スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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ベルが怪物に挑むお話。


Chapter03『怪物への挑み方』

 絶望的な状況の中、ゆっくりと怪物である漆黒のミノタウロスが近づいてくる中、ベルは思考を張り巡らせる。

 漆黒のミノタウロスの生まれた理由や過程などのどうでもいいことは飛ばして考える。相手は間違いなく考え感情を持った怪物だ。残虐非道だけれど相手を苦しめることを楽しんでいる。すぐにベル達を殺さずゆっくり近づいているのもその証拠だ。この漆黒のミノタウロスにとってこれは宿敵との戦いでもなければ狩りですらない。ただの『遊び』だ。いっそ殺してくれと願うほど遊び半分で痛めつけられる可能性が高い。そんな目にリリやスズ、ヴェルフを合わせる訳にはいかない。だが逆に言うと簡単には殺しに掛かってこないのだ。

 

 相手は自分達よりも強い自分に酔いしれている。理由は知らないが復活もしくは再生できる余裕から『遊び』に没頭している。その油断と余裕に付け入るスキがあるかもしれない。

 

 ベルは試しに効かない【ファイアボルト】を漆黒のミノタウロスの胴体に三連射してみると、漆黒のミノタウロスは一切動じずベル達が倒したまま放置していた怪物(モンスター)から抜き取ったであろう魔石をまた口に含んでゆっくりと噛み砕く。片手に収まる程度の魔石なんて一口で全部なくなるのにワザと恐怖を駆り立てるような演出している。だがそんな中で漆黒のミノタウロスの意識はベルの右手に握られたヘスティアナイフに向けられていた。漆黒のミノタウロスが脅威に感じているものはヘスティアナイフと【英雄願望(アルゴノゥト)】による蓄力(チャージ)攻撃、スズの高火力と言ったところか。

 勝てる気は全くしないが、仲間がいたぶられる時間を先延ばしには出来るかもしれない。その先延ばしにした時間でもしかしたら状況が変わるかもしれない。ヘスティアが『君には必要なものだ』と薦めてくれた『幸運』を信じてベルは命懸けの時間稼ぎに挑む。

 身を低くしてミノタウロスに突撃。当然ミノタウロスの意識はヘスティアナイフに向いている。相手が『殺す気』でいたならこの場で攻撃されてミンチになるだけだが、相手は『遊び』に没頭しているので待ち構えていてくれている。より絶望的状況に追い込んでベルや仲間の恐怖に歪んだ顔を堪能しようとしている。勘違いだったらそれだけでアウトな最初の賭けは成功した。待ち構えて足を止めたミノタウロスの間合いぎりぎりで勢いを殺し後ろに飛び跳ねる。

 

「【ファイア――――――――――ボルトッ!!】」

 

 スズが前に魔力を込めれば【魔法】の威力は上がると【ソル】の電撃を目に見える形で溜めて見せてくれたことがあった。『ファイア』で一度切って行動を挟んで『ボルト』で発射する平行詠唱の練習方法を教えてくれた。結局そのあともっと簡単なジャンケンでの練習になってそれもまだ後出しで負ける程度の魔法制御能力しかなかったが、ぶっつけ本番、土壇場でベルは感覚的ではなく意識的な【ファイアボルト】の制御による威力の底上げを成功させる。注ぎ込んだ精神力(マインド)はいつもの10倍。狙うはミノタウロスの正面足場。雷炎が床に着弾して爆炎がミノタウロスの視界を塞いだ。

「ごめん!」

 着地すると同時に反転。リリを縦穴に放り投げ続けてヴェルフも放り投げる。スズの体を抱き上げた頃には当然ミノタウロスは予想外の攻撃に一瞬行動が遅れたものの、爆炎を突っ切って獲物を捕まえようとその手を伸ばして来ていた。もしもこれが『殺す気』の一撃なら間違いなくベルとスズは死んでいた。生け捕りにしたいが為に視界が塞がって状況が確認できない漆黒のミノタウロスは加減して突撃してくれた。伸ばした手もベル達をミンチにしないよう細心の注意を払ってくれた。ベルはスズを強く抱きしめスライディングでその腕をギリギリのところでかわして縦穴に飛び込んだ。こんなことをしてもすぐに追って来られるのはわかっているが、1分1秒でも長く持ちこたえて活路を見いだすしかない。『幸運』という奇跡に全てを懸けた考えうる最大の一時しのぎはひとまず成功した。

 

 下りた先は16階層のルーム。竪穴は見つからない。怪物(モンスター)の姿も見えないのは漆黒のミノタウロスの『咆哮(ハウル)』を聞いて逃げ出したのだろうか。

「リリ、ヴェルフ! 上の穴から離れてっ!」

 ベルの叫び声にヴェルフとリリが正気を取り戻し、無我夢中でヴェルフは走りリリはベルが動きやすいよう考慮してその後を追う。ベルもそれに続こうとしたがそこに割って入るかのように漆黒のミノタウロスが縦穴から降下しその体重で床に亀裂を走らせる。岩盤の欠片が宙を舞う中、漆黒のミノタウロスはベルに目をやった後少し辺りを見回しリリに目を止め口元をヒクつかせる。

 漆黒のミノタウロスはベルに背中を向けゆっくりとリリの方に向かって行った。もう逃げ道が全く思いつかないが漆黒のミノタウロスの『遊び』はまだ続いている。【ファイアボルト】では先ほどのように精神力(マインド)を大量に注ぎ込んでも動きを止めてくれない。射線によっては避けてベルに二人を手に掛けさせ絶望し嘆く姿をみようとする可能性だってある。【英雄願望(アルゴノゥト)】を発動させれば本気で走りスクハの時と同じようリリかヴェルフを盾に使うだろう。無謀だとわかっていてもヘスティアナイフの間合いで勝負を挑むしかなかった。誘いに乗る形でスズを床に下ろしてからヘスティアナイフを構え突撃する。逃げられないなら倒すしかない。倒せなくても自分一人で時間を稼ぐしかない。ヘスティアナイフによる攻撃が本当に届くのなら刃を突き立て内部からありったけの精神力(マインド)を注ぎ込んだ【ファイアボルト】を放てば万に一つだが倒せるかもしれない。漆黒のミノタウロスがベルの方に振り返って『兆発に乗ったな』と言わんばかりに口元をヒクつかせて唸り声を上げる。

 リーチも早さも相手の方が上。防御力と攻撃力は比べるまでもなく圧倒的な差。技量の差は未知数。そんな中ベルができることと言えば意識を研ぎ澄ませて相手の動きを見きり、懐に潜り込んで一撃必殺に賭けるしかない。速さと射程が負けているからヒットアンドウェイでチャンスを待つことなんてほぼ不可能だ。振り下ろされる漆黒のミノタウロスの腕を掻い潜ろうと意識を集中させると、しっかりと振り下ろされる腕の動きが見えた。アイズやリューの動きを見続けて格上を目や気配で追うことになれた成果がしっかり出ている。まだ拳の出始めだがこの速度なら『運が良ければ』連撃をかわしてヘスティアナイフが届くかもしれない。

 

 そう思った矢先、漆黒のミノタウロスは拳を止めて勢いよく後ろに飛んだ。

 

 まるで先ほどベルが逃走の時に使ったフェイントのお返しだと言わんばかりに覚悟を決めたベルを無視して、ヴェルフとリリの方に向き直り、わざとベルの全力疾走と同じ速度で二人の元に突撃していく。慌てて追いかけるが距離が延びることも縮むこともない。そんな絶妙な速度調整を漆黒のミノタウロスはしながら二人の方に向かって行くのだ。

 ヴェルフがリリを横に突き飛ばして大刀を振り下ろすと漆黒のミノタウロスはそれを右手で受け止め握力で砕き、ヴェルフを掴んで勢いよくベルに向かって投げつけた。ベルはヴェルフの体を必死に支えようとするが勢いを殺しきれずにベルの体も吹き飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられてしまった。ライトアーマー越しからにも関わらずあまりの衝撃にベルの息が詰まった。受け止めたもののLV1であるヴェルフが受けたダメージも大きい。少し呼吸が可笑しいところからもしかしたらどこか痛めたかもしれないがヴェルフは自分のことは気にするなと言わんばかりにリリの方に顔を向けている。ヴェルフはまだ高等回復薬(ハイ・ポーション)を持っていた筈なので自力で飲むことさえできれば問題ないだろう。ベルは痛む体を起こして咳をしながら空気を吐き出してから、一度だけ空気を肺に送り込みまた漆黒のミノタウロスに向かって行く。

 漆黒のミノタウロスはベルが立ち上がるのを見てから、ベルの方に逃れようと必死に走るリリの元に向かい頭を右手で鷲掴みにしてバックパックごと地面に勢いよく叩きつけた。リリの小さな悲鳴に、衝撃でバウンドして跳ね上がる小さな体に、ベルは雄叫びを上げてダメージを受ける前よりも加速する。

 

 そんなベルに漆黒のミノタウロスは満足そうに『笑い』、リリのバックパックにつけられた大剣を右手で奪い取り、リリの体を軽く蹴飛ばして遠ざけ、『掛かって来いよ』と挑発するかのように左手の人差し指を動かし手招きする。疾走しながらもベルの両手にリンと音を立てながら光流が集まっていく。

 両手に【英雄願望(アルゴノゥト)】を蓄力(チャージ)しながら【ファイアボルト】を牽制で連射するのを見た漆黒のミノタウロスは蹴り飛ばしたリリを盾として拾いに行くのは間に合わないと判断したのか、【ファイアボルト】を相変わらず無視して全力でベルに向かって行く。自分よりも早い。自分よりも強い。だけどリューよりは遅い。攻撃力も防御力も友人のリューよりも遥かに高いが、速さは特訓で疾風のような連撃を繰り出していたリューの方が早いのだ。加減してもらっていたとはいえスズはそんなリューの攻撃をしっかり数発かわせていた。自分ならできる、できなければここで全滅する。大切なものを全部失う。

 

 そして、神様を泣かせてしまう。

 

 振り下ろされる大剣をかわし、ヘスティアナイフで英雄の一撃を放つが避けられルームの壁に巨大な傷跡を残すのみとなった。膝から一気に力が抜けるが倒れる訳にはいかない。漆黒のミノタウロスが大剣でベルを薙ぎ払おうとするがそれを地に這いつくばる様にかわし、手のバネで飛び上がり宙がえりして体勢を立て直した時には目の前にミノタウロスの回し蹴りが迫って来ていた。とっさに蹴りが繰り出された右足と軸にしている左足を潜り抜けるように転がり込むことで何とか攻撃がぎりぎり頭上をかすめる程度ですんだ。

 

 もう少し身長が高ければ顔がつぶれたトマトのようになっていたことだろう。

 

 しかし休んでいる余裕はない。休ませたりなんかはしてくれない。攻撃の暇なんて与えないと言わんばかりにまだ屈みこんで背を向けてしまっている状態のベルに、漆黒のミノタウロスは大剣を振り下ろした。

 漆黒のミノタウロスに落ち度があるとすれば、少し遊び過ぎたことと、無意識に大剣を使うことに拘ってしまったことだろう。ベルは第六感、背後から感じる『視線』頼りに立ち上がりながら体の軸をずらして右手のヘスティアナイフを左手に持ち替え、既の所で大剣をかわしてミノタウロスと向き合う。いや、振り向きながらヘスティアナイフを切り上げたと言った方がいいだろう。

 【英雄願望(アルゴノゥト)】の平行処理と同時発動により左手に蓄力(チャージ)されていた英雄の一撃が、地面と天井、そしてベルの正面の遠い壁までも大きな傷跡を残す。

 

 

 それでも漆黒のミノタウロスは健在だった。

 

 

 身を反らしてベルと同じく既の所で漆黒のミノタウロスは英雄の一撃をかわしたのだ。技術力でも経験でもなく、その圧倒的な動体視力含む身体能力で最後の最後まで残った左手に注意を注いでいたのだ。

 

 だからだろう。第三者の介入に漆黒のミノタウロスは気づくことができず、喉元を食い破られ悲鳴のような咆哮と血しぶきを上げていた。

 

 限界を超え三度の【英雄願望(アルゴノゥト)】の使用、その内の二発を同時使用したベルはもはや立ち上がるだけの体力すら残っておらず、第三の者である『漆黒の獣』を呆然と見上げることしか出来なかった。これもまた一度見たことがあり目の前で倒されたことのある変異種だ。そんな怪物が怪物を襲っている。喉元を食い破られながらも漆黒のミノタウロスは暴れ抵抗すると漆黒の獣は負傷を恐れたのか一度離れて距離をとっていた。睨み合う漆黒の怪物達。

 予想外の乱入にベルの頭はついて行けていなかった。

 

「リリスケ、辛いだろうがそのままスズを頼む! ベルは俺に任せろっ!!」

「ぐぅっ……。ベル様は……任せ……ましたっ……!!」

 ヴェルフが少しふらついた足取りでベルに向かい、リリがよろよろと今にも倒れそうな足取りにも関わらず既にスズのことを引きずって通路まで退避しようとしていた。獲物が逃げようとしていたことに気を取られた漆黒のミノタウロスの隙をついて漆黒の獣がその腹に拳を食い込ませてミノタウロスを勢いよく壁まで吹き飛ばした。ミノタウロスの防御力を牙や素手で突破できていることから漆黒の獣も最低でLV4相当の怪物であることが伺えた。そんな漆黒の獣を無視してベル達を追うことは無理だと判断したのか、漆黒のミノタウロスは衝撃で崩れた壁の瓦礫を押しのけ雄叫び上げながら漆黒の獣に向かって行く。

「なんだか知らないがチャンスだ。あの新しいのとやりあってる内に逃げるぞ! 巻き込まれない内になっ!」

 動けないベルをヴェルフは背負ってそのままリリが入っていった通路に駆け込んでいく。強がって表情にも声にも出していないがヴェルフの呼吸は『ヒューヒュー』とおかしな音がしていた。

「リリスケすまん、待たせた。高等回復薬(ハイ・ポーション)だ。とりあえず安全なところに行く為にも飲んどけっ」

 体中ぼろぼろで血に濡れたローブのボタンは取れて前が肌蹴てしまっているリリに、ヴェルフが有無を言わさず自分の分の高等回復薬(ハイ・ポーション)を飲ませた。

「ケホッ……。ケホッ……。女の子の口にいきなり物を……ケホッ……流し込まないで……ケホッ……くださいっ!」

 まだ辛そうだがリリの足取りは先ほどよりも軽い。値段が高い分その効果は絶大だ。呼吸の荒いヴェルフにベルは自分の高等回復薬(ハイ・ポーション)を分けてあげたかったが、【英雄願望(アルゴノゥト)】で無茶をし過ぎたせいか声もかすれて出ない。意識を保つのが精いっぱいだった。ここで意識を失ったら起きられる自信がない。自分がいなければ誰が中層奥深くの怪物(モンスター)と戦うのだ。ベルは必死に意識を保ち続けていると通路の途中で突然リリが立ち止まる。

 

「休むならここで十分でしょう。ここで強臭袋(モルブル)を使用するので一度治療アイテムで体調を整えましょう。今のリリ達ではアルミラージ一匹にも全滅させられてしまいます」

「そう、だな……。あの怪物共の音も聞こえなくなった。どの道追い掛けられたら終わりだからここで休んだ方がマシか。こんな状況なのによく冷静に物事が判断できるな、リリスケは」

 ヴェルフがベルを横に寝かせて壁にもたれかかるように腰を掛け、リリは引きずって移動してしまったスズに申し訳なさそうな顔を向け安静な体勢にしてあげている。

「……こんな時だからこそ冷静でなければならないんです。リリの回復薬(ポーション)は衝撃で全滅ですね。幸い強臭袋(モルブル)は無事です。装備の損失はベル様の大剣だけですね。ベル様、少し失礼しますね」

 続いてリリはベルのレッグホルスターを漁り、その中から高等回復薬(ハイ・ポーション)をヴェルフに渡した。

「俺は……」

「ベル様のは負傷ではなく疲労です。ヴェルフ様がこれを飲み、ヴェルフ様の回復薬(ポーション)3つをベル様に与えてあげてください。今ヴェルフ様にダウンされると非常に困るんです。文句はその不自然な呼吸音をマシにしてからおっしゃってください」

「……わかったよ」

 ヴェルフがしぶしぶといった感じで高等回復薬(ハイ・ポーション)を飲む中、リリはベルを膝枕をしてゆっくりと回復薬(ポーション)をベルの口に近づける。

「飲めますか?」

 その質問にベルは顔をしかめながら頷いて一本目の回復薬(ポーション)を飲ませてもらうが、一本目の半分は咳き込んで吐き出してしまい、リリのローブや肌を汚してしまって申し訳なく感じた。

「お気になさらないでください。ベル様のおかげでまた助かったんです。本当にスクハ様もスズ様もベル様も……無茶ばっかりして困った人です。リリでなかったら絶対にサポーターなんかやりたがらないですよ?」

 それでもリリは優しくベルの頭を撫でて、「次は頑張って三分の二は飲んでくださいね」とまた回復薬(ポーション)を飲ませてくれた。そんなリリがまるで年上のように感じられてベルは途端に気恥ずかしさが込み上げてきた。リリが本当に年上だと知っていたらもっと意識してしまっていたことだろう。

「今度は全部飲めましたね。少しは体は楽になりましたか?」

「……大分。でもごめん。まだちょっと動けそうにないかな」

「喋れるようになっただけでもマシです。まだ半分吐き出してしまうようでしたら口移ししてでも飲ませようかとリリは本気で考えていましたんですよ?」

 きっとからかわれているだけだと思いつつも異性と口移しなんてベルにとっては過激極まりない行為であり、みるみる内にベルの顔は真っ赤なトマトのようになってしまっていた。

「ふふふ、ベル様は本当に初心ですね。後一本飲んで吐き出さないようでしたら二属性回復薬(デュアル・ポーション)を行きますよ?」

「リリやヴェルフはもう大丈夫なの?」

「俺は元々そんな深手はおってないから安心しろ。高等回復薬(ハイ・ポーション)も貰ったしな」

「体がまだ少し痛みますが、リリも高等回復薬(ハイ・ポーション)を頂きましたので。吐き気が出るほどの匂いがする強臭袋(モルブル)を安全の為に早く使いたいので、ベル様が残りをグイッといってください。本当はスズ様に呑ませてあげたいところですが……今日中に目覚めるとは限りませんので……」

 リリが本当に申し訳なさそうに「すみません」と頭を下げて来た。最低限の怪我を治療し終えている意識のないスズに回復薬(ポーション)を使ってあげられる余裕はなかった。ベルは自分がここで足手まといになる訳にはいかないと最後の回復薬(ポーション)も飲ませてもらい、続けて二属性回復薬(デュアル・ポーション)も飲ませてもらう。

 

「それでは強臭袋(モルブル)を使います。ベル様、歩けそうですか?」

「うん。大丈夫だよ」

 戦闘できるほど体力が回復したとは言えないが、ついて行くことくらいなら可能だろう。これだけ回復薬(ポーション)を貰っておいて動けませんでしたなんて許される訳がない。

「強がりはいけませんが、あの黒いミノタウロスもしくは黒い獣……おそらく手配中の『漆黒のコボルト』がいつ追ってくるかわかりませんし、強臭袋(モルブル)の効果時間も有限です。辛いと思いますがこのまま進んで行きましょう。ヴェルフ様、スズ様をお願いします」

「わかった。もしもの時はベルも俺が抱えてやるから疲れたらすぐに言ってくれ」

「だ、大丈夫だから! スズのことだけで本当に大丈夫だから! だからスズのことを―――――――」

「ああ。意地でも守ってやるよ。全員で無事地上に戻らないと意味ないからな」

 ヴェルフはそう頼もしく笑ってくれた。

「それではいきますよ、ベル様」

 リリが手を差し伸べて起こしてくれた。

 こんな掛け替えのない大切な仲間達の為なら、どんなに辛くても頑張っていける。

 ベルは悲鳴を上げる体に鞭を打って何が何でも皆で生きて地上に帰る為に、予定通り掛け替えのない仲間達と縦穴の探索を始めるのだった。

 

 




再び切りがいいところまで書いたので文字数が酷くなる前に分割しました。
限界解除(リミット・オフ)】に加え、平行処理だけでなく同時使用による【英雄願望(アルゴノゥト)】の連続使用でベル君の疲労がマッハになりました。
予想外のところからの横槍もあり何とか漆黒のミノタウロスから生き延びることができたものの、ベル君という最大戦力と回復薬(ポーション)を失ったリリとヴェルフの運命は如何に。

次回はおそらく迷宮都市(オラリオ)側のドタバタ風景になると思われます。
しばらくお待ちください。

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