Blood&Guilty   作:メラニン

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今回は”ねこまたん”を取る回です。


それと集の若干の過去語りですね。


では、どうぞ!


聖者の右腕編Ⅴ

 

「先輩、そこ違います」

 

 

「うげっ」

 

 

「あ、凪沙さん、そこ違うよ。えっと、遺伝の時の組み合わせは一回分離の法則を使ってから」

 

 

「あ、そっか。ん?けど、集さん。こっちの文字が増えてるのは、どうやってやるの?」

 

 

「ああ、それは二遺伝子雑種って言って――」

 

 

現在は夜の9時を過ぎた頃だ。暁家では、急遽勉強会が行われていた。教える側は集と雪菜で、教わる側は古城と凪沙である。別に教える組み合わせは大して決まりはなく、教える側の2人が教わる側2人の気付いたところを教えていくスタイルだ。

 

 

そして、間違いを指摘された古城は憂鬱そうに消しゴムで自分の解答を消していく。

 

 

「はぁ…まさか年下に教わる事になるとは」

 

 

「安心してください、先輩。前の学校で既に高校卒業程度の範囲は履修済みですから」

 

 

「スゴイ、雪菜ちゃん!ハイスペックだね!」

 

 

「いや、そういう事じゃなくてだな」

 

 

「先輩、また間違えてます。そこのスペルは『a』じゃなくて、『o』です」

 

 

「げっ」

 

 

再び古城は年下の後輩に間違いを指摘され、先ほど同様に解答を消す。古城は情けなさを感じつつも、雪菜の指導通りペンを走らせる。一方、妹である凪沙の方は生物の課題に取り組み、集もそれに協力する。

 

 

「ねえねえ、集さん。次の問題なんだけど、これは?」

 

 

「えっと、そこはDNAを構成する4つの塩基が答えだね」

 

 

「あー、えっと………アデニンとチミンと…………あれ?」

 

 

「残りはグアニンとシトシンだね」

 

 

「そうだった、そうだった。………集さんに勉強を教えて貰うの初めてだけど、集さんって勉強も結構できるよね。本当に古城君と同い年?」

 

 

「ぐっ……」

 

 

古城は妹の容赦のない発言に呻き声を漏らし、雪菜には苦笑いをされる。

 

 

「はは……まぁ、一応同い年だよ」

 

 

集はそう言うが、当然嘘である。古城の監視がしやすい様に、同い年で偽の身分も作成している。本来は17歳だが、本当の年齢を知っているのは偽の身分を作った管理島公社の上役たちだけだ。本来であれば高校2年生だったのだから、古城たちの学習している内容は余裕なのだ。そして、集と雪菜の好アシストもあり、暁兄妹はなんとか課題を終わらせた。終わった頃には、既に夜10時を回っていた。

 

 

「ありゃ、もうこんな時間。そういえば、まだお風呂沸かしてなかったかも……」

 

 

「マジでか?」

 

 

「うん、マジ…あ、そうだ!だったら、古城君アイス買ってきてよ!」

 

 

「何でだよ!?」

 

 

「だって、お風呂沸かしてる間って暇だし。ほら、頭を動かした後だから甘いものが欲しいじゃない?それに、夏休み以降古城君が夜は外出するなー、って言っちゃって、夜の外出許してくれないじゃん」

 

 

「そりゃ、また一月前みたいな事があったらマズイだろ」

 

 

「って訳で、古城君よろしく〜。あ、私バニラアイスだったら何でもいいから」

 

 

「もう買いに行かせる気になってやがる……」

 

 

「まぁ、勉強後だし気分転換って事でいいんじゃないかな?僕も甘いもの欲しいし、荷物は手伝うからさ」

 

 

「桜満まで………はぁ、分ぁーったよ。姫柊はどうするんだ?」

 

 

「いえ、私は一緒に行こうと思うので」

 

 

第四真祖の監視役を任ぜられた彼女は、できれば古城の側を離れない方が良いと思いそう言うが、凪沙はそれにクレームを飛ばす。

 

 

「えー、雪菜ちゃんも行っちゃったら、私1人でお留守番じゃん!」

 

 

「じゃあ、付いて来ればいいだろ?」

 

 

「う……さっきの勉強で疲れて外行きたくない……」

 

 

ソファの上で和んでいる凪沙に苦笑いしつつ、3人は顔を見合わせる。果たして、どうすれば解決するのか?要は凪沙は1人で留守番するのが嫌なので、話し相手を置いていけと暗に言っている事に他ならない。古城が外に行く場合、監視役が必ず必要になる。そうなると、雪菜は当然付いていくだろう。集も本来であれば役割上付いて行かなければならないが、そうなってしまうと結局凪沙1人が留守番となる。果たして誰が行くべきなのか?集は1つの解決策を考えた結果、発言する。

 

 

「じゃあ、僕が行ってくるよ。場所は分かるし」

 

 

だが、当然それに違を唱える人物が1人。

 

 

「だから、お客さんの集さんと雪菜ちゃんを買い物に行かせる訳にはいかないよ!」

 

 

「おい、って事は俺1人で行けってか?」

 

 

「うん、そのつもりだった」

 

 

「おい!」

 

 

妹の横暴な対応に古城が突っ込むが、監視2名は心の中で奇しくも同じ事を思った。

 

 

(それが一番ダメだって!)

(それが一番ダメです!)

 

 

このままでは、埒があかないということで、結局はジャンケンで決める事に。協議の結果、買い出しと留守番がそれぞれ2人ずつという事に。そして、ジャンケンの結果――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……凪沙の奴。最近本当に遠慮がねえ。いや、昔からか?」

 

 

「けど、先輩と凪沙ちゃんを見てると、兄妹って羨ましいって思います」

 

 

古城の隣を歩くのは獅子王機関の監視役である雪菜の方だった。剣巫(けんなぎ)には少し先の未来を見通す霊視という能力がある。人間である剣巫が近接戦闘において、魔族とも渡り合えるのは、この霊視による恩恵が大きい。相手の次の手が分かるのだから、どこに避ければ回避できるのか。どこに攻撃すれば当たるのかなどが分かるのだ。先ほどのジャンケンもこの霊視を用いて、ワザと古城と同じ手を出し、敗北したのだ。当然普段はジャンケン如きでこんな事はしないのだが、今回ばかりは任務を優先するためという事で、少しばかりのズルを行ったという訳だ。

 

 

「羨ましい、ねぇ……」

 

 

「はい、私は家族というもの自体持っていませんから。だから、そう思うんだと思います」

 

 

雪菜の返答を聞いて、古城は内心やってしまったという罪悪感で足取りが重くなった。そんな古城を察してか、雪菜は古城の事を見上げながら明るく振る舞う。

 

 

「あ、すいません。こんな事は今言うべきじゃありませんでしたね。確かに私には家族も居ませんし、その記憶も無いですけど、それでも高神の杜には友達も居ましたし、少し怖かったですけど寮母さんやルームメイトも良くしてくれましたから。だから、寂しいと思った事は無かったです」

 

 

「………そっか」

 

 

雪菜の言葉を聞いて古城はホッとした様な落ち着いた安堵の表情になる。

 

 

「もしかして………先輩、心配しましたか?」

 

 

「そりゃ、そうだろ。今さっきのは、完璧俺の失言だしな。それで気を悪くさせちまったんじゃないかって心配したさ」

 

 

その言葉を聞いて雪菜は信じられない物を見たと言わんばかりに、目をパチクリさせる。

 

 

「おい、姫柊。何でそんな驚いた表情してんだ?」

 

 

「い、いえ、ちょっと意外というか……」

 

 

「意外?何がだよ?」

 

 

「先輩はもっと冷酷な吸血鬼だと思ってましから」

 

 

「あ?どうして俺がそんな風に思われるんだよ?」

 

 

「普通、真祖という存在はその力故かは分かりませんが、少しその……性格が若干変わっているという傾向があるみたいなんです」

 

 

「それって、俺以外の真祖の事か?」

 

 

「はい。私も噂程度でしか聞いた事が無いんですが……」

 

 

「ふーん……まぁ、他の真祖はもう気の遠くなるくらい生きてるんだろ?だったら、それが原因じゃ無いのか?」

 

 

「時間とともに性格が変わっていった、という事ですか?」

 

 

「まぁ、確証があって言ってるわけじゃ無いけどな。俺の方はこんな体質とはいえ、まだ16歳の青二才だからな。それに、元は人間だったから性格もまぁマトモ……だと思う。けど、魔族にだっていい奴らは居るだろ?」

 

 

「それは……否定しませんけど」

 

 

「だろ?って、どうした、姫柊?」

 

 

そこで、雪菜の方は一度足を停めて、偶然視線の端に捉えた物に視線を集中させる。

 

 

「………欲しいのか?」

 

 

「え!?あ、いえ、その……」

 

 

雪菜はしどろもどろするが、古城は少し笑いが溢れる。雪菜の視線が向いた物というのは、マンションの近隣に存在しているゲームセンターの入り口に設置されているクレーンゲームの景品だ。ショーケースの中には招き猫をデフォルメした様なキャラクターのストラップが積まれていた。

 

 

「あー、確か凪沙の奴も好きだったな、このキャラクター。何て言うんだっけか?えっと………招き猫?」

 

 

「『ねこまたん』です!」

 

 

「だから、欲しいんだろ?折角だしやっていくか?」

 

 

「で、でも、凪沙ちゃんや桜満先輩たちを待たせてますし……」

 

 

「じゃ、要らないのか?」

 

 

「そ、それは、その……」

 

 

言い淀む雪菜に古城は少し意地悪だったか、と反省し雪菜に確認を取らず、財布からワンプレイに必要な金額を入れる。そして軽快なBGMが流れ始め、古城はアームを操作するボタンに手をかける。

 

 

「ちょっと先輩!もう!」

 

 

古城の後ろで雪菜が喚くが、古城は敢えて無視してアームを操作する。まずは縦方向にアームを動かし、次に横方向。そして、アームが降下していく。その様子に先ほどまで(いさ)めようとしていた雪菜も釘付けになる。そしてアームの先端がストラップの輪っかに引っ掛かり、上昇しそのままボックスへ落ちた。古城はボックスに手を突っ込み、いつの間にか横で見ていた雪菜に差し出す。

 

 

「あの……別に私は……」

 

 

「遠慮すんなよ、姫柊。これも歓迎の品とでも思ってくれればいい」

 

 

「も、もう、仕方ないですね!じゃ、じゃあ、お言葉に甘えてもらっておきます」

 

 

照れ隠しで怒ってる様にしつつ、雪菜はそれを受け取った。改めて手の中に収まったストラップを見て、雪菜の表情は綻んだ。その様子を見て、古城もさっきの事の埋め合わせくらいにはなっただろうと、満足していた時だった。古城も雪菜も互いにクレーンゲームに夢中になっていて、背後から近付いてきていた存在に気が付かなかったのだ。

 

 

「ほぉ、こんな夜の街を出歩くとはいい度胸だな、暁古城」

 

 

「げっ、那月ちゃん!?な、何でここに!?」

 

 

そう、彼らの背後にいつの間にか居たのは古城担任である南宮那月だった。腕を組み、口の端を引き攣らせ明らかに不機嫌そうな様子だ。さらに彼女は教え子の言葉でさらに不機嫌になった様で、それの腹いせとして、閉じた扇子による鋭い一撃を額に食らわせる。

 

 

「でっ!?痛ぅ〜〜……」

 

 

「教師を"ちゃん"付けで呼ぶな!まったく、しかもこんな時間に外出とは。貴様もだ、転校生」

 

 

「は、はい、すいません……」

 

 

キッと睨み付ける那月に雪菜でさえも萎縮してしまっていた。気の強い雪菜でさえ、これなのだ。那月が一体どれほど不機嫌そうに見えるかは、これで十分伝わるだろう。

 

 

「それよりも、暁古城。貴様1人ならいざ知らず、女子中学生の後輩と夜の街を――」

 

 

そこまで言ったところで、遥か離れた方で爆発音と共に火の手が上がった。それに、那月が一瞬の気を取られている間に古城は雪菜の手を引いてその場を離れるのだった。そして、この時2人は火の手の中心に巨大な火の鳥の眷獣が居るのを確認したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、古城君たち大丈夫かな?」

 

 

古城と雪菜が出て行ってすぐに自宅のソファの上でそう呟いたのは暁凪沙だ。そして、ソファから顔だけ出してテーブルに座って先ほどまでメールを打っていた自分より年上の隣人の方を確認する。それに相手も気付いたのか、凪沙の呟きに返答をする。

 

 

「大丈夫かな、って喧嘩しないかって事?それとも、古城が姫柊さんに変な事をしないか心配って事?」

 

 

「………両方、かな?ほら、古城君って意外と子供っぽいところがあるでしょ?まぁ、雪菜ちゃんが大人っぽいから平気だと思うけど。でも、古城君がこの前の浅葱ちゃんの時みたいな事をしないかが心配なんだよ」

 

 

「あぁ……」

 

 

ここで言う、古城が浅葱にした事というのは、先月の古城が浅葱のスカートの中に頭を入れてしまった件だ。集もそれを察し、返事をするが何も無いとは保証しかねるのだ。確かに、そういった出来事が起こらないとも限らないが、集の本来の懸念は別にあった。それは、彼が第四真祖であるが故の懸念だ。また、何かの事件に巻き込まれて第四真祖として暴走してしまわないかの方が気掛かりだった。

 

 

一応雪菜が所持している七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)は『神格振動波駆動術式(DOE)』というものが組み込まれており、魔力を無効化できる事は知っている。だが、それでもやはり不安のため、一応の保険を掛けておくことにした。それが、先ほどまで打っていたメールの正体なのだが。

 

 

「そう言えば、集さんのさっきのメールって誰に打ってたの?」

 

 

「あぁ、基樹にだよ。ノートを貸してるから明日忘れないようにってね」

 

 

当然ノートの貸し借りではなく、古城が自分の監視下から外れた事と、現在獅子王機関の監視が付いている事、なぜそうなったかなどの内容だ。保険というのは、それに伴い矢瀨に協力してもらう事だったのだ。

 

 

「ふーん、矢瀨っちも結構抜けてるトコあるから、確かに確認取っておかないとだね。………ねぇ、集さん、質問していい?」

 

 

「どうしたの、凪沙さん?そんな風に改まって」

 

 

集の言う通り先ほどまで寝そべっていた凪沙はしっかり起きて話しかけてきた。

 

 

「えっとね、その………集さんって東京から来たって言ってたじゃない?」

 

 

「うん、そうだね」

 

 

「でね、研究施設に居たって聞いたんだけど、その時の事って聞いちゃダメ……かな?」

 

 

珍しく遠慮がちに言ってくる凪沙に集は朗らかに答える。集としても、普段から快活な彼女がしおらしくなっているのは違和感があるので、それを消す事が出来るなら可能な限り答えようと思ったのだ。

 

 

「うん、いいよ。あまり面白くないかもしれないけど、それでもいいなら」

 

 

「ううん!全然いいの!その、私も興味本位で聞いてるだけだから!じゃあ、えっと………集さんの居た研究施設って何やってたの?」

 

 

「ははは……いきなり核心部分……んー、あまり詳しい事は言えないんだけど、ある技術の開発……かな?ゴメンね、あまり外に情報を漏らせないんだ」

 

 

「ううん、仕方ないよ。それが普通なんだろうし。深森ちゃんも何やってるのか、そんなに詳しくは言ってくれないしね。っていうか、言われても頭が追い付かないんだけど……」

 

 

「あはは……」

 

 

「あと他にもいい?集さんの他にもその………こう言うのは失礼だと思うけど、被験者っていたの?」

 

 

そこで、集はある人物が頭に浮かぶ。被験者……ではなく、自分と同じ力を持った者を。自分の友であった存在を。そして、その友は集をこちらの世界に送り出すために『彼方(あちら)』に残った。それを思い出し、一瞬目頭が熱くなるのを感じたが、心配そうに覗き込んでくる凪沙を見て、急いで取り繕った。

 

 

「あ……ご、ゴメンね。えっと、そうだね。確かに居たよ。僕と同じような存在が……他にも、掛け替えのない人も居たよ」

 

 

「………ごめんなさい、集さん。やっぱり聞くべきじゃ無かったよね………あーー、もう!この話はお終い!暗くなるだけだから!あ、そうだ!そういえば、冷蔵庫の中に梨があったから剥いてくるね!」

 

 

ドタドタと凪沙がキッチンへ逃げるように入って行くと、集は苦笑いしつつ一度窓の外を見た。そして、丁度その時だった。

 

 

遠方で火の手が上がったのが、窓から確認できたのだ。そして、すぐさま立ち上がって窓へ近付き、身体能力を上げる事で赤くなったその目で一点を凝視する。そこに見えたのは燃え盛る炎の中、翼を広げる炎を纏った巨鳥だった。

 

 

 

 




ってな感じでした。因みにやっていた課題は古城は英語。凪沙は生物です。最近の中学生の指導要領怖いですね。この前、運動エネルギーと位置エネルギーの公式を学校で習ったって言ってました。しかも、重力加速度なんかも。メンデルの法則も全部やってましたね。
ホント、怖いわぁ・・・日本の教育よ、どこへ行く・・・





さて、次回本格的にアスタルテと、殲教師が登場予定。


さらに、その続きを執筆中なんですが・・・・・・アレ?あのオッサンってこんな事言ってたっけ?ん?

まぁ、いっか。


ってなわけで、次回以降をお楽しみにしてくれると、うれしいです!


ではでは

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