「スズ君大丈夫かい!? 気持ち悪くないかい!? 少しの間とはいえ一人寂しい思いをさせてごめんよおおおおおおおっ!!」
ベルから知らせを受けたヘスティアはテントに飛び込むとそのままスズに向かって飛びついた。
その結果、スズは勢いよく抱き着いて来たヘスティアを受け止めきれずに小さな声を漏らし、ヘスティアの胸に顔を押しつぶされる形で押し倒されてしまう。
「うわああああああああっ!? スズ君ごめんよ!! 痛かったかい!? 怪我はしなかったかい!?」
『いいからその無駄に大きな胸をどけなさい駄女神。息苦しくて仕方がないわ。それともなに、貴女は嬉しさ極まって自分の眷族を窒息死もしくは圧死させるつもりなの? だとしたら流石の『私』も別の神に仕えることを真剣に考えなければならなくなるのだけれど』
「スクハ君無事でよかったよおおおおおおおっ!! だけどそんな寂しいこと冗談でも言わないでおくれよ!?」
『なら言われないような振る舞いを務めなさい。下界に降りた神に対して立派になれとは言わないけれど、せめて後先考えないところは治してもらいたいところなのだけれど。いえ、やはり訂正するわ。借金だけではなくダンジョンにまで足を踏み入れた貴女にそこまで求めるのは酷な話だったわね。ごめんなさいヘスティア、私の考えがいたらなかったわ』
「そんなものすごく可哀想な子を見る眼でボクのことを見ないでおくれよ!?」
ヘスティアは泣き顔になるものの、スクハの反応がいつも通りなことに内心ほっとしていた。
何も変わっていないと信じたかった。
『それでヘスティア、前にした質問をもう一度するけれど今の私は
それでも変わってしまった現実をスクハは追及してくる。
嘘をつきたかった。
自分の目が間違っていると信じたかった。
だけどそんなごまかしをしても、おそらくスクハ自身の方が自分の身に起こっていることを正確に把握しているから問題の先送りすら許されないだろう。
「……在り方が歪んでいるよ。特に手足が酷い。スズ君の時は穢れているだけだったのに、今の君はまるで」
『
スクハは少し寂しそうな表情でそう苦笑してみせた。
「スクハ君は……何をしたんだい?」
『
ここで言う『ミョルニル』はヘスティアが知っているスズの【魔法】ではなく、全く別の物を指す言葉だろう。
北西の神『戦神トール』の鎚『ミョルニル』は凄まじい破壊力以外にも癒しや恵を与える力を秘めていると言われている。
そのことを踏まえると【レスクヴァの魔法】の中には【回復魔法】もとい【再生魔法】もあると考えるのが妥当だろう。
『
平然と言っているがそれはとんでもないことである。
欠損した部位を癒せる【魔法】自体もそうだが、
だが現にスクハの手足は
その溜め込みすぎた穢れを吐き出しているのか、スクハの胸の中心からは微量だが同じ穢れが溢れ出ていることが感じられた。
「それじゃあ、その穢れた手足の影響で……スクハ君自身の在り方も変異してるって、いうのかい?」
『……そうね。そう思ってもらって構わないわ。このまま『私』が穢れを祓い続ければ『私』は元の在り方に戻れるけれど、その場合『スズ・クラネル』が『私』の影響を大きく受ける可能性が高いわね。良くて『巫女モドキ』悪くて『人間モドキ』と言ったところかしら。どちらにしろ半端な存在になってしまうでしょうね』
ヘスティアには『人間モドキ』と『巫女モドキ』の違いなんてわからないが、スズに人として幸せになってもらいたいと願っているスクハにとっては大きな問題なのだろう。
『だけど、現在汚染されている精霊部分は全て『私』が受け持っているから、今『私』が『スズ・クラネル』から完全に切り離されれば『スズ・クラネル』はただのヒューマンになれるはずよ』
「君がスズ君から切り離されたら意味ないだろ」
『あら、『私』を絶対に消すんじゃなかったのかしら?』
「そんな昔のことをまた引っ張り出すなんて冗談でも本気で怒るぞ。ボクにとっても、ベル君やスズ君にとってもスクハ君は三人目の眷族だ。君が消えたらボク達がどれだけ悲しむかスクハ君はわかってるだろ? 人でも精霊でもその間でも、例えその穢れた有り方のままだってスズ君とスクハ君はボク達の大切な家族なんだ。誰が何と言おうとそこは譲らないぜ、スクハ君」
例えスズとスクハがどんな在り方に変わってもそれは変わらない。
例え世界中が敵に回っても接し方を変えるつもりはない。
ヘスティアが強い意志を持って真っ直ぐスクハの目を見つめてそう言うと、スクハは大きく溜息をついてから、コートを脱いで毛布にうつ伏せになる。
それを無言の了承と捉えたヘスティアは満足そうに「わかってくれればいいんだ」と頷いてスクハの腰にまたがり【ステイタス】の更新を始める。
「そうだ、君を狙ってた黒い奴に心当たりはあるのかい? 【ロキ・ファミリア】のエルフ君から君が危険視してたって聞いたけど……。跡地が汚染されて酷いことになってたってヘルメスから聞いたんだ」
『それは少し答えに困るわね。『私』が知っているものと同じだとすれば、人や
「『蠱毒』?」
『貴女にはその辺りから説明しないといけないようね。『
当初スクハが想定していた事態よりもよほど酷い事態になっていたのだろう。
今まで絶対に話さなかった『スズ・レスクヴァ』の事情をスクハがほんの少しとはいえ話そうとしてくれていた。
だがそれと同時に違和感を覚えた。
確かに緊急事態だが、『悪夢』のことに関してなるべく触れないよう今まで一人で抱えて来たスクハがこうも口が軽くなるものだろうか。
手足の件だってそうだ。
「スクハ君、ベル君のことを異性として好きかい?」
『ええ、好き―――――――貴女はこの緊急事態に一体何を聞いているのかしら。前々から頭がお花畑だとは思っていたけれどここまでとは思わなかったわ。好きというのは家族……いえ、人の在り方として好きなだけであって、異性として好きだなんて変な勘違いをしないでもらいたいのだけれど。ただでさえ『スズ・クラネル』がそういう勘違いをしてしまっているのだから、貴女まで勘違いをしたら『スズ・クラネル』がまた変な勘違いをしてしまうから止めてもらえないかしら』
いつもならポカをしても絶対に言わないだろう言葉を即答し、それを慌てて言いなおすスクハにヘスティアは確信する。
平気なそぶりで話しているがスクハは疲労しきっているのだ。
おそらく初めて会った時の、親しいものに対して嘘偽りなく全てをゆだねてしまっていたスズの状態を、今までずっと『悪夢』と一緒に抑え込んで、一人で抱え込んで、押さえつけていたのだろう。それが今、疲労のあまり抑えきれずにいる。
ヘスティアがスズと約束をして生まれた【
【
・大切な者の為に人間らしく振る舞う。
・心理破棄に干渉。
・愛情欲求に干渉。
・想いの
この想いの丈による効果変動というのは、『スズ・クラネル』の想いではなくスクハの想いだったのだろう。
それがスクハの疲労により効果が薄れ、それでもスクハは『スズ・クラネル』が人間らしくあり続けることを必死に望んで、『悪いモノ』は全部自分で引き受けているのだ。
全部引き受けた分、何に対しても反射的に答えてしまう。
それでも必死に人間らしく振る舞おうと言いなおしたり誤魔化したりしている。
いつも強がっていたスクハがここまで壊れている様を露見するほど、スクハは無理をし続けてきたことを今更ながら気づかされてしまった。
「スクハ君、最初から……なのかい? ボクがスズ君と『約束』をしたあの日からずっと……」
『そう、ね。この人格が『私』なのか
「そんな当たり前なこと疑う訳ないじゃないかっ!!」
ヘスティアは【ステイタス】の更新なんてどうでもいい作業を終わらせて、スクハの体を強引に起こし正面からぎゅっと力強く抱きしめる。
「一人で抱えることないじゃないか!! ボクにくらい言ってくれてもいいじゃないか!! 1人で辛い思いをする必要なんてどこにもないだろう!? 辛いなら辛いって言っておくれよ!! スクハ君も幸せを求めておくれよ!! もしも人間らしく振る舞っているだけだとしても、もう『嬉しい』って想える感情があるじゃないか!!」
『ヘスティアがした『約束』のせいで『私』が辛い思いをしている訳ではないわ。貴女はよくやってくれている。そこを勘違いしないでもらえないかしら』
「勘違いしてるのはスクハ君の方だろう!? 何度も言うけどボクはスクハ君にも幸せになってもらいたいだけなんだよ!!」
『ヘスティア、声を落としなさい。外に聞こえるわ。疲労した今の『私』はそれこそ事務的に『スクハ』という仮想人格の行動パターンを再現しているに過ぎないから、そういう重要な話は
スクハの使い分ける『私』の区別がヘスティアにはわからない。
しかし今の反応を見ると、自称『仮想人格』の【
それが『大切な者の為に人間らしく振る舞っている』だけなのか、それともスクハ自身が心の奥底で自分の幸せを望んでいるのかはわからない。
だが、どちらにしろヘスティアのやることはスズとスクハ両方を幸せにする決意に揺るぎはなかった。
スズとスクハに約束という名の呪いを掛けてしまったのはヘスティア自身なのだ。
優しい子達が【スキル】や昔に起きた辛い出来事なんかで、未来永劫苦しむのは間違っている。
「そうだ、自称『仮想人格』君も4人目の眷族に……」
『緊急時のバックアップの度に人数が増えるからおすすめはしないわ。無駄な浪費はせず『スズ・クラネル』といつもの『スクハ』のことだけを考えなさい』
自称『仮想人格』のスクハは実にスクハらしい断り方をした。
もしかしたら自分の意志の融通が利かないので便宜上『仮想人格』と名乗っているだけかもしれないと一瞬考えるが、もしそうだとしたら絶対に『スクハ』を勘定に入れたりしないだろう。
ふとヘスティアの中で、なら今の自称『仮想人格』はどこから生まれ出たものなのだろうかという疑問が浮かんだ。
先ほどまでの会話から考えると『仮想人格』はスクハが作ったように聞こえるが、人格を【魔法】と同じようにポンポン作れるのだろうか。
『ヘスティア、邪魔よっ。どきな―――――――――』
スクハを抱きしめたまま考え事をしていたのがいけなかった。
突如テントの入口が揺れたかと思うと見えない何かがスクハからヘスティアを引きはがしてその口を塞いだ。
スクハがすぐさま見えない何かからヘスティアを取り戻そうと立ち上がろうとするが、更新の為にコートを脱いで上半身を露わにしたままのスクハの体に紫色の毒々しい液体がどこからともなく掛けられる。
漂う異臭から体に有害な液体であることは嫌でも想像できた。
スクハは膝を地面につきながらも【魔法】を唱えようと口を開くが、その直後に何もないところから布がスクハの口に詰められていた。
詰められた布がとれないよう口元をロープで縛られ、スクハの腕が背中に回されたと思った時には鎖がスクハの手を何重にも巻かれている。
それでも、謎の液体で体の自由が奪われ口と両手を封じられても、スクハは【無詠唱】でナニかを発動させようとした。
それに反応するように、魔力に反応してミスリル製の鎖が過剰に反応する。
やめてくれ!
ヘスティアはそう叫びたかったが口をふさがれていて声を出せない。
口を塞いでいる透明な何かに噛みつこうとしても、透明な何かの力が強すぎて自分の頬の内側に歯を立てることしかできなかった。
鎖が異常なほど放電し肉が焼ける異臭が漂う中、再び何度も何度も紫色の液体がスクハに浴びせられ、放電が止まると同時にスクハが倒れたまま動かなくなる。
ヘスティアにとってこれはダンジョンに気付かれるリスクなんてもはや言っていられる状況ではない。
神威を解放してでも外にいるヘルメス達に異変を知らせようと判断するまでの時間はヘスティアが口を塞がれてから3秒も経っていない時だった。
だがその行動すらも予測されていたかのように急激な眠気が襲ってくる。
ヘスティアの口を抑え込んでいたものは、治癒に『
もしかしたらスクハの口に突っ込まれた布にも何か薬がしみ込まされていたかもしれない。
自分よりもよっぽどキツイ薬を使われたであろうスクハの前で倒れる訳にはいかないと意識を保とうと試みるが、『
意志の力ではどうすることもできず、自分の無力さを噛みしめながらヘスティアの意識は闇へと落ちてしまった。
§
犯行直前にモルド達はティオナが残ることになったという追加情報をヘルメスから聞かされたが、内心うろたえてた者はいてもそれを口にする者はいなかった。
元から【ロキ・ファミリア】が出立の準備をする中、誰にも気づかれずにヘスティアとスズを浚いベル一人だけをおびき出す予定だったので危険度は変わらないと言ってもいいだろう。
犯行現場を押さえられたら終わりなのは元からだし、ベルが【ロキ・ファミリア】に助けを求めた時点で終わりなことも変わらない。
やってもメリットはなく、デメリットしかない無謀な挑戦など本来彼らは行わない。
それでも彼らは引かなかった。引けなかった。冒険者を馬鹿にしているかのように甘い汁を吸い続けているベルのことが許せなかった。
長い年月を掛けてLV.2に到達した冒険者としての意地とプライドが『レスクヴァの巫女』と出会っただけで反則的な成長速度を手に入れた一般人ベル・クラネルを許せないのだ。
別に命を奪うつもりはヘルメスに言われるまでもなくない。
ただ調子に乗っている『インキチ・ルーキー』に冒険者社会の常識を叩き込み焼きを入れるだけである。
普通の冒険者だって反則をしなくても強いことを示し、冒険者社会の過酷さを教えてこれからはあまり調子に乗るなと笑ってやるつもりなだけだ。
どの道ヘルメスに『
これは通常の冒険者では決して手に入れることのできない神秘の『
そんな物を持ち逃げすれば『
今回の犯行が失敗しても同じことが言えるが、そこは『どんな結果になろうとも丸く収めることを保証しよう』と胡散臭く笑うヘルメスを信じるしかない。
だから、何をやっても最後になるかもしれないなら自分達の気持ちをぶつけることにしたのだ。
そんなモルド達の意地を支えるべく出されたヘルメスの提案はごく簡単なものだった。
ヘルメスがヘスティアとスズを二人きりにする状況を作り出すので、身につけると体が透明になる『ハデスヘッド』を身につけた者が二人を誘拐し手紙でベルをおびき寄せるいたってシンプルな作戦だ。
ただ『レスクヴァの巫女』が一筋縄でいかない相手だということは『豊饒の女主人』の一件でモルド達は嫌でも理解している。
気づかれればまた電撃で黒焦げにされるのがオチなのは最初からわかっていた。
それはヘルメスも理解しているようで『ハデスヘッド』だけではなく『神経毒』で体の自由を奪う毒物と睡眠薬に加え、【魔法】を唱えようものなら鎖全体に【魔法】の効果が及ぶ魔法伝達の良いミスリル製の鎖まで用意してくれた。
「神の旦那、『巫女』に
「『レスクヴァの里』の住人は『恩恵』に頼ってこなかった分、ひ弱な体を魔力で補っているんだ。魔力による【身体能力強化】や【防壁魔法】はあるが、肉体強度は『古代』からあまり変わっていない。もちろん【
「【ランクアップ】時に【耐異常】を習得してるかもしれやせんぜ?」
「それもない。基本『レスクヴァの里』の住人は攻撃を避けるんだ。ずっと『恩恵』に頼らず生身で戦ってきた習慣は『恩恵』を授かっても中々に抜けないさ。今まで『毒』を持った相手に対しては近づかずに遠距離から【魔法】で射抜いて来た筈だ。だから【耐異常】は発現することはないし、何よりも直撃しなければ【
ヘルメスが候補に挙げた【魔導】【精癒】【神秘】【剣士】はどれも冒険者なら喉から手が出るほど欲しがる希少な【発展アビリティ】だ。
冒険者になる前からの神の分析だけでそれらの候補が上がる『巫女』はやはりとんでもない相手である。
『レスクヴァ』の報復を恐れて少しでも手加減しようものならヘルメスが言う【
「つまり、一切の加減はせず動かなくなるまで先手で毒をぶっかけろと?」
「ああ。少し過激な量になっても問題ない。気配を消すと逆に気づかれる恐れがあるから『ハデスヘッド』を被って普通にテントの中に入ってくれ。入ったら速攻。2秒で決めるつもりで行かないとスタートラインにすら立てないと思ってくれよ」
「絶壁からスタートさせるなんて神の旦那は本当にクソ野郎ですな」
「なんなら今からでもやめてもいいんだぜ」
「まさか。神の旦那はオレ達が失敗するのを見て腹抱えて笑いたいんでしょうが、こちとら普通の冒険者としての意地ってもんがあるんでね」
まるでできないことを前提に話しているようなヘルメスの煽りがモルド達の炎に油を注いでいく。
そして一切容赦のない作戦が実行された。
『声のトーンを抑えなさい。外に聞こえるわ。疲労し――――――――ぎないから―――――――――終えた後の―――――――――』
テントに近づくと、中から聞こえてくる声の大きさが一気に小さくなった。
おそらくヘルメスの言う通り気配だけで人の接近がわかったのだろう。
しかし【ロキ・ファミリア】含め他の仲間もいる野営地で襲撃されるとは思っていないのか上手く聞き取れない声の大きさだが普通に会話は続いている。
やるなら油断している今しかない。
音を立てないようにしてもどうせ気づかれるのだからと一気にテントに飛び込み相手の状態を確認する。
『ヘスティア、邪魔よっ。どきな―――――――――』
案の定、テントに飛び込んだ瞬間に気付かれた。
しかし目標であるスズはヘスティアに抱きしめられており、更新中だったのか衣服を纏っておらずショーツを穿いているだけだ。
子供に欲情はしないし、幼い子供相手に可哀想だと思う心の余裕はない。
覚悟を決めて唾を飲む暇さえなくモルドはスズを無力化しに、同伴している仲間のスコットは予定通りヘスティアの確保に動いた。
主神に抱き着かれて思うように動けない今を逃せば勝機はないのだ。
スコットがヘスティアを引きはがすと同時に瓶の中の液体『神経毒』をスズに浴びせる。
強烈なので今は一般人と同じで有る神ヘスティアに当たると不味いので、ヘスティアに飛び散った分は【耐異常】を持ったスコットが予定通り庇って浴びてくれた。
これはヘルメスに注意された訳ではなく、主神が無事でなければ『巫女』も許してはくれないのではないかという自分達の判断だった。
ヘルメスの指摘通り毒は効いているようでスズが床に膝をつく。
それでも決して油断はしない。
直後に口を塞いでいるにもかかわらず、魔力に反応してミスリル製の鎖が放電した。
ヘルメスの言う通り過激に対処しなければ危なかったとモルドはスズを無力化したことでようやく一呼吸することができた。
しかし、放電は止まらない。
自分の肉が焼け焦げるのも顧みずにスズは魔力を行使し続けていた。
―――――――――――狂ってやがる―――――――――――
このままだとスズの手は焼き切れてしまうだろう。
そうなっては困る。
自分達の身の安全の為にも『レスクヴァの巫女』へのダメージは極力抑えなければならないのだ。
自分達のターゲットはあくまで『
モルドは慌ててスズの意識を刈り取る為に手持ちの『神経毒』を無我夢中で浴びせ続ける。
毒を全て使い果たしスズが動かなくなったところでモルドは我に返り、『やり過ぎてしまった』と慌ててスズの呼吸を確認してみるとしっかりと息があってくれた。
しかし自分がしでかしたことにもう安堵の息をつくことはできない。
紫の液体にまみれ、僅かに痙攣する少女の姿に今更ながら罪悪感を覚える。
やりすぎたと思う反面、こうでもしなければ腕が焼き切れても主神を守る為に『レスクヴァの巫女』は魔力を行使していただろう。
痛みを顧みず大切な者を守ろうとする姿は美徳を通り越して狂ったようにも見えてしまったが、小さな少女にそんな無理をさせてしまったのは誰でもない自分自身だ。
せめて液体を拭ってから運んであげたいところだったが、この作戦は時間との勝負なのでそんなことをしている余裕はなかった。
だが、これからスズは多くの面前にさらされるのだから衣服を纏っていないのは流石に可哀そうだとも思う。
モルドはそれが今更ながらの偽善で自己満足だとわかっていながらも、近くに落ちていた白いコートをスズに羽織らせてからその小さな体を肩に担ぐのだった
もう少しヘルメス様に『巫女』の対策と考察を語らせたかったのですが、いつも通り文字数がかさばり過ぎたのでざっくりとカットしてしまいました。
文字のテンポと更生はやっぱり難しいと痛感させられました。
そして
そしてようやく次回はベル君VSモルドさん。
ゆっくりとではありますが『答え』に近づく『少女の物語』をこれからもお見守り下さい。