Blood&Guilty   作:メラニン

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さて、今回はようやっと、いのりが転校してくる話です。


何で二週間の間に転校していなかったのかも書いています。


では、どうぞ!


天使炎上編II

絃神島は慢性的に土地が足りていない。その余波の所為で、絃神島の教育機関もさほど多くはない。各区画に平均して1~2程度しか教育機関が存在しないのだ。当然、そうなると先日救出された、楪いのりが通う学校というのは必然的に、桜満集の通う私立彩海学園の高等部という事になる。

 

 

余談であるが、いのりの結晶化の力は今現在も使用することができ、ナラクヴェーラの『元素変換』は使えないが、『魔力変換』は相変わらず機能することが出来ていた。と言っても、彼女自身の感情が能力のキーになっているようで、その規模も感情次第という事が、深森による検証で明らかになった。とにもかくにも、相変わらず能力は安定していないので、集といのりを離して別の学校へと行かせるなど論外なのだ。そんな事をしたら、絃神島全体が先日の人工増設島(サブフロート)の二の舞になりかねない。

 

 

さて、今朝のいのり二度寝事件から少し経ち、彼らは登校中である。通学路を歩くのは白いパーカーのフードを被った暁古城、ギターケースを背負った姫柊雪菜である。それに並ぶ様にして桜満集と、真新しい制服に身を包んだ、楪いのりが歩いている。

 

 

因みに、古城の妹である暁凪沙はチア部の朝練でここには居ない。

 

 

そして、いのりは今日から登校する事になったのだ。ナラクヴェーラの一件から2週間ほどが経過し、その間集の通院に合わせて、彼女も通院していたのだ。彼らの体調管理は「ひゅーねる」が行っており、各種バイタルデータはMARに送られ、適切な治療を受けている。

 

 

「………それにしても、やっぱり視線を集めますね」

 

 

「ん?どうした、姫柊?」

 

 

「はぁ………先輩は気付いてないんですか?いのりさんの事です」

 

 

そう言われてもな、と古城は頬を掻く。

 

 

雪菜が言っているのは、いのりへ集まる視線の事である。珍しい髪色もそうだが、何より彼女自身の美貌に目を奪われる男共が大半である。だが当のいのり本人は、どこ吹く風といった様子で大して気にも留めていないようだ。

 

 

「あの、いのりさん、大丈夫ですか?」

 

 

「何が?」

 

 

「何がって……その、周りの視線です。転校初日だからなのかもしれませんけど、いのりさんは先日回復したばかりなんですし……」

 

 

雪菜の心配に、いのりはフルフルと首を横に振る。

 

 

「私は平気。人の目には慣れてるから」

 

 

「そ、そうですか」

 

 

「まぁ、楪が言うなら平気だろ。それよりも、桜満はどうしたんだよ?元気が無えみたいだけど」

 

 

「……え、あぁ、うん。ちょっと、ね」

 

 

集の方は疲労の色が濃く出ていた。まぁ、ほぼ毎朝アレなのだ。仕方が無いだろう。

 

 

「おーっす、集!なんだなんだ、元気が無えじゃねえかよ。いのりちゃん探してる時よりも疲れた顔してんじゃねえのか?」

 

 

集は背後から腕を首に回される様にして、矢瀬基樹から襲撃を受ける。だが、集としても反撃する気力など無い。今朝己の本能を封じ込めるのに使い切ったにも等しいのだ。

 

 

「………あぁ、基樹、おはよう」

 

 

「………本当に元気ねえな。そんなんで今日から大丈夫か?」

 

 

「まぁ多分、大丈夫」

 

 

「ま、恋人との再会が嬉しいのは分かるが、夜の営みも程々にな」

 

 

「へ?」

 

「は?」

 

「ん?」

 

「え?」

 

「んん?」

 

 

その場にいた全員が疑問の声を上げる。そして、次に訪れたのは沈黙だ。全員が閉口し数秒、まずは基樹が喋り始める。

 

 

「えーーと?……桜満が疲れてんのは、いのりちゃんとヨロシクやってたからなんじゃ?」

 

 

「は、はあぁぁああ!!?」

 

 

天下の往来で、集は人目も憚らず絶叫した。まさか、そんな風に思われていたとは、考えてもいなかったのだ。この発言には、いのりの顔も赤くならざるをえない。そして、集には非難の視線が殺到する。おそらく、今の基樹の発言が聞こえていた男子生徒のものなのだろう。事実、彼らの横を通り過ぎていく何名かは小さく舌打ちをしていた。

 

 

「そ、そんな訳ないだろ!!?な、何でそういう事になるんだよ!?」

 

 

「いや、だってようやく再会した男女がする事なんて……なぁ、古城?」

 

 

「そこで、俺に振るのか!?」

 

 

「……………いやらしい」

 

 

「俺か!?今ので非難を受けるのが俺なのか!?」

 

 

急に話を振られた古城は狼狽し、その様子を見て雪菜は絶対零度の視線を向ける。基樹としても、まさかここまで思い通りにからかえると思っていなかったので、彼からしたら大成功である。

 

 

内心大爆笑する彼に誰か天罰を下してはくれないだろうか、と集と古城が思った時に、それは起こった。彼の頭を教科書、ノートPC、資料等々が入った、割と重目のスクールバッグが彼の後頭部の中心に綺麗にジャストミートしたではないか。まさに、これぞ天の采配と、集と古城はそれを行った人物へと視線を向ける。

 

 

「いったぁ!!」

 

 

「ちょっと、基樹。あんたこんな往来で何て下世話なこと言ってんのよ。………おはよう、いのりさん。はぁ、ごめんね、このバカが朝っぱらから頭が残念で」

 

 

「……少し驚いただけ。問題ないわ」

 

 

現れたのは染めた金髪を後ろ1つにシュシュで留めた少女、藍羽浅葱であった。基樹は一撃を喰らった後頭部を摩りつつ、浅葱へと振り返る。

 

 

「~~っ!ってぇな、浅葱!………うわ、これタンコブになってんじゃねえか!」

 

 

「丁度いいじゃない。そのコブの中に、アンタのクダラナイ思考を詰め込んで切除して貰いなさいよ」

 

 

「お、お前、その言い草――」

 

 

「それよりも!桜満君!?」

 

 

「は、はい!」

 

 

浅葱の剣幕に集はやや押され気味である。元来押しが強いどころか、周囲に流され易い性質なのだ。それが気の強い浅葱にこの様に強く出られたら、集としては一歩引くしかない。

 

 

「いのりさんを、このバカから守らないでどうするの!しっかりしなさい!」

 

 

「は、はいぃ!」

 

 

「………浅葱、機嫌悪い?」

 

 

「べ、別に、そういう訳じゃ――」

 

 

『お、流石はいのり嬢ちゃんだ。分かるかい?けけっ』

 

 

聞き慣れた合成音声が流れ、浅葱は己のスマホを取り出す。

 

 

「モ、モグワイ!余計なこと言わなくていいの!」

 

 

『ははは、昨晩何回も電話したのに、そっちの奴が電話に出ないもんだから――』

 

 

浅葱はスマホのカバーを外すと、電池を取り外し強制終了させた。なまじ優秀であるが故に、あの人工知能は電源をオフにしても勝手に起動してしまうのだ。それをさせない為には、元から断つしかない、という訳である。

 

 

「………あー、なんかスマンな、浅葱。実は昨日の夜は、煌坂の奴がずっと電話で話をしてきててよ」

 

 

「………ふーん、煌坂さんって確か姫柊さんの前の学校の寮でのルームメイトだっけ?」

 

 

「あ、はい、そうです」

 

 

「………夜遅くに長電話なんて、随分仲良くなったじゃない、古城?」

 

 

「勘弁してくれ、俺だってそれが原因で寝不足なんだ。しかも、話す内容と言ったら、大抵はどうでもいい事ばかり……っと、やべ!そういや、時間!」

 

 

「何よ、まだ登校時刻までは余裕じゃない」

 

 

「あー、その、屋上庭園にあった那月ちゃんのハーブのプランターをこの前ひっくり返しちまって……」

 

 

「……あっそ。精々肉体労働してきなさいよ」

 

 

「ああ。という訳ですまん、俺は先に行くな」

 

 

それだけ言うと古城は颯爽と駆けていった。古城の言っていたハーブのプランターとは、2週間前に古城が屋上にて眷獣を暴走させたのが原因でひっくり返してしまったものである。事件が収束後、屋上庭園の様子を見た、那月の様子を是非とも想像して欲しい。

 

 

丹精込めて育てていた(東條に育てさせていた)自家製のハーブが全て台無しになっていたのだ。彼女の性格を少しでも理解しているのならば、そのあとは分かるだろう。故に、ここでそのあと那月が取った行動は詳しくは記載しないでおくとしよう。少し語るならば、ことの発端である教え子に、今まで溜まっていた鬱憤を晴らすがごとく行動した、とだけ言っておくとしよう。

 

 

 

 

「では、私は中等部へ行きますので。先輩方、失礼します」

 

 

「あ、あぁ、うん。またね、姫柊さん」

 

 

「はい、ではまた」

 

 

なんやかんやと話している内に、学園に到着し、雪菜は中等部へと向かった。その後、集はいのりを職員室へと案内し、無事那月の元へと送り届けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、集がいのりを職員室へと送り届け、教室へ戻った途端にクラスメイト達に取り囲まれた。原因は言わずもがな、今朝通学路の中心で起こったことが原因である。

 

 

「お、桜満!お、お前、彼女いるって本当か!?」

「桜満君!朝、一緒に登校してたのは誰!?」

「すごい可愛い子だったよね!?」

「この裏切りモンがあぁぁ!」

「お前、あんな子が居ながら彼女無しとか言ってたのか!?嫌味か!?嫌味なのか!?」

「内心で俺たちのこと笑ってたんだろ!そうなんだろ!?」

 

 

………酷い誹謗中傷も飛ぶなか、取り敢えず集は彼らを落ち着かせた。一応、本当に正式に付き合っている訳ではない事、元々同じ研究所にいた、自分と同様の被験体である事などを語った。事前にいのりと示し合わせておいた事だ。おそらく、問題は無いだろう。

 

 

そうしていると、始業を報せるチャイムが鳴り、今日も小柄な彼らの担任教師が扉を開け入ってくる。その後ろには、淡い桜髪の少女がくっ付いて来ており、全員が全員其方へと目を奪われていた。

 

 

「さて、今日からもう1人転校生が増える。楪いのりだ。席は……桜満の隣に新しく席を持ってきている。そちらへ座れ」

 

 

大した自己紹介もなく、いのりを座らせようとする那月に対して、生徒達は不満を飛ばす。那月としては、ある事態を危惧して、質問などさせたくは無いのだが、それでも仕方が無いと判断したのだろう。諦めた様に口を開く。

 

 

「はぁ……あまり時間もない。2つ3つで我慢しろよ?」

 

 

「じゃあ、はいはーい!楪さん……うーーん、いのりんでいい?」

 

 

「……呼び方は好きなのでいいわ」

 

 

早速、耳敏い築島倫が質問をする。その事に集は冷や汗を流す。彼女は非常に勘が鋭いのだ。自分の嘘も若干見抜かれている節があるため、油断はできない。一応事前に、いのりとは倫から自分がされた質問を元に、何が来るのかを予測、シュミレートして練習してあるとはいえ、やはり不安になってしまうのだ。

 

 

「いのりんって桜満君と付き合ってんの?」

 

 

「………は」

 

 

集の口からは、ついつい声が漏れた。彼女の事である。どんな変化球な質問が来るか分からない。そう考え、何パターンものケースを考えていたのだが、まさかのど直球ストライクゾーンど真ん中であった。そして、フリーズしたいのりの視線は、一瞬集へと注がれる。人間、予期せぬ事態が起こって混乱すると、自然な行動が出てしまうものである。それを、倫は目敏く見抜いたのだ。

 

 

「なるほど、なるほど。2人は付き合ってる、と。いやぁ、やっぱ本人に聞くのが一番ね♪」

 

 

集の目には彼女が悪魔にしか見えなかった。実際に、ゲッゲッゲと邪悪な笑い声を響かせる彼女を悪魔と感じず、何と感じればいいのだ。とにもかくにも、集といのりが必死に(主に集だけだったが)考えた対質問用の城塞は脆くも一撃で崩れ去ったのだ。そんな無防備状態である、いのりへと質問という名の攻撃は続く。

 

 

「あ、そうだ。もう1つ質問!いのりんって何処に住んでんの?……あ、やっぱ今の無し。桜満君と一緒に住んでんの?」

 

 

「……あ、ぅ」

 

 

………先ほどから、悪意しか感じなかった。集は大方の見当を付け、自らの隣の席の悪友を見る。彼は視線に気付き、サムズアップしてウィンクしていた。満面の笑みで。……その爽やかな笑顔は、今の集にとってウザいという以外の何者でもなかった。

 

 

「もういいだろう。質問はそこまでだ。では、楪いのりは桜満集の隣だ。さて、出席を――ん?暁古城はどうした?」

 

 

「セーフ!!」

 

 

いのりが席へ逃げる様に向かう中、扉が大きく開き、顔や手に土が付着した古城が飛び込んできた。

 

 

「………暁古城、何だその汚い格好は?まぁ、いい。貴様は遅刻だ」

 

 

「おぉぉぉい!屋上のハーブを直せって言われたから――」

 

 

「だったら、時間内に作業を終わらせろ!貴様は遅刻だ!………今から貴様の追加課題を考えるのが楽しみだなぁ?」

 

 

「………勘弁してくれ」

 

 

渦中の的であった、集といのりは古城に感謝しつつ、教科書を取り出す。彼らは、古城という尊い犠牲のおかげで追及を逃れたのだった。

 

 

 

 

 





うん、まぁ・・・


築島は平気であーいう質問をするでしょうね。(多分)


これで、クラス内に色々と2人の事実が露見しましたねw


頑張れ、集!

さて、では質問コーナー!

今回は「今更同居であんな風になるか?というのと、『監視』を続ける必要があるのか?」といった要旨の質問でした。ご質問ありがとうございます!

まず、前者に関してなのですが、集といのりの2人は確かに一時同居してましたが、あの時はいのりの目的は同居ではなく人探しや護衛でした。つまり、何の目的などなしに同居していた事って無いはずなんですよね。まぁ、それは建前で、筆者がテンパる集を描きたかっただけです。はい。


では、後者についてですが……

『監視』はどうしても必要です。何故かと言いますと、集の生活費等々は人工管理島公社から出ています。なので、そこから依頼されている『監視』、『協力』、『制御』をやらないと給料が入らないんです。まぁ、生活を人質に取られてると思っていただければ。


ではでは、また次回!

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