スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン

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友達の家を訪ねるお話。

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キマシタワー

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Chapter07『家の訪ね方 前編』

 風呂屋の帰り。てっきりからかってきただけだと思っていたスクハがしっかりと『ノームの万屋』までついてきたことにリリは驚きを隠せずにいた。

『【ソーマ・ファミリア】には寝泊まりしていないのね』

「住み込みで働きたいと言った手前やめるなんて無責任なことできませんよ。それにリリはあくまで【ソーマ・ファミリア】をサポートしているだけですから。【ソーマ・ファミリア】のホームにいると何かとソーマ様が団長になってくれと雑務を丸投げしてこられるので、それでは【ソーマ・ファミリア】の為になりませんし」

『仕事の掛け持ちはいつか体を壊すわよ』

「わかっています。【ソーマ・ファミリア】の方はもうすぐ落ち着きますからご安心を。スクハ様の方こそいったいどうされたのですか? 普段出てこられないスクハ様がただ泊まりに来るだなんて」

 いつもスズを気に掛けているスクハは普段全くといっていいほど表に出てこない。そんなスクハがリリの元、それもベルが一緒にいない状況を望んでいるということは最近スズが無茶をしていることに関しての相談ごとでもしに来たのだとは思うのでまずは本題から入ろうと理由を聞いてみることにした。

 

『オムライス』

 

「は?」

『オムライスという食べ物のレシピを知ったから旗付きでリリルカに食べてもらいたいのよ。ぜひとも愛らしく食べてもらいたいのだけれど』

「建前はいいので本題に入ってください」

『つれないわね。『スズ・クラネル』が最近私に時間を割こうとしているから無茶な呼び出され方をされない為のガス抜きよ。相談したいこともあるのは確かだけれど、単純に遊びに来たと思ってもらって構わないわ。それとも何、私が遊びに来るのは迷惑だったかしら。リリルカなら私を受け止めてくれると思ったのだけれど私の独りよがりだったようね。とてもショックだわ。これはもうオムライスを食べてもらえないと立ち直れそうにないわね』

「どれだけリリにオムライスを食べさせたいのですか。前々から思っていましたがスクハ様もずいぶんと寂しがり屋なのですね」

 リリがそう返すとスクハは『そんなことある訳ないじゃない』と目をそらした。スクハはすぐにからかってくるもののからかい返すととても弱い。表情はどこか冷たい感じがするものの不器用だが照れ屋で根はとても優しい人格なのをリリは十分知っている。最近はずいぶんと表情が豊かになったものでからかい返すととても可愛い反応を返してくれるリリの恩人であり友人だ。正直なところ遊びに来てくれてただの雑談をする機会ができたのは嬉しいところだ。

 

「お爺さんただいま戻りました」

「おう、リリちゃん。おかえり。そちらの精霊様がリリちゃんのお友達かの?」

 商品整理をしている家主ノームのボムはリリの挨拶にそう返した。

『そう、今の私はそう見えているの。これはヘスティアとの会話で気付くべきだったわね。『レスクヴァの里』から来た『巫女』よ。友人のリリルカが世話になっていると聞いて遊びに来たわ。これ迷宮都市(オラリオ)で作った蜂蜜酒だけれどよかったらどうぞ』

 スクハが手持ちの鞄から蜂蜜酒を出して差し出すとボムは嬉しそうにそれを受け取った。

「レスクヴァ様のところの『巫女』が作った蜂蜜酒を貰えてジジイ感激」

『素材に拘ってるわけじゃないからそんな上等なものではないわ。それよりも大分疲れが見えているけれど体調には気をつけなさい。忙しいとは聞いているけれどそのままだと倒れるわよ』

「もうすぐ終わるから大丈夫じゃ」

「リリもお手伝いしますよ」

「せっかく友達が来てくれたんじゃからリリちゃんは遊んでなさい。一昨日丸一日手伝ってくれたリリちゃんへジジイからのささやかなお礼じゃ。レクスヴァ様に失礼があったらジジイ、他のノームに申し訳立たないしの」

 ボムは精霊といっても古代精霊のように力のある精霊でもなければノームの中でも低級な精霊らしい。『古代』地上が魔物に蹂躙されつつある中、人類引き連れてダンジョンを発見した精霊の一人であるレスクヴァに対して敬意を持っているのだろう。当時目立った活躍をしていなくても大戦に参加した『古代精霊』への信仰はエルフや精霊達からは高いのだ。

 ボムもレスクヴァに感謝している精霊の一人なのだろう。ならば今一番ボムの為になることは『レスクヴァの里』の住人であるスズもといスクハの相手をすることだろうと、リリは素直にボムの言うことを聞いてスクハを自分が寝泊まりしている屋根裏部屋に案内した。

 

§

 

『殺風景な部屋ね。もっと可愛いものが多いと思ったのだけれど』

「スクハ様はリリのことを何だと思っているんですか。元々物置だった場所を貸していただいているだけですし、いつまでもお世話になるつもりはありませんので必要最低限なものがあれば十分です。それよりもスクハ様、先ほど聞き捨てならないことをおっしゃっていましたが」

『大したことではないわ。『無』ではなく『精霊』として私が見えるようになっていたことに驚いていただけよ。最初ヘスティアは私から何も感じないと言っていたのに、いつの間にか抑えていてるにも関わらず精霊としての力が『私』から漏れ出していたようね。一度『スズ・クラネル』が『私』と同調してしまったせいかしら。このまま肉体まで『私』に引っ張られなければいいのだけれど』

 体まで引っ張られるということはスズの体が精霊化するということなのだろうか。もしそうだとしてリリにはデメリットが思い浮かばなかった。『レスクヴァの里』の『巫女』は元々精霊になるべき存在だ。それを拒否してスズは迷宮都市(オラリオ)に逃げて来たのだろうか。

「スクハ様はスズ様が精霊になられるのは反対なのですね。里から離反でもしたのですか?」

『……皆が大好きな『スズ・クラネル』が里を離反する訳ないじゃない。ただ完全に精霊となった場合【神の恩恵(ファルナ)】がどう効果をもたらすかわからないのに加え、人としての幸せを得ることができなくなるもの。『スズ・クラネル』がはっきりとお母様と同じ精霊になりたいと願えば別だけれど、今は人として、冒険者として、ヘスティアの子供として頑張ろうとしているのだから精霊にはなってもらいたくないところね』

 少しだけ、ほんの少しだけスクハが言葉を選んだ。噓は言っていないがおそらく本当のことを多く伏せているのだろう。リリはそれを無理に追求しようとは思わないが本当のことを話してくれないのは少し寂しく思えた。

『ごめんなさい、信用していないとかそういうのではないの。気を悪くしたのなら謝るわ』

「いえ、スズ様に触れられたくない部分があるのはスクハ様の行動から十分察していますのでお気になさらずに。スズ様とスクハ様がリリの味方であり続けてくれたように、リリは何があってもスズ様とスクハ様の味方で友達ですよ」

 申し訳なさそうな顔をしてしまったスクハにリリはそう言って安心させてあげた。するとどこか嬉しそうに頬を赤く染め『そう』と一言だけ返事を返してくれる。面と向かって言われたことを照れているのだろう。スズとはまた違った可愛さがスクハにはあるのでこのままからかって遊ぶのも面白いかなと思っていると、先にスクハが何かを思いついたのか不敵に笑った。なにかとてつもなく嫌な予感がして少し距離をとろうとするが肩に手を置かれて逃走を阻止されてしまう。

 

『リリルカも最近忙しいせいか疲れがの色が見えているわよ。重量制御の【スキル】を持っているようだけれどずいぶんと肩や背中が凝ってるじゃない。まだ二十歳にもなってない小さな少女が肩凝りなんてよろしくないわ。私がマッサージをしてあげるから、真面目な話はマッサージをしながらにしましょうか。ええ、そうしましょうか。ぜひともそうしましょうか』

 

「スクハ様、手つきが怪しいのですが……」

『失礼ね。セクハラなんてする訳ないじゃない。ただし『疲れてれば疲れているほど』気持ちいいから覚悟してなさい。『スズ・クラネル』や私の無茶も大概だけれど、貴女も中々に雑務に追われて無茶をしていることを自覚してもらいましょうか』

 リリは疲れているかと聞かれたら、今現在超がつくほど疲れていると言ってもいい。スクハの言う『気持ちいい』という意味がどういう意味合いかはわからないが、悪戯をしようとしている子供のように頬を緩ませているスクハが『気持ちいい』というのだからおそらく『そういう意味』なのだろう。本来ありえないその効果がマッサージではなく【魔法】だとリリは瞬時に判断してリリはスクハの手から逃げ出そうとするが、リリの乏しい【基本アビリティ】ではそれを実行することは叶わなかった。すぐに羽交い絞めにされて頭を子供をあやすように優しく撫でられる。そのじゃれ合い自体は嫌ではないのだがその後に起きるであろう『未知の魔法』とてつもなく恐ろしく感じて冷や汗が出てきてしまう。

『何をしてもリリルカは私の味方なのよね。怖がらなくても大丈夫よ。ただ疲れが取れるだけなのだから逃げなくてもいいと思うのだけれど。それともリリルカは私のことを信用できないというのかしら?』

「そ、それとこれとは話が別です! いったいスクハ様はどんな【魔法】を――――――――」

 

『【雷よ。想いを届け給え。第五の唄カルディア・フィリ・ソルガ】』

 

 次の瞬間、リリにとって未知の感覚が全身を駆け巡り全身の力が抜けてしまった。あまりの気持ち良さに声にならない声が漏れ、力なく床に座り込んでしまったリリをスクハは布団まで運び俯せに寝かせてお尻付近に腰を下ろしてくる。

『電気マッサージだけでもいいのだけれど、せっかくだしフルコースで行こうかしら。整体含めて無茶な特訓する住人の体調管理も『巫女』の仕事だから、純粋なマッサージだけでもかなり気持ちよくさせてあげられると思うのだけれど。これは性的な意味ではないから安心しなさい』

「全然安心できませんっ! なんなんですか今のはっ!?」

『疲労回復魔法よ。よほど疲れが溜まっていたようね。ダンジョン内で緊急事態の時に使うかもしれないから今の内に慣れておきなさい』

 

 

「なれろと言われましても……ひぅっ……あっ……んんんんんんんんッ――――――――!!」

 

 

 必死に声を押さえようとしているが押さえられない。正直こんな乱れた姿なんて誰かに見せられたものではない。声を聞かれるのも恥ずかしい。リリは顔を真っ赤にしながら涙目で必死に両手で口を覆って声を噛み殺そうとするが未知の快感に抗うことができない。『神酒(ソーマ)』と違って急激に来るものではないが、ねちっこく持続して徐々に体の隅から隅まで気持ちよくなっていく。

『筋肉がほぐれて来たから今度はツボを押していくわよ。押した時に息を吐きなさい。ダンジョン内では流石にマッサージまでする余裕はないから後はリラックスしていればいいわ。まあ、【カルディア・フィリ・ソルガ】の効果は持続させたままのマッサージなのだけれど』

 

 

「こんなの……あっ……ダンジョンンンッ……で、使わ……れたら疲れが取れて、もぉっ……しばらく動けなくっ、な……んっ……って、しまっ……いますよっ!?」

 

 

『使うような緊急事態はどの道自力で移動困難な状況よ。ベルやヴェルフに声を聞かれたくなければ声を押し殺せるようになっておいた方がいいと思うのだけれど。まあもっとも、そんな緊急事態に陥らないように立ち回るのが一番なのだけれど』

 スクハが言っていることはもっともだが、絶対にそういったまともな理由で【カルディア・フィリ・ソルガ】を唱えていないと確信できる。おそらく『友達』と言われたのがよほど嬉しかったのだろう。スクハは浮かれているのだ。ついでに照れ隠しがしたいのだ。さらに言うと嬉しいけど恥ずかしいことを言われたお返しをしたいのだ。刺激が強かったのは最初の一回きりでそれ以降は微弱な電気で全身を撫でまわす様な、くすぐる様な、焦らす様な、徐々に感度が上がっていき色々な意味で気持ち良くなってきてしまっている。それに加えてマッサージ自体も上手いのだからタチが悪い。身も心もとろけてしまうのは時間の問題だった。このまま浸っていたいという気持ちもあるが正直このまま身を任せていたら気持ち良く成り過ぎてしまいそうで怖い。『神酒(ソーマ)』のような瞬間的な幸福感や依存性はないだろうが怖いものは怖い。

 

「スっ……スクハ様ぁっ! スズ様にっ……訴えますよっ!!」

 ピタリとスクハの【魔法】と手が止まった。リリは乱れた呼吸と火照った体を持ち直そうとするが一向に収まる気配がない。今なら軽く背中を撫でられるだけで体がビクンと飛び跳ねてしまいそうなくらい敏感になっていた。落ち着くまでかなりの時間が掛かりそうである。

『リリルカ、その、ごめんなさい。少しからかうだけのつもりだったのだけれど少々やりすぎてしまったようね。ちなみに『スズ・クラネル』はこの【魔法】のことをただの電気マッサージによる疲労回復魔法程度の認識しかないのだけれど―――――――――』

「それはまたベル様も災難でしょうね」

『ええ。無邪気に善意で行なわれる義妹(いもうと)のマッサージを声を押し殺して必死に耐えていたわ。よくもまあ家族とはいえそんなハプニングがありつつも可愛い子二人と一つ屋根の下一緒で思春期の男の子が耐えていられるものね。妹だから神様だからと必死に言い聞かせているのだろうけれど四六時中一緒にいて溜まりに溜まった性欲はどう発散させているのか不思議でならないわ。いつか禁欲のし過ぎで枯れないか心配になってくるのだけれど、リリルカはどう思うかしら?』

「はしたない話を振らないでくださいっ! た、確かにスズ様もヘスティア様も可愛らしいのに我慢しなければならない環境はよろしくないと思いますけど、将来にも影響してきてしまうかもしれないですけど、そう考えると心配に……。いえ! ベル様は純情な方なので大丈夫です!」

『アイドルだろうと王子様だろうとトイレには行くわよ。リリルカもなんだかんだで純情なのね。まあ、それはともかくとして。真面目な話に戻すけれど先ほど行った【カルディア・フィリ・ソルガ】は中層で迷うような緊急事態に陥った場合に使えると思うかしら?』

 スクハのその言葉にリリルカは依然と火照ったままだが、日常の物の考え方からサポーターとしての考え方に切り替える。

 

「リリが歩けないほど疲労困憊になったとして、どれだけの時間で歩けるようになるまで体力が回復しますか?」

『肌と肌の触れ合い、これは手と手を繋ぐ程度でもいいわね。それならおおよそ10分で歩けるようになるわ。肌に直接マッサージ付なら6分。粘膜同士の密接な触れ合いならばすぐに歩けるようにはなると思うのだけれど、当然ながらこれは却下よ。体の火照りを考えると追加で3分から5分といったところかしら。それにあくまで回復するのは疲労や筋肉痛程度で怪我の回復は肉体の機能を活性化させて自己治癒能力を高める程度しかないわ』

 粘膜同士の密接な触れ合いと言った時にスクハが少し頬を染めて目をそらしたことから、スクハも背伸びをしているだけで十分初心だと思ってしまったが今は真面目な話なので茶々は入れない。現実的に考えて完全に動けなくなった状態で使用してもらうとしたらおんぶされながらの行使になるだろう。約15分パーティーメンバー二人が戦闘に参加できないのは少人数の自分達にとってかなりの痛手だ。一番最初に倒れるのはメンバーの中で体力が最も少ないリリだからスクハは自分を名指ししたのだろう。ただのサポーターなのだから全滅を避ける為に置いて行くなんて選択肢がお人好しなベルとスズにある訳がない。異常事態(イレギュラー)に遭遇して縦穴に落ちて道を見失った場合は羞恥心は二の次で動けなくなる前に使うべきだろう。

「意地を張らずに多少の安全を確保している状態なら動けなくなる前に使うべきだとリリは思います。その場合は手を繋いで移動しながらの行使になると思いますが、スズ様の負担はどの程度になる見込みですか?」

『【カルディア・フィリ・ソルガ】自体の消費は激しくないけれど周りの警戒を行いながらの行使で心身ともに参る可能性はあるわね。リリルカの知っての通り『スズ・クラネル』の無茶は度が過ぎているわ。仲間を庇う、魔物の群れに特攻を仕掛ける、水や食料、回復薬(ポーション)類を我慢して仲間に分け与える。不確定要素が多すぎて『どの程度』になるかなんて予想はできないわ。まあ幸いなことに前線を支えるのがベルとヴェルフの二人いるのだから、天井を壊してでも上の階へ早めに逃げるのが得策なのではないかしら』

「8階層と13階層では深さが違います。壁抜きができたとしても上へは上がれないでしょう。ベル様とスズ様はともかくとして、リリやヴェルフ様では開けた穴を上れません。『ワイヤーフック』も二人分の重量を支えられるとは思えませんし精神力(マインド)の無駄使いは止めた方がいいと思います」

『ベルに放り投げてもらうのはどうかしら』

「壁抜きの騒ぎに集まった魔物にリリとヴェルフ様がやられるのがオチです! 『レスクヴァの里』基準に物事を考えないでくださいっ!」

 どうして『あの里』の者はこうも脳筋なのだろうか。あまりの物理的な解決案にリリは疲れたように大きな溜息をついてしまう。

『疲れたのなら【カルディア・フィリ・ソルガ】をもう一度使ってあげてもいいのだけれど』

「結構ですっ!」

 気持ちいいし疲れは取れるが人前で味わうには恥ずかしすぎる感覚だ。『胸大きいね。触らせてよ』『ちょっとやめてよ』なんてじゃれ合いの一線を遥かに超えてしまっている。スズとスクハのことは嫌いでないし、むしろ好きだし、求められたら応えてあげてもいいかなとか、ベルがダメでも【シンダー・エラ】を使えば問題なくスズと結婚できるのではないのかとバカな考えが頭を過ったこともあったが、じゃれ合いで一線を越えるほどリリは乙女を捨てていない。夢見る女の子の気持ちを捨てていない。心はいつまでも夢見る乙女の灰被り姫だ。恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

『まあ私も『スズ・クラネル』も今日は疲れたわ。もう少し貴女と話していたいところだけれど、それで無理をしては元も子もないのだから今日は就寝にしましょう。よい子な『スズ・クラネル』の就寝時間は8時から9時なのよ』

「ご自分に【カルディア・フィリ・ソルガ】をご使用なされたらどうですか?」

『『スズ・クラネル』にはまだ早いわ。あの子が自分に使う時は体力回復効果を削ってただの電気マッサージに出力調整するの大変なのよ』

「ダンジョン内で使えるかどうかの検証だったとはいえ、今度からリリにやる時もそちらの方をお願いします」

『そうね。やらないよりはマシだから、疲れが見えてる時はお風呂上がりの時にでも軽く普通のマッサージくらいならしてあげるわ。リリルカに倒れられでもしたらベルと『スズ・クラネル』のヤンチャを止めてくれる人がいなくなってしまうのだから体調管理は本当に気をつけなさいよ? いつか倒れるんじゃないかと心配でならないわ』

 スクハが呆れたように小さく溜息をついてからリリの背中からようやくどういてくれる。ヘスティアとはほぼ毎日上に跨られながら会話をしているらしいので、もしかしたらスクハはそれを自分もやってみたかったのかもしれない。そんなスクハの年相応の子供っぽさが微笑ましくて思わずリリの頬は緩んでしまった。

 急遽泊まりに来たのでノーム用の小さな布団が一つしかなくて体が小さな二人とはいえ一緒に寝るには狭かったが不思議と気にはならない。むしろ人の温もりを感じながら布団に入るのがなんだか嬉しくも感じてしまう。スズと一緒に安宿で眠った時と同じく友達と一緒に眠ることを幸福に感じてしまう自分に、リリはやっぱり自分は寂しがり屋なんだなと実感できた。

 

「それではスクハ様。おやすみなさい」

『おやすみ、リリルカ。いい夢を』

 

 魔石灯を消して二人で潜る小さな布団。リリがスクハの手を握りしめると、スズと同じくスクハはその手を握り返してくれた。リリがスクハに笑いかけると、『どこにも行かないわよ』と真っ直ぐリリを見つめて頬を緩ませてくれる。

 どうかこのまま平穏な日々が続きますように、そうリリは祈り、スクハの温もりを感じながら眠りにつくのだった。

 

 




三章Chapter07『お願いの仕方』はリリとスズが一緒に寝る話に対して、今回はリリとスクハが一緒に寝るお話でした。

ふざけてじゃれ合いつつもしっかり今後のことを考えて行動しているあたり二人共逞しいです。キマシタワー
次回はヴェルフ工房へ訪問予定です。

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