スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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誰かに明日を届けるお話、後編。


Chapter14『明日の届け方 後編』

 ティオナが女型巨人に吹き飛ばされた光景を見るや、ベルは【英雄願望(アルゴノゥト)】による斬撃を行なおうと特大剣を構え大きく足を前へ踏み込む。

 現在の最大時間である3分を蓄力(チャージ)しきれていないが、最大蓄力(チャージ)まで待っていたらスズの【ヴィング・ソルガ】の効果時間が先に切れてしまう。

 女型の巨人相手に【付与魔法(エンチャント)】による身体強化無しで【魔法】も使えない状態で挑むのは自殺行為だ。

 

 だから狙うは一撃必殺ではなく確実なダメージ。

 俊敏な女型巨人に回避されないよう胴体目掛けて解き放つ衝撃の刃は横薙ぎによる広範囲遠距離斬撃。

 しゃがんで避けられても『咆哮(ハウル)』を放つ頭、あわよくば肩もそぎ落とし戦闘力の低下を図れる。

 跳躍で避けられても今までの速度から考慮して最低でも足を一本は持って行けるだろう。

 相手の回避が間に合わず胴体を一刀両断できれば一番いいのだが、立て続けに異常事態(イレギュラー)が起こり続けている現状で楽観視はできない。

 

 

 この一撃をスズに繋ぎ、そのスズでも仕留めきれなかった時の心構えもしておくべきだろう。

 

 

 ティオナを殴り飛ばす為に拳を振り切った女型巨人に向かって背後から【英雄願望(アルゴノゥト)】による斬撃の衝撃波を地上から飛ばす。

 予想通り女型の巨人はベルが横薙ぎを振り切る前に危機を感じ取ったようだ。

 拳を振り切りながらも体を捻り強引にさらに足を踏み込み飛翔することで胴体への直撃を避け、衝撃波は飛翔した女型の巨人の両足を吹き飛ばす。

 

 

 女型巨人の機動力を奪ったことでスズのダンジョンの階層すらも貫く【魔法】を当てる段取りは整った。

 もしもここで倒さなくてももう女型の巨人は両足を失い満足に移動ができないのだから、一度この場を離脱して他の冒険者達と体勢を立て直すのもありだろう。

 女型巨人の攻撃を受けてたティオナにリヴィラの街の物資である『回復薬(ポーション)』類の数々を注ぎ込み戦線復帰してもらえれば間違いなく勝てる。

 ベルが尊敬するアイズの仲間であるティオナならば、もしかしたら『回復薬(ポーション)』を使うまでもなくこの場にまた駆けつけて女型の巨人にトドメを刺してしまうかもしれない。

 それでも『逃げろ』『離れろ』と何度も何度も冒険者としての直感が警報を鳴らし続けていた。

 ベルは【英雄願望(アルゴノゥト)】の反動により立ちくらみよろけそうになるも、何とか足を踏みしめまだ宙から落ちていない女型の巨人を見上げる。

 

「ベルッ! スズッ! 逃げなさい!!」

 リューの叫びはベルのことを『クラネルさん』と一歩引いて呼ぶ余裕すらなかった。

 

 ベルから見たらそれはただ何かが光っただけだ。

 両足を失った女型の巨人の首がゴキゴキと本来ならありえない真後ろまで曲がり大きな口を開け放つ『咆哮(ハウル)』なんて言葉は生ぬるい、魔力を燃やし放つ熱線が放たれその反動に耐えきれずに女型巨人の頬は破れ歯は飛び散り顔面の皮膚は焼きただれる。

 

 

 

 放たれた熱線がベルの居た場所を薙ぎ払うのと、スズが詠唱を終えるのと、ベルが激しい熱と衝撃を感じるのはほぼ同時だった。

「【雷よ。吹き荒れろ。我は武器を振るう者なり。解き放て雷。第八の唄ヴィング・ゼフテロス・ソルガ】」

 スズが行ったのは追加詠唱式による【ヴィング・ソルガ】の重ね掛け。

 雷のごとき速さでベルを抱えて宙に飛び上がり、スズの体温で肌を焼かれあまりの速度にベルは息が詰まり激しい痛みを感じた。

 先ほどまで立っていた場所は広範囲に渡り熱線により抉れてしまっており、それは遠くの壁まで到達している。

 直撃していれば間違いなく命はなかっただろう。

 

 

『ごめんね、ベル。もう少しだけ頑張ってもらっても大丈夫かな?』

 そんな申し訳なさそうなスズの声と共にドスンと女型巨人の体が地面に落下した。

 【ヴィング・ソルガ】の重ね掛けをしたスズの腰からは二又の尻尾のように金色に輝く光の帯がなびき、以前まで身にまとっていた金色の輝きの他に赤い光の粒子が立ち上がり発散されている。

 

 

 

『今アレを倒しても『穴』を塞がないとまた次が出てきちゃうと思うから。だけど今の『私』だとアレを倒すのと『蓋』をするの、同時にはちょっと無理だと思う』

 

 

 

 地に落ちた女型巨人の失った足の断面からはゴポゴポと黒い泥のような血液が漏れだし、地面に根を張る様に広がり大地を侵食し、地面に寄生することで体を起こしていた。

 周りの木々はまるで巨人に養分を吸い取られているように枯れ始め、美しかった水や水晶は黒く濁り、ダンジョン自身が怒り狂っているかのように階層が激しく揺れる。

 スズに助けられた際の衝撃で手放してしまった黒い大剣も泥の浸食に呑まれ、ドロップアイテムを取り込んだ影響か女型巨人の体からもまた赤い光の粒子が立ち上がり始めている。

 さらには巨人が生れ落ちた水晶からも黒い泥の雫が漏れ出ており、真下にある19階層入口の巨大樹を侵食して、浸食された巨大樹からは黒い怪物(モンスター)が次から次へと生まれ出ていた。

 上下数階層から生れ落ちる怪物(モンスター)の黒い変異種が波のように簡易拠点目掛けて押し寄せてきている様子が空中からだとはっきりと見て取れる。

 そんな絶望に絶望を上乗せした状況の中では、LV.2の冒険者であるベルはとてもちっぽけな存在だった。

 

 

 

 

『ベルは諦めずに、『私』の無茶に付き合ってくれるかな?』

「もちろんだよ。スズだけに無茶なんかさせない」

 

 

 

 それでもベルは折れない。

 何とかなるなんて楽観視をしている訳ではない。

 怖くないと言ったら嘘になる。

 仲間を守れ、女を救え、己を賭けろ。そんな祖父の言葉をただ真っ直ぐと受け止め、祖父の背中に憧れて祖父に喜んでもらいたくて英雄になりたいと思った子供心は今もなお綺麗に輝き続ける。

 

 

 

 ―――――リンっと、鐘の音が鳴る。

 何度も失敗して躓き続けても想い描き続ける英雄願望。

 元よりベルが他の冒険者よりも優れているのはどこまでも一途なこの想いだけだ。

 

 

 

 

 ――――リンっと、鈴の音が鳴る。

『【9つの花弁より生まれし角笛の守り手よ。音を奏で世界(かぞく)を守り給え。我が神域の守り手。ヘイムダル・レスク(九花弁から生まれし神域の守り人)】』

 初めて聞く詠唱と共に温かい光の波が9つ生まれ、1枚がベルの足場となりそこに下ろされ、残りの光が揺らぎながらも花弁のような形を保ち周囲を舞う。

 いつか感じた甘い蜜のような香りがスズから強まるのを何となくだが感じた。

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!』

 

 

 蜜の香りが強まるのと同時に、下半身を地面と同化させることで体を保っている女型巨人が叫んだ。

 叫びに耐えきれず傷ついた女型巨人の顎が外れ顔の下半分が地面にぐしゃりと落ちる。

 それでも音を出すのを止めずに香りの元であるスズの方に体を向け、胸の寄生型がすっと何かを求めているように両手を広げて伸ばす。

 

 次の瞬間、女型巨人に浸食された地面から漆黒の刃がベル目掛けて無数に射出された。

 それに対してスズは100を超える【ソルガ】を同時発射して弾幕を張り迎撃を試み、仕損じた漆黒の刃は双剣を振るい逸らし、それでも防ぎきれなかった漆黒の刃は【ヘイムダル・レスク(九花弁から生まれし神域の守り人)】で生み出された光の花弁が弾いていく。

 スズが【魔法】を撃つ度に、花弁が攻撃を防ぐ度に、スズの体からあふれ出る赤い粒子の量は増えていっている。

 通常の【ヴィング・ソルガ】同様この輝きの増加は体への負担も大きいはずだ。

 

『ベルは『私』を信じて【英雄願望(アルゴノゥト)】を止めずに走って。迎撃も防御も全部『私』がするから』

 空中でただ立っているだけなのは狙ってくれと言っているようなもので、少しでもスズの負担を軽くする為にもまずは動かないことには話にすらならない。

 今だに浸食された地面から漆黒の刃が射出され続ける中、ベルは足場になってくれている光を大きく蹴り移動すると光は飛翔した先にオーロラのように揺らぎ伸びていきまた足場となる。

 スズもまた光と同様に【魔法】の弾幕と他の花弁と共に漆黒の刃を迎撃しながらもぴったりとベルについて行き、ベルの行きたい場所を確保し続けてくれていた。

 空を自由に走り回れることで直撃コースから外れることはできるが、それでもスズの負担は大きいままなのが歯がゆかった。

 

 

 

 

 ―――――――自分を守る為に無理をし続けるこの子を守る為、

        僕は今だけでも英雄に憧れるだけの子供でなく、

           英雄にならなくちゃいけないんだ―――――――――

 

 

 

 

 

 【英雄願望(アルゴノゥト)】最大蓄力(チャージ)まで後2分30秒。

 リン、リン、という鐘の音が、ゴォン、ゴォン、っと大鐘楼の音に変わり漆黒の刃が飛び交う空中で鳴り響く。

 短くも長い、ベル・クラネルの英雄譚が幕を開けた。

 

 

§

 

 

 仲間達が好きだった18階層の森は枯れ、大地が女型巨人の血肉に浸食されている光景に、リューは殺気立った冷たい表情で女型巨人を見上げた。

 思い出の場所を踏みにじられたこともあるが、あの場では今もなお大切な友が命を懸けて戦い続けているのに僅かに出遅れた自分自身にも怒りを覚える。

「リオン、貴女死にますよ!?」

「クラネルさんの切り札を当てる為にも注意を分散させる必要がある。なによりも二人だけに危険な橋を渡らせる訳にはいかない。アンドロメダ、貴女は後方の指揮をお願いします。魔導士達の援護がもう一度欲しい」

 今にも死地に飛び出そうとする様子にアスフィが叫ぶもリューの意志は変わらない。

 

 リューは『精神回復薬(マジックポーション)』を一気に飲みほし、伝えたいことを伝えると女型巨人に向かい疾走して浸食された大地に足を踏み込む。

 漆黒の刃の射程は浸食された大地だけなのか、リューが足を踏み込んだ瞬間からリューの足元から次から次へと漆黒の刃が飛び出していくが、全身を止めずある時は体を捻らしかわし、ある時は漆黒の刃の横腹を蹴り空中でも軌道を変え、【ルミナス・ウィンド】を【平行詠唱】しながら漆黒の刃を掻い潜り地面と同化している女型巨人の根元に木刀を撃ち込んでは離脱を繰り返す。

 

 

「ああっ、もう! 誤射があっても知りませんよっ!! 」

 緊急事態にアスフィは隠し玉で人前で使いたくはなかった『飛行』能力を持つ『魔道具(マジックアイテム)』の靴『タラリア』を起動して飛翔し、周りの状況を把握して冒険者達に意思伝達を行ない始めた。

「19階層入口から怪物(モンスター)の大群! 前衛は何としても魔導士達を死守してください。単発火力のある魔導士達は再度ゴライアスモドキへの集中砲火、広域攻撃を持つ者は迫りくる大群に先制攻撃をお願いします。『あの里』の一撃を何が何でも当てさせますよっ!!」

 アスフィの声と鳴り響く大鐘楼の音、枯れゆく森に大群で押し寄せて来る怪物(モンスター)

 成功するにせよ失敗するにせよ、これが最後の攻防になると冒険者達は自然と悟り覚悟を決める。

 

 

§

 

 

 ティオナが殴り飛ばされてから直ぐにリリは一人森を走っていた。

 ベルとスズは女型巨人を倒しえる火力を持っているが、何の援護もなしに最大火力を女型巨人に当てるのは難しいだろう。

 女型巨人を倒すには最大戦力であるティオナの力が必要だと考え、ティオナが何とか戦線復帰できると信じて『高等回復薬(ハイ・ポーション)』を届けに向かっているのだ。

 第一級冒険者の耐久力がどれほどのものなのかリリには想像もつかない。

 もしかしたら届けに行く必要もなくケロリとしている可能性だってあるし、既に事切れてしまっているという最悪の可能性もありえる。

 それでも誰も行く余裕がないなら、動ける自分が動いて状況を判断するしかないとリリは危険を承知の上で一人森の中へと入って行ったのだ。

 

 途中、漆黒の亜種怪物(モンスター)の群れを目撃し慌てて身を隠しやり過ごした後、木によじ登り位置を確認したところ怪物(モンスター)の進撃に不自然な穴を見つけた。 

 ちょうどその付近がティオナが叩きつけられた場所だった。

 おそらくその穴はティオナが怪物(モンスター)を倒し続けていることで空いている穴だろう。

 

 

 そして駆けつけたリリが目にしたものは、怪物(モンスター)の死骸の山で血だらけになりながらも戦い続けるティオナの姿だった。

 

 

 女型巨人の攻撃により右半身をほとんどダメにしているようで、右腕はだらんと垂れ下がり右足に至っては前に折れ曲がってしまっている。

 そんな状態でティオナは左手で持つウルガを大地に突き立て、怪物(モンスター)の攻撃をその身に受けては反撃で倒しを繰り返していた。

 とても『高等回復薬(ハイ・ポーション)』で戦線に復帰していい損傷ではない。

「パルゥムちゃん、危ないから下がってっ!!」

 そんな状態でもティオナはリリの姿を見るなり身を案じてそう叫んでくれた。

 

 

 

 こういう温かい冒険者達の周りで育ちたかったと思う反面、酷い状態の【ソーマ・ファミリア】で生まれなければベルとスズに出会えなかったかもしれないと思うと後悔は一つもない。

 

 

 

 

 怪物(モンスター)の死骸を、怪物(モンスター)の脇を決死の覚悟で潜り抜け、『高等回復薬(ハイ・ポーション)』のフラスコをティオナの頭上に投げて即座に矢で射抜き中の液体をティオナに浴びせる。

 適切な治療をしていない状態で『高等回復薬(ハイ・ポーション)』を浴びせるだけでは焼け石に水だが、少なくとも体力ぐらいは回復してくれる。

 仮にリリがティオナの元まで辿り着けなかったとしても、これで無駄死ににはならないと信じたい。

 怪物(モンスター)の攻撃を潜り抜けては『高等回復薬(ハイ・ポーション)』を投擲しては射抜き少しずつティオナに近づきながら回復を試み、ティオナもまた近づいてきてくれているリリに片足で地を蹴りながら近づき、時には怪物(モンスター)やその死骸を蹴飛ばしたり投げ飛ばしたりしてリリに近づく怪物(モンスター)を迎撃していく。

 

 

 

 だけどほんのあと一歩、足りない。

 

 

 

 漆黒のヘルハウンドが遠くで口を開けている姿が目に見えた。

 ティオナの投擲もぎりぎり間に合いそうにない。

 この火炎攻撃は第一級冒険者であるティオナにとってさほどダメージにはならないがリリにとっては致命的だ。

 何よりも致命的なのはバックパックに詰めた『回復薬(ポーション)』類に被弾すればティオナを戦線復帰させられなくなることだ。 

「ティオナ様、無茶なお願いなのは承知です! どうか、どうかこれでベル様とスズ様をっ」

 リリはそれだけは避けようとバックパックを下ろし庇うように抱きかかえる。

 身を焼かれる痛みを覚悟して震えるが、一向に痛みも衝撃も訪れない。

 ティオナがリリの予想を上回る動きをして迎撃してくれたのだろうか。

 

 

 顔を上げ状況を確認すると、数人の冒険者がやけくそ気味に泣き叫びながらも周りの怪物(モンスター)と戦い、リリに火炎を吐こうとしていたヘルハウンドも打倒されていた。

 そんな冒険者達の顔ぶれにリリは見覚えがある。

 そう、モルド達だ。

「ここでこいつが死ねば変な金も払わずに済むさっ! ああ、わかってる! 俺達はどこにでもいるクソみたいな荒くれ者だっ! 今更善行したって帳消しになる訳もねぇ! だけどな、ただのサポーターのガキが足掻いている中、何もせず逃げ回る程落ちぶれてもいねぇんだよっ!! 俺達は冒険者だ、ちくしょうがっ!!」

 きょとんとしているリリに向かってモルドがそう怒鳴り散らす。

 

 彼らは善人ではない。

 けれど極悪人という程には落ちぶれてもいない。

 ごくごく一般的などこにでもいる冒険者(あらくれもの)なのだ。

 冒険者とは本当に馬鹿でどうしようもなくめんどくさい生き物なんだなとリリは苦笑する。

 

「無茶なのはパルゥムちゃんだよ! でもありがとうっ!」

 そして『高等回復薬(ハイ・ポーション)』を手渡しできる距離まで近づくと、一瞬だけ「もう」っとむくれるも笑顔でティオナはお礼を言ってくれた。

「今は右足を優先的に治療いたします。『高等回復薬(ハイ・ポーション)』しかご用意出来なくて申し訳ございません……」

「十分十分! それでパルゥムちゃん、あたしは何をしたらいいの? この音ってアルゴノゥト君か白猫ちゃんが何かしようとしてる音なんだよね?」

 ゴォン、ゴォン、っと大鐘楼の音が木霊している中、ティオナは文句ひとつ言わずそう微笑んだ。

 

 

§

 

 

 魔導士達による最後の集中砲火が女型巨人に決行された。

 それを防ごうとした女型巨人の両腕が衝撃でボロリと捥げ浸食された大地に落ちる。

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!』

 集中砲火を止める為に広域を薙ぎ払おうと顎すらついていない口内を光らせ再び熱線を吐き出そうとする刹那、リューが女型巨人の胴体や飛び交う漆黒の刃を足場に駆けあがり【ルミナス・ウィンド】を女型巨人の口内に叩き込む。

 女型巨人の喉奥は自らの膨大な魔力と【ルミナス・ウィンド】により爆発し、吹き飛んだ鎖骨が勢いよく遥か彼方地面に突き刺さる。

 リューは半ば自爆覚悟で熱線を阻止したが、光の花弁が4枚重なって広がり身を包むよう爆風から身を守ってくれていた。

 花弁の耐久値が尽きたのか身を守ってくれた花弁は4枚とも砕け塵となって消えていく。

 

 

 訓練の時では見たことのない【防御魔法】に100を超える手数。

 いったいどれほどの無茶をしているのか想像もつかない。

 できることなら二人にこれ以上の無茶をしてもらいたくないが、頭部もなく手足もなくただ地面に生えているだけの女型の巨人からは、それに寄生しているモノからは未だ闘志は消えていない。

 浸食された大地からまだ漆黒の刃を飛ばし続けるのか、それとも前に遭遇した浸食する肉塊と同じように肉塊から新たな怪物(モンスター)を生み出すのか。

 何かされる前に手を打っておくべきだと冒険者としてのリューの直感が警報を鳴らす。

 

 

 

「おっかえしだあああああああああああっ!!」

 

 

 

 直後、ティオナの咆哮が轟き、浸食された中央樹が女型巨人の背中に突き刺さった。

 魔石に到達することはなかったが、勢いよく飛ばされた中央樹の衝撃は凄まじく、メキメキと音を立てて地面と同化していた下半身が縮れ女型巨人がうつ伏せに転倒し、放たれていた漆黒の刃の放出も止まる。

 

 

 

 

 

 

 

 ここにいる全ての冒険者達によって紡がれた、完全に相手が無防備になった瞬間。

 

 

 

 

 

「【ファイア・ボルト】」

 そんな小さな呟きと共に一際大きな大鐘楼(グランドベル)が鳴り響き、大炎雷が中央樹と女型巨人、そして浸食された階層をも貫ぬいた。

 




もう少しキャラクターを激しく動かし、ヘスティア様の場面で『スズ・クラネル』がどうなってしまったのかなど神様目線で描写したかったですが力不足でこのような形となってしまいました。

次回Epilogueはヘルメス様の語りと、いつもので締める予定です。


2017/03/31:「悪人」から「極悪人」とわかりやすく修正しました。

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