「おはようございます。ベル様、スズ様。良い品は見つけられましたか?」
「おはよう、りっちゃん。あのね良い品だけでなくて新しい仲間を見つけたよ!
新しい仲間、それも
「えっと、スズの言った通りなんだけど……」
「せめてリリにも話を通してからにしてください。
「ごめんね、りっちゃん。でもね、使い手のことを考えて気持ちのこもった武具を作る
「そうやって優しくしたら変な勘違いをされてしまうかもしれないじゃないですか! 特に出会いの機会が少ない職人だなんてスズ様の身が心配でなりません! 悪い人でなくても魔がさすことだってあるんですから、お持ち帰りされてからでは遅いんですよ!?」
どうやらリリはスズのことをものすごく心配しているようだ。
それはもう過保護なくらいに。
ベルが実の兄でないことを知ったらその警戒心が自分にも向けられるんじゃないかと不安になってきた。
「はっはっは、いきなりの加入で不安がるのもしかたねぇが俺にそういう趣味はないから安心しろチビスケ」
そんなやり取りをしているとヴェルフが待ち合わせの場所にカラカラと笑いながらやって来た。
「チビ」と言われたのにカチンと来たのかスズの身を案じて過剰に警戒しているのかリリはヴェルフをジロリと睨みつける。
「チビではありません! リリにはリリルカ・アーデという名前があります!」
「そうか。じゃあよろしくなリリスケ」
「……人格に問題ありますが今のところはスズ様の顔を立てます。言い合いをしても無駄にスズ様を悲しませるだけですから。ですが素性だけは安全の為に明かしてもらいますよ。所属とフルネームをお願いします」
「しっかりしてるなリリスケは。【ヘファイストス・ファミリア】の駆け出し
ヴェルフが溜息をついて頬を掻きながら目をそらして自己紹介するとリリが名前の部分で反応する。
「クロッゾ。魔剣鍛冶師の? 『レスクヴァの里』を襲ったラキアに魔剣を献上していたあの? よくもまあ堂々とお二人の前に顔を出せましたね、クロッゾ様」
「あ、ラキアの魔剣を作ってた家系だったんだ。でもヴェルフさんはヴェルフさんだよ。私は別に魔剣鍛冶師と契約したい訳でも冒険したいわけではなく、私の防具を作ってくれた
険悪になりつつあるリリとヴェルフだったがスズのその言葉にすっかり毒気を抜かれてしまったようだ。
リリは大きく溜息をついて、ヴェルフは「本当にお前らにとってはその程度のことなんだな」と嬉しそうに頬を緩ませていた。
「まったく、リリは『あの里』の感覚にはついていけません。度が過ぎるほどお人好しなお二人に感謝してくださいよ、ヴェルフ様」
「ああ。俺の初めての顧客がスズとベルで良かったって昨日から感謝しっぱなしだから安心しろリリスケ。俺は何があっても俺を認めてくれた顧客を裏切ったりしねぇ」
「その言葉行動で示してもらいますよ。戦闘でベル様とスズ様の足を引っ張るようでしたら簀巻きにしてポイしますから覚悟してください」
「おお、そいつは怖い。ならリリスケの信頼も勝ち取れるよう頑張らないとな」
言動は同じだが二人の空気がずいぶんと軽くなっている。
この分ならすぐに打ち解けてくれそうでベルはほっと胸をなでおろすのだった。
§
ヴェルフの実力を測る為に11階層までの道中の
見たところヴェルフは技量のある正統派戦士ではなく自分で作った武器の性能で
ソロで潜っていただけあってLV.1の中では上位の実力を持っていると見ていいだろう。
そんな10階層でも十分通用する実力を持つヴェルフだが、スズが器用にキラーアントの甲殻の隙間に剣を突き刺してキラーアントを解体する様子に「器用だな」と関心していた。
「やってきたぜ、11階層!」
「この階層から『ハード・アーマー』や『シルバーバック』が出るんだよね。『インファント・ドラゴン』と遭遇できれば上位の【
「スズ様、階層に五匹もいない『
ハード・アーマーはキラーアント以上の硬さの甲羅を持つ亀の
『
『
ベルがランクアップしたので倒せるとは思うのだが他の
「そういえば11階層や12階層の
「確かに『ものすごく強い
ベルの疑問にリリはそう答えてくれた。
ならばベルと同じ敵と戦い一昨日LV.2の冒険者をノックアウトさせてもランクアップしなかったスズとスクハにとって何が良質な【
そのことを考える暇もなく11階層入口のフロアの壁がひび割れて
10階層からは同エリアからも瞬間的な
安全確認をしながら歩いていた筈なのに気がつけば
幸い10階層と同じでここ11階層も入口のフロアには霧が出ていないので仲間が孤立する心配はない。
いざとなれば10階層に逃げることもできるので初めて戦う
「よし、オークは任せろ」
「ベル様はお好きに動いてランクアップによる変化を体感しててください。ヴェルフ様はスズ様とリリが面倒を見ますので思いっきり暴れていてください。ただし油断だけはしないように。いくらLV.2といってもオークの攻撃をまともに受ければ戦闘不能になるのは変わりませんから」
「わかった! それじゃあスズ、リリとヴェルフをお願い!」
「うん。後ろのことは気にせず無理しないでね?」
「わかってる。スズも無理しないようにね」
ベルはスズにそう笑いかけてから生れ落ちたインプの群れに向かって真っすぐ爆走する。
今までと比べ物にならない速さにベル自身が驚いてしまう。
スズの言う通りならおおよそSランク分だけ全能力がいきなり上がったのだから当然と言えば当然だが、完全に慣れきるまでは少し時間が掛かりそうだ。【ヴィング・ソルガ】を初めて使ったスズもきっとこの感覚を味わったのだろう。
ベルはインプの群れに何もさせる間もなく壊滅させ、奥に生れ落ちたハード・アーマーの甲羅に物の試しでヘスティア・ナイフを走らせるとあっさりと上層最高の防御力を誇るはずの甲羅を切断できてしまった。
自分と共に成長してくれるヘスティア・ナイフの切れ味もまた格段と上がっているのを確信するのだった。
§
ベルの圧倒的な強さにヴェルフは「速え」と声を漏らしてした。
ヘスティア・ナイフとバゼラードの二刀流ですれ違い際にインプ五体を解体し、そのまま駆け抜け奥にいるハード・アーマーを甲羅ごと一刀両断。
高速回転しながら突進する二匹目のハード・アーマーを詠唱無しで放たれる【魔法】の炎雷【ファイアボルト】の爆発で壁まで吹き飛ばした。
詠唱なしという最速で、弾速は雷速という全てにおいて速い【魔法】にも関わらず壁に叩きつけられた黒焦げのハード・アーマーは動かない。
その威力は絶大だ。
戦場を順応無尽に駆け回り勢いよく
「ふふっ、ぼーっとしてぺちゃんこにされないでくださいね。ベル様もスズ様も悲しみますから」
「リリスケ、お前の性格もよーくわかった。いいパーティーだよお前らは」
スズが二匹のオークを引きつけてくれている間に目の前にいるオークをヴェルフは大刀で腹を切り裂き倒れたところを頭に刃を突き立て確実にトドメを刺してからスズの援護に向かう。
スズが戦っているオークは
ヴェルフが向かって来たのに気付くとオーク一匹の膝を剣で斬り割いて膝をつかせ、もう一匹の攻撃をかわして振り降ろされた
その間に起き上がろうとしている残ったオークにヴェルフは高く飛び上がり背後から大刀で脳天をかち割った。
スズが
後衛のリリも既にヴェルフが倒したオークの魔石を回収して合流しているのだから驚きだ。
ヴェルフは今まで『鍛冶』をとる為に仕方なくダンジョンに潜っていたが、こうしてソロではなく仲間と戦うと不謹慎ながら気分も高揚してくるというものだ。
【ヘファイストス・ファミリア】でのけ者にされて半ばやけくそで単独で10階層に挑み死に掛けたのがバカらしく思えてくる。
「ヴェルフさん、援護ありがとうございます」
「それはこっちの台詞だろ。獲物残してくれてありがとよ」
スズがオークの頭から剣を引き抜いて駆け寄りハイタッチを求めてきたのでそれに答えて手を合わせるとスズは嬉しそうに笑う。
そしてすぐにまたスズは戦闘体勢に移った。
見据える先はシルバーバックが二匹。
オークより力はないものの全体的に能力が高くハード・アーマーと同じくここの看板
さらに背後の壁がピキリと音を立てて三匹目のシルバーバックが今まさに生れ落ちようとしていた。
ヴェルフの実力はシルバーバックを少し上回る程度だ。
二対三は不味い。
サポーターで能力の低いリリが狙われでもしたらそれこそ一巻の終わりだ。
玉砕覚悟で一匹速攻を仕掛けてすぐに二匹引きつけてくれるだろうスズの援護をするしかないとヴェルフは腹をくくる。
「【雷よ。吹き荒れろ。我は武器を振るう者なり。第八の唄ヴィング・ソルガ】」
しかしヴェルフが飛び出す前にスズの体が金色の光に包まれた。
「【キニイェティコ・スキリ・ソルガ】【キニイェティコ・スキリ・ソルガ】」
正面のシルバーバック二匹に向けられて金色の閃光が放たれる。
それに反応してシルバーバックは過剰な回避行動に移るがその動きに合わせて閃光は曲がりシルバーバックの頭を吹き飛ばす。
続いて生れ落ちたばかりである三匹目のシルバーバックに放たれた矢のような速度で飛び込み体と同様に金色に輝く剣で横に一閃。
シルバーバックの下半身と胴体が離れ胴体が地面につく前にスズは高く飛翔した。
「【ソルガ】【ソルガ】【ソルガ】」
ヴェルフとリリに近い順からオークの頭を雷光が貫いていく。
そしてそのままインプの群れの中心に着地して剣技と体術でインプの群れを蹂躙していった。
当然LV.2のベルよりは遅いが本当にLV.1なのかと疑ってしまう速度と【魔法】の威力にヴェルフは呆気に取られてしまう。
体が輝き出してから激的に能力が上がったことから身体強化系の【
「スズ様! 残り30秒です!」
「了解! ヴェルフさんオーク一匹そっちに通します! ちょっと大きいの試すからベルも一度戻って! ついでに隣のシルバーバックを何とかしてくれると嬉しいかも!」
「おう! 任せろ!」
「任せて!」
ヴェルフはスズの脇を抜けてくるトロールを迎え撃ち、ベルはスズの近くに生まれ出たシルバーバックの首をヘスティア・ナイフの一撃で刈り取りそのままヴェルフとリリのところまで下がった。
「スズ様! ベル様が退避完了です!」
「【雷よ。天より裁きの鉄槌を降せ。閃光の嵐。解き放て雷。第九の唄テンペスタス・ソルガ】」
九つの金色に輝く球体が天井付近に浮かびそこから金色の閃光が嵐のように激しく地面に降り注ぐ。
轟音爆砕。降り注ぐ閃光は動いている
閃光の嵐が降りやむと動ている
かろうじで原型を留めている
あれだけの雷光が降り注いだのだから魔石を貫かれて灰に消えた
「うーん。【追加解放式】をつけてもまだ穴があるか。これだとアイズさんには当たらないかな……」
「当たらないかな、じゃありません! 今のスズ様の火力はすさまじいのですから【追加開放式】に頼らずとも
「ご、ごめんね、りっちゃん。でもこればかりは一度試しておかないと危ないし。それに私はもう大丈夫だよ?」
「全然大丈夫ではありません! 今体を冷やしますからこっちに来てください。『
汗を滴らせながらそれをごまかすように笑うスズに対してリリはバックから水を取り出して水を掛けてから濡れタオルで汗を拭ってあげている。
おそらく今スズの体は締め切った作業場で鍛冶をしているほどの熱気に襲われているのだろう。
見かけによらずスズは無茶をする子だということをヴェルフはこの一連のやり取りだけで十分すぎるほど理解させられてしまった。
リリはスズの世話をすませると
いつもなら戦闘中に行ってくれる作業だが、今回はベルが奥の方で戦っていたこととスズの【テンペスタス・ソルガ】による広域殲滅があったせいでずいぶんと手間を掛けさせてしまっているようだ。
そのことを周りを警戒しながらもスズがヴェルフに話しをして、いつもはある程度フォーメーションを組んで堅実に進んでいることを説明されたヴェルフは「リリスケもすごいんだな」と感心してしまう。
「色々試し終えたのでこれからはヴェルフさんが前衛。ベルが
「まあ俺は前衛しかできないしな。頭一つ飛び抜けた奴が
「そんなこと言ったら僕なんてスズとリリに頼りっぱなしでしたよ。色んな人に力を貸してもらったおかげで僕はランクアップできた訳ですし」
「ほんとお前らいいパーティーしてるな」
仲が良く人が好くそれぞれ秀でた能力を持っている。
「やっぱりいいよな、
少し時間は掛かったが、最高の顧客と仲間に巡り合えたこの運命的な出会いにヴェルフは何度目か数えるのも馬鹿らしいほど感謝をするのだった。
ヴェルフがトンデモ戦闘を目のあたりにするお話でした。
今回は好き勝手暴れていましたが隊列を組めばはぶられてしまっていたヴェルフはさらに仲間っていいなと感激してくれるでしょう。
そしてまた話が長くなりそうだったのでインファント・ドラゴンは次回持越しです。
果たしてインファント・ドラゴンの運命は如何に(おい)