今回は彼女の落ちるシーンだけです。
では、どうぞ!
暁古城と煌坂紗矢華は
そして、2人はナラクヴェーラが周囲の元素を還元し、自分の一部に帰る元素変換で再生するのを目にし、急いで地上へと戻ることにしたのだ。
「へくちっ!………うぅ、何でこんな事になってんのよ。アンタって本当に無茶苦茶ね。普通あそこまで破壊する!?」
「仕方ねーだろ。俺だってようやく、こないだ眷獣を一体制御下に置いたばっかなんだよ。手加減なんて上級者の芸当なんてできるか。あれでも、加減した方だぞ」
「………やっぱ、アンタの側に雪菜を置いとくなんて耐えられないわね。獅子王機関に直訴してやる……へ、きしゅっ!」
「お前、さっきから大丈夫か?流石にそれだと寒いだろ?」
「な、何言ってんのよ!このくらい平気よ!って言うか、アンタ今後ろ見たでしょ!?見たわよねぇ!?」
紗矢華は前を歩く古城の後頭部に、煌華麟を突き付ける。古城もそれを察し、両手を挙げ断固抗議する。
「見てねえ!お前がそんな危ねえモン突き付けてんだから、見れる訳ねーだろ!俺はただ心配で――」
「ふ、振り向かないでよ!本当に今振り返った…ら……は…………は…っくちゅんっ!」
本日何度目のクシャミか分からないが、紗矢華の体温が下がっているのは明らかだろう。それもそのはずで、
「ちょ……な、何で上着を脱ぎ始めるの!?ま、まさか、ここで私を襲うつもり!?ようやく本性を現したわね、変態真祖!」
「違えぇーー!ったく、姫柊に引き続き、お前まで思い込みが激しいタイプか?」
「な!?だ、誰が思い込みが激しいって言うのよ!?」
「だから、おま――あー、いいや、もう。ほらよ、着とけ。今よりはよっぽどマシになるだろ」
紗矢華の頭に古城の着ていたパーカーが被さる。相変わらず古城は後ろを向いたままであり、未だに両手を挙げている。
「………い、嫌よ!アンタの汗と血の付いたパーカーなんて着たら……は……っくし!」
「くっ」
古城はついつい、笑い声を漏らす。意固地になる紗矢華が結局クシャミをしたのが面白かったのだろう。だが、紗矢華の方は自分の失態に顔を真っ赤にして、古城に『煌華麟』の先端を軽く突き刺す。
「いってぇーー!い、今お前、刺しただろ!?絶対に刺しただろ!?」
「う、うるさい!アンタが笑うからよ!………うぅーーー!いいわよ!アンタの薄汚いパーカーを着てあげるわよ!有難く思いなさい!」
「俺が貸してる側なんだが……すまん、なんでもない」
古城は再び自分の後頭部に刺さりかける長剣に降参とばかりに、両手を高々と挙げる。それを確認し、紗矢華は渋々といった様子ではあるが、古城のパーカーを着て、前のファスナーを締める。途中――というか主に胸のところで、つっかえ閉めるのに若干悪戦苦闘したが、何とか上まで上げることができた。
「い、いいわよ、もう」
「はぁー、助かる。いい加減この体勢が疲れたところだ」
古城はようやく手を下ろし、一息つく。
「さて、行くか」
「ま、待ちなさい!」
「いや、待つって言っても、多分あまり時間はねえぞ?」
「わ、分かってるわよ!た、ただ聞いておきたかったのよ!………あの古代兵器には加減したとはいえ、アンタの眷獣で倒しきれなかったわ。私の『煌華麟』の攻撃も学習されて防護策を講じられた。このまま出て行っても、勝機なんかあるの?」
「………正直厳しいだろうな。俺の『
「じゃ、じゃあ、どうす――」
「それでも、今はやるしかねえだろ」
紗矢華はハッと息を呑む。言われればその通りなのだ。だが、何かが自分の中で燻っているような、そんな感覚がして、紗矢華は先ほどからイマイチ調子が出ない。だからこそ、こんな質問をぶつけてしまうのかもしれない。
「わ、分かってる……けど………」
「どうしたんだよ、煌坂?さっきから変だぞ?」
「………何で、アンタは戦おうって思えるの?」
「は?」
「だから!相手はコッチの攻撃を学習する古代兵器よ!?勝ち目は薄いのに何で戦えるのよ!?」
「何でって言われてもな……まぁ、強いて言えば、お前と同じだよ」
「は、は?私と?」
紗矢華は一瞬この男がふざけているのかと、色めき立つが、今度は逆に古城が質問することで、それは治まった。
「じゃあ、逆に聞くけどよ。煌坂は何で今まで戦ってこれた?獅子王機関に所属してるんだ。今まで自分よりずっと強い筈だった魔族連中とだって戦ってきたんだろ?」
「………何でそんな事知ってるのよ?」
「姫柊から聞いたんだ。アイツ、言ってたぜ?自分のルームメイトは自分よりもよっぽど強くて頼れる存在だってな」
「雪菜が……」
「それと……悪いんだが、煌坂や姫柊の境遇は聞いた。何でお前が男嫌いなのかも、な」
「………それも雪菜が?」
「ああ、まぁな。……多分煌坂が戦ってきたのは、そんな姫柊の為じゃないのか?」
紗矢華は古城の問いに押し黙る。古城はそのまま続きを紡いでいく。
「獅子王機関だって、国家機関とはいえ、タダで孤児の面倒を見る筈ねえもんな。お前は姫柊を守る為に、もし何かあっても組織から守れる様にって強くなったんじゃねえのか?………っと、悪い。今のは俺の勝手な――」
「……その通りよ」
古城は頭に手をやり、取り繕うとするが、紗矢華はそれを遮る様にして、返答した。
「初めて雪菜を見たとき、天使みたいな子だなぁ、って思ったの。それで一緒に暮らす内に可愛くて可愛くて、本当に妹ができたみたいで嬉しかったわ。雪菜から聞いてるなら分かると思うけど、私や雪菜に親は居ないわ。だから、雪菜は私にできた初めての家族なの。だから、あの子の為に今まで頑張って来れたわ。それは多分これからもそうだと思う」
「………いいんじゃねえか、それで。俺もそれと同じで、この島には守りたいって思えるのモンがある。俺が戦える理由はそれだ。煌坂だってそうじゃねえか。なら、何とかなんだろ」
古城は紗矢華に笑いかけると、踵を返す。だが、そんな古城を服の裾を、紗矢華がつまむ様にして歩みを止めさせた。
「煌坂?」
「でも、現実的な問題として、今の私たちだと、ナラクヴェーラへの対抗手段は無いわ」
「そ、それは、まあそうだが……けど、上に戻れば姫柊だって居るし、桜満だって近くにいる筈だろ?だから――」
「だ、だから!」
古城の苦しい逃避を遮る様に紗矢華は声を張り上げた。古城もいい加減、紗矢華の怒鳴り声には慣れたものだが、今目の前で視線を合わせない様に俯き、どこかモジモジしている紗矢華は、先程までと様子が異なり、どこか反論できる雰囲気では無かった。
「………あ、新しい眷獣が居れば、戦える…でしょ?」
「あ、ま、まぁ、そうなんだろうけど……だけど、新しい眷獣を呼び出すには、その………誰かの血がだな………」
「わ、私じゃダメ……かな?」
「………は?」
古城は思わず間抜けな声が口から溢れた。紗矢華の男嫌いの原因は、雪菜から聞いて知っている。彼の父親が原因であり、酷い虐待を受けていたらしい。それが紗矢華が男を嫌う理由だ。理由としてはもっともだし、こう言えば怒るだろうが同情もする。だが、その紗矢華が自らの血ではダメかと聞いてきているのだ。だからこそ古城は困惑し、間抜けな声を上げたのだ。
「そ、そりゃ、雪菜みたいに小さくて可愛くは無いのは分かるけど……」
「い、いやいや、そんなに卑下することは無いと思うぞ?その………煌坂は十分えっと、なんだその………可愛いと思うが……」
古城は顔を逸らしつつそう言ったので、紗矢華は別の意を汲み取ったらしい。少し拗ねた様な調子で口を尖らせる。
「ウソ……だったら、なんで目を逸らすのよ?」
「こ、これは、照れてるからだ!それとその…………いくらパーカーを着たって言ってもだな、その………濡れると色々と見えると言うかなんと言うか……」
「見え………きゃあ!!」
紗矢華は濡れた事でピッタリと密着する様になって、形がハッキリ分かるようになってしまった胸元を腕で覆い隠すようにして、後ろを向く。いや、胸元だけではない。腰にも衣服が密着し、くびれが丸分かりだし、スカートも濡れていることで、太ももからヒップにかけてのラインも見えていた。そして、顔だけ振り返り、若干涙を溜めた目で古城を睨む。
「………やっぱりアンタは変態真祖だわ!」
「………すまん」
古城は気まずそうに視線は逸らしたままで、頬をかく。そんな古城の様子を見て、紗矢華は吹き出す。
「ぷ……ふふふ、あははは!」
一しきり笑うと、紗矢華は目元を拭いながら再び話し始める。
「ふー………本当に変な真祖ね、アンタ」
「………そりゃ、どーも」
「ふふ、そういう事じゃなくて」
紗矢華は立ち上がり、ゆっくり古城の顔へ手を伸ばす。紗矢華の細い指が古城の頬を撫で、フッと笑みが零れる。
「不思議ね。普通、私がこんな風に男に触れたら、寒気がするのに、それが無いなんて。雪菜がアンタを信用する理由が何となく分かったわ」
「……信用してるのか、あれで?」
「してるわよ。あの子、信用してる相手には一定上近付いて覗き込む様にして話す癖があるのよ。気付かなかった?」
「………言われてみれば」
「ふふ、雪菜に関してはヤッパリ私の方が上ね。………その雪菜が今は居ないから、私が代わりに血を吸わせてあげる」
「お、おい、煌坂!?」
徐ろに紗矢華はパーカーを脱ぎ出し、リボンを解き始める。さらに、シャツの上に着ていたサマーセーターを脱ぎ、既に海水で透けて機能を殆ど果たしていないシャツが露わになる。しかも、ピッチリ紗矢華の肌に密着しており、下手に裸になるよりも刺激が強い。
古城はいつもの様に鼻の奥がツンとし、鉄の匂いが鼻腔に入ってくる。鼻を押さえ、何とかその赤い液体を外に出さない様にしていると、今度は紗矢華がシャツのボタンに手を掛け始めたではないか。古城は焦った様に、紗矢華の手を掴む。
「煌坂!」
「………やっぱり、私じゃ……ダメ?」
紗矢華は再び涙目になる。男嫌いの彼女にとって、男である古城に裸にも近い状態を見せるというのは、一世一代の勇気がいると言っても過言ではないのだ。それを途中で止められたとあっては、涙の一つも出るだろう。だが、当然古城の真意は別にある。
「ち、違う!そ、そうじゃなくてだな!煌坂は男嫌いなんだろ!?なら、こんな無理はする事は無いだろ!」
「む、無理なんかじゃ無いわよ!…………分かってる、心配してくれてるんでしょ?アナタがそういう人間なんだっていうのは、私にだって分かるわ。でも、今はこれしか……」
「だ、だからって、早まった真似はするな!」
「………ねぇ、私ってそんなに魅力ない?」
今にも紗矢華は泣き出しそうな潤んだ瞳で古城を見上げる。古城もこんな目を向けられれば、さすがに罪悪感やら色々と感じるところはある。
「はぁ………逆だ、逆。煌坂はよっぽど魅力的だよ」
「ふえっ!?」
古城から賞賛されると紗矢華は思ってもいなかったのだろう。上ずった声を上げ、仰天し涙もそれにより引っ込む。だが、古城の攻撃は続く。
「お前も、姫柊ももう少し自分の魅力について理解してくれ、頼むから。煌坂は姫柊と同じくらい魅力的だ。そんな格好されたら、俺だって今我慢するのがやっとなんだぞ?」
何気に、古城が口にした『姫柊と同じくらい魅力的』という言葉は、雪菜を目に入れても痛くないほど可愛がっている紗矢華にとって最大の賛辞だった。
「………なら、問題無いわよね?」
そう言うと、紗矢華はゆっくり古城の握っていた手を解き、そして先ほどの続きと言わんばかりに、ボタンに手を掛けていく。一つ一つボタンを外し、紗矢華の雪菜より大きな胸を隠す下着が露わになる。紗矢華は一度古城を上目で視線を合わせる。古城の方は古城の方で、既に我慢の壁が決壊寸前だった。
やはりと言うか、雪菜よりも大きな胸についつい目が行き、そして次にほっそりした首筋に目が行く。そこまで行くと、古城も瞳の色が赤く輝く。焔光が揺らめく様な赤い瞳だ。まるで、獲物を見る様な視線に一瞬紗矢華はたじろくが、次の瞬間には古城に身体の前面を押し当てる様にして、その胸に飛び込んだ。そして、腕を古城の後ろに回し、キツく密着する。
海水で冷えた表皮のヒンヤリした感覚の後、互いが触れ合った場所から、ジワジワと暖かくなる。それを確かめる様にしながら、紗矢華は頬を古城の胸に当てながら、上を向き古城の目を見て、顔を右側へと逸らし、無防備になったその白い首筋を曝け出す。
「雪菜には内緒だよ……」
せめて、精一杯の声を出して、顔を一層赤くすると、今度は古城が紗矢華の身体を強く抱きしめた。
「ん……」
その力強さに、紗矢華は一瞬呻き声を漏らすが、古城の一言が耳元で囁かれた途端、力が抜ける。
「煌坂……ありがとう」
「バカ……」
古城は紗矢華の首筋に牙を突き立てると、スゥーっと牙を埋めていく。初めは痛みのためか、一瞬身体が硬直するが、少しすると体全体から力が抜けた様に紗矢華はくてんと、古城の腕に身体全体を預けた。
地下に響くのは、海水が上から注ぎ込む音と、荒い息遣いだけになった。
うん、まさか本当にこれだけで終わるとは・・・
ま、まぁ、次回からはちゃんとしますので。
ではでは、アリーヴェデルチ!