Blood&Guilty   作:メラニン

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大晦日もラボだぜ☆


って事で、今日から怒涛(ってほどでも無いかもしれませんが・・・)の更新をします!


では、どうぞ!


戦王の使者編XVII

 

 

周囲が白一色で満たされた世界。集がこの世界を訪れるのは、1ヶ月と少し以来――絃神島へと放り出された時以来の光景だった。

 

 

周囲は相変わらず銀の光が帯となり、好き勝手に立ち昇ったり、周囲を回転している。相変わらずどこかバーチャルと幻想が入り混じった様な雰囲気であり、同時に生命を感じることはない無機質な世界であった。ここは、ヴォイドが作り出した意識のみの世界である。集はその世界で、浮く様にしてその場でジッと動かないで居た。

 

 

しかし、ただジッとしているだけではない。ここに居る筈の、いのりの姿が先ほどから見付からないのだ。それで、周囲をキョロキョロと見回して必死に探す。すると、集はようやく見付けた。この白い世界の、本当に端の部分に彼女はいた。

 

 

気を失っているのか、目を閉じ力無く漂うだけになっている。集はいのりへと近付いていく。ようやく、ここまで来たのだ。彼にとっては感無量といったところだろう。

 

 

「………いのり、いのり?」

 

 

集はそっと、いのりの肩を揺する。そして、いのりはゆっくりと目を開けていく。まだ、意識が混濁しているのか、その瞳は朧げで、焦点が合っていなかった。だが、ようやく目が慣れてきたのだろう。今度こそ、ハッキリと集の顔を確認する。そして、彼女の目からは一筋の涙が零れ落ちた。

 

 

彼女はただ嬉しかったのだろう。ただ、再会できた事に涙した。どれだけ、自分が渇望していたか分からない今の状況に、それ以外の感情は不要に思えるほどに、いのりの心は喜びで満ちていた。

 

 

「しゅ…う?………本当に…集?」

 

 

いのりは恐る恐るといった様子ではあるが、その華奢な腕を伸ばし、集の顔に触れようとする。集もその手を掴み、自分の顔へと誘導する。

 

 

意識だけの世界ではあるが、確かに手を通して、互いの温もりを感じていた。それが互いに嬉しくて、どちらが先という事もなく、自然に微笑んでいた。

 

 

「…久しぶり、いのり」

 

 

「久しぶり……集」

 

 

再会したら何を話そうか考えていた集だったが、残念ながらそれは徒労になった。考えていた事は全て吹き飛び、まず互いが口にしたのは再会の挨拶だった。そんな普通のやり取りだ。だが、彼らにとっては、それこそが何よりもの望みだった。それが叶ったのだ。言葉を失うのも仕方のないことだろう。

 

 

だが、せっかく再会したのに、挨拶だけでは味気がない。そう思ったのか、いのりの方から集へと口を開く。

 

 

「集、日焼けした?」

 

 

「え、あ、あぁ、うん。この島って、常夏の島でさ。もう1ヶ月以上居たから、結構日焼けしたんだと思う」

 

 

「ふふ…変なの」

 

 

「え、えぇ!?」

 

 

「……だって、少し見ない内に変わってたから。1ヶ月くらいしか経ってないのに……」

 

 

「うん、そうだね。………たった1ヶ月だった筈なんだけどね」

 

 

「………でも、それよりも長く感じた。集は?」

 

 

「僕もだよ。毎日毎日、君のことを考えてた。今どこで何をしてるんだろう?1人で大丈夫かな?どうして同じ場所に居ないんだろう?って、そんな事ばかり……君のことばかりを考えてた」

 

 

「………私は南アジアにいたわ」

 

 

「………うん」

 

 

「向こうでは、子供たちや、村の人たちも居て、1人ではなかった」

 

 

「……うん」

 

 

「でも、そこに集は居なかった」

 

 

「………うん」

 

 

いのりはポツポツとこの1ヶ月の事を独白していく。集はただ、その声に耳を傾け、相槌を打つだけだ。

 

 

「だから、多分私は……寂しかったんだと、思う」

 

 

「……………うん」

 

 

「だから、今すごく嬉しい………ようやく、集に会えたから」

 

 

「僕もだよ…いのり」

 

 

「集は?」

 

 

「……僕?」

 

 

「どうしてた?」

 

 

コテンといのりは首を傾げて、ジッと集を見つめる。その仕草が何となく、可笑しくて集はつい、吹き出してしまう。

 

 

「私…何かした?」

 

 

「……くく、う、ううん、ごめん。違うんだ。多分、いのりとこうして話せるのが嬉しいんだ。………僕は、この島に放り出されて、右も左もわからなかった。でも、それを助けてくれた兄妹が居たんだ」

 

 

「……うん」

 

 

「その人たちの友達の協力もあって、今はこの島の学校に通ってる」

 

 

「…うん」

 

 

「けど、学校に通ってる間も、この島にある組織に協力してもらって、ずっといのりの事を探してた。………けど、君は黒死皇派に捕まってるって分かった。だから、君を助けるために、ずっと足取りを追ってた。そして、ようやく会えた…」

 

 

2人は見つめ合う。ただ、集はどこか違和感を感じていた。いのりの姿に、時たまノイズが走るのだ。それが、彼の不安を煽り、そしてそれは今もだった。

 

 

「……ごめんなさい、集」

 

 

ポツリと、いのりは集に謝罪の言葉を述べる。いのりに装着していたヘッドバンド、『女王(マレカ)』への搭乗、ガルドシュの一種の暗示の様なワード。何となく、予想はできていた。だが、それに関して信じたくなどなかった。ここまで来たのだ。あとは、いのりを救えば終わりなのだ。なのに、もしかしたら、それは出来ないのかもしれない。どうやら、この世界の神に自分は随分と嫌われているらしい、と集は内心自嘲する。

 

 

今は、ただ自分が無力で、小っぽけで、何も出来ない自分に腹が立って、先ほどとは違う涙が流れる。そんな集の頬に、いのりは自らの手を添える。

 

 

「………僕は!……僕は、ようやく君を救えると…思った!………なのに、ぐ…うっ…………なのに……ここまで来たのに!」

 

 

フルフルといのりは首を横に振る。その表情はどこか優しげで、儚げだった。

 

 

「……集は、救いに来てくれた。もう一度、集に会えた。……だから、自分を責めないで、集」

 

 

それでも、集は自分を責めずには居られない。あの時、管理島公社から離反してでも、当該地域に向かっていれば。もしくは、あの船が来た時に気付いて、捜索していれば。保健室で自分がもっと早く動けていれば。逃げるヘリを追撃できていれば。

 

 

集の頭はそんな『もしも』の可能性で一杯だった。

 

 

「……涯に言われたんだ。真名……姉さんにも。君を……いのりを救えって。……けど、そんなの、関係ない!あの2人に言われなくても、君を――僕は、いのりを助けたいんだ!」

 

 

「それは……ダメ」

 

 

「だ、だけど!!」

 

 

「……集。もうすぐ、私の身体は多分、私のでなくなる。そうなったら、勝手に私の中にあるもう一つの意識……ナラクヴェーラの『女王(マレカ)』の意識が集達を襲い始めると思う……だから、そうなる前に――」

 

 

「い…いやだ……」

 

 

「集、お願い。私を――」

 

 

 

 

 

 

 

 

それ以上を集は聞きたくなかった。だが、項垂れる集にそれを止める事は出来ない。次の瞬間、いのりから発せられるその言葉を。

 

 

「――私を…………殺して」

 

 

それは、何よりも残酷な現実だった。

 

 

 

 













質問コーナー!


・・・・・・多分、この話を読んでそんな気分じゃねえよ、って方が大半だと思います。すいません・・・


ただ、一応答えておかなければ、と思った次第でして、はい。




さて、今回は「いのりが使った『魔力変換』能力について」といった要旨の内容ですね。

イメージとしては、いのりから出ている結晶からなら、何処からでも吸収できるという設定です。だから、同時に周囲から攻撃されたら、結晶の翼で自身を囲って、防御も可能です。吸収したのは、羽根状の結晶にして射出!とか、考えてます。



で、吸収される前に魔力を元に戻してしまえば、という方に関してなんですが、あの能力を使ったとき、那月の『戒めの鎖』はガルドシュを拘束してましたし、古城はそんな器用な事できないだろうなー・・・と思ってる感じです。




ご質問ありがとうございました!これからも、本作をお楽しみいただければ、幸いです!



ではでは、また次回!

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