Blood&Guilty   作:メラニン

34 / 91
お久しぶりです。


しばらく色々ありまして、更新が遅れました。


では、どうぞ!


戦王の使者編VI

 

彩海学園の保健室。集はそこで硬直していた。まさか、こんな場所で会えるとは思えていなかったのだ。時間にしてしまえば、約1ヶ月と少し振りほどしか経っていない。しかし、会っていなかった時間はそれ以上に感じていた。だが、なぜか彼女は自分へ銃を向けている。それらの唐突な状況が集の思考回路を鈍らせ、判断能力の低下を招いた。

 

 

彼には目の前の少女しか見えていなかったのだ。少女もそれは同様だった。周囲に一体何が居るのかを失念していたのだ。

 

 

 

 

だからこそ、ガルドシュは動いた。彼の判断能力は集のそれと対比して、電光石火だっただろう。背後で硬直した2人を確認した瞬間に動いたのだ。獣人化していないとはいえ、その能力は生身の人間を遥かに上回る。その速度で、いのりの前に踊り出し、腹部へとその拳を当てつけた。

 

 

剣巫が得意とする体術の一つである、いわゆる寸頸とも言える、衝撃を透す一撃だ。ガルドシュのそれは真似事に過ぎないのだが、身体能力の高さにものを言わせて、その威力は少女の意識を刈り取るのに十分な威力があった。

 

 

「ふっ!」

 

 

「うっ……」

 

 

「いのり!!」

 

 

集はその瞬間に我に戻り、ガルドシュへとヴォイドで斬りかかろうとするが、周囲に居た獣人からは銃を向けられ、さらにはガルドシュの持っていた銃口は、いのりの頭へと向けられていた。

 

 

「言わずとも、分かるな?」

 

 

「く……」

 

 

「まさか、君がここに居るとは想定外過ぎたな。これでは、計画を変更せざるを得ない、か」

 

 

「………いのりを、どうするつもりだ」

 

 

「………貴様が知っても仕方ないだろう?これからここで死ぬ貴様が知ってもな」

 

 

ガルドシュがそう言った瞬間に、獣人の銃口が集の頭を向く。1発当たれば、確実に絶命するだろう場所だ。

 

 

「歌姫には絶望しておいて貰わなければ困るのでな。――やれ」

 

 

集が覚悟する暇すらガルドシュは与えなかった。その速断を下す能力はテロリストとはいえでも、上に立つ者の鑑と言えるかもしれない。指示を出し、獣人が引き金を引く。そして、銃声が鳴り響く。その場にいた浅葱と雪菜は目を閉じた。クラスメイトもしくは、隣人の死が確定するかもしれないという恐怖があったからだ。だが、呻き声を漏らしたのは、集ではなく、野太い声の獣人の方だった。

 

 

「う……ぐ…あぁぁ!!」

 

 

「……え?」

 

 

浅葱は恐る恐る目を開けると、浅葱の目に飛び込んできたのは、手から血を流す獣人の姿だった。おそらく、銃を握っていた指にでも何かが命中したのだろう。彼の中指と薬指の第二関節より上が消失していた。床には獣人の持っていた銃が転がり、それにへばり付く様に、血糊がついていた。集の背後の壁に銃痕がある事から、発砲とほぼ同時に指を吹き飛ばされたのだろう。

 

 

「っ!特区警備隊(アイランド・ガード)が島中コソコソしてたのは囮か!なるほど、してやられた!グリゴーレ、藍羽浅葱を確保!離脱する!」

 

 

「はっ!」

 

 

「え、ちょ…きゃあ!!」

 

 

「待て!」

 

 

集が即座に追い掛けようとするが、それを見たガルドシュが、気を失っているいのりに、再び銃口を突き付けた事により、その歩みを止めた。そうしている間に、彼らは窓を突き破り外へと逃走する。そして、丁度そのタイミングで黒い大型のバンが激走してきて、浅葱、いのりを連れた彼らを乗せて走り去った。この間僅か十秒にも満たない時間だ。その事からも、彼らはよく訓練されている事が分かるだろう。

 

 

そして、保健室内には沈黙が流れた。だが、まず沈黙を破ったのは集だ。何も出来なかった苛立ちから、壁を思い切り殴り、衝撃で亀裂が走る。

 

 

「………くそ!!」

 

 

「桜満先輩……」

 

 

「おい、さっき銃声みたいのと、ガラスが割れる音――な、凪沙!?」

 

 

「雪菜、無事!?」

 

 

そこへ、屋上で反省していた筈の2人が駆け付けた。暁古城と、煌坂紗矢華だ。古城が消音器を付けていたとはいえ、その独特の僅かな音と、硝煙の匂いを嗅ぎつけたのだろう。不審に思い、屋上から駆け付けたのだが、遅かったようだ。

 

 

「暁先輩、凪沙ちゃんは無事です。獣人を見て取り乱したので、気絶させてしまいましたが……」

 

 

「そ、そうか……悪かったな、姫柊。凪沙のやつ、昔の事故が原因で、重度の魔族恐怖症でな…」

 

 

「いえ、それよりも、桜満先輩が……」

 

 

歯を食いしばる集の様子は、痛々しかった。おそらく、強く口内を噛んだのだろう。そこからは血が筋になって流れ出していた。

 

 

「桜満?……………姫柊、何があった?」

 

 

「………楪いのりさんです」

 

 

「楪いのり………って、桜満の――」

 

 

「はい。その人が黒死皇派と行動を共にしていました」

 

 

「なっ!?」

 

 

「ですが、桜満先輩と遭遇するや否や、ガルドシュに気絶させられて、その…………藍羽先輩と共に連れ去られました。すいません、先輩。私が付いていながら………」

 

 

「あ、浅葱もか!?どうなってんだ、一体!?」

 

 

「それは分かりません。しかし、彼らの計画に協力させるつもりの様です。口振りから多分、楪いのりさんも、藍羽先輩も両方共に協力させるのだと思います」

 

 

「………何がどうなってんだよ!?」

 

 

そこで、その場に携帯の着信を知らせる音が流れる。室内の視線がその発信源へ向けられる。発信源はアスタルテだった。アスタルテは白衣のポケットから携帯を取り出し、電話口へ出る。そして、二言三言話すと、一旦携帯を耳から離す。

 

 

要求受諾(アクセプト)。これより、スピーカーモードへ切り替えます」

 

 

そうすると、アスタルテの電話口から賑やかそうな声が聞こえた。若い女の声だ。

 

 

『フフーフ♪ここで張っておいて正解だったよ。トージョの情報戦も大したモノね。あー、もしもーし?聞こえてるー?誰か出てくんなーい?』

 

 

「………あんたは?」

 

 

『おいおい、少年。レディに対して、自ら名乗らせるのは礼節に欠けるんじゃないかな?ナツキはそんな事も教えなかったのかしら?』

 

 

「ナツキ…?もしかして、那月ちゃんの事か!?」

 

 

『ぷっ……ハハハハハ!!さ、さすがナツキね!生徒に"ちゃん"付けって!アハハハハ!』

 

 

電話口からは、さぞ愉快だと言わんばかりに笑い声を張り上げる女の声が響いた。その声に古城はイラッとし、切ろうとする。

 

 

『あー待った待った!わかった、わかったから、切らないで!………まったく、若者は性急ねぇ。ま、それが若さの特権なんだろうけど。フフーフ♪』

 

 

「前置きはいい。あんたは何者だ?那月ちゃんの知り合いみたいだが」

 

 

『私はココ・へクマティアル。ココでいいわ。Hello、第四真祖殿?』

 

 

「あんた、何でそれを……」

 

 

『ん?分からない?ナツキの友達なんだから、そのくらい知ってるよ?』

 

 

相変わらず、どこかこの状況を楽しんでいる様にも聞こえる女の声は古城の神経を逆撫でしていた。見兼ねた雪菜が、古城に代わり、対応を始める。

 

 

「初めまして、ミス・へクマティアル。私は獅子王機関に所属する姫柊雪菜という者です」

 

 

『Hye、初めまして。へぇ、あなたが姫柊ちゃんね。ヨロシク』

 

 

「はい。それで、先ほど桜満先輩を助けたのは貴女ですか?」

 

 

『そうよ。ま、厳密に言えば、私の隣に居るスナイパーだけどね。さて、そこにMr.ジョーカーが居るよね?彼と話させてくれる?』

 

 

 

その声に集は反応し、フラフラとデスクに置かれた携帯の前に進む。

 

 

「………はい」

 

 

『どうした、どうした、少年?そんなで、お姫様を助けられるの?じゃあ、そんな少年に君を救ったスナイパーからの伝言だ。――いのりの想い人がこんな腑抜けの◯◯◯(ピー)野郎とは思わなかった。俺がいのりを助けてくるから、大人しく寝んねでもしてな。いのりは、お前に会うために、あいつらに捕まったのに、お前はとんだ期待ハズレだぜ――だってさ』

 

 

集はグッと手を握り締める。それは、無力感からでは無かった。

 

 

考えれば簡単な事だ。確かに、さっきは失敗した。だが、まだ追付ける。いのりに追付けるのだ。

 

 

ならば、今自分は何をしている?ただ、立っているだけではないか。

 

 

そう思い、集は決心する。次こそは救い出すと。いのりを必ず、救い出すのだと。

 

 

「………ありがとうございます、って伝えて下さい、ココさん。…………古城、ゴメン。僕は、行くよ!」

 

 

「桜満?」

 

 

集は右腕の人工皮を引き裂き、彼の『右腕』を露わにする。手を翳し、蛍光色の幾何学的なラインが走る。

 

 

「力を貸してくれ、綾瀬(あやせ)!!」

 

 

そう言うと、集の周りには銀色の光が溢れ、集の足を何かが覆っていく。機械的なフォルムのそれは、集の足を覆いきると、地面から集の身体ごと浮き上がる。

 

 

「お、桜満、それ――」

 

 

古城が言い切るよりも早く、集は篠宮綾瀬(しのみや あやせ)のヴォイド『エアスケーター』で飛び立った。

 

 

『うわ、速いわねー。ま、王子様が向かった事だし、君らも動くべきなんじゃない?』

 

 

「………んな事言ったって、俺たちは空を飛べないし、連中の行き先だって――」

 

 

『おいおい、少年。私が何の意味もなく、君らにコンタクトを取ったと思ってるのかい?私は武器商人よ?発信機の一つや二つお任せよ』

 

 

その言葉は今の状況において、頼もしい言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彩海学園の校舎からそれほど離れていない雑居ビルの2階に存在する空きテナント。既に以前此処にあった店舗が引き払われてそれなりの時間が経っているのだろう。中は一歩床を踏みしめる度に埃が舞い上がる。そこに、1人の白人女性と、白人男性がいた。女性は通話していた電話を切ると、かの第四真祖の携帯へと黒いバンに取り付けた発信機の位置情報を送る。

 

 

送信が完了され、彼らが動き出す。

 

 

「お嬢、ガキどもが行動開始したぜ」

 

 

「ま、そうだろね。分かっててやったんだし。さて、特区警備隊(アイランド・ガード)の居場所は………アイランド・イースト方面にある建設途中の人工増設島(サブフロート)か。さすが、ナツキね」

 

 

「………しかし、お嬢。何であそこで、銃を撃たせた?この距離ならヘッドショットだってできた。瞬時に獣人ども全ての脳天をぶち抜けたんだぜ?」

 

 

エコーはこれからの移動に備え、展開していた狙撃銃を幾つかのパーツに分解し、手早くケースへと収納していく。ココはそんな様子を見下ろしながら、エコーの問いに答える。

 

 

「フフーフ♪忘れたのか、エコー隊員?私は武器商人よ?商品の威力を把握しておかないでどうするよ?」

 

 

「……お嬢、まさか今度はアレを売り出すってのか!?」

 

 

「この後のデモ次第かなー?一応、トージョとヨナを向かわせたけど、多分アレは動くだろうし」

 

 

 

「おいおい、お嬢。あいつらが失敗するって思ってんのか?」

 

 

「まぁ、思ってはいないけど、何やかんやで起動は止められないかなー………これも勘だけどさ。それに、さっきも言ったけど、起動してくれなきゃ、どんなもんか測れないでしょ?」

 

 

不敵に笑うココにエコーは一瞬ゾッとした。神代の兵器と言えども、それが武器であるなら、商売道具にしようとする。それが自分の雇い主であるココ・へクマティアルという人間なのだ。数年前自分を雇っていた頃から何も変わっていない。それが若干恐ろしくもあり、頼もしくもあった。この女は口に出したことは必ず実行してきたからだ。その彼女が、いのりを救うために動いているのだ。頼もしくないはずがない。

 

 

「まぁ、逃がしてあげた理由はそれだけじゃ無いんだけどね。お姫様を救い出すにしても、それに相応しい舞台ってのがなきゃ」

 

 

「………胃が痛くなってくるぜ」

 

 

「おいおい、エコー。備えなきゃならないのは此処からよ?フフーフ♪」

 

 

雑居ビルの空きテナントに、ココの不気味な笑い声だけが木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

矢瀬基樹は自身の過適応能力を用いて、ビルからビルへ移り渡っていた。彼が追っているのは遥か前方を走る黒いバンだ。古城本人に自覚は無いだろうが、彼の眷獣の一部の力が漏れ出し、それが音響結界(サウンド・スケープ)を破壊したのだ。その隙を突かれる形で、学園の敷地内に侵入してきた襲撃者に気付かなかったのだ。しかも、襲撃者の中に重要人物が居たのは、基樹にとっても想定外だった。

 

 

何としても、行き先くらいは突き止めておかなければ、この先この島は如何なるか分からないレベルの危機的状況に陥る可能性がある。だからこそ、古城の監視を離れて、行動しているのだ。

 

 

「くそっ!ガルドシュの野郎、ここで浅葱を狙うのもブっ飛んでるが、まさか襲撃者として、キーマンを使うとか、一周して脱帽するぜ。ったく!………ん?」

 

 

基樹はビルの一角で止まり、振り向く。彼の耳が背後から急速に近付く存在を察知したのだ。その姿を見て、基樹はギョッとする。

 

 

「あ、あいつ、本当に何でもアリか!?」

 

 

基樹が驚いた原因は高速で空を飛ぶ集がこちらへ向かっていたからだ。集も基樹を発見したらしく、進路を僅かに変え、すぐさま基樹の目の前に降り立った。

 

 

「基樹!」

 

 

集は降り立つと同時に『エアスケーター』を一旦解除する。そして、基樹同様ビルの屋上に立つ。

 

 

「ちょうど良かったぜ、集。浅葱とお姫様を乗せたバンはあそこだ。まぁ、けども……」

 

 

集はそちらを確認する。そこにはバンを乗り捨て、ヘリに乗り換えるガルドシュ達の姿があった。

 

 

「分かった。じゃあ――」

 

 

「おっと、まだ行かれたら困るナァ」

 

 

集と基樹の背後から声を掛ける人物がいた。その聞き覚えのある軽快な声の人物を、集は脳内に思い浮かべる。そして、その予想通り振り返った場所にいたのは昨夜、集達を『オシアナス・グレイブ』へ招待したディミトリエ・ヴァトラーだった。

 

 

「………おいおい、何であんたがこんなトコに居るんだよ?」

 

 

「黒死皇派のテロリストに船を乗っ取られたから、じゃないの?」

 

 

「ああ、そういうことサ」

 

 

ヴァトラーは相変わらずといった調子で集達へと返す。

 

 

「『戦王領域』の貴族のあんたがか?冗談だろ?」

 

 

「……って言うのが表向きなんだと思う。実際に彼らを運び込んだのは多分――」

 

 

集は皆まで言わず、ヴァトラーを見据える。

 

 

「フフフ、いやはや君の慧眼には畏れ入るヨ。まぁ、だけどテロリスト連中に船を乗っ取られたのは本当の事だよ?」

 

 

「アンタほどの人物が連中如きに船を乗っ取られる訳がねーだろに………」

 

 

「確かにワザとではあるんだけどサ。でも、僕も全てを聞いていたわけではないからネ。まァ、お陰で思わぬ形で君に『贈り物』ができる事になったんだけど………気に入ってもらえたカナ?」

 

 

そう言ってヴァトラーはサングラスの奥の瞳を赤く染める。それを確認した集は、『すべてを断ち切るハサミ』を具現化する。そしてそれと同時に集の瞳も赤く染まる。互いが互いに臨戦態勢である。

 

 

「………内容は気に入りましたけど、やり方は気に食わないです。…………いのりを道具みたいに扱うそのやり方はっ……!」

 

 

集は珍しくその表情を怒りで歪ませる。隣に立っている基樹も普段の集からは想像できない感情表現に驚き、若干腰が引けている。

 

 

「ハハハハハ!いいね、スゴくいいよ!やっぱり、今戦うなら古城よりも君だ!黒死皇派の連中が準備を終えるまでの間、存分に踊ろうじゃないカ!!――やれ、『徳叉迦(タクシャカ)』」

 

 

ヴァトラーは自らの眷獣を召喚し、使役する。蛇型の緑色をした眷獣だ。『徳叉迦(タクシャカ)』と呼ばれたその眷獣の瞳が光ったと思った瞬間、ビルの屋上は焔と爆発に包まれた。

 

 

 

 




今更ながら、集が原作よりも流されやすくなってる気がする・・・


ま、まぁ、いのりを目の前にしたら、思考回路多分鈍るもんね!大丈夫!


ではでは、次回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。