Blood&Guilty   作:メラニン

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さて、少しきな臭くなってくる回です。


では、どうぞ!


戦王の使者編XI

楪いのりは現実と夢の狭間にいた。薄暗い何処かの室内。人が1人入れるだけのスペースしかない場所で、いのりは座らせられていた。周囲の操作パネルの様なものには見た事の無いような古代文字と思しきものが羅列されている。そして、先ほどから何故か意識がハッキリしないのだ。まるで夢特有の浮遊感に包まれている様な、そんな感覚と同時に、自分の手には固い無骨な何かが握らされている。

 

 

声を上げようにも、口が僅かに震えるだけで、何も喋ることが出来ない。

 

 

何故、自分がここに居るのか。それすら分からない。自分が一体何をしていたのか。何か大事なことがあった筈なのだが、分からない。

 

 

まるで、人形のような状態である自分の事を、いのりは内心で笑った。

 

 

 

 

 

そんな風にしていると、何かが頭の中で響く。それは言葉にできない。何を言ってるのか分からない。そんな『声』がしたのだ。それが自分の中に情報を与えてくる様に感じた。よく感覚を集中させると、彼女の頭にはヘッドバンドの様なものが巻き付けられていた。ヘッドバンドの様なものは操縦席に直接連結しているのだろう。頭が動かし辛い。それに手を伸ばそうにも、前述の様な状態であるが故に、指一本さえ動かせない。彼女はただ自分に送られてくる情報を受け取ることしかできない。

 

 

そんな情報の奔流に消え入りそうになろうとも、彼女は彼の名を浮かべる。

 

 

(………集)

 

 

そこで、いのりの意識は再び深い闇へと堕ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜満集は人工増設島(サブフロート)に到着するなり、目を見開いていた。

 

 

「………このクレーター………それにさっきの稲光りは多分古城の『獅子の黄金(レグルス・アウルム)』。………まぁ、古城なら落ちても平気だと思うけど、また派手に壊したなぁ……」

 

 

遥か下層まで吹き抜け状態になったクレーターを集は覗き込み、そんな言葉を漏らす。

 

 

「ハハハ、いい塩梅(あんばい)の威力じゃないカ。それでこそ、第四真祖だ。だけど、このちっぽけな島が沈んでないところを見ると、だいぶ加減した様だネ」

 

 

そして、その隣では白いスーツに身を包んだ青年が同様にしてクレーターを見下ろしていた。集もヴァトラーのその意見に関しては同意であった。

 

 

「それよりも、君の大事なお姫様は平気なのカナ?」

 

 

集はそれを聞いて、ヴァトラーを睨みつける。それもそうだろう。この男が割り込んで来なければ、あのヘリポートの時点で、いのりを取り戻すことが出来た可能性が大きかった。それを邪魔されたとあれば、睨みつけるくらいの事は許されるだろう。だが、その集の瞳を見て、ヴァトラーは面白そうに声を上げる。

 

 

「ハハハハハ!イイね、その憎悪にも近い感情の目!できれば、さっきまでの戦闘でも、その状態で戦って欲しかったネ」

 

 

「………そうしたら、僕はまだ此処に辿り着けてませんでしたよ」

 

 

「やれやれ、君も僕の相手をしてくれないのか。寂しいなァ」

 

 

ヴァトラーはワザとらしく肩を竦めてみせるが、集はそれを横目で確認するだけで何も返すことはしなかった。今はそんな事よりも、集にとって気がかりになっているのは、やはり楪いのりの存在だ。ヴァトラーは黒死皇派に『オシアナス・グレイブ』を占拠されたと言っていた。つまり、順当に考えれば現段階で、いのりは『オシアナス・グレイブ』内に居ると見て間違いないだろう。そして、件の船は人工増設島(サブフロート)から約200mほど離れた位置を進んでいた。その場所でグルグル旋回運動をしている。

 

 

黒死皇派の今回の目的は、ナラクヴェーラによるある種の示威運動である。そのナラクヴェーラは古城の『獅子の黄金(レグルス・アウルム)』により、人工増設島の遥か下へ落ちていった。ならばこれで彼らの目論見は失敗とも見て取れる。だが、それでも退かないのは、まだ彼らに何か手札が残っているからだろう。そして、おそらくその手札の中に、いのりも入っているのだろう。だからこそ、黒死皇派のテロリストたちは、あそこで旋回運動を続けているのだろう。ならば、尚の事急がなければマズイかもしれない。集は再び『エアスケーター』を足に纏う。

 

 

「行くのかい?」

 

 

「ええ、行かせてもらいます。だいぶ時間を食ってしまったので」

 

 

どこか棘のある言葉にヴァトラーは、額に手を当て、困った様なポーズをとる。

 

 

「やれやれ、傷つくなァ。僕はただ君と手合わせをしていただけだというのに」

 

 

「タイミングが悪いですよ。ならせめて、古城がもし危なくなったら助けてあげて下さい」

 

 

「フフ、可笑しなことを言うね、君は。この僕が第四真祖たる古城を見捨てるわけが無いじゃないカ」

 

 

集はそれだけ聞くと、一気に飛翔し高速で洋上を駆け抜けた。残されたヴァトラーはニヤリと笑うと、言葉を漏らす。

 

 

「フフフ、本当に彼は美味そうだ。いつか、本気で僕の相手をしてくれるのが楽しみだヨ、『ジョーカー』」

 

 

 

 

 

 

 

 

集は洋上を一気に翔け抜け、ものの数秒で『オシアナス・グレイブ』に取り付いた。幸いな事に、見張りが居なかったため、船からの射撃などは無かった。故に簡単に船への侵入を果たした。集は甲板へと降り立つと、『エアスケーター』は消し、今度は『すべてを断ち切るハサミ』を具現化する。ここはテロリストの巣窟だ。当たり前の警戒だろう。ここでは何時テロリストと遭遇してもおかしくは無いのだ。

 

 

「………まずは、ブリッジかな?見取り図も把握しないといけないし」

 

 

集は途中転がっていたテロリスト達を無視して、ブリッジへ向かうために上を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫柊雪菜は辿り着いたブリッジにて、操舵を行い『オシアナス・グレイブ』の進路を変更していた。せめて、人工増設島(サブフロート)に船を寄せ、特区警備隊(アイランド・ガード)が何時でも乗り込めるようにすれば、今よりよほど事態は好転すると考えたのだ。警察組織の一端である、特区警備隊(アイランド・ガード)の力を当てにするのは、些か気乗りしないのだが、今は片意地を張っている場合ではない。

 

 

因みに、本来はこういった機械の操作などは雪菜の苦手分野なのだが、今は得手不得手など言っていられる状況では無いために、悪戦苦闘しつつも、何とか操作している。

 

 

「えっと、コッチ……あれ?違いますね。じゃあ、コッチのレバーがそうでしたっけ?………コッチも違う?………あ!コッチですね!」

 

 

悪戦苦闘する事、約10分。雪菜は何とか船の進路変更に成功した。本来テロリストの巣窟で10分もロスするなど、自殺行為にも等しいのだが、今はその心配は無用だろう。ここへ来るまでのテロリストは全員、剣巫の体術で意識を刈り取ってきたので、半日は意識が戻らない筈だ。このブリッジにいたテロリストも雪菜の背後で延びており、近場にあったケーブルを使用して、丁寧に拘束している。

 

 

だが、雪菜の耳が廊下から聞こえる足音を察知する。足音の大きさから屈強なテロリスト達より軽量なのか、それとも、そういった歩法を身につけているのか。どちらが正答かなど、今は分かるはずもないのだが、何が起きても良いように、雪菜は隣に立て掛けてあった『雪霞狼』を手に持ち扉へその矛先を向ける。

 

 

そして、扉の目の前で足音がピタリと止まった。向こうもこちらを察知したのかもしれないと、雪菜は『雪霞狼』を持つ手に再び力を籠める。

 

 

 

そして、次の瞬間扉が開き、何かが高速で飛び込んでくる。雪菜は目敏く相手が持っている物が銃だと察知し、半歩ほど踏み込み、槍を銃へ向けて一気に伸ばす。

 

 

「『雪霞狼』!」

 

 

雪菜は銃を弾き、その勢いのまま、相手の手へと槍の刃先を突き刺した。が、その相手を見て、雪菜の顔は一気に青褪める。

 

 

「お、お桜満先輩!?す、すいません!い、今……え?消え…た?」

 

 

焦った雪菜は飛び込んできた隣人に謝罪したが、その隣人本人は霧散するようにして消えてしまった。自分の不注意が招いた不祥事が一切消えてしまったのだ。これを焦らない人間はいないだろう。そして、廊下からは少し困った様な声を上げながら、今度こそ本物の方が出てきた。

 

 

「…………はぁ、一応『ハンドスキャナー』を使ったコピーを先に突入させて正解だったよ」

 

 

「お、桜満先輩!?え、あれ?あ、あのでも、今の今まで……」

 

 

集は右手に持った、形状としてはテニスラケットに近いソレを肩にトントンと当てながら、ブリッジ内へと侵入してきた。

 

 

「そっか、姫柊さんは見るの初めてだったんだっけ?コレが前に話してた『ハンドスキャナー』だよ。対象をコピーして、コントロールする事ができる能力なんだ」

 

 

「………相変わらず、桜満先輩は桜満先輩で規格外ですね。何処ぞの組織に情報でも漏れたら狙われかねませんよ?」

 

 

「もう南宮先生に似た様な事は言われたよ。っと、そうだった。それよりも、船内の詳しい図面とか無いなかな?それが目的でここまで来たんだけど」

 

 

「はい、ありますよ。先ほど、船内を壊しながら進んでたら、テロリストの1人から強奪できましたから」

 

 

「…………ありがとう」

 

 

当たり前の様に雪菜は持っていた図面を手渡すが、集は若干引いている。それも、そうだろう。雪菜の行動は、今の話を聞く限りでは、どちらがテロリストか分かったものでは無いような内容だ。集は雪菜に対する、その評価を胸にしまい込み、図面を広げる。

 

 

「…………あと怪しいとしたら、船倉ブロックかな」

 

 

「はい、多分そこが一番最有力だと思います。普段はこの船の所有者達が足を運ぶような事が無い区画ですから。隠れるとするなら、絶好のポイントです。ただ其方へは、既に南宮先生が向かっています」

 

 

「じゃあ、尚のこと急がないと。ここまで来て逃げられるわけにはいかないし、これは僕の問題でもある」

 

 

「………桜満先輩、『私たちの』です。だから私も行きます。では、行きま――」

 

 

集と雪菜がブリッジを後にしようとした瞬間だった。爆発音が響き、船が大きく揺れたのだ。集と雪菜はそれぞれ手近な場所に手を掛け、何とか転倒しない様に耐えた。暫くすると、下の方で何かの機械音は聞こえる。ブリッジの窓を開け、外を覗くと巨大な機械が駆動していた。集が那月に見せられた資料にあったナラクヴェーラとは異なり、頭に当たる部分が上へと突出している。それはさながらアンテナの様にも見える。

 

 

そして、その下の胴体部分に手を掛けつつ乗る者がいた。いのりの意識を刈り取った張本人がそこには居たのだ。

 

 

「あれは……クリストフ・ガルドシュ?けど、あれがナラクヴェーラ?資料で見たものとは違う様な……」

 

 

「………いえ、あれもナラクヴェーラです。ただ、所謂指揮官機というものだと思います。確か、ナラクヴェーラは周囲の僚機を統率する役割を持った『女王(マレカ)』と呼ばれる機体があった筈です」

 

 

「それが、あれ?」

 

 

「はい。………ですが、変です」

 

 

「変?」

 

 

「はい。『女王(マレカ)』はあの頭頂部の先端がコックピットになっている有人式らしいんです。なのに、ガルドシュが外に居るというのは……」

 

 

「………………まさか」

 

 

集は顔から血の気が引く様に感じた。集が今想像した事が合っているのならば、集にとって最悪なケースだ。だからこそ、集はブリッジを飛び出した。雪菜は急に行動を開始した集に声を掛けようとするが、集の本気の走力は獣人にも匹敵するか、場合によってはそれ以上である。そして、今ブリッジを飛び出して行った速度は正しく獣人のソレを超えていた。

 

 

雪菜からすれば、そんな速力を出されれば集に追いつく術はない。だが、雪菜自身なんとなくの予想は付いていた。相手は生粋のテロリスト。非道な手段も使うことを辞さない。であるならば…………

 

 

「………今の桜満先輩だと不安ですね。私も行かないと」

 

 

雪菜がブリッジを出ようとしたところで、再び足を止めた。それは人工増設島(サブフロート)に突如現れた、巨大な深紅の双角獣が原因だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藍羽浅葱は遂に船倉へと辿り着いていた。薄暗い室内であり、周囲の様子はよく分からないが、その一角だけが明るくなっていた。途中で何処ぞのスパイの様に通気口を通っての移動も行った為に、服や髪には埃が付着しており、何度クシャミを我慢したか分からなかった。その事に不機嫌になりつつも、それだけの価値はあった。何故なら案の定そこには、楪いのりが居たからだ。

 

 

服装は浅葱に銃を向けた時と同じだが、ヘッドバンドの様な機材を取り付けられた上で、座らされた椅子に手足を固定され動けない様に固定されていた。そして、腕には点滴が取り付けられ、何かを投与されていた。テロリストのやる事だ。おそらく、ロクでも無い薬品を投与しているのだろうと、浅葱は考える。浅葱は急いで駆け寄ると、そっと点滴の針を彼女の細い腕から引き抜く。

 

 

「う……」

 

 

若干痛んだのか、いのりは一瞬苦悶の表情を見せるが、意識は戻らない様だ。

 

 

「む………なんとなく分かってはいたけど、実物は本当に綺麗な子ね。正直羨ましいわ…………って、そうじゃない!楪さん?楪さん!」

 

 

浅葱は彼女の肩を持って揺するが、彼女の身体がユラユラ揺れるだけで何も反応はない。おそらく、投与されていたのは、麻酔や睡眠薬といった薬剤なのだろうと当たりをつけると、浅葱はいのりを縛っている手足のバンドを解き、腕を持って担ごうとする。だが、やはり人を1人担ぐというのは、女子の細い腕だと難しいものがある。浅葱は一旦いのりを元の位置に戻し、スマホを取り出して相棒である人工知能に話しかける。

 

 

「っ……やっぱ、男子みたくにはいかないか……モグワイ、近くに脱出艇とか無いの?」

 

 

『あるにはあるが、一番近くても一つ隣の区画まで行かねえと』

 

 

「はぁ………流石は貴族様の船ね。もう少し危機管理能力を持ってもらってもバチは当たんないと思うんだけど」

 

 

『まぁ、テロリストに占拠されるなんざ思ってもなかったんじゃねえかい?実際吸血鬼の貴族と言えば、その戦闘能力の高さは折り紙付きだからな、けけっ』

 

 

「それで占拠されてんなら、世話無いわ。………って言ってても始まらないわね。もう、その隣の区画までこの子を運んでいくから、アンタはナビしなさい」

 

 

『へいへい。まずは横の――お嬢、隠れろ!』

 

 

「え?」

 

 

モグワイの急な警告に浅葱は疑問符を浮かべたが、時既に遅し。この船倉の区画の扉が強引に壊され、数名の獣人たちが突入してきた。浅葱としても、扉に気休め程度にはなるだろうと、ロックを掛けていたのだが、彼らを見る限り、気休めにもならなかった様だ。

 

 

「やれやれ、やってくれたな、ミス・アイバ。まさか、我々がここまで引っ掻き回されるとは思いもしなかった」

 

 

浅葱はモグワイの言葉通りに隠れる事は出来ず、結局いのりの座らされている椅子の横に佇んでいた。そして、先頭に立つクリストフ・ガルドシュへと言葉を返す。

 

 

「そう、アンタらを困らせる事が出来たんなら、良かったわ。けど、私の仕事は終わってるでしょ?約束通りこの子は自由にさせてもらうわ!」

 

 

「そうはいかない。君の契約は確かに果たされたが、歌姫のと我らの契約は果たされていない。君との契約を果たせるのは、我らの目的が達成した後だ」

 

 

 

「………確認までに聞いとくけど、アンタらとこの子の契約って何?」

 

 

「彼女の望みは、彼女をこの日本まで連れてくること。そして、我らの望みは実験への協力だ」

 

 

「だから、こんな薬品を打ち込んでたってわけ!?ふざけないでよ!コレは『サルト』の成分を抽出したものじゃない!」

 

 

浅葱は点滴に使われていた薬品の袋を、取り外し乱暴にガルドシュへと突き付ける。浅葱は目敏く、袋に書かれている情報を読み取っていたのだ。

 

 

「これから行う実験に、歌姫(ディーヴァ)の意識は邪魔だからな。しばらく、幻を見ていてもらうだけだ。確かにあのドラッグは恐ろしいものだ。だが、その成分を抽出し、少しいじれば強力な幻惑作用と催眠効果を発揮する。副作用である、幻覚による暴走はせずにな」

 

 

 

「………なるほどね。それでカノウ・アルケミカル・インダストリー社か。まったく、あのバカが急に調べてくれって言うから、変だとは思ってたのよね」

 

 

「ほう、その名前を知っていたか。そう、我らだけではこの薬品は作れない。だからこそ、あの会社に浸透していた一部の賛同者に協力を依頼していた。他にも色々とな………本来なら、我らに渡るはずだった情報が一ヶ月ほど前に消失していなければ、もっと早く行動を起こせた上に、連中に金を払って依頼するまでも無かったのだがな」

 

 

「一ヶ月くらい前って……まさか、絃神島での『サルト』騒動って……」

 

 

「そう、連中は我らの賛同者だ。と言っても、互いが互いに利用するだけだったのだがな」

 

 

ここで、ガルドシュが口にした『渡るはずだった情報』とは、アイランド・ノースで騒ぎを起こした魔族のバイヤー集団が持っていた物である。それを浅葱が知るはずもないのだが、浅葱自身の中では色々と得心がいっていた。

 

 

「………ご解説どーも。取り敢えず、アンタ達とこの子の契約については分かったわ。でも、テロリスト相手の契約なんか、信用できるわけないでしょ!この子は返してもらうんだから!」

 

 

「ははっ、やはり君は勇敢だ。しかし、我らとて退けぬ理由がある。――歌姫(ディーヴァ)を連れて行け。ミス・アイバは拘束しろ」

 

 

「「「はっ!」」」

 

 

「ちょ、痛!は、離しなさいよ!」

 

 

獣人の内の1人に浅葱は背後へと腕を回され、捻り上げられる様にして、身動きが取れなくなり拘束された。そして、ガルドシュは壊れ物でも運ぶかの様に、慎重にいのりを運んでいく。浅葱はそれを目で追う事しか出来なかった。そして、運んだ先に在ったものに浅葱は戦慄する。

 

 

船倉のある階は軒並み浅葱とモグワイによって、システムダウンを起こし、明かりを消していたのだ。船倉内が薄暗かったのも、浅葱が見つからずにここまで来れたのも、それが大きかった。そして、そのシステムが復旧したのだろう。その証拠に次々と明かりが灯り、薄暗かった船倉を照らしていく。

 

 

それにより、浅葱はようやく周囲に何が有るのかを確認できたのだ。

 

 

「………アンタ達、本気でこの島を沈めるつもり!?」

 

 

浅葱が見たのは(おびただ)しい数の古代兵器だ。それこそ10や20どころの話ではない。50……いや、もっと多いかもしれない。ハッキングにより古城と調べた情報が確かなら、これだけの数があれば一国の軍隊すら上回る戦力だろう。そして、あの時調べて得た情報はあともう一つ。それは、指揮官機のみが有人式であることだ。そして、一機のみ周りのとはフォルムが異なっている。ガルドシュは、いのりをそこへ運んでいるのだ。

 

 

浅葱は背中に寒気が走った。先ほど投与した薬品に、これからガルドシュが行おうとしている行動。それらが繋がっているのならば………

 

 

 

「や、止めなさい………今すぐ、その子を離しなさい!く…この!……離せーーー!!」

 

 

浅葱は自分を取り押さえる獣人を睨みつけ暴れるが、元々の身体能力が違うのだ。当然ビクともしない。

 

 

「すまないな、ミス・アイバ。我らもここまで来て退くわけにはいかないのだ」

 

 

「だからって、その子は関係ないでしょ!?アンタ達の勝手な思想に巻き込んでいいはずがないわ!」

 

 

「……我らは所詮テロリストだ。だからこそ、こういった事も出来る」

 

 

ガルドシュは指揮官機のハッチを開け、いのりをそこへ降ろす。しばらくすると、指揮官機の駆動音が響き、ユックリと指揮官機が立ち上がる。

 

 

「……っ、最低よ、アンタ達…!」

 

 

「どうとでも言ってくれて構わん。もう君に出来ることはない。早々に――」

 

 

「はっ、ネコ風情が言うじゃないか」

 

 

ガルドシュたちを嘲笑うかのような声が船倉中に響いた。そして、それから暫くして、自分の位置をあえて教えるように、カツンと高い音が船倉に響き渡る。床をヒールで踏みしめた音なのだろう。船倉中に音が反響し、発生源へとその場にいた全ての存在が視線を向けた。そこには豪奢な黒いフリルのドレスを身に纏った小柄な女性が立っていた。

 

 

「随分とウチの生徒を可愛がってくれたな。この代償は高くつくぞ?」

 

 

次の瞬間、船倉の壁を火の槍が突き破った。

 

 

 

 

 




ナラクヴェーラに乗るのは、ガルドシュではなく、いのりでした。


浅葱は何だか、姐さんっぽくなっていってる気がする・・・何でだろう?


途中話に出てきた、一か月の遅れなんかの下りは、那月が持って行った黒いUSBがそうです。あの中にデータが入ってたんですねぇ。


次回は、少し戦闘からは離れる予定です。


ではでは。

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