スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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騙し騙されるお話の中編。


Chapter06『ヒトの騙し方 中編』

 ヘスティアを含めた【ロキ・ファミリア】との話し合いは大体ヘルメスの提案通りになった。

 この遠征で【ロキ・ファミリア】は【ヘファイストス・ファミリア】の上級鍛冶師(ハイ・スミス)を預かっている身であり、一級品の武具を作成している【ヘファイストス・ファミリア】の上級鍛冶師(ハイ・スミス)達は迷宮都市(オラリオ)の経済事情と冒険者事情に大きく関わっていると言ってもいいだろう。

 解毒したとはいえこれ以上【ヘファイストス・ファミリア】団員達に負担を掛けるべきではないのが【ロキ・ファミリア】がなるべく早く地上に戻らなければならない大きな理由の一つだ。

 

 一方ヘスティアの言い分は単純だった。

 神の目から見て今のスズを動かすのは良くないと断言したのだ。

 主神であるヘスティアがそう判断している以上、横から口出しするべきではない。

 なので『レスクヴァの巫女』の護衛は【ヘルメス・ファミリア】と【タケミカヅチ・ファミリア】が引き受ける形で【ロキ・ファミリア】は予定通り【ヘファイストス・ファミリア】と共に地上に帰ることになった。

 

 その際にアイズが護衛に残ると進言するが、疲労がピークに達しているアイズを残すことはできない。レフィーヤも同様である。

 そこで団長であるフィンは比較的疲労が回復し始めているティオナを情報収集役という名目で残すことにした。

 

 LV.5のティオナならLV.6級以上の『怪人(クリーチャー)』が出てこなければ、余程のことがない限り負傷を負うこともないだろう。

 贅沢を言えばもう一人残しておくべきではあるが、どちらかといえばティオナを残しておくのは何を考えているのかわからないヘルメスに対する牽制である。

 もしも何事もなかったとしても、ティオナなら使命感や恩返しなどの意識で気を張りつめることもなく、友人と休日を過ごす感覚で過ごしてくれるだろう。

 ロキに全員で「ただいま」と言えないのが少し心残りではあるが、そのロキ自身がスズを気に入っていることとヘルメスとの同盟を見極めることを考えての判断である。

 ヘスティアは「うぐぬぬぬ、このアマゾネス君か……」と不満を隠さずにいたが、スズのことを第一に考えて『ダメだ』と反対することはなかった。

 

 

 

 

 

 そして【ロキ・ファミリア】との話し合いが終わった後、神であるヘスティアとヘルメスだけの緊急会議が行われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘスティア、『レスクヴァの巫女』の穢れは少しは薄まったか? 割とガチであれは不味いんだが。【ロキ・ファミリア】にはそれとなく行けない理由のこじつけはしておいたが、流石に今の状態の『レスクヴァの巫女』を外に出す訳にはいかないぞ」

「今は落ち着いてるよ。穢れはゆっくりだけど薄れていっているから大丈夫だと思うけど、精霊が怪物(モンスター)のように穢れるなんてボクは聞いたこともないぞ。ボクのスズ君を汚すなんて何てことしてくれたんだ、こいつめっ!!」

 ヘスティアは八つ当たりのように地面をゲシゲシと踏みつけた。

 

 

 怪物(モンスター)に捕食された際に薄紅色の肉塊に呑まれていたらしいスズの両足と、触手にからめとられていた両腕は外見こそ変わらぬものの穢れて変異してしまっていた。

 下界の者をある程度把握できる神ならば一目でわかってしまう程の大きな変異。

 簡単に言ってしまえば、神の見た今のスズは両腕両足だけ怪物(モンスター)と同じような有り方になっているのだ。

 幸いなことにその変異は徐々に薄れて元に戻りつつあるが、大切な眷族を怪物(モンスター)に似たナニかに変異させられかけたのだから許せる訳がない。

 

 

「気持ちはわかるがバレたら不味いから止めてくれ。ダンジョンが気づいたらどうする。いや、それよりも精霊レスクヴァだ。『巫女』を汚されただなんて知ったらあのお転婆精霊は大暴れするぞ。軽いいざこざ程度なら丸め込める自信はあったが、流石にこれは言い逃れができるレベルの問題じゃない」

 スズが身寄りがなく心に大きな傷を抱えて迷宮都市(オラリオ)にやって来たことを知っているのは今のところヘスティアとベルだけなので、ヘルメスはレスクヴァが迷宮都市(オラリオ)に殴り込みを仕掛けて来るのではないかを危惧していた。

 こうしてレスクヴァのことを危惧して手を出してこない神はおそらく多い。

 

 

 レスクヴァの名前はそれだけでスズを守っているのだ。

 

 

 だからヘスティアは『レスクヴァの里はおそらく滅んでいる』という曖昧ながらもほぼ確定している事情を神友に対しても決して口にするつもりはなかった。

 

「わかってるさ、ヘルメス。幸い感じ取れるのはボク達神だけだ。今すぐにでも家に帰って休んでもらいたいのは本音だけど、今のスズ君を他の神になんて見せられない」

「ああ、無駄に騒ぎが大きくなるのは避けたい。オレはこの件に関して誰にも話さないこと約束しよう。それと滞在用の追加物資はルルネ……ああ、さっき到着したオレの子供が届けてくれたから安心してくれ」

 

 ヘルメスが向けた目線の遠く先では、犬人(シアンスロープ)の少女ルルネが疲れ果てた顔で大荷物をリリに渡している。

 その近くでヴェルフもルルネから受け取った砥石で【ロキ・ファミリア】がいる安全な内に仲間達の武器の手入れを行なっていた。

 そして【タケミカヅチ・ファミリア】の団員達は届けられた食材から朝食の準備を進めてくれており、【ロキ・ファミリア】と【ヘファイストス・ファミリア】は先に軽い食事をすませて撤収の準備を進めている。

 

「ありがとう。ボクは交渉なんて苦手だったから本当に助かったよヘルメス」

 スズの侵食された手足が神々の目に止まることなく十分な物資を補給することができたのはヘルメスのおかげである。

 ヘスティアの我儘を聞き入れて本来神が入ることはタブーとされているダンジョンに連れてきてくれたことに加え、終始騒ぎを大きくしないように立ち回ってくれているヘルメスにヘスティアができるお礼といえば『ジャガ丸くん』や『飲み屋一回おごり』くらいだ。

 それだけでは流石に悪いので『ベル君を覗きに巻き込んだ』ことに関してチャラにしてあげることにした。

 

「さて、真面目な話はこのくらいにしておこう。少なくとも『レスクヴァの巫女』から穢れが薄れていることが聞けてオレは安心した。『闇派閥(イヴィルス)』の残党も待ち伏せまでしておきながら最大戦力を投入してこなかったところを見ると、何らかの理由で【ロキ・ファミリア】が警戒している最大戦力は動かないとオレは睨んでいる」

「相手が戦力を見誤った可能性はないのかい?」

「おいおい、【メギンギョルズ】持ちの『レスクヴァの巫女』相手に慢心はありえないだろ。今回の情報をまとめると、最初でてきた戦力がLV.4級……変異体がLV.5級だ。『白猫ちゃん』本人の精神力(マインド)と魔力にもよるが、オレが本気で『レスクヴァの巫女』を狙うなら初手から全戦力をぶつけて【メギンギョルズ】を発動させずに捕えるか、発動されても制圧できる圧倒的な戦力で押し切る。それをしなかったのは出し惜しみしているのではなく戦力を割けなかったと見るべきだ」

 ヘスティアはスズとスクハから【メギンギョルズ】のことを聞いたことはない。

 どうやらヘルメスは『レスクヴァの里』の事情に詳しいようだ。

 ヘルメスは放浪癖があり都市外へ出かけることが多いので、実際に『レスクヴァの里』に出向いたこともあるのだろう。

 

「ヘルメスはスズ君と里で会ったことがあるのかい?」

「ずいぶん前だが一応どこまで育っているか見せてもらった……というよりもお転婆精霊の娘自慢につき合わされたことがあるな。体の熱は『レスクヴァ砲』で魔力が少しオーバーヒートしているだけだ。そろそろ冷却時間(クールタイム)が終了するはずだから安心してくれ。残念ながら汚染された手足についてはオレの知識じゃ力になれないが……」

「あの高熱が【魔法】の反動なだけだとわかっただけでもありがたいよ。本当に何から何まですまないね」

「何、マブダチを助けるのは当然だろう? 今はオレのことは気にせず、しっかり『白猫ちゃん』のことを診てあげるべきだぜ」

 もう本当に大事な話はないのかヘルメスはスズの呼び方を『レスクヴァの巫女』から『白猫ちゃん』に変えていた。

 そのヘルメスの笑顔と言葉を好意的に受け取ったヘスティアは何の疑いもなくスズが眠っているテントへと戻って行った。

 

 

§

 

 

「これから不平不満を抱えた冒険者達を使いベル・クラネルを試すというのに『マブダチを助けるのは当然だろう』とおっしゃりますか……。ヘルメス様の友情は歪んでますね』

「きついなぁ、アスフィ。だけどオレは噓は言っていないし、『このことは誰にも話さない』という約束だって守ってるだろ?」

「私に兜を被らせておいてよくそんなことが言えますね」

 ヘスティアがテントに戻っていく中、アスフィは体が透明になる神秘の『魔道具(マジックアイテム)』である『ハデスヘッド』を外した。

 アスフィはヘルメスとヘスティアの密談の間もヘルメスの指示で透明のまま待機させられていたのだ。

 盗み聞きをさせないとは言ってないだろ、と笑うヘルメスに心底呆れ果てた表情でアスフィは溜息をついてしまう。

 

「それで、本当におやりになるおつもりですか? この場に『大斬断(アマゾン)』が留まることになっています。誰かが口を滑らせば……いえ、私の兜が露見すれば言い逃れはできませんよ?」

「口については問題ないさ。丸く収める役を買って出たオレが居ないと困るのは彼等だ。もしもそれすらも理解できずに心中するつもりならオレがしらを切ればいい」

「そう簡単に行くとは思えませんが……」

「彼らに預けた兜は2つ……オレとベル君が覗きに使うはずだった『魔道具(マジックアイテム)』をオレは逃げる時に落とした。そしてそれを彼等が拾い調子に乗って犯行に及んだ。それだけのことだろ?」

 どうやらヘルメスはこの()()()()()を実行する下準備を初めから取り行っていたようだ。

 

「『スズ・レスクヴァ』の性格から騒ぎを大きくすることは望まないだろう。友人関係にある『剣姫』『大斬断(アマゾン)』『千の妖精(サウザンド・エルフ)』も優しすぎる性格だ。丸め込むのは容易さ。オレはもしもその全員が残ったとしてもベル・クラネルを試せるよう舞台を整えたつもりだぜ? 本当は階層主あたりと戦うところを期待していたんだが」

「そっちの方がバカげてますよ。ヘルメス様は彼か精霊レスクヴァに恨みでもあるのですか?」

「んー、むしろオレなりの愛かな」

「それがヘルメス様の愛ならば、堪ったものじゃありません。やはり実家に帰らせていただきます」

「それは本当に困るからやめてくれ! オレはアスフィがいないとダメなの知ってるだろ!? 遅かれ早かれ『レスクヴァの巫女』を巡った荒事は嫌でもやってくる。ベル君は人間(こども)の綺麗じゃない部分を知らな過ぎる。これからも『レスクヴァの巫女』と向き合うなら知ってほしかったのさ、彼に。()の一面を……。ほらちゃんと大事な理由あるから! オレを捨てないでくれアスフィ!!」

 現状【ヘルメス・ファミリア】はアスフィなしでは成り立てない程に彼女に頼り切りな面があるのでヘルメスは必死に縋り付いていた。

 

 

 神は眷族を愛している。

 

 

 もちろん例外な趣味神もいるが、ヘルメスは眷族をゲームの駒としてではなく愛おしい人間(こども)として見てくれている。

 ヘルメスはアスフィの『魔道具作成者(アイテムメイカー)』としての才能や統制能力を必要としているが、それ以上にしっかりアスフィ自身のことも愛してくれていた。

 その愛がどんな形であれ、正直ヘルメスのせいで苦労は絶えないがこの生活もヘルメスのこともアスフィは好きだ。

 形はどうあれこの道を選んだのは自分自身なのだから、愚痴をこぼすことはあっても自分からこの生活を放り投げるつもりは元からない。

 自分に泣き付いてくる苦労の絶えない主神にアスフィは「これでもし【ファミリア】に不利益なことが起きたら、死んでもヘルメス様のこと恨み続けますからね」と遠まわしな愛を返した。

 

 

§

 

 

 ヘスティアはヘルメスと大切な話をしており、リリが【ヘルメス・ファミリア】から物資を受け取り緊急時に備えてバックパックの整理をしている今、スズの看病はベルが行っていた。

 濡れタオル越しから感じる体温も大分下がってきており目に見えて回復の兆しが見えてきてはいるが、リリからスズが取り乱してしまっていたことと手足の感覚がなくなっていることを既に告げられているのでベルは一時も安心することはできなかった。

 

 ただ『元通りになりますように』と祈りながらスズの手を握りしめることしかできない。

 感覚が無くなっているのだから手を握ってあげても温もりを伝えてあげることができないのはわかっていても、その行いがただの自己満足だとしても、少しでも寂しがり屋なスズの心に温もりが届いてくれるようにとスズの右手を優しく両手で包み込んあげている。

 

 

「……んっ……」

 ふとスズが甘い声を漏らして身をよじらせた。

 そしてまるで右手の感覚を確かめるようにゆっくりと何度もベルの手を握り返して、最後にはぎゅっと温もりを求めるかのように握り続ける。

「スズ起きたの!? 大丈夫なの!?」

 ベルはつい安否が不安なあまり反射的に叫んでしまった。

 そして少しでも近くでその表情を確認しようと手を握りしめたままずいっと身を乗り出してスズの顔を覗き込む。

 そんなベルの過剰といえるほどの慌てぶりにスズはきょとんとした顔をしてしまっていたが、すぐにクスリと笑ってくれた。

 

「おはよう、ベル。心配を掛けてごめんね。それとありがとう。手、ずっと握っててくれたんだよね?」

 スズの胸元で右手を握りしめてあげているベルの両手にスズは左手を添えてゆっくりとベルの手の甲を愛おしそうに撫でる。

 小さくて柔らかい手の感触と温かいいつもの笑顔にベルはようやく不安で力が入りっぱなしであった肩の力が抜けた。

 だが少し落ち着いたと同時に再びベルの体がこわばり硬直する。

 

 

 

 

 

 

 自分の手の位置は()()()()()であり、勢いよく身を乗り出した拍子に毛布がめくれ、冷却用に着せ続けてあげている白いコート越しから手とは違うぷにっとしたやわらかい感触を感じた。

 

 

 

 

 

 決して膨らんでいるとは言えないがやわらかい胸にあるもの。

 文字通り胸だ。

 膨らんでいなくてもまごうなき成長しようとしている女の子の胸だ。

 スズの胸の上にスズの手を握ったまま自分の手を乗せてしまっている。

 それを理解した瞬間ベルの顔が爆発したかのよう急激に赤く染まった。

 

「ベル?」

「ごごごごご、ごめんっ!!」

 発動しようとした【英雄願望(アルゴノゥト)】をキャンセルし、慌ててスズの手を放して後ろに飛びのき即座に土下座をする。

「りっちゃんから私がまた怖くなっちゃったこと、聞いてたんだね。起きたらベルの顔が近くてちょっとビックリしちゃっただけだから心配しないで。りっちゃんとベルのおかげでもう大丈夫だから」

 そんなスズの好意的過ぎる謝罪の解釈に胸が痛くなる。

 一時の気のゆるみとはいえスズが大変な時に邪な感情を抱いてしまった自分が恥ずかしかった。

 それでもここで馬鹿正直に胸のことを正直に謝るのは場違いなことぐらいベルも心得ている。

 上半身を起こしてベルに笑顔を向けるスズに対して、ベルも深呼吸してから気持ちを切り替えて向き合う。

 

「スズ、具合はどう? 手足はその……」

「体はまだ少し重いけど……精神力(マインド)は大夫回復したから無理をすればいつも通り戦えるかな。手足はベルの手の感触をちゃんと感じられたから。すごく、安心した」

 スズは愛おしそうに胸元で自分の両手を握りしめながらそう告げた。

 

 

「本当はね、まだ違和感はあるけど……目が覚めてすぐにベルの温もりをこれからも感じられるんだってわかって、すごくすごく安心した。ありがとね、ベル」

 

 

 本当に嬉しそうにスズは笑う。

 完治したわけではないらしいので手放しで喜ぶことはできないが、その笑顔を見て絶対に取りこぼしたくないものを失わずにすんだことをようやく実感できた。

 大切なもの全部を自分の力で守れる英雄なんて夢物語は果てしなく遠いから、せめて他の人の力を借りてでも、頼りなく無様に泣いて叫んで転げまわってでも、この笑顔を守りたいとベルは思った。

「ベル、すーちゃんは大丈夫かな? 出てこられそう?」

「スクハは大丈夫だって言っていたけど……ちょっと呼びかけてみていい?」

 スクハは消えたりしないと言っていたが、かなりの無茶に無茶を重ねていた。

 スズの笑顔を守れてもスクハを取りこぼしては意味がない。

 

「うん。お願い」

 スズの不安げな表情にベルは息を飲む。

「スクハ、ちょっとい――――――――」

『出て来たと伝えなさい。それと『スズ・クラネル』との話しが落ち着いたらヘスティアを呼んでもらえないかしら。【ステイタス】の更新を頼みたいわ』

 意外なことにも割とあっさり、何事もなかったかのように平然とスクハが出てきてベルの言葉が詰まった。

 出てきてくれたのも、平気そうなのも嬉しいのだが、弱り切った翌日に平然としていることなんてこれが初めてだ。

 もっと弱り切っているのではないかと心配していたのがいい意味で裏切られたのが嬉しくて、ついつい頬が緩んでしまう。

 

「スクハが無事で……本当によかった」

『私は消えないから大丈夫だと言っておいたはずなのだけれど、『私』の言葉は貴方にとってそんなにも信用がなかったのかしら。見ての通り未練がましく残ってはいるから早く寝なさい。貴方まで倒れたらヘスティアが五月蝿くて『私』が安眠できなくなるわ』

「ごめん、スクハも疲れているのに起こしちゃって」

『……切りのいいところで話しかけるつもりではいたから問題ないわ。もう『スズ・クラネル』に変わるから、『私』が無事なことを伝えてヘスティアを呼んで来なさい』

 表面上はいつも通りでもスクハの疲労が急に無くなるだなんて考えにくいので、ただやせ我慢をしているだけの可能性が大きい。

 ベルはもう少しスクハと普通に話したいし、『穢れた精霊』や『黒い肉塊』についてなど聞きたいことは沢山あったが、無理に引き止めてスクハに負担なんて掛けさせたくなかった。

 

「わかった。スクハもあまり無理しないようにね?」

『そういうことは鏡を見て言いなさい。言われなくてもヘスティアに【ステイタス】を更新してもらったら『私』もすぐに眠るから心配なんて無用よ。何とか明日には帰れるよう回復に努めるから、貴方も明日に備えて休んでもらえないかしら。正直なところ立て続けに無理をしている貴方のことが心配でなら……いえ、貴方まで目の下にクマを作ったら『スズ・クラネル』が心配してしまうわ』

 自分で言っておきながら少し照れくさかったのか、スクハは『スズ・クラネルが心配してしまう』と言葉の途中で言い直した後、ベルの返事を待たずしてスズに戻ってしまった。

 一体心配することの何がそんなに恥ずかしかったのかベルにはわからないが、とりあえずスクハが強がりを言えるくらいには活動できるのを確認できたので一先ず安心していいだろう。

 

「ベル、すーちゃんはどう?」

「大丈夫、ちゃんと出てきてくれたよ。やせ我慢してるだけかもしれないけどいつも通りに話してくれた。それと神様に【ステイタス】更新を頼みたいって」

「よかった。更新がしたいってことは神様とお話したいってことなんだろうね。ベル、神様を呼んできてもらってもいい?」

 スズはスクハが無事なことを知ったことでほっと胸をなで下ろして、スクハの要望を改めてベルにお願いする。

「もちろん。神様を呼んでくるからちょっと待ってて。スズとスクハが少し元気になったことを聞いたら皆喜んでくれるよ」

 リリやヴェルフにもスズとスクハが少し元気になったことを早く伝えてあげる為にもベルはテントの外に出るのだった。

 




切りどころに迷っていたらいつの間にか14000字を超えていたので、まさかの三編構成となりました。

ヘスティアとスクハの会話。
そして待ちに待ったモルドさんのご登場はもうしばらくお待ちください。

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