Blood&Guilty   作:メラニン

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というわけで、今回は結構頑張って一気に連投します。(少しタイムラグはあるかもしれませんが・・・)


ではでは、どうぞ!


聖者の右腕編XII

 

「………まったく、胴体を2つに割ったというのに、真祖の再生能力とは厄介なものです」

 

 

そう言った人物の顔を足下から来る青白いライトが照らしていた。それを言った男は先程まで振り上げていた戦斧の先端を床に落とす。床にはそれにより、亀裂が走る。この場に居るのは戦斧を手足の様に振るう殲教師(せんきょうし)ルードルフ・オイスタッハと、それに追従する眷獣を移植された人工生命体(ホムンクルス)であるアスタルテ、さらに前述の2人にやられた少年の桜満集である。

 

 

そして、その場に現れたのはオイスタッハの1撃を雷撃で止めた少年と、それに並び立つ銀の機槍を携えた少女。彼らは集に近付き、集を壁に寄りかからせた後、手持ちのハンカチを切って結び直す事で、包帯の様に長くして集の頭の傷に巻き付けた。

 

 

「すいません、桜満先輩。今は応急処置しか……」

 

 

「ううん、ありがとう姫柊さん。血を止められるだけでも有難いよ」

 

 

「悪かったな、桜満。遅くなった」

 

 

「…………僕が戦っている間、お楽しみだったみたいだから仕方ないんじゃないかな」

 

 

貼り付いた様な笑みを浮かべる集の表情と、その言葉に古城と雪菜はビクリとその身を震わせる。集は先ほど雪菜がハンカチを頭に巻く際に、彼女の首筋にある傷口を見てしまったのだ。一筋の切り傷の跡と、その周囲に赤い斑点の様な傷跡。

 

 

吸血鬼の吸血衝動の引き金は性欲である事を集は知っているのだ。つまり、その傷跡というのは、古城が雪菜の血を吸った跡ということだ。つまり、古城が雪菜に欲情して行為に及んだのだと邪推した。その通りではあるのだが……

 

 

「は、は?お楽しみ?」

 

 

「……まぁ、助けて貰ったから文句は言わないけど。あーあと、姫柊さんは襟を少し上げておいた方がいいよ?」

 

 

集の言葉に雪菜は急いで首筋の傷を手で覆い隠して、一気に顔が赤くなる。

 

 

「も、もう!桜満先輩!怒りますよ!?」

 

 

「古城の方には、取り敢えず卒業おめでとうって言っておけばいい?」

 

 

「なっ!!……お、桜満、あのなぁ…!!」

 

 

確かに集は2人に対して文句は言わないと言ったが、自分が1時間近く戦っていた時に行為に及んでいた2人に思うところが無い訳ではないのだ。ただ、それを今は言っても仕方ないので、自分たちの正面に立つ2人を見据える。古城と雪菜もそれに倣い、同様に敵を見定める。

 

 

「……桜満、どういう状況かだけ言ってくれ」

 

 

「小一時間くらい2人を妨害しながら、ここまで戦闘してて向こうもそれなりには消耗してると思う。実際アスタルテって子の方はもう限界も近いかもしれない。まぁ、僕も正直ほとんど戦える様な体力は残ってないかな」

 

 

「なるほどな」

 

 

「体力が満タンな古城なら問題ないと思うよ?それに……眷獣も制御下におけたんでしょ?」

 

 

最後の言葉を、集は古城の方を見てではなく、雪菜の方を見て言った。厳密に言えばその首筋の傷跡を見ながらだ。視線に気付いて雪菜はいそいそと襟を上げる。

 

 

「あー………ま、まぁ、任せとけ!あとは俺と姫柊でなんとかする」

 

 

「じゃあ、お言葉に甘えるよ」

 

 

そう言うと集は後頭部を壁にもたれさせて、休息を取る姿勢になった。そして、古城と雪菜は中央の円状になっている床に降り、先程は不覚を取った2人と対峙する。

 

 

「やれやれ、本当に厄介な存在ですね、真祖というものは」

 

 

「ああ、俺も本当にそう思うぜ。真っ二つになったってのに、生き返ったくらいだからな」

 

 

古城は皮肉気味にそう言うと肩を竦めた。つまり、真祖の不死の呪いとは、死すら許さないということだ。永遠に生き続ける。それこそが真祖の呪いなのだ。それを実証した古城は気が重くなるが、それでも今すべき事をするだけだと、気持ちを切り替える。

 

 

「……一応勧告しておきます。ロタリンギア西欧教会殲教師ルードルフ・オイスタッハ、投降する気はありませんか?」

 

 

「は?投降?」

 

 

雪菜の言葉にオイスタッハは呆れた様な声で返す。オイスタッハにとっては今更の話なのだ。だが、そうと分かっていても雪菜は続ける。

 

 

「はい。西欧教会の聖堂に安置されていた聖人の遺体、その右腕。聖遺物とも呼ばれるそれがあなた方の目的なんですね?」

 

 

雪菜の視線はオイスタッハの方ではなく、中央の結晶内に存在する、干からびてミイラの様になった右腕に視線が注がれていた。そして、雪菜の言葉にオイスタッハはギリっと歯を噛む。

 

 

「ええ、そうですとも。だが、それが分かっているのならば、今更投降などしないと分かっているでしょう?獅子王機関の剣巫よ」

 

 

「………確かに、そうなのかもしれません。ですが、貴方の怒りは筋が通っています。それに、今は聖域条約で供儀建材の使用は禁止されています!この事を公にすれば――」

 

 

「はははは!それは既に結論が出ている。たとえ、貴女が上に掛け合ったとしても、戻ってくる事はない。それが分かっているからこそ行動に移したのです!もう、止められないところまで我々は来ているのですよ!」

 

 

「で、ですが――」

 

 

「くどいっ!アスタルテ!」

 

 

命令受諾(アクセプト)

 

 

アスタルテは己の眷獣である『薔薇の指先(ロドダクテュロス)』に攻撃する様に指令を出し、その手が雪菜に迫る。が、それが雪菜を襲う事は無かった。既に雪菜は槍を構えており、眷獣の拳を受け流したからだ。だが、『薔薇の指先(ロドダクテュロス)』の腕に隠れて接近してくる影があった。その影は戦斧を下から振り上げる様にして斬撃を繰り出そうとする。『薔薇の指先(ロドダクテュロス)』の一撃を受け流した直後の雪菜は態勢を整えている暇はない。

オイスタッハの口角が上がり、仕留めたと思った瞬間だった。戦斧の中心辺りを的確に拳で打ち抜き、雪菜に刃を通らせない人物がいた。

 

 

「姫柊はやらせねえぞ、オッさん!」

 

 

「これは……魔力が上昇している!?」

 

 

オイスタッハは自分の持っている戦斧を見て驚いた様に声を上げる。戦斧には本当に小さいがヒビが入っていたのだ。オイスタッハの持っている戦斧は通常の戦斧ではない。聖別され対魔族に特化した代物であり、その耐久性も並みのそれを優に超える。それは彼の装備している鎧も同じなのだが、とにかくその聖別された装備が僅かながら破壊されたのだ。この事実は歴戦の戦士であるオイスタッハにとっても初めての事だ。故に一時の油断も命取りになる。そう思い直し、オイスタッハは戦斧を構え直す。

 

そして、今のやり取りがこれから始まる戦争の狼煙だと言わんばかりに牙を剥き魔力が溢れ出す。

 

 

「さぁ、始めようか、オッさん。――ここから先は第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ!」

 

 

「いいえ、先輩。私たちの聖戦(ケンカ)です!」

 

 

そして、雪菜も同様に態勢を直し、矛先を2人へと向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁーー!」

 

 

気合の籠った声と共に先陣を切ったのは雪菜だった。自分の何倍もの大きさの体躯を持った眷獣に向けて突っ込んでいく。アスタルテも消耗しているとはいえ、ただで突進させるわけがない。『薔薇の指先』の腕を伸ばし迎撃する。それを雪菜はしなやかに受け流し、刃が眷獣の躰に触れる。だが、眷獣の躰には軽い傷が付くだけであり、致命傷には至らない。雪菜の七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)が持つ『神格振動波駆動術式(ODE)』と同スペックの結界が眷獣の全身に施されているのだ。

 

 

「やはり全身に………ですが!」

 

 

それでも、雪菜は時に受け流し、時に突き、時に斬り裂き攻撃の手を緩める事はない。アスタルテ本人の疲労が色濃いため、攻め続ければ確実に何処かに綻びが生まれる筈だと、確信しているのだ。それを察してかオイスタッハが間に入ろうと駆け出すも、古城が立ちふさがる。

 

 

「っ……!邪魔です、第四真祖!そこを退きなさい!」

 

 

「やっぱりな。あのアスタルテって人工生命体が切り札なんだろ?例えば……あの眷獣クラスでないと、聖遺物の楔を抜けない、とかな」

 

 

「……頭の悪い学生と思っていましたが、どうやら認識を改める必要がある様ですね」

 

 

「そいつぁ、どーも」

 

 

「ならば、出し惜しみはしません!」

 

 

オイスタッハは纏っていた法衣を脱ぎ捨て、その下に着込んでいる鎧が露わになる。輝くそれは突如として呪力が溢れ出し、その輝きに古城は目が眩む。

 

 

「あづっ…!?」

 

 

「私の『要塞の衣(アルカサバ)』の光に目を焼かれよ!第四真祖!」

 

 

「先輩!」

 

 

古城が目を閉じた瞬間、オイスタッハは戦斧で斬りかかる。だが、刃が届く寸前。その一瞬の光景を目に納めた瞬間だった。オイスタッハの目の前は真っ白――否、金色一色に覆われ、吹き飛ばされた。

 

 

「ぐっ……この力は!?」

 

 

吹き飛ばされても、顔をすぐに上げたオイスタッハの目に飛び込んできたのは、迸る魔力の奔流の中心に居る古城の姿だった。その周囲には、先程と同じ色をした電撃が走っている。

 

 

「………今のでも壊れねえ鎧、か。なら、手加減はそんなにしなくても平気だな?死ぬなよ、オッさん!」

 

 

そう言った古城は右腕を掲げ、そしてその腕からは鮮血が吹き、右腕全体が黒く変色する。さらに、その腕に瞳と同じ焔光の色をしたラインが幾何学模様を描きながら浮かび上がる。

 

 

「『焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)』の血脈を継ぎし者、暁古城が汝の枷を解き放つ!疾く在れ(きやがれ)、5番目の眷獣『獅子の黄金(レグルス・アウルム)』!」

 

 

その瞬間、古城から溢れ出していた魔力は雷の形を取っていく。さらにそれらが集まり、別のものへと変化する。現れたのは雄々しいタテガミを靡かせた巨大な金色の獅子だった。

 

 

「……綺麗」

 

 

ポツリと雪菜は感じた感情をそのまま声に出した。そして、獅子と目が合う。雪菜の血を吸った事により目覚めた眷獣はこの『獅子の黄金(レグルス・アウルム)』だけだった。だが、それは何となく古城の予想通りだった。雪菜が現れてからというもの、古城の中では『獅子の黄金』が一番活性化していたのだ。だからこそスヘルデ製薬の研究所でも古城は雷撃を一部扱う事が出来た。

 

 

だが、これから操るのは一部などという可愛いものではない。雷を束にした様な眷獣を操らなければならないのだ。少しでも加減を間違えれば逆に島が吹き飛ぶ様な規模の眷獣だ。それを古城は威力をある程度キープしつつ攻撃の矛先をオイスタッハへと向ける。

 

 

「防げよ、オッさん!行け、『獅子の黄金(レグルス・アウルム)』!」

 

 

「アスタルテ!!」

 

 

命令受諾(アクセプト)

 

 

雷撃を纏った獅子の爪を防ぐために、オイスタッハは従者を呼び戻し、眷獣を盾にする。『獅子の黄金』が如何に強力と言えども、魔力の塊である事には変わりがない。故に、『獅子の黄金』は弾かれ、その余波が室内の壁や天井に飛び火する。

 

 

「うわっ!?……ちょっと、古城!!こっちを殺す気!?」

 

 

「あ、ああ、すまん!桜満!まだ、コントロールが完璧じゃなくてだな……」

 

 

「ノーコンが死因って凄くイヤなんだけど!?」

 

 

コントの如きやり取りを行う年上の高校生に溜息を吐き、呆れつつも雪菜だけは活路を見出していた。

 

 

「はぁ、まったく、先輩方は……」

 

 

「あれ、僕も含まれてる!?」

 

 

「当然です。………暁先輩、もう一度さっきの一撃を私が突っ込んだ後に、撃ち込んで下さい」

 

 

「な!?ダメだ、姫柊!あの威力じゃお前ごと――」

 

 

「誰が私に向かって撃てと言いましたか!?撃つのは頭頂部の一点です。そこに攻撃を集中させます」

 

 

「だ、だが――」

 

 

「古城!姫柊さんの言う通りに!姫柊さん、道は僕が『()()』!だから、突っ込んで!」

 

 

集は頭を押さえながらも、手すりに手を掛け立ち上がっていた。そして、古城はガシガシ頭を掻いた後、観念したと言わんばかりに、集と雪菜を交互に見る。

 

 

「絶対に、死ぬんじゃねえぞ!」

 

 

「はい、先輩!」

 

 

「当たり前!」

 

 

意思確認をした3人は示し合わせた通り行動を開始する。まずは雪菜だ。雪霞狼(せっかろう)を立て、祝詞を粛々と唱え始める。

 

 

「獅子の巫女たる高神の剣巫が願い奉る――」

 

 

「やらせません!アスタルテ!」

 

 

命令受諾(アクセプト)執行せよ(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテュロス)』」

 

 

雪菜が祝詞を唱え始めると、呪力が雪霞狼に集まり始めた。それを確認したオイスタッハはアスタルテに何とか妨害を命じる。が、雪菜はそれを見越していたと言わんばかりに、駆け出しながら攻撃の隙間をすり抜けつつ祝詞を唱え続ける。

 

 

「破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」

 

 

祝詞が唱え終わった雪菜は跳び上がり、雪霞狼の刃を『薔薇の指先(ロドダクテュロス)』に突き立てる。当然、魔力無効化の結界により、それは防がれる。だが、その攻撃が止まった瞬間を待っていたと言わんばかりに雪菜は声を上げる。

 

 

「桜満先輩!」

 

 

「力を貸してくれ、颯太(そうた)っ!」

 

 

タイミングを見計らっていた集は銃のような形態のカメラ――魂館颯太のヴォイドである『あらゆるものを開くカメラ』の引き金を引く。その瞬間、雪霞狼と『薔薇の指先(ロドダクテュロス)』との間に生じていた共振による相殺空間はポッカリ穴が開くように喪失した。

 

 

「何っ!?」

 

 

「ああぁぁぁーーーー!」

 

 

後は重力と槍の威力に従い、雪霞狼がついに『薔薇の指先』にその刃を突き立てる。アスタルテは眷獣の中で悲鳴を上げる。雪霞狼を突き立てた瞬間に雪菜は大きく跳ぶと、後ろを振り返る。

 

 

「先輩!」

 

 

「そういう事か!疾く在れ(きやがれ)、『獅子の黄金(レグルス・アウルム)』!」

 

 

凄まじい轟音を立て雪霞狼へと雷撃は命中し、それを起点に『薔薇の指先』全体へと電撃が広がる。それにより、アスタルテは意識を失い、眷獣も消失した。

 

 

「まだですっ!まだ終わるわけにはあぁぁ!!」

 

 

オイスタッハの行動は早かった。アスタルテがやられた瞬間に動じる事もなく、装備を失くした雪菜目掛けて突っ込んできていたのだ。だが――

 

 

「やらせるかあっ!」

 

 

「がっ……!第四真祖おぉぉ!」

 

 

古城が割り込み、顔面へと拳打を打ち込んだ。魔力も何も籠っていないただの打撃だが、顔面には鎧がない。だからこそ、そこ一点を吸血鬼の高い身体能力で殴れば常人なら気絶するはずだった。だが、そうならないのは、既にオイスタッハが体力も限界を超えて、気力だけで動いているからだろう。それを察してか、雪菜は畳み掛ける様に追撃を叩き込む。目の前の男を一刻も早く、動けなくするために。

 

 

(ゆらぎ)よ!」

 

 

「がふっ!?」

 

 

雪菜は両手をオイスタッハの鳩尾辺りに当てる様にして、体全体から力を叩き付ける様に一気に衝撃を透す。剣巫の人体内部へと衝撃を透す打突だ。鎧を着込んでいようが威力があまり上下しないそれは、オイスタッハの意識を刈り取るには十分過ぎる威力だった。

 

 

苦悶の声を上げ吹き飛んだオイスタッハは、意識を失う間際までも、聖遺物へと手を伸ばしていた。

 

 

「さ…簒奪されし………至宝…を…………わ、我らの……元…に………」

 

 

そこまで言って、オイスタッハは意識を手放した。

 

 

 

キーストーンゲート最下層アンカーブロック内における第四真祖とその監視役である剣巫と異邦人達との戦いはこうして幕を閉じた。

 

 

 

 

 




うん、戦闘パートホント短いですね・・・


申し訳ないです。

では、今回はこれにて

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