Blood&Guilty   作:メラニン

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聖者の右腕編Ⅵ

 

暁家にて、桜満集は遠方で燃え盛る炎のの中で翼を広げる巨鳥を見た。そして、それを確認次第、上げていた身体能力を元に戻し目も元に戻る。急いでテレビを点けるが、当然ながら今起こった事にテレビ局が対応できるわけがない。通常通りの番組のみをやっていて、集は小さく舌打ちをすると、携帯を取り出す。そして、丁度集が画面を開いたところで着信画面に切り替わる。相手は、級友でもあり集の協力者でもある矢瀨基樹だった。そして、なるべく声を抑えて電話に出る。

 

 

「もしもし、基樹?」

 

 

『集か。今しがた工場のある区域で――』

 

 

「火事、でしょ?その中に遠目だけど眷獣も見えた」

 

 

『そうか。今んとこ古城ではないから安心してくれ。公社の方でも状況を整理しきれてないんだ。アレを起こした奴の目的も分からんから、集は凪沙ちゃんのガードを頼む。もし、古城に何かあっても俺がバックアップに回る』

 

 

「え、でも基樹は……」

 

 

ここで集が言い淀んだのには原因があった。矢瀬が一応、音波や気流を操る事のできる過適応能力者(ハイパー・アダプター)である事は知っているのだが、それでは何かあった時に古城のバックアップには不十分ではないかと考えたのだ。

 

 

『安心しろって。直接殴り合ったりするわけじゃない。助っ人も要るからよ。っと、案の定古城が移動しやがった。じゃあな、集。凪沙ちゃんの方は頼んだぜ?』

 

 

そこまで言って通話が切れた。集は切れた後の通話画面を見つめながら小さく溜息を吐く。そこで、梨を切って持ってきた凪沙が現れた。

 

 

「集さん、お待たせ――って、何アレ!?」

 

 

驚いた凪沙を見て、集は毒気を抜かれた様に感じると、ここから距離もあるから大丈夫だろうと安心させ大人しく古城と雪菜の帰りを待つ事にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暁古城は夜の街を走っていた。アイランド・ウェストから、爆発があったであろうアイランド・イーストを目指して連絡橋を通常の人間ではあり得ない走力を発揮して全力疾走していた。当然彼の今の目は赤く輝いていた。つまり、吸血鬼としての身体能力をフル稼働させているのだ。

 

 

連絡橋を用いた爆発現場までの距離は約15kmほど。通常であれば人間のマラソン選手の平均時速は20kmに届かないくらいだ。この計算で行くと、目的地まで1時間近く掛かるのだが、古城の現在の走力をもってすれば、10分掛かるか掛からないくらいだった。それでも、古城は焦っていた。その理由は自分の後輩である姫柊雪菜が事件の起きている只中へ一人で向かったからである。いくら、魔導災害に対するプロフェッショナルと言えども、雪菜自身はまだ年端のいかない中学生である。そんな彼女が巨大な眷獣の元へ向かったのだ。それを古城が放っておける筈が無かったのである。

 

 

「はっ……はっ………くそ!あと少し……」

 

 

ようやく戦闘音が多少なりとも聞こえる距離まで聞こえてきた。既にあの巨鳥の眷獣は姿を消している。つまり、雪菜が戦っているのは吸血鬼ではなく、別の何者かという事になる。その思考が古城の焦りに拍車を掛けていた。そして、ようやく目的地である倉庫街に辿り着く。音の発信源を頼りにコンテナの間を縫って進んで行き、遂に雪菜を見つけた。

 

 

しかし、その瞬間に雪菜に攻撃の手が迫っていた。白い半透明な腕の様なものが雪菜に迫っていたのだ。眷獣の一種だろうと古城は当たりをつける。そして、雪菜の方は槍を別の腕の様なものに刺して抜けないでいた。そこまで見れば古城が次の行動を起こすのには十分な情報だった。

 

 

「姫柊ーー!!」

 

 

古城は今出せる全力の魔力を纏った拳を雪菜に迫る腕に叩きつける。通常の拳打ではあり得ない音を立ててそれは弾き飛ばされた。

 

 

「ああぁっーー!!」

 

 

それの余波を受けてか、腕を顕現している藍色の髪を持つ少女が悲鳴をあげ(うずくま)る。急な乱入者に戦斧を持ち法衣を身に付け、モノクルを掛けた男性が驚きの表情をしているのを確認する。

 

 

「せ、先輩?」

 

 

「無事だな、姫柊?」

 

 

「え、ええ。私は平気です。その…今のはありがとうございます」

 

 

「そうか……それはそれとして、バカかお前は!?」

 

 

「な!?ば、馬鹿!?」

 

 

「当たり前だ!様子を見るだけじゃ無かったのか!」

 

 

「そ、それは!………すいません」

 

 

雪菜の謝罪に古城は嘆息しつつ、改めて藍色の髪をした少女と戦斧を携えた男性を睨み付ける。

 

 

「まさか、アスタルテの『薔薇の指先(ロドダクテュロス)』を退(しりぞ)けるとは……先ほどの獅子王機関の秘奥兵器である七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)にも驚きましたが、今のにも驚かされましたね。まさか、第四真祖の噂は本当ですか?」

 

 

受け答えは丁寧だが、先ほどから肌を刺すような殺気を隠そうとしない相手を前に、苛立つように古城は牙を剥く。

 

 

「なぁ、オッさん。あんたの目的が何なのかは知らねえが、できれば今すぐ消えてくれねえか」

 

 

「ふふ……はははは!私もできればそうしたい所ですが、相手が第四真祖とあっては是非ともこのアスタルテの性能実験に付き合って頂きたい!アスタルテ!」

 

 

「おい、その子は――」

 

 

再起動(リスタート)完了(レディ)命令を続行せよ(エクスキュート)、『薔薇の指先(ロドダクテュロス)』」

 

 

アスタルテと呼ばれた少女は立ち上がり、背中から先ほどの両腕が出現する。その色から一瞬翼にも見間違いそうなそれは、まっすぐ古城に向かって来た。

 

 

「姫柊、下がれ!」

 

 

「せ、先輩!」

 

 

「おらあぁーーー!!」

 

 

古城は先ほど同様に魔力を纏った拳を打ち付け、迫り来る右腕を弾き返す。それを見て、男性の方が顎に手をやり訝しむように古城を見る。

 

 

「………アスタルテ、一旦攻撃を止めなさい」

 

 

命令受諾(アクセプト)

 

 

「どうしたよ、オッさん。引く気にでもなったか?」

 

 

「ふむ、出来れば真祖の眷獣というのを見ておきたいので見るまで続けさせようと思いますが」

 

 

そう言ってアスタルテの方を見る。先ほど古城が少しでもこのアスタルテという少女を気に掛けたのを彼は見逃さなかっのだ。それを見て古城は当然なお敵意を発する。そして、それに呼応するように古城からは体内で生成された魔力が漏れ出す。

 

 

「テメエ……!」

 

 

「はははは!いいですね、第四真祖!さすがは、真祖だ!が、この魔力量………今はまだ時期尚早ですか。一旦引きますよ、アスタルテ」

 

 

命令受諾(アクセプト)命令を執行せよ(エクスキュート)、『薔薇の指先(ロドダクテュロス)』」

 

 

 

「なっ!?」

 

 

「先輩!」

 

 

法衣の男とアスタルテは大きく後ろへ飛び退くと同時に、アスタルテによる古城への攻撃を行ってきた。より撤退を確実にするためであろう奇襲は、見事に古城の意表を突き攻撃が当たるかに思えたその瞬間、突如アスタルテの攻撃が何かに横から押される様にして弾かれた。

 

 

「………どうやら、今の状況を覗いていた者がいた様ですね。アスタルテ、眷獣は防御の方に集中させつつ退きますよ」

 

 

命令受諾(アクセプト)

 

 

そう言って、2人は倉庫街の闇の中へと消えていった。取り残された古城と雪菜は暫く呆然としていたが、雪菜が道端に転がるソレに気付いて拾い上げた。

 

 

「これは……呪力弾?」

 

 

雪菜が拾ったのは、命中した衝撃で先端がひしゃげた狙撃用の呪力弾だった。対魔族様に使われるそれは、現行兵器による運動エネルギーと併せれば、下手な降魔武器よりもよほど魔族に対してダメージを与えられる。先ほどアスタルテによる攻撃を防いだのもこれだろうと考察する。そして、古城も雪菜の手の中にあるそれを確認する。

 

 

「誰かが助けてくれたって事か?」

 

 

「そう考えるのが妥当ですね。けど誰がコレをやったのかが気になります」

 

 

「まぁ、誰だって良いじゃねえか。助けてくれたんなら」

 

 

「先輩は軽すぎます!第一、これが第四真祖に恩を売るためだとか、何かに利用するための口実のためだとか思わないんですか!?」

 

 

「そ、それは、えーと………」

 

 

「もう良いです!……………けど、助けてくれてありがとうございました」

 

 

雪菜は一応礼を言うのだが、最後の方は尻すぼみになってしまっていて、古城の耳には届いていなかった。

 

 

「え、ごめん、姫柊。なんか言ったか?」

 

 

「な、何でもありません!ほ、ほら先輩、凪沙ちゃんから頼まれた買い物の途中でしたよね?行きますよ!」

 

 

「えぇ!?今から行くのかよ!?」

 

 

気の強い後輩の女子中学生の後を、第四真祖である暁古城は付いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トップリ日も沈み夜もいい頃合いの時間帯。ビルの上にM24 SWSという米系銃器をカスタムした狙撃銃でターゲットをスコープ越しに捉える人物がいた。相手との距離は600mほどといったところだろうか。そして、その側には双眼鏡で目標の情報をスナイパーに伝える人物がいた。ヘッドフォンを掛けた彼は、持ち前の能力で気流を操り、狙撃に最適な状況を作り出す。そして、狙撃手に指示を飛ばす。

 

 

「ターゲット、ホワイト。アームショット、エイム」

 

 

そこまで指示を飛ばした後、一旦ヘッドフォンを外して追加の指示を飛ばす。

 

 

「ミュート、コンプリート。ファイア」

 

 

ダァンという乾いた発砲音と共に、音速を超えて飛んでいく弾丸は確かに目標である白い眷獣の腕に命中した。そして、それを確認した後は夜の闇に溶ける様にジッと息を潜める。攻撃対象にこちらの位置を悟らせない為だ。そして、攻撃対象は撤退し、暫く経ったら防衛対象もその場を去ったのを確認し、狙撃手の方が口を開く。

 

 

「ったく、夜に急に呼び出されたから何だと思ったら、こんな役割かよ。はぁーあ、あのリア充高校生が羨ましいぜ。後輩と夜のデートとかさ」

 

 

「まぁ、そう言うなよ、東條さん」

 

 

「はぁ………ま、これで借りは返せただろうし、良しとしときますよ、御曹子。たはは」

 

 

御曹子と呼ばれた彼は一度嘆息し、辟易した様に東條に話しかける。

 

 

「御曹子は止めてくださいよ。多分、親父の跡目は兄貴が継ぐだろうし、俺は御曹子なんて柄じゃない」

 

 

東條の煽りに矢瀬基樹は少し拗ねた様子になり、東條も少しいじり過ぎたなと反省し、話題を変える。

 

 

「それにしたって、何たって俺だった?他にも上手い狙撃手は特区警備隊(アイランド・ガード)の中には少しくらい居るぜ?」

 

 

「色々と事情を知ってるアンタに協力して貰うのが、一番楽なんスよ。それに、那月ちゃんに連絡したら『そういう事なら手頃な狙撃手を手配してやる』って嬉々として快諾してくれましたよ?」

 

 

「ぐ……あの幼女体型……」

 

 

「ほーー………この前の躾だけではまだ足りなかったか、東條?ん?」

 

 

急な後ろからの物言いに東條は壊れたブリキ人形の様に首を回す。そこに立っていたのは彼の上司であり、国家攻魔官である南宮那月だ。

 

 

「ち、違うんです、南宮攻魔官!い、今のはその、なんだ………そう!俺ってたまに幻覚を見――」

 

 

「ふん!」

 

 

「いってえぇーー!」

 

 

那月の的確な蹴りは見事に東條の脛を捉え、東條はその一撃により、のたうち回る。

 

 

「まぁいい。それにしても、相手のあの眷獣は気になるところだな。見たところ人工生命体(ホムンクルス)である事は確かなんだろうが、それが眷獣を持っているとは……」

 

 

那月は今しがた戦っていた人工生命体(ホムンクルス)であるアスタルテが用いていた眷獣について考えていた。本来吸血鬼が用いる眷獣というのは、寿命と魔力を代償に召喚されるものだ。その特性上、不死である吸血鬼のみにしか使いない代物である筈なのだ。それを人工生命体が使っていた。それはつまり――

 

 

「ふん、随分と悪趣味な考えの様だな、あの殲教師は。人工生命体(ホムンクルス)は使い捨てのつもり、か……」

 

 

那月は先ほどまで古城達が戦っていた殲教師とアスタルテが消えた倉庫街の暗闇をただジッと見つていた。

 

 

 

 

 

 




ってなわけで、今回は短め。狙撃のところはヨルムンガンドを見て適当にやっただけです、はい・・・

あと、古城に大規模破壊はさせませんでした。500億の借金高校生というのも面白いですが、まぁ東條を活躍させたかったですし・・・


では、また次回!

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