自分は戦闘描写が正直言って苦手です。今回のは特に分かり辛いかもしれないので、もし何かあれば指摘してください。
それと、いつの間にやら、お気に入り登録件数が上がってましたね。大変嬉しく思います。本作を読んでくださっている読者の方々には感謝感謝です。これからも頑張ります。
ではどうぞ!
キーストーンゲートの保安部の存在する地下階層のエントランス。ここから各地下施設へと繋がるため、他の場所よりもよほど広く造られていた。そして、上の階層を支えるための柱が何本も設置されている場所でもある。そして、その柱を影に隠れている集団がいた。
集、浅葱、東條の3人だ。集と東條の話し合いの結果、集が敵を引きつけて、その間に東條が浅葱をガードしつつ非常用の通路から上へと脱出する手筈となっている。その為、集は侵入者の進行方向である柱の影に隠れ、浅葱と東條は非常通路から少し近めの場所に身を隠していた。そして、扉が強引に壊され、轟音と共にこじ開けられた。
「
無機的な話し方をするのは、巨人型の眷獣の胸部に納まっている藍色の髪をした少女だ。そして、その背後からは血が滴っている戦斧を肩に乗せた大柄な男が出てきた。戦斧に付着した血はここに来るまでに屠った
そして、無言のまま侵入者達はエントランスの中央ほどまで歩を進めて、足を止めた。
「居るのは分かっています。こそこそ隠れていないで出てきたらどうです?」
その言葉を聞いて、隠れていた集は離れて隠れている浅葱と東條を見て頷くと、隠れていた柱から躍り出た。
「小癪な――っ!アスタルテ!眷獣を守りに回しなさい!」
「
柱から出て走りながら拳銃を発砲してきた集に対して侵入者であるルードルフ・オイスタッハは対応する。集が使っている拳銃は東條が持っていたのをを借りた物だ。
そして、オイスタッハは1発目を弾いた後に、意識外である別方向の1発に焦り、アスタルテに防御を命じたのだ。そして、驚いた理由はもう一つあった。別方向からの1発を放った方向を見ると、もう一人の集が銃口を向けていたのだ。そして、2人の集は侵入者達の周囲を走りながら発砲し、攻撃の隙を与えないようにする。
「これは……双子?いや、それにしては……アスタルテ、このまま防御に徹しなさい」
「
銃撃は止まる事なく、集は引き金を引き続け、アスタルテの眷獣へと銃弾を浴びさせる。
そして、片方が弾切れになった瞬間にオイスタッハの目が凶暴な光を帯びる。
「今です、アスタルテ!」
「
アスタルテの眷獣である『
それを見てオイスタッハは目を見開き、明らかに驚きを隠せないといった表情になる。さらに追撃と言わんばかりに、再び2方向から同時に銃弾が放たれた。一方は当然集であり、そしてもう一方は銃口を侵入者に向けた東條だった。
そして、集の方の弾丸はアスタルテの攻撃に回している手に防がれたが、東條の弾丸はオイスタッハの胴体を確かに捉えた。だが、その弾丸はオイスタッハの装着していた鎧に阻まれる。そして、この攻撃に激昂したオイスタッハは攻撃の対象を東條へと絞る。
「おのれ!魔族を擁する背教者共め!はあぁぁっ!」
オイスタッハは肩に持っていた戦斧を振り上げ、東條へと突進する。東條は後退しつつ、銃撃を繰り出すが、鎧と戦斧に弾かれ直撃をするまでには至らない。そして、ついに背が壁に付き、それ以上後退できなくなった。それを見て、オイスタッハはこれで終わりと言わんばかりに、戦斧を大きく振り、東條に襲いかかる。その一撃は背後の壁ごと深く抉るような、凶悪な一撃だった。だが――
「――っ!またですか!」
確かにオイスタッハの戦斧による一撃は東條を捉え、真っ二つにした筈だが、そこに死体は残らなかった。先ほどのアスタルテの攻撃を受けた集と同様に霧散する様に消えたのだ。それを見て、オイスタッハは狐につままれた気分を味わい、苦い顔をする。
そしてオイスタッハがアスタルテから離れた瞬間を狙って集は駆け出していた。その手には先ほどの拳銃は握られておらず、代わりに『すべてを断ち切るハサミ』が握られていた。そして、走っていたその速度のままオイスタッハに斬りかかる。
「くっ……この力……それにその目。貴方も吸血鬼というわけです、かっ!」
集の一撃を戦斧で防ぎ、押し込まれるも、戦斧を振って集を弾き飛ばす。集はすぐさま体勢を立て直し、ハサミを構え直す。そして、非常通路の方を見て呟く。
「良かった。無事に逃げられたみたいで」
そう、先ほどの戦闘中、既に浅葱と東條は避難し終えていたのだ。先ほどのもう一人の集や銃を撃った東條は全てツグミのヴォイドである『ハンドスキャナー』で作り出してダミーだった。それを使う事で意識を散らし、浅葱と東條を逃したのだが、どうやら上手くいったようだ。
「何?」
分からないといった顔をしたオイスタッハにアスタルテが近付き報告する。
「先ほど、私たちの通って来た通路から2名の男女の脱出を確認。戦闘の意思は無いと判断したため、報告しませんでした」
「………なるほど、貴方はその2人を逃す為の時間稼ぎという訳ですか」
「ええ、そうなります。あと1つ訂正しておくと、僕は吸血鬼ではなく人間です。この目でよく勘違いされますけど」
「ほぉ……では、先ほどの不可解な現象も貴方の仕業という訳ですか」
「その通りですよ。確かに僕は人間ですけど、お世辞にも普通とは言えませんから………あと、1つ聞いておきたい事があるんですけど、いいですか?」
「ええ、なんなりと」
「どうしても、ここを引く気はありませんか、ルードルフ・オイスタッハさん?」
「……ほぉ、私の事は既に調べ終わっているというわけですか。貴方のお名前をお聞きしておいても?」
「……桜満集といいます。それと其方の目的に関しても分かります。だからこそ、ここは引いて下さい!正当な場で『要石』の事実を公表すれば、そっちが言う至宝も――」
「ははははははは!」
オイスタッハは集の交渉に対して大声で笑いながら天井を仰ぐ。その様子に集は嫌な予感を感じ、もう一つのヴォイド、『あらゆるものを弾き返す盾』を最小展開した状態で出現させておく。さらにハサミを一旦右腕に収納し、銃のような形状である『あらゆるものを開くカメラ』も出現させておく。
「その口振り、知っているのでしょう?この島の『要石』がどんな物なのか!この島の創始者である絃神千羅が行った邪法、それに用いられた物こそ、我らの至宝なのです!」
集はそのオイスタッハの言葉にギリっと奥歯を噛む。集自身さほど宗教に詳しいわけでもなし、信心深くもないが、目的が分かるからこそ、やはり引き下がってもらうのは無理と判断せざるを得ない。そもそもこんな大事になっているのだ。こんな事を引き起こした人物が「はい、分かりました」と言って素直に退く訳がない。
「であるならば、何故そんな残酷な事を言える!?確かに、かの至宝を我らが手に取り戻すのが第一の目的ですが、他にも目的があるのですよ………貴方がた背教者共への復讐という目的が!!アスタルテ!あの少年ごと後ろの隔壁を破壊しなさい!」
「
「っ……うあっ!」
眷獣の腕が集へと迫り、集は盾を展開し防御するがその衝撃を相殺し切れず、攻撃の方向にしたがって吹き飛ばされる。だが、扉に激突する直前『あらゆるものを開くカメラ』の引き金を引いて扉を開く事で衝突は免れた。
「ほぉ、随分と多彩な能力の様だ。その力はあまりにも危険です。ここで確実に排除させて貰います!」
「くっ」
さらに、オイスタッハ自身も突っ込んで来たため、集はカメラを収納し、次は再びハサミを出現させ、盾で戦斧による一撃を弾いた後、今度は集の方からハサミによる斬撃を繰り出すが、アスタルテの眷獣の腕から発せられた振動に止められた。それを見て、反撃を警戒し後ろへ跳ぶ。
「………厄介なのはそっちの方ですよ」
集は悔しそうに眷獣を操るアスタルテを見る。先月、吸血鬼を相手取ったときに眷獣の厄介さは身に染みて分かってはいたが、目の前の眷獣は、あの時『霜皇』と呼ばれた眷獣とは明らかに格が違う。謎の振動と、『霜皇』より遥かに巨体であり、それから繰り出される力任せの一撃と広範囲の防御。攻守共に秀でており、時折オイスタッハによる戦斧の凶悪な一撃もある事から攻めあぐねている。
これでは防戦一方だが、現実問題として実際に攻められない。確かにアスタルテの眷獣も厄介だが、オイスタッハの指示や攻撃のタイミングも的確であり、集にとってはそちらの方が厄介だった。実際にオイスタッハは集と比べても、実戦経験は豊富である。それは彼が殲教師であるが故に、魔族との戦闘に長く身を晒してきたからだ。そこから来る戦闘感は決して侮れない。集は後退しつつ防戦一方であり、途中退きながら戦うが、遂に地下の最下層――つまり『要石』の存在する一角まで来てしまった。
そして『要石』が鎮座するというアンカーブロックの機密隔壁前が集の背中に触れる。遂に追い詰められてしまったのである。
「っ!」
「あなたは、よく戦いました。見たところ魔族との戦闘に慣れていないであろう身のこなしに関わらず、ここまで時間稼ぎをされるとは思いませんでしたからね」
オイスタッハは懐から銀細工の装飾のなされた懐中時計を取り出し時刻を確認する。時計は既に22:00過ぎを示している。つまり、1時間近く戦闘が続いているというわけだ。さすがにこれだけの時間をほぼ全力で戦えば集の顔にも疲労の色が色濃く出てくる。オイスタッハとアスタルテの波状攻撃は身体能力を強化しっぱなしでなければ対処できない。その状態で戦い続けているのだ。疲れない方がおかしいだろう。
「ですが、残る隔壁は1枚。もう貴方も限界でしょう?その善戦した事に敬意を示して、ここで退くのならばそれ以上何もしない事を我らが神に誓いましょう」
「…………大変ありがたい申し出ですけど、頷く事はできないです」
「その理由を聞いてもいいですかな?」
「………僕は1ヶ月前にこの島に初めて来ました。最初は急にこの島に放り込まれて混乱してましたけど、そんなところを助けてくれたお人好しな吸血鬼が居たんです。その吸血鬼と家族や友達が住んでいる島を見過ごせはしないですよ」
「あくまで、その吸血鬼のためですか。………残念な事です」
オイスタッハは一瞬表情を曇らせると、戦斧を大上段で構える。1撃で仕留める腹積りなのだろう。それを警戒し、集も盾を構えて迎撃の準備をする。オイスタッハも表情には出さないが疲労が幾分か蓄積してはいる。それは彼に追従しているアスタルテもだ。眷獣の胸部の被膜内にいる彼女は明らかに消耗していた。
そして、双方ほぼ同時に相手に駆け出し、力と力がぶつかった。
◇
広めの室内の中心には黒曜石の様に輝く物体が楔として刺さっている。室内は円状になっており、明かりは最低限の青白い足下のライトくらいだ。ここは、キーストーンゲートの遥か地下に設置されたアンカーブロックである。そして、その中にある物を見てオイスタッハは、中心付近まで進み感極まったのか、両膝を着き敬うように視線の先の物を見つめる。
「お、おぉ……ようやく………ようやくここまで………我らの聖堂より簒奪された不朽体……これをようやく信徒たちの元に……」
そして、フラフラとこの室内の端に吹き飛ばされた少年が這い蹲りつつ顔を上げる。頭からは出血しており、その赤い血は頬を伝って床へと滴り落ちている。その少年の背後の壁は吹き飛ばされた時にできた亀裂が走っており、その衝撃を物語っている。そして、少年の動く気配を察してか、オイスタッハは顔だけ、離れて倒れている少年――桜満集に向けた。
「貴方も大概しつこいですね。もう決着は着いたのです。いい加減諦めなさい」
「…っ痛………はは………僕もそうしたいところ……なんですけど…………もう少し、足掻かない…と」
「それ以上貴方に何ができるというのです?我々2人を相手に善戦した事は称えますが、もう殆ど動けないのでしょう?」
「………確かに、殆ど動けないですけど……………それでも…1撃を出す………くらいは…」
そう言って集は手元に転がっているハサミへと手を伸ばし、しっかりと握り直す。それはまだ集の心が折れていない証拠であるかのように、力強く握られた。オイスタッハはその様子を見て肩を竦めた。
「やれやれ、呆れましたね」
「なんとでも…言って…下さい。そう言うルードルフさんも…結構消耗しているんじゃないですか?」
「…………」
オイスタッハは集の質問に沈黙で答える。つまり是であるということだ。オイスタッハの方も集の妨害を受け、同じ時間戦い続けたのだ。多少の消耗はしている。また、眷獣の中にいるアスタルテの方は、既に若干辛そうな息遣いになっていることから、眷獣による負荷も限界に近いだろう。それを加味した上で、オイスタッハはこれからの行動に判断を下す。
「………そこで大人しく気絶した振りでもして、這っていれば命もあったでしょうが――」
オイスタッハ目が、先ほどの信徒の目から狩る者の危険な光を帯びる。そして、身の丈ほどもある、その戦斧を振り上げ構える。
「不安の芽は摘み取らせていただきましょう!」
オイスタッハは集にトドメを刺すつもりで猛進してくる。その時、オイスタッハは数瞬違和感を感じた。この相手への攻撃のたった数秒にも満たない時間でそれを感じたのは、オイスタッハが歴戦の戦士であるが故だろう。その違和感の原因とはオイスタッハの目に写った少年の表情だ。
人間、死が迫れば少しでも恐怖を抱くものだ。恐怖が目に映り込む。オイスタッハは今まで何度もそれを見てきた。歴戦の戦士ですらどれだけ強がって隠そうとも、それは拭う事はできない。死に対する恐怖とはつまり本能なのだから。それを抱かないのは自分が死ぬとは思っていない金持ちの愚か者か、狂人くらいだ。だが、目の前の少年は愚か者でも狂人でもない。その事は刃を交えたオイスタッハ自身よく分かっている。
ならば、何故?
何故この少年は笑っている?口角が僅かに上がり、不安な表情などは浮かんでおらず、オイスタッハが今まで見てきた死の間際の恐怖も瞳に現れていない。その異常さにオイスタッハの脳内には警鐘が響く。何かがある。この少年が、恐怖に打ち克てる何かがあるのだ。
そしてそれが、オイスタッハが頭上から降る攻撃を避ける起点になった。
猛進していたオイスタッハは僅かに髪を焼く熱と光、そしてその魔力を危険と判断し、大きく後ろへ跳んだ。オイスタッハの居た床は黒く焼け焦げており、もし直撃していればタダでは済まないというのが容易に想像できるほどであった。そして、その視線は今しがた現れた少年少女に向けられる。
1人は色素の薄い髪にパーカーを着ており、翳した手からバチバチと電撃が迸っている事から、攻撃してきたのはコチラであると判断できる。その隣には短く切り揃えられている髪に、どこか凛とした雰囲気のある少女が佇んでいる。そして、その手には銀の機槍が握られている。
「………まったく、胴体を2つに割ったというのに、真祖の再生能力とは厄介なものです」
そんなオイスタッハの疲れた声が少年少女耳に届く。広い室内にその声だけが反響した。
まさか一章あたり10話分を超えるとは・・・
これ、二章平気かな・・・(もう、話の大筋はできてはいるんですけど)
さて、集は殲教師コンビに一応敗北しました。まぁ、2対1で相手の片方はガチで人外の力ですし。それに、『剣』を使えないのがイタイですねぇ・・・
さてさて、この章もあと2話で終了(予定)です。次回で戦闘にケリをつけて、その次で後日談みたいな。
では、また次回。