東方狂宴録   作:赤城@54100

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ちんまりちんまり、徐々に勘違い回が近付く気配。


第六話『俺と乙女と怒る慧音と』

「…………朝、か」

 

 眠く、まだボーッとしているが立ち上がり家を出る。

 水道は使わずに近くにある井戸までフラフラと歩き、水を汲んでそれを持って家に戻る。その水で顔を洗えば、井戸水ならではの冷たさが半寝状態の脳を覚醒させる。

 そして、呟く。

 

「あぁ、最悪だ」

「失礼だなお前!!」

 

 何故か我が家in妹紅。もこたんインしたお! ってか?

 ふざけんなよギャグやるならもっと面白いのやれ、もしくはつまらないなら体を張れ。それで生き残ってる芸人も沢山いるんだから。

 

「と、いうわけで妹紅。熱湯風呂に入るのと紐無しバンジーはどちらが良い?」

「殺す気か!?バンジーぐらい私だって知ってるからな!?」

 

 おや意外、伝わらないと思ったよ。幻想郷は分かりにくいねぇ……。

 

「大丈夫、君は不死だ。なにより人の家に不法侵入しながら堂々とするその胆力、実にコメディアン向きだ」

「燃やすぞお前!!」

 

 なにそれこわい。

 

「で、なんのようかね?」

「いきなりか!? 展開が早すぎて付いていけないぞ!?」

 

 でしょうね、俺も付いていけない。なんか眠たいからか言動が変すぎる、まったく脳覚醒してねぇ。

 ワラキア補正もゼロ、流石に眠気には補正も働かないようだ。

 

「ハァ……お前、昨日と性格違くないか?」

「む、そうかね? いや実はまだ眠くて何を喋っているかが曖昧なんだ」

「傍迷惑な寝惚けだな」

 

 それは仕方ない。結局中身は俺だからな、口調やらが変わりまくるだけで本質までは変わらない。

 即ち、悪ふざけが割と好きという高校生男子にありがちな性格だ。無論不良なんかとは程遠い、楽しいことが好きという当たり前な性格なんだがな。

 

「私は慧音にお前を呼ぶよう言われて来たんだ」

「慧音が? ……ふむ、一つ思い当たる節はあるが」

 

 思い当たる節、なんてことはない約束だ。寺子屋を非常勤講師として手伝うという約束。

 しかし、先生か。よくよく考えると責任の重い職業だな……。とは言っても、すでに請けた話だから仕方ない。行くとしよう。

 

「では、私はどこに行けばいいのだね?」

「寺子屋で待ってるってさ」

 

 言いながら外に出る妹紅。そしてそっと扉を閉める俺。

 

「何閉めてんだよ!?」

 

 おぉ、速い速い。即座に開けながらツッコミをいれるとは、本当に芸人に向いてるかもしれんな。

 

「だがな妹紅、私は着替えねばならんのだよ。まさか扉を開けたまま着替えろというのかね? または私の着替えてる姿を見たいと?」

 

 別に部屋はあるが、あえて聞く。すると、妹紅は真っ赤になりながら荒々しく扉を閉めた。

 思いの外初心な奴だな。

 

「さて、着替えるか」

 

 とは言っても、服は昨日と同じワラキアの服。他にあるのは明らかに寝間着って感じだったからだ。

 しかし、それなりに清潔を自負しているのでコレは厳しい。…………ん?

 

「汚れが落ちている……?」

 

 何故か昨日ついた筈の泥や血、破けた部分も綺麗になっている。汗臭さもまったくしない。

 

「なんだかよく分からないが……便利だし良しとするか」

 

 サッと袖を通し、ズボンを穿き、マントを羽織る。そうすればあら不思議、ワラキアです。

 まぁ見た目ワラキアだから別に何着ててもワラキアだけどね。

 

「待たせたね、行くとしようか」

「いや、別に待っては無いけどさ。……ん? 昨日その服、泥だらけ血だらけの破け有りって感じじゃなかったか?予備があるようには見えなかったけど……」

「何故か綺麗になっていた」

「………………」

 

 ジト目でこっち見んな。つか真実だしどうしようもないよ、うん。

 

「しかし、別の服も用意しなくてはな。同じ服を来ていてはおかしく思われる」

「そうか? だいたいみんな同じ服を何着も持ってるぞ?」

 

 そうだね、ここは異世界だったね。忘れてましたよもこたん。

 

「何故か馬鹿にされた気分だ」

「安心したまえ、馬鹿にはしていない」

 

 馬鹿には、ね。だからジト目はやめて、朝から二連発は死ねるから。

 

 

 

「やぁ慧音、おはよう」

「あぁ、おはようズェピア」

 

 寺子屋に到着、すると慧音が立っていた。挨拶したら微笑みながら返してくれた。そろそろ本気で、惚れてまうやろー!!と叫びたい。

 

「すまないな、昨日は大変だったのに」

「いやなに、請けた話に受けた恩、この二つがあるのなら断る道理はあるまい?」

 

 ニヤリと笑いながら返す。呆然とした慧音だが、すぐに動き出し笑い始めた。

 

「本当にお前はいい奴だな、ズェピア」

「君ほどではないさ、この里を守護する役割など私にはとてもとても……」

「……知ってたのか?」

「予想ぐらい出来る、君なら実力と人望の両方を満たしてるからね」

 

 寺子屋の中に入りながら会話する。

 驚いた表情の慧音だが、これも原作知識なんだよなぁ……。騙してるわけだから、なんか申し訳ない。

 ……あ、そういえば。

 

「あの少女はどうなったのかね? 恐らく、怪我は無かったはずだが」

「大丈夫だったよ、擦り傷があっただけで殆ど無傷。精神的にも安定してるから叱られて終わりだろうな」

「それはそれは、自業自得とはいえ子供としては実に恐ろしい終わりかただな」

「死ぬよりはマシじゃないか?」

 

 ま、そりゃそうだけどさ。

 俺は母さんに怒られて酷い目にあったから、どうしても恐い。具体的には一週間学校以外では用意された服のみを着るという罰。

 なんかフリフリのフワフワって感じのドレスを着せられた思い出がある、妹もノリノリだった、おかげで今もドレスは嫌いだ。

 

「で、だ。実は、その少女が君に礼をしたいと言っているんだ」

「……礼?」

「そうだ、今日呼んだのはそれが主な理由なんだ」

 

 そう言うと、ポケットから何かを取り出す慧音。見たところそこらにあるような普通の紙だ……何か文字が書いてあること以外は、だが。

 

「これはそこまでの地図、とは言っても図は無いんだが。しかし、文字だけの説明にしては分かりやすいはずだ」

「ふむ、達筆だな…。それに寺子屋からの分かりやすい道程が書いてある。これは慧音が?」

「いや、君の助けた少女が書いたものだ」

「これだけ達筆な字を書ける辺り、さぞ聡明なのだろうね」

 

 間違いなく頭は良いはずだ、でなければここまで字が上手いわけがない。無論、字が汚くても頭が良い人は居るが大半は綺麗な読みやすい字を書くからな。

 ……だいたい、十分と少しかな? 案外近いな。

 

「しかし、教師のほうはいいのかね?」

「あぁ、それは明日頼む。出来れば帰るときにまた来てくれ、仕事内容について説明するから」

「了解した、では行ってくるよ」

「気を付けてな」

 

 さて、行きますか。

 

 

 

 …………………………

 ……………

 ………

 

 

 

「この辺りのはずなんだが……」

 

 地図を片手にぼやく。おかしいなぁ、そろそろのはずなんだけど。

 いや、いい加減に現実を見よう。ここを現実と呼ぶには違和感バリバリだけど。

 

「あまり考えたくは無いが……ここしかないな」

 

 溜め息をつきながら見上げる。するとそこには馬鹿に大きな屋敷、なにこれ意味分かんない。

 

「……呼び鈴か何かないのか?」

 

 キョロキョロと見渡すも呼び鈴のようなものは無い。科学が進んでるなら真っ先にこういう大きな屋敷にインターホンをつけてくれ。

 仕方なしに門をくぐり、中に入る。

 

「あの、すいません」

「なんだね?」

 

 すると、いきなり話しかけられた。声のしたほうを見ると、着物を着た少女が立っている。

 

「貴方は昨日の人ですよね?」

「そうだが……君が私を呼んだのか?」

「はい。立ち話もなんですし、上がってください」

 

 なにやら緊張しているような顔と声、喋り方も少しおかしな感じがする。

 まぁ今言っても仕方ないし、とりあえずは付いていくか。

 

 

 

「お茶と珈琲はどちらがいいですか?」

「珈琲を」

「分かりました」

 

 コポコポと音をたてながら珈琲が注がれる、漂う匂いからして上等な豆を使っているのだろう。インスタント以外は飲んだことのない俺には、正直もったいない気がする。

 目の前に置かれた珈琲を一瞥し、少女を見る……………………。

 

「そのように凝視されては飲みにくいのだが?」

「す、すみません!」

 

 バッと頭を下げながら謝るも、チラチラと目はこちらを見ている。

 そんなに飲んでほしいのかと疑問に思うが、俺は今のところ口をつけるつもりはまったく無い。

 

「いいかね少女よ、君は間違いを犯している」

「間違い、ですか……?」

「そうだ、珈琲を出す前にすべきことがあるだろう? 本来なら家に上げる前に、だがな」

「すべきこと……」

 

 ぬ……緊張してるのかな、頭が回ってないみたい。

 

「ズェピア・エルトナム・オベローン」

「え?」

「私の名前だ、ズェピアと呼ぶといい」

「……あ!」

 

 気が付いたみたいだな。

 しかし、この子は昨日から「あ」と「え」ばっかり喋ってる気がする。狼狽えたりしてたら当然なんだろうけど、なんか違和感があるな。

 

「私は阿求、稗田阿求と申します」

「ふむ、阿求か……」

 

 名前を呟きながら珈琲を一口飲む。ほろ苦く深みのある味と香りが口一杯に広がる……インスタントと比較するのは不可能な美味さだなコレ。

 一口飲んだら置いて、阿求を見ながら言う。

 

「実に美味しい珈琲だ、ありがとう」

 

 ニッコリとはいかないだろうが、多少は笑顔を作れてるはずだ。

 なにやら動きの止まってしまった阿求、そんなに笑顔が気持ち悪かったですか。泣いちまうぞちくせう。

 

「それで阿求よ、どのような用件で私を呼んだのかね?」

 

 用件は分かっているが、確認の為に止まったままの阿求に珈琲を飲みながら話しかける。すると気が付いたのか、顔を赤らめながら話し出した。

 

「き、昨日私を助けてくれたお礼をしたいと思いまして」

 

 真っ直ぐに俺を見ながら言う、かと思えば俯きチラチラと見てくる状態になる。

 可愛いな、おい。俺を萌え死にさせる気か?

 

「最近こちらに来たばかりと聞いたので、何か困ったことがあれば……」

 

 君の可愛さが俺の悩みです本当に。

 

「そうだね……実は仕事を始めようと思っているのだが」

「仕事、ですか?」

 

 思ってねぇですよ!?

 いや確かに仕事をしようとは思ってたけど、始めようとは思ってねぇよ!?

 

「あぁ、万屋……何でも屋と言ったほうが分かりやすいか? とにかく、それを始めようと思っているのだよ」

「何でも屋ですか? 貴方の実力なら退魔師になったほうがいいのでは?」

「いつでも厄介な妖怪がいるわけでもあるまい? それに、新参者の私よりも信頼性の高い博霊の巫女や他の有名な退魔師を頼るのが人というものだ」

 

 へー、よく考えてるなワラキア。俺だったら怖いからとか言いそうだよ。

 ……まてよ、昨日の話が色んな人に伝わってたらヤバくね? いや大丈夫、うんきっと多分恐らくメイビー。

 

「ですが、何をすればいいのですか?」

「簡単だ、宣伝をしてほしい。宣伝の有無はとても大きな差を作るからね」

 

 うん、これは分かる。なんでもいいから宣伝をしておけば、多少はマシになるからな。

 

「宣伝……分かりましたが、それでいいのですか?」

「充分だ、元々礼等はいらないしな。だが礼をしなくては、君は納得しないだろう?」

「それはそうですよ! 命を助けられたのですから……」

 

 強めに言ったかと思いきや徐々に小さくなっていく。何がしたいんだあっきゅん。可愛いじゃないかあっきゅん。

 

「つまり、これがお互いの妥協案ということだよ。私は宣伝をしてもらい得をする、君は宣伝をすることによりそれを礼とする。これなら互いに納得出来る形をとれるだろう?」

「ですが……」

「これ以上は流石にな、先にも言ったが私は礼が目当てだったわけでは無い。悲鳴が聴こえたから助けた、ただそれだけのことだ」

 

 まだ何か言いたげだが、そうはいかない。正直、これ以上何かされても申し訳ない。

 残りの珈琲を飲み、素早く立ち上がる。

 

「そろそろ私は帰るとするよ。慧音に寄るよう言われているしね」

「もうですか? 後少しぐらいゆっくりは」

「すまない、まだ来たばかりだから色々としなくてはならないこともあるんだ」

 

 金が無いからまだ無理だが何でも屋をやるんだ、ある程度はらしくしたい。いざとなれば人間手作りでなんでも作れるしな、吸血鬼なら尚更だ。

 

「そうですか……それじゃお見送りしますね」

「いや、そこまでしなくてもいいのだが」

「いいえ、これは私がしたいからするのです」

「……そうか、では頼むよ」

「はい!」

 

 ニコニコ笑顔な阿求と外に出る。だいぶ陽が上ってきた、けど朝飯食ってない割に腹が減らない不思議。

 ……そういえば、日差し浴びてもまったく違和感が無いな。中身が俺でも外身がワラキアだから影響ありそうなものだが……案外ワラキアって弱点克服済みなのかな?

 

「ズェピアさん、また来てくださいね。待ってますから」

 

 待ってるの? それならマジで来るよ俺。

 あ、そうだ。俺からも阿求に注意しとこう。怪我したり、死んだら一大事だし。

 

「ふむ、そうだね……また来るとするよ。だが君は気を付けたまえ」

「何をですか?」

「好奇心は猫をも殺すというからね、昨夜のような危険な行為は慎みたまえよ」

「あぅ……」

 

 俺の言葉にへこむ阿求。恐らく、かなり叱られたのだろう。叱られないよりずっといいが、それでも子供には堪える。

 ……へこみっぱなしはよくないしな、仕方ない。完全に悪いのは追い打ちをした俺だし。

 

「はわわ!? ズ、ズェピアさん!?」

「む? 何か問題でも?」

「いや、その……あぅ……」

 

 頭を撫でたら某軍師みたいに慌てたが、すぐに気持ち良さそうに目を細めた。うーむ、かなり和むなコレは。いつまでも撫でたくなる。

 けど、時間はそうあるわけじゃあ無い。名残惜しいが、手を離す。

 

「あ……」

 

 やめて! そんな悲しそうな目で見ないで!! 俺の良心という名のライフポイントがガリガリ削られるから!!

 落ち着け俺、落ち着くんだ……冷静に、Coolになるんだ。よし、OK。

 

「ではまたな、阿求」

「はい、また!!」

 

 手を振って見送ってくれる阿求に、軽く手を振り返すことで応える。思いの外有意義な時間だった、得に最後は。

 思い返しながら俺は人里へと帰ることにした。

 

 

 

 …………………………

 ……………

 ………

 

 

 

「おや、早かったな? もっと遅いかと思ったが」

 

 寺子屋に戻った俺を慧音が疑問符を浮かべながら迎えてくれる。

 まず疑問に答えることにする。

 

「あそこまで感謝されては流石に長居し難い。恩を感じぬよりは良いが、あれでは逆に困るよ」

「……別に、恩だけが理由じゃないと思うぞ?」

「む? では、他に何があるというのだね?」

「………………ハァ」

 

 溜め息つかんといて、うち泣いてしまいそうやわ。

 

「まぁいい、こういったことは本人同士の問題だからな」

「なんのことだね?」

「自分で気付け、阿呆」

 

 まさかの阿呆呼ばわり!? しかも呆れた目でしたよ、見ましたか奥さん!!

 ちょっとゾクゾクしたのは内緒。

 

「さてと、お前には少しばかり説明をするんだが……その前にお昼にしよう。腹が減ってはなんとやら、だからな」

 

 わふー、切り替え早いよ慧音先生。

 

「何が食べたい?」

「二食連続で世話にはなれんよ」

「連続? 朝は世話してないから連続ではないが?」

「いや朝は抜いたから、カウントせずにだな」

「抜いたのか!? いや、確かに考えてみれば当然だが……それなら尚更食べなくては!!」

「ま、待て! マントを引くな!!」

 

 グイグイと結構な力で引かれるワラキア、つーか俺。いやでも結構本気で力凄いよ!? 全然逆らえない!

 そりゃ怖いのもあるけど、踏ん張りがまったく意味無いしね!!

 

「こうなると予想して二人分作っておいたんだ」

「二人分? 妹紅のはどうした?」

 

 結局諦めて引かれながら歩く俺。……将来は大人しくて、引っ込み思案な子と結婚するんだ、今決めた。

 

「妹紅は竹林に向かったよ、お姫様と喧嘩しにな」

 

 なんとなくだが怒り気味の慧音。まぁ、心配してのことなのだろうけどさ。

 その怒りを引く力に変えないでください、お願いします絞まってるんですかなり絞まってるからいやマジでェェェ!!

 ……あ、なんか目の前が暗く…………。

 

「ん…? おいズェピア? お、おい! ズェピア!? ズェピアァァァ!!」

 

 人里には慌てたような慧音の声が響いたとかなんとか。

 俺? 完全に意識ブラックアウトでしたが何か?




ちんまいちんまい、あきゅん可愛い。

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