Blood&Guilty   作:メラニン

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まぁ、諸注意としまして・・・


えー・・・・・・今までお付き合い頂いてきた読者諸兄の皆様はお分かりかと思いますが、本作は作者の妄想の産物でございます。


その辺は、平にご容赦を・・・


では、どうぞ!



戦王の使者編XVIII

クリストフ・ガルドシュは何が起こったのか分からなかった。突如として、自分の視界が塞がれたのだ。現在はテロリストなどと呼ばれてはいるが、彼も軍人である。そんな軍人にとって、敵を視認するための視界が奪われたのは、かなりの痛手だった。油断はなかった。それでも、こういった事を仕出かすあたり、流石はもう一枚の『ジョーカー』なのだろう。どうやって、これを起こしているのか分かったものではない。

 

 

だが、これはあくまで、視界を遮るだけの物であって、どうやら嗅覚や聴覚までは奪えないらしい。実際に自分のすぐ近くに、かの少年がいる事が分かる。それを頼りに足を踏み出そうとするが、再び誰かが己の前に立ったようだ。その匂いにも覚えがあった。世界最強と謳われる吸血鬼、第四真祖のものだ。

 

 

「悪いな、オッさん。少し大人しくしててもらうぜ?」

 

 

「クハハハ!何をしようとも無駄だ。歌姫(ディーヴァ)の意識は、『女王(マレカ)』と一体になったのだ!今更助けることなど出来んよ」

 

 

「それはどうかな?」

 

 

「その声、『空隙の魔女』か。ナラクヴェーラの相手はしなくていいのか?」

 

 

「ああ、粗方私の『戒めの鎖(レージング)』で縛ってある。残り物は獅子王の、小娘2人が対応している」

 

 

「ち…だが、状況は好転しないだろう。貴様らは歌姫(ディーヴァ)を救うことは出来ない。あれのインプットには呪術回路を使用してある。そんじょそこらの攻魔師には解除不可能だ。『空隙の魔女』、たとえ貴様であってもな」

 

 

「本当にそう思うか?」

 

 

「………なに?」

 

 

那月は不敵に、ふふんと笑う。その自信有り気な笑い声には、流石のガルドシュも焦りが見えた。那月は自分の魔力の残滓が、彼女の中で胎動するのが分かったのだ。それは、古城も同様だった。だからこそ、この二人は信じているのだ。集が必ずやってくれる、と。

 

 

「私の生徒は、そんなヤワじゃないさ。伊達に馬鹿どもが勝手に付けた名ではあるが……『ジョーカー』と呼ばれるだけはある。まぁ、おそらく意図せず、私とこの暁古城が力を貸したんだろうがな……どれ、自分の目で確かめてみるか?」

 

 

そう言うと、那月は地面に転がり、ガルドシュの視界を奪っていた『黒い光を放つマグライト』を蹴転がすと、ガルドシュの視界も晴れる。そして、ガルドシュが見たのは、溢れ出す銀の光の帯の渦の中心にいる、2人の少年少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い意識の世界で、集は黒い泥に飲み込まれていく、いのりを救い出すために必死に足掻いていた。彼女の足元からヌルリと這い上がってくるそれは、いのりを呑み込もうとする。おそらく、これがナラクヴェーラの『女王(マレカ)』の意識なのだろう。

 

 

集は手で必死に泥を下へと追いやっていくが、泥の侵食スピードの方が早い。既に泥の中に半身が呑み込まれている様な状態だ。それでも、集は必死だった。

 

 

「集!早く……早く、私の意識を殺し――」

 

 

「言うな!!!」

 

 

集の今まで聞いた事のない様な、怒りの声にいのりは身を竦ませる。こんな集の姿を見るのは、彼女にとって初めてなのだ。それだけ、集は本気だということだ。本気で未だに、いのりを救おうと諦めていないのだ。

 

 

だが、いのりは涙を流しながら、集に懇願する。

 

 

「……お願い、集……!私を…殺して……」

 

 

「イヤだ!僕は諦めない!必ず、いのりを――」

 

 

「いい加減にして!!」

 

 

次は、いのりが大声を上げる。こんな風に、普段静かだったいのりが、声を張り上げるのは初めてかもしれない。その声に集も驚き、彼女の顔を見る。彼女の表情は涙を流しながら歪んでいた。

 

 

「………私に…集を殺させないで……!………私は集が居なくなった世界なんてイヤ!!私が、集を殺すなんてイヤ!!!」

 

 

いのりは、ほとんど絶叫にも近い、悲鳴の様な声を上げる。彼女がここまで感情を露わにするのも、稀なことである。それだけ、必死なのだ。自分の大切な存在を、文字通り命を捨ててでも、守りたいのだ。だが、それはいのりだけではない。

 

 

集はそれでも必死に、いのりを呑み込もうとする泥を掻き分け、殴り、叩き、侵食を阻止しようとする。

 

 

「なんで……何で、集!?……私は――」

 

 

「うるさい!!」

 

 

集は再び声を張り上げる。いのりをこんな風に怒鳴るのは、彼にとっても初めての事だ。

 

 

「いのりは、何でそんなに死にたがるんだ!!いのりは、それでいいのか!?それが本当の君の望みなのか!?僕は、君と一緒に居たい!もう君と離れたくなんてない!!」

 

 

「わ、私は……私は……!……わた…し…って……………私だって、集と一緒にいたい!集と一緒に生きたい!!集と一緒に歩きたい!!!でも…!でも、集を殺したくなんかない!!もう分からないの!!自分が本当はどうしたいのかも!本当にこれで合っているのかも!!こんな風に思うことが正しいのかも!!本当に……本当に……全部、分からない……」

 

 

遂に、いのりは感情が爆発したかの様に叫んだ。顔を手で覆い、その指の隙間からは止め処なく涙を流しながら感情を吐露していく。彼女も必死なのだ。集を守るために。だが、それでも集と共にいたいという感情もまた、真実であり、嘘偽りはない。そのせめぎ合いに、いのり自身がもう何が何だか分からなくなってしまったのだ。彼女自身が言った様に、どうする事が今は正しいのか分からないのだ。

 

 

だが、そんないのりに、集は微笑み掛ける。

 

 

「……それでいいんだ、いのり」

 

 

「……え?」

 

 

「僕も君と一緒の世界を生きていきたい。君と離れるなんてしたくない。だったら、最後まで足掻いてみよう……前の世界の時みたいに、1人で全部背負い込んで、勝手に消えるなんてしないでさ。僕らはずっと、一緒に居よう」

 

 

「……集。………でも、このままじゃ――」

 

 

いのりが、言い掛けたところで、いのりの半身を呑み込んでいた泥がチャンスだと言わんばかりに、一気に襲いかかった。集もいのりの説得に意識が向いていたのは失態だった。みるみる、いのりは泥に覆われ、泥の池へと沈んでいく。恐らく、この世界からいのりの身体へと戻り乗っ取るつもりなのだろう。そうなってしまっては、もう対抗する手段が無くなってしまう。

 

 

「しゅ………ぅ…」

 

 

「いのり!いのり!!くっ……こんなも…のっ!!」

 

 

いのりが集へと伸ばした手すら泥はスッポリと吞み込み、下へと――この世界の外へと沈めていく。集は必死にそこを掻き分けようと、爪を立てるが、ビクともせず泥の池へといのりは完璧に沈んでしまった。それでも、集は諦めない。諦めるという選択はできないし、もうしたくなど無いのだ。一か月以上前と同じことなど、繰り返したくはない。足掻いて足掻いて足掻き続ける。それが今の桜満集なのだ。だが、彼だけではどうにもならない。何如せん、いのりを引っ張り上げる方法など、彼は持っていないのだ。

 

 

「くそっ!…くそっ!………僕は……僕は!まだ、諦めてなんかいない!!」

 

 

そう、彼は諦めてなどいない。だが、彼自身はいのりを救い出す方法を今は持っていないのだ。彼だけでは、いのりは救えない。そう、彼だけならば……

 

 

次の瞬間、集は泥の池から弾き飛ばされ尻餅をついた。何かが彼を押し退け、泥の池へと飛び込んだのだ。

 

 

「つっ!……え?な、何で、これが…?」

 

 

集は泥の池の中へと伸びるソレに心底驚いた様に目を見開く。泥の池から伸びていたのは、黒い重々しい雰囲気を纏った鎖だった。集はソレに見覚えがあった。今彼が見ているのは、彼の小柄な担任教師が使う『戒めの鎖(レージング)』だったのだ。それが泥の池の中へと伸びている。なぜ、この世界にコレが有るのかなど、分からない。だが、今はこの状況を使わない手はない。それに、何処からか早く引っ張れと小煩い説教が聞こえる様にも思えた。

 

 

そうである事を信じ、集は鎖を力強く握り、泥の池とは反対方向へと一気に引っ張り上げる。非常に重く、通常の人間であれば引っ張り上げる事も不可能であろう引力に抗いながら、集は鎖を引く。そして、遂に泥の池から、いのりを引っ張り出したのだ。

 

 

「いのり!――っ!やっぱり、まだ諦めてないのか!?」

 

 

集は忌々しそうに、未だにいのりを取り込もうとする泥を睨む。何とか泥の池から、いのりを引き摺り出したとはいえ、未だに未練がましくそれらは、いのりの身体のアチコチに付着しており、そこを起点に再び呑み込もうとするが、それを許さないと言わんばかりに、今度は獅子の咆哮と、馬の嘶きが聞こえた瞬間に、いのりに付着する泥に対して、電撃と衝撃波が襲った。

 

 

『ガアァアアアーーーー!!』

 

 

『ヒイィィイン!!』

 

 

さらに、それだけで治らず、電撃と衝撃波は泥の池を一片も残らず、灼き散らしていく。

 

 

こちらも、何故この世界に来ているのかは分からない。だが、それでもそのお陰で、いのりに付着する泥は全て吹き飛ぶか、灼き払われた。そして、泥の中から現れたのは、大きさにしてしまえば10cmほどの小さな球体だった。その球体からは再び泥があふれ出る。

 

 

集はいのりを鎖で引き寄せ、手を伸ばす。それは、いのりも同様だ。

 

 

「集!」

 

 

「いのり!」

 

 

遂に、集の手といのりの手が触れ、その勢いのまま、いのりは集の腕の中へと飛び込んだのだ。集は飛んで来た、いのりを抱きしめる。いのりの身体には既に、泥は一片も付着してなど居ない。集がいのりを取り戻した瞬間だ。

 

 

「集……私は、やっぱり……集と生きていたい!」

 

 

「僕もだ、いのり。………もし、君と生きる事がたとえ、『罪』であっても、僕は君と一緒に生きる」

 

 

2人は強く、互いに互いを抱きしめる。相手の存在を確認する様に、その存在を離さない様に。そして、集は泥があふれ出している球体を睨み付ける。そして、集は友の名を呼ぶ。

 

 

「来てくれ、颯太!!」

 

 

『あらゆるものを開くカメラ』の引き金を引き、球体の周囲の泥は晴れる。だが、残った泥が触手のように伸び、集たちを追っていく。

 

 

「頼む、ツグミ、綾瀬、供奉院さん、草間!」

 

 

集は『エアスケーター』と『レーダー機能付きメガネ』を装備し、『あらゆるものを弾く盾』で泥の触手を弾いていく。そして、盾を最大展開したところで、『ハンドスキャナー』で自らの分身を五体作成し、一気に盾の陰から同時に飛び出す。集とそのコピーは世界の中を翔けめぐり、泥の触手をかく乱する。そして、本体である集がついに、泥の触手を掻い潜り、もう一度友の名を呼ぶ。

 

 

「終わらせるぞ、谷尋!」

 

 

 

 

集は『すべてを断ち切るハサミ』を具現化し、振りかぶる。そして――

 

 

「はあぁぁあああ!!」

 

 

すれ違いざまに振りぬき、泥を吐きだしていた球体を真っ二つに叩き斬ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナラクヴェーラの『女王(マレカ)』の意識を完璧に消し去った集は、そっといのりを離すと、何処からともなく赤い毛糸を取り出し指に絡めていく。その手付きはどこか不慣れで拙さが残ってはいるが、それでも形を作っていく。そして、それをいのりへと向ける。

 

 

「いのり……今度は君の番だ。今度は君がこれを取るんだ」

 

 

いのりは少し逡巡すると、フルフルと首を横に振る。その行動に集は一瞬驚くが、いのりは集が口を開く前に、彼の手にある毛糸によって作られた形を紐解いていき、今度は集の手と合わせながら、形を作っていく。

 

 

「……これからは、集と一緒に居たいから。だから、一緒に。どちらかだけが、取るんじゃなくて、2人で」

 

 

いのりは微笑み掛けると、最後の行程が完了し、2人の手の中には、赤い毛糸で作られた、一段ばしごができた。それは、少し歪な形だが、それでもどこか味のある作品だ。

 

 

互いに、同時に手を離すと、毛糸は霧散していった。そして、いのりは自らの胸の中心へと手を持っていく。

 

 

「集、私を――使って」

 

 

集はコクリと頷くと、いのりの胸の中央へと左手を沈めていく。それにより、出来た光の穴からは銀の光の帯が柱の様に立ち昇り、世界を光で満たしていく。

 

 

それはまるで、世界が『王』と『妃』の帰還を祝うかの様に、世界が歓喜の声を上げた様に、光が世界を包み込んだ。

 

 

 




っしゃあぁあああ!


復活うぅぅうう!!


はぁ、ここまで長かった。いや、本当に。





さて、いよいよ、この章も佳境です!



では、乞うご期待!!

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