペレーター達の行動する音と声が聞こえるだけである。だが、そこに似つかわしくない格好の小柄な浴衣姿の女性が突如として現れた。それに気付いたらしい、メガネを掛けた特区警備隊(アイランド・ガード)の1人が彼女に駆け寄る。

 

 

「お疲れ様です、南宮攻魔官。……はぁ、祭りは如何でした?」

 

 

「そう気を落とすな、東條。ほれ、陣中見舞のタコ焼きだ。ありがたく食え」

 

 

そう言って差し出されたビニールの袋の中には、司令室内全員分のタコ焼きの入ったパックが詰められていた。東條は一つ取ると他の職員に渡し、那月の隣で食べ始める。

 

 

「ま、俺としちゃ、那月ちゃんのレアな浴衣姿見れただけでも眼福っスわ……アチチ」

 

 

「はぁ……フザケタ事を言っていないで、状況の報告をしろ」

 

 

「ああ、そうでしたね。第四真祖の方は、剣巫と一緒に待ちぼうけしてます」

 

 

「ふん!私のハーブをひっくり返したんだ。もう少し待たせておけ」

 

 

まだ、怒ってたのかと、東條は内心で呆れてしまっていた。それと、あのハーブは実質的には東條が育てていた物であったのだが、言っても仕方がないのでスルーする事にした。余計なことを言うことで、那月の矛先が変化してしまっては堪ったものではない。

 

 

「で、もう一方ですが、特区警備隊(アイランド・ガード)の小隊がさっきからメイガスクラフト社の研究所を張ってますが、依然として動きは無し。まさに、平和そのもの。……こうなると、数日前のタレコミにあった『研究所から光る何かが飛び出した』ってのも、怪しいところです」

 

 

「……まぁ、平和ならばそれでいい。だが、もしもアルディギアが関与しているとしたら、確実に何かある。監視を怠るな」

 

 

東條はタコ焼きを食べ終わり、近くのクズカゴにパックを放り込むと、改めて那月と問答を再開する。

 

 

「タコ焼きゴチっした。……ってか、何でそこでアルディギアが出てくるんすか?確かにあそこの聖環騎士団(せいかんきしだん)の飛行船……確か『ランヴァルド』、でしたっけ?そいつはこの島の近海で消息不明ですけども」

 

 

「いや、タイミングがな……ウチの中等部の生徒に、派手な銀髪をした女子が居てな。アルディギア王国王族の女子の特徴と一致している。強力な霊媒であることも含めてな」

 

 

「……それで?」

 

 

「その派手な銀髪の女生徒の保護者、叶瀬(かなせ)賢生(けんせい)は現在メイガスクラフトの研究者だが、それ以前はアルディギア王国の宮廷魔道技師だったそうだ。その叶瀬(かなせ)賢生(けんせい)がここ数日、島内で姿が確認されていない。…………アルディギアに仕えていた男の失踪に、王族の特徴を持った女生徒、加えて何故かこの島に訪れようとしたアルディギアの飛行船の消息不明。それに合わせるかの様に、『仮面憑き』が出現した。――あまりにタイミングが重なり過ぎだと思わないか?」

 

 

 

那月は面白そうに東條を見上げると、不敵に笑った。東條はもしそれらが全て繋がっているのならば、と背筋が凍った様に感じていた。今はただ、自分の職務である島内の様子を監視するだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーストーンゲート近辺で開催されている縁日の屋台は大盛況であった。季節外れの催しではあったのだが、本土に比べて娯楽の少ないこの島の住民においては、それらを発散するのに最適という訳だろう。まぁ、総じてこういったイベント事に参加しようと集まるのは、ある意味人の本能なのかもしれない。

 

 

さて、そんな屋台の内の一軒には人集りができていた。人集りができているというのは、射的をやっている屋台であり、ここの店主は無駄に射的用のコルク銃を本物そっくりに作っており、威力も強化されていた。

 

 

当然そうなると、景品も重い物が置かれておりそれなりに高価である。故にワンプレー当たりの代金が高く、一回2発分で1000円という、ベリーハードな内容になっていた。年端のいかない小さな子供たちは、まんまとしてやられている様な店である。それらの様子を見て、店主は満足そうに笑っていたのだが………そんな店の景品をポンポン撃ち落としている集団がいた。

 

 

「集、次あれ」

 

 

「はいはい……」

 

 

「アスタルテも、手伝って?」

 

 

命令受諾(アクセプト)

 

 

「ひゃ〜……」

 

 

そう、桜満集、楪いのり、アスタルテ、暁凪沙の一行である。別にこの集団が男だけの集団ならば、ここまで人集りは出来なかっただろう。だが、次々と商品を撃ち落としているのは、可憐な浴衣姿の少女達だ。(一名少年だが……)

 

 

いのりは前の世界では、銃の腕はかなりの物であったし、アスタルテは一応元は戦闘様に作られた人工生命体(ホムンクルス)という事で、必要最低限の武器の心得は持っている。集に関しては、前の世界で受けた銃の訓練では成績は芳しくは無かったが、それでも20m先の的に当てるだけなら出来た。

 

 

そんな彼らが今やっているのは、2m先の景品を撃ち落とすだけのイージーなゲームである。威力が足りなくとも、重い景品は同時撃ちで落とせるし、距離も彼らにとっては近すぎるくらいである。いのりが指示を出し、それに集とアスタルテが追随する形で引き金を引く。

 

 

「ま、また、当たってる………」

 

 

「「「「「「「おぉ…!」」」」」」」

 

 

周囲からのギャラリーからはどよめきの声が上がる。それぞれ既に4発、つまり3人分で計6000円分もの投資をしているのだが、全て成功し元を取っていた。店側としては大赤字である。そこで、いのりも満足したのか、ストップとなった。景品を抱え、店を後にする。こういった場所では、取りすぎると後々禍根を残しかねない。引き際というのを彼女も心得ているのだ。

 

 

いのりを先頭に、彼らは少し歩いて、開けた場所の噴水付近で景品を広げて配布していく事にした。

 

 

「これは、凪沙に」

 

 

「え、い、いいの、いのりさん?」

 

 

いのりが渡したのは、シャープなデザインのスポーツバッグだった。デザイン性でも人気があるが、それなりに容量もあるという事で、密かに今人気の物であった。

 

 

「ん。この前まで、服を貸してくれた、お礼。次はアスタルテ」

 

 

「感謝します、楪いのり」

 

 

続いてアスタルテに渡したのは、髪留めやら、コスメグッズやらが入った詰め合わせの様なものだ。取った景品の単価でいくと、ブランド物も混じっている為、実はそれなりに高い。

 

 

「ううん、保健室の時のお詫び。だから、気にしないで。集にも」

 

 

「ありがとう、いのり。そう言えば、ビデオカメラは買ってなかったなぁ……」

 

 

集は、いのりからビデオカメラの箱を受け取ると、もう一つの景品を見る。いのりが握っているもう一つの景品というのは、手持ち型の音楽プレイヤーだ。中々に高性能なもので、音質も現状の音楽プレイヤーの中では最高水準のものであり、数時間分の録音機能に、簡易的なカメラ機能などなどが付いている。やはり、この世界は自分のいた世界より、技術が進んでいるんだなぁ、と集はシミジミ感じていた。

 

 

「それにしても、いのりさんの射的の腕前にはビックリしたよ!毎回あそこの店主さんって、高価な景品を出展するんだけど、皆取れないって有名だったのに」

 

 

「集とアスタルテが協力してくれたから」

 

 

「そう言われれば、集さんも上手かったよね。前に言ってた実験施設っていうので、訓練させられたの?」

 

 

 

「え、あ、あぁ、うん!そ、そうなんだよね!実験が生体に与える影響の検証って事で、色々なことやらされて、そこで射撃訓練なんかもあったり……あはは……」

 

 

「そうだったんだぁ……あ、そだ。次はどこ回る?まだ、行ってないお店、結構あるんだけど!」

 

 

警告(ウォーニン)。目的時間が迫っています。教官の指定した時間まで、残り25分32秒です。ここから、目的地までは8分40秒掛かります」

 

 

「あ、そっか。アスタルテさんは、この後南宮先生とお仕事なんだっけ?んー…」

 

 

「じゃあ、待ち合わせ場所までアスタルテを送りながら、この後どうするかを決めよう」

 

 

「そうだね。アスタルテさんが帰っちゃうと、寂しいけどお仕事じゃ仕方がないもんね……よーし!じゃあ、残り時間目一杯使って、アスタルテさんには楽しんでもらおう!」

 

 

凪沙の言に従い、それぞれが噴水脇のベンチから立ち上がると、再び屋台の間を抜けて歩いていく。その間も、食い歩きをし、アスタルテは初めての縁日というものを、堪能した様であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスタルテも送り届け、人数が3人に減った一行は、再び元の噴水脇のベンチに戻って来ていた。中心に集を置いて、その両隣にそれぞれ、いのりと凪沙が座っている。集は、若干殺気を発している様な視線を感じなくも無いのだが、今は気にしない様にしておく事にした様だ。これから花火が打ち上がるらしく、どうせなら落ち着いて見よう、という事でここに戻って来たのだ。

 

 

「花火、遅いねー……何か有ったのかな?」

 

 

「まぁ、花火って実は打ち上げるのは凄い大変っていうのは聞くね。火薬を使ってる訳だから、職人さん達も凄い気を使うっていうのは聞くし」

 

 

「確かに……花火職人さんって大変なんだなー」

 

 

「でも、綺麗な花火が見れるから楽しみ。花火は直接は見たこと無いから」

 

 

「え、そうなの!?…って、そっか。いのりさんって実験施設にいたんだっけ…じゃあ、集さんも?」

 

 

「え、僕?え、えっと、僕は見たことあるよ。僕といのりは施設に入った時期が違うからじゃ無いかな?」

 

 

「ふーん…ずっと、同じだった訳じゃ無いんだ」

 

 

「…………まぁね。それに、施設にいた時だって、ずっと一緒って訳でも無かったし。途中、僕が突っ撥ねちゃった事もあったしね…」

 

 

「え、今は、こんなに仲がいいのに!?」

 

 

「……あの時は集のせいで、傷ついた」

 

 

「うっ……」

 

 

集は予想しなかった、いのりの返しに呻き声を漏らした。いや確かに、集はいのりを拒絶した事があったので、いのりのその言葉は本当なのかもしれないが……

 

 

だが、集の後ろめたさを払う様に、いのりはクスクスと笑う。

 

 

「ふふ、冗談よ、集。……傷ついたけど、集は私を迎えに来てくれた。だから、もういいの」

 

 

「あ、あはは…」

 

 

「ふーん……人に歴史ありだねぇ」

 

 

凪沙は面白そうに話を聞いて、いのりは集の反応を面白そうに見ていた。だが、そんな中、集は背筋に冷たい視線を感じて、キュッと口を閉じる。いのりも何かを感じ取った様で、ほんの一瞬だが、表情が動いた。集は、いのりに一瞬目配せすると、おもむろに立ち上がる。

 

 

「っと、ごめん。ちょっとトイレに行ってくるよ。ついでに飲み物を買ってこようと思うんだけど、2人は何がいい?」

 

 

「あ、ホント?じゃあ、私はファ◯タ!オレンジがいいかなー」

 

 

「私はお茶でいい」

 

 

「了ー解!じゃあ、一応不安だから、ちゃんと2人で一緒に居てよ?」

 

 

 

 

 

集はそう言って、駆けて行く。近付くにつれて寒気の様なものが強くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、2人が見えなくなった所のビルとビルの間、そこの薄暗い路地へと入る。そうすると、その奥の暗がりから、ヌゥっと浮かび上がる様にして、1人の青年が現れた。

 

 

黒いスーツ姿で、背格好は集と同じくらいだろうか。黒い髪を肩まで伸ばし、整端な顔立ちも相まって中性的な雰囲気の青年だ。だが、集はどこか違和感を感じていた。ナラクヴェーラの一件以降、厳密に言えば、いのりから『剣』のヴォイドを取り出して以降、たまに感じる様になった事だ。彼が感じ取っていたのは、異能の源泉である魔力であった。

 

 

「お初にお目に掛かります、『ジョーカー』こと桜満集様。私はキラ・レーデベデフ・ヴォルティズロワと申します。以後、お見知りおきを」

 

 

集はその青年に見覚えがあった。どこかで見た気がしていたのだ。記憶を辿り、何とかそれを思い出す。そして、ナラクヴェーラの一件の時に見ていたのを思い出す。

 

 

「確か…アルデアル公の船『オシアナス・グレイブ』にいた…」

 

 

「『罪の王』たる貴方様に、私如きの存在を記憶に留めていただき、感激の極みでございます」

 

 

集はどこかむず痒くなりそうな、その喋り方に苦心しつつも、本題へと入る様に促す。

 

 

「……それよりも、アルデアル公の関係者が何でここに?」

 

 

「はい、貴方様にはご無礼を承知で、魔力によってお呼び立ていたしました。そちらに関しては、致し方なかったとはいえ、『(きさき)』たる楪いのり様との逢瀬を邪魔したことを謝罪致します」

 

 

「き、きさっ!?…そ、それに、お、逢瀬って……」

 

 

「さて、本題なのですが……明日以降、第四真祖である暁古城様の動向に注意していただきたく思います」

 

 

「古城の動向に?」

 

 

「はい。『仮面憑き』――という言葉に聞き覚えは?」

 

 

その問いに、集は表情を動かす。集は那月との会話の中で出てきた言葉だと、思い出していたのだ。だが、那月がはぐらかしたという事は、関わるのはあまり得策では無いだろう。だが、それでも、集は聞こうと考えた。だからこそ、この場を去らずに、目の前の青年に視線を戻す。

 

 

「……言葉は知っていても、内容はご存知ない…といったところでしょうか?では、この島で今破壊を撒き散らしている事件に関しては?」

 

 

「それなら、報道で少しくらいは」

 

 

「それらの破壊行動を行っていると目ぼしき存在が確認されました。こちらを…」

 

 

キラが一枚の写真を取り出して、集はそれを受け取る。そこには、昔の神話に出てくる様な、ギリシャ神話の神が着ている様なトーガに身を包んだ、少女と思われる2体の個体が写っていた。白い翼が背から伸び、互いに争っている様に見える。そして、顔には悪趣味な仮面を付けていた。この仮面が『仮面憑き』と呼ばれる所以なのだろうと集は推察する。

 

 

「これは……天使?」

 

 

「見た目だけならば、と言っておきましょう。あともう一枚をお渡ししておきます」

 

 

「……っ!!これは…」

 

 

キラが渡したもう一枚の写真には、先ほどの黒髪とは異なる天使が写っていた。白銀の髪に、仮面の横には一房の三つ編みにまとめた髪が揺れ、それは青いリボンで留められていた。それが誰なのかは、その特徴で一目で分かることになった。

 

 

「僭越ながらここ数日、貴方様と第四真祖の動向は見張らせていただきました。……貴方がたが行動を共にしていた彼女は普通ではありません。……では、私はこれで失礼させていただきます。どうか、お気を付けて」

 

 

「待っ――!」

 

 

集が止めるよりも早く、キラは再び路地の闇の中へと消えていった。集は改めて手の中にある2枚の写真に目を落とす。空に上がり始めた花火の光が、暗かった路地裏を薄く照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

集が一旦去った後の噴水広場では、いのりと凪沙がベンチに座ったまま待ちぼうけをしていた。まだ、花火は上がっていない。凪沙は集の消えていった人混みの方へと視線を向けて、心配そうな声を上げる。

 

 

「うーーん、集さん平気かなぁ?あんな人混みの中に飛び込んでいったけど」

 

 

「凪沙は集が心配?」

 

 

「んー……少しだけ、かな。あれで集さんって以外と強いから、不良とかに絡まれても平気そうだし。まぁ、そもそも絡まれなければ良いんだけどね」

 

 

「…凪沙は集が気になる?」

 

 

「え、それは、まぁその…お隣だし?」

 

 

「…それだけ?」

 

 

「えっと……それだけって?」

 

 

いのりは凪沙の表情を覗き込む様にして、ジッと見つめる。いのりの方は別に、凪沙の目を見ているつもりは無い。凪沙の眉間の辺りを見ているだけなのだが、やられた方は目を合わせられていると勘違いしてしまうのだ。

 

 

いのりの問いに、凪沙もさすがに別の意味も合わせて聞いてきているのだと気付く。

 

 

「はーー、ズルいなぁ、ホント………いのりさんは、さ……その……集さんの事…好き、なんだよね?」

 

 

コクリと、いのりは黙ったまま頷いた。凪沙もそれを確認し、言葉を続ける。

 

 

「…私さ、初めて集さんに会ったとき、悪い人たちから助けてもらったんだ。タイミング的には、ヒーローみたいなタイミングで現れてくれたの」

 

 

「……うん」

 

 

「まぁ、そのときは多分ただの憧れだけだったんだと思う。でもね、お隣になって話す機会も、会う機会も増えて、何度も会ってるうちに誰かを探してるのを知ったの。その時に、私も少し手伝ったりしてたんだ。……そうして一緒に探しているときに、集さんの一生懸命な表情も、寂しそうな表情も見てて……」

 

 

「……そう」

 

 

いのりは変わらず、表情を動かさないで凪沙の独白を聴き続けた。だが、よく考えて欲しい。女子中学生が、そういった相手のことについて語るのに、どれだけ勇気が要るのかを。むしろ、ここまで言葉を続けた彼女のメンタルを褒めて欲しいくらいである。だが、さすがの凪沙も遂に、羞恥の限界だったのだろう。突如として頭を抱えて上を仰ぎ見て、奇声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あーーーーー!もう!何コレ!?何で私だけこんな恥ずかしい思いしてるの!?ってか、人の気持ちなんてどうしようも無いじゃん!」

 

 

「凪沙、落ち着いて?」

 

 

「ぐ……やっぱ、いのりさんには色んな意味で敵わない気もする!?だぁーーー、もう!」

 

 

そこまで言って凪沙は一旦落ち着くために、大きく息を吸った後、一気に吐き出す。そして、パンと膝を叩いて立ち上がり、いのりの真正面に立つと、意を決して口を開く。

 

 

「あのね、いのりさん!私は…私は集さんのこと――」

 

 

それと同時に、凪沙の背後で花火が上がる。打ち上がった花火の音はそれなりに大きかったが、それでも凪沙は言葉を続けた。その言葉を、いのりは真正面から受け止めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花火の上がった同時刻。これから戦いへと赴こうと、ビルの屋上では待ちぼうけを喰らっていた第四真祖――暁古城は、何かを感じ取ったように、縁日の開かれているキーストーンゲート方面を振り返った。

 

 

「……なんか、今すごーーーーく、不吉な事が起こった気がする」

 

 

「何を言ってるんですか、先輩?ほら、行きますよ。南宮先生の魔法陣の上に乗ってください」

 

 

浴衣姿の後輩に急かされ、彼は戦地へと向かうのであった。

 

 

 

 




ピキキーン!

その時!古城が何かを感じ取った!w





はい、以前からハッキリとはさせて来なかった凪沙の心情に関して描かせていただきました。まぁ、もう分かってたよ、という読者の方々も多いとは思いますが・・・


この子に関しては自分もえらく迷いました。けど、できれば個人的にも好きなキャラクターなので、色々と見せ場が欲しい!と思い、こういう風に・・・




そして、キラが再び登場しましたね。登場した理由はお分かりかと思いますが、集を解決に向かわせるためです。






ではでは、今回はこの辺で。

アデュ―!

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