スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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ただ笑ってもらいたかっただけのお話、後編。


Chapter11『笑顔の在り方 後編』

 スズを背負ったベルとその隣にいるヘスティアを守る形で隊列を組みながら進む【ヘルメス・ファミリア】は集まり始める怪物(モンスター)の群れをものともせず野営地を目指していた。

 LV.4であるリューの力もさながら、視界の悪い森の中全域を10人にも満たない人数でしっかりカバーしきれている連携の練度はかなりのものである。

 本来司令塔であるアスフィが不在でも18階層の怪物(モンスター)を相手に後れを取るような指導はされていない。

 

 遮蔽物が多い森において中衛のルルネの役割は木の上から怪物(モンスター)を見つけて仲間にその位置を知らせるスカウト役だ。

 他にも絶妙なタイミングで【攻撃魔法】を撃ち込むパルゥムや、ショートボウとハンドアックスを使いこなすエルフなど、種族としてよりも個人の長所を伸ばしていることが伺えられる。

 

 仲間の残弾数をしっかり把握して弾切れを宣言する前に矢を渡しに向くサポーターを見て、リリは「【ソーマ・ファミリア】のサポーター水準があれくらいに育ってくだされば、リリも安心できるのですが」と平然と言ってのけていたが、そう言えるリリがサポーターとして飛び抜けて優秀なだけなのは言うまでもない。

 

 とにかく【タケミカヅチ・ファミリア】が自分達はついて来ただけだったと言っていた理由も納得の練度だった。

 そんな【ヘルメス・ファミリア】に加え、リューとティオナがいれば通常のゴライアスであれば楽に討伐できていただろう。

 

 しかし、機動力のある女型のゴライアスとやり合うには戦力が足りなさすぎる。

 何よりも火力が圧倒的に足りない。

 今はティオナが単独で女型のゴライアスを釘付けにしてくれているが、一発一発が致命傷になりかねない猛攻を避け続けることはいくらLV.5冒険者でも無理だろう。

 

 

 階層主を倒すセオリーは、壁役が攻撃を防ぎ、前衛が相手の足を止め、後衛が火力で怯ませ、最後に全員で魔石を砕くのだが、たった一人の足止めしかいない状況はまさに絶望的だ。

 

 

 ティオナに女型のゴライアスを倒しきる切り札があれば別だったのだが、完全な前衛特化であるティオナでは決定打に欠けているのが現状である。

 リリが逃げ切れる可能性を提示してくれたので戦闘に支障が出ない程度には落ち着いているものの、誰しも大きな不安を抱えていることだろう。

 

 スズの容態もまた多くの者に不安や焦りを与えている要因の一つだ。

 ベルに背負われているスズは今だ一言も言葉を発していない。

 話し掛ければ頷いたりと反応はしてくれるが、その瞳は虚ろなままだ。

 スズはあれから一度も声を出さず、怯えて体を震わせ続けている。

 今も酷く怯えているようでベルの肩当てから覗く袖を力強く握りしめていた。

 

 ベル、ヘスティア、リリ以外が話し掛けると何かを思い出したかのように目を瞑り体の震えが大きくなってしまう。

 スズは元々人の悪意に敏感だった。

 ならず者の冒険者一人が相手でも本当は怖くて、それでも大切な人の為に怖さを我慢して頑張って、その恐怖から守る様にいつもスクハが出てきてくれていた。

 今まさに恐怖に押しつぶされている中、スクハに変わっていないということはスクハは出られる状態ではないということだろう。

 そんな中でいまだかつてないほど悪意が集中した場で実際に酷い目に遭ったのだ。

 きっと声が出なくなるほどのショックを受けてしまったに違いない。

 力強く袖を握りしめられるということは無事に毒は治ったと思われるが、こればかりはもっと安全なところでゆっくり話をして落ち着かせてあげるしかないだろう。

 

 

 リリとヘスティアが少しでもスズを元気づけてあげようと帰ったら何をするか、みんなで温泉に行ったり買い物に行こうとか、そんな何でもない普通のことを話しかけてあげている中、パーティメンバーであるにも関わらず怯えられてしまったヴェルフは複雑そうな表情をしていた。

 

 

 心配するベルの視線に気づいてヴェルフは「俺の作品を好いてくれている気持ちだけで十分だ」と寂しそうに苦笑する。

 そんなヴェルフにスズは異常な程手を震えさせながらも、片腕をヴェルフの方に伸ばしながら首を横に振っていた。

 

「嫌ってないことぐらいわかってるから無理すんな。俺もそこのエルフ……あー、リューだったか? とにかく、そいつも……たかが一度や二度怯えられたくらいで嫌になるような、そんな薄い仲をお前とやってきたつもりはないぜ。スズだってそうだろ? だから気にするな」

「スズ、貴女が気に病む必要はありません。貴女は被害者なのだからもっと自分を労わるべきだ」

 ヴェルフとリューはスズを気に掛けてくれているが、その気遣いの本音すらも今のスズはなぜだか怯えてしまうのだ。

 だから頭を撫でてあげることも、手に触れてあげることも、言葉を投げかけてあげることもできなくて、それが一番辛いのはスズなのも理解できているから、二人はとても歯がゆかった。

 

 

 

 スズは大好きな人を大好きなまま恐怖の対象として捉えてしまっているのだ。

 それはきっと想像もつかないくらい辛いことだろう。

 

 

 

 このスズの症状についてはわからないことだらけであるが、その中でもベルは一つ大きな疑問を抱いていた。

 スズが一体何を基準にして怯えているかである。

 大切な人がいなくなってしまうかもしれないと不安になった時や、人の悪意を目の前にした時に怯えてしまうのは前からわかっていた。

 

 一度怯えだすと親しい相手に対しても落ち着くまで怯えてしまうが今この場において、ベル、ヘスティア、リリだけはスズを怯えさせることなく話し掛けることも触れてあげることもできる。

 スズにとって特別親しいものだからと言ったらそれまでだが、それなら同じように親しい仲柄であるリューとヴェルフだって大丈夫なはずだ。

 もしかしたら親しい以外にも何か怯えさせない基準があるのかもしれない。

 

 

 しばらく怪物(モンスター)を問題なく処理しながら野営地を目指していると、ルルネが野営地に残っていたメンバーがこちらに合流しようと向かってきていることを伝えた。

「ルルネ無事だったかっ!! 最近お前といるとロクなことにならないぞこんちくしょう!!」

「今回は何も悪いことしてないだろ!? なんにせよ、お前らも無事でよかった!! アスフィとヘルメス様は!?」

「団長はあのデカブツを倒す為の人材を集めにリヴィラに行ってる!! ヘルメス様は適当なところに置いて来たらしい!」

「うぇ!? アレとやり合おうってのか!? そんなのアスフィらしくないだろ!?」

「入口が崩落してて逃げられねぇんだよ、ちくしょうが!! 瓦礫を【魔法】で撃ち抜いてもらったがよくわからん黒い結晶がびっしり生えててそいつが壊せねえ!! 逃げ場なしの絶体絶命だ!」

 どうやら戦わずに逃げると言う選択肢はできないようだ。

 

 

「なるほど。アスフィ様はリヴィラの全戦力を総動員するおつもりのようですね。LV.5のティオナ様、LV.4のリュー様。アスフィ様もLV.4以上でしょうから盾役が不在なのがやや不安なものの、前衛はこれで何とかなるでしょう。それに加えて、この階層に滞在しているであろう冒険者様の総数は100を超えていることでしょう。後衛の数にもよりますが、【魔法】の一点砲火により相手を怯ませることさえできれば、後はティオナ様が魔石を全力で叩いて討伐完了です。リヴィラが参戦してくれるのであれば、リリ達は後衛火力が襲われないよう周囲の怪物(モンスター)を倒していればいいだけですから、これで一気に気が楽になりましたね。流石はアスフィ様です」

 

 

 しかし士気が下がる前にリリはアスフィを全面的に持ち上げることで【ヘルメス・ファミリア】の士気低下を防いだ。

 リリだけの言葉では効果が薄くても、あの頼れるアスフィが動いてくれているなら何とかなるかもしれないという信頼が【ヘルメス・ファミリア】にはある。

 知らぬところで前衛として組み込まれてしまったアスフィはたまったものではないが、女型のゴライアスと直接対決しなくてもいいことを含めて団員達の心にようやく余裕が出て来る。

 実際はあまり戦況が変わった訳ではないのだが、見事にリリの口車に乗せられた形になった。

 

 もちろんそれに気づいているものもそれなりに居るが、もはや戦わなければ生き残れないことはわかりきっているので、わざわざ士気を下げるようなことは言わない。

 もしもの時はアスフィの指示の元に女型のゴライアスと直接対決する覚悟を決めるには十分すぎるきっかけだ。

 

「よくもまあ次から次へと人を引き付けるような言葉を出せるもんだ。あんたは本当はパルゥムなんだっけ? あんたみたいなのが『フィアナ騎士団』だったんだろうな」

 パルゥムの一人が頬を緩ませながら言葉だけで大勢の士気を保ち続けるリリをそう称えた。

 『フィアナ』とは『古代』に『パルゥムにとって最初で最後の栄光』だと称えられた騎士団を擬人化した架空の女神だ。

 その体格から周りから見下され、怪物(モンスター)との戦いでもめぼしい活躍を見せられなかったパルゥム達の心のよりどころであったが、本物の女神が降臨してしまったことで今やその信仰は大きく薄れている。

 

「リリはそんな大層なパルゥムじゃありません。リリはとてもちっぽけで、弱くて、臆病で、一人では何もできない、他人に頼らなければ何もできない、ベル様とスズ様の専属サポーターです。リリはただ、とてもとてもとーっても、出会いに恵まれていただけな、ごくごく普通のパルゥムですよ」

 

 だから頑張れるだけです、とリリは誇らしげに笑った。

 自分と同じくリリも出会いに恵まれたと心の底から思ってくれていることが聞けて、ベルの頬はこんな非常時にも関わらず嬉しさに緩んでしまう。

 それと同時にほんの一瞬だが、スズの体の震えが僅かに収まり、袖を握りしめていた手の力も弱まるのを感じた。

 

 

§

 

 

 まだ残っている物資を回収しようと野営地までもどると、既に多くの怪物(モンスター)達が平原に集まっていた。

 男達の悲鳴に怪物(モンスター)の雄叫びが轟き、人も怪物(モンスター)も入り乱れてもはや連携などと呼べる行為が行えない混沌とした戦場が広がっている。

 おそらく17階層に逃げようとした冒険者達が肝心の入口が塞がっていたせいで、次から次へと襲い掛かる怪物(モンスター)に囲まれてしまったのだろう。

 

 ベルとスズを助けに行く道中でぶつかった冒険者も混ざっていたことから偵察をしたルルネは「多分『白猫』を攫った奴等だ」と報告をした。

 野営地に残っていた【ヘルメス・ファミリア】の団員達が森に向かった時にはこのような状況でなかった。

 既にアスフィがリヴィラに入口が塞がり討伐するしかないことを伝えに行っているので、リヴィラから野営地を抜けて入口に向かう一般冒険者は存在しない。

 それなのにこれほどの数の冒険者がまとまって襲われているということは、襲われているのは『入口が塞がっていること』を知らなかったモルド達と断定していいだろう。

 

「助けないと!!」

 ベルはそれを聞いてすぐにそう言って背負っていたスズをヘスティアに預けるが、その行動を見て良い顔をする者はほとんどいなかった。

 困惑した表情を浮かべるものがほとんどである。

 ヴェルフは顔をしかめ、リューに至っては「待ちなさい」とベルの手を掴んでその行動を止めていた。

 

 

「本当に彼等を助けに行くのですか? スズを辱めた卑劣極まりないあの者達を」

 

 

 周りの者の意見を代弁するようにリューがそう問いかけて来る。

「あの者達を囮にして戦うのならまだわかります。それならば結果的に彼等の内何人かは助かるかもしれない。しかしながらクラネルさん、あそこまで入り乱れた戦場で、こちらの護衛対象が多いにも関わらず人数を割くのはあまりに危険だ。クラネルさんはスズを辱め傷つけた彼等全員を助ける為に、仲間の誰かを危険にさらすおつもりですか?」

 リューはそう言った後に横目でスズを見る。

 ヘスティアの胸に抱きしめられたスズは相変わらず震えたまま動けずにいた。

 

 

「スズをここまで追い込み、ふさぎ込ませた元凶を、許せるのですか?」

 

 

 モルド達のせいでスズはこうなってしまった。

 誰がどう見ても悪いのはモルドであり、怪物(モンスター)に囲まれたのは『自業自得』あるいは『報い』だと思っている者は多い。

 どう考えても助けるのは間違っているとでも言わんばかりに視線がベルに集中する。

 そんな中、ベルがモルドの行いを許せるかどうか問われるなら答えは決まっていた。

 

 

 

 

「モルドさん達がやったことは許せません。だけど、それでも、悪い人でも、死んでしまった方がいいと思うほどの極悪人だとは思えません」

 

 

 

 

「彼等にも仲間がいます。家族だっていると思いますし、子供もいるかもしれません。普通の友達だって居る筈です。彼等が死んで悲しむ人達がいるかもしれない」

 死んだ人とはもう二度と会うことをできない痛みを知っているから、失う痛みを他の人に味わってほしくない。

「今ならまだ助けられるのに、誰かに失う悲しみを与えずに済むかもしれないのに、見捨てるなんてできません。人は死んだら謝ることだってできないんです」

 

 そんな我儘の為に仲間を巻き込むのは間違っている。

 こんなのただの綺麗事だとわかっている。

 一番辛いのはスズだということもわかっている。

 だから―――――――――――

 

 

 

 

「だからごめん、スズ。僕はスズに酷いことをしたモルドさん達を助けてあげたい。しっかりとスズに謝ってもらいたい。スズがダメだと言っても僕はきっと行っちゃうから、本当にごめん」

 ヘスティアの胸に抱かれて震え続けるスズにそう優しく語り掛けて素直な気持ちで謝った。

 するとスズがゆっくりとベルの顔を頭を傾け振り向くように見上げたので、ヘスティアはそんなスズから手を放してその様子を見守る。

 しっかりとベルと向き合い、震えた体を押さえつけ勇気を出すように胸元で手を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな……優しいベルが、私は好き。

 だから、優しいままのベルで居てくれてありがとう。大好きだよ、ベル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目がしらに涙を浮かべ、スズは微笑んでくれた。

 もう体の震えも止まっている。

 

 

「優しいベルじゃなきゃ嫌だよ。アイズさんも、ティオナさんも、りっちゃんも、きっとそうだと思う。だからベル、皆を助けてあげて。助けたい人を助けてあげて。それが私の英雄ベルだよ」

 

 

 いつもベルの後押しをしてくれた。

 迷宮都市(オラリオ)に来てからずっと自分(ベル)のことを支えてくれた大切な義妹。

 その言葉で迷い続けていた答えが決まる。

 

 もしも大切な者をなくしても、悲しくてたくさん泣いたとしても、憎しみに捕らわれず優しいままの自分で居続けよう。

 そしてそうならないように、最後までがむしゃらに滑稽に無様に地面をはいずってでも足掻いて守り抜こう。

 ただ大切な皆と笑いたい、その気持ちを大切に胸の中で燃料としてベルは『ヘスティア・ナイフ』と『牛若丸』を抜く。

 

 

「本当にお二人は底なしのお人好しですね。リリもスズ様の言う通り、そんなお二人のことが大好きですよ!」

 リリもスズに抱き着いてベルに微笑んでくれた。

「まあ、お前らならそうなるよな。悪い、俺も少しピリピリしてた。お前らはやっぱそうじゃなくちゃな!」

 ヴェルフも笑い、背中に背負っていた布に包まれたままの武器を手に取ってくれる。

「行けないボクの代わりに土下座だけじゃ許さないって言っておいておくれよ? ボクの優しい家族に手をだしたんだから、うちのお店でジャガ丸くんを一日100個買っても許してやらないってね!」

 ヘスティアはむくれながらも、スズの為にまるで冗談かのような言い方を選んでくれた。

 こうやって今後も大切な人達と本気で笑い合う為にもベルは自分の気持ちに妥協なんてしない。

 きっとここで妥協してしまったら、諦めてしまったら、どこか罪悪感がベルとスズの中に残ってしまう。

 それでは大切な者を守れたなんて胸を張って言える訳がない。

 

 

「スズを怯えさせていたのは私達の方かもしれませんね。私は少しでも『大切断(アマゾン)』の負担を減らす為にもう行きますが、二人とも無理をなさらないように」

「すみません、リューさん……」

「いえ、私達の落ち度です。スズとクラネルさんは今のまま、真っ直ぐでいてください。私もその方が好ましい」

 申し訳なさそうな顔をするスズにリューが頬を緩ませてそう言うと、スズはまた笑顔を取り戻し「はい!」と元気よく返事を返した。

 

 

 スズがベルの選択で立ち直りモルド達を助けることに賛成している以上、ここでモルド達を見捨てるのはスズをまた傷つけてしまうかもしれない。

 ベルとスズは本当に底なしのお人好しだと呆れてしまうが、世の中ほんの少しくらいこんなお人好し達が居てもいいとも思えてしまう。

 モルド達に怒りを向けていた時よりも心がずっと軽くなったと自覚できた者は少ないが、スズが立ち直ったことで場の空気は完全に軽くなった。

 せいぜい悪くても、モルド達にどう落とし前をつけてやろうかと『助けた後』のことを考える程度である。

 

「さあさあ時間は有限です! のんびりしていたらあの腐れ冒険者様達の中に脱落者が出てしまいますよ? ベル様とスズ様のお願いを叶えるためにさくっと腐れ冒険者様達を救出して、後で取れるものをとことん請求してやりましょう!」

「リリスケ、本当にちゃっかりしてるなお前は」

「何か申されましたか、ヴェルフ様?」

「いや、俺もお前等のこともっと理解してやれるよう心掛けないとダメだと痛感させられただけだ。正直わかったつもりでいた。お前らのそういう関係、打った鉄と同じようで好きだぜ?」

 スズから離れて【ヘルメス・ファミリア】と【タケミカヅチ・ファミリア】をまとめている最中のリリにヴェルフはそう例えると、リリは「そんな汗臭い例えはやめてください」と少しむくれてしまう。

 

 

「さて、戦えないヘスティア様がおられるので、【ヘルメス・ファミリア】の冒険者様はこのままの陣形で外側から怪物(モンスター)を減らしていただけると助かります。ベル様とスズ様、そしてリリは中央に突貫して腐れ冒険者様達を救出して参ります。ヴェルフ様はリリの後ろにくっついてヘルハウンドの炎だけ注意していてください。【タケミカヅチ・ファミリア】の冒険者様方は無理をしない程度に孤立してる怪物(モンスター)のグループを撃破していただけると非常に助かります」

 

 平然と怪物(モンスター)の中に突っ込むと言い出すリリに思わず周りの冒険者達はぎょっとする。

「これはベル様の我儘、つまるところ【ヘスティア・ファミリア】の問題です。冒険者様達に無茶をされて怪我でもされたら目覚めが悪いですし、何よりも後で腐れ冒険者様に色々と請求する為にもこれが一番かと思います。乱戦エリアが混雑しすぎていて数で行っても逆に戦いにくくなるだけですし、ベル様とスズ様ならば3分きっちりで終わらせてくれる筈です。スズ様、病み上がりですが行けそうですか?」

「大丈夫だよ。もう怖くないから。何があってもベルは変わらないって信じられたから。るーさんも嫌いにならないって言ってくれた。りっちゃんはずっとずっと私のこと心配して、弱音まで聞いてくれた」

 スズの足元にマジックサークルが浮かび上がる。

 

 

 

「いつもはすーちゃんが頑張ってくれてたんだから……こんな時ぐらい私が頑張らないと、ね?」

 

 

 

 スズは満面の笑みを浮かべ、リリから鞘に収まった剣と盾を受け取る。

 3分という数字だけでベルも、ヴェルフも、スズ自身もこれからやることは理解していた。

 リリは既に水の入ったボトルと精神回復薬(マジックポーション)を直ぐに取り出せる位置にセットし終えている。

 

 

「【雷よ。吹き荒れろ。我は武器を振るう者なり。第八の唄ヴィング・ソルガ】」

 

 

 金色の光が舞い上がり雷が激しく吹き荒れる中。

 吹き荒れる雷とは対照的にスズは穏やかな笑顔を浮かべていた。

 それは初めて見る者達にとって幻想的な光景であり、口を挟むことも忘れて見惚れてしまう。

 

 金色の輝きより眩しく感じられる笑顔を確かにこの時、ベルは守ることができたのだ。

 




ようやく『スズ・クラネル』が動き出しました。
なおベル君も周りも兄妹として大好きと捉えた模様。
ヘスティア様だけは極東のお赤飯でも用意してくれそうですが、次回からようやく本格的にゴライアス戦が始まります。

駆け足にもかかわらず長々とやってしまっておりますが、これからも『少女』のことを見守って下さると幸いですよ。

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