東方狂宴録   作:赤城@54100

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第九話『俺と巫女と魔法使い達と』

 前回のあらすじ

 ・慧音への好感度が好きから大好きになりました

 

 

 

「……………………」

 

 俺は森を無言で歩き続ける、向かう先は博麗神社。手には菓子折と食材の入った袋を持っている。

 何故博麗神社に行くのかというと、霊夢にお礼を言いに行くためだ。

 

 昨日慧音の優しさにより懐は温まり、今日は休みでやることが無くなっていた。暇だし里を見て回ろうかなと思案していたらふと思い出した、「あ、俺霊夢にお礼しに行ってないじゃん」と。

 善は急げ、思い立ったが吉日、急がば回れなど知らぬが如く突発的に俺は行動を開始した。ポスト作り?作るのは諦めて、どこかで使えそうなのを買うことにしましたが何か?

 ……霊夢に助けられてから二日程経っているが、行かないよりずっと良いと思っての行動なわけだ。少し自棄になっての行動な気もするが、ここまでは順調に来れた。

 だが現在問題が発生中、それは

 

「シャンハーイ!」

 

 コイツ、上海人形である。

 何が気に入ったのか上機嫌な声で俺の頭の上に陣取っている。喋る人形を頭に乗せたワラキアが袋を両手に持ちつつ森を歩く、シュールとかカオスとか通り越して通報レベルの怪しさだよ。

 

「……君はなんなんだね?」

「シャンハーイ♪」

 

 質問するも会話にならない、予想はしてたけど。

 

「私はこのまま博麗神社に向かうが構わないね?」

「シャンハーイ」

 

 …………OKってことでいいのかな? とりあえず降りる気はサラサラ無さそうだし、このまま行くとするか。

 

 

 

 …………………………

 ……………

 ………

 

 

 

 道中は何事も無く階段の前まで来れた。ちなみに今は上海は移動し俺の肩に座っている、相変わらず機嫌は良いけど。

 やけに長い階段を見上げてため息をする、なんか登るだけで達成感が味わえそうな長さだ。

 

「シャンハーイ?」

「いや……大丈夫だ、行こう」

 

 再度ため息をつき、階段を登っていく。早く覚えなきゃいけないことに空を飛ぶことが追加された瞬間だった。

 

 

 

 …………………………

 ……………

 ………

 

 

 

 これで二度目のカットになるわけだが決して俺は楽じゃない。あの階段は人間なら足がガクガクして動かなくなるくらいの長さだった、しかも結構急。そりゃ参拝客来ねぇよなぁ……。

 目の前にはポツーンと置かれた賽銭箱、無論中身は空だ。

 

「……………………」

 

 あまりにも不憫なので賽銭を入れる、諭吉さんは厳しいので一葉さんをパサリと

 

「どうもありがとう」

「ッ!?」

 

 素早く振り向くと、至近距離に霊夢がニコニコしながら立っていた。え、なにそれ縮地?

 賽銭箱の中身を確認してすぐ懐に入れると、さらに三割増しぐらいの笑顔でこちらを向いた。

 

「……君はなんというか、随分と分かりやすいね?」

「…………ズェピア!?」

「いかにも、私はズェピア・エルトナム・オベローンだが?」

 

 笑顔が驚愕に変わり、そしてすぐに再起動した。

 

「まさか本当に来るなんてね……。でも巫女さんとの約束守ったわけだし、御利益はあると思うわよ?」

「御利益、ね……」

 

 言っては悪いがあまり無さそうだ。むしろ金を持っていかれそうな……おぉ怖い怖い。

 

「何か変なこと考えた?」

「いや、全く」

 

 鋭い、流石霊夢鋭い。

 

「……まぁいいわ。上がってく?お茶ぐらい出すわよ」

「ふむ、では甘えさせてもらおうか」

 

 テクテクと霊夢に付いていき、家の縁側に座る。神社とは別になっており意外と広い家だ。

 

「少し待ってて、お茶持ってくるから」

「分かった」

 

 台所に向かった霊夢を見送り、外に視線を戻す。

 長い階段を登ったためか空が近く感じる、無論そんなわけはなく感じるだけなんだが。

 

「外とは大違いだな……」

 

 改めて幻想郷の自然の豊かさを知る。空気は綺麗で、空を見上げても遮るものはない。そよぐ風が涼しく、ぽかぽかとした日差しと共に眠気を誘う。

 ……むぅ、昨日は早く寝たはずなんだが。自然とは実に恐ろしいものだ。

 

「あれ? お前誰だ?」

「む?」

 

 突然聞こえた声に少し驚きながら振り向く。そこには箒を手に持ったまさに魔法使いといった服装の少女……え、ちょ、え?

 まさかのエンカウント?

 

「人に名を聞くなら、まずは自分から名乗るのが礼儀では?」

「っと、それもそうだな。私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ。魔理沙って呼んでくれ」

 

 何故か嫌味風な口調になってしまった気もするが魔理沙は笑顔で返してくれた。

 なんというか、やはりというか、とても可愛い。慧音とは違い元気溢れる! といった感じの笑顔は結構な破壊力がある。

 

「魔理沙、か。私の名前はズェピア・エルトナム・オベローン。現吸血鬼の何でも屋さ」

「ズェピアっていうのか、随分と長い名前だな。しかも吸血鬼? 日差し浴びてるのに平気なのか?」

「平気だね、体調に変化は無いよ」

「いや体調云々じゃなくて灰に……あぁ、そういうことか」

 

 どういうことだよ。

 

「ま、お前が平気ってんならいいや。……そういや、霊夢はどこに居るんだ?」

「霊夢なら今は茶を淹れてるよ」

 

 そうか、と言いながら魔理沙が隣に座ってくる。

 ボーッともしてたし、時間的には多分そろそろなんだが…。

 

「やっぱり来たのね」

「お、霊夢邪魔してるぜ」

「呼んでないし許可もしてないわよ」

 

 物言いこそ冷たいが霊夢が置いた湯呑みは三つ、そのうちの一つを魔理沙が手にした。

 予想していた、ということだろう。

 

 

「暖かい日差しを浴びながら温かい茶を啜る、平和だぜ」

 

 魔理沙が茶を啜りながら呟いた。……なんというか、年寄り臭い。

 

「どこの爺よ」

「いや性別的に婆では?」

「どのみち酷いぜ!?」

 

 魔理沙の叫びを無視しながら茶を啜る。

 うむ、爺ではないが確かに平和だ。縁側で茶を啜るワラキアというのはやはりシュールではあるが。

 

「そういや思ったんだけどさ」

「なんだね?」

 

 片手に湯呑み、もう片手には煎餅という完璧な布陣を取った魔理沙が俺を見ている。正確には俺の膝の上を、だが。

 

「なんでお前が上海を連れてるんだ?」

「シャンハーイ!」

 

 何故か楽しげに声をあげる上海、俺の膝の上でバッチリくつろいでいる。

 そうか、考えてみたらアリスと魔理沙は面識あるし知ってるよな。

 

「え? それズェピアの人形じゃないの?」

「違うね、生憎私は人形遣いの技能は習得していないよ」

 

 上海の頭を撫でながら答える。おぉ、サラサラで撫で心地かなり良い……。

 

「ここに来る途中にある森で会ってね、何故だか気に入られたようだから連れてきたのだが…君の知り合いなら話が楽だ」

「そうね、魔理沙が返せばいいんだもの」

「えー……めんどくさ「夢想封印くらっとく?」バッチリ届けてやるぜ!」

 

 切り替えが速いな、まぁあんな脅し聞いたら無理もないか。俺だって怖いし。

 とりあえず今は上海の頭を撫でながら茶を啜る、啜るったら啜る。

 

「何か面白いことないかしらね」

「弾幕ごっこでもするか?」

「嫌よ面倒だもの」

 

 物騒だな魔理沙、そして霊夢は面倒だからて。

 ……おい、魔理沙こっち見んな。

 

「じゃあズェピアやろうぜ!」

「いや私はスペルカードを作っていないのだが」

 

 俺が答えると露骨に落ち込む魔理沙、いや仕方ないじゃんか。思い浮かばないんだよ、スペルカードに使えそうなのはアークドライブくらいだけどそのアークドライブが俺使えないし。

 そもそもどうやってスペルカードにしろと?

 

「大方作り方が分からないんでしょ? 技をイメージしながら霊力、または魔力やら妖力を注ぎ込めばいいのよ。イメージが鮮明且つ正確であればあるほど完成度は高まるわ」

 

 そーなのかー。よし、やってみよ。

 

「お、随分と良いカードだな。一枚貸してくれ」

「だが断る、これは貸し借りできるものでは無いだろう?」

「冗談だ、一割ぐらい」

「残りは本気なのだろう?」

「当然!!」

 

 グッとサムズアップしてきた魔理沙の襟首を掴んで思い切り投げ飛ばし集中する。何かが階段を転げ落ちる音と叫び声みたいのが聞こえたが気のせいだろう。

 

「うわー、割と容赦ないわねアンタ」

「む? 何かあったかね?」

「……まぁいいか、どうせ復活するし」

 

 そうだね、プロテインだね。むしろザ◯リクだね。

 

 

「…………………………………………………………………………………………」

 

 本気で集中するために黙り込む、霊夢も空気を読んでか一言も喋らない。

 イメージ……イメージ……駄目だ、カットカット叫んでる姿ばかり記憶に残ってる……。ここはまず、オリジナルっぽいものを作ってみるか……。

 ワラキアだしやはり色は黒か? フルムーンだと赤の爆発するやつもあったしそれもあるか……。

 そういやワラキアの由来って、ルーマニアにあるワラキア地方の昔の領主を祟ってタタリを引き起こしたからだったな。んじゃそれに準えて……。

 

「…………よし、出来た」

 

 少しクラッと来たが、恐らく魔力をガッツリ持っていかれたからだろう。

 一発目に作ったスペルカードにしては悪趣味な内容だが、まぁ些細なこと。

 

「どれどれ?」

 

 気になったのか霊夢が覗き込んでくる……あ、良い匂い……。

 ゴメン、ちょっと後で俺吊ってくるわ。

 

「また随分と魔力込めたわね、アンタのことだからただ極太な光線を放つってわけじゃないんでしょ?」

「うむ、少々悪趣味な内容だがね。私はそこらに居るような主人公の踏み台になるレベルの悪役、ちょうどいいさ」

「踏めない高さの踏み台なんてどうすればいいのよ」

 

 シラネ。……お?

 

「ズェピアー! よくもやってくれたな!!」

「実に素晴らしきかなギャグ補正、コメディを書く際には必須だね」

「何言ってるの?」

 

 気にしちゃ駄目。

 呆れた目で見られながら(不思議と気持ちいい)魔理沙のほうを向く。服はボロボロ髪はボサボサ、しかし無傷。ギャグ補正本気で凄いな。

 

「急に投げるとか予想外すぎて抵抗出来なかったぜ!?」

「これでも吸血鬼、腕力はそれなりにあるよ」

「人間をあれだけの距離投げるのはそれなりってレベルじゃないぜ!?」

「そうね、魔理沙に同意するわ」

「む?」

 

 魔理沙に同意したのは霊夢ではなく階段を上がってきた少女。その少女の姿に反応し上海が飛んでいく。

 これは間違いない、か。

 

「初めまして、人形遣いの少女よ。名を伺っても?」

「……アリス・マーガトロイド、貴方の言うとおり人形遣いよ。貴方は?」

 

 俺を怪訝そうな目付きで見てくるアリス。まぁ初見なのに当てられたらそりゃそうなるな、でも俺悪くない。悪いのは勝手に喋りだしたこの口さ。

 

「あぁ失礼、私はズェピア・エルトナム・オベローン。現吸血鬼の何でも屋だよ」

「吸血鬼……?」

「あー、アリス耳貸してくれ」

 

 俺が吸血鬼というのに疑問を持ったらしいが、魔理沙の耳打ちを聞き納得した表情を見せた。……なんだっていうんだ?

 しかしアリスは俺の疑問など関係ないとばかりにこちらを向いて口を開いた。

 

「とりあえずお礼を言わせてもらうわね、ありがとう」

「……何か礼を言われるようなことをしたかね?」

「上海を見捨てなかったことよ」

「シャンハーイ」

 

 アリスに合わせるように頷く上海……チクショウ、滅茶苦茶可愛い……。

 

「普通の人間は動いたり喋ったりする人形は気味悪がって放っておく、妖怪に至っては見向きもしないしね」

「視界に入り、尚且つ近付いてきたんだ。連れて行くしかあるまい」

「それでも大概の妖怪は無視するものよ、だから貴方には礼を言うわ」

「……むぅ、固いね君は」

「アリスは頭ガッチガチだぜ?」

 

 俺の呟きに合わせた魔理沙だが、隣に居たアリスに本で殴られてしまった。

 うわぁ……ガスッ! て聞こえたよ、しかも頭とか…ヤバいんじゃないか?

 

「貴方の放り投げよりはマシね」

「心を読まないでくれるかね?ヒヤリとしてしまう」

「なんとなく勘で思っただけよ」

 

 やっぱり腋巫女の勘凄ぇよ、間違いなく直感スキル持ってるだろ。暴食王越えるレベルだよコレ、AどころかEXだよ。

 俺に、というかワラキアにありそうなスキルってなんだろう? …………狂化?

 

「……なに沈んだ顔してんのよ?」

「この世の無情さを嘆いていた」

「このタイミングで?」

「このタイミングだからこそだ……」

 

 狂化が真っ先に出てきたのは流石に落ち込むよ……でもマトモなスキルが浮かばない、不思議。

 そもそも作品が違うから無茶といえば無茶なんだが……ちくせう……。

 

「シャンハーイ?」

「む……どうしたのかね?」

 

 俺がワラキアの微妙っぷりに嘆いていると、目の前に上海が現れた。

 

「シャンハーイ」

「……あぁすまないね、少し落ち込んでいたんだ」

「シャンハーイ……」

「大丈夫、今はもういつも通りだ」

「シャンハーイ♪」

「そうだね、笑顔が一番だよ」

 

 上海のおかげで気持ちを持ち直せた、ありがたいぜ上海、持ち帰りたいぜ上海。

 ……ん?

 

「「「………………」」」

 

 あっるぇー? なんか三人が驚愕の表情で見てるー。

 

「あ……貴方、上海の言葉分かるの?」

「完璧ではないが、それなりには分かる。それがどうかしたのかね?」

 

 アリスの質問に答えながら上海を膝に乗せる。おぉう、マジで欲しい上海……。

 

「貴方、人形遣いってわけじゃないんでしょ?」

「先にも言った通り、私はただの吸血鬼だよ」

「吸血鬼の時点でただも何も無いわよ」

 

 霊夢、あんまり突っ込まないで。それは自覚してるから。

 

「成る程、これなら魔理沙の説明も納得ね……」

「だろ?」

 

 なにやら納得したらしいアリス、どんな説明をしたのか本当に聞かせてほしい。そして出来れば上海を譲ってほしい。

 ……無理だよなぁ。たまに貸してもらうぐらいなら可能かな? ……やっぱり無理だよなぁ。

 

「そうだ、アンタ達昼は食べてくのよね?」

 

 俺が癒しをどうやって確保するか考えていると、突然立ち上がった霊夢。

 そうか、もう昼か……時間が経つのは早いな。

 

「私は勿論そのつもりだぜ。最初からそれ目的だったからな」

「私は別に……上海を探してただけだし」

 

 まったく違う回答をする二人。

 さて俺はどうしようかな。里に戻って定食屋にでも入るか、自炊するか。……自炊なぁ、料理は別に苦手じゃないけど得意でもないしな。簡単なオカズに付け足すぐらいに惣菜を買うか?

 

「四人分……まぁ、ギリギリ足りるわね」

「……む?私も数に入ってるのか?」

「当然でしょ、ここに居るのに仲間外れとかどんなイジメよ。それにお賽銭も貰ったしね」

 

 お賽銭がメインの理由ですね分かります。

 

「よし、昼飯まで暇だから弾幕ごっこしようぜ!」

 

 またそれか魔理沙、しかも投げられないよう少し離れてるし。

 だが、そう簡単に誘いには乗らんよ。弾幕ごっこはまだしたくないからな!!

 

「はて、おかしな幻聴が聞こえたような?」

「幻聴呼ばわり!?」

「安心したまえ、冗談だよ……半分ぐらい」

「残り半分は本気ってかチクショー!!」

 

 あ、箒に跨がって飛んでった。意外とメンタル脆いのね。

 ……流石に言いすぎたかな? いやでも、楽しいんだよ魔理沙を弄るの。反応とツッコミが良いから、なんか友達感覚でいれるというかさ。

 ……でも後で謝っとくか、うん。

 

「アイツのことだから昼食が出来た頃にまた来るわね」

 

 やっぱり謝んなくていいや。

 

「アリス、悪いんだけど手伝ってくれる?」

「構わないわ」

「ズェピアは待っててくれるかしら?」

「手伝いはいいのかね?」

「台所の広さに問題があるのよ、流石に三人も入らないわ」

「成る程、確かに普通に考えて女性二人に男性一人は厳しいね」

「そういうことよ、そこが居間だからくつろいでて。お茶と煎餅ならあるから」

 

 先程霊夢が向かった場所に今度は二人で向かう。

 んじゃ、俺はくつろぐとしようかね。

 

 

 ―――吸血鬼だらけ中―――

 

 

「あー! また負けた!!」

「甘い、甘すぎるよ霧雨魔理沙。角砂糖を十個入れた珈琲よりも甘い」

「激甘通り越して頭痛するぜ?」

「つまり君は私の頭痛の種というわけだ」

「まさかの辛辣な言葉!?」

 

 どうも、ズェピアです。将棋で魔理沙に圧勝しました。

 いやもうね、高速思考使えば楽々だよ。俺元々将棋は得意だし。

 ちなみに魔理沙だが、あの後すぐに戻ってきた。昼を食いっぱぐれるのは厳しいから、神社を離れずにずっと待ってる方針に変えたとか。意外と考えてる。

 

「なんでズェピアはそんなに強いんだ? 見た目からしてチェス派なのに」

「チェスも将棋も大差は無いよ。将棋のほうが幾らか戦略の幅が広いだけ、それに君は分かりやすい動きをするからね」

 

 魔理沙の動きは本当に分かりやすい、とにかく攻めの姿勢だ。守りは捨ててひたすらに攻める、しかも中々に進軍速度が速い。

 俺は迎撃の布陣で潰したから簡単に勝ったんだが、ただ守るだけでは一方的に負けるのもありえる。

 フム、弾幕ごっこのスタイルとなんら変わらないな。魔理沙らしいと言えば魔理沙らしい。

 

「さて、そろそろ片付けるとしよう。昼食が出来てからでは遅いからね」

「勝ち逃げか、汚い流石ズェピア汚い」

「分かった、霊夢には君の昼食はいらないと伝えて「さぁ片付けようぜ!」…分かりやすいね、君は」

 

 将棋のセットを元の場所(部屋の隅)に戻しておく。うむ、完璧。

 

「おまちどおさま」

 

 片付け終わったタイミングで霊夢とアリスが食事を持ってきた。この匂いは……魚、か?

 

「はい、これがズェピアでこれが魔理沙」

 

 自分の分が置かれたところに座る。白米に名前のよく分からない魚……鮎だっけか? それとネギの味噌汁に沢庵の漬物もある……なんか霊夢らしくないと思ってしまった。

 まぁ流石に貧乏だなんだと言われても仕事もあるんだし、マトモな食事ぐらい出来るか。

 

「あれ? ズェピアだけなんか多くないか?」

「む? ……本当だね」

 

 言われて魔理沙の分を確認してみれば確かに多い、白米は男だからと多いのは分かるが鮎も一番大きなもの。漬物も俺だけ沢庵ときゅうりの二種類だ。

 

「ズェピアのはお礼よ」

「なんのだ?」

「私の生活費をくれたお礼」

「ズェピアが賽銭入れたのか?」

「それもあるわね」

 

 二人は会話しながら四人分の茶をそれぞれの前に置く。

 ……礼、か。どこで知ったのかは分からないけど、多分初日のことだな。俺を助けたから依頼された妖怪退治をし損ねて、その妖怪を俺が後で倒して霊夢の手柄にした…多分コレだ。

 俺を助けなければ霊夢は恐らく妖怪退治を終わらすことが出来たと思う。だから俺は霊夢が目の前で倒したことにしたのだが霊夢にとっては【助けた礼=賽銭】であり、【助けた礼≠手柄】なのだろう。

 ……うーん、なんというか申し訳ない気分だ。結局は俺が霊夢の前に現れなければ普通に倒したんだろうしなぁ。

 

「はい、考え事はそこまで」

「む、すまない」

「いいわよ、何考えてたかは大体分かるし」

「なんの話だ?」

「魔理沙は少し黙ってなさい、空気読めてないから」

「アリスまで酷い発言を!?」

「「何を今更」」

「ズェピアー! 二人が虐めるー!!」

「何故私に来る」

 

 ため息をつきながら魔理沙の頭を撫でる。

 ……霊夢は別に気にしてないみたいだし、深くは考えずにおくか。うん、そうしよう。

 

「ズェピア頭撫でるの上手いな」

「そうかね?」

「なんか……こう、落ち着く感じがするぜ……」

「それは幸い、慰めになるならいくらでも撫でよう」

 

 撫でているといきなり視線を感じた。

 ……えっと、霊夢さん?

 

「今は食事中よ、イチャつくなら後にしなさい」

「そんなつもりはないのだが……」

「とにかく早く食べなさい、片付かなくなるから」

「……分かったよ」

 

 渋る魔理沙をどかして食べ始める。……うん、美味い。味噌は……赤か、苦手なのは無いからどのみち美味い。

 

「どうかしら?」

「あぁ、とても美味しいよ。料理が上手なのは羨ましいね」

「これくらいは一人暮らししてれば自然と身に付くわよ」

「そういうものかね?」

「そういうものよ」

 

 俺は普通に家族で暮らしてたからなぁ……料理なんかロクに出来ない。出来てもカレーとか簡単な炒め物ぐらいだな。

 ……明日からの食事が不安になってきた。

 

「霊夢、お代わり!」

「自分でやりなさい」

「ノリが悪「何か言った?」お代わりお代わり嬉しいなー♪」

「シャンハーイ」

 

 魔理沙を見て上海が呟いた。……成る程。

 

「そうね、上海」

「そうだね、上海」

「「魔理沙は馬鹿だね」」

「今日だけでどれだけ私を虐めるんだ!?」

「虐めてない、ただの事実だ」

「もう私の精神力はゼロだぜ!?」

 

 なんでそのネタ知ってんだよ、幻想入りはまだまだ先だろうに。

 

 

 

 …………………………

 ……………

 ………

 

 

 

「「「「ごちそうさまでした」」」」

 

 なんだかんだで食事は終了。全員揃ってごちそうさまを言えた。

 

「あ、片付けは私がやるぜ」

「珍しいわね、魔理沙が率先して手伝うなんて」

「時々するじゃないか」

「そうだっけ?」

「……ごめんなさい」

 

 嘘かよ。

 

「洗うのは後でいいから水に浸けといて」

「分かったぜー」

 

 返事をしながら食器を運ぶ魔理沙。俺も手伝おうとしたが大丈夫と言われたので大人しく待機している。

 

「……そういえばズェピア」

「なんだね?」

 

 不意にアリスが口を開いた。

 

「貴方、どうして眼を閉じてるの?」

「あー、それ私も気になってた。どうしてなのズェピア?」

「……………………」

 

 やっばい質問きちゃったぁぁぁぁ!? え、ちょ、え!?

 

「まぁちゃんと見えてはいるから実際は糸目なだけかもしれないけど……魔眼か何かなの?」

「魔眼って何よ?」

「魔眼っていうのは、簡単に言えば眼が媒体となっている魔法よ。大概は眼が合った相手にかけたり、見た場所に影響を及ぼすわね。基本的に先天的に持っているもので後天的に持つことは滅多に無いわ」

「へぇ……凄いのね。やっぱり珍しいの?」

「そうね、かなり珍しいわ。でも吸血鬼の類いは持っていることが比較的多いそうよ?」

 

 何故かハードル的なものが滅茶苦茶上がっとる!? どうする、どうするよ俺!!

 

「魔眼、というわけではないのだがね。……その、あまり人に見せれるものではないというか」

「見せれるものではない? 魔眼じゃないのに?」

「ちょっとでいいから開けてくれよズェピア~」

 

 なんかいつの間にか魔理沙が帰ってきてるし! でも敵だ!!

 ……クッ、ここは一発覚悟を決めて……。

 

「分かった、だが驚かないと約束してくれるかね?」

「約束するわ」

「約束する」

「約束するぜ」

 

 あーもーそんな綺麗に返すなよー。

 ……うし、開くぞ!!

 

 

 

「「「………………」」」

 

 ……あれ?反応無し?

 

「変なところはない、わね」

「私もそう思うぜ……?」

「私も、変なところはないと思うけど……」

「…………本当かね?」

 

 そっと頬に手を当てたが、原作のように血が垂れてるような感じはしない。

 あれ? つまりは普通の眼ってことか?

 

「あ、糸目に戻った」

 

 おぅふ、気を抜いたら戻ってしまったようだ。

 

「まぁ確かに普通とは言い難いけど、全然大丈夫だと思うぜ?」

「普通ではないのか……。魔理沙、顔が赤いがどうかしたのかね?」

「え!? あ、大丈夫なんともないぜ!!」

「ならいいのだが……」

 

 体調悪いってわけじゃないんだろうし、まぁ大丈夫ならいいか。……なんか別の意味で大丈夫じゃなさそうだが。

 ここでふと、アリスが何かを気にするように顔を上げた。

 

「……あ、私そろそろ帰らないと」

「シャンハーイ」

 

 成る程、時間が結構経ってたのか。確かに夕暮れ近いな。

 

「もうこんな時間か。なら私もそろそろ帰るとしよう」

「えー、もう帰るのか?」

「すまないね、飛べたらもう少し居れるのだが……」

 

 本当、早く空が飛べるようになりたいよ。幻想郷に居る以上は必要な技能なわけだし。

 でもどうしたら出来るのか分からないし……慧音に教えてもらうか? いやでも申し訳ないような気もする……。

 俺が考えていると霊夢が素晴らしい提案をしてくれた。

 

「私が教えてあげてもいいけど?」

「……本当かね!?」

「えぇ、どうせ暇だしね。基本的に神社に居るから暇になったら来るといいわ」

 

 霊夢が、霊夢が優しいだと……!? フム、やはり賽銭は大切だな。次もいくらか奮発しよう、授業料の意味も込めて。

 

「ではまた近々来るよ」

「またな、ズェピア」

「またね」

「シャンハーイ!」

「あぁ、また会おう」

 

 魔理沙と、どこかに飛んでいくアリス+上海に小さく手を振る。多分あっちに魔法の森があるのだろう。

 さて、俺はこの長い階段を降りなきゃいけないんだよな……。転んだら死にかねない辺り、精神的には登るよりハードだ。

 

「……本当に近々来るとしよう」

 

 うん、これは絶対だな。

 

 なんか家に帰ったらポストっぽいのが玄関に取り付いていた。しかも新聞が入ってる。

 有り難くポストを使わせて頂くと感謝しながら新聞は折り畳んで隅っこに置いた。いや俺新聞とか読まないし。




ハーメルン初の予約投稿機能で投稿、成功してたら嬉しい。

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