Blood&Guilty   作:メラニン

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今回は三話連投。

・・・頑張った。


聖者の右腕編Ⅸ

 

人工島管理公社のオフィスやその他重要機能の多くは、絃神島中央に存在するキーストーンゲートに集約されている。そして、浅葱のバイト先もキーストーンゲートの地下にあった。その薄暗い一室が彼女の仕事場だ。本来であれば、その一室からは浅葱本人と妙に人間臭い上に憎らしいAIの声が聞こえるだげの筈なのだが、今日は違っていた。もう1人別の少年の声が室内に響く。桜満集の声が。

 

 

「じゃあ、お願いするよ、藍羽さん」

 

 

「はいはい、まぁそういう約束だしね」

 

 

既に21:00を回ろうとしている時間であり、浅葱のバイトも終わり、それを手伝っていた集もようやく解放される筈だったのだが、集がした依頼のために残って調べ物をしている訳だ。

 

 

「んー……ダメね。戸籍情報にも、公社のデータバンクにもその名前は無いわ。やっぱ名前だけじゃねえ……」

 

 

「検索のワードに『歌』も入れられる?」

 

 

「別に出来るけど……けどただ『歌』ってだけじゃ今度はヒット数が半端無いんだけど?せめて、曲名とか歌詞とか」

 

 

集は頭をフル回転させて、いのりが歌っていた歌詞を思い出す。そして、数曲分の歌詞を浅葱に伝える。

 

 

「へぇ〜〜、どれも何だか素敵な歌詞ね。実際の曲を聴いてみたいかも」

 

 

「うん、僕もまた聴きたいって思ってる」

 

 

「ふーん……で、この歌を歌ってる子って桜満君にとってどんな存在?」

 

 

「……何をおいても、掛け替えのない存在、かな?」

 

 

『けけっ!いいねぇ、桜満の兄ちゃん。お嬢もこんだけ思われりゃ幸せなんだろうがねぇ』

 

 

「うっさい!モグワイ!アンタ本当にウイルス流し込むどころか、削除(デリート)するわよっ!?さっさと、調べなさい!!」

 

 

『おーおー、怖えなぁ。ま、言われた通りやってやるよ』

 

 

自分の相棒とも言えるAIを怒鳴りつける浅葱に、当の怒鳴られたAI本人はやれやれと、呟きつつ作業を開始する。その様子を見て、集は苦笑いするしかない。そして、最高水準の演算処理能力を持つ人間臭いAIはものの数十秒で検索を終え、渋い顔をしてディスプレイ上に現れる。

 

 

『あー、一応見つけたんだが、ちとマズイとこにあんぜ、その目的のデータ』

 

 

「何よ、公社のデータバンクなんて何回かハッキングしてんだから今更でしょ?」

 

 

『いや、データがあったのは公社のデータバンクなんかじゃねえ。個人所有のPCの中だったぜ?』

 

 

「個人の?誰よ?」

 

 

『お嬢のバイトの遥か上の存在だよ。矢瀬幾磨(やぜ かずま)、お嬢の幼馴染の兄貴だ』

 

 

「な、何ですって!?」

 

 

その報告に集の表情は曇る。矢瀬幾磨――書類上、現在集の身元引き受け人になっている人物だ。直接の面識はないが、弟である基樹からは話を聞いていた。さほど仲が良くない事なども含めて。そんな人物が何故情報を秘匿したのか?取り敢えず考えられるのは自分の監視と利用の為だろうと集は当たりをつける。

 

 

「モグワイ、そのデータを手に入れる事は出来る?」

 

 

『ん?別に出来ない事は無いが、プロテクトが掛かってるから、俺だけじゃな…』

 

 

「……藍羽さん」

 

 

集は最後の頼みとして、浅葱に視線を向ける。その目を見て、苦い顔をしつつもキーボードを叩き始めた。

 

 

「分かったわよ!私もその情報、気になるから調べたげるわよ!…………………って、何これ!?本当に個人所有のPC!?プロテクトのレベルが半端無いんだけど!?ちょっと、モグワイ!アンタ、間違えたんじゃ無いでしょうね!?」

 

 

『いんや、間違っちゃなんかいないぜ?まぁ、確かにプロテクトが固いが、お嬢にゃ大したこと無いだろ?』

 

 

「当然よ。こんなプロテクトすぐブチ破ってやるわよ!」

 

 

有言実行とは正しく浅葱のこの行動だろう。浅葱はその言葉通りあっという間に矢瀬幾磨のプロテクトを破って侵入し、目的のデータを取り出す。取り出せたデータは動画が一件、さらに文書のデータが一件だった。そして、その動画データの画像を見て、集の手は震える。遂に、ようやく見付けたのだ。『彼女』の事を。

 

 

「いのり……」

 

 

口にした瞬間集の目からは一筋の涙が零れ落ちる。それを見た後、浅葱はモグワイにもう一つの文書のデータの開示を指示する。

 

 

「モグワイ、もう一つの文書のデータを開いて」

 

 

『了解。んー、何々…………………対象を南アジア地域で発見。当時近隣の村に急に現れ、歌を披露し現地の住人に気に入られ、保護されていた模様。しかし、3日程して突如姿を晦ませる。住人達が言うには、数名の軍人風の男が彼女を連れて行ったとあるな…………………どうやらコレは1ヶ月前くらいの目撃情報のデータらしいな。日付が8月10日になってる』

 

 

モグワイが文書の内容を要約して伝え終わると、集は涙を拭ってモグワイの方を見る。

 

 

「………それ以降の行方は分かる?」

 

 

『…………………ダメだ、分からん。発見された地域の監視カメラのデータにアクセスしてみたが、何処にも映ってねえ。だが、男の方の素性は分かったぜ。黒死皇派に所属する獣人だ』

 

 

「黒死皇派!?何でそんな連中が、その子を連れ去るのよ!?」

 

 

『そこは、俺じゃ分かんねえよ、お嬢。ここでデータは途切れてる。(やっこ)さん、よっぽど外部へのデータの漏洩を嫌がってんだろうな。重要な部分は全部アナログみたいだぜ?ホントに打ち止めみたいだな。これ以上は探れねえ』

 

 

集はその言葉に落胆すると共に、浅葱の驚き方に少し疑問を持った。

 

 

「藍羽さん、黒死皇派って?」

 

 

「え、あ……えっと……」

 

 

『黒死皇派ってのは、獣人優位主義を唱える過激派グループの事だ。その行動は、まぁ殆どテロと変わんねえな。そこのトップはこの前死んだって情報が流れてたんだと思うんだがな………まぁ、察してやってくれ桜満の兄ちゃん。お嬢は心配をなるべく掛けないように気を遣ったんだ』

 

 

「うん、分かるよ。ありがとう、藍羽さん」

 

 

「あ、う、うん」

 

 

そして、集はもう一つの動画データに手を付けようとする。だが、それをクリックする前に、地震でも起きたように激しい揺れが彼らを襲った。

 

 

「な、なに!?モグワイ!今のは何なの!?」

 

 

『ちょっと待ってろ、お嬢!………こいつぁ、驚いた。侵入者だ』

 

 

「キーストーンゲートに!?けど、ここって特区警備隊(アイランド・ガード)の精鋭が守ってるんでしょ!?」

 

 

集は胸騒ぎを感じて、モグワイに可能性を提示する。

 

 

「もしかして、その侵入者って2人組?」

 

 

「え、ここに2人だけで攻め込める訳――」

 

 

『いや、お嬢。兄ちゃんの言う通りだぜ。侵入者は大柄な男と人工生命体(ホムンクルス)の2人組だ』

 

 

「ちょっと待ってよ!桜満君が何でそれを知ってたのよ!?」

 

 

集が何かを知ってるような物言いに浅葱は食いつく。

 

 

「ちょっと色々あってその2人の事は知ってたんだ。ここ数日の無差別魔族襲撃事件の容疑者って事でね。南宮先生にも注意するように言われてたんだ」

 

 

『おいおい、お嬢。頼むから言い争いは後にしてくれよ。今は何とかして脱出を考えてくれ』

 

 

「分かってるわよっ!桜満君には後でしっかり何が起こってるのか聞くからね!」

 

 

「分かってる。けど、今は避難しよう」

 

 

「そうね!モグワイ!避難経路の誘導よろしく!………モグワイ?」

 

 

『おおっと、悪いな、お嬢。ちょっと一瞬だけシステムがフリーズしてたぜ。避難誘導は俺のサブを回しとくぜ』

 

 

すると、浅葱の携帯の画面に顔だけのアイコン状態のモグワイが表示される。

 

 

「ちょっと、アンタはどうすんのよ!?」

 

 

『俺は念のため重要なデータにプロテクトを掛けとく。誰かがやっとかないとマズイだろ?』

 

 

「た、確かにそうだけど……はぁ、とっとと終わらせて来なさいよ!さ、行くわよ、桜満君」

 

 

「うん、了解!」

 

 

そう言うと2人は部屋を駆け出していった。

 

 

 

 

 

誰も居なくなった室内でモグワイだけが残り、作業を継続していた。だが、その様子は何処かおかしかった。最高水準の演算処理能力を持つ存在であるモグワイにしては、作業に時間が掛かり過ぎているのだ。まるで、何かを待つように。そして、目的の人物が現れる。

 

 

『ったくよー、急に俺に直接のコンタクトを取ってくるんだから、一瞬だけ焦ったぜ』

 

 

「へぇ、AIでも焦る事があるのか。バレたら仲良く怒られてくれや」

 

 

『そいつぁ、御免なんだがなぁ』

 

 

「ま、とにかくコイツにデータを頼む」

 

 

『何も直接取りに来る必要は無えんじゃねえのか?』

 

 

「念のためだよ、念のため。あまり外部に漏らす危険性を減らしておきたいからな。ってか、漏らしでもしたら、また病院送りにされる」

 

 

『ご苦労なこった。…………終わったぜ、けけっ』

 

 

「おう、ご苦労さん」

 

 

『それはソッチだろうよ。ったく、桜満の兄ちゃんも人気者だな』

 

 

「ま、俺としては再会して欲しいと思ってんだぜ?っと、そろそろ本業に戻らねえと。じゃあな」

 

 

それだけ言うと、データをコピーしたデバイスを持った人物は部屋を後にした。

 

 

『………やれやれ、どうだかねぇ。色んな思惑を巡らせるお前ら人間の方が俺なんかよりも、よっぽど恐ろしいぜ、けけっ』

 

 

薄暗い部屋には人間臭いAIの機械音による笑い声だけが木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暁古城は夢を見る。

 

 

普段は霞みがかって、決して見れない記憶の残滓。その情景が蘇る。

 

 

壊れた天井からは血のように紅い月が覗き、周囲一帯が紅く染まっていた。その紅い月を背に瓦礫の上に立つ小さな少女の姿があった。顔が影になっていて、表情は読む事はできない。

 

 

だが、それでも燃えるように紅く輝く焔光の瞳だけはハッキリと見る事ができた。

 

 

逆巻く炎のような虹色の髪が風に靡き、そして瞳からは止めどなく涙が流れていた。

 

 

そして、その小さな影が口を開く。だが不思議な事に喋っている内容は古城の耳には直接は聞こえない。頭の中にその内容が勝手に浮かんでくる。

 

 

お前の勝ちだ、と。古城は彼女と()る事を望んだ。だが、それを否定するように、彼女の心臓に向けて古城は銀の杭が装填されたボウガンを向けていた。

 

 

引き金を引けば、杭が容易く彼女の心臓を貫くだろう。古城は必死に止める。こんな事は止めろ、と。そう叫ぼうとしても、音の無いこの世界ではいくら叫んでも届く筈がなかった。

 

 

小さな影は古城に一度近付き、首筋に牙を突き立てる。その痛みだけはハッキリと感じる事ができた。

 

 

そして、影は離れて古城に何かを話しかける。古城はその影に対して彼女の名前を叫び、これから行われようとしている事を拒絶する。

 

 

だが、体がいう事をきかない。遂に指が引き金に掛かり、勝手に力を入れ始める。

 

 

ただ、最後の彼女が自分の名前を呼ぶ声だけがハッキリと耳に響く。

 

 

「古城……」

 

 

唇がまだ僅かに動いている。だが、その内容はもう聞こえない。一体何を言おうとしたのか。もうそれを知る事は出来ない。古城はその言葉の続きが知りたかったが、それも叶わない。

 

 

消えそうな入りそうな声で自分の名を呼ぶ彼女に向けて古城は遂に引き金を引いてしまったのだから。

 

 

射出された銀色の杭は彼女の胸を突き破り、心臓に突き刺さる。そして、古城の方へその体が倒れてくる。古城はその一連の動きががスローモーションの様に思えた。

 

 

その時、古城の脳内に去来するのは、髪を潮風に靡かせ青空の下で蒼海を臨む彼女の姿だ。ああ、この姿をずっと見ていらるのなら、などと古城は柄にもない事を一瞬願う。

 

 

そして、元の紅い風景の中へと戻る。古城が抱き止めようとした彼女は消えていく。光が霧散していく様に儚く消えていく。

 

 

古城は空っぽになった腕の中を見て、全身を震わせる。この時、古城が感じたのは一体どの様な感情だったのだろうか。それはおそらく誰であっても、測ることも知ることも出来ないのだろう。

 

 

ただ、古城は紅い空を仰ぐ。その空の中に少年の慟哭は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

21:00になろうとする少し前。死んでいた彼は研究施設跡地の裏手の公園で目を覚ました。研究施設のアラートが作動したので、雪菜が古城をここまで運んだのだ。古城は後頭部に心地よい感触を感じつつ、起きてまず視界に捉えたのは、目が薄っすら赤くなった雪菜の顔だった。

 

 

古城が目を開けたのを見て、雪菜はつい涙を零し、その零れ落ちた涙は古城の目尻に浮かんでいた涙と混ざって一緒に、床に落ちた。雪菜の目元を見て、古城は手を伸ばしそっと、目元を拭う。

 

 

「姫…柊……?」

 

 

もう聞けないと思っていた声に雪菜の目からはさらに涙が数滴零れる。

 

 

「も、もう……!生き返るんなら……そう言っておいて下さいっ!!」

 

 

「そっか………俺は………死んでたのか」

 

 

古城は今し方自分が陥っていた状況を整理した。自分の斬られた光景を思い出し、肩を確認するが傷口は既になく、跡すら残っていなかった。

 

 

「あの…先輩。そろそろ退いてくれませんか?」

 

 

「え、痛っ!?」

 

 

雪菜が立ち上がり、彼女の膝に頭を乗っけていた古城は必然的に頭を地面に激突させる。そして、怒った様に雪菜は、後頭部を手で押さえる古城に向けて言葉を飛ばす。

 

 

「あの後、先輩の体は飛び散った肉片や骨が集まり始めて、何事もなかったかのように元に戻りました。………けど、なんであんな無茶をしたんですかっ!!」

 

 

「何でって言われてもなぁ。俺が好きでやった事なんだし、良いじゃねえか。こうして無事だった訳だし」

 

 

古城は手を頭に回したまま、起き上がり雪菜に言うが、雪菜の方はその言動が許せなかったらしく、口調がつい荒くなる。

 

 

「よくありませんっ!先輩には………先輩には、凪沙ちゃんやご両親が……家族が居るんですよ!?もし、元に戻らなかったら、その人達を悲しませてたんですよ!?なのに、何で……何で私なんかを庇ったんですかっ!!」

 

 

雪菜はようやく収まった涙がまた溢れ出しそうになるのをグッと堪えて、古城を睨みつける。雪菜の真剣な表情に古城も正面から視線を合わせる。そして、殲教師の言葉を思い出し、雪菜の言葉の理由を予想した。あの殲教師の言葉はもしかしたら、少なからず当たっていたのかもしれない。そう考えると、彼女がそういった口調で話すのも頷けた。

 

 

「『私なんか』なんて言わないでくれ、姫柊。そんな風に言うのは、あのオッさんに道具って言われたからか?」

 

 

雪菜は古城の言葉にグッと息を呑み、力なく首肯する。そして俯いたまま、ポツリポツリと言葉が雪菜の口から漏れ出す。

 

 

「………あの人の言う通りなんです、先輩。私は何処かで自分が獅子王機関の道具なんだって気付いていたんです。けど……そんなの認めたくなかった。でも……認めてしまえば自分の存在は一体何のためになるのか…分からなかったんです。だから、先輩が死ぬことなんて無かった……それなら、私の方が……」

 

 

今古城の前で自分の胸の内を吐露する雪菜の姿は、今まで古城に見せてきた強く凛とした剣巫としての姿ではなく、思い悩む年相応の少女のようにしか見えなかった。だが、その悩みは自分の介入していい問題なのか、と古城は一瞬躊躇う。だが、そう思っていても、この暁古城という少年は目の前の少女を今のまま放っておく事など出来なかった。

 

 

「姫ら――ぎっ!?」

 

 

「きゃっ……」

 

 

 

古城は立ち上がろうとした瞬間、先ほどの後遺症が残っていたのか、雪菜を押し倒してしまう。それに対して、雪菜は少し俯いていたため対応できずに、そのまま小さな悲鳴を上げ、古城に覆い被さられて目をパチクリさせる。が、数秒後には状況を理解し、自分を押し倒してきた古城に少しキツめの視線を送る。

 

 

「あの、先輩?何をやってるんですか?」

 

 

「い、いや、死んだ時の後遺症が……」

 

 

そのままの体勢で古城は思い付いたような顔をして、右手をスッと雪菜の頭の方へと持って行き、髪を弄り始める。さらに、顔を雪菜の耳元まで近付かせる。それにより、雪菜には古城の息遣いが直に聞こえ、その急な行動に雪菜は対応のキャパシティを超えかける。

 

 

「せ、先輩……?」

 

 

「姫柊はいい匂いがするなぁ」

 

 

「ひゃっ……」

 

 

喋った時に出た吐息が耳に触れ、雪菜は一瞬体をピクっと硬直させる。

 

 

「髪だってサラサラで触ってて気持ちいいし」

 

 

「あ、あの……」

 

 

古城は髪を弄っていた手を直接雪菜の頭に伸して撫ではじめる。さらに古城の足が雪菜の両足に挟まれている状態になっており、古城が少し動かすと、それに反応して足を閉じるのだが、余計に太腿の内側を刺激されて、雪菜は身を(よじ)る。

ここまで来ると、雪菜のキャパシティは限界だった。普段の剣巫としての強い姿はそこには無く、素の状態である年相応の少女の表情になっていた。

 

 

「それに柔らかくて、触ってて飽きないし」

 

 

「も、もう!先輩!怒りますよ!?………あっ」

 

 

そう言って古城を退かそうとするが、その押す手の力は大変弱々しく、雪菜本人も自身の変化に驚いていた。そして、頭にあった手が頬を撫でて、古城の親指が紅潮した唇に触れた。

 

 

「………ほ、本当に先輩はいやらしい人ですっ…」

 

 

「ああ、そうだな……俺は確かに姫柊がこんな風に可愛くて意地悪するような、いやらしい存在だ。だからさ、こんな俺の為に死のうなんて思わないでくれ」

 

 

「で、ですが……ひゃっ!」

 

 

雪菜の太腿に挟まれていた古城の足が徐々に上へ上がってきて、雪菜は小さく悲鳴を上げた。

 

 

「ですが?」

 

 

「わ、分かりましたっ!分かりましたから!」

 

 

「何が?」

 

 

「も、もう死のうなんて言いませんっ!だ……だから、止めてくださいっ!」

 

 

「えー?」

 

 

「っ!!(怒)」

 

 

雪菜が元気に腕の中で暴れ始めたので、古城はもう平気だろうと、最後はふざけて間延びした返事をする。それを雪菜も古城がふざけているのだと察し、最後には本気の怒りの視線を向ける。さらに、それとほぼ同時に雪菜の右手が、しなる様にして古城の左頬に打ち付けられた。

 

 

 

 

――1分後。

 

 

「さて、ではこれからどうしましょう、先輩?」

 

 

「……おう」

 

 

そこには先ほどの弱っていた雪菜の姿は無く、いつもの凛とした表情の雪菜に戻っていた。だが、古城の方は左頬が雪菜の手の形に紅くなっており、頭には強烈な殴打を食らったのであろう、傷跡があった。もちろん、左頬のそれは雪菜のスナップのよく効いた乙女のビンタの跡だ。頭の方はそれの追撃として、『雪霞狼』の石突きで強烈な一撃を食らった跡だった。

 

 

「そう言えば、あのオッさんとアスタルテって人工生命体(ホムンクルス)はどうしたんだ?」

 

 

「……分かりません。あの後すぐにここを離れてしまって……」

 

 

「そうか………けど、あの殲教師のオッさん、要石がどうとか言ってたな。なぁ、姫柊。もしその要石ってのが奪われたらどうなるんだ?」

 

 

「それは……さっきの戦闘の前にも言いましたが、人工島を繋ぎ合わせている(かなめ)ですから、抜かれたらこの島は………沈みます」

 

 

「なっ!?」

 

 

「落ち着いて下さい、先輩。でも、まだ沈んではいません」

 

 

「だけど、それも時間の問題なんじゃ……そうだ!ニュース!」

 

 

古城はポケットから携帯を取り出し、画面を開く。幸い壊れてはおらず、見る事は出来た。そしてニュース欄を開き、目的の情報を探す。だが、さほど探さずとも目的は達成できた。それは、トップニュースが『不審者によるキーストーンゲート襲撃』という物になっていたからだ。

 

 

 

 




さて、少しきな臭くなってきましたねぇ。データを持ち逃げした犯人とは?まぁ、それはお楽しみ。


さて、今回は古城とアヴローラの夢を。原作8巻を読んだ後、アニメ版の一話を見ると泣けてくる・・・
アヴローラには救われてほしいですねぇ・・・
(他にもヴェルディアナとか。幸せになって欲しい!まぁ、分からない人は原作を見れば分かるかと・・・)


ではでは、また次回!

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