Blood&Guilty   作:メラニン

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今回は短めです。


裏方仕事みたいな?


では、どうぞ!


戦王の使者編VIII

 

 

アイランド・イーストに存在する人工増設島(サブフロート)。そこでは、特区警備隊(アイランド・ガード)が黒死皇派と交戦を繰り広げていた。片や獣人、片や人間である。個々人の能力であれば、獣人の方が圧倒的だ。

 

 

だが、人間というのは集団での戦闘において、初めてその真価を発揮する。自分たちがこの世界で、魔族と比べ遥かに弱々しい種族であるが故に、知恵を駆使した効率的な戦い方を熟知している。数に物を言わせるだけではなく、どうすればより効率的に相手を追い詰められるのか?それを人間は熟知しているのだ。ことこの一点に関しては魔族よりも人間の方が秀でている。それは、むしろ秀でているなどという言葉で片付けられる様な事ではなく、その戦術や戦略といった人類の英知は、『凶悪』の一言に尽きるだろう。

 

 

さらに、とあるルートから大量に購入できた試作段階ではあるものの、高威力な最新式対呪力弾や武器類も戦線を後押ししていた。当然これらは、現在絃神島を訪れている武器商人による仕業だ。

 

 

それにより、人工増設島(サブフロート)における戦闘は特区警備隊(アイランド・ガード)が有利に進めていた。

 

 

それを苦々しい表情で遠方のビルから見つめる人物がいた。

 

 

「ちっ、人間共め。意外に粘るな……」

 

 

「グリゴーレ少尉、そろそろ……」

 

 

「分かっている。おおよそ実験に必要なサンプルは集まった。これよりデモ実験を開始――避け……!」

 

 

グリゴーレが言うより早く、それは彼の部下である獣人の頭を貫いた。赤黒い血を撒き散らし、頭部を撃たれた部下は、床へと倒れ伏す。

 

 

グリゴーレの方は何とか反応し、銃弾を避けて貯水タンクの影へと身を潜める。聞こえた銃声はほぼ同時に2発だった。明らかに当たれば絶命する箇所を的確に狙ってきた事から、相手は只者ではないのだろう。少なくとも、一般の特区警備隊(アイランド・ガード)とは比較にならない様な腕だと、グリゴーレは経験則からそう推測した。

 

 

そして、顔を出し確認しようとした所へ、再びもう一撃が加えられた。今度は銃弾が彼の鼻を掠める。グリゴーレは戦慄する。獣人化していないとはいえ、自分がここまで追い詰められるとは思っていなかったのだ。相手は少なくとも2人。それも、射撃能力だけなら自分をも凌駕するのだろう。しかも、相手は未だに自分に姿を見せてはいない。しばらく様子見として、身を潜め感覚を研ぎ澄ます。

 

 

 

せめて相手が何人居るのかくらいは把握しておきたいが、吹き荒れるビル風のせいでいまいち把握しきれない。

 

 

 

今回の作戦の要である古代兵器を起動するための、アタッシュケースと一体化しているタイプの起動装置は、銃弾を避ける際に、先ほどの場所に置きっぱなしだ。破壊されないのは自分の囮にするためだろう。装置までは5m以上離れている。どんなに急いでも到達まで1秒はかかる。だとするならば、勝負は一瞬だけ。

 

 

「…………いざとなれば、保険もある、か。ならば!」

 

 

グリゴーレは意を決して、己の姿をL種のそれへと姿を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるビルの非常階段。1人の邦人男性と、1人の少年がそこを登っていた。少年の方は先ほど、この島にいる魔女に送ってもらい、その魔女本人は特区警備隊の本隊の方へと様子見に行った。

 

 

そして、その階段の途中で少年が口を開く。

 

 

「トージョ、ホントにあっるカ、ここで?」

 

 

「………ヨナ坊の、その片言日本語がなんだかなー。うーーん………あー、Please speak in English.」

 

 

東條が英語に切り替えると、ヨナはコクリと首肯して言語を変える。

 

 

「トージョ、ここでいいのか?」

 

 

「ああ、こいつが言うにはな」

 

 

『よー、坊ちゃん。オレンジジュースは美味かったかい?けけっ』

 

 

東條がスマホの液晶画面をヨナへ向けると、そこにはツギハギのヌイグルミ型のアバターが表示された。そして、そのアバターの言葉にヨナは少しムッとする。

 

 

「………なんか、馬鹿にされた気分だ」

 

 

「まぁ、そういう奴なんだ。気にするな、ヨナ坊」

 

 

『そうだぜ?いちいち、細かいことに囚われてちゃ、大人にゃなれねえ』

 

 

「………いまいち、モグワイの言うことは信頼できない」

 

 

『おぉっと、ずいぶん嫌われちまったな。さすがに、子供に嫌われんのは堪えるぜ』

 

 

未だに反省の『は』の字も示さないモグワイに対して、ヨナはさらに機嫌が悪くなるが、屋上が近付くにつれて、顔は仕事時のものへと変わっていく。

 

 

『さて、おさらいだ。周囲の監視カメラの映像から、相手は少なくとも獣人が2人。精々やつらの聴力には注意するんだな、けけっ』

 

 

「………狼と戦うのは慣れてる」

 

 

『ほぉ、頼もしいねぇ。こりゃ、東條の方が足を引っ張らねえか心配だぜ』

 

 

「たはは、俺がヨナ坊の足を引っ張るわけがないだろ?」

 

 

『おいおい、自分でフラグ立てて大丈夫か?とにかく、俺がサポート出来んのは案内と()()()()までだ。あとは頼んだぜ?けけっ』

 

 

 

 

そして、屋上の扉を静かに開け侵入する。幸いビル風に遮られ、彼らの足音は既にいる獣人たちの耳には届かない。それを確認し、東條とヨナはそれぞれが携行してきたアサルトライフルの照準を頭部へと引き絞る。

 

 

互いにアイコンタクトで意思確認を行うと、ほぼ同時に引き金を引いた。だが、ヨナの銃弾は当たったが、東條の銃弾は遥か彼方へと飛んでいった。それに関して、ヨナは死んだ魚のような目を東條へと向ける。

 

 

(………トージョ、下手くそ)

 

 

(んだと、ヨナ坊ーー!!)

 

 

2人はくだらない争いを繰り広げるが、相手が潜んでいる貯水タンクから顔を出した瞬間、ヨナは再び発砲した。そして、ヨナは相手の顔を確認した瞬間、顔つきが変わった。

 

 

(どうした、ヨナ坊?)

 

 

(……あいつは、いのりを連れてった車に乗ってた奴だ)

 

 

(なるほどな。だがヨナ坊、冷静に行けよ?相手は俺たちより遥かに身体能力の高い獣人だ。突っ走んじゃねえぞ?俺は子守に来たわけじゃねえんだからな)

 

 

(………わかってる)

 

 

東條は敢えて厳しめの言葉を選んでヨナに浴びせる。ヨナもそのお陰か、頭に血が上りかけていたが元に戻る。今彼がやるべき事は、古代兵器の起動を遮ること。彼の雇い主である武器商人が言うには、いのりを連れ去ったの理由は、件の古代兵器と何かしらの関係があるからだと。ならば、それを止めてしまえばいい、との事だった。

 

 

(じゃあ、ヨナ坊。今から言う通り動け)

 

 

(分かった)

 

 

(よし、まずは――)

 

 

 

 

東條が作戦を伝え終わり、2人は行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グリゴーレは獣人化を果たし、意を決して装置へ向け駆け出した。おそらく、彼の中の人生で一番の走力を発揮しているだろう。結局相手の位置や声は聞くことが出来なかった。ここは高層ビルの屋上。先ほどからビル風が轟々と吹き荒れ、それが邪魔をして匂いも音も分からないのだ。

 

 

そして案の定彼へ向けて発砲が行われる。それを、かい潜り一気に近付く。手を伸ばし装置へと手を掛けようとする。

 

 

「よし――っ!?」

 

 

だが、触れる前に装置が弾かれた。アタッシュケースの底部分に銃弾が当てられ、グリゴーレの手が触れる直前に東條の放った弾丸がそれを阻止したのだ。

 

 

「おのれ、人間風情がぁぁーー!!」

 

 

グリゴーレがほぼその速度で姿を現した東條へと突進する。見たところ、怒りで我を失っている様にも見えたが、その目は東條へと向かう先に仕掛けられた数本のピアノ線をしっかり捉えていた。これは獣人ならではの、視力と反射速度がなせる技だろう。そして、東條へと突っ込むと見せかけ、そのピアノ線の伸びている先へと進路を変える。

 

 

物陰から伸びていたピアノ線の大元へと向かうと、そこには銀髪をした少年が手にグローブを嵌め、ピアノ線を張りながら屈んでいた。相手はまだ反応しきれていない。グリゴーレは相手の罠を破ったのだ。

 

 

あとはこの少年を殺し、次に発砲してきた男を殺せばいい。グリゴーレはそう算段を立てる。

 

 

「死ねーー!」

 

 

グリゴーレの爪がヨナに迫る。だが、ヨナのその目は冷たく沈んでいた。ヨナのその目に恐怖は宿っていなかった。むしろ、グリゴーレの方が一瞬でも恐怖を感じてしまったのだ。一体なぜなのか。それをこの一瞬で逡巡したグリゴーレの身体は突如、宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グリゴーレが空中を回転し、後方の壁へと激突した。彼自身、自分の身に何が起きたのか、まったく理解が及ばなかった。彼は確かに物陰に隠れていた少年へ向けて、爪を伸ばした。だが、それが触れる直前になぜか彼は吹き飛んだ。

 

 

いや、少し語弊がある。確かになぜ『そうなったか』は分からないが、彼を吹き飛ばした元凶は分かっている。それは風だ。まるで空気のハンマーでも打ちつけられたような衝撃が襲ってきたのだ。だが、なぜ急に自分を吹き飛ばすほどの風が吹いたのかが分からなかった。

 

 

とにかく、今は理由を考えるのは後だ。相手は2人いるのだ。今は早く行動しなければならない。グリゴーレは立ち上がろうとするが、その瞬間崩れ落ちる。本人にも訳が分からないだろう。強烈な風に吹き飛ばされ、回転しながら宙を舞い、壁に打ち付けられたのだ。そのような衝撃があれば、たとえ獣人であろうとも脳が激しく揺さぶれるのは当然である。

 

 

ありとあらゆる状況にグリゴーレの頭は付いて行っていない。だが、解答を考えてる暇は与えられなかったようだ。彼の前には冷たい目をしてアサルトライフルを構える少年の姿があったからだ。

 

 

「………お前は、いのりを連れ去った車の中にいた奴だな?いのりは今何処だ?」

 

 

「ふ…ん!腐っても…俺は軍人だ!……話すことな――」

 

 

最後まで言い切る前に、ビルの屋上には乾いた銃弾の音だけが響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………ったく、あの風速を維持するのは疲れるぜ。特に最後の特大のやつはな。………これでいいんだろ?………とと」

 

 

先ほどまで戦闘があったビルの屋上から2つ隣の別の建物に立つ人物は、自分のスマホ画面に映ったアバターへと確認を取る。それとほぼ同時に能力の負荷が原因なのか、鼻から垂れてきた血液を止めるために鼻頭を抑える。

 

 

『ああ、すまねえな。ナラクヴェーラの起動は出来れば避けたいってのが、当たり前だが公社からの注文でな』

 

 

妙に人間臭いAIの合成音声が通話口から響く。そう、藍羽浅葱のパートナーであるモグワイだ。といっても、今画面に映っているのは本体の分身なのだが。

 

 

「まぁ、いいさ。俺の方としても、あんなのに動かれちゃ救出には支障が出るからな。集がヴァトラーを食い止めてる内にコッチも――」

 

 

基樹が言いかけたところで、人工増設島(サブフロート)の一角で空へ向けて火の槍が放たれる。続けてさらにもう一撃。今度は人工増設島に直接当たったのだろう。人工増設島から爆発と火の手があがる。

 

 

「おいおいおい!なんで起動してるんだよ!?おい、モグワイ!起動キーはアレだけじゃ無かったのか!?」

 

 

『いや、アレだけの筈だぜ?あの装置にコードを打ち込んで生体認証すれば、遠隔でナラクヴェーラを起動できる。だが、島中探しても、あの装置はアレだけ――ち、やられた。俺とした事が……そういう事か』

 

 

モグワイは画面の中で苦々しげに、並行して調べていた結果を知り、舌打ちする。

 

 

「はぁ!?どういう事だよ!?」

 

 

『あの装置は生体認証タイプのものだ。だが、奴さんは裏技を使ったらしい。心臓に呪術的なチップを埋め込んでたみたいだぜ?けけっ』

 

 

「っ、そうか………確か心臓が止まったら、行使されるタイプのものか。流石はテロリスト、玉砕覚悟も辞さないってか。要は簡易的な人身御供だもんな。そりゃ、普通なら止められねえか」

 

 

『そんな事言ってる場合じゃ無えみたいだぜ?お嬢がもうチョイで制御コマンドを解析し終わりそうだ』

 

 

「はぁ!?浅葱のやつ、頑張りすぎだろ!?テロリスト相手に張り切るなよ!」

 

 

『まぁ、俺も同感だが、文句を言ってる暇はないんじゃ無えかい?けけっ』

 

 

「っ……、分かってるよ!ったく、どいつもこいつも!」

 

 

基樹はイライラしながら、頭を掻き毟ると、再び彼の能力で飛翔した。目的地は古代兵器が暴れ回っている人工増設島(サブフロート)であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




グリゴーレ乙・・・


ってな感じで、裏では色々と動いてた東條とヨナでした。ヨナに一矢報いさせたいと思い、こんな感じに。


さて、次回からメインに戻ります。


ではでは。

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