そういや、那月が集に体罰を与える描写を入れたの今回が初かも・・・
そして、途中がちょい雑になってるんですけど、そこはご了承いただけると助かります。(力を注いだ部分が後半に寄ってしまったと言いますか・・・)
では、どうぞ!
南宮那月の執務室の隣部屋。そこで眠っていたヨナと名乗った少年はいのりの事を知っていると言った。集は彼から、いのりが彼らの村に居るときの事を一通り聞いていた。
「そっか……じゃあ、いのりは間違いなく、君の村に居たんだ」
「……ウン。いなくなったケド」
彼らの目の前のテーブルにはアスタルテが淹れた紅茶とオレンジジュースが置かれていた。オレンジジュースはヨナの方であり、紅茶は集が飲んでいる。
「………ボクが、アイツらのハックツにキョーりょくしたから――」
言い掛けたヨナの肩に集は手を置き、横に首を振る。
「君のせいじゃない。多分ここに、いのりが居たら同じ事を言うと思うよ。むしろ、遺跡で倒れていた、いのりを助けてくれてありがとう」
集の言葉にヨナは顔を伏せ、肩を震わせるだけだった。おそらく、ヨナは悔しかったのだろう。自分があの少女を守れなかった事が。もしあの時何かが違っていれば、目の前の人物と再会させてあげられたかもしれない。本人を目の前にして、余計にその念が強くなったのだ。
「おい、話は終わったか、元少年兵?」
まるでタイミングを見計らった様に、那月が入ってきた。口振りからして、用があるのはヨナの方らしい。ヨナはそれを察してか、コクリと頷くと立ち上がり、那月へと駆け寄る。
「では、私は――」
「待ってください!僕も――っ!」
転移をしようとした那月の元に集も急いで駆け付けるが、那月はそんな集に対して、閉じた扇子で額に一撃を見舞う。
「貴様は午後の授業に出ろ。それが学生の本分だろうが」
「いのりの事を聞いた後に授業なんて――」
「いい加減にしろ、桜満!貴様は己の立ち位置が理解できていない!『ジョーカー』のお前がそうやって安易に首を突っ込むな!下手をすれば、今の貴様の危険度は暁古城と大差ない」
「そんな事――」
「本当にそうか?では、聞くがな。貴様の『右腕』に宿るヴォイドの数は一体いくつある?」
「それは……」
「そう、所持者である貴様ですら把握しきれていないほど多いだろう?なにせ、『向こう側』で
集は一瞬グッと奥歯を噛み締める。那月の言う通り確かにヴォイド一つ一つに差はあれど、その内1つは第四真祖である古城の意識を刈り取ったという前科がある。それに及ばないかもしれないが、他にも無数のヴォイドを内在しているのだ。それは、下手をすれば真祖よりも厄介な存在である。そんな人間が何かの拍子に暴走でもした場合………
「それでも、僕は行きます。ジッとしているのだけは出来ません」
「はぁ……諦めろ、桜満。今はまだ調査段階だ。確実に楪いのりを見付けた訳ではない。それにお前を連れて行けないのには相応の理由がある。貴様が昨日の船上パーティーに参加した事で、顔が割れた。いつ狙われてもおかしくはない。特にこれから向かう場所はな。…………まだ引き下がる気はない、か」
那月は集の瞳を見据える。ここまで食い下がる集は初めてなのだ。それに若干驚いていた。
「分かった。連れては行けないが、もし何かあれば必ず連絡を入れる。アスタルテ、携帯に常に注意しておけ。もし、私から連絡があれば、授業中でも構わん。桜満集を引っ張り出せ」
「命令受諾」
「南宮先生……」
「これが最大限の譲歩だ。これ以上は譲歩せんからな!――とっとと、行くぞ、元少年兵!」
そう言うと、那月はいつも通り魔法陣でジャンプした。午後は那月は授業を入れていない。だからこそ、この時間に外へ出れたのだろう。そして、古城と雪菜が恐る恐る、室内に入ってきた。
「……桜満、終わったか?」
「…………ごめん、古城。聞いてた?」
「ま、まあな」
古城は気まずそうに頬をかいて視線を逸らす。古城としても、今ほど集が落ち込んでいるのは初めて見たのだ。何と声を掛けたらいいのか分からないのだろう。
「心配ないと思いますよ、桜満先輩」
「姫柊さん?」
「あの南宮先生が直々に調査に参加している上に、約束までしたんです。きっと、桜満先輩の大切な人も見つかりますよ」
「………うん、ありがとう、2人とも。じゃあ、僕は先に教室に戻ってるね」
明らかに気落ちした集に、古城は掛ける言葉が見つからなかった。ただ、小さくなっていく集の背中を見送るだけだった。
「……なぁ、姫柊」
「ダメですよ、先輩?誰よりも動きたいはずの桜満先輩が我慢しているんです。先輩が動いていい道理がありません」
「ぐ……だ、だけどよ!」
古城は雪菜に食い下がる。集のが移ったのだろうかと、雪菜は溜息を吐くが、雪菜も鬼ではない。先日共に戦った人物が苦しんでいるのだ。何とかしたいのは雪菜も同じである。
「はぁ、分かっています。けど、相手の居場所も分からないどころか、相手の情報が少な過ぎます。どうやら、南宮先生もまだ確証は得ていないようですし。せめて、何か……」
「…………情報、か」
古城は思い当たる人物を頭に浮かべる。見返りに何を要求されるか、知れたものでは無いが、背に腹は変えられないのが古城の現状だ。
「心当たりを当たってみる。姫柊は教室に戻ってくれ」
「え、あの先輩?」
古城は一目散に教室へと向かった。
◇
彩海学園1年B組の教室。昼休みも終了間近の時分であるのに関わらず、古城は浅葱に対して無茶な要求をしていた。
「はぁ?カノウ・ケミカル・インダストリー社を調べてくれ?それも、今すぐって………あんた、今何時か分かってる?」
「そこは分かってる!だけど、そこを何とか!」
古城は両手を合わせて頼み込むが、浅葱の対応は――
「イヤよ」
「な、何でだよ!?」
「どうせまた、あの姫柊って子の為でしょ?それに、この前だってスヘルデ製薬の事調べさせられて、まだ見返りに貰ってないし」
「そ、それは……なぁ、頼む、浅葱!……あまり大きな声で言えないが、桜満の為なんだ」
「桜満クンの?……それって、もしかして『楪いのり』って子が関係してる?」
浅葱の口から出た思わぬ人物の名に古城は目を開く。
「な、何で、お前がその名前を知ってんだよ!?」
「前キーストーンゲートで閉じ込められた時にイロイロ話してる内にその名前を聞いてたのよ。………そっか、桜満クンがああなってるのは、その所為ってことね」
浅葱はほぼ放心状態になっている集の席に視線を向ける。そこには基樹に頬を突かれても大して反応していない集の姿があった。集としても何とか那月に付いて行こうとしても、那月は空間魔術の使い手である。彼女が本気を出せば、集を撒くことなど容易い。つまり、付いて行こうにも付いて行けないのだ。
その無気力感に打ちのめされてか、集は今の状況になっている。
「ま、分かったわ。その子には私も興味あるしね」
「スマねえな。………あと、頼みにくいんだが――」
「何よ、まだ何か頼みごと?」
「う……ま、まぁ、そうだな」
「はぁ………何よ?」
「ナラクヴェーラってのについて調べて欲しくてな」
浅葱がその名前を聞いた瞬間ギシっと固まった。それも、そうだろう。浅葱は昨夜届いた謎のテキストを解き、その中にあったのが『ナラクヴェーラ』というワードだった。そんなことを古城が知る由もなく、ただその様子を見て、不審に思い、声を掛ける。
「ん?どうした、浅葱?」
「い、いや、別に?なんか少しイヤな予感がしたのよ」
「…………で、結局調べてくれんのか?」
「分かってるわよ!えーと、今空いてるPCがありそうなのは……」
「え、ちょ、ちょっと待て!今からか!?授業は!?」
「サボりなさいよ。アンタ常習犯だから余裕でしょ?」
「い、いやいやいや!」
「早くしなさい!桜満クンの為なんでしょ!私だって桜満クンには、キーストーンゲートの時の貸しを返してないしね」
古城は浅葱に連行される形で、教室を後にし、PCが使えるという生徒会室へと向かった。
◇
桜満集は放心していた。抜け殻といっても、いいかもしれない。そんな様子を見兼ねた基樹が授業終わりに、集を校舎の裏手にある階段に連れ出していた。
「まぁ、そう落ち込むな、とは言えないが、少しは前向きに考えたらどうだ?あれだけ渇望してたやつに会えるかもしれないだろ?」
「………そうだよね。けど、やっぱり如何しても悔しいんだ。黒死皇派がこの島に居るという事は、もしかしたら、いのりも居るかもしれない。なのに、今の僕は学校の階段でただ佇んでいる事しかできない」
「気休めにしかならねえだろうが、那月ちゃんはアレでも、この国で指折りの攻魔師だ。キッチリ見付けてくれると思うがな」
「………そうだね。多分、『黒死皇派』は見付けてくれると思う。だけどやっぱり、いのりを見付けるのは僕がやるべき事なんだ」
「…はぁ、重症だな」
「まぁね」
集は無理矢理笑ってみせる。だがそれを見て基樹は呆れたように手摺りに頬杖を付いて、遠くを見る。集はふと、自分の役目を思い出し、基樹に問いかける。
「あ、そう言えば、古城は今どうしてる?」
「んあ?さっきまで、浅葱と生徒会室でお楽しみ中だったぜ?」
「まさか、バレたんじゃ……」
集が懸念したのは、再び古城が吸血衝動に襲われ、行為に及んでしまい、浅葱に正体がバレたのではという事だった。
「いやいや、すんでのところでセーフだったみたいだぜ?」
「………基樹の
ここで集が言った音響結界とは基樹の能力を応用した結界の事だ。基樹は普段学校を覆うようにして、
「まぁ、仕方ねえさ。これがお仕事ですから」
「はぁ………で、肝心の古城は?」
「ん?今は屋上に――って、待て待て!おいおい、マジか!?」
急に慌てだした基樹に、集は困惑の色を浮かべる。
「どうしたの?」
「………古城が屋上で戦ってる」
「え!?どこの屋上!?」
「屋上庭園だ!一回校舎に入らねえと、行けねえ!頼んだぞ、集!」
「分かった!!」
集はすぐさま駆け出した。幸いなのは、屋上に向かうまでに、通常の教室があまりない事だ。これなら周囲をあまり気にせず、人外にも等しいスピードで駆ける事が出来る。集は瞳を赤く染め、身体能力を上げて一気に駆け抜ける。そして、屋上へと向かう階段に差し掛かったところで、雪菜と鉢合わせた。
だが、2人が速度を落とす事は無かった。軽く上へ目配せをすると、一気に階段を駆け上がる。
そして、登り切ったところで見たものは、魔力の暴走により、苦しむ古城だった。壁際には恐らく、吹き飛ばされたであろう浅葱が、気絶して倒れている。そして、古城と対峙しているのは、船上パーティーで会った『舞威姫』を名乗る少女だった。
「ぐああぁぁぁーーーー!!」
「ちょ、何なの、これ!?止まりなさい、暁古城!」
周囲に破壊を撒き散らし、屋上庭園の床のタイルにはヒビが入り、幾つかのプランターは吹き飛んでいる。ここでも、集と雪菜は軽く目配せをすると、雪菜は古城へ向けて跳躍し、集は浅葱の元へ駆けつけ、壁になる。
「獅子の巫女たる高神の剣巫が願い奉る!」
跳躍している最中に雪菜は祝詞を唱え始め、そしてさらに続きを紡いでいく。
「雪霞の神狼、
「が……あっ!?」
「ゆ、雪菜!?」
次の瞬間には、雪菜が雪霞狼を古城の居る地面へと突き刺し、『神格振動波駆動術式』を以って、魔力をかき消した。それにより、古城は崩れ落ちるようにして、同時に魔力の奔流は止まった。襲いかかっていたと見られる煌坂紗矢華も手に長剣を携えたままへたり込み、どうやら鎮まったようだ。
だが、ホッと一息吐くのは、残念ながらお預けになった。それは、明らかに怒っていた雪菜が原因である。その事に気付いた古城と紗矢華は先ほどとは異なる緊張感により、汗を流す。
「先輩、紗矢華さん。一体、何をやっているんですか?」
明らかに怒気を孕んだ雪菜の声は渦中の2人を怯えさせるのに十分な威力があった。
「ち、違うのよ、雪菜!わ、私はそこの変態真祖が破廉恥な事をはたらこうとしてたのを――」
「紗矢華さん?第四真祖の監視は私の仕事です。紗矢華さんは私の仕事を妨害しに来たんですか?」
「ち、違います、ごめんなさい……」
弁明をしようとした紗矢華を雪菜は一睨みと、正論を持って縮み上がらせた。当の本人は折檻を喰らった愛玩動物の様にプルプル震えている。そして、矛先はもう一歩へとシフトする。
「先輩?今の時間帯は一般生徒も居るんですよ?その人達を巻き込んでも良かったんですか?藍羽先輩もここに居るのに」
「申し訳ありませんでした、反省してます………」
雪菜の迫力に押され、2人は正座中である。何となく状況を察していた雪菜は溜息を一つ吐くと、集の方へと向き直る。
「桜満先輩、藍羽先輩の様子はどうですか?」
「大丈夫、気を失ってるだけみたいだから。でも、保健室で一応診てもらった方がいいと思うよ」
「そうですね。では――」
雪菜が言いかけたところで、新たに屋上庭園に足を踏み入れる存在がいた。息を切らし、必死に走ってきたのであろう事が予測できる。
「もー、雪菜ちゃん速すぎぃ……急に教室を飛び出すんだから、探しちゃったよ――って、何コレ!?え、あれ!?集さんも!?え、古城君!?」
そこへ飛び込んできたのは髪を後ろで一つにまとめた凪沙だった。屋上庭園の今の状況は彼女が見るには少し異常過ぎるだろう。床はヒビ割れ、プランターはひっくり返され、壁には床同様に幾つか亀裂が走っている。
「何で屋上がこんなにボロボロなの!?って言うか、浅葱ちゃん倒れてる!?大丈夫なの、それ!?というか、古城君が何で正座してるの!?」
いつもの様に疑問を一斉にぶつける凪沙が乱入した事により、雪菜の怒りも風化した。とにかく、今はここから凪沙と浅葱を遠ざける事が先決だと判断したのだ。
「大丈夫です、凪沙ちゃん。ただ、藍羽先輩を保健室で診てもらいたいので、鍵を開けておいてくれませんか?」
「あ、うん、そうだよね!じゃあ、私先に保健室に行っとくね!」
凪沙は二つ返事で了解し、駆け出した。そして、残った雪菜は未だに正座で反省する古城と紗矢華に視線を向ける。
「では、お二人はここでそのまま暫く反省して下さい。2人で」
「ちょ、ゆ、雪菜!?こんな変態と!?」
「お、おい!こんな嫉妬女と一緒にって――」
「……何か?」
「「何でもありません」」
雪菜は反論を言おうとした2人を一睨みで黙らせた後、雪霞狼を地面に突き刺した。おそらく、腹いせなのだろう。古城の目の前に突き刺したのだ。
「うおっ!?」
「雪霞狼は置いていきます。紗矢華さんが後で届けて下さい。では、私は保健室へ行きますので。じゃあ、行きましょう、桜満先輩」
「了解」
集は浅葱を抱えると、雪菜と共に階段を降りて行った。ポツンと取り残された2人は雪菜の言葉通り反省するのだった。
◇
彩海学園の保健室。ベッドには浅葱が横たえられ、アスタルテがそれを診察していた。
「
「うわぁ!可愛いーー!ねぇねぇ、雪菜ちゃん!こんな小さい子がダボダボの白衣着て診察してる!あれ、でも何で私たちよりも小さいこの子が保健医代わりなの?何で白衣着てるの?」
「え、えぇっと……」
テンションが何故か高い凪沙に雪菜は押され気味である。因みに、この場に集は居ない。女子の診察に男が居たらマズイだろう、と言って全員分の飲み物を買いに行ってしまった。
「ん………んむ。…あれ?」
「あ、浅葱ちゃん起きた?」
「………ここは?」
浅葱はまだボンヤリする意識を覚醒させ始め、上体を起こす。
「浅葱ちゃん、体は平気?頭痛くない?喉乾いてない?今、集さんが飲み物買いに行ってくれてるんだけど。コレ何本に見える?」
「起き抜けにその質問攻めはキツイわ」
取り敢えず浅葱は無事な様である。凪沙の質問攻めにも、対応しているあたり、問題は無いのだろう。
「えっと、それで?何で私ここで寝てるんだっけ?」
「屋上で水道管が破裂したんだって」
「破裂?そう言えば、耳がキーンってするような……あれ、でも古城が剣を持った女に追っかけ回されてた気が……」
「すいません、藍羽先輩。彼女は私の友人です」
「貴女の?………ねぇ、姫柊さん。一つ聞いてもいい?」
「はい」
「あなたと古城って何なの?」
「えっと、何なのとは?」
「古城と貴女の関係よ。前から気になっていたのよ。古城とコソコソ隠れて何かやってるみたいだし。桜満君も関わってるみたいだけど、口割らないし」
「えっと、その……私と先輩はただの隣人です」
「ふぅ〜〜ん……でも『ただの』隣人にしては仲が良すぎじゃない?」
「それは……」
雪菜はいつかは来るだろうと思っていた質問に答えるが、用意していた回答は浅葱を納得させるには不十分なようだった。
「じゃあ、さっきの古城を襲ってた女は?まぁ、古城の事だからどこかで自覚しない内に恨みを買う事はあるんだろうけど」
「その…彼女は私の友人で、多分嫉妬してたんだと思います」
「それは、あなたと古城が一緒に居るから?」
「………あくまで一因だと思いますが」
2人の間で、若干の認識がズレていたのは気のせいでは無いのだろう。さらに質問を浅葱が投げかけようとするが、それはアスタルテの言葉によって止められる。
「
「「「え!?」」」
その場にいた少女らは全員が声を上げた。白昼堂々と校舎内に侵入するような輩が居るとは思っていなかったのだ。
「数は4。内3つの移動速度から、魔族と推定。内1つはそれらに随伴しているものと判断します」
「魔族………まさか、屋上に!?」
雪菜が彼らの目的が古城だと推測したが、それは誤りである事がアスタルテによって示される。
「
「ど、どうしよう、雪菜ちゃん?」
「…大丈夫です、凪沙ちゃん」
「そうね。とにかく、ここからは一度非難しま――」
凪沙は怯え始め、肩を震わせている。それを雪菜が宥めようと手を肩に置く。浅葱は年長者としての責任を感じたのだろうか。彼女らを早く避難させようと、扉に手を掛けようとするが、その瞬間乱暴に勢いよく扉が開けられた。
浅葱は2、3歩ほど後ずさり、身が固まる。先頭を切って入ってきたのは、自分より遥かに身長の高い獣人だ。一般にL種と呼ばれるそれらは、人間の様相とはかけ離れた人相を取る事が多く、恐怖心を抱く人間も少なくない。
だが、現在この保健室内には異常に魔族に対して、恐怖する少女がいた。凪沙である。入ってきた獣人を確認した途端、みるみる普段の快活そうな表情は歪んでいき、恐怖一色へと染まっていく。
「い……いやあぁぁぁ!!来ないで!来ないでーー!!」
錯乱にも近い状態の、彼女のつん裂くような悲鳴は聴力の優れた獣人の耳には、非常に不快に聞こえ、舌打ちをすると、拳銃を抜き放った。
「おい!うるせえぞ、そこのガキ!黙りやがれ!」
「いやあぁぁ!いや――」
状況を見かねた雪菜が、このままではマズイと判断し、凪沙へ当身を当てて、意識を奪った。
「ゴメンね、凪沙ちゃん」
「ち、ようやく静かになりやがった」
雪菜は内心歯噛みしていた。こんな事態になるのならば、雪霞狼を屋上に置いてくるべきでは無かったからだ。そして、主犯と思しき人物が室内に入ってくる。秀でた額と尖った鷲鼻が印象的な軍人という言葉が似合う人物だ。頬には大きな傷跡が痛々しく残っている。
だが、その人物は横に退くと、さらに室内に別の人物が入ってくる。軍服に身を包んではいるが、明らかにその中身は不釣り合いな少女だ。どこか儚げな雰囲気の、淡い桜髪の少女だ。髪を2つに留めて、前に垂らしている。
雪菜はその人物に心当たりは無かったが、浅葱は別だった。その少女を見た瞬間に、目を見開き、その表情には驚きが隠せないでいる。
「な、何で?何であなたが、ここに……」
当の桜髪の少女は疑問符を浮かべているが、そんな事は関係ないといった様子で淡々と言葉を述べていく。そこに感情は一切宿っていなかった。と言うよりも、その瞳にも生気が宿っている様には感じられなかった。
「藍羽浅葱ね?私たちと来て?」
「………随分と強引な手口ね?白昼堂々となんて」
浅葱はジリジリと後ずさる。目の前の少女には大きな脅威を感じないが、その後ろで待機している獣人には、昔から魔族特区に在住している浅葱と言えど、恐怖を感じざるを得なかった。その様子にアスタルテが反応する。
「
そこまで言ったところで、ガルドシュが抜くよりも早く、少女の方が銃を抜き放ち、5発の銃弾を速射した。消音器の取り付けられていたため、銃声は響かなかった。撃ったのは凪沙を庇う雪菜の周囲の壁と床である。数発が雪菜の制服を掠め、命中した部分は欠けていた。
「妙な事はしないで?」
再び感情のない空っぽの言葉が室内に響く。アスタルテは状況を判断し、両手を挙げる。
「やれやれ、失礼した。我々の目的は藍羽浅葱のみだ。大人しく同行してくれるのならば、これ以上何もしないと約束しよう」
「自己紹介もしない奴にホイホイ付いて行くと思うわけ?」
「貴様っ――」
浅葱の物言いに、追従していた獣人が飛び掛かろうとするが、ガルドシュがそれを制する。
「これは失礼した。戦場に身を置くことが多い故に、
「……なるほど。ソッチで呼ぶって事は、そういう事なのね。それよりも、私が聞きたいのは――」
「少佐」
浅葱が言い掛けたところで、獣人の内の1人が遮る。
「分かっている。私はこのまま。後ろはお前たちだ。
示し合わせると、次の瞬間獣人たちと少女は動いた。彼らは扉へ向けて銃を向けたのだ。それと同時に、扉の外からは刃物の様なものを少年が突き付けてきた。一目でそれを刃物とは判別は出来ないだろう。だが、少女にはそれが分かっていた。
少女は銃を、少年は刃物を互いに向け、硬直する。互いがその姿を信じられないものを見たと言わんばかりに目が見開かれていた。
そして、互いが口を開く。
「……いの、り?」
「しゅ………う?」
って感じでした。
じゃないですよねぇ・・・・・・
分かってます。急いで続きを執筆中です。
ま、としかく、集といのりが再会。けど、互いに武器を向け合ってるハメに・・・
今回の章はここからが長いんですよねぇ・・・(予定では)
集といのりの日常が見たい!という皆さんには、申し訳ない!構想自体は出来上がってるんですけど、如何せん時間が・・・
とにかく、急いで執筆しますので、お待ちいただければ幸いです!
ではでは、アリーヴェデルチ!