スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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色々と聞かれるお話。


Chapter09『モノの聞かれ方』

 夕食後、レフィーヤに誘われてベルとスズは【ロキ・ファミリア】の天幕に向かうことになった。

 ヴェルフも【ヘファイストス・ファミリア】の団長に呼び出されているらしく、一緒に行くことになっているがリリだけは呼ばれていない。ただ単にリリがヘスティアに説教をしていたせいで呼ぶタイミングがなかっただけかもしれないのだが、リリだけを仲間外れにしているみたいでベルはなんだか申し訳なく思ってしまう。

 それが顔に出ていたのかリリが「ベル様はたまにスズ様以上に子供っぽいところがありますよね」とクスクスと笑みをこぼした。

「ベル様、リリはこんなことで仲間外れだなんて嫉妬したりしませんよ。四六時中一緒にいないと気の済まない関係なんて気の置けない仲でも信頼できる仲間でもなく、度が過ぎる独占欲でしかないです。そうですよね、ヘスティア様?」

「ボ、ボクだってそのくらいわきまえられるに決まってるじゃないか! や、やだなぁサポーター君はっ!」

「そういうことはリリの目をしっかり見ておっしゃって下さい。規則を破ってダンジョンに潜られたのは、先ほど場をわきまえず騒いでおられたのは、どこの女神様だったでしょうかね?」

 リリのその言葉にギクリとヘスティアの肩が飛び上がる。

「ベル様、リリはヘスティア様にまだまだ常識というものを教えて差し上げなければならないので遠慮せずに行ってきてください。大手である【ロキ・ファミリア】と交流を持つことは今後【ヘスティア・ファミリア】の為にもなりますから」

 どうやらリリのヘスティアへの説教はまだまだ続くらしい。ベルは説教をされ続けるヘスティアについつい苦笑しつつも「行ってきます」とスズと二人でしっかりと言って、ヴェルフと共にレフィーヤ達がいるテントへ向かうのだった。

 

 

§

 

 

「えっと……レフィーヤさん? ベルです。その、入っても大丈夫でしょうか?」

 女性団員の集まるテントなので着替えを覗いてしまうなんて不慮の事故がないようにベルはしっかりと声を掛けて確認を取る。

「あ、ベルさん達いらっしゃましたよ。呼び出したのは私達の方なので遠慮なく入ってきてください」

「お、おじゃまします」

「レフィーヤさん、おじゃましますね」

 女性団員の天幕ということもありベルはおそるおそる入口をくぐり、スズはいつも通りの調子で挨拶をしてその後に続いて行く。

 

「えへへ、アルゴノゥト君、白猫ちゃんいらっしゃい! アルゴノゥト君達は18階層(ここ)に来たのは初めてだよね。だったらさ、せっかくだし明日一緒に(リヴィラ)を回ろうよ! それにあたし、いい水浴び場知ってるんだっ!」

「ティオナ、今は真面目な話をしにきてもらってるんだから少しは自重しなさい!」

 天幕の中にはアマゾネス姉妹のティオナとティオネ。レフィーヤ。さらに【ロキ・ファミリア】にとっては第二陣であるLV4の女性団員達。ヴェルフを呼んだらしい【ヘファイストス・ファミリア】の団長である椿もいるが、一番ベルとスズが面識のあるアイズの姿は見当たらなかった。

「アイズさんはリヴェリア様達とお話しの最中です。その間にどうしても気になることをベルさん達からお聞きしたくて。少し狭いですがどうぞお掛けになってください」

 美少女達の視線に恐々としながら助けを求めてアイズの姿を探していると、小動物のようにびくびくとしているベルをみかねてレフィーヤがそう教えてくれた。いつまでも立っていてはその聞きたいことに応えることもできないのでベルは「し、失礼します」と女性たちから少し距離を置いたところに腰を下ろす。

「アルゴノゥト君もっと近くに座りなよー。あ、白猫ちゃんはここー。おいでおいでー」

 腰を下ろしたスズに向かってティオナが猫を呼ぶように手招きをして胡坐をかいた自分の太腿をぱんぱんと叩くと、座った場所も近かったこともありスズはとことこと四足でティオナの元に向かって言われた通りに大人しく膝の上に座った。ぱぁっと満面の笑みを浮かべたティオナにスズが嬉しそうに頭を撫でられる様子を見ていた他の女性団員達が「うん、人懐っこい猫だ」と納得しながら羨ましそうにティオナのことを見ている。その内数名がベルの方に視線を移したのに対してベルは咄嗟に後ずさってしまう。

 女性団員達は「『白兎君』私達はこわくないよー」と手招きをしており、やはりベルのことも『男』ではなく『小動物』扱いをしていた。高レベル冒険者にとって自分はそれくらいちっぽけな存在なんだなとベルは内心苦笑しながらも「え、遠慮させていただきます」と羞恥心に顔を真っ赤にしながら断った。

 美少女達に撫でまわされるなんて嬉しくないと言えば噓になる。むしろ天国である。しかし初心なベルがそんなことをされてしまったら羞恥心のあまり頭が爆発してしまうだろう。手招きされてからかわれただけでも真っ赤なトマトのようになるのだから間違いない。

 

「俺が呼ばれた意味がわからん。用がないならもう帰るぞ」

「つれないことを言うなヴェル吉。紹介が遅れたがこやつはヴェルフ・クロッゾと言ってな」

 ほったらかしにされていたせいか若干機嫌が悪そうなヴェルフに対して椿がカラカラと笑いながら【ロキ・ファミリア】の団員達にヴェルフのことを紹介した。

「まさかクロッゾって、あの呪われた魔剣鍛冶師の?」

「クロッゾの一族……同胞の里を焼いた元凶!! どれだけのエルフの氏族が帰る森を失ったことか!!」

 キャットピープルの少女が聞き返すと同時に温厚そうに見えたエルフの少女が鬼気迫る表情で怒鳴り散らしヴェルフに向けて敵意をむき出しにする。その唐突な豹変にベルだけではなく、この場に居る【ロキ・ファミリア】の面々でさえ一瞬何が起きたのか理解するまでに時間が掛かってしまっていた。

 王国ラキアが振るった『クロッゾの魔剣』は戦争で多くの森を焼き無関係なエルフや精霊達までも巻き込んだ。それは遥か昔のことだが同族意識が高く誇り高いのエルフ達は『クロッゾの魔剣』への恨みは根強く残り続けている。住む場所を突然焼かれ、大勢の犠牲者も出たのだからそれは当然のことだった。中にはその地獄を生き延びて今も生きている長寿のエルフもいることだろう。

 

 

 ――――――クロッゾさんと関わりを持つならば、『クロッゾの魔剣』の有無に関係なしに理不尽な矛先がクラネルさん達に向くこともあるのですから。

 

 

 前にリューから忠告された言葉がベルの頭を揺さぶる。

 ヴェルフは大切な仲間だ。当事者でないヴェルフが責められるのは間違っている。

「違うんです! ヴェルフは――――――」

「なぜ『レスクヴァの里』の者が憎きクロッゾを許すのですか!? レスクヴァ様が『クロッゾの魔剣』を滅ぼして下さったのではなかったのですか!?」

 ベルの言葉を遮り罵倒の行き先はティオナの膝の上にいるスズに向けられた。それだけ(、、、、)はダメだ。自分が罵倒される分にはいい。でもスズに理不尽な怒りをぶつけるなんて憧れのアイズが所属する【ロキ・ファミリア】でも許してはいけない。絶対に止めなければいけない。ベルは即座に立ち上がり何とか仲裁しようと、仲裁ができなくてもせめて意識を自分に向けようと立ち上がり、スズとエルフの少女の間に飛び出して割って入った。

 敵意の瞳がベルに向く。冒険者としての本能が相手の方が強いと警鐘を鳴らし続ける。それでもベルは真っ直ぐとエルフの少女の瞳から目をそらさずに「話を聞いて下さい」と真剣にお願い(、、、)をした。エルフの少女がそれで冷静さを取り戻したのかばつが悪そうな顔をして、どうしたらいいのかわからなくなったのかベルから目をそらして仕舞には俯いてしまった。

「すみません、本当に……。行き場を無くした多くの同胞達に自然豊かな土地を提供して下さったレスクヴァ様の眷族に……。頭に血が上り過ぎて、その……」

「私なら、大丈夫です。エルフさん達もお母様に大変よくして下さったみたいですし、受け入れ先の『コロニー』は今でも賑やかですから。特訓が激しくなってからはお母様の思い付きを恐れて里付近にはあまり近づいて来てはくれなくなってしまったみたいですけど」

 スズがティオナの膝の上に座ったままそう苦笑した後、「気にしないでください」と笑みをエルフの少女に向けた。

 

「アリシア、そうやって熱くなって後悔するくらいなら話は最後まで聞け。この男はな、クロッゾの一族を捨てたのだ」

「えっ……?」

「ヴェル吉は自分の血筋、いや己の才能を忌み嫌っている。実はこの男、手前より強力な『魔剣』を打てるのだが、ちっとも打とうとしない。まさに宝の持ち腐れだ」

 椿もまた場の空気を変えようとそうフォローを入れた。最上級鍛冶師(マスター・スミス)である椿よりも強力な『魔剣』が作れるとは思いもしなかったのか、深層攻略に0が沢山ついたお値段の『魔剣』もフル活用して挑んでいる【ロキ・ファミリア】の面々が思わずぶっと吹き出してしまっている。

 

「『魔剣』を打つことを強制されて飛び出してきたそうです。それにラキアは倒しましたが『魔剣』を砕いたのはお母様ではありませんし、血筋だけで人を見ては『魔剣』を作る力をクロッゾの一族に与えてしまった精霊もまた憎むべき対象になってしまいます。クロッゾの一族には精霊の血が流れていますが、るーさんはるーさんです。私は『クロッゾ』に興味があるのではなく、精霊の血に引かれた訳でもなく、使い手のことを想って作られたるーさんの武具が好きなんです。るーさんのことを仲間としても大好きなんです。それだけのことではいけないんですか?」

 スズのその言葉にエルフの少女アリシアは納得してくれた。むしろ何度も何度も謝られてこちらが申し訳なく思ってしまう勢いだった。スズがなんとかそんなアリシアをなだめている。

 

「そ、そういえばアリシアさん!! 私はレスクヴァ様が同胞達の受け入れ先を提供して下さったことなんて初耳なんですが、それは一体どういうことなんでしょうか?」

 レフィーヤはそれをみかねて別の話題を振って何とか場の空気を元に戻そうとしてくれていた。

「あ……ええ。レフィーヤは学区等育ちでしたね。平穏に暮らせるよう『初代巫女』様の提案で各『コロニー』の位置や受け入れをした事実は文献には残さず口頭のみで一部の里の間で伝わっているんです。ラキアに攻め入る前に戦えない子供達を逃がす受け入れ先だったもので。それに野蛮なラキアがこのことを知ればレスクヴァ様に対する盾として『コロニー』に住まう同胞達に手出しするかもしれないと考えると――――――」

 だが逆にラキアへの怒りでまた鬼気迫る表情に変わりかけていた。ベルが幻想を抱いていたエルフは少し面倒な性格の人が多いようだ。

「ほらほらアリシア、そんな怖い顔してたら綺麗な顔が台無しだよ? そんなんじゃあまた(、、)白猫ちゃんを怖がらせちゃうからその話題ダメ! 禁止! もう白猫ちゃんの言う通りアイズはアイズでいいじゃん。白猫ちゃんが精霊の血を引いてる理由とか小難しいことなんて聞いても問題解決にならないんだしさ、そんなことよりもあたしは皆と楽しい話したいなー」

 ティオナがスズの頭をわしゃわしゃと撫でながら「ねー」と優しく問い掛ける。そこでこの話題は終わった。ヴェルフは理不尽にも何の為に呼び出されたのかを聞かされることもなく帰され、話の流れをバッサリと切断するかの如くティオナは英雄譚の話に話題を強引に切り替えた。

 

 ベルとティオナの話が弾みスズがそれを楽しそうに聞く中、英雄アルバートの生涯に寄り添った大精霊アリアの話題で『英雄アルバートには子供がいた』という話をティオナは「そんなの知らないよ」と驚いていた。

「アルゴノゥト君の読んでた本って、もしかして原典? 里にはやっぱり千年前に書かれた最初の原本(オリジン)?」

「えっと、僕が読んだのはその、手書きの絵本でしたからどうでしょう?」

 ベルの愛読書は祖父が書いてくれた絵本だ。目を輝かせるティオナにそのことを正直に話したかったが『レスクヴァの里』の住人ということになっている自分がそのことを口にしていいのかどうかがいまいちよくわからずにベルは曖昧な回答を返すことしか出来なかった。

「お母様達の実況記録でしたら残ってますね。本にまとめたものは出回っている物と同じかどうかは比較したことがないのでわかりませんが、黒竜との戦いでアルバートの子供が行方不明になったことは史実として里では伝わっています」

 いつも通りスズがフォローを入れてくれた。どうやら古代精霊が伝えている歴史と祖父が描いた絵本の内容は合致しているようだ。

 出回っている本には書かれていない出来事、アルバートに子供がいることを知っていた祖父はもすごい人だったのかもしれない。大好きな祖父がすごい人だったかもしれない事実を愛読書だった絵本という予想もしていなかった角度から知りベルはふと胸の奥が熱くなっているのを感じた。

 

 ――――――ああ、大好きなおじいちゃんがすごい人かもしれないことを知って、僕は嬉しいんだ。

 

 最初憧れた祖父の背中は今でもベルの中で大きな輝きを保ち続けているのだった。

 

§

 

 仲間が寝静まった暗闇の時間、小さな魔石灯に照らされながらヴェルフはベル達の眠るテントを背に地面に座りする必要もない見張りをしていた。

 【ロキ・ファミリア】の団員達が代わり代わりに見張りをしているそうなのでLV1冒険者であるヴェルフが見張りをする必要性はない。そもそも見張りをすることを仲間にすら話していないので果たしてこれは見張りなのかと自問自答してみると答えなんて問うまでもなくわかっていた。ヴェルフはただ少しだけ一人で考える時間が欲しかっただけだ。一人で黄昏るなんてガラでもないところを見られたくないから見張りの真似事をしている自分がとても可笑しくヴェルフは思えた。

 思い悩んでいることは団長に振り回されたことやエルフの少女に敵意を向けられたことではない。魔剣を売ってくれとせがまれることと同じく恨み言を言われるのも慣れている。当事者ではないものの事実血族の過ちが多くの者を不幸にした事実は変わりないので言い訳する気はない。罵倒は受け入れるがそれと同時に気にするだけ無駄なことも理解してしまっている。

 ヴェルフは鉄を打つのが好きで、鉄を打つ為に迷宮都市(オラリオ)に訪れた。それだけで十分だ。最高の顧客に巡り合えておいてこんな小さなことでくよくよするほどヴェルフの心はやわではない。むしろ二人の為にもっと出来のいいものを用意出来るよう精進しないといけないなと気合が入ったくらいだ。

 なら何をそんなに気にしているのか。それも答えが決まっている。ヘスティアから伝えられたヘファイストスからの伝言と届け物である自分の作品だ。布包みされたものの正体はヴェルフが打った魔剣『火月(かづき)』だった。その鍛冶師(スミス)と冒険者を腐らせる自分が大嫌いな『クロッゾの魔剣』を布越しに強く握りしめる。

 そして、

 

 ――――――――意地と仲間を秤にかけるのは止めなさい。

 

 それがヘファイストスからの伝言だった。

 もしも自分がこの魔剣を持っていたら黒いミノタウロスと戦えていただろうか。否、避けられるか仲間を巻き込んで絶望するのがオチだ。己の技術を磨くことなく作られた魔剣を使いこなせる自信なんてない。何よりも製作者の勘だがこの『火月(かづき)』の使用回数はたったの一回だ。一回使っただけで使い手を置いて砕け散ってしまう。そんな物を戦闘の駆け引き何て知らない鍛冶師(スミス)が使ったところであの漆黒のミノタウロスがどうにかなるとは到底思えなかった。

 だが、戦闘能力は低いものの頭の回転が速いリリが持っていたらどうだろうかとも考えてしまう。たった一回で砕けることを予め伝えていればリリならば消耗品を使う感覚でここぞという時に使用し、倒せなくても仲間の負担を大きく減らせたのではないだろうか。

 

 ヴェルフが打ちたいのは使い捨てのマジックアイテムではなく武器だ。しかし『クロッゾの魔剣』があれば少なくとも大量の怪物(モンスター)に襲われた時にリリは自衛することが出来た。援護射撃ももっと強力になっていた。ヘファイストスの言う通り『魔剣』を打たないのは意地になっているだけだ。打ったところで他人に売るつもりも乱用するつもりもないが、仲間の為に『魔剣を打つべきだ』と訴える自分がいる。だけど『魔剣なんて打つものか』とすねた子供のように断固として拒否しようとしている自分もまだ心の中に存在している。

 

 ―――――流石は俺が最も尊敬するヘファイストス様だ。俺なんかのこともよく見てらっしゃる。

 

 ヴェルフは軽く苦笑してから『火月(かづき)』を真っ直ぐと見つめる。これは仲間の為なら使うべきだと頭で理解できている。でも『レスクヴァの里』の住人であるベルとスズが『クロッゾの魔剣』が振るわれるところを見たらどういう反応を示すのだろうか。今度はそれがとてつもなく怖く感じてしまった。最高の顧客であり気の合う仲間であるベルとスズとの関係に亀裂が走る、なんてことはお人好し過ぎるあの二人に限ってありえないのはわかっている。わかってはいるが、これもまた頭で理解できているのに恐れてしまっているのだ。

 いつから自分はこんなにも心が弱くなったのだろうか。それとも最初から炭で黒く覆い隠しているだけでもろく崩れやすいものだったのだろうか。

 

 鉄を打てればそれでよかったはずなのに、迷宮都市(オラリオ)ではずっと一人だったはずなのに、今では仲間を失うのがとてつもなく怖い。

 

「るーさん、なにか悩み事?」

 静かな声が後ろから聞こえてきたので見上げると、テントの入口からひょこりとスズが顔を覗かせていた。

 気にしていた本人が来てしまったのだから仕方がない。らしくないことを悩んでないで鍛冶師(スミス)らしく顧客の意見を直球に聞こうとヴェルフは腹をくくる。

「まあ、な。ヘファイストス様に意地と仲間を秤にかけるのはやめなさいって言われてな。『魔剣』を打つべきかどうか悩んでた」

「るーさん『クロッゾの魔剣』が嫌いだからね。嫌な物は無理に作らなくていいと思うよ?」

「……じゃあ、スズ。もしも俺が、『クロッゾの魔剣』を量産して荒稼ぎし出したらどうする?」

「ありえないことを聞かれても困るよ。でもそうだね、それはるーさんの為にも『ダメだよ!』って止めるかもしれないかな。収拾がつかなくなって一緒にいられなくなっちゃうのは私も嫌だし。それにるーさんが言ってたようにダンジョンの攻略が楽になっても冒険者の質が一気に落ちちゃうと思うから売るのと支給品にするのは反対かな」

 ありえないと信じ切って、だけどもしそうなっても止めてくれるとスズは言ってくれた。

「だけどるーさんが『魔剣』を作るのは反対しないよ? えっとね、なんて言うんだろ。独占したいとかそういうんじゃないんだけど、誰かの為にるーさんが一生懸命作った物を絶対に否定はしないよ。それが私達の為に使われなくても、その魔剣の矛先がもしも私に向くことになったとしても、るーさんが真剣に誰かの為に作った物だったら私はそれでいいと思うかな」

 使い手を想って作られた武具が好き。『クロッゾの魔剣』を前にしても純粋なファン1号でスズは居続けてくれた。スズとベルなら魔剣の力に腐ることなんてない。力に酔って、あるいは力を恨んで豹変してしまうことなんてない。わかっていたことだ。わかっていたことなのに、しっかりとその言葉が聞けたことで笑みをこぼしている自分自身にヴェルフは気づいて照れ隠しに軽く頭を掻く。

 幸いにも向き合って話していないので自分の表情はスズには見られていないだろう。

 

「ほんと、お前らって強いよな」

 身体的な強さもそうだが何よりも心が強い。その心の強さはまるで鍛え上げられた刀身のように真っ直ぐで綺麗だとヴェルフは感じていた。

 

 

 

「私なんてまだまだ全然だよ。里にいた頃だってLV3くらいの相手しか――――――――」

 

 

 

 そう思っていたスズの心がなぜかその瞬間だけ揺らいだ。

「でもそれだと何でコボルトやミノタウロス相手に……あれ、でもアイズさんの攻撃は……」

「どうした?」

「あ、ううん。なんでもないよ。ちょっと強くなったって実感がわかなかっただけだから」

 スズはごまかすように笑顔を作った(、、、)

「なんでもなくはないだろ。俺に話せないならベルやリリスケ、ヘスティア様くらいには相談しとけよ?」

「ありがとう、るーさん。本当に大丈夫だから。ちょっと疲れたから先に休むね」

 スズがいきなり取り乱した理由はヴェルフには見当もつかないが聞かれたくないかららしくもなく無理やり話を切ったのだろう。心配だが無理に聞いてもヴェルフでは力になれそうになかった。

 

 鍛冶師(スミス)は鉄を打つしか出来ない。相談に乗ってくれた手前で歯がゆいが満足のいく物を作って支えになることしか出来ないのだ。今すぐ出来ることなんて何一つない。それでもこれから(、、、)出来ることならある。気丈に振る舞う幼い少女の負担を減らす術が、磨くべき技術が自分にはまだまだ山ほどある。

 くよくよしている暇なんてないことを先ほどのスズの姿を見てヴェルフはよく理解させられた。あんなにももろい一面を持つなんて思いもしなかった。リリとスクハも過剰に心配する訳である。

 

「しばらく金欠は続きそうだな」

 

 答えを出したヴェルフはそう苦笑して立ち上がり、『火月(かづき)』を担いでテントに戻るのだった。

 




お久しぶりですメリークリスマス。
また話の欠片がちらほらと見えるお話でした。

そして制作物に魔剣も加わりるーさんの失費が大変なことに。
これは自分の仕事だと仲間からの援助は素材採取以外受け取りそうないところがまだ意地を張っていそうですね。
るーさんのサイフの中身の運命は如何に!

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