Blood&Guilty   作:メラニン

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ターゲットに集も追加されます、そんなお話です(笑)


何のターゲットになるのかは、読めば分かりますので、楽しんでください。


では、どうぞ!


天使炎上編IV

 

 

いのりが転校してきた日の放課後、古城は浅葱に呼び出され美術の課題作成のモデルを行うという事になっていた。その間、集といのりは図書室にて勉強をするという事で、古城とは待ち合わせをしていた。当然、雪菜は雪菜で、古城の課題が終わるのを自教室で待機している。

 

 

さて、美術室では古城と浅葱が美術のデッサンという名目の逢い引きをしている同時刻、集といのりは図書室にて、所謂図書館デートのような状況である。当の本人達はそんなつもりは無くとも、周囲から見たら、校内でデートするんじゃねえ、と言いたい人間が何名か居るのだろう。その証拠に図書室の使用人数は集たちが入ってきた時点よりも、利用者が減っている。

 

 

 

 

 

さて、話は変わるが、この学園において、いくつか非公式な団体がある。姫柊雪菜や、中等部の聖女と呼ばれている少女を、祀るようにしているファンクラブ。その他にも、モテるくせに本人はどこ吹く風といった調子で、女生徒からの好意に気づかない鈍感なある人物を呪う会などである。

 

 

そして、新たに高等部に彗星の如く現れた儚げな美しい少女のファンクラブが早速作られようとしていた。が、件の少女はどうやら、彼氏持ちな上に、同棲までしているという。これに激怒した男子生徒が何名かおり、その会は楪いのりファンクラブ改め、桜満集を呪う会へと成り代わったのである。

 

 

その会員が図書室内に偶然何名か居合わせたのだ。だからだろうか?集は彼らからヒシヒシと送られる怨嗟によりブルリと身震いしていた。

 

 

「……集、風邪?」

 

 

「え、う、うーーん、どうだろう?熱は無いと思うんだけど……」

 

 

「……診せて」

 

 

「え、ちょっ!?」

 

 

いのりは集の頭を両手で押さえると、自分の額へとくっ付ける。暫くそのままでいると、いのりはスッと離れて、首を傾げる。

 

 

「熱は無いみたい。今日の夕ご飯、温かいものにする?」

 

 

「え、えと、うん、そうだね。いのりは何がいい?」

 

 

「私はおにぎりでいい」

 

 

「えーーと、いや、出来ればオカズとか」

 

 

「集の料理は美味しいから………集の作ったものなら、何でも嬉しい」

 

 

「わ、分かった」

 

 

周囲の桜満集を呪う会の会員は、グッと歯を噛み締めた。見るのが嫌ならば、立ち去ればいいものをと思うが、どうしても気になるのだろう。人の好奇心とは時に厄介である。この後、自分たちがどうなるかも知らずに……

 

 

「そうだ、集。お願いがあるの」

 

 

「ん?何、いのり?」

 

 

「私服があまり無いから買いに行きたい」

 

 

「あ、あー、そっか。そうだよね」

 

 

2週間の間、那月が適当に買ってきたものや、隣の凪沙から借りたりなどして、何とかやってきたのだが、やはりそこは自分用の服でなければならないだろう。と言うか、那月が買ってくる服は趣向が偏っているし、凪沙の服はサイズがイマイチ合わない。凪沙が少し大きめの服を貸してくれてはいるが、それも限界がある。

 

 

出来ればこの状況は早く脱却した方がいいのだが、集は中々実行に移せないでいた。それは、アスタルテの服を買いに行った時の事が若干なりとも、彼にとってトラウマになっているからだ。少なくとも、女性服売り場に男が居ていいものではない。あの時も相当気まずかったが、いのりとならば、尚更だろうと尻込みしていたのだ。

 

 

 

「う、うーーん、い、何時にしよっか?」

 

 

「今日」

 

 

「きょ、今日!?」

 

 

「凪沙に借りた服も、もう返したし、いつも寝る時に集のシャツを借りるのも悪いから」

 

 

「まぁ、僕のシャツくらいなら良いんだけど、確かに凪沙さんからいつまでも借りる訳にもいかない、か……」

 

 

「それに……集と買い物に行きたい、から」

 

 

いのりは最後の方はやや尻すぼみになりながらも、そう言うと視線を逸らす。昼休みに言われた事を意識しているのかもしれない。集はその仕草にドギマギしながら、何とか悟られないようにポーカーフェイスを貫く。

 

 

そして、そのタイミングで集の携帯が着信を報せる。

 

 

「あ、もしもし、古城?……あ、終わった?了解、今から向かうよ。うん、じゃあ」

 

 

「古城、浅葱の手伝い終わったの?」

 

 

「うん、そうみたい。じゃあ、行こうか?」

 

 

コクリといのりは頷き、2人はカバンを持って立ち上がる。そして2人は何名かが机にうつ伏せになった図書室を後にした。言わずもがな、うつ伏せになっているのは、桜満集を呪う会の会員達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせー………って古城?どうしたの?」

 

 

教室前の廊下で待ち合わせていた彼らは、示し合わせた通り待ち合わせていたのだが、どうにも古城の様子がおかしかった。窓の外を見ているだけなのだが、その目はまるで親の仇でも見るような目で一点を凝視している。

 

 

そばに付いている雪菜は困った様な、呆れた様な表情で古城へ視線を向けている。集といのりも窓の外へと視線を動かす。そこには何やら手紙を握り締める凪沙が立っており、男子生徒が走って立ち去って行くのが見えた。状況的に見て、男子生徒が手紙を渡して立ち去っていったのだろうか?

 

 

それとなく集は事情を察して、古城へ話し掛ける。

 

 

「古城、口出ししない方が良いと思うよ?」

 

 

「べ、別に口を出すつもりは無えよ!」

 

 

「首も突っ込まない様にね?」

 

 

「う……ぐ」

 

 

「手を出すのなんかは言語道断だと思うよ?」

 

 

「す、するか、そんな事!」

 

 

集は事前に古城の取り得る行動を予測し、釘を刺しておく。ただ、それでも足りないと感じた集はもう1つ古城に楔を打ち付ける。

 

 

「………あまり、しつこくしてると、凪沙さんから口も聞いてもらえなくなると思うよ?それを理解してるなら、僕からはもう何も言わないでおくけど?」

 

 

「……………」

 

 

古城は集の言葉に閉口した。確かに、あまり介入しては凪沙の機嫌を損ね、何を言われるか分かったものではない。いや、何も言って来なくなるかもしれない。古城としては、そちらの方が背筋が凍る思いである。

 

 

ようやく古城は諦めたのか、首肯する。

 

 

「………分かった。俺は何も見なかった」

 

 

こう言う以外に無いだろう。雪菜は嘆息しつつ、集へ声を掛ける。

 

 

「助かりました、桜満先輩。まったく、暁先輩と来たら、こんな事で動揺し過ぎるものですから、困ってたんです」

 

 

「ま、まぁまぁ。けど、凪沙さん嬉しそうにしてるんだし、古城としては、もしそうだった場合祝ってあげるのが普通じゃないの?」

 

 

集の言った通り凪沙はどこか嬉しそうにしていた。まぁ、普通に考えて、彼女はモテるだろう。実際に表立って活動しているのは、先ほど述べておいた2つのファンクラブが主に活動しているが、密かに暁凪沙も男子生徒の人気は高い。気が利いて、誰に対しても優しく、快活であり、容姿も整っているのだ。むしろモテないという要素の方が見当たらないのではないだろうか?

 

 

「………も、もしそうだったらって、ど、どういう事だよ?」

 

 

「え?いや、あの男子生徒と凪沙さんが付き合――」

 

 

「言うなあぁぁ!!」

 

 

古城は廊下であるにも関わらず、絶叫する。まごう事なきシスコ――兄バカである。幸いな事に当事者である凪沙はすでに姿を消しており、自分の絶叫を聞かれなかっただけ古城は恥の上ずりをせずに済んだのは僥倖(ぎょうこう)である。その様子に、雪菜は嘆息する様にして呟く。

 

 

「……まぁ、凪沙ちゃんに限って、高清水君と付き合うという事は無いと思いますけど」

 

 

雪菜が口にした高清水というのは、件の手紙を渡した男子生徒である。本人はすこぶる真面目で礼儀正しく、好感が持てる人間だと雪菜が補足するが、この世界最強の称号を冠する第四真祖である暁古城にとっては、どちらでもいい事だ。

 

 

「ま、まぁまぁ、付き合うって決まった訳じゃ無いんだし、もう少し様子を見守ってあげたら?それが兄としての務めだと思うよ?」

 

 

「……おう」

 

 

これ以上は、冗談抜きで古城が暴れかねないので、集はストッパーとしての役割を果たす。もし暴走などされて絃神島が沈み、後世に『妹に彼氏が出来そうだったから』などと残されては、その監視役たる集としては甚だ遺憾である。そうならない為にも、ここで止めておかねければと考えたのだ。

 

 

「はぁ………とにかく、凪沙ちゃんも帰った様ですし、私たちも帰りましょう。ほら、暁先輩、行きましょう」

 

 

「………」

 

 

返事がない。ただの屍とまではいかないが、魂が抜け落ちたような状態であった。

 

 

「行・き・ま・す・よ!」

 

 

「………おう」

 

 

雪菜に言に従い、古城は頷き彼女先導のもと彼らは学園を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイランド・サウスに存在するマンションの703号室はこの島における特異点、第四真祖と並んで一部から危険指定されている『ジョーカー』こと、桜満集の自宅である。2週間前から同居人が増え、集にとってはそれが嬉しくもあるのだが、同時に悩みの種でもあった。

 

 

「集、行こう?」

 

 

「………うん」

 

 

帰宅早々、彼らは私服に着替えて出かける準備をしていた。と言っても、いのりは集の服を着ており、Tシャツの上に薄い襟付きシャツに、ジーパンというボーイッシュな格好である。相変わらず髪は二つに留めており、彼女が動くたびにユラユラ揺れている。

 

 

図書室での約束通り、いのりの私服を買いに行く事になっていた。一般的に男子高校生が女子の買い物に付き合うのはハードルが高い。一応、アスタルテのお陰で、初めてという訳ではないが、集にとってはこちらの方が緊張していた。古城の監視は矢瀬へと既に事情を話しており、彼は二つ返事で了承してくれた。……若干、電話越しに笑っていたのが不安であるのだが……

 

 

因みに現在は午後4時であり、日が西へと傾いており、夕日が窓から差し込んでいる。それを背にドアを開き、家を出ようとしたところで集は足をピタリと止めた。いのりが何事かと、集の背中からひょっこり顔を出して覗くと、そこには腰に両手を当て、仁王立ちしていた雪菜の姿があった。

 

 

「どこへ行くんですか、桜満先輩?」

 

 

「えーと、いのりの私服を買いに行こうかと……て言うか、何で姫柊さんが居るの?」

 

 

「先輩方の家の扉には式神を貼り付けてますから。出て行こうとしたら分かります。本当は盗聴用の式神も考えたのですが、盗聴用が2体だと私の霊力消費も常に2倍以上になってしまい疲れるので、比較的簡易的な発信用の式神にしておきました」

 

 

なぜかドヤ顔でそう言う雪菜に集は言葉も出なかった。いよいよ彼女の監視という名目のストーカー行為もここまで来たか、と絶句したのだ。それを本人は気付いていないが、言わぬが花か、と集は閉口したままである。

 

 

どうにも獅子王機関の人間は隠密に向いていないらしい。雪菜の尾行は古城にバレバレだったと聞くし、呪詛や暗殺が専門だという紗矢華にしても派手に暴れて、結果一般人であった浅葱に目撃されるという失態を犯している。幸い、浅葱にその記憶は無かったのだが………

 

 

「それにしても私服、ですか。確かいのりさんは、今まで凪沙ちゃんの服を借りたり、南宮先生が譲ってくれた服を着用していましたよね?」

 

 

「うん、まぁそうなんだけど……何時までも凪沙さんに借りるわけにもいかないし、それにこう言うのは少し気が引けるけど、南宮先生の服のセンスってほらその………偏ってるというか……」

 

 

「あぁーー……」

 

 

雪菜は察した様に表情を暗くする。彼女も那月の普段から着用している衣服類を見て、その趣向を何となく理解しているのだ。しかし、一応監視対象に入っている集の事を、放置しておく訳にもいかない。

 

 

だが、雪菜も2人についての事情は分かっているため、これから2人きりで出かけるところにノコノコ付いて行くのは憚られる。あちらを立てればこちらが立たず、といった状態である。苦心した雪菜は、それでも頭を捻り打開策を講じる。

 

 

「………仕方ありません。では、桜満先輩、いのりさん。こちらを」

 

 

雪菜は制服のポケットから何やら人型の紙を取り出すと、2人に手渡した。呪詛や魔術などといった事に明るくない彼らは当然疑問符を浮かべる。

 

 

「「これは?」」

 

 

「それは発信器タイプの式神です。お2人の生体パターンを認識して、それを1メートル離すと式神から私に異常を報せるものです。一応桜満先輩は監視対象の1人なんですから、放置はできませんので。…………ただ、お2人の間に入るのも邪魔になると思うので、こういった形で手打ちにします。では、私はこれで失礼します」

 

 

雪菜はペコリと頭を下げると自室へと帰っていった。やれやれと集は呟くと、いのりを振り返り見る。

 

 

「じゃあ、行こっか」

 

 

いのりは返事するでもなく、首肯しただけで肯定の意を示した。2人は自宅マンションを後にし、商業地区のあるアイランド・ウェストへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、集といのりが出掛けるのを雪菜が察知し、式神を渡すといった事があった丁度その頃の事。桜満集と楪いのりの自宅である703号室の隣、704号室では暁古城がベッドにダイブし、枕に顔を沈めていた。

 

 

さらに、ウダウダと先ほどから帰ってくる筈もない独り言を垂れ流しており、一目見れば気持ち悪いなどと思われても仕方がない様な状態となっていた。

 

 

「………はぁ………凪沙が付き合う、ねぇ…………うーーーーーーーん………」

 

 

古城はゴロンと寝返りを打って天井を見上げ呟く。

 

 

「あの凪沙がねぇ…………うーーーーーーーーん………」

 

 

古城の記憶の中にいる凪沙は、幼少期は古城の後を鳥の雛の様について回り、しょっちゅう古城に助けを求めてくる様な存在だった。それがいつの間にか、家事は万能になり、心身ともに大きくなり古城自身、凪沙に助けられる事の方が多くなってきた今日この頃である。

 

 

改めて思い返すと成長したんだなぁ、などと感慨に耽っており、その姿はどこか哀愁が漂っている。やっている事が、完璧に親バカのそれである。彼は大概シスコ――兄バカなのだ。とてもではないが、彼を思う少女たちには見せられない様な姿である。

 

 

と、そんな事をしている内に、自宅の扉が開き元気な声が聞こえてきた。件の彼女の帰宅である。

 

 

「ただいま~~。あ、古城君、靴をまた脱ぎ散らかして!もう、ちゃんと揃えてって言ってるのに!」

 

 

帰ってくるなり、兄のダメな部分を指摘するあたり、彼女は平常運転である。だが、どこか上機嫌なような声である。凪沙はスクールバックとは別の、練習着が入ったトートバッグからチア服を取り出し、洗面所にある洗濯機へと放り込む。

 

 

そして、何かを思い出した様に、パタパタと兄である古城の自室前まで歩いていく。

 

 

「古城君、いい?……開けるよー?」

 

 

凪沙は数回ノックすると、扉を開け古城の自室へと入る。

 

 

「あー、また脱ぎ散らかしてる!だから、ワイシャツくらい自分で洗濯機に放り込んでおいてよ!ほら、靴下も!もう、古城君!?もし、私が居なくなっても知らないからね!?」

 

 

その言葉に古城は鋭敏に反応した。ベッドから跳ね起き、凪沙へと一足飛びで接近したのだ。凪沙は急な事で目を白黒させて、動転している。

 

 

「い、い、居なくなったらって!!………そ、その、ど、どういう事だ?い、居なくなる様な事があるのか……?」

 

 

「え、え…?い、いや、だから『もし』って言ったでしょ?それに、波朧院フェスタの後なんかは本土研修で二、三日居なくなっちゃうし」

 

 

「あ、あぁ、そういやあったな、そんなの」

 

 

「まったく、しっかりしてよね、古城君。古城君が去年行ったばっかの行事でしょ?それに、いつかは私も古城君も、この家は出て行く事になるかもなんだし」

 

 

「え?」

 

 

「『え?』じゃないよ、『え?』じゃ!何時までも親と同居する訳にもいかないでしょ?深森ちゃんはそれでも良いかもしれないけど、私達だってほら、その………結婚……とかしたら、お引越しはしなきゃでしょ?」

 

 

凪沙は何を当たり前の事を言っているのだ?と、古城に内心で呆れつつ、古城の脱ぎ散らかした衣服を拾うと、とっとと出て行った。

 

 

当の古城はというと――

 

 

 

 

 

 

「…………………………………結婚?」

 

 

 

 

 

 

 

 

色素が抜けて真っ白になっていた。と言うよりは、どこか壊れていたという。

 

 

 

 




・・・・・・ヤヴァイ。


天使炎上編と銘打っているのに、全然キーパーソンが出てくる気配がしねえ・・・


もし、ファンの方がいらっしゃったら、大変申し訳ないです。えっと多分・・・・・・・・・あと3話くらいしたら、登場します、はい。


急いで執筆中でございます。


最後に、感想・ご指摘してくださっている読者の皆様ありがとうございます!

ちょこちょこ誤字があったりする事があるかもしれないので、気になる点などございましたら、ご一報をば・・・(いや、筆者が執筆スキル上げれば済むんですけどね・・・)


ではでは、また次回!

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