Blood&Guilty   作:メラニン

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上流階級の言葉遣いとは・・・


まぁ、取り敢えずどうぞ!


戦王の使者編III

絃神島ほぼ中央に位置するキーストーンゲート。その側には特区警備隊(アイランド・ガード)の隊員詰所がある。重要な設備の多いキーストーンゲートに特区警備隊(アイランド・ガード)が集中するのは当たり前の事だろう。

 

 

 

そして、そのブリーフィングルーム。室内にはプラチナブロンドで常に笑みを浮かべているが、その眼の奥には底知れないものが眠っているように感じてならない女性が座っており、タブレット端末をいじって遊んでいた。そして、その背後に控えるようにして、金髪の屈強そうな白人男性が壁際に立っている。さらに、女性と並んで座っている少年がいる。銀髪に赤い瞳、褐色の肌をした少年だ。

 

 

それらの存在と向き合う様にして、メガネを掛けたこちらも屈強そうな男性が座っていた。室内に居るのは以上の四人である。だが、次の瞬間に室内の人数は5人に増えた。上座に当たる席に急に現れたその人物に一斉に視線が集まる。常夏の絃神島では考えられない様な、フリフリのゴスロリ服といった様相の人物だ。手にはレースの付いた黒い扇子を携えており、どこか偉そうな態度だが、その華奢な体型から子供が背伸びをしている様にも見えなくはない。もちろん、この様な言を呈すれば、本人は持っているその扇子やら日傘などで、体罰を与えるのだろうが……

 

 

「フフーフ♪相変わらず、重役出勤ねぇ、ナツキ」

 

 

「貴様も相変わらずだな。HCLIココ・ヘクマティアル。その人を食ったような性格は治らんのか、女狐」

 

 

ふざけた調子の女の言葉を那月は一閃する。すると、言われた方の女性は隣に座っている少年に抱きつく。

 

 

「がーーん………ショーック!ねぇ、ヨナもそう思うよねー?」

 

 

「………ココ、あつい」

 

 

女性に抱き締められた少年は、露骨に嫌そうな顔をし、ココを押し退けようとする。その様子をその他2人の大人の男性が羨んで見えたのは気のせいではないだろう。

 

 

「………貴様、本当に少年兵を私兵に引き入れたのか?」

 

 

「そうよ。ヨナって言うの。それと、元少年兵よ?こう見えて、この子優秀よ?」

 

 

「相手は獣人だぞ?問題ないのか?」

 

 

「フフーフ♪実際に見れば分かるわ」

 

 

那月は本業の職業柄、本来子供が戦う事を賛成はしない。だからこそ、しょっちゅう首を突っ込む教え子に対して厳しく接しているのだ。それは、目の前の少年兵も同じだ。だが、話を聞く限り、今回の事件に無関係ではないらしい。そうなると、真っ向から反対はし辛かった。

 

 

「……まぁ、いい。其方からの参加はそれだけか?貴様の周りにいつも居る私兵どもはどうした?」

 

 

「それが聞いてよ!この島、どこぞの国会よりガード固すぎよ!仕方ないから、他の皆は本土の方でお留守番。もー、バルメを説得するのにはホンット疲れたわよ」

 

 

ココは思い出しただけでも、しんどいといった様子で話す。その様子に、ココの背後に立つ金髪の男性は苦い顔をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エコー?ちょっといいですか?』

 

 

『何すか、姐さん?』

 

 

『もし、ココに何かあれば、死よりも辛い目に合わせるので………自分の存在が大事なら――分かってますよねぇ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

といった具合に脅されてきたのだ。その時の迫力を思い出し、胃が痛んだのか、患部を押さえ前屈みに姿勢を崩す。それを察したヨナが振り返り、話しかける。

 

 

「どうしタの、エコー?」

 

 

「ヨ、ヨナ坊、お前は姐さんの、あの脅しに何も感じなかったのか?」

 

 

「だはは!相変わらず面白い奴だな、エコー」

 

 

「笑うな、トージョ!お前は姐さんの怖さを分かってない!」

 

 

作戦前だというのに、緊張感の欠片もない彼らを見て那月は額に手を当て、疲れたように溜息を吐く。

 

 

「ナツキ、お疲れ?作戦はこれからよ?」

 

 

「誰が原因だ、誰が」

 

 

「フフーフ♪これ以上はナツキが拗ねちゃうから、さっさと会議始めちゃおっか」

 

 

ようやく本題に入り、5人は作戦を立案していく。そして、スクリーンにはターゲットが表示された。ターゲットは2つ。一つは古代文字の書かれた石板、そしてもう一方は桜髪の少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイランド・ウェストの複合ショッピングモール。様々な商業施設が混在しているここへ来れば、大抵のものは揃うと言われるほど島内では有数の巨大商業複合施設だ。特に最近は新しく島外から様々な企業が店を出すようになり、連日賑わいが増していた。

 

 

特に新規のアパレルメーカーの参入が激しく、新たな店が現れては消え、を繰り返していた。そして、そういった面に明るいのは、やはり男性より女性なのだろう。各店舗に客として訪れている人物たちの大半は女性が占めている。そして、客で賑わうとある店舗に、その場にそぐわぬ人物がいた。桜満集である。

 

 

 

 

ディミトリエ・ヴァトラーからの船上パーティーの招待状にはパートナーを同伴させる事と書かれていた。集は那月に同行を依頼したが断られ、代役として人工生命体(ホムンクルス)であるアスタルテが同行する事になったのだ。しかし、一つ問題があった。それはアスタルテの服装だ。彼女はメイド服のみしか持ち合わせがないと言うのだ。さすがにメイド服のまま船上パーティーに参加させる訳にもいかず、パーティー用のドレスを調達するために女性物が揃っている店舗に入ったのだが…………

 

 

「…………ものすごく居辛い」

 

 

現在集が居るのは試着室の前。試着室の中ではアスタルテが着替えを行っており、それを待っている状態だ。しかし、ただでさえ女性用の店舗内では男性の姿があれば目立つ。その上、アスタルテは店に入るとき、メイド服の状態のままだった。学生とメイドという、その珍妙な組み合わせは嫌でも目立ち、注目を集めた。集の事を遠巻きに見ている女性数名は何やらヒソヒソと話している。その事からも、今この場は男性にとって非常に居づらい場所だろう。

 

 

「服装の変更、完了しました。問題ないでしょうか?」

 

 

ようやく試着室のカーテンが開き、アスタルテが出てくる。オレンジを基調にしたワンピースタイプのドレスであり、胸元から上が開いているベアトップになっている。膝上までの丈の裾は、アスタルテが動く度に揺れ、妖精のような少女であるアスタルテにピッタリだった。また、腰のあたりにアクセントとしてリボンが(しつら)えてあり、それが一層アスタルテの可愛らしさを強調していた。

 

 

「うん、いいんじゃないかな。よく似合ってると思うよ。動き辛いとかはない?」

 

 

肯定(ポジティヴ)。運動性の低下はみられません。戦闘にも支障はないものと判断します」

 

 

「戦闘、かぁ……できれば無い方が有難いんだけど………ま、問題無いようなら、それにしよう。えっと……すいませーん!」

 

 

集は試着室近辺に居る店員を呼びつける。それを聞いた店員はすぐさま駆け付けて、アスタルテを見る。実はアスタルテのドレスをチョイスしたのはこの店員であり、試着室近辺で待機していたのは、アスタルテのドレス姿を見るためであったりしたのだが……

 

 

「うんうん!やっぱりよくお似合いです、お客様!」

 

 

「はい、本人も気に入ったみたいなので、コレでお願いします」

 

 

「分かりました。他に何かお入り用なものは御座いませんか?あ、そうだ!お履物は大丈夫ですか?」

 

 

「あーーと………そっか。じゃあ、そっちもお願いできますか?」

 

 

「はい!もちろん!あ、けど、あちらのお客様の対応後で宜しいでしょうか?」

 

 

「はい、構わないですよ」

 

 

そう言うと、店員はいそいそと駆け出していく。忙しい店だなと、集は思っていると、アスタルテが急に集へ疑問を投げかけた。

 

 

「桜満集へ質問があります」

 

 

「ん?何?」

 

 

「先日の事件の際、真っ先に私の救命措置を提案したのは、あなたと聞いています。数分前まで殺し合っていた私を救出した理由を教えてください」

 

 

淡々と呟く人工生命体(ホムンクルス)の少女に、集は少し困ったように笑いながら答えを返す。

 

 

「………少し似てたから、かな?」

 

 

「それは、あなたの要救助対象である人物とでしょうか?似てはいないと、思いますが」

 

 

「うーーん………見た目が、じゃなくて何処か雰囲気がさ。いのりも初めて会った頃は今のアスタルテみたいに感じたんだ。そう言えば、必要な事しか喋らないようなところは似てるし」

 

 

「………情報提供に感謝します」

 

 

「ううん、いいよ別に」

 

 

「お待たせしました、お客様!丁度、ドレスに合いそうな色合いのものが――」

 

 

店員が靴を持って戻ってきた事で、その話題は終了した。その後店を変えて、那月から依頼されたようにアスタルテの服を買い求めたのだが、その店でもドレス姿のアスタルテと、学生服の集の組み合わせは注目の的になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月が昇り路面を明るく照らす頃、暁古城と姫柊雪菜は港に停泊しているメガヨットの元まで来ていた。タクシーの会計を済まし、降車した古城は巨大なその船体を見上げる。

 

 

「『オシアナス・グレイブ』……『洋上の墓場』か。趣味の悪い名前だな」

 

 

古城はタキシードのブラックタイで締まる首元を指で緩めながら呟いた。船上パーティーという事で、当然古城もしっかりとした服装に身を包んでいる。何故か獅子王機関から送られてきたものであり、大して持ち合わせのなかった古城にとっては有難い事だった。そして、その後ろからはギターケースを肩に提げた雪菜が古城に続いて降車してきた。

 

 

「先輩、せっかく着たんですから、着崩さないで下さい。ほら、またタイが曲がってます」

 

 

「う……すまん」

 

 

雪菜はその細い腕を、古城の首へと伸ばし、曲がったブラックタイを直す。その時、近付いた雪菜から漂う匂いが古城の鼻腔をくすぐり、一瞬吸血衝動が起こりかけるが、グッと堪える。その様子を察してか、雪菜の視線は軽蔑しているようなものに変わる。

 

 

「先輩……またですか?」

 

 

「し、仕方ないだろ!この体、嗅覚も上がってるんだよ!それにその、だな………今の姫柊の格好は少しその……刺激が強いというか…」

 

 

「〜〜っ!!」

 

 

古城の言葉を聞くと同時に雪菜は手で体を隠すようにして、一気に距離を置く。雪菜のパーティードレスも古城のタキシード同様に獅子王機関から送られてきていた。オーダーメイドで作られたそれは、白地に紺色のパーティードレスで、肩より上はカットされている。また、フリルのあしらってあるスカートからは、白い足が覗いている。さすがはオーダーメイドで作られただけあってか、雪菜を際立たせるのによく似合っている。だが古城にとっては、嬉しくある反面、困る面もあるという事で微妙なところだ。当然困る原因は古城の吸血衝動だ。

 

 

「………本当にいやらしいですね、先輩は!」

 

 

「う……」

 

 

雪菜は警戒心を剥き出しにしている様な状況だ。これからが大変だというのに、今のままだと大変だろうと思い、古城はなんとか雪菜の機嫌を直す術を探す。

 

 

「ん?姫柊、そんなヘアピン持ってたか?」

 

 

「え、あ、コレですか?」

 

 

古城が指差したのは雪菜が髪にしている銀の十字架を形どったヘアピンだった。

 

 

「これは以前ルームメイトから貰ったものです」

 

 

「あー……確か、まい…まい……まい?」

 

 

「………『舞威姫』です、先輩。呪詛や暗殺を得意とするっていうのは以前言いましたよね?」

 

 

「あ、あー、ソウダッタナー」

 

 

雪菜は古城の曖昧な生返事に辟易しつつ、ため息を漏らす。

 

 

「先輩の知能が大丈夫か、疑わしいです」

 

 

「そこまで言うか!?」

 

 

夫婦漫才を繰り広げる古城と雪菜だったが、もう一台来た別のタクシーのライトに気付き、そちらを確認する。2人の前で停車すると、しっかりとドレスアップした集とアスタルテが出てきた。集は古城同様にタキシードであり、アスタルテは先ほど買い求めたオレンジのパーティードレスだ。

 

 

「こんばんは、古城、姫柊さん。2人とも早いね」

 

 

「よう、桜満。早いって言っても、俺と姫柊だってさっき着いたばかりだぞ?…………ってか、桜満?桜満のパートナーって……」

 

 

古城の視線はオレンジを基調としたパーティードレスに身を包むアスタルテへと向いていた。それは雪菜も同様だ。

 

 

「あ、あの、アスタルテ…さん?な、何でここに?」

 

 

「アスタルテで結構です、姫柊雪菜。お久しぶりです」

 

 

「あ、はい、お久しぶりです」

 

 

集は、あぁなるほどと相槌を打つ。事件後、割とすぐに集とアスタルテは会ったが、この2人は会っていなかったのだ。

 

 

「そう言えば、あの事件以降2人は会ってなかったんだっけ。アスタルテは今、南宮先生の元で保護監察処分中なんだって」

 

 

肯定(ポジティヴ)。これからよろしくお願いします」

 

 

「こ、こちらこそ?でいいのか?」

 

 

困惑する古城だが、それを無視してアスタルテは船体を見上げる。アスタルテもこれほど巨大な船を見たことは無いのだろう。アスタルテは今まさに実際に見て、学んでいるわけだ。

 

 

「……古城、分かってると思うけど相手は多分、今の古城より格上の存在だよ。頼むから諍いは勘弁してよ?」

 

 

「…………なぁ、お前らの中で俺の存在ってどうなってるんだ?」

 

 

「トラブルメーカー」

「いやらしい吸血鬼」

「第四真祖」

 

 

各々の意見を聞き古城は項垂れる。アスタルテのそのままの指摘はいいとしても、残り2人が自分をどう思ってたのか知ったことが、若干ショックだったのだ。

 

 

「ほら、古城、そろそろ行かないと。メインで招待されてるのは古城なんだから」

 

 

「そうですね。こういった席で相手を待たせては礼節に欠けますし。行きましょう、先輩」

 

 

「………はぁ」

 

 

夜の港に古城の疲れた溜息が消えていった。第四真祖と『ジョーカー』、また彼らに付き添う2人の少女は洋上に浮かぶ船へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オシアナス・グレイブ』の船内の一室。絃神島で比較的大きな実権を持った人物ばかりが集まっており、さながら上級貴族の立食パーティーのような形になっている。そこにやや緊張気味の一団がいた。言うまでもなく、暁古城、桜満集、姫柊雪菜、アスタルテの四人だ。アスタルテはまだしも、他3人は多少違いはあれど、明らかに緊張していた。

 

 

「………なぁ、俺たち場所を間違えたんじゃないよな?」

 

 

「もう、先輩!シャンとして下さい!先輩は第四真祖。下手をすればこの島の統主と見られてもおかしく無いんですよ?」

 

 

「無茶言うな。中身はただの高校生だぞ?」

 

 

「まぁ、古城の言うことに一票。早いところ招待主に会おう。ここに居たら嫌でも目立つし」

 

 

彼らが立っているのはパーティー会場でも大分隅っこの方に立っているのだが、それでも大人に見えない彼らは目立っていた。目の前を通る大人たちからは必ず視線を向けられるし、遠くでは何かヒソヒソと話している者までいる。確かに、居心地はよろしくないだろう。

 

 

「とにかく、一旦デッキに出ましょう。そこから出れるみたいですし」

 

 

雪菜の言に従い、一行は一旦船外のデッキへと出る。若干湿度の高い空気が纏わりつき、不快に感じるが、それでも他人の視線が絡みつく船内よりはマシだろう。ひとまず落ち着いた彼らは、雪菜の提案で上を目指す。デッキに備え付けられた階段を上り、上段のデッキへと出る。だがその瞬間――

 

 

「古城、下がって!」

 

 

「うおっ!?」

 

 

集はソレに気付き、すぐさま身体能力を上げる。上方から銀色をした何かが飛来してくるのが見えたのだ。咄嗟のことなので、ヴォイドを発現する暇はない。それを思い、集は右腕でそれらを防ぐ。何本かは弾き、顔の中心へと迫った物は見事に掴んで見せた。その際、弾いたことが原因で掌の人工皮は少しばかり削れてしまった。だが、襲撃はそれだけでは終わらなかった。

 

 

「ぐ…おっ!?」

 

 

「古城!?」

「先輩!?」

 

 

後ろに下がらせた古城目掛けて、巨大な閃光が飛んできたのだ。それは炎に包まれた蛇の眷獣だった。周囲は熱気と炎に包まれ、何かが焼け焦げるような匂いが一気にむせ返る。雪菜はギターケースから雪霞狼を抜き放ち、駆け付けようとするが、何かに気付いた集が、雪菜の腕を掴み静止させる。

 

 

「放してくださ――」

 

 

「アスタルテ、防御を!」

 

 

命令受諾(アクセプト)実行せよ(エクスキュート)、『薔薇の指先(ロドダクテュロス)』」

 

 

アスタルテは集の指示通り前面に『薔薇の指先(ロドダクテュロス)』の腕部分を展開し、雪菜の雪霞狼が持つ『神格振動波駆動術式』と同スペックの防御膜を張る。それにより、集と雪菜は守られる。次の瞬間、轟音と共に蛇の眷獣へと雷が落ちたような衝撃が走った。正確には雷が落ちたのではなく、眷獣の中を突き破って放出されたのだ。だが、その余波はデッキの上にあった物すべてを遥か彼方に吹き飛ばした。

 

 

アスタルテの防御がなければ、集と雪菜もその熱と雷撃による爆発で最悪吹き飛んでいただろう。その証拠に船全体が振動し、その大きさを物語っている。

 

 

「はっ…はぁ……はぁ………な、なんだ、今のは?」

 

 

「先輩、無事ですか!?」

 

 

雪菜が駆け寄り、古城の無事を確認する。着ているタキシードはところどころが焦げてはいるが、目立った外傷は無かった。それを確認し、雪菜は胸を撫で下ろす。そして、何処からともなくパチパチという乾いた音が聞こえ、そちらへ視線を向ける。そこには白いスーツに身を包んだ金髪碧眼の年若い青年が拍手を送っていた。古城たちの視線が集まるのを察すると、彼は口を開く。

 

 

「さすがにあの程度の攻撃では傷を付けることも叶わないカ。さすがは第四真祖といったところかナ?」

 

 

どこか演技掛かった喋りをする青年に古城と集は、それぞれ警戒し己のパートナーの前に立つ。古城は懐に仕舞ってあった黒い招待状を出し、印璽の押してある裏面を見せる。

 

 

「あんたか?この招待状を出したのは?」

 

 

「ああ、その通り。今宵は僕の招待を受けてくれた事を有り難く思うよ。さて……」

 

 

そこまで言うと、青年は姿勢を正し、恭しく頭を垂れる。口調も先ほどのものと変わり、貴族のそれに変化していた。

 

 

「御身の武威を検するがごとき振る舞いに、衷心よりお詫び申し奉る。我が名はディミトリエ・ヴァトラー。我らが『忘却の戦王(ロスト・ウォーロード)』よりアルデアル公の爵位を賜りし者。今宵は御身の尊来をいただき恐悦至極」

 

 

急な変化にしどろもどろする古城だったが、その場に響き渡った少女の声で注意が逸らされる。

 

 

「雪菜ーー!!」

 

 

「さ、紗矢華さん!?」

 

 

古城を無視して雪菜へと飛び付いた彼女は、抱きしめた雪菜へと頬ずりを始めた。古城たちは呆気に取られるが、雪菜は慣れているのか、一旦彼女を押し退けて落ち着かせるよう試すが――

 

 

「ちょ、さ、紗矢華さん!一旦止めてください!」

 

 

「ああ、久しぶりの雪菜!雪菜、雪菜、雪菜!」

 

 

全く効果が無かった。雪菜本人の制止も聞かず、雪菜を離そうとしない。足の部分に深いスリットの入った、チャイナドレス風の衣装を着た彼女は雪菜に頬ずりを続ける。さすがに呆気に取られていた古城も黙ってはいれず、彼女の後頭部にチョップで一撃を見舞う。

 

 

「きゃうっ!……何すんのよ!?」

 

 

「それはコッチのセリフだ!姫柊のやつも困ってるだろうが!」

 

 

「ふん!あんたに雪菜の何が分かるのよ?言っとくけど、あんたなんかより私の方が、よっぽど雪菜との付き合いは長いんだからね。そこんとこ肝に銘じときなさいよ、変態真祖!」

 

 

「誰が変態真祖だ!?いきなり現れて何なんだ、お前は!?」

 

 

「ふん!初対面の女の子に対して怒鳴ってばっかり。これが吸血鬼の頂点に立つ真祖だなんてお笑い種ね!」

 

 

「な!?そっちだって初対面で暴言連発してんだろうがっ!――っ!?」

 

 

古城はそこまで言って口を閉じた。それは自分の喉元に突きつけられた銀色のモノが原因だった。それは先端が3つに分かれている食器――つまりはフォークである。それは先ほど集が掴んだものと同じ物だった。つまり先ほど集へ向けられた攻撃も彼女が行ったものという事だろう。

 

 

「私は獅子王機関に所属する『舞威姫』煌坂紗矢華(きらさか さやか)。雪菜に近付く変態真祖を呪い殺すのが私の使命よ。分かったら私たちの半径5m以内に近付かない事ね!」

 

 

これが敵意を剥き出しにした『舞威姫』を名乗る少女との、初めての邂逅だった。

 

 

 

 




那月とココは友人という設定にしました。その方が面白そうだし。


そして、最後の方のちょろインさんの雪菜の名前を連呼するとこは、書いてて鳥肌が立ちました。(あれ、こいつ病気じゃね?・・・いやいや、やめよう)


さて、ではでは、また次回!

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