Blood&Guilty   作:メラニン

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まさか、アイツを出すことになるとは・・・


いや、けど運び屋が居ると便利ですしね。


では、どうぞ!


異邦の歌姫編V

 

いのりのソロライブから少し経った頃、ようやく準備が終わりエコーは車を準備した。車庫の中で周囲には子供達が未だにいのりを取り囲んでおり、その姿はまるでコバンザメの様だと、エコーは車の中で苦笑いする。

 

 

「おーい、お前らそこまでにしろ。本当にそろそろ行かねえと、日が暮れちまう」

 

 

「「えーー」」

 

 

ジャノとエリーネだけが不満の声を上げる。だが、それを子供達の中でも一番の年長者であるヨナが諌める。

 

 

「エリーネ、ジャノ、いのりを困らせちゃダメだ」

 

 

「うぅ……」

「………分かったわ」

 

 

ジャノは未だに渋ったが、エリーネの方は取り敢えずは引いてくれた様だ。そんなジャノの様子を見ていのりは一度屈んで、目線を合わせる。

 

 

「また来るわ、ジャノ。だから今は、ね?」

 

 

「……うん」

 

 

コクリとジャノは頷き、いのりから離れる。いのりはもう一度子供達を見渡すと、車に乗り込む。車に乗り込む際、足取りが重く感じられたのは、名残惜しさ故だろう。そして、車庫のシャッターがゆっくり上がっていく。外では、子供たちが口々に別れの言葉と、再会の約束を取り付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてシャッターが上がり切り、エコーがアクセルを踏み込もうとした時、エコーはそれを止めた。その原因はエコーの目に映った車の目の前に立つ1人の男が原因だった。傭兵が着る様なカーキ色の軍服に身を包んだ偉丈夫だ。薄いダークグリーンの髪色に、目尻から頬にかけて長い傷跡のある男だ。だが、何より特筆すべきなのは、その威圧感だろう。身長自体が高く、190cmくらいだろうか?しかしその威圧感は決して体の大きさだけから来るものでは無いだろう。体全体からヒシヒシと漏れ出す殺気や闘気、もしくはその身に染み付いた戦いの匂いがそう感じさせるのかもしれない。

 

 

エコーは車内で小さく舌打ちをした。なぜ、今までこれほどの存在の接近に気が付かなかったのか?戦場から離れた所為で勘が鈍ったのか、と思考を巡らせるが、今はそんな事はどうでもいい。万が一の自体に備え、運転席のサイドポケットに入れてある拳銃をそっと腰の後ろに忍ばせる。

 

 

車の外ではヨナが子供達の前に立ち、エコー同様腰の後ろに差してある銃へと手を運んでおく。エコーはそれを車窓から確認すると、一呼吸おいた後に車のドアを開ける。そして、離れた位置で目の前の人物と会話を始める。

 

 

「えーと、どちら様で?一応、俺たちこれから出掛ける予定だから、ちゃちゃっと済ませたいんだけど?」

 

 

「おや、そうでしたか。では手短に用件を伝えましょう。私の名はクリストフ・ガルドシュ。黒死皇派を率いる者です。そちらの車内に居る少女をこちらへ引き渡して頂きたいのです」

 

 

車内で待機しているいのりには、今の言葉は聞こえていなかったが、自分を指差していた事から、相手の目的は自分である事が何となく想像できた。そう思い、いのりは車を降りる。

 

 

「私に用?」

 

 

「ええ。実はこの近隣にある遺跡から出土した、ある物の研究に君が必要と分かったのでな。是非とも、我らの研究に力を貸して欲しいのだ。当然、相応の報酬は用意しているし、望みがあれば出来得る限りそれを叶えよう。如何かな?」

 

 

ガルドシュは手を差し伸べるが、それの間に立つ人物ーーいや、人物達が居た。マルカ、モーリス、エリーネ、ジャノだ。彼らは両手を広げて立ちはだかったのだ。

 

 

「いのり姉ちゃんは、これから出掛けるんだ!お前たちのところになんか、行くもんか!」

 

 

「いのりさんを得体の知れない貴方になんか連れて行かせません!」

 

 

子供たちは直感的に気付いていたのだろう。このクリストフ・ガルドシュという男が危険な存在だと。だが、ガルドシュにとっては、子供たちが飛び出してきたのは好都合だった。そう思い、子供達の方へ手を伸ばすが、手が触れる前に動きを止めた。

 

 

「………それ以上、動くな。俺の家でこれ以上勝手をするようなら、どタマぶち抜くぞ?」

 

 

エコーが照準をガルドシュの頭部に向けていたのだ。さらに、車の陰に隠れて、ヨナもガルドシュを狙っていた。2方向からの銃撃を警戒したガルドシュは、ゆっくり手を挙げ、戦意が無いという証明をする。

 

 

「やれやれ、私は研究の協力を依頼しに来ただけなのだがな……」

 

 

「馬鹿か、お前は?自分から黒死皇派を名乗る奴の元に、いのりを行かせられるか」

 

 

いのりは先ほどから出てくる黒死皇派というワードに首を傾げる。恙神涯(つつがみ がい)に付いて、様々な世界情勢を知ったが、そんな組織の名前は聞いた事が無かったからだ。だが、そんないのりの疑問は余所に状況は進んでいく。ガルドシュが背を向け、車庫の外を眺め始め、口を開く。

 

 

「…………ここはいい村だな」

 

 

ガルドシュの言葉に、いのり、ヨナ、エコーがピクリと反応する。そして、ガルドシュは言葉を続ける。

 

 

「数年前まで、酷く貧しく治安も悪いという話だった筈だが、ある場所からの支援があって豊かになり、農耕技術も発展したようだ。食料自給率は上がり、飢えからくる悪影響も無くなった。…………さて、では元デルタフォース所属エッカート少尉。貴官はどうする?」

 

 

エコーは表情を変えずに、銃口を真っ直ぐガルドシュに向けていたが、大量の嫌な汗を掻いていた。ここで選択を誤れば、おそらく村に居る人間全てを皆殺しにするつもりなのだろう。そして、その後でゆっくりと、いのりを確保すればいい。

 

 

つまりはエコーの選択でこの村の、遠くない未来が決定するのだ。いのりを差し出すのか、それとも皆殺しにされるのを選ぶのかを選択しろと、ガルドシュは暗に言っているのだ。エコーとヨナだけならば一矢報いた上での逃走は可能だろう。だが、村には老人や子供もいる。そうなると、まず戦って全員が無事というのは不可能だ。

 

 

様々な面を加味した上での現在の最善の選択。それは――

 

 

 

 

 

 

「私は行くわ」

 

 

「「「「っ!?」」」」

 

 

子供たちは背後に居る声の主を、驚いた様な視線で振り返り見る。ヨナとエコーはギッと歯を食いしばり苦い顔をする。情けない話だが、今はいのりの選択が一番被害が少なくて済む。最高ではないにしろ、最善の選択である事を理解していた。

 

 

「けど、望みを叶えるのが条件」

 

 

「ああ、分かっているとも。君の条件は、今は亡き盟友に誓って必ず果たすと約束しよう」

 

 

いのりは一瞬顔を伏せると、決意した目でガルドシュを見る。

 

 

「私を日本の東京へ連れて行く事。それが条件よ」

 

 

その申し出にガルドシュはニヤリと笑う。

 

 

「それは願ったりかなったりだ。我々もどちらにせよ日本へと向かう算段だからな。だが、準備のため一月ほど待ってもらっても構わないかな?その間にこちらの研究に手を貸してくれればいい」

 

 

ガルドシュの言葉にいのりはコクリと頷いた。いや、今自分を庇おうと前に立つ子供達を守る為にはこれしか無いのだ。もし、この村を見捨て、単身想い人の場所へ向かっても、この出来事は心に暗い陰を落とす結果になるだろう。だから、いのりは今は従うしかのだ。

 

 

「ふむ……では、3分後にこの村を出るとしよう。その間、私はあちらのジープの中で待っている」

 

 

ガルドシュは腕時計を一度確認すると、さほど離れていない軍用と思しきジープへと歩いて行った。3分という時間を設けたのはガルドシュなりの情けなのだろう。いのりはそれを思ってか、子供たちに向き直る。マルカ、モーリス、エリーネ、ジャノは涙目になっていのりを見上げていた。

 

 

「い、いのりざんっ……ごめんなさいっ!………わ、わたし達のせいで……」

 

 

目尻から大粒の涙が溢れ出したマルカにいのりは優しく言葉を掛ける。

 

 

「気にしないで、マルカ。手段は違っても、私は日本に帰れるから」

 

 

いのりはそう言うが、マルカは泣き止む気配が無かった。他の子供達も、それにつられて泣き出す。自分たちを守る為にいのりは、行くのだと子供達は勘付いていた。

 

 

いのりは次にヨナへと顔を向けるが、ヨナは下を向いて肩を震わせていた。

 

 

「ごめん………あいつらが来たのは僕のせいだ!…僕が、遺跡の発掘なんかに協力したからっ……」

 

 

ヨナの言葉にいのりは首を横に振る。

 

 

「違うわ、ヨナ。ヨナが遺跡の発掘をしてくれてたから、私は助けてもらう事ができた。ヨナは謝る事はない」

 

 

その言葉にヨナは握っている銃をより一層固く握りしめる。次にいのりはエコーの方へと話しかける。

 

 

「エコー、今日までありがとう。畑仕事、楽しかった」

 

 

エコーはいのりに目を合わせる事が出来なかった。

 

 

それは罪悪感故なのか、無力感からなのかは本人にしか分からないだろう。だが、どちらにせよ、今はどれだけ足掻いても状況をひっくり返す事は出来ない。エコーは去っていくいのりの背中を見ている事しか出来なかった。

 

 

そして、いのりを乗せたジープは発車してしまった。子供たちは地平線にジープが消えるまで動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いのりが連れて行かれた事はすぐさま村中に広がり、住人達を動揺させたが、彼らには何も出来なかった。行き先すら分からず、強いて分かっているのは約一月後に日本に連中が現れるということだけだ。南アジア地域の片田舎の人間が海を渡り、極東の島国である日本へ行くのは生活的にも、経済的にもほぼ不可能だろう。だから、多くの村人達は諦めた。

 

 

が、諦めていない人間が2人いた。

 

 

いのりが連れ去られた日の2日後、彼らは行動を起こした。2日というタイムラグの原因は黒死皇派が()()()()をしていないかの確認の為だ。ありとあらゆる事を確認した上で、彼らは村を出た。そして、本来いのりと来る筈だった街へとやって来たのだ。ここからある人物へと連絡を取る為に。

 

 

 

「………いきなりの連絡で済まない。だが、協力して欲しい」

 

 

『フフーフ♪いいよ、エコー。けど、君には我らが部隊への帰投を命ずる!』

 

 

エコーの耳には数年ぶりに聞く、どこかフザけた調子の元女雇い主の声が響いた。

 




いのり誘拐!さて、どうなる、これから!?


と言ってみたものの、次回から通常通り本編に戻ります。なので、また暫くいのりの出番は・・・


全力ですいません!!!!


なるだけ、急いで上げますので、ご勘弁を!!







えー、そして最後に出てきた人物。個人的にあのキャラ好きなので登場をさせてみました。運び屋ってのは彼女の事です。


・・・うん、東條の立ち位置ミスったかも。ま、けど東條の代わりにエコーが入れば問題ないか。うん、そうしよう。


ってなわけで、また次回!

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