Blood&Guilty   作:メラニン

32 / 91
何時も感想ありがとうございます!!

そして、読者諸兄の感想の中で気付いた事が一つ。(感想にコメントしてくれた方、本当に感謝です!多分、あれ無かったら、二週間くらい気付かなかったかも・・・)




原作、次で一区切りってマジ?とか思って、原作最新刊を今日購読したら・・・


あ、この子本当に正妻になってる・・・・・・じゃなかったですね。
ホントだ。後書きにおもっくそ書いとる・・・
うぼああぁぁぁ・・・


はい、気落ちしてる場合ちゃいますね。とっとと、更新します。


では、どうぞ!


戦王の使者編IV

オシアナス・グレイブの船内に設置されたホール。中央には円形の巨大ソファが設置され、簡単な会議なら開けそうな様相である。中心のテーブルを囲み、3人が着席していた。1人は招待客である暁古城であり、もう1人は同じく招待客である桜満集だ。そして、最後に主催者であるディミトリエ・ヴァトラーである。それぞれの後ろには少女が待機しており、重たげな表情をしている。

 

 

「さて、そう畏まらないで欲しいな。君たちは招待客なんだ。もっと堂々としてくれていいんだヨ?」

 

 

「………ふざけてないで、とっとと要件を言ってくれ。何が目的で俺と桜満を呼び付けやがった?」

 

 

「やれやれ、性急だなァ、我が愛しの第四真祖は」

 

 

その言葉と、それを言った後にヴァトラーが行った投げキッスの様な仕草に古城はゾワリと背筋に寒気を感じ、後ろへと跳んだ。本能的に――イロイロな意味でこの男は危険だと感じ取ったのだろう。ヴァトラーはそれに懲りずに、自らも席を立ち、古城へと近付いていく。

 

 

「やれやれ、傷つくなァ、そんな風に警戒されたら」

 

 

「あ、当たり前だ!男に冗談でも『愛しの』なんて言われたくなんかねえ!」

 

 

「冗談?僕は冗談なんかで言ったつもりはないヨ?」

 

 

「うげ」

 

 

「僕は本当に君の血に愛を捧げる所存サ」

 

 

「は?俺の…血?」

 

 

「正確に言えば第四真祖の血に、だネ。先代であるアヴローラ・フロレスティーナ……彼女の血は本当に素晴らしかった」

 

 

悦に浸る様な表情のヴァトラーを見て、古城はますます寒気がした。そう感じるほど、古城の目にはヴァトラーが狂って見えたのだ。だが、それよりも、思いがけない名前が出てきた事に驚いていた。

 

 

「ま、待て!アヴローラを知ってるのか?」

 

 

「ああ、もちろん知っているサ。彼女を喪ったのは本当に僕にとって心苦しい事だった。あれほどの存在はこの先もう現れないだろうし、ネ……」

 

 

ここで初めてヴァトラーが見せた、誰かを思い哀しむ態度に古城は少し警戒を解いた。古城自身、アヴローラの名は思い出せても、彼女と何があったのかまでは思い出せない。仮に思い出そうとしようものなら、激しい頭痛が彼を襲うからだ。だからこそ、何かを知っているヴァトラーが羨ましく思えたのかもしれない。

 

 

「しかし、今は君が居る!彼女の血を継いだ君が!だから、僕は君に愛を捧げよう!」

 

 

「おかしいだろ!!」

 

 

古城がアヴローラを思う心情はヴァトラーによって一瞬で瓦解した。

 

 

「何がかな?」

 

 

「お前が執心してたのはアヴローラの血だろうが!それが何で俺に向くんだ!?それに、俺は男だ!」

 

 

「何か問題が?」

 

 

「………マジか、こいつ?」

 

 

古城は頭が痛くなるのを感じていた。どうにも最近は何かしら『特殊』と言える人物としかエンカウントしていない気がしてならないのだ。集は異能を持っているにしても、性格はマトモなのでまだ良いとする。だが、例えば監視役と名乗り、下手をすればストーカー紛いの行為を行っている後輩。その後輩に異様な愛情を注いでいるらしい、先ほど敵意を剥き出しにした少女。そして、極め付けは目の前でアブナイ発言をする青年である。

 

 

そして、いつまで経っても話が進まない事に、業を煮やしたように雪菜が発言する。

 

 

「恐れながら、進言いたしても宜しいでしょうか?」

 

 

「君は?」

 

 

「そちらの煌坂紗矢華と同じく、獅子王機関に所属する、姫柊雪菜と申します」

 

 

「ふゥ〜〜ん……それで、なんだい?」

 

 

「恐れながら、アルデアル公に質問致します。この島を訪れた目的を知っておきたいのです。アルデアル公は第四真祖と、先ほど言ったようなイヤラシイ縁を結ぶことが目的ですか?」

 

 

「そうだよ」

 

 

「即答するな!!」

 

 

「まァ、それは半分冗談としてだ。もちろん、他に目的があるヨ」

 

 

ようやく本題に入るのかと古城は内心安堵した為に、ヴァトラーの言葉を意識の外に飛ばしていた。古城以外の集をはじめとした、この場に居る人物たちの過半数が『半分』という言葉に疑問を持っていたが、それを指摘してもしょうがないので、つっ込むのはやめたようだ。

 

 

そして、ヴァトラーが本題を語り出す。

 

 

「クリストフ・ガルドシュ――という人物を知っているかい?」

 

 

その言葉に古城は疑問符を浮かべ、獅子王機関の2人とアスタルテは表情を変えなかったが、1人だけ明らかに表情を変えていた。桜満集だ。

 

 

「………現黒死皇派を率いる首魁」

 

 

背後から今まで話題に参加して来なかった『ジョーカー』の参加に、ヴァトラーは明らかに嬉々とした表情を浮かべる。琴線に触れたという実感があったからだ。

 

 

「おや、知っていたみたいだネ?そう言えば君には挨拶が遅れてしまったね。簡略に済ませてもらうが、今宵君を招待させていただいたディミトリエ・ヴァトラーだ。君が招待に応じてくれた事には感謝しているよ、桜満集殿」

 

 

「………それよりも、黒死皇派のトップが目的ですか?」

 

 

「ああ、その通り。連中、ある兵器を手に入れたみたいでね。こちらとしても、ソレが『戦王領域』に矛先が向くのは望んでいない………というのがジジイ共の見解なんだけどサ。でも、それじゃあツマラナイじゃないか!」

 

 

さも愉快そうに話すヴァトラーに対して古城は嫌な予感がし、脳内に浮かんだ疑問をそのままぶつける。

 

 

「おい、まさかその兵器とやらを、この島で使わせるつもりじゃ無えだろうな?」

 

 

「まさか。この島は第四真祖である君の支配する領域だ。そんな事はしないサ。だけど――」

 

 

そこまで言ってヴァトラーの目が赤く炎の様に揺らめく。表情も先ほどの紳士的な表情ではなく、狂気の宿ったような顔だ。

 

 

「向こうが仕掛けてきたんじゃ仕方がないよネェ?」

 

 

「テメェ……!!」

 

 

古城の瞳もヴァトラー同様色が変わる。焔光の如く揺らめき変わるその目を見て、ヴァトラーはますます嬉しそうに笑う。さらに、集もヴァトラーを警戒し、何時でも戦えるように、瞳を赤く変え待機する。まさに、このホールは現在一触即発といった状況だろう。だが、戦いに走ろうとする男たちを1人の少女が止めた。

 

 

「恐れながら、アルデアル公の心配には及ばないと思います」

 

 

「ゆ、雪菜!?」

 

 

雪菜が急に前に立ち、臆する事なく言ったため、彼女に対して過保護な紗矢華が焦る。それもそうだろう。フザけた調子は崩さないが、これでもヴァトラーは彼女らよりも上位の存在だ。それに対して臆面もなく話に混ざろうものなら、下手を売った場合、生命が吹き飛びかねない。

 

 

「……へぇ、確か獅子王機関の剣巫か。それはなぜだい?」

 

 

「ここ絃神島は第四真祖の支配する土地です。その地の諍いを止めるのは領主の務め」

 

 

「ふゥ〜〜ん。つまり君は、古城がガルドシュを倒すから問題ないというわけかい?」

 

 

「はい、そういう事になります」

 

 

「ひ、姫柊!」

 

 

古城が制止に入ろうとするが、ヴァトラーは面白いといった様子で、雪菜をジッと凝視する。それが飽きたのか、暫くすると視線を外し、今度は集の背後に立つ。

 

 

「まァ、ガルドシュの件は了解したよ。君らで如何にかしてくれるなら、手間も省けるってものだしネ。………さて、あとは君に用があるんだけど」

 

 

「奇遇ですね。僕もです」

 

 

集は振り返りもせずヴァトラーへと返す。

 

 

「やれやれ、ツレないなァ。ま、イイけどさ。実は君に関して、情報を得て来いってジジイ連中が煩くってサ。能力だとか、イロイロと聞かせてくれると助かるんだけど」

 

 

口調は柔和だが、その裏には刺々しい荊が隠れているように集は感じていた。つまり、話さないのなら、能力を確認するためにここで戦うぞ?という意思表示でもあったのだろう。相手は下手をすれば第四真祖である古城よりも格上の存在だ。そんな相手と真っ向から向かい合うつもりは今の集にはない。そもそも、ここへ来た目的はこのヴァトラーの目的を探るためだ。戦闘はできれば避けておきたい。

 

 

「僕の能力はヴォイドという物の具現化が出来るだけですよ」

 

 

「ヴォイド?」

 

 

「ええ、こんなのですよ」

 

 

そう言うと、集は『すべてを断ち切るハサミ』を発現してみせる。興味深そうにヴァトラーは角度を変えつつ観察を続けていたが、ある程度それが終わると、視線を戻した。

 

 

「ふむ、『意思を持つ武器(インテリジェンス・ウェポン)』に近いのかな?……他にも有るんだろう?できれば他にはどのくらい有るのか興味がそそられるネ」

 

 

「あとは、『あらゆる物を開くカメラ』だとか、『あらゆる物を弾く盾』などですよ。実は僕自身他に如何いったものが有るのか把握しきれていないんです」

 

 

「なるほど、つまり第四真祖の力を完璧に己が物に出来ていない古城と近いということカナ?ま、その情報だけでもジジイ連中は満足するだろうし、こんなところでイイか…………で、君からの用向きを聞こうか」

 

 

「さっき出てきたクリストフ・ガルドシュについて知っている事の全てを」

 

 

「なるほど、君の目的はソレか」

 

 

「はい、この情報は古城たちにも益になるでしょうし」

 

 

集はチラリと後方の古城達を確認すると、再び前を向く。

 

 

「いいとも。……が、正直言って僕はガルドシュについてそこまで情報を持っている訳ではない。僕が知っているのは精々やつがL種――つまり獣人という事と前黒死皇派のトップの盟友という事くらいサ」

 

 

「前黒死皇派のトップ?」

 

 

「ああ、そうさ。少し厄介な能力を持った爺さんでね。僕が殺した」

 

 

「「「っ!」」」

 

 

その場に居た招待された側の人物達は揃って息を呑んだ。つまり、ここにヴァトラーがいる限り、向こうは仇討として、ここを標的にしヴァトラーと戦い兼ねないのだ。現在の古城よりも格上の存在であるディミトリエ・ヴァトラーがその猛威を振るった場合、周囲へ及ぼす被害は下手をすれば古城以上だろう。それを集、古城、雪菜は察したのだ。その3人の様子をヴァトラーは目で捉え、愉快そうに笑う。

 

 

「ハハハ、古城、コレは競争になりそうだネェ?君らがガルドシュを見付けるのが早いか。それとも、連中が攻め入るのが先か。面白くなりそうじゃないカ!!ハハハ!!」

 

 

まさしくヴァトラーは戦闘狂と呼ぶに相応しいだろう。この洋上の小さな島で彼クラスの吸血鬼が暴れれば如何なるかは容易に想像がつく。それを感じ、集は背筋が凍った。

 

 

彼らは退けない状況になってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。それが昨日の顛末か。………まったく碌な事をせんな、蛇遣いめ」

 

 

『オシアナス・グレイブ』での船上パーティーから一夜明け、集は南宮那月の執務室を訪れていた。船上パーティーで何があったのかを報告するためだ。執務室にはいつも通り那月とアスタルテが居た。アスタルテは早速集と昨日購入した私服に身を包んでいる。少し長めのチュニックにデニムのホットパンツといった格好である。実は那月が着せ替え人形状態にして、遊びでそういった格好なのだが、それを集が知る由はなかった。現在は昼休みであり、昼休みが開始した時間と同時に集はここへ来て報告を行っていた。

 

 

そして集からの報告を聞き終わり、那月は忌々しそうに窓の外を眺める。ヴァトラーの居る『オシアナス・グレイブ』のある方角だ。

 

 

「まぁ、だがその情報でナラクヴェーラの石版にも得心がいった」

 

 

「ナラクヴェーラ?」

 

 

那月は回転式の執務椅子をくるりと回転させ、デスクの上にある資料を集へと差し出す。それを目で流し読みし、ある程度読んだところで視線を上げる。

 

 

「………『天部』の古代兵器、ですか?」

 

 

「ああ、そうだ。『天部』については知っているな?」

 

 

「少しですけど。確か旧時代の亜神種族でしたっけ?」

 

 

「ああ、そうだ。その連中が作った古代兵器というやつさ…………一応、知り合いのウェポンディーラーの言葉を借りると、『今ではろくすっぽ動きもしない筈の骨董品』だ」

 

 

那月は苦々しそうな表情で指でデスクをコツコツ叩きながらそう言った。

 

 

「………けど、黒死皇派が手に入れた兵器が仮にそのナラクヴェーラだとしても、動かない筈、なんですよね?」

 

 

「ああ、そうだ。昨夜アスタルテの代わりに、その知り合いのウェポンディーラーと共にカノウ・アルケミカル・インダストリー社にガサ入れをした。その時そこにあったのがナラクヴェーラを起動する石版だ。……ま、コピーだったがな」

 

 

「………つまり、その会社は黒死皇派の?」

 

 

「いや、一部賛同者(シンパ)が紛れていただけだ。それに、その石版自体手に入れても仕方がない」

 

 

「と言うと?」

 

 

「世界中の学者連中がこぞって解析に乗り出したが全て徒労に終わるような難解なものだったからだ。どういったアルゴリズムで組まれているのか?言語体系、年代、その他etc、全てが解らなかった」

 

 

「なるほど。『動けない筈』っていうのは、そういう事ですか」

 

 

「ああ、そういう事だ。だが、念のため東條を始めとした連中や、特区警備隊(アイランド・ガード)は既に動かしてある」

 

 

「ん?東條を始めとした、とは?」

 

 

「さっき話に出てきたウェポンディーラーだ。鬱陶しい女狐だ、精々会ったら注意するんだな。アイツは面白そうな奴は私兵に引き込もうとするからな」

 

 

「あはは……」

 

 

そこでガチャリと執務室の扉が開いた。入って来たのは、古城と雪菜だった。

 

 

「邪魔するぜ、那月ちゃ――がっ!!?」

 

 

「せ、先輩!?」

 

 

「何度言えば分かる!教師を"ちゃん"付けで呼ぶな、暁古城!」

 

 

古城は入ってくるなり、那月の手元に置いてあった分厚い辞書による攻撃を受けた。それが、丁度鼻の先端に当たり、痛みで苦悶の表情を浮かべ、患部を押さえる。

 

 

「痛〜〜………ん?なんだ、桜満も来てたのか?」

 

 

「うん、まぁ僕の用事は丁度終わったけど。じゃあ南宮先生、僕はこれで失礼しま――」

 

 

「ああ、ちょっと待て。帰る前に、隣で寝ている奴に会っていけ。昨夜の作戦への参加で今は疲れて寝てるんだが、貴様も無関係ではない人間だ。――アスタルテ」

 

 

那月が呼ぶと、控えていたアスタルテが前へ出て、集を先導する。古城たちと入れ替わる様にして、集とアスタルテは那月の執務室を出た。そして、執務室の普段は空き教室になっている扉を開けると、ソファに少年が眠っていた。Tシャツに半ズボンというラフな格好で、暑かったのだろうか、彼が落としたとみられるタオルケットが床に落ちていた。

 

 

そして、扉が開いて数瞬経つと、彼は気配を察した様にガバリと起き上がった。まるで野生動物である。それが集が最初に抱いた、この少年に対する印象だった。年齢は自分よりは確実に下だろう。12〜14歳くらいだろうか?銀髪に褐色の肌、赤い瞳の下に傷跡を持つ少年だ。

 

 

 

「………タレ?」

 

 

「たれ?……あぁ、誰、の事かな?えぇと……日本語分かる?」

 

 

集が問うと、少年はコクリと頷く。どうやら、意思疎通は可能な様だ。

 

 

「ベンキョしたカラ。まダ、にがてだケド」

 

 

「そっか。僕は桜満集。初めまして」

 

 

集が握手をしようと手を伸ばすが、少年がそれに応じる事は無かった。少年自身が物凄く驚いたような表情のままフリーズしてしまっていたからだ。何かしてしまったのだろうかと集は焦るが、少年の口から出た言葉に平静を取り戻す。

 

 

「………ゴメンナサイ」

 

 

「え?」

 

 

「……………ボクハ、いのりをマモレナカッタ」

 

 

ガシッと集は少年の腕を掴んだ。それもそうだろう。その名前が出たのだ。冷静でいられるはずが無かった。少なくとも、集にとっては。

 

 

「いのりを……いのりを知ってるの!!?」

 

 

「………ボクハ、ジョナサン・マル。みんなはボクのこと、ヨナとよぶ」

 

 

ヨナは小さく頷き肯定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな一室。ここには大した灯りもなく、最低限の生活が送れる機能しか備わっていない。だが一応清潔に保たれている事から、狭い部分に目を瞑れば、決して良い訳ではないが、悪い訳でもないだろう。

 

 

そんな一室に光が射す。扉に備え付けられている、外から様子を伺う為に金属板をスライドさせた事で、そこから光が射し込んだ。部屋の片隅で膝を抱え、顔を埋めていた少女が光を鬱陶しそうに目を細める。

 

 

少女の格好は軍人が着るもの一式で統一されており、トップスはタンクトップの上から上着を着ている。ボトムスはまさしく軍用といったカーキ色の使われた若干厳つい感じのするソレだ。

 

 

「………仕事?」

 

 

少女は感情の籠っていない空っぽの言葉を外に居る人物へと投げつける。

 

 

「ああ、そうだ。約束通り日本には着いたが、まだ実験は終了しきっていないからな。どうだね?外へ行きがてら、我々に協力するというのは?」

 

 

「………拒否権はないでしょう?」

 

 

「………まぁ、そうなのだが」

 

 

少女はもう一度顔を埋めて、何かを呟いた後に視線を扉から覗くその双眸へと向ける。

 

 

「何をすればいい?」

 

 

「人を一人、ここへ招待したい」

 

 

「私の時みたいに?」

 

 

「下手をすれば、それよりも手荒になるかもしれないがな。だが、むさ苦しい我々だけで行くよりも、せめて女性が1人居るだけでも、相手の警戒心は解けそうだろう?」

 

 

「………分かったわ」

 

 

少女はゆっくりと立ち上がる。ここへ来てから、データの採取以外はここへ入れられている。少しでも外の様子を、少女は知っておきたいのだ。

 

 

少女の名前は楪いのり。南アジア某国にて組織に捕まった少女だった。

 

 

だが、いのりは1つの絶望を抱いていた。それは、ここが自分の居た世界と異なる事だ。これでは、彼女の想い人に会う事は不可能だ。どういった事が起こったのか?それは、いのりにも分からない。だが、異世界である限り、会う事は不可能だろう。彼女はそう考えていた。それが、彼女の絶望だ。

 

 

ここが異世界である事は、割と早くに気付けた。周囲の人物たちが時折姿が変わるのだ。話を聞くと、疑惑は確信へと変わった。

 

 

既に生きる目的をほぼ見失っているのと同義だった。だからこそ、ここで言う事を聞くしかない。

 

 

幸いなのは、彼らが誇り高い軍人という事だろう。いのりは捕まってから、その身を穢された事はない。そこは、ガルドシュがテロリストと言えど、厳格な人物である事が影響しているのだろう。

 

 

「そう言ってくれて助かる。ターゲットは彼女だ」

 

 

写真を投げ入れられて、いのりはそれを光に翳した。

 

 

「………学生?」

 

 

そこに写っていたのは、金髪のいかにもギャル風な少女だった。だが、何処となく可愛らしさが残っている。そんな少女だ。

 

 

「当然ただの学生ではない。彼女の名前は藍羽浅葱」

 

 

「藍羽…浅葱」

 

 

「さぁ、出ろ、歌姫(ディーヴァ)

 

 

扉が開き、歌姫(ディーヴァ)と呼ばれた少女は外へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は先ほど何を呟いたのだろうか?それは、獣人であるガルドシュの耳には届いていた。消え入るような声で、彼女はこう言ったのだ。

 

 

 

『……タスケテ、シュウ』

 

 




さてさて、前書きでは原作について書きましたが、後書きは本作の事を書いておきましょう。


いのりは、集もこの世界に居る事を知りません。そりゃそうだ。コンタクト取れないんだから。だからこそ、絶望してるわけですね。そこを体よく、ガルドシュに利用されてる感じです。


まぁ、多分、再会するタイミングは下手すると、最悪の形になるのかなー・・・


そして、ヨナも再登場。彼らにも、折角なのでイロイロ動いてもらいましょう。(って言うか、既に那月に協力したりしてるんですけどね)


ではでは、また次回!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。