【習作】キヨシ投獄回避ルート   作:PBR

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第10話 散り行く花

 

「キャアアアアアアアアアッ!!」

 

 会長からの呼び出しで裏生徒会室に行っていた副会長は、用事を終えて監視作業に戻る途中叫び声を聞いた。

 

「この声は…………花っ!!」

 

 仲間の声を聞き間違える訳がない。自分がいなかった間に男子らに何かされたのかと、副会長は声のした方へと必死に走った。

 彼女の目指す先にあるのはトイレ。なるほど、囲われているため周りから見えづらく、一般の生徒は校舎内のトイレを利用するため人も滅多に来ない。これならば凶行に及ぶにはうってつけの場所だ。

 声がしてすぐに来たため誰もトイレから出ていないのは分かる。ならば、下手人はきっとまだ花と一緒にいるのだろう。

 そう考えてトイレに入った副会長は強いアンモニア臭に顔を顰め、啜り泣く声の聞こえる二番目の個室に向かい中を覗きこんだ。

 すると、そこには、

 

「副会長……私、汚れちゃった。ウフフ、アハハハ……」

 

 全身を黄色い液体で濡らし、乾いた笑みを漏らす花が一人で座りこんでいた。

 彼女の下にも黄色い水たまりが出来ており、状況から考えると彼女がおしっこを漏らしたようだが、男と違ってホースパーツのない女性では逆立ちでもしなければ頭から被るような事は出来ない。

 座って用をたしている最中にバランスを崩して転げ落ちたのなら、もしかすれば、全身に浴びるような状態になるかもしれないが彼女はジャージをしっかり穿いている。

 よって、副会長はここで何があったのかまるで理解出来なかった。

 

「花! しっかりしろ、花ぁぁぁ!!」

 

 そうして、副会長は花に駆け寄っている間に、一つ目の個室に隠れていた人物がトイレから逃げるのに最後まで気付かなかった。

 

◇◇◇

 

 キヨシが席を立って後を追うように花もトイレに行った頃、残って作業をしていた男子たちは二人について話していた。

 

「二人きりになりたいからって時間差でトイレ行ったっぽいけど、花さん後を追うの早過ぎで全然隠せてねーよな」

「ハハッ、まぁ花殿も恋する乙女ということでゴザル」

「ゴホッ……きっと今頃はトイレの個室でよろしくやってんだろうな」

 

 校舎の外にある人気のないトイレ、トイレと言えば個室、個室で若い男女が二人きり。そんな風に連想ゲームのように思考は巡り、今頃二人は桃色空間を発生させているに違いないとジョーは睨む。

 キヨシは四月中に童貞を捨てられると思っていたと発言していただけに、そういった方面への興味は他の男子に負けず劣らずだろう。

 対して、花は全寮制の女子校にいただけあって奥手な箱入り娘だと思われるが、そういった手合いは火が点くと一気に燃え上がるタイプでもある。

 既にキヨシにご執心であることは判明しているため、キヨシではなく花の方から積極的にスキンシップを取りに行っている可能性も十分あり得た。

 そして、そのもしかしてを想像し、このとき男子の思考は見事にシンクロする。

 

「な、なぁ、花さんってどう考えても裏生徒会で一番スタイル控えめだよな」

「厚手のブレザーを着てるからはっきりとは分からないけど、運動してて身体も絞れてるしスタイルが悪いってことはないと思うよ」

「小生のプロファイリングによれば、ああいった女性は貧乳か着痩せするタイプと決まっているでゴザル」

「見るまでのお楽しみってやつか……ファック」

 

 妬ましい。その一言に尽きた。

 花のことを色気のない女と言って興味無さそうにしていたシンゴですら、見れるのなら見たいという欲求に駆られ、彼女の身体を自由に出来るキヨシを心底羨ましいと思った。

 第一印象ではかなり高評価していたアンドレと正直好みだったガクトなど、道具を持つ手が激しく震えている。

 だが、ここで仲間を疑うのはよくない。キヨシはなんだかんだ仲間の事を考えて我慢してくれているはずだと、ガクトは声を震わせながらも平静を装って皆に言い聞かせた。

 

「ま、まぁ、きっと大丈夫でゴザルよ。キヨシ殿も流石にそこまで抜け駆けはしないはずでゴザル」

「だ、だよな。オレたちが出所するまでは気を遣ってキス止まりでいるよな」

「キスつっても舌絡ませたり色々あんだろ……ごほっ」

 

 ディープキス、フレンチキス、ベロチューと言い方は色々あるが、非常に情熱的なそれもキスの一種である。

 仮にキヨシが出所まで童貞卒業を待ってくれていたとしても、通常のキスよりも数歩先を行くベロチューなんてしていれば、男子らにとっては十二分に裏切り行為という認識であった。

 自分たちの仲間が美少女とそんな事をしているとは思えない。けれど、もしもしているのなら、今後の参考のために是非とも見たい。

 ごくり、と唾を飲み込み喉を鳴らしたシンゴは、花の去っていった方へと向き直り白々しく口を開いた。

 

「な、なんか花さん遅いなー。もしかしたら、アクシデントでもあったのかもしれないし。少し様子見に行った方がいいかもなぁ……模範囚として」

「だ、だよねー。キヨシ君も遅いし。足を滑らせて頭を打って倒れてるかもしれないから、様子を見に行くのは当然だよねー……模範囚として」

「そ、そうでゴザルなー。これは花殿のことを思っての当然の行動でゴザル……模範囚として」

「ゲホッ……そんな立て前どうでもいいだろ。行こうぜ、二人の乳繰り合ってる姿を出歯亀しによ」

 

 言い訳なんてするな。欲望に忠実に生きろ。そういってジョーは、誰にでもなく立て前を口にする男子らを率いて花たちのいるトイレを目指そうとする。

 フードに隠れて表情はほとんど見えないが、男子たちは迷いのない彼の背中に男らしさを感じた。

 もっとも、彼らがここにいるのは、その欲望に忠実に生きた結果なのだが、深く考えない男子はその事に気付きもしない。

 普通、反省はするが後悔はしないというところを、彼らは後悔はするが反省もしないといった思考なのかもしれない。

 そして、男子らが道具を置いてトイレの方へ向かおうとしたとき、校舎沿いの曲がり角を凄まじい速度で曲がって駆けてくる者の姿が見えた。

 

「き、キヨシ殿っ!! その姿は何でゴザルか?!」

 

 驚いたガクトは思わず尋ねる。やってきたのはキヨシなのだが、どういう訳か彼のズボンのホックの金具がひしゃげてかけられなくなっており、チャックの方も歪んでしまったのか全開状態で、スライダーが走る勢いで勝手に上下に動いていた。

 これではズボンをまともに穿ける訳もなく、ベルトでずり下がらないように固定して右手で必死に前を閉じている姿は異様に映る。

 そんな姿で現れたキヨシは、先ほど花と一緒にお茶をしていたテーブルに向かうと、自分が飲んでいた紙パックのジュースやドーナツの箱やおしぼりを急いで回収しながら答える。

 

「理由は聞くな! あと、副会長が来ても俺が今日ここに来た事を絶対に話さないでくれ! 頼んだぞ!」

 

 それだけ告げるとキヨシはやってきたのと同じ速度で男子寮の方へと去って行った。

 後には彼がいた痕跡の消されたテーブルと、状況が分からずポカンとした男子たちが残される。

 しかし、しばらくすると考える余裕が出来たのか、地面に置いた道具を再び手にとって作業を再開しながらシンゴが他の者に喋りかけた。

 

「ア、アイツもしかして花さんに襲われたのか?」

「ズボンの留め具破壊するってどんだけがっついんてんだよ……ゴホッ」

 

 あの惨状では素人では手が出せず、衣服の修理を取り扱っている店でホックとチャックを交換しなければ穿けないだろう。

 ボロボロの(てい)でキヨシが現れたということは、あんな風にしたのは花のはずなので、男が逃げ出す勢いで迫ったと思われる少女に、シンゴとジョーは呆れ気味に溜め息を吐いた。

 

「でも、逆にキヨシ君が花さんを襲った可能性もあるよね。副会長さんが戻ってきたから慌てて逃げたとか」

 

 しかし、現状ではシンゴやジョーの言った通り花が襲ったかどうか判断出来ない。

 盛り上がって暴走したキヨシが花を襲おうとし、中々ズボンが脱げなかったことで無理矢理に脱いで壊した可能性もあるとアンドレは指摘する。

 キヨシは戻って来ない副会長の名をあげて去って行ったので、もしかすると、戻ってきた彼女が現在は花と一緒にいるのかもしれない。

 覗き事件当日、キヨシは花の攻撃を受け止めながら花束を贈るカウンターを決めたが、体格差を含めて考えるとIHベスト4の花より副会長の方が強いと思われる。

 もしも、そんな相手に犯行の瞬間を見られそうになれば、誰だって身を隠しながら逃げ出す。ここに来ていた痕跡まで抹消していたため、そちらの方が可能性はむしろ高く思えた。

 二つの意見を聞いて考え込んでいたガクトも、どちらも本当にありそうだから困ると思いながら、とりあえず状況を把握出来ないのでしばらく様子を見ようと他の者に提案した。

 

「……どっちにしろ、犯罪の臭いがするでゴザルな。まぁ、花殿が戻ってくれば襲ったのは花殿で、戻って来なければキヨシ殿が襲ったということでゴザろう」

「だな。とりあえず副会長からの報告を待つことにして、オレたちは普通に作業しとこうぜ」

 

 キヨシが去って行った以上、二人が乳繰り合っている姿はもう見れない。

 なら、持ち場を離れる必要もないので、男子たちは引き続き開墾作業を続けて副会長や花が戻って来るのを待った。

 しかし、キヨシを信じた男子の想いも虚しく、しばらく経ってやってきたのはどこか怒りを抑えた様子の副会長のみだった。

 

◇◇◇

 

 トイレからギリギリ脱出し、自分が花と一緒にいた証拠を残さず回収してきたキヨシは、男子寮に戻るなり急いでズボンを履き替えた。

 別に寝るとき用のジャージに着替えても良かったが、どうせならお風呂に入ってから着替えようと思っているため、とりあえず制服姿のままでいた彼は残っていたドーナツを食べながら考え込んでいた。

 

(やばい、やばい、やばい、どうしようっ)

 

 花にズボンとパンツを脱がされ放尿してしまった事は事故だ。けれど、いくら事故でも花の全身におしっこをかけたのは問題にしかならない。

 ゆるい放物線を描いて出たおしっこは最初に花の鼻あたりにかかった。そこから自分のズボンや下着に飛ばないように調節したことで狙いが動き、頭や身体にまでかけてしまった。

 一度出たおしっこを止めるのは難しく、我慢から解放されたことで気持ちよくおしっこしていたキヨシも止めるつもりは殆どなかったが、自分のおしっこで相手を汚しているという背徳感で言いようのない高揚感を覚えたのは秘密だ。

 頭から顔や胸までしっかりと濡らし、お腹や相手の股間の辺りにも浴びせ、丁度狙い易い位置にあったことで可愛い唇は重点的に掛けておいた。

 海外で行われた実験によれば、男は便器に汚れなど狙うポイントがあると、ほとんどの者がそこを狙っておしっこをするらしい。

 キヨシもそれと同じ発想で唇を狙った訳だが、相手は途中でむせて咳き込んでいたので、多分、口にも入ってしまったのではないだろうか。

 少しかけてしまった時点で狙いをすぐ便器に変えれば良かったというのに、出しきるまできっちりと花を狙っていた事で、冷静になってから考えると普通に犯罪だぞとキヨシは激しく後悔する。

 

(見ただけなら冗談で済んだかもしれないけど、流石に全身におしっこを浴びせたのは許されない。今日の事を花さんがリークしたら普通に退学で、さらに進めば警察を呼ばれてしまう。ああ、クソッ、性欲に支配された結果がこれかよっ!!)

 

 キヨシは移動しベッドに腰掛けて、処理しきれない感情を吐きだす様にベッドマットを数度殴りつける。

 普段ならば罪悪感を覚えて、少しでもかけてしまった時点ですぐに便器に狙いを変えていただろう。だが、あのときのキヨシは直前に突き飛ばすドサクサで花の胸を触っていた。

 掌に今も感覚が残っている様な気がする。脳内にはあのときに触れた感触をしっかりと記憶しており、キヨシはそれを思い出して指をわきわきとさせながらだらしない顔をする。

 

(し、しかし、ブレザーの上からだったのに柔らかかったなぁ……花さんのおっぱい。服の上からじゃ分かんなかったけど、あの人って結構着痩せするタイプみたいだ)

 

 服や下着越しでも伝わってきた柔らかさ。裏生徒会の他のメンバーどころか、キヨシのクラスメイトで花からすれば後輩にあたる千代と比べても花の方が小さいと思っていただけに、彼女の胸の確かな弾力から感じられたボリュームはいい意味で予想外だった。

 決して大きいとは言えないが、それでも十分“ある”と誇っていい代物であり。そんなものを隠し持っていたなんて花さんも人が悪いとキヨシはいやらしくニヤけて、すぐまたハッとして表情を引き締める。

 

(いや、いかんいかん! 確かに花さんのおっぱいは素晴らしかったが、それが原因でちょっと悪戯心が湧いてしまったんだろうが。それにこれは心の浮気だぞ。俺には千代ちゃんがいるじゃないか。しっかりしろ藤野清志!)

 

 千代との相撲デートまで残り僅か。だというのに、ブレザー・シャツ・ブラと最低でも三枚の防壁越しにおっぱいを少し触ったくらいで、心が揺らいで花の事ばかり考えるのは千代への裏切りである。

 あれが生であったら花との朝チュンルートも辞さない覚悟だったが、流石に多重防壁越しではよくある事故程度のものだろう。キヨシは危うく浮気男になるとこだったと踏み止まった自分を褒めてやりたくなった。

 しかし、彼がいくら千代に操を立てようが、トイレで花を汚したという事実はなくならない。

 その事に気付かないまま、いや、むしろ現実から目を逸らして考えないようにしている少年は、気分転換に風呂にでも入ろうと着替えを持って部屋を出ていった。

 

 


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