あけましておめでとうございます!!
本年も本作をよろしくお願いいたします!!
さて、今話から天使炎上編スタートです!
(・・・と言っても、少しの間は集といのりの日常パートなんですけどね)
では、どうぞ!
天使炎上編I
絃神島は常夏の島である。それは、9月が終わり掛ける――つまり、本土においては夏が終わり掛ける時期であっても、それは変わらない。気温と湿度は高水準を保ち、不快指数は天井知らずで上がっていく勢いである。
まぁ、それでも熱帯夜が減ったのは救いだろう。朝の早い時間であれば、風が吹けば若干の涼は得られる。朝の早い時間に起きて、窓を開ければ爽やかな潮の香りが漂い、朝日が目を刺激する。
さて、そんな爽やかな朝であるにも関わらず、アイランド・サウスのマンション703号室に在住する桜満集の表情はドンヨリと曇っていた。窓を開けてベランダへ出て、もはや日課となった隣部屋の様子を伺う。断じて盗聴などではなく、あくまで『監視』である。
「はぁ゛~~~~~~~~………………」
だが、最近はその『監視』にも身が入らない。原因は当然というか、なんと言うか…………
「……ふ…ぁ……………集、おはよう」
「ああ、うん。おはよう、いの――りっ!!?」
集はベランダに立ち、背後から挨拶をしてきた、楪いのりへと挨拶を返す。が、振り返った事を、後悔――はしないが、むしろオイシイ思いをしている筈であるのだが、集は居た堪れなくなる。
と言うのも、問題は彼女の格好なのだ。上から集の余っていたワイシャツを羽織り、その下裾からは彼女の白い足がスラリと伸びている。つまり、履いていないのだ。――いや、少し語弊がある。下着は履いているが、それ以外は何も身に付けていない。俗にいう裸ワイシャツ状態である。故に、ワイシャツの隙間から彼女が動く度に覗く白い布というのが、集の精神衛生上よろしくない。また、ブラなども身に付けていない為か、朝日に白いシャツが透けそうになり、慌やその双丘が見えそうになる。が、肝心のところは見えず、むしろ裸の方よりも刺激が強いかもしれない。
どうにも、彼女は黒死皇派に捕まっている間、夜型の生活がメインだったらしく、恐ろしいほど朝に弱くなっていた。
それが原因で、朝は彼女の判断能力が鈍っているらしく、こういった無防備な姿を晒す様になったのだ。
それを果たして喜んで良いものか、どうか………
集が素直に喜べないのは、彼がヘタレ故なのだろう。だが、彼の事を少し褒め称えてあげて欲しい。この状態が既に2週間は経過しているのだ。では、なぜこうなっているのかを知る為に、時計の針を巻き戻すとしよう。
◇
「「「「ど、同居ーーー!!?」」」」
MARの所有する総合病院の一室にて、男女の驚愕の声が上がっていた。その原因は、今しがた現れた黒いゴスロリ服の小柄な女性が口にした言葉が原因だった。当の元凶である彼女は、彼らの大声が不快だったのだろう。表情を歪めて、手に持っていた封筒で、古城の頭を打つ。
「いったぁ!!」
「やかましいぞ、貴様ら。ここは病室だ。マナーを弁えろ。あぁ、あとそうだ。楪いのりには後で此方の書類に必要事項を書いてもらうぞ」
「い、いやいや!確かに楪と桜満は、その…なんだ…………同じトコ出身なんだろうけども、高校生の男女が同居って……」
「仕方ないだろう。詳しい説明はコイツがする。入ってこい」
そう言うと、那月は病室のドアを開けて、ソレを招き入れる。彼らの視線はドア――の下の方へと注がれた。
「ふゅーねる!?」
まず、声を上げたのは集だ。いのりも素直に驚いている。彼らの世界で、行動を共にしていた『オートインセクト』と呼ばれるロボットと瓜二つだったのだ。アーム部分が重厚になっていたり、集たちの知る、ふゅーねるよりも一回り大きいなどの相違点はあるが、それを除けばほぼ全く同じだろう。そして、頭部分がスライドし、液晶画面が現れる。
『ぶっぶー!惜しいね、集君。残念ながらこれは「ふゅーねる」ではなくて、いのりちゃん専用、医療用サポートケアオートマトン「ひゅーねる」クンMk.28なのだ♪患者のバイタルデータに対応した各種薬の配合から、栄養管理、健康維持システム、肩叩き機能、防水、防磁、防砂、対ハッキング、痴漢撃退用各種装備etc…そしてそれらを使いこなす、簡易タイプだけど人工知能も搭載!まぁ、元々は一般用に作ってたものを改良しちゃった♪』
聞けば聞くだけ、無駄に機能が多い機械である。集といのりの第一印象はそういった感じだった。
「………残りの27機は?」
それを集が聞けば、画面の中にいる暁深森はワザとらしく泣き真似をする。それにより、深森の頭が動いたことで画面奥に何やら機械の残骸と思しきものが散らばっていた。
『………科学という物には、犠牲はつきものなのだよ、集君。試作型「ひゅーねる」クンMk.1~Mk.27の犠牲を踏み越えて、私はMk.28を完成させたのよ…私は彼らの事は忘れない!……シクシク』
「………深森、話は?」
何時までも進まないことに終止符を打つ様に、いのりが画面に向かって話しかける。すると、深森は泣き真似を止め、話し始める。
『っと、そうだったそうだった。集君、いのりちゃんを診察したんだけど、心身共に健康そのものよ。だけど、少しばかり異能の後遺症が出てるの』
「後遺症…ですか?」
『そうよ。今は君が側にいるから、君との感応によって、いのりちゃんのゲノムレゾナンスも安定してるわ。だけど、あまり離れすぎると、結晶化が暴走する危険性があるのよ。例えば……あたり一面を、生物、無生物に関係なく結晶化しちゃうとか、ね』
深森の言葉に集は寒気が走る。深森の『あたり一面を、生物、無生物に関係なく結晶化』――この言葉で、涯が見せた『淘汰の終着点』を思い出したのだ。あれは
『まぁ、と言っても、この絃神島の端から端くらいなら離れても平気なんだけどねー』
「なら、何で同居なんて話が出てくるんですか!?」
『それは、ほら。ご近所さんが増えると、楽しいじゃない?別にあなた達との間に、新しく増やしちゃってもいいのよ?一応、「ひゅーねる」Mk.28にはそういった事を補助する薬品も作れるから。避妊薬とか、逆に妊娠促成剤みたいなのとか、他にも媚薬とか』
「ちょ…!?」
深森は画面の向こうで大層面白そうにニヤニヤ笑っている。集はこの時ほど人を殴りたいと思った事は無いかもしれない。意味を察したのか、いのりの方は珍しく顔を少し赤くしている。彼らの周囲にいる人間も苦笑いである。
『ま、それは冗談として。何やかんや、距離が近ければ近いほどゲノムレゾナンスが安定するのは事実よ。だから、暴走を抑える意味でも、同居という選択肢が最善なのよ。あ、でも、一番の最善策はあなた達の距離をゼロにするくらい密着して、もう1人くらい増――』
◇
といった、深森の若干迷惑とも取れる下世話な話もあったのだが、とにかく2人は近くに居なければならない、という事で同居という事に相成ったのである。
それが2週間前の話であり、その翌日には集も退院し、通院しつつ自宅療養という事になった。そして、その日から集といのりの同棲生活がスタートしたのだ。話だけ聞けば新婚夫婦の同居にも取れなくはないが、当然2人とも互いが互いを意識してしまいギクシャクしていた。だが暁兄妹や、雪菜たち隣人の協力もあって何とか落ち着いた方なのだ。それでもやはり、朝のコレだけは、集にとっては心臓に悪かった。
「い、いのり?その……服を…」
「………」
集は手を顔に当て、いのりを注意しようとするが、返事が無い。指の隙間を開けて、様子を伺うと彼女は、ソファにダイブしており絶賛二度寝に突入中であった。集は溜息を1つ吐くと、いのりの肩を揺する。
「いのり。いのりさーん…」
「ん……ぅん……」
「いの――っ!」
いのりがソファの上で寝返りを打ち、着衣が乱れる。いや、既に乱れていたのかもしれないが、より一層乱れたのだ。ワイシャツは先ほどよりも大きく肌蹴て、ソファと彼女の身体に挟まれて、ワイシャツが引っ張られ、やや大きくズレる。今にも、ワイシャツの前部分から見えてはイケナイものが見えそうなほどに。
集は鼻の奥がツンとし急いで鼻頭を押さえ上を向く。こんなところで鼻から赤い液体を出そうものなら、お隣の世界最強の吸血鬼と同じになってしまう。何とかそれは避けられたが、それでも彼の中では本能と理性が激しくぶつかり合っていた。彼の中では今まさに、彼自身の将来を決めかねない戦争が起こっているのだ。
逡巡する事数十秒。集のとった行動は――
寝ている彼女に毛布を掛けただけであった。
………まごう事なきヘタレである。しかし、彼もこんな事で、いのりを傷つけたくはないし、そんな下らない理由で彼女を穢す事など出来はしない。
と、思っているのだろう。(多分)
だから、ソファの陰から顔を出し、何やらそのボディから注射器やらメスやらを出して、目の部分を赤く光らせている「ひゅーねる」に対して恐れを抱く必要は無いはずである。多分……
とにもかくにも、集は頭を冷やすために洗面台へと向かうのであった。
ってな感じで、新年一発目でした!!
リアルでは新年がスタート!そして、本作では集といのりの新生活がスタート!www
まぁ、同居は如何なもんかとも思ったのですが、こうしてしまいました。
さて、いつも通り(?)質問コーナー。
まぁ、今回は質問と言うよりご指摘だったんですが。「寒川谷尋のヴォイドって『命を断ち切るハサミ』じゃないの?」といったご指摘でした。
はい、これに関してはその通りです。筆者の完璧な勘違いのままでした。ご指摘してくださった方には感謝です。ただ、これに関しては、ウイルスの変異に合わせて、ヴォイドが変異したという設定にしてしまいました。
穴だらけの設定なんですが、どうかご容赦をば・・・・・・
ではでは、最後に本年もよろしくお願いいたします。