Blood&Guilty   作:メラニン

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ちょろインさんの、式神襲来のお話と、『オシアナス・グレイブ』の船上パーティーのパートナーの話です。


はい、集も参加させます。けど、パートナーどうしよう?
と、思ってたら、適任がいるじゃないか。ふふふ・・・


では、どうぞ!


戦王の使者編II

 

授業の終わった放課後。各生徒は球技大会の練習の為に各々が練習場所に集まっていた。と言っても、用事のある生徒などは既に帰宅しており、元々やる気の無かった古城も浅葱を待つのに飽きて、帰ろうかなどと考えていたところを、集に捕まっていた。2人は校舎の付近にある自販機で飲み物を購入し、ベンチに並んで座っていた。

 

 

「あー、アチい。焼ける……くそ〜、帰ろうと思ったのによぉ……」

 

 

「そんな事したら、また藍羽さんに怒られるよ?」

 

 

「だってよー、高校生にもなって球技大会って、盛り上がりに欠けないか?」

 

 

古城は冷えた缶ジュースを額に当てながら、気怠そうに隣にいる少年に愚痴を溢す。ギラギラと地面を照らす太陽を避けて、木陰に入ってはいるが、吸血鬼である古城にとってはツライ事には変わりないのだろう。

 

 

「そこは人それぞれだと思うよ?運動好きな人だったら、球技大会でも盛り上がるんじゃない?」

 

 

「一応、運動好きな俺は盛り上がってないんだが?」

 

 

「そこは、『人それぞれ』って言ったでしょ?藍羽さんは、ああ見えて乗り気みたいだから、協力してあげるのも悪くないんじゃないかな?いつも宿題とかではお世話になってるんだし」

 

 

「う……」

 

 

古城はいつも呆れられつつも、協力してもらっている事を思い出し、苦い顔をする。

 

 

「そういう、桜満は矢瀬とペアなはずだろ?矢瀬はどうしたんだよ?」

 

 

「何だか家の用事とかで帰ったよ?仕方ないから、他のペアに混ぜてもらって練習するつもり」

 

 

「はぁ、桜満はマジメだな」

 

 

「古城は抜けすぎじゃない?」

 

 

「ほっとけ」

 

 

古城は口を曲げ、不機嫌そうに返す。それに対して、集は苦笑いしつつ口を閉じる。だが、そんな平和なやり取りも、次の瞬間に終わりを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、2人の座っていたベンチが破裂したのだ。ベンチの僅かな異変にいち早く気付いた集が、古城の背を押し、自分もベンチから距離をとった。それにより、ベンチの破裂に巻き込まれる事は無かった。

 

 

「な、何だ、今のは!?」

 

 

「分からな――伏せて!」

 

 

「むぐっ!?」

 

 

集は古城の後頭部を押さえつけて、無理矢理頭を下げさせた。その瞬間、その上を鋭い爪が掠める。

 

 

『グルル………』

 

 

「な、何だ、コイツら!?」

 

 

「多分……式神って物だと思う」

 

 

頭を上げ前を向くと、そこに居たのは金属で出来た躰を持つ2頭の獅子型の式神だった。大きさは実物と変わらないくらいだが、その金属光沢は当然実物には無いものだ。集はすぐさま、瞳を赤くし臨戦態勢を取る。この時間は、幸い球技大会の練習で一般の生徒が付近に居ないことが救いだろう。集もそれが分かっているからこそ、遠慮なくヴォイドを発現する。発現したのは『すべてを断ち切るハサミ』だ。

 

 

「古城は下がって!古城の眷獣だと目立ちすぎる!」

 

 

「ぐ…確かに」

 

 

集の言葉に古城は苦い顔をする。確かに古城の持つ第四真祖の力は強力だ。しかし、強力すぎるが故に、その規模は周囲に甚大な被害をもたらす。それを今ここでやられたら、たまったものでは無い。だからこそ、集は自分だけで状況に対処しようとしたのだ。

 

 

 

 

まず、仕掛けたのは集だった。引き上げた身体能力で一気に式神に肉迫する。その速度は式神の反応できる速度を上回っていた。古城もその一瞬で見ることが出来たのは、既に式神をすり抜けた後の集の姿だった。式神はすれ違いざまに集に斬られ、斜めに真っ二つに切断された。

 

 

「すげえ………っ、桜満!後ろだ!!」

 

 

『ガアァァ!!』

 

 

一瞬惚けていた古城だったが、もう一体の方が集に飛び掛かるのを見て、集へと警告を飛ばす。だが、集はそれを見越していた様に、迫り来る爪を身を(ねじ)るようにして躱した。そして、それだけでは終わらない。爪が横を通り過ぎる瞬間にハサミを、獅子がこれから通るであろう進行方向に置き、そのまま振り抜いたのだ。カウンターの要領で繰り出された斬撃は見事に、獅子型の式神の首を撥ね飛ばした。

 

 

「先輩!大丈夫ですか!?」

 

 

集がハサミで式神の首を撥ね飛ばした直後、丁度黒いギターケースを背負った雪菜が現れた。服装は今朝衣装合わせをしていた時のチア服だ。

 

 

「姫柊?どうしてここに?」

 

 

「校舎に放ってある、式神が反応したので急いで来てみたんです。また先輩に暴走されたら困りますから」

 

 

「………姫柊。お前、俺のこと破壊神かなんかと勘違いして無いか?」

 

 

「そうは思ってないですけど、そう言われても仕方ない力を先輩はお持ちですよね?」

 

 

「そ、そうだけども……」

 

 

雪菜は小さく溜息を吐くと、集の方を見る。集は既にヴォイドを仕舞っており、目も元の色であるダークブラウンに戻っていた。

 

 

「けど、桜満先輩が居てくれて助かりました。暁先輩だけだったら、どうなってたか」

 

 

「おい!」

 

 

「はは、まぁまぁ、古城。人には得手不得手があるんだしさ。それに、古城もその内力のコントロールを覚えられるんじゃない?」

 

 

「いやいや、もう第四真祖なんて力を使う機会なんか、そうそう無いだろ」

 

 

「うーーん、それはどうかな?」

 

 

古城の言葉に集は、否定するように返した。集がそう言った原因は、その手にある手紙だった。集の手には2通の黒い手紙が握られていた。どこか重々しさを感じるそれを確認し、古城はその正体を問う。

 

 

「何だ、それ?」

 

 

「さっきの式神が消えたら、これだけが残ったんだよ。で、裏には……」

 

 

そう言って、集は裏面を古城に見せる。そこには、片方は『Dear Mr.Kojou Akatsuki』と書かれており、それを見て古城は疲れた様に項垂れる。

 

 

「片方は俺宛かよ………って事は、もう片方は……」

 

 

「うん、僕宛みたいだ」

 

 

そう、もう片方には古城宛同様に『Dear Mr.Shu Ouma』と書かれていた。一体何処のどいつだ、などと古城が呟く一方で、雪菜は裏面に押された印璽(いんじ)に注目していた。

 

 

「この刻印……まさか」

 

 

「ん?何だよ、姫柊。知ってるのか?」

 

 

「はい、確かこの刻印は……けど、そんな事……」

 

 

「あー、まぁそんなにいい趣味の刻印とは言えねえよなぁ……」

 

 

狼狽える雪菜に対して、古城はどこか気の抜けた様な声で返すが、古城の言う通り、刻印のデザインは決して好印象を持てる様には見えないものだった。剣と蛇の意匠が組み込まれたデザインであり、格式の高さを窺わせるが、何処となく不吉と言える様に感じるものだったのだ。

 

 

「あーー、居たー!」

 

 

遠くからいきなり掛けられた大声に、その場に居た3人は一瞬ビクリと身を竦ませた。声の正体はバドミントンのユニフォームに着替えた浅葱だった。薄ピンクのノースリーブのポロシャツに、同色のスコートを着用し、肩にはラケットを入れたと思われるケースを提げていた。

 

 

「なんだよ、浅葱か。急に大声出すなよ。驚いて寿命が縮まると思ったぜ」

 

 

「散々探させておいたんだから、いっそ縮みなさいよ」

 

 

「縮むか!」

 

 

近付きながら声を掛けてくる浅葱だが、視線はチラチラと雪菜の方を確認していた。この時、浅葱は内心で古城を探すのに時間を掛け過ぎたと、後悔していたが、そういった事は表情に出さずに古城たちの目の前まで進み、改めて声を掛ける。

 

 

「で?雁首揃えてこんなトコで何してたのよ?」

 

 

 

「え!?あ、えーーと……」

 

 

「古城がサボろうとしてるのを、ここで捕まえといたんだよ。コッチの姫柊さんは飲み物を買いに来たとこをに出くわしただけ」

 

 

「お、おい、桜満――」

 

 

「ふぅーーん……アンタ、私を置いてサボろうとしてたんだ」

 

 

集が突如ついた嘘に古城は反論を言おうとするが、明らかにお怒りのクラスメイトにそれは止められる。

 

 

「い、いや!サボろうなんてして無いぞ!?」

 

 

「じゃあ、何でここに居るのよ?」

 

 

「そ、それは、体育館で待つのも暇だなと思ってだな………」

 

 

シドロモドロする古城に浅葱は少し呆れた様に溜息を一度吐くと、確かに待たせた自分にも非は有ったのだろうと思い直した。取り敢えずは口には出さずとも、古城を許した浅葱はおもむろに、古城の手首を掴んだ。いきなり、手首を掴まれた古城は驚き、何も行動を起こせないでいる。そして、その状態のまま浅葱は踵を返すと、古城を引っ張る様にして歩き出した。

 

 

「お、おい、浅葱!?」

 

 

「う、うっさい!ほら、じゃあさっさと行くわよ!あ、そうだ。桜満君、古城捕まえてくれてありがとー。姫柊さんも、またね」

 

 

「あ、浅葱!そんな引っ張らなくても――」

 

 

「は、早くしないと、練習時間がなくなるでしょ!」

 

 

「分かった!分かったから、そんな引っ張んなって!」

 

 

遠目で見れば手を繋いでいる様にも見えなくないその光景を、集と雪菜は見送った。ただ、雪菜の方だけは、やや不機嫌そうにしていたのは、決して思違いなどでは無いだろう。それを隣で集はヒシヒシと感じていた。

 

 

「………あの、姫柊さん?大丈夫?」

 

 

「何がですか?私はいたって平常心ですが?」

 

 

いや、明らかに怒ってるでしょ、という言葉を集は飲み込む。火に油を注ぐ事は無いだろうと思ったからだ。集はせめてこの空気をなんとかしようと、手にしてある手紙に話題を戻した。

 

 

「あ、そ、そうだ!そう言えば、この手紙の中身って……」

 

 

集は自分宛の方だけ開けて確認する。中には手紙が一枚入っており、目を通し始めた。雪菜も気になってか、覗く様にして中身を確認する。

 

 

「招待状、ですね。今夜開かれる船上パーティーの、ですか………」

 

 

「うん、そうみたいだね。差出人は……アルデアル公国のディミトリエ・ヴァトラー。確か、第一真祖の治める『戦王領域』の貴族だっけ?」

 

 

「はい、その通りです。けど、何で桜満先輩にまで、こんなものが……?」

 

 

「一応、僕も第四真祖と関わりがあるからじゃ無い?少なくとも僕の情報は獅子王機関とか他にも一部には漏れてるみたいだしね」

 

 

「………桜満先輩が第四真祖としての力を暴走させた暁先輩の意識を奪った事があるから、でしょうか?」

 

 

「うん、そうだと思う。『真祖の意識を奪った』っていう事実は下手をすれば、今ある平和を壊しかね無い事実だからね」

 

 

そう言われ、雪菜は確かにと頷く。真祖の意識を奪える――つまり、それは真祖に対抗し得るだけの力がある事の証明だ。この事実は平和を維持している聖域条約の破綻に繋がり兼ねないのだ。もし仮に、力が悪用され真祖の内の誰かが欠ければ、条約は脆く崩れ去るだろう。

 

 

つまり、集はある意味真祖の天敵、平和の天敵と見られても、おかしく無い状況なのだ。

 

 

「おそらく、桜満先輩を測るのが目的なんでしょうか?」

 

 

「それは実際に行ってみないと分からないけどね。…………けど、姫柊さんにとっては、コレはチャンスなんじゃない?」

 

 

「な、何がですか?」

 

 

集はポンポンと紙面の一行を叩く。そこには、パートナーを同伴する様にという意味合いの文が書かれていた。雪菜は集に指摘されるより前に、目敏くその文を見付けていた。だからこそ、改めて集に指摘されたことで狼狽えたのだ。

 

 

「………今回の招待されたパーティーは、真祖絡みでしょ?だから、いざという時に対応できる人じゃないと、パートナーは務まらないんじゃないかな?」

 

 

「…………それが、何でチャンスなんですか?」

 

 

「今回のパーティーは貴族の開く公式のパーティーなんだよね?という事は、一応古城の『パートナー』であると周囲に示せるチャンスだと思うんだけど?」

 

 

「あ、あの、桜満先輩?」

 

 

「それに、このままだと藍羽さんが古城を取って行っちゃうんじゃない?」

 

 

「………私は別に構いません。私はあくまで監視役ですし」

 

 

集の言葉に雪菜は不機嫌そうにプイとソッポを向く。少しからかい過ぎたな、と反省した集は頬をかく。

 

 

「ま、とにかく、古城が頼める相手は限られてるって事。だから、古城が頼んできたら引き受けてあげてよ、姫柊さん」

 

 

「ま、まぁ、先輩がそんな事を頼んでくれればですけど!」

 

 

素直じゃない後輩を微笑ましく思いつつ、集の顔は綻ぶ。と、そこで雪菜は思い出したように集へと向き直る。

 

 

「そう言えば、桜満先輩はどうするんです?桜満先輩だって、船上パーティーのパートナーを依頼できる人なんて……」

 

 

「ま、心当たりがあるから、今から行ってみるよ。じゃあ、姫柊さんに古城宛の招待状は預けておくね。あとで渡してあげてよ、じゃ」

 

 

集は雪菜に古城宛の黒い招待状を手渡すと、踵を返しその場を離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南宮那月の執務室。彩海学園の学長室より上の階にあるその場所は、毎回登るたびに憂鬱と感じる者が殆どだ。一つの理由はその高さ故の、距離が原因である。そして、もう一つは地で唯我独尊を常に行く、小柄な女教師と顔を合わせるからだ。確かに、那月はその外見故、一部生徒や教員には人気がある。

 

 

が、一方では那月と顔を合わせるのを遠慮したがる生徒もいるのだ。例えば、しょっちゅうテストで赤点を取る者や、課題を忘れる者、態度の悪い者などは漏れなく、那月からの体罰を受ける事になる。今そこを訪れている桜満集はそれらの内のいずれにも当て嵌まらないが、今の心境としては近しいものなのかもしれない。

 

 

それは、那月が先ほど送り付けられてきたディミトリエ・ヴァトラーからの招待状を見て、明らかに不機嫌そうに鼻を鳴らしたからだ。執務用のデスクに頬杖をつき、手に持った招待状をヒラヒラと弄んでいる。

 

 

「あのー……南宮先生?それで、一応その船上パーティーに僕も呼ばれてるんですけど……」

 

 

「ちっ、蛇遣いめ……あいつは面倒事しか起こさんのか?桜満、貴様もあいつの危なさを知らない口か?」

 

 

「えっと、名前しか知らないです」

 

 

「まぁ、名前を知ってるだけでも良しとしよう。ディミトリエ・ヴァトラーは『旧き世代』の吸血鬼だ。自分より格上の『長老』を2人も喰っていて、真祖にもっとも近いと言われている男だ」

 

 

「………強敵じゃないですか」

 

 

那月は持っていた招待状を元に戻し、集へと投げる。集はそれをキャッチし、返答がどうなるかを静かに伺う。

 

 

「はぁ……桜満、暁は行くと言っていたのか?」

 

 

「いえ、この中身を見る前に藍羽さんに連行されたので、行くとは言ってなかったです。古城宛の招待状は一応姫柊さんに預けてます」

 

 

「獅子王機関からの転校生か。まったく、余計なことを」

 

 

「まぁ、僕が持ってるよりは良いかと思いまして」

 

 

「………とにかく、この件は分かった。だが、私は生憎と今晩、別件があってな」

 

 

「別件、ですか?」

 

 

「ああ。島内で不穏な動きをする連中が居てな」

 

 

「昨日の倉庫街の一件で結構な数を捕まえた筈なんですけど……」

 

 

集は昨夜の事を思い出し、顔を顰める。昨夜の倉庫街の戦闘は黒死皇派の一部との間に起こった戦闘だった。集は那月に付いて、特区警備隊(アイランド・ガード)に協力していたのだ。その甲斐あってか、特区警備隊(アイランド・ガード)の人的被害はゼロで収まっていた。集にとっても、黒死皇派はいのりを連れ去ったとの情報を得ているので、何か情報が得られればと参加したのだが、よほど下っ端だったらしく、結局は目ぼしい情報を得る事は出来なかった。

 

 

「まぁ、昨日の一件も氷山の一角に過ぎんというやつさ。とにかく、其方に私は行かなければならない」

 

 

「そう、ですか……」

 

 

集は項垂れる。先ほど雪菜と話していた様に、少なくとも一般人を連れて行く訳にはいかないのだ。さらに、事情に精通している者でなくてはならない。そうなると、那月が最後の砦だったのだが……

 

 

「そう落ち込むな。まぁ、確かに私は行けないが、他にも条件を満たした行ける人材が居るだろう?」

 

 

「え?そんなのどこに……」

 

 

集は困惑するが、那月はやや口角を上げながら、先ほどから壁際で佇んでいるメイド服に身を包んだ小柄な藍色の髪の少女を見る。

 

 

「ま、まさか、アスタルテですか!?」

 

 

「どうした、不服か?」

 

 

「い、いえ、そういう訳では……」

 

 

「ならば、問題あるまい。多少頭にくるが、このふざけた招待を受ける意義は大いにある。あの蛇遣いの目的を知っておきたいからな。――という訳だ、アスタルテ。今夜の予定は変更だ。私の代わりに桜満と船上パーティーに参加しろ」

 

 

命令受諾(アクセプト)。では、よろしくお願いします、桜満集」

 

 

「こ、こちらこそ?」

 

 

頭を下げてくるアスタルテに対し、集は困惑気味に返す。だが、確かに選択としては、あながち間違いでもないと思い、納得する。アスタルテならば、真祖の眷獣を防ぐ事もできるし、古城が第四真祖である事も知っている。さらに、集の事情も把握している事から、これ以上ない人選だろう。

 

 

そして、那月は思い出した様に引き出しから黒いカードを出し、アスタルテに受け取らせる。

 

 

「アスタルテ、これを持っていけ」

 

 

命令受諾(アクセプト)。クレジットカードの受諾を完了しました」

 

 

「何か買い物でもさせるんですか?」

 

 

集が疑問符を浮かべていると、那月は呆れた様に集を見る。

 

 

 

「………暁ほどでは無いにしろ、お前も相当だな、桜満。まさか、この格好のままでアスタルテを連れ出すつもりか?」

 

 

「あー、なるほど」

 

 

つまり、那月はアスタルテを船上パーティーに行けるようにコーディネートしろと言っているのだ。集もそれを察して、納得する。

 

 

「じゃあ、アスタルテ。僕はここで待ってるから、着替えてきなよ。買い物へ行くにしても、せめてその服以外じゃないと目立つし」

 

 

疑問提起(クエスチョン)。この服装のみしか、私は持ち合わせておりません」

 

 

「え゛!?」

 

 

集はその発言につい、声を漏らす。以前の事件から既に1週間以上は経過している。その間、メイド服しか着用していない事になるのだ。イマイチ状況を飲み込めない集は那月へと振り返る。

 

 

「ん?あー、そう言えば、アスタルテは私が与えたメイド服しか今は持ち合わせてなかったな。ウッカリしていた。丁度いい、パーティードレス以外にも、この機会にアスタルテの私服も見繕って来てくれ。ついでに、貴様も服装を整えてこい。昨日のバイト代だ」

 

 

「あ、どうも……じゃくって!お、女の子の服を見繕うってハードル高くないですか!?」

 

 

「幼女を自由に着せ替えられるんだぞ?その辺の男どもなら喜びそうな事だと思うがな」

 

 

「僕を変態にする気ですか!?」

 

 

「そうだな、犯罪にならない程度ならば私も黙認しよう。私服はそうだな……大体5着ほど選ばせてやってくれ」

 

 

「ちょ、話聞いてましたっ!?」

 

 

「ではな、アスタルテ。しっかりと桜満にエスコートして貰ってこい。これも経験だ。では、桜満任せたぞ?」

 

 

「ちょ――」

 

 

集が言いかけたところで、那月は魔法陣でジャンプし、その場から消えた。おそらく、今夜の別件の打ち合わせに、特区警備隊(アイランド・ガード)の元に向かったのだろうと推測する。だが、集にはそんな事よりも目の前に横たわった問題がある。

 

 

それは、集の事を見上げたまま動かない、人工生命体(ホムンクルス)の少女の件だ。大きなその瞳は真っ直ぐ集を見ており、まるで命令を待つように待機したままである。その空気に耐えられず、集は口を開く。

 

 

「え、えぇっと…………アスタルテは、その…………希望の服とかある?」

 

 

否定(ネガティヴ)。そもそも、服飾に関する知識が私には不足しています。桜満集に任せる事を提案します」

 

 

それが一番ハードルが高いんだけど、と心の中で呟く。集はここに居ても事態が解決しないということで、取り敢えずアスタルテを連れて、商業施設の集中したアイランド・ウェストのショッピングモールへと向かうのだった。

 

 

 

 




って事で、パートナーはアスタルテでした!


まぁ、那月はガサ入れに行っても貰わないといけないですし。


次回は多分パーティー参加までになるのかなぁ?


ではでは!

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