【習作】キヨシ投獄回避ルート   作:PBR

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第13話 しりはにほへと

 キヨシが相撲観戦デートに向けて密かに動いている頃、その裏でガクトたちもまた脱獄に向けて着々と準備を進めていた。

 脱獄当日が普段の刑務作業ではなく、陸上部地区大会の運営手伝いと聞いたときには驚いたが、裏生徒会も手伝いには駆り出されるはず。なので、たまに行われる見回りをやり過ごせば大丈夫だと、計画がむしろやり易くなったと喜んでいた。

 当日の役割分担はシンゴとガクトが荷物番、ジョーとアンドレが雑用をすることになっている。

 雑用は色々と動きまわることになるだろうが、荷物番は基本的にテントのところで座っているだけなので、トイレに行っていて居ない時間があっても怪しまれづらい。

 副会長が適当に決めただけだが、運は向いて来ているとガクトはさらにやる気を漲らせ、ずっと待ち望んでいた情報の授業に向かった。

 

「フフッ、ついに来たでゴザルな」

「おっ、ガクトも女子との合同授業を楽しみにしてたのか?」

 

 監獄内ではパソコンが使えない。正確に言えば看守室にはネットに繋がっているパソコンが置いてあるのだが、それでは四人が情報の授業を受ける事が出来ないため、特別に情報室で他の生徒たちと一緒に受けることになったのだ。

 久しぶりに裏生徒会以外の女子と会えることを楽しみにしていたシンゴは、情報室への移動中に眼鏡の位置を直しながら不敵な笑みを浮かべるガクトを見て、お前も同じ気持ちだったのかと尋ねる。

 すると、ガクトは不敵な笑みを浮かべたまま首を横に振り、自分がこの授業を待っていたのはそんな理由ではないと答える。

 

「いや、小生はパソコンを使える状況になるのを待っていたのでゴザル。シンゴ殿は小生が購入希望で何を頼んだか覚えているでゴザルか?」

「あ? あー、確か携帯音楽プレーヤーだったか?」

 

 シンゴやアンドレの頼んだ物は勉学に必要ないとして却下されたが、ジョーの蟻飼育セットと英語のリスニング用としてガクトの携帯音楽プレーヤーは昨日の夜に届いている。

 その際、随分と勉強熱心だなと感心したこともあり、シンゴの記憶にもしっかりと残っていた。

 

「左様。実はそれにはイヤホンだけでなく無線機能対応のスピーカーもついているでゴザル。小生が脱獄している間、トイレの個室にはスピーカーを置いておき、副会長殿が見回りに来たときにはプレーヤー側で再生を押せば、スピーカーから音が出てアリバイがより確実になるという寸法でゴザルよ」

 

 他の男子にただ誤魔化して貰うのでは心許ないと思っていたガクトは、情報の授業が情報室で行われる事を予測し、事前に購入希望物品でワイヤレススピーカー付きの携帯音楽プレーヤーを頼んでおいた。

 副会長がトイレまで来たとしても、彼女はきっと入り口から大声で個室に向かって話しかけるはず。彼女の後を追ってトイレの周りにいれば、個室までは余裕でワイヤレススピーカーの有効範囲なので、彼女が話しかけたタイミングで再生を押すことが可能だった。

 これも全て脱獄をより完璧に仕上げるための策だとガクトが言えば、話を聞いていたシンゴは授業の予定すらも把握して計画を進めるガクトの頭脳を素直にすごいと褒める。

 

「オマエ、あったまいいな! ってことは、パソコンで今から音を入れるんだよな? 返事を何パターンかいれておくのか?」

「それも考えたでゴザルが、当日に操作するのは同じ荷物番のシンゴ殿になるでゴザル。副会長殿の声を聞いて咄嗟に適した返事を選んで再生するのは小生でも困難。それをシンゴ殿に頼むのは流石に気が引けるでゴザル」

「まぁ、それは確かにムリだな。二択なら上下選ぶだけだからいけるけど、五パターンとかってなると、返事をする様な上手いタイミングじゃできねーよ」

 

 会話機能の付いたロボットという物があるが、相手の話した言葉を認識してそれに対応する音声を再生することで、あたかもロボットが自分で考えて返事をしているように見える様になっている。

 だが、何十、何百というパターンを登録しているロボットでも、バリエーションが無限に存在する日常会話へ完璧に対応する事は出来ない。

 機械のシステムを利用しても対応出来ない事を、相手にバレてはいけないという制約のある人間でこなせるはずもなく、シンゴもそれは不可能だと言い切った。

 自分でも考えてそれは無理だと分かっていたガクトはそれに頷いて返し、だからちゃんと別の方法を考えてきたと自信満々に告げた。

 

「そう、だから小生はウンコの排泄音を入れる事にしたでゴザル。返事代わりにウンコの音がすれば、不快に思って副会長殿もしばらくは来ないはず。返事を選ぶ必要もなく時間も稼げて一石二鳥でゴザルよ」

「ハハッ、そりゃいいや。んじゃま、女子と一緒の空間を満喫しながらウンコMP3探しと洒落こもうぜ!」

 

 人に話しかけられてウンコの音で答えるなど考えもしなかった。実に馬鹿らしいが上手く行きそうだと、シンゴは練馬一の知将は伊達ではないなと感心する。

 そして、作戦が決まっているならそう難しいことだとは思わないため、そんな物は片手間でやって女子との合同授業を楽しもうと情報室の扉を開けた。

 

「何だあれ?」

 

 事前の説明で最後列に座れと言われていたが、部屋に入るとその席の前に『立入禁止』の札が下がった工事現場で見るカラーコーンとバーが置かれていた。

 なんでそんな物が置かれているんだとシンゴは訝しむが、後ろから来たジョーが自分たちの扱いに嘆息しながら答えた。

 

「オレたちはバーより後ろの席に座れってことみたいだな……ゴホッ」

「ま、まぁ、接触は禁止でゴザルからな。同じ授業を受けさせて貰えるだけありがたいと思うべきでゴザル」

「そ、そうだよね。うん、ちゃんと勉強しようよ」

 

 文句を言いたい気持ちはあるが、覗き魔として今の状況に置かれているため、ここは大人しくしていようと全員が席に着く。

 授業が始まる前にパソコンを立ち上げておくため、電源を入れて学籍番号とパスワードを入力してログインしながら、シンゴたちはチラリと女子の方へ視線を送る。

 すると、自分たちの方を見ていた女子と目が合い一瞬ドキリとするが、「最低」「気持ち悪い」「臭い」という声が聞こえてきて、すぐに自分たちが学校中からどう思われているかを認識する事が出来た。

 

「そ、想像以上だな……」

「ああ、オレたちは監獄にいたから知らなかっただけだったみたいだ……げほっ」

「え、僕はむしろ嬉しいけど? キヨシ君はいつもこんな素敵な空間で授業受けてるなんて羨ましいなぁ」

「キヨシ殿にすれば完全に貰い事故でゴザルよ……」

 

 ドMなアンドレは女子たちの蔑みの視線や罵倒が快感のようだが、四人のせいで同じ扱いを受けているキヨシにすれば、お前らのせいでとブチ切れても誰も責めたりはしないだろう。

 花を襲った下衆野郎として一方的に壁を作っていたが、こんな針の筵のような環境に置かれていれば、可愛い彼女が出来た瞬間に暴走しても仕方がないと、ガクトたちはキヨシの暴走はきっと自分たちのせいだと深く反省した。

 

「ゴホッ……キヨシのやつがきたぞ」

「おお、小生らに気付いて笑いかけてくれたでゴザル。女子たちが冷たいだけに少し癒されるでゴザルな」

「アイツは普通に女子の隣なんだな。てか、あの隣にいるのって前に花さんと話してた子じゃね?」

 

 キヨシは囚人ではないので他の生徒と同じように普通の席となっている。教室の前の扉から入ってきたキヨシはガクトらに気付いて小さく笑いかけてから席についたが、シンゴは彼の隣の席に座っている少女が以前中庭で見かけた子だと気付いた。

 言われて他の者も観察していると、二人はそれぞれ自分の作業をしているフリをしながら、何やらファイルを渡したりして、コッソリと話しているようであった。

 自分たちは汚物の様に扱われるのに対し、特に周りの女子から何も言われず、むしろ、密かに親しくなっている姿を見てアンドレやジョーたちは嫉妬で拳を震わせる。

 

「な、なんかコッソリ喋ってるみたいだね」

「アイツ、やっぱり別に気にしてないんじゃねぇか? 他の女子もアイツには何も言ってねぇぞ」

「クソッ、心配して損したな。花さんが戻ってきたら浮気してたってチクってやろうぜ」

 

 花が戻ってくれば絶対に密告してやると決意するシンゴ。以前、目の前で話しただけで腹にグーパンで吹き飛ばされていたので、彼女のいない場所で隠れるように話していたとなれば、肋骨の二、三本は確実に持っていかれるだろう。

 シンゴと同じ想像をしたジョーやガクトも彼を止めようとはせず、逆に自分も手を貸すぜとサムズアップして頷いた。

 

◇◇◇

 

 授業が始まるとシンゴと話していた事をジョーとアンドレにも伝え、他の者には教師の様子を確認して貰いながら、ガクトは隠れて『ウンコ MP3』で検索をかけ続けた。

 排泄音など聞いて気分のいいものではなく、音の具合を確かめるにつれて精神をガリガリと削られたが、三十分経った頃、ついにガクトは爆発した。

 

「ない、ないでゴザル!」

「スカトロなんて文化もあるのに、全くないってことはねぇだろ……ごほっ」

「あるにはあるでゴザルがどれもショボくて使い物にならないでゴザル。これならオナラの音の方がマシでゴザルよ」

 

 確かにジョーの言う通りスカトロ系の動画は多数存在する。しかし、余計な喘ぎ声が入っていたり、変なBGMが混ざっていてほとんど使えず。素人投稿らしき物では純粋に無言で脱糞していたりするのだが、ミリミリと普通に捻りだす音でこれでは副会長を怯ませる事は出来ない。

 ガクトが求めているのはもっと汚く激しい音だ。何を食べたらそんな汚い音になるんだというくらい、聞いているだけで臭ってくるレベルの物を所望している。

 

「けど、どうすんだよ。もう時間もあんまねーぞ」

 

 しかし、そんな物は一切見つからず、時計を確認したシンゴも授業はもうすぐ終わるぞと、このままではアリバイ工作が不完全になりそうで焦り出す。

 彼よりも探している本人の方が焦っているのだが、ガクトは混乱する頭で必死に打開策を考えた。

 

「待つでゴザル。何か方法が、方法があるはずで――――ゴザッた」

 

 そのときガクトに電流走る。

 今まで見るからに焦っていたガクトが急に目を見開き停止した事で、何か閃いたのかアンドレが尋ねた。

 

「思い付いたのガクト君?」

「ハ、ハハ、簡単な事でゴザった。音がないなら自分で作り出せば良かったのでゴザル」

 

 考えれば簡単な事だった。音がないなら自分で作ればいい。幸いなことに録音のための器具は揃っている。

 イヤホンはマイク端子に挿せばマイク代わりになり、昼食を食べる前とは言え、焦りと緊張から腹痛を起こしそうになっている今ならそれなりの音を出せるはずだった。

 

「ゴホッ……作り出すってまさか、ここでクソをする気か?」

「残り時間も僅か。これ以上探しても見つかるか分からない以上、小生は身を削って活路を開くでゴザル」

「いや、身を削るっていうか、実を捻り出すのは流石にヤベーだろ! 女子の大勢いるこんな場所でやったら、それこそ出獄した後の高校三年間を犠牲にっ」

 

 しかし、ガクトの話を聞いて彼がこれから何をしようとしているかを理解した男子たちは、そんな事をすれば無事では済まないと彼を止める。

 当然だ。現在、覗きをしたことで扱いはかなり悪くなっている。それでさらにウンコを漏らしたとなれば、すれ違うだけで舌打ちは当たり前、卒業までクソ漏らしと呼ばれることすらあり得た。

 目的のためとはいえ、たかがフィギュアのためにそれほどの犠牲を払う必要があるとは思えないシンゴたちに、ガクトは悟った様な表情で笑って返す。

 

「フィギュアは四年に一度、高校三年の我慢で済むなら安い物でゴザル。そう、最初から悩む必要などなかったのでゴザル」

「待て、考え直せガクト!」

 

 彼は既に覚悟を決めている。それでもシンゴたちは止められずにはいられなかった。

 イヤホンをマイク端子に挿し、サウンドレコーダーを起動し録音の準備を全て終え、最後に彼は戦に赴く表情をして言った。

 

「皆の衆、小生の生き様とくとご覧あれ」

『ガクトぉぉぉぉっ!!』

「――――御免」

 

 

 そのとき、教室から雑音が消えた。

 授業を進める教師の声も、パソコンを操作する小さな音も、全てが消えて時間すら停止していると錯覚するような空間の中で、ガクトのクソを漏らす音だけが響き渡った。

 他の者は何が起こったか分からなかっただろう。だが、その音を聞いた瞬間に本能でクソを漏らす音だと理解したはずだ。

 驚愕の表情で振り返る生徒たち、呆然とする教師、それらを一切見向きもせずに出しきったガクトは、録音の終了を押してデータをプレーヤーに移してから手を上げた。

 

「先生、トイレに行かせてください!」

「も、もちろんどうぞ……でも、もう少しはやく……言ってくれれば」

 

 作戦は成功。犠牲を払っただけの価値はあった。席を立って出て行こうとするガクトに、男子たちは見事な生き様だったと心の中で敬礼する。

 しかし、他の者にはもっと現実的な被害があるため、女子よりも汚い物に対する免疫のあったキヨシがすぐに立ち上がり全体に指示を飛ばした。

 

「グラウンド側も廊下側も窓際にいる生徒は全員窓を開けて! ジョーは入り口の扉を開けてガクトの移動ルートを確保、アンドレはガクトが座っていた椅子をとりあえず廊下へ! ガクトはトイレじゃなく風呂にそのまま直行しろ、着替えはすぐに持っていかせる!」

 

 予想外の事態に陥ったとき、人は冷静だと思われる人物の指示に素直に従いたくなる。

 普段は裏生徒会規約によりキヨシを無視している女子たちも、今は彼の指示の通りに動いて危機を脱しようとした。

 それは他の男子も同じで、よく考えれば爆心地に近いせいで臭いのダメージが酷い。これで床に落として行かれた日には、もう二度と情報室に来たくないとすら思うだろう。

 動き出そうとしたガクトより扉に近かったジョーが扉を開け、出ていくガクトがなるべく動かなくていいようにする。

 続けて、しみ出したウンコが付着した椅子をアンドレが廊下に出し、とりあえず臭いの元となるものの排除は成功した。

 授業は一時中断し、臭いが治まるまで廊下に出ている生徒もいるが、まだ風呂に向かったガクトへ着替えを届ける仕事が残っているため、本来囚人とは接触禁止のはずなキヨシがどさくさに紛れてシンゴを手招きして呼んできた。

 

「シンゴ、俺が囚人と接触したらマズイと思うから、お前がガクトに着替えを持って行ってやってくれ」

「ああ、分かった」

 

 ガクトはきっと監獄の風呂に向かったはず。キヨシは中に入れないので、シンゴが了解したと頷いて返せば彼は去って行こうとする。

 

「あ、キヨシ!」

 

 けれど、シンゴは今がチャンスじゃないかと彼を呼びとめた。

 場は混乱している。ここでキヨシと話していても指示しているだけと誰も気にしないだろう。周囲の状況を正確に把握し、シンゴは他の者に聞こえないよう少し離れた場所でキヨシに今回の件の真実を伝えた。

 

「実は、ガクトがクソを漏らしたのはわざとなんだ。アイツ、五月七日に大事な用事があって脱獄しようとしてて。いない間のカモフラージュにウンコ音を録音したんだ」

「脱獄って、確か刑期延長だろ? そんな大事な用事なのか?」

 

 脱獄は連帯責任となっていて、繰り返すと最終的には退学になる。

 ただでさえ大切な高校最初の一年を削られている状況だというのに、カモフラージュのためにウンコを漏らすほど、そんな大切な用事とは一体何だとキヨシは疑問に思っただろう。

 そうなることは最初から分かっていたシンゴは、理由を話そうとしたとき、自分がガクトが欲しいと言っていたフィギュアの名前を覚えていない事に気付く。

 

「えっと、ウン、なんだっけ……ウンチョウ、じゃねえ、そんなウンチとかウンコみたいな名前じゃなかったはずだ」

 

 実は合っている。流石の武将も十数紀以上後に、自分の名前がウンコと似ているなどと言われるとは思っていなかっただろう。

 だが、ガクトがウンコを漏らしたせいで、そのワードが頭に残ってしまっていると勘違いしたシンゴは、似たような名前を頭の中で言っていき、最終的に聞いた事があるような名前を正解だと思いこんだ。

 

「えっと……そうだ、確かウンピョウだ! それと後、ヘギソバ!」

「ウンピョウとヘギソバ? ネコ科の動物と新潟県魚沼地方発祥の料理がどうしたんだ?」

 

 『関羽雲長&赤兎馬』と『ウンピョウ&ヘギソバ』、語感の雰囲気は似ている。しかし、まるで掠りもしてないほど異なる物の名前を聞いたキヨシは、意外と物知りでそれらの情報を頭の中に思い浮かべるが、逆に二つとも知っているせいで余計に混乱した。

 一方、思い出せてよかったと安心しているシンゴは、ガクトがその二つを欲しがっていると伝えてしまう。

 

「その日に秋葉でフィギュアが売られるんだとよ。会長が休日をなくしやがったから、アイツはそれのために脱獄しようとしてんだ。オマエが行ってくれれば、アイツは危険を冒さずに済む。金は後で払うだろうから買っておいてやってくれねーか?」

「ああ、その日は秋葉でデジカメを買う予定だったからいいけど。ヘギソバのフィギュアってなんだ?」

「オレもよく分かんねーけど、ヘギソバは単純に食いたかっただけかもしれねえ。とりあえず、ウンピョウのフィギュアと普通のヘギソバがあれば買っておいてやってくれ」

 

 食品サンプルはあってもヘギソバのフィギュアなど存在しない。そもそも、食べ物のフィギュアって何だという話だ。

 ウンピョウは動物なのでフィギュアくらいあるかもしれないが、ヘギソバの方は無ければ本物でいいぜとシンゴは適当なことを言った。

 話を聞き終えたキヨシは忘れないよう携帯電話のメモ帳にしっかりと残しておき。時間も経っているから、そろそろガクトに着替えを届けてやれとシンゴを送り出す。

 

「まぁ、分かったよ。クソを漏らした後じゃ遅いかも知れないけど、ガクトにあんま無茶すんなって伝えておいてくれ」

「了解。ああ、オレらからも言う事あったんだ。オマエ、童貞卒業したいからってトイレで花さんを襲うなよ。ま、彼女とイチャつくなとは言わねえけど、ちゃんと謝って仲直りしろよな。そんじゃな」

 

 話はそれだけだとシンゴは手を振って走り去って行った。伝えるべき事、言いたい事、その両方をちゃんと話せたことで彼の足取りは軽い。

 だが、

 

「俺が、トイレで、花さんを襲った?」

 

 それとは対照的に、残された少年はシンゴの言っていた意味が分からず。とりあえず悪い方向に盛大に勘違いされている事だけは理解し顔面を蒼白にして叫んだ。

 

「花さんが彼女って、アイツらどんな勘違いしてんだよっ!!」

 

 花との関係はそんな素敵な物ではない。追う者と追われる者、シンプルに言えばキヨシは花に殺されても文句を言えない身の上である。

 かなりバイオレンスだが、可愛い事は確かなので告白されれば浮かれてOKしてしまうかもしれないが、キヨシが現在好きなのはクラスメイトの千代である。

 よって、色んな意味で間違っているぞという気持ちで叫ぶも、その声がシンゴに届く事はなかった。

 

 


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