Blood&Guilty   作:メラニン

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今年の抱負→アニメ化されたところまでは描きたい・・・
(このペースだとキツそうですけどねぇ・・・)


さて、ではではどうぞ!


天使炎上編III

 

彩海学園の屋上庭園にて、数名の男女が昼食を取っていた。各々が持参してきた昼食を広げ、箸で突いている。

 

 

そんな中、約1名のみが庭園のプランターにせっせと土を入れ、そこへハーブの苗を埋めていた。当然、作業をしているのは暁古城であり、クラスメイトである他数名はそんな彼を尻目に昼食を取っているのだ。担任教師から課されたノルマはあと1つであり、それも今しがた植えているもので最後である。

 

 

ようやく古城は作業を終えて、手と顔を屋上に備え付けてある水道で洗うと、すでに昼食を取っている友人の元へと向かう。

 

 

「ぜはぁ~~………お、終わった……」

 

 

「ははは………お疲れ、古城」

 

 

「あぁ、サンキュ、桜満。にしても、あのミニマム教師め……」

 

 

「おやおやぁ?暁、そんなこと言っていいのぉ?」

 

 

「お、俺は脅しには屈しない」

 

 

「はっはっは!この築島倫が、こんな揺すりネタ見逃すはずが無いじゃん♪」

 

 

三文芝居を繰り広げる2人を無視し、集、いのり、基樹の3人は食べるのをやめない。一方、浅葱は呆れた様に溜息を吐くと、古城と倫の頭を叩く。

 

 

「つっ!」

「たっ!?」

 

 

「いいから、早く座って食べなさい2人とも。ほら、古城、まだ泥がホッペに付いてるわよ」

 

 

「ん?まぁ、大丈夫だろ、そんくらい」

 

 

「一緒に食べてるコッチが嫌なの!もう、ほら!コッチに顔向けて」

 

 

「だ、大丈夫だ!自分でやる!」

 

 

そう言って古城は乱暴にゴシゴシとパーカーの袖口で擦るが、見当違いの場所を擦っており、浅葱は呆れた様にポケットからティッシュを取り出し、古城の顔を拭き始める。

 

 

「ほら、顔右に向けて」

 

 

「う……すまん…」

 

 

古城は観念して為されるままになる。そんな2人を生暖かい目で、見守るその他大勢。基樹と倫は面白そうにニヤニヤと笑いが止まらないようだ。

 

 

「いやー、仲睦まじいねぇ。なぁ、築島さん」

 

 

「そうですね~、矢瀬さん。見ていて飽きませんなぁ」

 

 

「お、お前らなぁ……」

 

 

古城は怒りで拳を震わせる。まぁ、仕方の無いことだろう。当の浅葱は若干恥ずかしがりながらも満更でもない様子である。強敵と思しき人間が増えていく状況において、彼女なりに好印象を与えるチャンスなのだ。なので、外野の多少の野次は我慢である。

 

 

「そう言えば、仲睦まじいと言えば、そっちもだよなぁ?」

 

 

集はやはり来たか、と一旦箸を置く。

 

 

「はぁ……築島さんに、事前に情報を与えたのは基樹でしょ?」

 

 

「さて、何の事かなぁ?」

 

 

集はこの時、古城の普段の気持ちが、よーーーーーく理解できた。しかも、今は基樹だけでなく、もう1人厄介な存在が居る。

 

 

「いや、でも本当に仲睦まじいわよねぇ。何たって、お弁当の中身が同じだもんねぇ?」

 

 

集はしまった、と内心焦る。容器は別なものの、中身の惣菜類は全部同じなのだ。偶然と言えば何とか躱せるだろうが、それは他の生徒の時の話ならばだ。残念ながら、この築島倫は別である。

 

 

「いや、偶然だよ。よくある組み合わせじゃない?」

 

 

「そいやっ!」

 

 

「「あ」」

 

 

集といのりの声が重なる。倫は2人の弁当から卵焼きを2つとも口に頬張り、食べ比べを始めたのだ。

 

 

「んぐ、もぐ……んく。…………うん、美味しい。この味は女子としては、危機感を覚えるわ。………って、そうじゃなかった。実際に2つともを食べてみたけど、全く同じ味がするもの。この事からズバリ!この卵焼きを作ったのは桜満君ね!」

 

 

「う……」

 

 

「………うわ、分かりやす。桜満君も暁と一緒で、詐欺に引っ掛かりやすいタイプか……」

 

 

「…………………やられた」

 

 

集はまんまと倫の策略に嵌ってしまった。それを思い、額に手を当てる。彼も大概人に騙されやすい。事実、前の世界でも仕方がなかったとはいえ、寒川谷尋に集は騙されている。

 

 

「ではでは、そんな夫の作ったお弁当を食べる、いのりんに聞いてみましょう♪あ、男共はあっちに行っててね」

 

 

「お、おっ……と………」

 

 

「「「そんな横暴な!?」」」

 

 

「ガールズトークの邪魔よ。ほれ、しっしっ」

 

 

 

確かに横暴ではあるが、このグループ内における彼らのヒエラルキーは低い。渋々ではあっても、退散するほかなかった。と言うよりも、ガールズトークに参加する勇気など彼らにありはしないのだ。この時ばかりは、揃いも揃って彼らはポンコツのヘタレである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男共を話の輪から追い出し、築島倫は早速いのりへと質問攻撃を浴びせる。

 

 

「ねぇねぇ、いのりん。実際問題、いのりんは桜満君のこと好きだよね?」

 

 

「………多分」

 

 

「ん?多分なの、そこは?ちょっと、浅葱。どうなってんの?」

 

 

「私に振らないでよ。ってか、何で私に振るのよ?」

 

 

浅葱の返しに倫は面白そうにニタニタとした表情に変わる。やはり、彼女は悪魔なのだろうか?

 

 

「え~~?だって、そりゃあ、ねぇ?浅葱は絶賛恋する乙女だもん。ね♪」

 

 

「は、はあぁああ!!?わ、わわ、私が!?い、意味分かんないんだけど!?」

 

 

明らかに動揺する浅葱に、さぞ面白そうに倫はクスクス笑う。この反応には、いのりも興味を持ったようで、一旦弁当の箸を置いている。どうやら、いのりも彼女らの話には興味があるようだ。

 

 

「……浅葱は古城の事、好きなの?」

 

 

「んなっ!?」

 

 

「ほら、浅葱。今日転校してきた、いのりんにもバレバレじゃない」

 

 

「浅葱の『好き』はどんな『好き』?」

 

 

「え……えと…あ……ぅーん、と………」

 

 

浅葱は、いのりの純粋な視線に耐え切れていない。いのりは若干天然な部分がある。さらにそれに加えて、その心を見透かすかの様な瞳には、大抵の人間は耐えられないだろう。浅葱も『電子の女帝』と呼ばれているとはいえ、中身は普通の年相応な、恋に悩める少女である。そんな浅葱が、いのりの目に耐えられはしなかった。

 

 

「はぁーー………なんだろう、この敗北感」

 

 

「うん、何となく浅葱の言いたい事は分かるわ。なるほどねぇ、桜満君もこれで落ちちゃったのかねぇ……」

 

 

「……?」

 

 

何かを悟った様に語る、少女2名にいのりは首を傾げる。自分が何もしていないのに、どうやら何かで勝ってしまった様である。それを理解していないのだ。

 

 

「はいはい、降参よ。私の『好き』っていうのは、そのままよ。男として、あいつの事が『好き』とか、その………け、けっこ…ん…ゴニョゴニョ………とかの『好き』よ。………どう?これで満足?」

 

 

「お、おぉ、あの浅葱が認めた。いのりん恐るべしね……………ま、それは分かり切ってたから、置いておくとして。で、こっちが本命なのよね♪で、実際問題、いのりんが桜満君の事を好きなのが、『多分』ってどういう事?」

 

 

「………よく分からないの。集の事は私も好き…だと思う。けど、浅葱みたいに、オドオドしたりはしないし、周りの女の子みたいにその……明るく、なれない?……うまく言えないけど、そんな感じ」

 

 

「オ、オドオドって………私、そんな風になってた?」

 

 

浅葱のは自分を指差し、少女2名に確認するが、いのりと倫はコクリと首肯した。浅葱本人は隠していたつもりであっても、存外バレているものなのだと、浅葱はガックリ肩を落とす。が、倫はそれを無視する形で話を進める。

 

 

「ふーーむ………なるほどねぇ。多分、いのりんと桜満君の距離って近過ぎるんじゃない?」

 

 

「……?距離が近過ぎる?」

 

 

「そうそう。えっと、ここで言う距離ってのは、心の距離ね。近過ぎて気持ちが分からなくなっちゃってるのよ。多分だけど」

 

 

「………?近くなると分からないの?近いのに?」

 

 

「う、うーーーーんと…………あ、ほら!例えば、本とかを目の近くに持って行きすぎると、ピンボケするでしょ?多分、いのりんと桜満君の心の距離がそれだけ近過ぎるのよ。えっと……浅葱、確か桜満君って、いのりんを血眼になって探してたよね?私も写真渡されて相談されてたし」

 

 

「ち、血眼って………うん、まぁ必死だったわよ。私もちょこっと手伝ってから、分かるけど」

 

 

浅葱の返答に倫は満足そうに、うんうんと頷く。そして、もう一度いのりへ向き直る。

 

 

「じゃあ、いのりんは如何だったのかな?実際に桜満君と再会した瞬間。どんな気分だった?」

 

 

「集と再会した時…?」

 

 

「あぁ、比較対象があった方がいいか。えーーと………例えばだけど、再会する為に会いに来たのが、桜満君の代理として来た、暁とかだったらどう思ってた?」

 

 

「集…じゃなくて、古城?………………………」

 

 

いのりは倫の言葉に真剣に考え始める。あの時――ナラクヴェーラの意識から救い出してくれたのが、集ではなく、古城であったなら。

 

 

「………………誰?って思うだけだったと、思う」

 

 

「「ぷっ、あははははは!」」

 

 

これには浅葱も倫も爆笑である。確かにそうであろう。初対面の古城が集の代わりに来たと言っても、そういった疑問しか抱けない。あの時、来てくれたのが集だったからこそ、いのりも救われたのだ。それ以外などあり得はしなかったのだろう。

 

 

「はー……あー、笑った笑った。ま、そうよね、そうの通りだわ。じゃあ、桜満君と再会してどう思った?」

 

 

その質問に対して、その時の事を思い出したのか、いのりの頬はやや紅潮する。それだけで浅葱と倫は色々と察っする事ができた。

 

 

「……集とは2度と会えないと思ってたから、だから………嬉しいっていうのを、通り越してたと思う」

 

 

「ふふ、じゃあ、それが正解なんじゃない?実際に桜満君と暮らしてるんだし、気心知れた仲なんでしょ?だったら、一回思いの丈をぶつけてみるのも良いんじゃない?多分、桜満君の性格上、そっちの方が喜んでくれると思うわよ?」

 

 

「……思いの丈を、ぶつける………」

 

 

「まぁ、手っ取り早い方法としては、桜満君に夜這いをかけなさい」

 

 

「ぶーー!!」

 

 

良い感じになっていたのに、全てをぶち壊す様な発言に浅葱は、口の中の紅茶を吹き出した。吹き出す瞬間に横を向いたので、いのりと倫にかからなかったのは僥倖だろう。

 

 

「げほっ、えほっ!!……お、お倫!あ、ああああんた、にゃ、にゃにを言ってんのよ!?」

 

 

「私は至って冷静よ?いのりんと桜満君の状況は、ズバリ倦怠期の夫婦によく見られる症状です!ということで、いのりん。襲っちゃいなよ♪男なんて、一枚皮を剥けば、ただの獣。あとは、天井のシミを数えてれば終わるから」

 

 

倫の発言はエロオヤジのそれであった。せっかくの空気をぶち壊しに掛かっている。当然浅葱は反論し、いのりは、なぜ天井のシミを数えるのだろう?と首を傾げるという何ともカオスな状況である。

 

 

それを遠巻きに弁当を突く少年たちはと言えば………

 

 

「「「………はぁ」」」

 

 

女性陣から追い出され、未だに若干意気消沈中であったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ちょっと待って」

 

 

昼食を食べ終え、教室への帰り道。いのりは携帯が鳴るのに気付き、ポケットから取り出す。画面を開き、メール画面へと移行したところで、彼女の顔に自然と笑みが浮かぶ。

 

 

「おやおや、いのりん。どうしたの?」

 

 

「子供たちからメールが来たの」

 

 

「むむむ……もう、お子さんをこさえておったとは……桜満君も見かけによらず――あだ!」

 

 

倫の脳天にチョップが叩き込まれ、頭頂部を押さえて振り返る。

 

 

「ちょっと、桜満くーん?女子に手を挙げるのはどうなのぉ?」

 

 

「そこはゴメン。けど、さっきの言動はマズイでしょ」

 

 

「はいはい。で、どんなメール?見せてもらっていい?」

 

 

いのりは快く画面を全員へと向ける。そこには、泥だらけの顔で、馬鈴薯(ばれいしょ)を嬉しそうに持った子供たちが映っていた。

 

 

「あ、もしかして、この前いのりさんが話してた南アジアの子?」

 

 

浅葱の問いに、いのりはコクリと頷く。いのりは画面の中の一人一人を指差しながら紹介していく。

 

 

「この子がジャノ、一番年下の子。その隣の女の子がマルカ。私にいろいろと教えてくれて一番助けられた。ニット帽を被っているのがモーリス。結構しっかりしてる子だった。コッチの金髪の子がエリーネ。私の歌を多分一番気に入ってくれてた」

 

 

いのりが紹介したのは、南アジア地域で彼女を保護していた孤児たちだ。ナラクヴェーラの一件の後、エコーやヨナと軽く話をして、別れを告げた。2人は取り敢えず1年はココ・へクマティアルに付いて、世界を回るらしい。

 

 

救出された本人が責任を感じるからという理由で、いのりには知らされていないが、いのり救出の代価がそれだったのだ。では、南アジア地域の孤児たちはどうなるのか?其方は流石というか、抜け目のないココ・ヘクマティアルである。彼女の所属している会社、HCLIが慈善事業の一環として、当該地域に学校を建設するらしい。

 

 

既にスタッフが先行して派遣されており、そちらに孤児たちの面倒を一任するそうだ。それの影響を受けて生活インフラ、通信、衛生環境などを改めて見直し、改善する様に動いているらしく、あの村はこれから発展する様である。メールが出来る様になったのも、それによる恩恵である。

 

 

いのりの現在の立場としては、気軽に島外に出ることは出来ないので、大変にありがたいことであった。さらに、何時になるかは分からないが、今度は集を連れて遊びに行くと約束もしているらしい。

 

 

「へぇ、楪が世話になってたっていう孤児たちか。ははっ、全員俺たちよりも元気そうだな」

 

 

「いやぁ、本当だな。コッチと違ってストレスフリーなんだろうなぁ。……かー、羨ましいぜ。コッチはイロイロと胃に穴が開きそうだってのに」

 

 

「ぷっ、基樹。あんたオッさん臭いわよ?その内、胃に穴どころか、髪が抜け落ちるんじゃない?」

 

 

「ちょっとおぉおお!そういう事言うのはやめてくんね!?」

 

 

「ああ、けどなんか分かるわ。矢瀬は禿げそうよね」

 

 

「ぐ……ぜ、ぜってーに禿げねぇ……」

 

 

基樹はそう言うが、どこか自信なさげであった。どこか思い当たる節でもあるのだろう。実際に絃神島の紫外線は強いので、ケアを怠れば悲しい未来が待っている。

 

 

「そう言えば、僕ってなんだかエコーさんに、ひどい事言われた気がしたんだよな……何でなんだろ?」

 

 

「私がエコーに告白?みたいな事された、から?」

 

 

「「「「「…………えぇえええぇぇえええ!!?」」」」」

 

 

誰しもが寝耳に水であった。いのりは自分が爆弾を投下したのを気付いていないのか、首を傾げている。

 

 

「断ったけど」

 

 

「「「「「………………」」」」」

 

 

つまりは、こういう事だろう。エコーはいのりに告白紛いの事をしていた。だが、断られた。そんな、いのりに思われている集に少なからず思うところがあったのだろう。それで、集にああいった事を言ったのだ。

 

 

「………ま、まぁ、よ、良かったじゃない、桜満君?イロイロと」

 

 

「………まぁ、そう、だね……」

 

 

結局いのりは最後まで訳が分からないといった様子で首を傾げたままだった。

 

 

 

 






はい、こんな感じでした。


いのりの気持ちに関しては、本文で書いた通りですね。若干揺れております。けど、それは距離が近すぎる故であって、決していのりの気持ちの根底が変化している訳ではありません。


さて、ひとつ前の章で登場したヨナやエコーはああいった感じです。子供たちもあんな風に幸せに暮らしております。むしろ、生活がこれからよくなる事でしょう!(別に描くのを忘れてたわけでは、ありませんよ?)


ではでは、また次回!

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